超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth3&VⅡ Origins Exceed   作:シモツキ

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第六十六話 踏み出した先

 一難去ってまた一難…じゃないけど、ぷるるんがもう一度前に進もうと…小さくても大きな一歩を踏み出して、それにわたし達がほっとした直後に、いーすんから…いーすん経由でネプギア達から連絡が入った。第三波…多分一番強力で、凶悪な敵が現れたって。

 

「ネプギア、それはダークメガミで間違いないの!?」

「うん!しかもこいつ、多分…!」

 

 インカムから聞こえてくる、ネプギアの切羽詰まった声と、M.P.B.Lの発砲音。巨大な人型兵器らしき物、って時点でそんな気はしていたけど、やっぱりそれはダークメガミらしい。

 それに、現れたのはただのダークメガミじゃない。ネプギアの認識が正しいなら、それは……

 

「……っ!いたよッ!」

 

 そこで響く、ピー子の声。ピー子の指と鉤爪が示す先にいるのは、空から街中へと降り立つ大型猛争モンスター。

 

「ドラゴン…もう一体はどこかしら……」

「話じゃもう一体は陸上型らしいし、まだ見えないだけであいつの近くにいると思うわ」

 

 視線を巡らせるわたしの呟きに、言葉を返してきたのはノワール。連絡を受けたわたし達はすぐに女神化をして、教会から飛び出した。

 このままいけば、すぐに猛争モンスターと接触する。でも、わたし達の目的はそれだけじゃない。

 

「…そうね。予定通り、わたしは塔の破壊に向かうわ。ノワールとブランは防衛線への参加、ぷるるんとピー子は二体の迎撃…で、いいのよね?」

「あぁ。…プルルートも、それでいいんだな?」

 

 人と街を守る為に、二体の大型猛争モンスターを放置は出来ない。でも防衛線もダークメガミがいる以上増援は必須で、更にまだ詳しい事は分からないけど、空の穴は黄金の塔が維持している…つまり、あるかもしれない第四波以降を食い止める為には、塔の破壊をしなければいけない事も判明した。だから二つの戦場と、万が一に備えて塔へも行く必要があって…三ヶ所の内、塔の破壊をした事があるわたしは塔に、プラネテューヌの女神であるぷるるんと、今はプラネテューヌを拠点にしているピー子が街の防衛に、消去法でノワールとブランが防衛線への増援に行く事を決めた。

 戦力や目的を考えれば、これがベストな割り振り。けどさっきの戦いで心に傷を負ったぷるるんと分かれるのは、やっぱりちょっと不安があって、そんなわたし達の思いを代表するようにブランが訊く。

 真剣な面持ちで訊かれて、わたし達からも視線を受けて、ぷるるんは数秒沈黙。だけどわたし達が心配になりかけたその瞬間、ぷるるんはわたし達を見回して…言う。

 

「…大丈夫よ、皆。勿論、不安な気持ちもあるけど…今は思うの。ちゃんと、あたし自身とも…女神の自分とも、向き合いたいって。それに……」

「ぷるるとには、ぴぃがついてるっ!」

「…ね?皆こそ、あたしがいなくても大丈夫かしら?」

 

 胸の前で手を握って、静かに…でも決意の感じられる瞳で、ぷるるんは大丈夫だと言い切って、それに呼応するようにピー子も横からぷるるんにハグ。そしてピー子の頭を軽く撫でてから、ちょっと挑発的な笑みを浮かべてぷるるんが口にしたのは、なんと逆にわたし達を煽る言葉。そんな事を言われるなんて思ってなかったわたし達は、思わず目を丸くして……

 

「…言ってくれるじゃない、プルルート。だったら…後で聞かせてもらうわよ?復活したアイリスハートが、一体どんな戦果を上げられたかを」

 

