超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth3&VⅡ Origins Exceed   作:シモツキ

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第六十五話 もう一度、皆と共に

 わたし達が急行した時、猛争モンスターの第二波は既にそれなりの距離まで迫っていた。生活圏からの距離そのものはまだ余裕があるけれど、迎撃をかなりの数に突破された場合、或いは第三波が来た場合の事を考えれば、あまり猶予はない。言い換えるならば、最初の防衛ラインは絶対ここで敷いておかなきゃいけない。

 とはいえ、それはそこまで重要な事でもない。だって、どの距離で会敵しようと…即座に迎撃開始する事には変わらないもの…ッ!

 

「ふっ……せぇぇいッ!」

 

 逆手持ちにした左右の剣を身体の前で交差させ、二体の猛争モンスターの間へと突進。転ぶ寸前まで上半身を前に倒す事で振り出された前脚の鉤爪を避け、交差の瞬間両腕を外へ。真横から斬っ先を二体の首筋へと突き立て、即座に抜いて次の猛争モンスターへ。

 

「セイツッ!」

「っとッ!」

 

 呼ぶ声に反応して振り向いた瞬間、わたしの眼前に飛んでくる一回り大きい猛争モンスター。視界の端には長くしなやかな脚を振り抜いたベールの姿があって、どういう事か理解したわたしは下から斜め十字で胴体を斬り裂く。…全く…随分とワイルドなプレゼントじゃない…!

 

(…にしても…随分な量のモンスターを用意してくれたわね…ッ!)

 

 蹴り飛ばされ斬り裂かれた味方に物ともせず突っ込んできた猛争モンスターを両手の剣で受け止めながら、周囲の敵へと視線を走らせるわたし。

 第二波の物量が第一波より多い事は予め聞いていたけど、正直想定していた以上。こっちもわたし含めて女神三人だし、時間をかければ殲滅も不可能ではないとはいえ、これは防衛戦。倒す事より突破させない事を優先しなきゃいけないこの状況において、脚を止めさせられるのはかなり不味い。

 

「女神様方はこの数を前に真正面から戦っているのだ!その奮戦を無駄にしない為にも、一体足りとも突破させるなよッ!」

『了解ッ!』

 

 猛争モンスターの唸りに混じって聞こえてくるのは、覇気の籠った軍人の声。彼等のおかげで、彼等が後方から突破しようとするモンスターを悉く撃ち抜いてくれているおかげで、今のところは一体もここを抜けていない。

 でもそれは、今のところ。わたし達の動きが鈍ればその分突破しようとするモンスターの数も増える訳で、そうなれば抜けられてしまう可能性は上がる。間違いなく、軍人達が襲われる。彼等もその覚悟はあるだろうけど…軍人であろうとなんだろうと、女神が守るべき対象である事には変わりない。むしろ…こうして共に戦ってくれる、勇気と信念を胸にここへ立っている彼等を守れないなんて、そんなのわたしじゃないわ…ッ!

 

(だから、こそ…ッ!)

 

 次々飛び掛かり、重量で押し潰そうとしてくる猛争モンスターを前に、敢えてわたしは身を屈める。それは一見押されているような形で、実際いけると思ったのか更に数体のモンスターが飛び込んでくる。でもそれでいい。それがいい。

 勝利が見えたと喜ぶように、吠える猛争モンスター。そして駄目押しの数体が飛び乗ってくるその直前、わたしは両肘、それに右脚踵部のプロセッサに装填されたシェアエナジーを解放。同時に全身も思い切り捻り、回転しながら猛争モンスターを吹き飛ばす。

 

「さぁ…命懸けで、獲りに来るがいいわッ!」

 

 宙を舞う猛争モンスターの下を駆け抜け、押し潰しに加わっていなかった個体へ一撃。跳躍しながら左右の剣を縦に連結させ、下降と同時に二体纏めて一刀両断。

 一体一体、堅実に倒すような余裕はない。なら、豪快に、鮮烈に…わたしへ背を向けられないようにするだけよ…ッ!

