ポケモンの世界に転生したが、思ってたのと違っていたお話。

※単発につき完結※

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第1話

 気がついたらポケモンの世界に転生していた。

 

 最初は何が起こったのか分からず混乱したものだが、ありありと現実を突きつけられれば誰だって受け入れてしまうものだろう。

 街中を歩くポケモン、モンスターボールを手にした人々。テレビをつければ、バラエティ、ドラマ、アニメ等々……どのジャンルを見てもポケモンの存在が目に入るのだ。

 

 まあ、それはいい。

 これでも生まれ変わる前は、人並みに遊んでいたゲームだ。

 新作が出れば一通りプレイした。ガチ勢の友人に教えられ、種族値や個体値やらを教えてもらったこともある。

 だけど、そこまでやり込んだ記憶はない。ゲームは大抵ストーリーをクリアしたら満足する派だったから、ポケモンに関しても、殿堂入りした後にクリア後にしか出てこない伝説のポケモンを捕まえて満足していた。

 

 とまあ、長い前置はこのくらいにしておこう。

 

 正直、ポケモンの世界に生まれたこと自体はワクワクしている。

 子供の頃なら、「あのポケモンを手持ちに加えてチャンピオンになってやる!」くらいの妄想なら、誰だってしたはずだ。かく言う俺もその一人。

 アニメみたいに十歳になったら……とまでは言わないが、しっかり準備を整えて旅に出たいとも考えた。

 

 調べた限り、ここは原作に登場していない地方だ。

 でも、ジムやらポケモンリーグはあるようだし、知らないなら知らないなりに新鮮な気持ちで旅に出ることができるだろう。

 そしていつかはチャンピオンになり、輝かしい歴史に名を刻むのだ!

 

(そう思っていた時期が俺にもありました)

 

 ここまで全部、()()()()()()()()()()()()()()()()()の話だ。

 

「グォォオオオ!!!」

「わっ! どうしたの、ルカリオ!」

 

 俺が泣き崩れ落ちれば、トレーナーである少女が駆け寄って来た。

 そう、今の俺はルカリオだ。あの映画とかでもフューチャーされていたけれど、いざダイヤモンド・パールが発売されてみれば伝説ポケモンじゃなかったルカリオなのだ。

 

 いや、違うじゃん?

 ポケモンの世界に生まれ変わるなら人に……もとい、トレーナーになってみたいやん?

 なのに、なんでルカリオになっちゃったの? 正確に言えばリオルになって生まれてきたんだけれども。

 これじゃ不思議のダンジョンだよ! 遊んだけども! ストーリー感動したけども!

 

 ポケモンをゲットしたかった!

 俺が欲しいのはポケットモンスターだ!

 

「あ、わかった! お腹空いたんでしょ! ほら、ポケモンフーズあげる!」

「くわんぬ!!」

「そっかそっかー! 嬉しいかー!」

 

 食わんぬって言ったやろがい!

 言葉が通じないって不便。

 ルカリオの声帯で出来る限りの言葉を発しているつもりだが、ただの鳴き声と捉えられている現実がこそばゆい。

 昔、ピカチュウの鳴き声でどこまで言葉が通じるかみたいなやり取りを見て笑っていたが、今になると悲壮感で笑えなくなってしまう。心底ピカチュウが羨ましい。中華食べたい。

 

 言葉が通じない悲しさをポケモンフーズで紛らわせる。

 どんなポケモンでも美味しく食べられる味付けにしてある点は画期的だけれども、毎日これだと飽きてしまう。

 たまにきのみのトッピングとかを懇願するが、最近主人はきのみを求める時は上目遣いするようにしつけてくる。

 最初こそ断固拒否していたが、いやぁ、食欲って恐ろしい。最近はコンテストのかわいさ部門で優勝できるんじゃないかってくらいに上目遣いを極められた。

 

 屈辱だ……! だが、背に腹は代えられないという訳だ。

 でも、前世でペットにかわいい表情を求める主人ってこういうことなのだと理解できたからこそ、許容できる部分はある。

 逆に許容できない部分はと言えば……。

 

「はふっ、はふっ! すーはーすーはー! ルカリオのお尻良い匂いだお! ずっと嗅いでたい!」

「グルァ!」

「痛い!?」

 

 音もなく背後に回り込んだ主人が尻に顔を埋めてきたので手加減した“はっけい”を打ち込んだ。

 悶絶する主人だが、(おれ)の嫌がる真似をするのだから仕方がない。

 

 勘のいい人なら察しただろう。

 何の因果か、俺の主人(トレーナー)はケモナーだった。

 ポケモンへの愛情が深いと言えば聞こえはいいが、隙を見計らって奇行に及んでくるのだ。こちらとしては気が気ではない。

 