 にやり、とわたし達は笑い合って、ドラゴン系の猛争モンスター…それに連絡で聞いていたもう一体、巨大な狼の様な猛争モンスターの上を通り抜ける。その間際、ドラゴンはわたし達に気付いた様だけど…ぷるるんの放った電撃魔法が直撃し、そのままぷるるんはドラゴンへと強襲。ピー子ももう一体へ飛び蹴りを仕掛けて、交戦を開始する。

 

(頑張って、ぷるるん。頼んだわよ、ピー子。…二人の約束、絶対に果たすわよ)

 

 これからわたしは途中でネプギアと合流して、一直線に塔へと向かう。この場の戦いも、ダークメガミの事も気になるけど、それは皆に任せるって決めた。だから…わたしも必ず、塔を破壊する。協力してくれる軍の人達も守る。…それが、わたしの戦いよ。

 

 

 

 

 電撃を浴びて振り向く大型猛争モンスターへ、接近と同時に蛇腹剣で一撃。そのまますぐに通り抜けて、振り向きざまにもう一撃。反撃をされる前に飛び退いて、見つけた軍人の側に着地する。

 

「避難状況はどう?進んでる?」

「は、はい!ですが情報が錯綜している地域もあり……」

「暴れられると不味い、って訳ね。それなら問題ないわぁ…だって、あのケダモノ共はここであたし達が倒すものッ!」

 

 背中越しに返答を受けたあたしは、軽く振り向いて笑みを見せ、それからすぐに飛翔。ぴーしぇちゃんの位置を確認しながら、もう一度モンスターに接近をかける。

 

(…とはいえ、いつも通りに…って訳にはいかないわよねぇ…。避けた火球が街を…なんて困るからあまり距離は開けられないし、そもそもこのレベルの相手と一対一なんて、一体いつ振りかしら……)

 

 ここまでにあたしが与えた攻撃は三発。直接斬り付けた二度の攻撃では確かに手応えを感じたけど…こちらを睨むモンスターの顔にはまだ余裕を感じられる。

 ただ倒すだけなら、皆より戦闘の勘が多分鈍ってるあたしでも出来る筈。けれど、街の被害を最小限に抑えてとなると……

 

「…って、弱気になっちゃ駄目よあたし。皆に勇気を貰ったばっかりだし…さっきはああ言ったもんだもの。格好悪い戦いなんて…出来ないわよ、ねッ!」

 

 巨躯から振り出される鉤爪に蛇腹剣を打ち合わせて、正面から激突。……と見せかけて、最初の衝撃を殺した時点であたしは腕の下へと滑り込み、同時に刀身の連結を解放。指の一つに刀身を絡ませ、剣から電撃を流し込む。

 

「ふふ、ごめんなさいね。あたし、野蛮な殴り合いなんて好みじゃないのよぉ…ッ!」

 

 自然と浮かんだ言葉を口にしながら、絡ませた蛇腹剣を引いて食い込ませる。普通のモンスターならこのまま落とせるところだけど…次の瞬間、唸りを上げながらもモンスターは逆の腕であたしへも横薙ぎ。…っとと…後一瞬避けるのが遅かったら、跳ね飛ばされていたところね…。

 

「…よ、っと……!」

 

 二度目の電撃も大きなダメージにはならず。となれば蛇腹剣を巻き付けて置いても動き辛いだけな訳で、あたしはすぐに引き戻す。

 腕を踏み付け翼を広げ、猛争モンスターよりも上空へ。牽制の為にもう一発魔法を撃ち込んで、脚を振り出すように宙返り。敢えてゆっくり、後ろ向きに回転して……思い出す。

 

(…抵抗するでもない、向き合うでもない、そもそも強く意識する事自体が大間違い。人の自分も、女神の自分も、等しく自分なんだから。…そうだったわよね、ブランちゃん)

 