 

「お二人共、大丈夫ですか!?」

 

 わたしが大剣状態の得物を振り回す中、空から降ってきた声と光弾。それは考えるまでもなくネプギアのもので…次の瞬間、ベールの鋭い声が響く。

 

「……っ!ネプギアちゃん、後ろですわッ!」

 

 切羽詰まったその声で反射的に顔を上げると、空にはやはりネプギアがいて…その背後には、今正にネプギアへと喰らい付こうとしている大型鳥類系猛争モンスター。どう見たって回避は間に合わない、防御だって体格差から吹き飛ばされる事は必死な状況を前に、わたしも思わず声を上げかけて……

 

「……ッ!ギア・ナックルⅡ!」

 

 だけどわたしが声を上げるよりも早く、振り向いたネプギアは左の拳を…炎を纏った左ストレートを、猛争モンスターの顔へと叩き込んだ。

 振り向きざまの一撃を受けて、大きく蹌踉めく猛争モンスター。間髪入れずに首元へオーバーヘッドキックを打ち込んで猛争モンスターを叩き落とすと、仰向けに落ちたその胴へと光弾を連射。流れるような連撃を放ったネプギアはそのまま空へと上昇し、これまで通りに空中のモンスターの迎撃を続ける。

 

「…心配ご無用、って感じね」

「えぇ…けれど勇ましいネプギアちゃんもまた素敵ですわ…!」

「分かる、凄く分かるわ…!でも、それにネプギアの姿に心を震わせてるベールも素敵よ?」

「…貴女も筋金入りですわねぇ。まぁ、そう言われて悪い気はしませんけれど、も…ッ!」

 

 その数秒後、大槍を構えての突進で密集地帯を蹴散らしたベールと一度合流したわたしは、背中合わせで突っ込んでくる猛争モンスターを返り討ちにしながら軽く会話。…ほんと、最近は皆軽く流しちゃうのよね…芽生える感情は蓋の出来るものじゃないし、今は「貴女も素敵」と言っただけなんだからこれ位の反応でも当然なんだけど。

 

(…っと、感情に触れて楽しむのは程々にしないとね。シェアエナジーの配分に気を付けなきゃいけないネプギアがあれだけ飛び回ってくれてるんだから、わたしももっとギアを上げて……)

 

 左脚で踏ん張りを効かせたわたしは、蹴り…と言う程でもない右足の突き出しでモンスターを止め、踏み付けるようにして跳躍。一つ派手な事をする事により、更に猛争モンスターの意識をわたし達に向けつつ、軍人達の士気も上げようとして……その瞬間、何かと電撃が大群の中に突っ込んできた。

 

『えぇぇッ!?』

「な、なんですの!?」

 

 敵が味方かも分からない突然の事態に、まず空にいたわたしとネプギアが、続いてベールが驚愕。…でも、そもそもよく視認出来なかった何かはともかく、電撃の方は見覚えがある。見覚えがあるというか……間違いなく、これはマジェコンヌによるもの。

 まさかと思って電撃が飛んできた方を見てみれば、そこにはやはりこちらへと飛んでくるマジェコンヌの姿。…って、事は……

 

「……っ…流石に今のは些か無茶だったか…」

「ま、マジェコンヌ…一体何が…!?」

 

 軽く頭を押さえながら、殺到する猛争モンスターへの対応を開始する信次元のマジェコンヌ。つまり…今のは全て、第一波の時にもあったマジェコンヌ同士の戦いによるもの。

 

「セイツか……いやなに、私から彼女に仕掛けて、ここまで来たというだけさ」

「な……ッ!?ど、どうして貴女から…!?」

「…隠れていては何も出来ない。そして彼女は、周りの事など気にせず攻撃を放ってくる。つまり…そういう事さ」

「そういう事って、貴女……」

 

 今の言葉で、何を考えているのかは分かった。動けば襲われるという中で、どうすれば加勢出来るか…自分がどう動けば、猛争モンスターに攻撃を与える事が出来るか考えた上での行動なのかって事は、理解出来た。

 でもそれは、ハイリスク極まりない行動。こっちのマジェコンヌ一人でも彼女にとってはキツい筈なのに、こんな四方八方から襲われる戦場に身を投じるなんて、正直正気の沙汰じゃない。…でも、だからこそ…それだけのリスクを背負ってでも、わたし達の…女神の力になろうとしてくれるその心は……美しい。

 

「…ふふっ。帰る前までに絶対一度はデートを、最低でも食事には付き合ってもらうわよ?」

 

 横から信次元のマジェコンヌへ喰らい付こうとした猛争モンスターを連結剣の腹で受け止めながら、小さく笑みを浮かべてわたしはウインク。それを見たマジェコンヌは軽く目を見開いた後…ふっ、と不敵な笑みを浮かべる。

 

「ふん、私を有象無象のモンスター退治に利用しようとは…ならばせいぜい、雑魚にやられてくれるなよッ!」

「案ずるな。猛争モンスターは勿論、お前にもやられるつもりはない…ッ!」

 

 信次元のマジェコンヌの意図に気付いていた様子の神次元のマジェコンヌは、衝撃波で猛争モンスターを跳ね飛ばしながら信次元マジェコンヌに肉薄。視線でこっちへも「案ずるな」と送られたわたしは、力強く頷いて迎撃を再開。

