王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

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めっちゃくっちゃ忙しい忙しい…… 

でも、何とか投稿………

頑張ります、ほんと、頑張ります!

遅くなってしまって申し訳ありません!!! 頑張ります!!


第191話 白鳥沢戦①

 

 

 

静寂、といえば少々語弊があるだろう。

この数千人は収容する巨大な体育館。鳴りやまぬメガホンの音も、白鳥沢の大応援団の怒号のような声援も、まだ確かに存在しているのだから。

 

 

静寂など、訪れるわけがない……が、ここに矛盾が生まれた。

先ほどの一撃、火神が放った左打ち(レフティ)を目の当たりにした白鳥沢の面々が、体感で一瞬の静寂を感じたのである。

 

 

コートに突き刺さった刹那から、その周辺の【熱】が、【熱】だけがまるで真空状態に陥ったかのように、音もなく色が抜け落ちた。

 

 

「今、左で打ったよね??」

 

 

天童が不意に口にする。

それは皆の疑問である。

決勝の舞台に上がってくるのは青葉城西だと予想をしていたが、烏野の存在を無視していたわけではない。絶対王者と呼ばれる所以、それは技能やパワーだけじゃない。決して相手を侮らない。

 

だが、それを考慮しても前回のIHの青葉城西の強さは異質で異様だった。

あそこまで追い上げてきたのはここ数年は全国でしか体感したことがないからだ。

何があったのか? こんな短期間で……という疑問の答えが、この烏野にある、とあの時思ったものは少ないだろう。

 

 

「咄嗟に合わせただけでしょう! あれくらい、俺だって―――」

 

 

自然と視線を向けてしまいがちになるのは、五色である。

同学年でかなりの注目を集めてきた火神という存在。同じWS(ウイングスパイカー)であり、ほぼ間違いなく今後のライバルとなりえる存在だと彼の中で認識していたのだ。

 

まだ、一度も対戦したことがないというのに、五色の中の、本能的な部分では好敵手として見定めていたのかもしれない。

 

 

「そんな単純な話じゃないだろ」

 

 

じっ、と見据えて口を挟むのはS(セッター)の白布である。

影山という男については、五色が火神のことを知るように………という理由ではないが、天才と呼ばれるS(セッター)がいることは白布にも伝わっている。

あの及川の後輩なのだから。

 

 

「(そんな……影山(あいつ)がミスるか? 寧ろ……)」

 

 

意図的に、見せつけてきたような印象さえ感じる。

奇策として、手の内を見せない事もまた、戦略の一つとなりえるのだが、見せてくるというのも、また考え物だ。

 

 

「確かに。咄嗟にしては……やり過ぎだな」

 

 

大平は思わず苦笑いをした。

あれが、狙って行った行為だとするなら……あまりにも稀有過ぎる。

 

 

両利き(スイッチヒッター)か」

 

 

牛島の声色は特に変わった様子はない。

ただ、珍しいものを見た、と言わんばかりの好奇心がその瞳にあるのがわかる程度。つまるところ、ワクワクしている……ようにも見えなくもない。普段牛島が見せない雰囲気だ。……が、牛島のそんな様子よりも、牛島の言葉に対してざわつくのが多かった。

 

 

両利き(スイッチヒッター)

 

 

スポーツの世界において【両利き】というのは重宝されるものだ。

歴史を振り返っても、常に戦況を根底から覆す特異点、と呼ぶ者も少なくない。

 

野球であれば、投手の左右に合わせて打席を変えることで外角球への対応力を極限まで高められる。

 

サッカーであれば、どちらの足でも高精度のシュートを放つことができるので、守護者(ディフェンダー)にその切り込むコースを最後まで悟らせない絞らせない。

 

また格闘技の世界においても、左右入れ替えることで相手の距離感を狂わせてくる。

 

 

どの競技においても、重宝され渇望される理由は簡単に想像ができる。

 

 

 

「お、若利君もそう思った? 実は俺も~。……ま、見たことないけどネ」

 

 

 

天童は、ひらひらと手を振っておどけ笑いながら牛島の言葉を肯定したが……彼なりの困惑の裏返しでもある。

視線を狭めながら―――ハイタッチをしているあの火神を見た。

 