 ここに来るまでに、ブランちゃんは話してくれた。自分の経験を、自分はどうしたかを。

 それは、今のあたしなら大丈夫だって…女神の自分も受け止める事が出来るだろうって、そう信じて話してくれた事。あたしの為に、もっと長い間苦しんで、その結果何とか見つけられた経験の話。…ほんと、あたしは自分の事ばっかり考えてたのね…ノワールちゃんにブランちゃんにぴーしぇちゃん…あたしを思ってくれてる皆の気持ちに、全然気付けてなかったんだもの。

 

「…でも、今は違う。それを今から、証明してあげるわ…ッ!」

 

 顔が下を向いたところで、見えたのは放たれた火球。あたしを追う事なく、真上に向けて飛ばされた遠隔攻撃。それをしっかりと見据えたあたしは右手を引いて…火球のど真ん中へと、得物を突き出す。

 

「……ッ!?」

「ざぁんねん、無駄に避けちゃったわね…ッ!」

 

 真っ直ぐに伸びた蛇腹剣は火球に飛び込み、そのまま貫通。突き抜けてきた刀身にモンスターは驚いて回避行動を取るけれど…あたしの蛇腹剣は、元々届くような距離にない。つまり、わざわざモンスターは火球の裏から出てきてくれた訳で…あたしはその方向へと横回転で火球を避けつつ、同時に急降下も開始する。

 

(そう。これが…これもあたし。この加虐心も、あたしの一部。これを切り離す事なんて出来ないし、あたしがあたしでいるって事はつまり、この思いとも共にあるって事。…当たり前の事だったのよね…あたしがそれを、受け入れられなかっただけで)

 

 回転に乗せて蛇腹剣を振るい、伸ばした剣で薙ぎ払い。跳ね除けられてもそのまま進んで、前転からの踵落としを叩き込む。

 懐かしい感覚。自分の身体が自分のものであるという、当然の…でも自分を抑え込む事に必死だったあたしが忘れていた、本来の感覚。身体が軽くなるような、全身に力が漲るような……シェアエナジーの、力。

 

「けど、だからこそ…これもあたしだからこそ…制御出来ない訳がない。そもそも制御する必要なんてない。だってあたしは…最初から、あたしのものなんだものッ!」

 

 すっきりした思考の中で、あたしは打ち込んだ踵を軸にもう一度上昇…するような機動で頭上を飛び越え、右手を前に。それだけで伸ばしたままの刀身はあたしに引かれて猛争モンスターの顔を襲い、そこからあたしはモンスターの周囲を飛び回る。飛び回り、鞭の様に蛇腹剣を振るって次々と身体を傷付けていく。

 

「うふふっ、苦しいかしら?痛いかしら?けれど自業自得よぉ?あたしの国に住む皆へ、怖い思いをさせたんだも……っと…ッ!」

 

 一撃毎に、低い唸り声が聞こえる毎に、湧き上がる高揚感。戦いそのものに対するものとは違う、一方的に責める事への悦びと昂り。

 これが嫌だった。これが怖かった。でもこれも自分だと思うだけで、自分の言葉だと…誰かじゃなくて、あたしが言ってるんだと思える。それだけでも…心の負荷は全然違う。

 とはいえ、モンスターだってそう簡単にはやられてくれない。何度目かの攻撃後、手首を放って更に打ち付けようとしたところで、あたしの攻撃を無視してこちらへ突進をかけてくる。

 

「……ッ…グァアアアアァァァァッ!」

「やらせない、っての…ッ!」

 

 腕一本ならまだしも、巨体での突進は受け止められない。そう判断してあたしが避けると、即座に猛争モンスターは振り向き咆哮。その口内からは炎が溢れ出し、火球となって放たれる。

 避けるのは容易。けれど避ければ、後ろのビルが燃え上がる。だからあたしは避ける事なく腕を振り抜き、蛇腹剣で一閃。その勢いのまま回転し、遠心力を載せて縦にも斬撃。十字に火球を斬り裂いて、四つに分かれた火球が火の勢いを失っていく様子に笑みを浮かべ──

 