 誘い込まれる形で乱入してきたこっちのマジェコンヌは、謂わばジョーカー。強力ではあるけど協力的ではない、判断を見誤れば信次元のマジェコンヌどころかわたし達まで一網打尽にされかねない、本当にリスキーな作戦。

 でも、二人のマジェコンヌはどっちも実力者。リスクを背負うに見合うだけの恩恵は、十分どころか十二分にある。それに、魅力的な心の輝きを持つ二人の登場は、この猛争モンスターばかりで華のない戦場に大輪の花が咲いたようなもの。ベールとネプギアがいて、後ろには覇気ある軍人達がいて、更に二人まで来てくれたんだから…たとえ忌々しい奴の影がちらついてるとしても、こんなの心が踊らない訳がないってものよッ!

 

(こっちはまだまだ大丈夫よ。だから…全力でプルルートを絶望から救ってあげて頂戴。頼むわよ、皆)

 

 

 

 

 ぴぃにとってぷるるとは、お母さんみたいで、お姉ちゃんみたいで、でも友達みたいでもある…そんな、上手く言葉に出来ない存在。それはこんぱもあいえふもきっと同じで、だからぷるるとが思い詰めていく姿は、もう一人の自分に苦しむ姿は、見ていて本当に辛かった。辛かったし、何とかしてあげたかった。

 けど、これに「こうすれば解決!」なんて方法はなくて、最後は折り合いをつけて、受け入れるしかないってぶらんも言っていたから、ぴぃ達は支えるしかなかった。何かあれば言ってって、いつでも力になるからって、そう言葉をかけるしかなかった。…そんな状況が、ねぷてぬとねぷぎあが来てから…信次元の、ぴぃの知ってる二人じゃないけど、やっぱりねぷてぬはねぷてぬで、ねぷぎあはねぷぎあなんだって思わせてくれる二人が来てから、少しずつ変わっていった。二人のおかげ…って訳ではないけど、二人の来訪がぴぃ達にとっての切っ掛けになってくれたんだと思ってる。

 ちょっとずつだけどぷるるとは前向きに、元のぷるるとに戻ってくれて、笑顔を見せてくれるようになった。ぴぃ達はそれが嬉しくて、これならきっと…って思っていた。

 

(…うん、そうだ…ぴぃは信じてた。ぷるるとなら、皆となら…絶対、乗り越えられるって。ぴぃ達がぷるるとを信じて、ぷるるともぴぃ達を信じてくれれば、絶対前に進めるって)

 

 気持ちの力がどれだけ強くて、どれだけ心の支えになるのかは、ぴぃも女神だから知ってる。信じる事、信じてもらう事、そのどっちも力になるんだって。

 分かってる。ぷるるとの抱えているものが、そう簡単には乗り越えられないって事も。元気になってほしいけど、それ以上に無理してほしくなくて、だからどうしても…本当に辛いなら、今はいいんじゃないかってぴぃは思ってた。べるべるの言う事は正しいと思うけど、こんなの甘いだけなのかもしれないけど…それでも、ぴぃは無理して苦しむぷるるとなんて見たくなかったから。

 そう。これは全部、ぴぃのエゴ。ぷるるとがどうしたいかじゃなくて、ぴぃがどうしてあげたいか、どうなってほしいかっていう、ぴぃの勝手な気持ち。ぴぃの思いとぷるるとの思いが違っても、ぴぃにそれをどうこう言う権利はないし、むしろこれまでぴぃ達は思いを押し付けてきたようなもの。…ちゃんと分かってる、分かってるけど……

 

『……ふざ…っけんなぁああああああああッ!!』

 

──部屋と廊下を、ぴぃ達とぷるるとを隔てる扉。それをぴぃは……ぴぃとのわるは、打ち壊した。どうしようもない程の、怒りと悲しみで。

 

「…ぁ…え……?」

 

 ぴぃ達の怒号と吹き飛ばされた扉に、茫然自失となるぷるると。後ろからも息を呑んだ空気が伝わってはくるけど…そんなの、どうでもいい。

 

「ぷるると、ぴぃ達は……」

 

 両手を握り締めたまま、部屋の中に…昔は皆でよく集まっていた部屋の中に足を踏み入れる。ぷるるとの名前を呼びながら、言葉に感情を籠らせながら。でも、部屋の中に入った次の瞬間……ぴぃ達は、気付く。

 

『……っ!?…何、これ……』

「…ぁ、み…見ないで……っ!」

 