 どうしてこうなった。

 主人とは生まれた時から一緒だった。食事の時も、風呂の時も、眠る時も……それこそ家族同然に過ごしてきたのだ。

主人が風邪を引いた時は看病してやり、主人をイジめた子供が居れば懲らしめてやり、主人が野生のポケモンに襲われた時は身を呈して守ってあげたというのに……一体いつからこうなってしまったんだ。

 

「バウッ!」

「あ、待ってルカリオ~!」

 

 床の上で悶絶する主人を後に、俺は庭へ赴く。

 一般家庭とは言え、ポケモンの世界となればそれなりに広い。ここで日光浴や技の練習をするのが日課となっている。

 ポケモンの体ともなれば、適度に動かなければ力があり余って仕方がないのだ。

 それにしても、ポケモンの体に生まれ変わって良かったことと言えば、技を繰り出せることだ。それもルカリオなのだ。“はどうだん”を撃ち出すのは本当に快感―――。

 

『ルカリオさぁーん♡』

『ふんっ!』

『ぎえぴー!!?』

 

 背後から“テレポート”で奇襲してきた不届き者が現れた為、事前に波動で察していた俺は“はどうだん”で迎撃した。

 股間を押さえ、プルプルと地面で悶絶している白と緑色の肉塊。

 一見人にも見えなくない姿のこいつは、前世では数多の紳士に嫁ポケとして愛されていたサーナイトである。

 六世代から【フェアリー】タイプが追加されて【かくとう】に強くなったが、無防備な急所に当たればそれなりに喰らうだろう。

 

『ひ、ひどいです……急に攻撃するなんて……』

『“テレポート”で奇襲しようとしたのはどこのどいつだ?』

『奇襲だなんてそんな! “くろいまなざし”をした後に“ドレインキッス”で挨拶して“のしかかり”からの“アンコール”で愛を育もうとしただけです!』

『よし、尻を向けろ。“ボーンラッシュ”をぶち込んでやる』

『やめて! そんなことされたら瀕死になっちゃうのほおおおお!!』

 

 慈悲はない。

 と、この尻に“ボーンラッシュ”を突き立てられて瀕死になっているサーナイト。見ての通り、ドがつく程のピンクな波動を垂れ流す年中発情期な個体だ。そしていつも俺の貞操を狙っている。

 

 言葉が通じるって不便だね。コラそこ、掌“つのドリル”とか言うな。

 このサーナイトとの付き合いは大分長い。昔、森で倒れているラルトスを助けた経緯を経て主人の手持ちに加わったのだ。

なんやかんや面倒を見てなつかれたまでは良かった―――が、今や控えめな性格だった頃の面影はなく、やべぇミント決めたかのごとくビッチに変貌してしまった

 さっきのように“テレポート”で奇襲してくるのは日常茶飯事。“メロメロ”や“あやしいひかり”、果てには“さいみんじゅつ”で強硬手段に出てくる時もある為、最近ではラムのみが手放せない。

 

一体どこで道を間違えてしまったのか。俺は一晩中考えた。

ラルトス系列はトレーナーの明るい感情を受け取って成長すると言うが―――主人の所為じゃねえか!!

そんな風に絶望したのも過去の話。

今となってはルカリオとして波動を読み取る力を持っていることを神に感謝しつつサーナイトの襲撃に備えている。

 

ありがとう、アルセウス。別にアルセウスのお陰か知らないけど。

いや、やっぱりイラついてきた。覚えとけ、アルセウス。もしもお前がこんな運命の星に俺を転生させたなら首を洗って待っていろ。全力の“やつあたり”をぶち込んでやる。

 

『はぁ……』

『またサーナイトに襲われたんですか?』

 

 ため息を吐いていれば、庭の奥から一体が姿を現した。

 黒と赤の体毛に狐のような顔つき。そっちの方面の趣味を抱くトレーナーに人気のこいつは、

 

『ゾロアーク』

『毎日毎日大変ですね。僕からも一応注意しておきますか?』

『いや、やめておけ』

『私の愛のチャンピオンロードを邪魔する奴はどんな奴でも許さなぁぁあああい!!!』

『ひぃ!?』

 

 尻からエネルギー状の骨をぶっこ抜いたサーナイトが、鬼気迫る表情で詰め寄って来た。

 そのまま“ドレインキッス”でもしてきそうな勢いだったから“みきり”で避けたが、完全に怯えたゾロアークが俺の背中に隠れる。こいつ、こんな悪そうな見た目をして、中身は実に良心的だ。サーナイトとタイプ逆なんじゃねえの? ってくらいにはまともな性格の雄。

 

 と、最初は思っていた。

 

(はぁ……はぁ……! ルカリオさんカッコイイ……! 番になりたい……!)