 

両利き選手、というのは数多のスポーツで見たことがある……が、ことバレーボールにおいては見たことがないし、そのハードルの高さはおそらくは他の競技の比ではない。

 

 

ネットという不可侵の境界線を挟み、コンマ数秒で変化する(ボール)の起動に反応し続けなければならない。故に、求められるのは【一瞬の迷いもない最適化】だ。

利き腕に合わせた助走の角度、空中での体の反り、視線の配、それらすべてを左右両方で高精度に仕上げるなど、プロの世界でも早々いるものではない。

 

費やす時間と労力を考えたら、非効率の極み。それがバレー界の定説でもある。

 

 

「今のは、狙ってました……かね? あの11番の彼、火神君は確かに白鳥沢(ウチ)でも欲しかった人材ではありますが……」

 

 

思わず眼鏡を持ち上げる仕草をするのはコーチの斎藤である。

スカウトとして、あの火神誠也を勧誘したのは記憶に新しい。少ないながらある程度の情報、わかる範囲ではあるが、彼の情報は集めたつもり……だったが。

少なくとも、左利きという情報は無い。

これまでの彼を一言で表すなら万能型(オールラウンダー)

 

 

「ふん……っ」

 

 

その隣で火神をより鋭く見据えるのは白鳥沢:監督 鷲匠。

なぜだろうか? 火神の事は知っていたつもりだ。弱小チームだったが、アンテナを張り巡らせた白鳥沢の眼には彼の姿をしっかりと捉えていた。

 

 

ある種《個》を極めた存在とも評価していた。

 

 

たった1試合だったが、そのビデオを見ただけで分かった。

極めたが為に(・・・・・・)、周りを活かす方向へとシフトしたのだと。

故に、環境を整え、更に力を発揮する場を用意することができたとするなら、彼の中の極みを超えて、より高く羽ばたくことができただろう、と思えていた。

 

無論、彼が選んだのは烏野であり、選択権があるのは彼自身故にそこに対して惜しいとは思えど、尊重している為、不満を持ち合わせているわけではない。

 

 

だが、何故だろうか――――

 

 

 

 

 

新しい事(・・・・)こそが強さだ』

 

 

 

 

 

 

―――あのいけ好かない男の顔と声が耳に届く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うっほーーーー! やっぱオレもやる!!」

「……試合中に余計な事したらどうなるか……、わかってんな? あ?」

「ウッッス!! わ、わかってるし!!! ぜんぜん、わかってっし!!」

 

 

日向自身も火神の《左打ち》には触発されると言うもの。

事あるごとに磨き続けてきた左という新たな選択肢に、目を輝かせていたウチの一人だから当然だ。

影山も事前に聞いていたし、何度か合わせたこともある。……感触は完璧。サイン一つあれば、十分に狙える。新たな武器だ。

 

 

「(他の試合じゃ見せてねぇ、火神の一手だ。……使いどころを見極めろ)」

 

 

スパイカーに道を切り開くのは自分(セッター)

それをより強く心に秘め直す影山だった。

 

 

「でも、練習で見せちゃって良かったのかな? 火神の(あれ)。直前とかで見せた方が不意打ち! って感じで効果発揮するんじゃない?」

「―――まぁ、唐突に選択肢が、情報が増えくるってのは、ほんっと不快だから、山口が言いたいこともわかるけど」

 

 

火神の背を見ながら、山口は思ったことを月島に伝えた。

そして月島もまた、まるで自分事のように、自分が火神と相対する時のことを正確に、考えてシミュレートできたからこそ、視線が鋭く、表情を歪ませていた。

凡そ味方に向けて良い顔じゃない。

 

 

「見事に決まったな。ぶっつけ本番でやる! って思ってたぞ」

「あざっス!! ……流石に1本くらいは練習でやっとかないと、でしょ? 慎重にもなりますよ。決勝の舞台なんですから」

 

 

火神は澤村の言葉に対して苦笑いと共にそう返した。

澤村は、火神の返答を聞き、少しだけきょとん、とすると―――。

 

 