 目に飛び込んできたそれに、それ等に、言葉を失うぴぃ達二人。ぴぃ達の表情に気付いたぷるるとは、青ざめた顔でそれ等を隠そうとする。

 部屋の中に、所狭しと置かれていたのは、ぬいぐるみ。ぷるるとが作った、ぴぃ達のぬいぐるみ。それが幾つも、何十個も、もしかしたら百個以上も置いてあって……だけどその内の半分は、ぐちゃぐちゃに破かれていた。生地は引き裂かれて、中の綿は飛び出て、四肢がもげかけている物もざらにある……元の形を知っていなければ何のぬいぐるみだったのかも分からないような、凄惨なぬいぐるみ「だったもの」の山が、そこにはあった。

 

「見ないで…お願い、見ないでぇ……っ!」

 

 ぬいぐるみの残骸を、ぴぃ達のぬいぐるみだったものを涙声で掻き集めて、ぷるるとは自分の身体で必死に覆い隠そうとする。ぴぃ達から、必死に見えないようにする。

 それを見て、ぴぃにもやっと実感出来た。どれだけぷるるとが、自分の衝動を抑えてきたのかを。

 きっとぷるるとは、何度も何度も自分を抑えられなくなって、ぬいぐるみを壊してたんだ。ぼろぼろに、ぐちゃぐちゃに、虐めて壊して…その度に、どうしようもない位自己嫌悪して、ぴぃ達のぬいぐるみを作り直してたんだ。壊して、直して、また壊して、作って、それでもまた壊して……それで出来上がったのが、ぬいぐるみの山と、残骸の山。衝動と、自己嫌悪と、虐めたいって気持ちと、嫌われたくないって気持ちと……これまでぷるるとが溜め込んできた、胸の中で積み重なってきた真逆の思いが、この部屋の中で形になってるんだ。…でも……

 

「…逃げないでよ…逃げるんじゃないわよ、私達から!私からッ!」

「……っ!」

 

 散らばったぬいぐるみを踏まないように、でも淀みのない足取りでぷるるとの側まで迫ったのわるは、ぷるるとを振り向かせて胸ぐらを掴む。その直前、ぴぃから見えたのわるの瞳は怒りでいつも以上に赤く見えて…でも怒りと同じ位、悲しそうな色もしていた。

 

「怖がる?友達じゃなくなる?嫌いになる?…見縊るんじゃないわよッ!この私が、お互い人間だった頃からの付き合いがある私が、貴女を怖がると思う訳?女神になってもずっと付き合ってきた私が、友達じゃなくなるとでも思う訳?呑気で気分屋ですぐ人を置いてく癖に自分が置いてかれるのは嫌がる、マイペースにも程がある性格の貴女とずっとやってきた私が、今更嫌いになると思う訳?もしそう思ってるなら…虐めるだの何だのより、ずっとそっちの方が不愉快よ!悲しいわよ!プルルートにとって私は、その程度の存在だとでも思ってた訳!?」

「ち、違っ…そんな、事っ……」

「違うってなら、さっきのは何よッ!あんなの、そう思ってなきゃ出てこないでしょうがッ!」

 

 無理矢理ぷるるとを引っ張り上げたのわるは、言葉を、思いを叩き付ける。ぷるるとの言った言葉が、ぴぃ達をどう思っているのかが、何よりも「気に食わない」んだって。

 その思いは、ぴぃも一緒。力が抑えられなくて、いつ無差別攻撃をしてしまうか分からないとかならともかく、ぷるるとは決め付けてる。ぴぃ達の気持ちを。ぴぃ達は、虐められたら怖がって、ぷるるとを嫌いになるって。勝手にそう決めて、勝手に距離を置こうとしている。

 確かに、虐められたくはない。痛いのも怖いのも好きじゃない。でもそれを理由に、実際にぴぃ達が「もう友達でいたくない」なんて事を言った訳でもないのに、一人でそういう事にして拒絶されるのは……ぴぃだって、不愉快だよ…ッ!

 

「プルルート、貴女が苦しんできた事はよーく分かってるわ。私と違って女神になる事を望んでいた訳じゃないし、私みたいに自分と相性の良い女神メモリーでもなかった貴女の苦悩は、きっと私とは比べ物にならないでしょうね。でも、だから何よ!だからって何よ!その程度の事で、貴女は私達を拒絶するの!?それで貴女は満足なの!?」

「その、程度…?…その程度、なんかじゃないよ…あたしだって、こんなのやだよ…こんなの、満足なんかじゃないよ…ッ!でも、でもっ…こうするしか、あたしは…皆と友達で居続ける為には、こうするしかないの…っ!ノワールちゃんは、知らないからそんな事言えるんだよ……っ!」