 

 サーナイトに勝るとも劣らないピンク色の波動を感じる。

 やめてくれゾロアーク。それは俺に効く。

 一見真面目に見える同僚にも貞操狙われるって、ポケモンの世界ってどれだけ修羅なの? 健全だったゾロアの頃を返してくれ。

 だが、手を出してこないだけ安心……かと思いきや、たまに主人に化けて過激なスキンシップを仕掛けてくることがある。

 俺がルカリオだったから良かったものの、いつ誰に化けてくるかと、俺は気が気ではない。前世でもこれくらいモテたかった。ポケモンになってからポケモンにモテるとか、ぶっちゃけ複雑である。

 

『まあ……でも、臆病なのが玉に瑕だなぁ。あんなのに怯えてたらポケモンバトルやってけないぞ?』

『バトルなんかよりよっぽど怖いですよ、()()は……』

『ぐへへへっ。さぁ、そこから退きなさい、ゾロアーク……!』

『ひぃっ!!』

『ルカリオさんの背中は私のポジション……同じ釜の飯を食った仲とは言え、誰にも譲りは―――』

 

『邪魔』

 

『あぎゃあああ!? お尻が凍ったー!! ふたごじまになったー!!』

 

 情欲のままに暴れていたサーナイトの尻が凍り付いた。

 ぎゃーぎゃー騒ぐサーナイト。その背後から現れたのは、水色の体毛から冷気を迸らせるブイズの進化系、グレイシアであった。

 氷のように怜悧な瞳をぎらつかせながら歩み寄って来るグレイシア。

 すると、俺の目の前で立ち止まるや否やプイッと顔を逸らした。

 

『べ、別にアンタの為じゃないからね! あたしの通り道に邪魔なのが居たから凍らせただけ!』

 

 ナイスツンデレ。

 とまあ、彼女は見ての通りツンデレだ。

 一見不愛想な態度でも好意的な感情が波動からプンプンと漂ってくる。前世はそっち系でもなかった俺だが、ポケモンに生まれ変わって種族が変わってしまった以上、タマゴグループも一緒な訳でありまして。

 

『合法になってまうやろぉー!!』

『!? ご、合法って何よ……ワケ分かんない……!』

 

 今ならポケモナーの気持ちが分かる気がする。いや、自分自身がポケモンになってしまった以上、この感覚は相いれないとは分かっているんだけれども。それにしても可愛い奴だ。

 

『ホントにグレイシアは可愛いなぁ~、うりうり』

『ちょ、やめなさいよ! 気安く撫でないで!』

 

 そっぽを向いても尻尾は正直だぞ?

 そんなに左右に振りやがって……。

 

『うぅ……恨めしや……後で呪う……』

『お二方。あそこに転がってるサーナイトがブラックホール生み出しそうな目でこっちを見てるんですが……』

 

 俺がグレイシアと戯れている光景にジェラシーを覚えているサーナイトが居るが関係ない。

 

『って言うか、まだ瀕死になってないんだな』

『どうする? 凍らす? “つららばり”で尻の穴使い物にならなくさせてあげる?』

『マトマのみ使います? さっき拾ったんで、“なげつける”っていう手が……』

『やめて!! マトマのみだけはやめて!! お尻から“ブラストバーン”出ちゃうから!! あれだけは嫌あああ!!』

 

 本気でサーナイトが嫌がっている。というのも、一回地獄を見た経験があるからだろう。

 ん? なんでそんな経験があるのかだって? 皆まで聞くな。

 しかし、ここまで怯えていれば今日は安心だ。しばらくはマトマのみという抑止力でサーナイトを封じることができる。

 

 人間から転生したルカリオ。

 ド淫乱サーナイト。

 臆病な伏兵ゾロアーク。

 ツンデレグレイシア。

 

 これが今のところ、主人の手持ちのポケモンだ。

 ポケモンに生まれ変わったとはいえ、まさかこんなに濃い面子とパーティを組むとは夢にも思っていなかった。

 切実に願うのは、残り二枠に加わるポケモンが普通な子達であることか……そもそも、仲間に貞操狙われなきゃいけない状況ってなんなんだ。こんなことなら無性別に生まれたかった。人気投票で2位に輝けるコイルになりたかった。

 だが、なってしまったものは仕方がない。俺は第二の人生……いや、ポケ生を生きていくしかないのだ。

 

 それにしても慣れない部分が一つだけ残っている。

 

「みんなー! あ、庭で遊んで……ううん、バトルの練習してたのね! 偉い!」

「くわんぬ」

 

 相も変わらず的外れなことを言う主人だ。

 すっかり慣れてしまったが、たまにこの天然に振り回されるのだから、こちらとしても何とかしたいものである。

 しかし、これではないのだ。

 ケモナーの少女の主人に仕えることでも、ド淫乱の同僚に襲われることでもなく……。

 

「うん、格闘タイプ同士エルレイドに進化させてあげたらいいかと思ったけど、サーナイトでも仲良しで安心した! それじゃあ今度は私と仲良くしようやぁ……」

「バウッ!」

「はぐふんっ!?」

 

 ……まあ、ご想像に任せるとしよう。

 




ポケットモンスター:英語圏で男性の陰茎を指す陰語。そのため、英語圏では「Pocket monster」ではなく「Pokémon」と略されている。


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