「わぁああああああああッ!?」

「えっ、ちょっ…きゃあッ!?」

 

……次の瞬間、突如ぴーしぇちゃんが飛んできた。今の火球が目じゃない位の、物凄い勢いで。

 

「うぅ…って、あれ…?…あっ!?ご、ごめんねぷるると!…けがしてない…?」

「だ、大丈夫よぉぴーしぇちゃん…後一瞬気付くのが遅れてたら、二人纏めて後ろのビルに突っ込んでたと思うけどね……」

 

 衝突の寸前で気付いたあたしは、攻撃を防ぐような感覚で何とかぴーしぇちゃんを受け止める。…あ、危なかったわ…何気にあたし、この戦闘で今のが一番危機を感じたんじゃないかしら…。

 

「よかったぁ…えへへ、ぜんりょくでどーんってぶつかったら、ぴぃもとばされちゃった…」

「そ、そうなの…ぴーしぇちゃんこそ怪我はない?」

「うんっ!それじゃ、ぴぃはもうちょっとだから、たいへんな時はよんでねっ!」

 

 にへら、と気の抜けそうな笑みを浮かべたぴーしぇちゃんは、背後から迫る猛争モンスターの腕が見えているかのようにぴょこんと離れて、満面の笑顔を見せながら再度突撃。同じく攻撃を避けながら、あたしがもう一体の大型猛争モンスターを探して視線を巡らせると…その個体は、あるビルの壁面にめり込んでいた。……分かってはいたけど…ほんと、戦い方がブランちゃん以上に豪快よね…。

 

(…でも、向こうも順調みたいで安心したわ。こっちも仕込みは進んでるし、後は……)

 

 後は、タイミング。仕掛ける瞬間。付かず離れずで視線を引き付け、細かい傷を付け続けながら、冷静にそのタイミングを見計らう。

 これも今更だけど、女神化したあたしは普段よりずっと冷静な思考が出来る。戦況を見極め、先を予測し、戦術を立てる事が出来る。そして、あたしにはもう見えている。半端な攻撃じゃ動きを鈍らせる事も出来ないこの猛争モンスターへ、どうすればキツいお仕置きをする事が出来るかが。

 

「ほぉら、ほぉら!一度位当てられないのかしらぁッ!(まだよ、まだ…暴れさせず、一気に仕留めるには…まだ、今じゃないわ…)」

 

 左の拳を躱し、噛み付きを蹴りで逸らし、翼で叩き落とそうとした時は敢えて力を抜く事で風圧に身を任せて回避。作戦に気分を乗せた煽りで猛争モンスターの怒りを更に駆り立てながら、少しずつ少しずつ、モンスターを上空に誘き寄せる。そして……

 

「……ッ…!ふ、ふふっ…惜しかったわねぇ…でも…ッ!」

 

 あたしを引き裂こうとする、大振りの攻撃。それを後退する事で避けた瞬間、猛争モンスターが回った事で大木の幹の様な尻尾が眼前に迫る。

 全力で剣をぶつければ、何とか止められるような気はした。だけどその時走った直感を信じて、あたしは蛇腹剣を掲げて防御。刀身の腹に左手を添えるのとほぼ同時に、遠心力の乗った尻尾を叩き付けられ…姿勢を大きく崩される。

 翼を広げ、浮遊ユニットをフル活用しても抑え切れない程の、強い衝撃。身構えていなければ間違いなくあたしは吹っ飛ばされていて……揺れる視界の中で、モンスターは笑う。上手くいったとばかりに、勝ったとばかりに……あたしの、狙い通りに。

 

「──チェック」

 

 牙の合間から炎を滾らせながら、猛争モンスターが開く口。火球、或いは火炎放射であたしを仕留めようとするその動きを前に、あたしは口角を上げながらそう呟き……肘と手首の返しだけで、蛇腹剣の先端を口腔内へと飛び込ませる。