「だったら…だったら虐めてみなさいよッ!女神化して、自制心なんかかなぐり捨てて、思いのままに私を虐めてみなさいよッ!そうすれば私が貴女を怖がるか、それとも貴女の言う『怖い自分』を跳ね除けて、嫌いにならないって事を証明出来るかどうかがはっきりするでしょ!」

 

 言葉をぶつけながら、のわるはどんどんヒートアップ。それまで気圧されていたぷるるとも、「その程度」っていう軽んじる言葉だけは聞き逃さなかったみたいで、ほんの少し語気を強めながら言い返す。

 だけどのわるの熱量はぷるると以上。そこまで言うなら、そこまで頑なになるなら、虐めてみればいい。それではっきりする筈だって、のわるらしくない無茶苦茶な返しで再びぷるるとを圧倒する。…というか今ののわるには、ぴぃも…多分ここにいる皆が、圧倒されていたと思う。

 

「…っ……どうして、そこまで…」

「どうして…?…どうしてって…そんな事も、分からないの……?」

「だって…あたし、全然してこなかったから…ずーっと、ノワールちゃんには色々してもらってきたのに…あたしがノワールちゃんにしてあげた事なんて、ちょっとだけで……」

「…持ち前のマイペースさはどこにやったのよ…これが自己嫌悪のし過ぎで見えてきたものならともかく、元々本当はそんな繊細な一面があったとかなら、ほんとに私怒るわよ…!」

「え……の、ノワールちゃん…もう、十分怒って……」

「うっさい!そうやって色々振り返れるなら、振り返った上で他人を慮る事が出来るなら、もっと早くからそうしなさいよ!えぇそうよ、これまで私がどれだけ振り回されてきたと思ってるの!?立場としても個人としても対等な相手に、何なら女神には私より先になった貴女に、女神の務めの初歩を教えるとか、そういう意味不明にも程がある事ばっかりだったんだからね!?あー、もうほんと…なんで私こんな手がかかる子とこれまで友達やってこれた訳!?」

 

 胸ぐらを掴んでいた手を離し、ぐしゃぐしゃと頭を掻き毟るのわる。のわるの言う事に付いていけてない様子のぷるるとはぽかんとしていて、でも最後の一言を聞いた瞬間怯えるような顔になって……そんなぷるるとの前で、のわるは脱力。頭から手を離して、今のぷるるとと同じようにカーペットへ膝を突いて、ぷるるとの両肩に手を置きながら静かに言う。

 

「…そんなの、友達だからに決まってるじゃない…振り回されて、迷惑かけられて、色んな事で苦労して……それでも私は、貴女の友達で良かったって、これからも友達でいたいって思ったのよ…。友達って、そういうものでしょ?助けてもらったり、協力してあげたり、時には迷惑をかけちゃったとしても、最後は笑って許せるのが友達でしょ…?私はずっと、貴女とはそういう友達関係だったと思ってたし、今だってその気持ちは変わらない。…プルルートは、どうなの…?プルルートにとっては私は、友達でいる為に気を遣って我慢してってしなきゃいけない、そんな相手なの…?」

「…違う…そんな事、ない…ノワールちゃんは、そんな相手じゃ……!」

「なら、出てきなさいよ…貴女の都合の良い相手になるつもりなんかないけど、本当に我慢出来ないってなら私が受け止めてあげる。何だって付き合ってあげる。だから、だから…私を、信じなさいよプルルート…!何があっても友達でいてくれる、あたしの、最高の友達…それ位の期待を、持ちなさいよ馬鹿……っ!」

「…ノワール、ちゃん……」

 

 肩を強く握り締めて、堪えるように俯いて、声音に涙を滲ませて…それでものわるは、最後まではっきりと言い切った。のわるの気持ちを、ぷるるとへの思いを、そのエゴを。

 けど、それがのわるの言う友達。エゴなんて気にしない、お互いエゴを向けあって、でも笑って心を通わせられるのが友達だって…それをのわるは、ぷるるとに伝えていた。そしてきっと…ううん、絶対その気持ちはぷるるとに伝わってる。ぴぃは、そう信じる。

 

「……してもらってばっかりで、全然してあげてないっていうなら、今言った事をよーく考えて頂戴…そうしてくれれば、私もそれをお返しだって受け取るから…」

 

 ぽふり、と軽くぷるるとの胸に当てられたのわるの拳。それをゆっくりと離してから、のわるは立ち上がった。立って、振り返って…ぴぃに視線を送ってくる。貴女も言いたい事があるんでしょって。時間をかけちゃって、悪かったわねって。

 

(……って、言われてもなぁ…)

 