「(慎重に行く、って顔かよ? やりたくてやりたくて、ウズウズしてる、って感じだぞ)」

 

 

この決勝の舞台。

誰よりも楽しんでる印象を受けるのは、日向や影山だと思えるのだが……、今に関してはこの火神が二人を押しのけて、前に出ているといっても大げさではない。

 

西谷に飛びつかれ、田中にも拳をぐりぐりと入れられ、玩具のようになっているところを見ると、傍から見ればそうは見えないかもしれないが、長く、長く共にいた者たちならば、わかる。

 

 

「うっし―――……引っ張られてばっか、って情けない事言わねぇし、言わせねぇぞ」

「当然」

「ここまで来て、情けねぇ事いうセンパイは、最早センパイじゃねーべ」

 

 

3年組。

澤村、東峰、菅原。

それぞれが身体をぶつけ合って、気合を入れ直すのだった。

 

 

 

 

 

 

「確かに聞いていましたが、火神くんの左打ち……あちらの牛島君への対抗って感じで素晴らしいですね。攻撃力も右打ちと全く見劣りしない感じです」

「ああ。大したもんだよ。両利き選手は確かに居るにゃ居るが、稀中の稀だ。それがプロでも何でもない、高校生でそんな真似ができるやつなんざ、俺は火神以外知らねーよ」

 

 

タイミングが合わず、或いはセットのミスで、利き腕とは違う左を利用して繋げる。

意表を突くことはあれども、それは心理的な隙をついた攻撃、つまりフェイントに過ぎない。それ故に純粋な攻撃力という意味では低いと言わざるを得ない。

 

だが、今火神は狙って左で打った。武田もいう通り、素晴らしい事極まれりだろう。

 

 

 

「まぁ、対抗っつっても、高さとパワー面を見りゃ、どう足掻いてもあの牛島よりスゲーとは言えねぇ。当然だ。単純に体格に差がある」

 

 

牛島若利。身長・体重共に公表されているデータから見て火神を上回っている。

牛島のスパイクと火神のスパイク、攻撃力面で言えば後塵を拝すのは自明だ。

 

無論単純な(・・・)パワーで言えば、の話になるが。

 

 

「……ですね。実際に見た牛島君は、データよりも大きく見えます。まさに王者の風格……っ」

 

 

全国を渡り歩き、常に上位へ上り詰め……、そして高校日本代表にも選ばれている神童。

強者故の圧のようなものを、離れていても感じるのは当然の事だろう。

 

 

「高さとパワーだけがすべてっていうなら、バレーはもっと単純な競技になる。……だが、それだけじゃないからこそ、勝負が出来る。そして―――ジャイアントキリングってやつだって起こせるんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

事前情報。

それだけを鑑みたら、今回の決勝戦。予想すれば確実に王者:白鳥沢だろう。

 

 

「どっちが強いのかな? その白鳥沢と烏野」

「え? そりゃ100%白鳥沢ッショ。なんつっても、超高校級エース! ウシワカがいるからな!」

 

 

それほどまでに、彼の名は轟いている。

まだまだ、烏野の名は玄人向けなのだ。より観察し、より確認し、より集めた者にしか、わからない。

 

だからこそ、この試合を見に来た者たちは、決勝予想は偏る。

 

 

「ウシワカって名前なの?」

「おう! 牛島若利! 通称:ウシワカ!」

 

 

少しでも情報を持つ者が居れば、それらは伝わり、やがて会場が白鳥沢勝利予想へと傾く。

 

そんなに、単純なことではないというのに――――。

 

 

 

 

 

 

「日向頼む! (ボール)

「うっす!」

 

 

コート移動時に、(ボール)籠に入れていた1球が零れ落ちた。

それを見た日向は、白鳥沢コートへと転がる(ボール)を追いかけ―――1人の男がそれを拾ってくれる。

 

 

「スミマセン! あざ―――っ!?」

「ん」

 

 

牛島とはまた違う威容な姿を見て、日向は思わず黙る。

刈り込まれた頭に、堀の深い顔立ち、そして古武士のような静かなるいで立ち。日向の中でぴったりなイメージな名前が浮かぶ。

 

 

「……絶対、あの人《弁慶》だ」

 