 これが、あたしの武器の強み。長ければ長い程、先端に行けば行く程速度を増す遠心力を利用する事によって、小さな動きでも大きく動かす事が出来る。勿論、肘から先の動き程度じゃ、伸ばせるだけで威力はそこまで望めないけど……届いたのなら、それでいい。

 目を見開く猛争モンスター。その姿を見据え、剣の柄を握り締め……全力全開で、電撃を放つ。

 

「グォオオオオオオォォッッ!!?」

 

 真っ直ぐに伸びた蛇腹剣を通って、刃一つ一つから溢れ出して、魔導の電撃が猛争モンスターを襲う。体内と体外、その両方から全身へと電撃が流れ、絶叫の様な咆哮が上がる。

 幾ら強靭な身体をしていても、体内まで強い訳がない。だからあたしは全身を斬り付けて、電撃が入り込む穴を作った。拡散する電撃で街に被害を及ぼさないよう、奴を上空に誘き寄せた。そして直接体内に浴びせる為に、敢えて防御して口からの遠隔攻撃を引き出した。…全て狙った通り。あたしが、思い描いていた通り。

 

(…前のあたしは、こうして迷いなく、自然に戦えていた。少しずつ、女神としてのあたしが強くなってきてからは、真っ直ぐに戦う事が出来なくなっていた。そして今は、前のあたしに戻った訳じゃない。戻れなんかしない。…だからこそ、これが新しいあたしの、一回目…皆に勇気を貰ったあたしの、リライズ……!)

 

 蛇腹剣を引き抜くと同時に、猛争モンスターは痙攣しながら落下。その姿を目に捉えながらあたしは上昇し、大きな円を描くようにループ。その頂点、完全に背中が下を向いた瞬間あたしは一気に身体を捻り、翼を閉じた猛禽類の様に真下のモンスターへと突撃をかける。

 ただ落ちるだけの巨体と、自らの意思で加速をかけるこのあたし。その速度の差は歴然で、モンスターが地面へ衝突するよりも早くあたしは肉薄。そしてあたしは、思いを…これからのあたしと皆への思いを蛇腹剣に込めて、この手を振り抜く。

 

「さぁ…跪く事すらなく散りなさいッ!ファイティングヴァイパーッ!」

 

 シェアエナジーと魔力、その両方を纏わせた刃で斜め十字に二連撃。振り抜き、斬り裂き、眼下に迫った大通りへと叩き落とす。

 胴へ深々と刻まれた、中央で重なる斬撃痕。路上へ落ちた猛争モンスターが低重音を響かせる中、あたしも背を向ける形で着地。この時、モンスターはまだ何かしようとしていたかもしれない。せめて一矢報いようと、身体に力を込めていたかもしれない。でももう、関係ない。だって、もう戦いは終わっているんだから。

 左腕を横へと伸ばして、軽く一振り。それを合図に刃へ込めた、斬撃によって刻み付けたシェアエナジーと魔力が解放され、内側から爆発。勿論、振り返って確認するような事はしない。だって…ドラゴンとはいえ、猛争化しているとはいえ…たった一体のモンスターを、あたしが仕留め損ねる訳がないでしょう?

 

「ふ、ふふっ…ふふふふふふ…っ!あぁ…そう、これよこれ…これこそが、あたしの……」

 

 背後で消えていく気配。あたしの完全復活に、再発進に相応しい完全勝利に、高まり昂るあたしの気分。

 気持ちが良い。清々しい。心を抑圧する事もなく、街への被害も最小限に抑えて、その上で完璧な勝利を得られたんだから、気持ち良くない訳がない。この勝利は、あたしという存在の肯定そのものなんだから、高揚しない筈がない。

 見えてきた。ブランちゃんの言っていた、終着点が。まだ一歩目だけど、きっとまだ遠いけど、届くような気がしている。そう、そうよ…あたし自身が揺るがなければ、きっと……

 

「……あ、ぇ…?」

 