 ここまでののわるは、凄かった。ぷるるとやねぷてぬに振り回されまくってたのに、めげたり距離を置こうとしなかったのは、これだけ強い思いがあるからなんだってよく分かった。…でも、視線を受け取ったぴぃは、思わず軽く頬を掻く。言われてもっていうか、見られてもだけど……だって、言いたい事の多くはもうのわるに言われちゃったし…のわるの気迫が凄過ぎて、ちょっと毒気抜かれちゃったし…。

 

「…ピーシェ?」

「あ……う、うん…」

 

 だけど、だからって「ぴぃも同じでーす」…で終わらせるんじゃ格好悪いにも程があるし…ぴぃだって、ぴぃの言葉で伝えたい。こんぱとあいえふ…二人もきっと同じ気持ちだと思うけど、それでもぴぃに任せて…託してくれたような気がしてる。だから……

 

「…ぷるると、ぴぃはやだ。ぷるるとと一緒にいられないのも、話せないのも、全部やだ」

「……だけど、あたしは…」

「うん。でも大丈夫だよ。だってほら…見て」

 

 ぷるるとの正面にいたぴぃは、前から横に。隣に座って、同じ方を見て、ぷるるとに見せる。

 そこにいるのは、皆。ぷるるとを心配して、ぷるるとの力になりたいと思って、ぷるるととまた仲良く笑い合いたいと思ってる…ぴぃにとっても、大切な人達。

 

「ぴぃ達は、ぷるるとの苦しい気持ちを代わりに背負う事なんて出来ない。だってそれはぷるるとの、ぷるるとだけのものだから。だけどぷるるとを支える事は、辛い時は側にいて、苦しい時は話を聞いて、嬉しい時は一緒に笑える…それが出来る、そうしたいと思ってる、皆がいるよ。ぷるるとが可哀想だから、そういう立場だからとかじゃなくて…ぷるるとと過ごしてきた時間の中で、沢山の思い出を作ってきたから、こうして皆がいるんだよ?」

「…みん、な……」

「…それに、ぷるるとも知ってるでしょ?ぴぃは女神化すると、頭の中が子供になっちゃって作戦とか駆け引きとかを全然理解出来なくなっちゃうけど、皆がいつも支えてくれるから、そんなぴぃでも必要としてくれるから、ぴぃは皆と一緒に戦えてる。…ぴぃだってすっごい迷惑かけてるけど、皆はぴぃの側にいてくれてるんだよ」

 

 そう言いながら、ぴぃも皆を見る。…本当に、女神化した時のぴぃは皆に迷惑かけてると思う。ちっちゃい時のぴぃは暴れん坊だったらしいし、昔から一杯皆に苦労をかけてきたと思う。

 だけど皆は、こうしてぴぃといてくれる。ぴぃに笑顔を見せてくれるのが何よりの証拠で、だからぷるるとの事だって支えてくれると、これからも力になってくれると、ぴぃは断言出来る。それ位、皆は…優しくて強いんだから。

 

「…諦めないで、ぷるると。ぴぃは、ぴぃ達は何回でも力になるから、ぷるるとが諦めない限り…ううん、諦めたって諦めないから。ぷるるとの事、信じてるから」

 

 もう一度ぴぃはぷるるとの前に行って、両手を持って、その両手を握る。両手で包み込むように、ぎゅっ…って。

 そう。気持ちを押し付けるなら、信じてもらいたいなら、宣言しなきゃいけない。約束しなきゃいけない。これなら信じてもいいかなって、信じたいなって、ぷるるとに思ってもらえるような事を。

 

「…ね、ぷるると。ぷるるとは、皆と何したい?」

「…へ……?どういう、事…?」

「ただの質問だよ。ぷるると、何にもしたい事ない?」

「……皆、と…」

「…………」

「…ここで、また…また皆と、お喋りして…おやつ食べて…ゲームもして……それで、お昼寝…したい…」

「そっか。じゃあ、ぴぃと同じだね。同じだから…今度絶対、それしよ?全員でするって、約束だよ?」

「…ぴーしぇ、ちゃん……」

「……待ってるからね、ぷるると。何があっても、どれだけ時間がかかっても…絶対、待ってるから」

 

 手を離して、小指を立てて、ぷるるとと指切り。昔は何か約束する時によくやってた事を、久し振りに、しっかりと。

 指切りして、ちゃんと約束して、ぴぃは立つ。言いたい事は言えた。信じてるって事も、信じてほしいって事も、伝えられた。なんとなーく、インパクト面はのわるに全部取られちゃった感じもあるけど…気にしない。

 部屋を出て行く直前、最後に一度ぴぃは振り返って…にっこりと、笑う。笑って、待ってるからって言って…部屋を出る。外の世界で…皆と一緒に。

 