 

社会日本史、そして様々な歴史ドラマ。

最近はで火神と勉強した範囲とは関係なかったが、その名と風貌が目に留まったので覚えている。そもそもウシワカがいるんだから、この場に弁慶がいたって不思議じゃない。

 

 

「なーに固まってんの?」

「誠也、絶対弁慶だ、弁慶。あれは弁慶」

「……コラ。あれ(・・)とか言うな、失礼だろ。聞こえてなかったとしても」

 

 

そして思わず笑いそうになるのをどうにか堪えるのは火神である。

日向の気持ちは痛い程わかるから。本当に会ってみると――――ものすごくイメージ通りだから。日向の直観も侮れないから。

 

でも―――。

 

 

「有名チームの、スターティングメンバーの名前くらい覚えときな―――」

 

 

と、火神が日向に苦言を呈そうとしたその瞬間。

火神が伝え、訂正すまでもない。

向こうがネタ晴らしをしてくれた。

 

 

獅音(れおん)さん」

「ハイヨ」

 

 

「!!!!(レオン!!?)」

「二度見すんなバカ」

 

 

驚きのあまり、日向はオーバーリアクション。

声が聞こえてなかったとしても……。

 

 

「あ、今の日向(ちびっ子)。絶対獅音に《弁慶》ってアダ名つけたよね」

「イメージ違いでごめんな……」

「で、火神(あっち)は事前調査済みっぽいから、獅音の名前はしっかり把握してた、と」

「いや、なんでそこまで読めるんだよ」

 

 

恐ろしい天童の読み。試合前からさえわたっていると言わざるを得ない。

日向はわかりやすいからともいえるが。

 

 

「あれが烏野の1年トリオか……」

「とりお! って言われてんの??」

「いや、特に注目されてる3人だから、勝手につけただけ」

 

 

1年が主力のチームというのは珍しい事ではない。……が、それもまた稀有な分類だ。

それもこの決勝まで上がってきた功績からすれば、マグレ等の類ではない。

 

 

「試合見たけど、なんつうか、いろいろ疲れそうな相手だよな、今回。……面白そうだ」

 

 

Li(リベロ)の山形。

烏野の事前情報として、試合のビデオはしっかり見た。

見たからこそ、人一倍げんなりとする。あまりにも手段が多彩過ぎて、加えて突出し過ぎて。でも、最後の言葉通り。……心底楽しみでもある。

 

 

「関係ありません。誰が来たって力でねじ伏せるだけです!」

「大口はもっと実力つけてからたたけよ」

「っ! はい!! もちろんです!!」

 

 

五色の力の入れように釘を刺す形で、白布が苦言する……が、恐らくわかってないだろう、と白布はため息。余計な時に余計な力が入ってミスをする。そこが五色の欠点だからだ。

 

 

「まぁまぁ、相変わらず言う事と前髪がかっこいいね~。工は!」

「! ありがとうございます!!」

 

 

それらをすべてひっくるめて五色の強さで良いところ、と天童が間に入った。

変に力が入っているのであれば、それは試合中に是正すれば良い事だから。そして、それを出来る実力を、五色は持っていると知っているから。

 

 

 

 

 

 

そして、笛の音が響く。

ウォームアップも終了だ。

 

 

「よし、お前ら確認しとくぞ」

 

 

全員集まったところで、烏養は声をかける。

 

 

「牛島に決められんのはもう割り切れ。切り替えて、取り戻す! それでいい! 向こうだって人間。機械じゃねぇんだ。ミスは必ず出る!!」

 

 

何度も何度も反芻した。

何度も何度も言い聞かせた。

 

烏野は―――負けていない。

 

点を取る力は、負けていない、と。

 

 

 

やること(・・・・)、わかあってるな!?」

【ハイ!!!】

 

 

 

最早、確認するまでもない事だ。

だが、それでも―――最後の一押しを、言葉に乗せた。

 

 

「さぁ、皆さん! 決勝戦です! ここまで来たからには―――勝って全国へ行きましょう!!」

【おおおおおお!!!!】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

整列の声。

 

 

 

試合開始直前。

 

 

 

 

 

 