──そう、思った時だった。遠巻きに見える、思わず避難の足を止めてこちらを見ていた街の人達の姿を見回していた時……あたしは気付いた。気付いてしまった。一人の女の子に…あたしが悔やんでも悔やみ切れない、きっと深い傷を負わせてしまったその子がいた事に。

 

「…あ、あ…あ……」

 

 蘇る記憶。何も考えず、変わっていく自分に気付く事もなく、ただ思いのままに敵を蹂躙して……その果てに、その場にいた人達を怖がらせてしまった、怯えさせてしまった、あの子を泣かせてしまった、あの日の過ち。

 忘れていた訳じゃない。忘れられる筈がない。だけどあたしは、見えなくなっていた。皆のくれた希望に、取り戻した勇気に目が眩んで、そこにある現実から目を逸らしてしまっていた。

 その現実が、今再びあたしの前に現れる。それはまるで、あたしをもう一度引き摺り降ろそうとする闇の様に。

 

「……っ!」

 

 固まる身体、震える脚。声が出なくなる中、その子もあたしの視線に気付いて…一歩、前に出る。もう一歩、もう一歩と前に出て…その幼い瞳で、真っ直ぐにあたしを見つめ返す。

 駄目だ、いけない。早く離れなくちゃ。…そう思ったけど、身体が動かない。今更遅い、もう十分加虐的な…あの時と同じような姿を見せたじゃないかと、心の中の闇が囁く。

 そうだ、その通りだ。どんなにあたしの心が前向きになっても、受け入れられても、あたしの在り方が周りに与える影響は変わらない。今のあたしを怖いと思う人の心までもは、助けられない。そして、だからこそあたしはそれに気を付けなきゃいけないのに…やってしまった。またやってしまった。今また…あの人達を、怖がらせてしまった。…その思いが、罪悪感が、蘇った絶望が心の奥からあたしを飲み込もうとして……

 

 

…………だけど、

 

 

 

 

 

 

「……あ、あの時は…ちゃんと、お礼を言えなくてごめんなさい…!…あの時も、今も…ありがとう、ございました…っ!」

 

 底のない闇の中へと沈みかけたその時、聞こえたのは…届いたのは、その子の声。嘘も建前もこれっぽっちも感じさせない、透き通るような感謝の言葉。

 それだけじゃない。その子の側へ寄り添うように駆け寄ってきた女性と男性…あの時一緒に見た母親と、父親と思われる一組の男女が、深々と頭を下げてくれた。あの日も今も、娘を…自分達を助けてくれて、ありがとうと言うかのように。

 

「ぷるると、だいじょーぶ!?…って……」

 

 もう一体の方も無事倒せたみたいで、あたしの隣に降り立つぴーしぇちゃん。その声は、初めあたしを心配するようなものだったけど…途中で声音が変わって、その表情に笑みが浮かぶ。

 次々と聞こえてくる声。それ等は全て、あたし達への感謝と賞賛。あたしは皆と違って、周りの人を怖がらせるような、恐怖を抱かせるような言動をしていた筈なのに、それでも感謝をしてくれる。ありがとうって、助かったって、あたしに笑顔を見せてくれる。

…もしかすると、あの時も…あの子を泣かせてしまった時も、本当は同じ声があったのかもしれない。でもあの時は、自分が変わってしまった事に、国民を怯えさせてしまった事に恐怖して、その場から逃げてしまったから、分からなかった。あったとしても、気付かなかった。あたしが皆に抱かせる思いは、恐れだけじゃないんだって事に。

 

「…よかったね、ぷるるとっ!」

「…えぇ…良かった、良かったわ……」

「……?ぷるると、どしたの?もしかしてない……」

「だぁめ。…皆の前だもの、格好良い女神でいさせて頂戴…」

 