「……ありがと、ピーシェ」

「ぴーちゃん、ありがとうです」

「ううん、お礼を言うのはこっちだよ。…二人の気持ちに、ずっと背中を押してもらってたから」

 

 廊下に出たところで、こんぱとあいえふが隣に来て、感謝の言葉をぴぃに言った。でもぴぃはむしろ感謝する側だと思ってたから、ちょっとだけ笑っちゃって…それから、ぴぃも二人にお礼。

 と、同時に聞こえてきた声。それは、のわるとぶらん、二人の言葉。

 

「…悪いわね。気を遣わせて」

「気にする事はないわ。一番大切なのは、プルルートが立ち直れる事で…あの時はわたしより、貴女の方が…誰よりもプルルートと長くいる、貴女の方が適任だと思っただけだもの」

「…ブラン…そうね、そうだったかもしれないわ。でも、これからは…ここから先は、プルルートの苦しみを一番理解出来る貴女の力も……」

「えぇ、そのつもりよ」

「え…?ちょ、ちょっと……?」

 

 すれ違うような立ち位置で、お互い相手を見ないまま話す二人。何かそこには、二人にしか分からない思いの交錯みたいなものがある感じで……と思ったら、のわるがぶらんの方を見ようとした瞬間、ぶらんは澄まし顔で歩き出す。それから……

 

「……プルルート」

「なぁ……ッ!?」

 

 部屋の中へ入っていったぶらんは、ぷるるとの前で膝を突いて、ぷるるとの首に腕を回して…優しく優しく、抱き締めた。

 意外過ぎる行動にぴぃ達全員驚いたけど、のわるの驚きは断トツ。…ま、まぁそれはそれとして……。

 

「…わたしからは、何もないわ。二人が十分言ってくれたし…わたしの気持ちは、いつも伝わってるって思ってるもの。だから……貴女の手は、わたしが取るわ。一人で頑張る必要はない。わたしが一緒に、歩いてあげる。…プルルート。わたしと貴女…二人で、前に進みましょ」

 

 数秒間抱き締めていたぶらんは、それから一歩離れて、ぷるるとに手を差し出す。ダンスの相手を申し込むみたいに、柔らかな声で。

 ぷるるとは、そんなぶらんを見つめる。ぶらんを見つめて、次にぴぃ達を見て、俯いて、そして──。

 

 

 

 

 怖かった。自分の中のもう一人の自分が、自分が自分でなくなる事が、そんな自分が皆を怖がらせて、嫌われてしまうのが…皆が友達じゃなくなっちゃうのが。

 だけど、あぁ…だけど。あたしは馬鹿だった。あたしは何も見えてなかった。皆の思いも、皆の優しさも……皆の、強さも。

 

「…あたし、は……」

 

 ここで立っても、それだけで何か変わる訳じゃない。ノワールちゃんはああ言ってくれたけど、ぴーしぇちゃんも諦めないって言ったけど…もしかしたら、やっぱり皆は怖がるかもしれない。怖いって、一緒にいたくないって、そう思われちゃうかもしれない。

 それが怖いから、そう思うと怖くて怖くて仕方ないから、そうなるのは本当に嫌だから、あたしはこのままで良いって思ってた。このまま、皆との色んな思い出があるここで、皆のぬいぐるみと思い出を抱いているだけで良いって、嫌われるよりはずっと良いって、そう思ってた。…でも…だけど、だけど……

 

(…嫌だ…それよりも、どんな事よりも、ずっと、ずっと……ずっとあたしに手を伸ばし続けてくれた皆の、一回もあたしといる事を諦めないでいてくれた皆の、大事な大事な友達の皆の優しさに、思いに…それに背中を向ける事の方が、絶対に…嫌だッ!)

 

 やっと分かった。やっと気付けた。ここで皆に背中を向けたら、本当にあたしはあたしじゃなくなる。皆との繋がりが、消えていっちゃう。…その方が、そっちの方が、ずっと怖い。そんなのに比べたら、今の怖さなんて何でもない位…もう一度だって、何回だって、辛くても苦しくても立ち上がって…皆の手を必死に掴んだ方が良い。

 震える手を、ブランちゃんの手に伸ばす。差し伸べられた優しさに、伸ばせば届く友達の思いに、あたしは手を伸ばして…掴む。掴んで、握って…立ち上がる。

 

「…行ける?」

「……うん」

 

 ブランちゃん、ノワールちゃん、ぴーしぇちゃん。ねぷちゃん、いーすん、こんぱちゃん、あいえふちゃん。ねぷぎあちゃん、ベールさん、セイツちゃん。皆がいる。皆がいてくれる。それに皆の他にも、あたしを応援してくれる人が沢山いる。