「先、レシーブだ」

「若利君。今日も頼むよー」

 

 

緊張感も高まってくる最中でも、やはり経験の差か。白鳥沢側には余裕の割合の方が高い。

 

 

「いや、お前が頑張んなさいよ。若利にだけ、頼るんじゃない」

「右腕かよ~。やっぱ弁慶かよ、弁慶じゃん!」

 

 

牛島が戻ってきたところで、気合が入りまくりな五色が声をかけた。

 

 

 

「牛島さん! この決勝で俺の方がエースと呼ばれるに相応しいと証明してみせます!」

「まっ!!」

 

 

 

常々宣言している五色の言葉。白布や川西辺りは苦言する方が多い。調子に乗ってミスすることがあるからだ。

だが、五色は全国に名を轟かせる白鳥沢において唯一の1年生レギュラーを勝ち取った逸材。口には出さないが、当然認めてない訳ではない。……絶対に口には出さないが。

 

 

「よっ! 1年レギュラー! エースになる男!!」

「!! 期待に応えます!!!」

 

 

眼に炎。

何なら身体も燃えてるような気がするくらい暑苦しい。

いや、スポーツというものは暑苦しくてなんぼのもんなのだが、幾らか寒い視線を向けられてしまっている。

 

 

そして、いつも通りに宣戦布告された牛島はというと―――。

 

 

 

「——————」

 

 

 

鋭く五色を一瞥した後。

 

 

 

「ああ、頑張れ」

 

 

 

と一言だけ返した。

それに思わず吹いて笑うのは天童である。

何度見たかわからない光景だ。

 

 

「本心から頑張れ、って言っちゃってるからほんとタチ悪い」

「ぶふっっ!! まーまー、これぞいつも通り! 頑張ってチョーだいよ! 未来のエース!」

「~~~~ッッ」

 

 

 

 

 

 

 

 

直前のやり取りでいい感じにリラックス出来ている。

場数が違うその差を見せつけられた、と言えなくもない。

 

 

 

だが、烏野も負けてはいない。

潜った修羅場の数とその密度は……きっと負けていない。

 

 

 

 

 

『これより、全日本バレーボール高等学校選手権大会 宮城県男子代表決定戦』

 

 

 

 

高らかに宣言されていく。

テレビの機材が大量にあるのが目に入る。これまでの試合とは―――準決勝とは全く違う。

会場は同じなのに、まるで違う場所へきた感覚だ。

 

 

その全てが、心臓の鼓動を激しく高鳴らせる。

戦う当事者じゃないというのに、伝わってくる。高く強く、鳴り響く。

 

 

 

 

『宮城県立烏野高等学校 対 白鳥沢学園高等学校の試合を開始致します』

 

 

 

 

 

 

 

「ほ、本当にあの白鳥沢と……戦うんだ」

「そりゃ決勝だからね。……まぁ、現実感わかない気持ちはわからんでもないよ」

 

 

固唾を吞む、とはこのことなのだろう。

応援に駆け付けた、女子バレー部の面々も、会場のこれに圧倒されている節がある。

とてつもない相手と戦う事が出来る男子たちに対して尊敬の念を送りたいが……、本当に息も詰まるこんな場所でバレーなんかできるのか? と思ってしまったりもする。

 

 

でも、威風堂々と立つみんなを見ると――――ある種安心も改めてできる、というものだ。

 

 

「ふふ。それにしても、ほんと火神君って周りが見えてるっていうか~~、あの子の保護者? だよね」

「へ?」

 

 

緊張でガチガチなのか、日向をちゃんと導いている火神の姿が目に映った。

多角度に挨拶しなければならないのに、1人だけ固まってしまっていたが、頭を下げるころには、ぐいっ、と日向をちゃんと誘導して頭を下げさせている。

 

 

「ああいうの見ると、いつも通り(・・・・・)の重要性を再認識させられる、って感じだわ」

「ふ、ふふ……」

 

 

どんな場面であっても自分自身を見失わず平常心。

こんな大きな場面であっても、変わらないその姿に脱帽だ。

 

 

 

そして、雪ヶ丘の、かつてのチームメイトの2人もそんな日向と火神を見て苦笑い。

 