 心の中の闇が消えていき、代わりにあたしの心を包むのは温かな気持ち。憑き物が取れたように心が軽くなって、熱い思いも込み上げてくる。

 だけど、ここでそれを見せたら台無し。それはそれで受け入れてくれるかもしれないけど…あたしは皆にとって、ねぷちゃんやノワールちゃん、ブランちゃんやベールさんみたいな、憧れの存在でいたい。だから人差し指でぴーしぇちゃんの唇を押さえて、代わりに今のあたしらしく微笑む。

 あたしはあたし。どれかがじゃなくて、どれもがあたし。そしてそれは、皆があたしに抱いてくれる思いも同じ。この在り方が、誰かを怖がらせる事もあるけど…こんなあたしでも、女神として受け入れてくれる、応援してくれる人も沢山いる。それが分かったから、それも思い出せたから……あたしはもう、大丈夫。

 

 

 

 

「くぅう…!ここは大丈夫、貴女はネプテューヌと…信次元プラネテューヌの守護女神と共に、災いを招くあの塔を打ち砕いてきなさいッ!…と威勢良く送り出した女神は何をやっているんですの!?」

「無茶言わないでよッ!全方位攻撃から彼等を守るので精一杯なんだからッ!あいつ、味方の被害も御構い無しに薙ぎ払ってくるのよッ!?」

 

 衰える様子のない猛争モンスターの大群に加えて、爆撃さながらのエネルギー攻撃でこの場を焦土に変えようとしてくる巨大な敵。ダークメガミと呼ばれるそれは、全身から放つエネルギーの刃と、羽状の端末による遠隔操作攻撃によって、出現以降猛威を振るい続けていた。

 

「泣き言などいりませんわッ!貴女、熱く華麗に戦う姿でわたくしの心を惚れさせてくれるのでしょう!?この防衛線には、多くの人の命がかかっているのですのよッ!」

「レジストハート、了解ッ!」

 

 怒涛の勢いで迫る大群を打ち払い、精製した何本もの巨大槍で押し留めながら、ベールが叫ぶ。そんな約束した覚えはないけど、強いて言えばどこかで言った事位はあるかもしれない程度だけど、わたしは腹から出した声で返して、モンスターも端末も全力で迎撃。斬り付け、吹き飛ばし、手の足りない分は作り出した剣を射出して防衛線の突破を許さない。

 とはいえこれは、大盤振る舞いで何とか押し留めているようなもの。ギリギリのギリギリ、何か一つでも悪い方に傾けば、それだけで総崩れになりかねない戦況。増援に来てくれたノワールとブランは違う方向から攻め込もうとする猛争モンスターの別働隊の対処に向かったから、もう暫くはわたしとベール、二人のマジェコンヌ、それに軍の部隊だけで戦うしかない。くっ…確かにこれは、判断ミスだったかもしれないわね……!

 

(…それに……)

 

 着地と同時に軍へ迫った光芒を斬り払ったわたしは、視線を上へ。

 そこにいるのは、桁違いの戦力を持つ敵の増援。黒幕らしき存在が使役する戦力であり……耳に響くのは、傲岸不遜としか言いようのない声。

 

「ハーッハッハッハ!圧倒的デハナイカ、我ガ力ハッ!」

 

 その巨人が現れた時、最初の攻撃と共に聞こえてきたのは今のと同じ高笑い。一度聞くだけで覚えてしまう、マジェコンヌの笑い声。

 だけど勿論、こっちのマジェコンヌが寝返った(現状でも敵ではないって程度だけど)訳じゃない。その声の発生源もダークメガミで…ネプギアが言っていた。別の次元でも、自分達はダークメガミと融合したマジェコンヌと戦ったと。そのマジェコンヌと、今いる敵のマジェコンヌとの関係は分からないけど……この場における最大の脅威である事には、変わりない。

 

「うぐ…ッ!いい加減状況を理解しろ…!今は、こんな戦いをしている場合では……」

「今更何を言うかッ!私は気に食わん奴を潰す、ただそれだけだッ!お前もそれを理解した上で、ここに誘い込んだんだろうに…ッ!」

 