 そんな皆のいる世界へ、一歩一歩、あたしは進む。怖いけど、不安だけど、やっぱり皆といたいから。皆の思いに応えたいから。皆が、大好きだから。

 

「…………」

 

 怖さを振り払って、不安な心に大丈夫だって言葉を返して、廊下までは後一歩まで来た。後一歩進めば、外に出られる…そこまで来て、あたしは足を止める。

 止まっちゃった、じゃない。ちょっとだけ、そういう気持ちもあるけど…あたしはあたしの意思で、足を止めた。今のままでも、進めるけど…皆が引っ張ってくれてるけど……あたしも、女神だから。皆の力を借りるだけじゃ、本当に前に進めてるとは言えないから。だからあたしは足を止めて、深呼吸して……

 

「…プルルート?どうし……」

「……ッ!!」

「ぷ、プルルート!?」

 

 あたしはあたしを、あたしの頬を、両側から思いっ切り引っ叩いた。じーん、と痛みが響く位、頭がくらってする位。

 

「……っ、ぅ…い…痛いぃぃ〜……」

「そ…そりゃそうよ!な、何をやってるの…!?」

「…でも……えへへ…ちゃんと、前に進めたよ…?まだ、一歩だけど…あたし、一人で」

 

 思った以上に痛くて、ブランちゃんからも皆からも物凄い目で見られちゃったけど、それでもあたしは前に進めた。ブランちゃんに引っ張られなくても、廊下に、外に…皆の下に、出られた。…あ、はは…良か、ったぁぁ……。

 

「わっ、ちょっ!?ぷるると大丈夫!?」

「あ、あれぇ…?なんか、安心したら…力抜けちゃったみたい……」

「もー、びっくりさせないでよぷるるん…でも、某二年連続副会長の人流の気合の入れ方をするなんて、ぷるるんも中々粋だね!…って、よく考えたら今回13000字オーバーしそうなかなり長い話なのに、ここに来て漸くわたし一言目!?嘘ぉ!?」

「なんでそんなとこ気にしてんのよねぷ子…」

「でもその分、色んな意味でたっぷりな発言ですね…」

「でしょー?最後のみでもギャグたっぷりなのがねぷ子さんスタイルだからね!」

 

 くてーっとしちゃったあたしをぴーしぇちゃんが支えてくれて、ねぷちゃんがほっとした後面白い事を言って、あたし好みの緩〜い感じに変わる雰囲気。それは、これまでにもあって…でもこれまであたしは、あたしの事で必死だったから全然気付かなかった、暖かい空気で…あたしは、笑う。嬉しいなって、自然に微笑む。

 

「もう…まあ何にせよ、これでベール達との約束は果たせたわね。ここからは……」

 

 ねぷちゃんの言葉に呆れた感じのノワールちゃんは肩を竦めて、でもあたしの笑顔に気付いてノワールちゃんもちょっと笑ってくれて…それからまた、真面目な顔に。

 そう。あたしも分かってる。まだ解決してない戦いがあって、今も皆が戦ってくれてるんだって。あたしも友達として、女神として、のんびりは出来ないって。

 皆で顔を合わせて、頷き合う。そうして、あたし達は動き出そうとして……次の瞬間、どこかから通信を受けたいーすんが、言った。

 

「……!み、皆さん!交戦中のセイツさん達から連絡です!巨大な人型兵器らしき物が登場し……ノンアクティブ級の大型猛争モンスター複数に、突破されてしまったとの事ですッ!(>_<)」




今回のパロディ解説

・「〜〜命懸けで、獲りに来るがいいわッ!」
閃乱カグラシリーズにおける、代名詞的なフレーズのパロディ。実際セイツも猛争モンスターも命懸けてますよね。セイツは精神的な面にも触れて言っている訳ですが。

・「〜〜つまり…そういう事さ」
BanG Dream!に登場するキャラクターの一人、瀬田薫の代名詞的な台詞の一つのパロディ。かなり汎用性ある台詞ですよね。原作でも色んな場面で使われてますし。

・「〜〜あたしの、最高の友達〜〜」
まどマギシリーズに登場する主人公の一人、鹿目まどかの名台詞の一つのパロディ。これだとビターエンドを迎えそうですが…これはシモツキの作品です!大丈夫です!

・某二年連続副会長の人
生徒会の一存シリーズの主人公、杉崎鍵の事。両頬を思いっ切り引っ叩くシーンは中々印象的ですよね。立場的にプルルートはむしろ救われる側ですが。

・「〜〜最後のみでもギャグたっぷり〜〜」
ToppoのCMの代名詞的な台詞のパロディ。…のつもりなんですが、かなり苦しいパロディになってしまった気がします。活字のみで伝える事の難しさですね…。
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