 

「ったく、いつもいつまでも誠也におんぶにだっこかよ、しょーよー」

「アア~~、もう……翔ちゃんってば。もう1回便所行った方が良いんじゃ……?」

「その点は抜かりないだろ。……つーか、相手ホント高校生?」

 

 

 

 

ここまで来たら、あとは見守るだけ。力の限り、声の限り、応援するだけだ。

 

 

 

『両チーム スターティング選手(プレイヤー)を紹介いたします』

 

 

 

 

 

 

 

選手紹介(スターティングオーダー)

 

 

 

 

 

 

 

烏野高校

 

 

 

WS(ウィングスパイカー)3年 澤村   ◎チーム・キャプテン

 

WS(ウィングスパイカー) 3年 東峰

 

WS(ウィングスパイカー) 1年 火神

 

MB(ミドルブロッカー) 1年 日向

 

MB(ミドルブロッカー) 1年 月島

 

Li(リベロ) 2年 西谷

 

S(セッター) 1年 影山

 

 

白鳥沢学園

 

 

WS(ウィングスパイカー)3年 牛島     ◎チーム・キャプテン

 

WS(ウィングスパイカー) 3年 大平

 

WS(ウィングスパイカー) 1年 五色

 

MB(ミドルブロッカー) 3年 天童

 

MB(ミドルブロッカー) 2年 川西

 

Li(リベロ) 2年 山形

 

S(セッター) 2年 白布       

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これまでとは違う。

準決勝とも違う。

 

選手1人1人が高らかにアナウンスされ、それと共に選手たちはコートへと駆け出していく。

 

烏養(コーチ)武田(監督)清水(マネージャー)

 

 

とハイタッチを交わし、それぞれのパフォーマンスで景気よく入っていく。

 

 

 

 

 

 

『観客の皆様。両チームの健闘を祈って、盛大なご声援をお願いします』

 

 

 

 

 

 

全選手が、コート内へと集った。

これからネットを挟み―――白黒をつける。

 

どちらのチームが、宮城県の頂点なのか。

 

 

 

 

【———さぁ、過去ではなく、未来を語り合いましょう】

 

 

 

 

 

 

 

とびっきりの笑顔と共に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぅぅぁ~~~、あいつらの緊張、感染(うつ)ってきたかも~~……」

「アップん時の日向の一発。そんでもって、火神の奇策。割と良いスタートキレるって思ってたけど―――」

 

 

テンションを高くし、鼓舞しているのはわかる……が、烏養程ではないにしろ、普段から見ている滝ノ上や嶋田に、そして田中には解る。

当然、緊張をしている、と。

 

 

「単純な場数の差か白鳥沢(むこう)は何度も踏んだ道。対して烏野(こっち)は初めての決勝に加えて、初めてのセンターコート。平常でいられないのも無理ねぇよなぁ。……一部を除いて」

 

 

 

【ぐああああああ!!!】

【センターコート!!!】

【………楽しみましょう】

 

 

 

「いやマジで、なんなの、って感じ。今更だけどそんな感じ」

「澤村~~、気にすんなよ~~。普通だからな? きんちょーすんのがふつーだからな??」

 

 

澤村をはじめ、東峰を見ると怪訝な表情をしてるようにも見えるから、思わず口にしてしまう。

 

 

「蛍も大したもんだよね~~。兄貴(こっち)と違って」

「ぅ――――」

 

 

弟の視線が怖くて怖くて隠れて見に来た月島兄に、田中姉が突っ込むが、それはそれとして、と気を取り直して解説役に打って出る。

 

 

 

「決勝が初ってことは、5セットマッチも烏野は初ってことですか?」

「ああ。公式戦じゃ当然初だ」

「5セット??」

 

 

 

いくら練習で何度もセットを重ねてきても、公式戦と練習試合とじゃ重みが違う。それはどんなスポーツでも同じことだ。

 

 

「今までは2セット先取の3セットマッチだったけど、決勝は3セット先取の5セットマッチ。テレビとかで見るトップレベルと同じ仕様」

「うぇぇ。めっちゃ疲れるやつ!! ……でもま! あいつらならだいじょーぶか! ばかすかやってきたし! 龍が、でゅーす? で40点までやったことある、ってぼやいてたし! 鬼のようにしんどいっつって!」