 戦闘音の合間合間で聞こえてくる、二人のマジェコンヌの舌戦。あちらもあちらで熾烈な戦いとなっていて、手一杯なわたしに手を出すような隙はない。

 そしてそれは同時に、信次元のマジェコンヌからの援護も期待出来ないって事。それは元々と言えば元々だけど……この戦況を変えるには、自分達で動くしかない。

 

「……ッ…でも、そんなのは…当然の事…ッ!」

 

 対応するだけじゃ変わらない。変えたいなら、こっちから動く他ない。だからわたしは左の剣で猛争モンスターを斬り裂き、右の剣の斬っ先をダークメガミの方へ。刀身の背で狙いを定めるように見据え、プロセッサの前腕部に装填されたシェアエナジーを一部解放。剣の周囲に形成した特殊な力場を砲身にして……そのシェアエナジーを、撃ち出す。

 放ったシェアエナジーは、真っ直ぐに飛翔。ある程度の距離まで飛んだところでエネルギーが完全解放されて、周囲に圧縮されていた力が迸る。そして、それによって生まれた穴を通って、わたしはダークメガミの眼前へ突進。

 

「貴女の目的は何ッ!?何を思って、この戦いに……ッ!」

 

 言葉を叩き付けながら、二振りの剣の先端と柄尻を連結。大剣状態にして斬りかかろうとするも、それよりも早く振るわれた杖に襲われて、後退を余儀なくされるわたし。歯噛みしながら下がるわたしを前に、ダークメガミは至極愉快そうに叫ぶ。

 

「目的ィ?ソンナモノ、我ガ主ノ命ニ応エ、我ガ主ノ絶対的ナル力ヲ見セ付ケル事ニ決マッテイルッ!ドウダ、コレコソ我ガ与エラレシ力!タダノ女神ナドモノトモシナイ、至上ノ……」

 

 乱射としか思えない攻撃を放ち続けながら、高らかに、けれどまるでマジェコンヌらしからぬ言葉をダークメガミは言い放つ。力を誇示する事が、その力を使える事が、楽しくて堪らないと言わんばかりに。

 わたしが迎撃行動を再開してからも、その言葉は続く。続いて、響いて、攻撃と共に戦場を席巻する……その時だった。

 

「……──ッ!?」

 

 突如、猛争モンスターの大軍の中から駆け抜けた二つの電撃。それ等はダークメガミの胴体を叩き、ダークメガミも一瞬動きを止める。

 それは恐らく、驚きによるもの。まさかそこから攻撃が来るなんてという、驚愕の反応。そしてその驚きは、わたしやベールにとっても同じ。

 そこにモンスターならざる存在がいる事は分かっていた。でもそこからダークメガミに向けての攻撃がある筈なくて、そんな余裕あるとは思えなくて、あっても放たれるのは一条だけの筈で……けれど確かに、二つの電撃が襲いかかった。そして、ダークメガミが…わたしとベールがそちらの方へ目をやると、そこには……

 

 

──得物に魔力光を灯らせ、気に食わないとばかりにダークメガミを睨め付ける……二人のマジェコンヌの姿があった。




今回のパロディ解説

・(〜〜新しいあたしの、一回目〜〜)
今年の24時間テレビの合言葉の事。そういえば去年もパロディしたなと思い出し、ふと入れてみました。…あ、はい。それだけです。

・「無茶言わないで~~のよッ!?」「泣き言~~ですのよッ!」「レジストハート、了解ッ!」
マクロスfrontierのノベライズ版における、オズマ・リーとキャサリン・グラスの会話のパロディ。このパロネタ、分かった人はいるでしょうか。

・「~~圧倒的デハナイカッ!我ガ力ハッ!」
機動戦士ガンダムに登場するキャラの一人、ギレン・ザビの名台詞の一つのパロディ。まあ勿論、台詞だけで動作は全然違いますよ。戦闘中ですし。
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