 

 

田中は体力面は大丈夫だろう、と肩を鳴らせる。

そして、デュース、で合ってる? と直ぐ横にいる谷地に聞くのも忘れずに。

 

 

「いや、そう単純な話じゃないよ。……決勝の舞台。これまでに類を見ない強敵。練習じゃない本番の舞台ってのは、空気がいつもの何倍も重くなるもんなんだ。——どれだけ準備してきたとしても、どれだけ体力を搭載してきたとしても、安心(・・)はどこにもないはずだ」

 

 

嶋田の言葉に対して、覚えのある面々は暗く重く、苦い記憶を掘り起こして、眉を顰める。

その雰囲気は当然、田中にもはっきりと伝わって。

 

 

 

「コラコラコラ~! アタシらが暗くなってどーする!!? 声援だ声援!! ほらほらほら!! やったれ~~~~!! 烏野―――――!!!!」

 

 

 

田中の一声のおかげで、何とか正気を取り戻した様子である。

 

そして冷静になった面々がコートを上から見ると―――。

 

 

「いつもと違う形だな」

「……ああ。火神っていう強サーブをいきなりって点はいつも通りだが、影山(セッター)の対角に火神を置く、か」

 

 

少しの驚きとそして期待をベンチで鎮座している烏養に向けた。

高校バレーにおける《セッターの対角》とは、守備のかなめであり、乱れた際の処理を任されることも多い言わば《縁の下の力持ち》《器用な苦労人》がおかれることが多い。

確かに火神は守備も極めて優秀。烏野のトップ3に入る。問題なく務めることが出来るだろう。

だが、その位置には烏野の、チームの精神的主軸と言って言い主将の澤村が務めてきていた。

精神的だけでなく、守備としても柱として澤村を据え置くことで、攻撃陣が安心して飛べる土壌を作っていた、と言っても良い。

 

そこに攻撃面でも主力を張れる火神を置く―――というのはどういう策だろうか?

 

 

 

「……牛島に、火神をぶつける……か?」

 

 

 

一つ思い浮かぶのは、対峙する白鳥沢のセッターの対角に位置する場所に居る牛島の存在。

牛島という最強の矛に対して火神をぶつける。

余程信じてないと出来ない芸当だが、信じるに足るのもまた当然。

そして澤村に対してもそう。ある意味一番厄介なレフト側のコースに据え置く事で寧ろ澤村の守備の重要性も増す、というもの。

誰もが表情にさえ出してない状況。全員が納得しているのは見て取れる。

 

問題は―――。

 

 

 

「やってくれそう感はめちゃくちゃあるけど、大丈夫なのか? 繋心」 

 

 

 

親心というものか。

自分の方が心配し過ぎるという面である。

 

 

 

「加えて、牛島に対して出来るだけこっちの高い壁がマッチアップするように出来てる。更に後ろには西谷と火神の地の盾。……これ以上ない陣形スタートって感じだ」

 

 

滝ノ上は好意的に取っているようだ。

 

寧ろ陣形よりも―――この初めてではない光景に目を奪われる。

 

 

 

 

 

 

 

試合開始の笛の音が響く。

(ボール)を受け取った男がゆっくりと―――エンドラインから後方へと歩き出す。

寸分違わぬ歩幅で刻まれた数は6。

 

何度も何度も見せてきた。

何度も何度も確認されてきているが為に、このルーティンはおそらくは白鳥沢もわかっているだろう。青葉城西が見抜いてきた様に。

 

だが、わかったとしてもそれは関係ない。

これは惑わす目的ではなく……ただの《儀式》だから。

 

 

振り返る。

白鳥沢のコートを観る。見る、視る。

 

自然と、笑みがこぼれ出る。

抑えきれない、どうしても、抑えきれない。

その思いを、(ボール)に込める。

 

 

 

その笑みが、得体のしれない()となって白鳥沢コート内にも届く。

 

 

 

VTRで見たそれと―――全くの別物。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『さぁ―――楽しみましょうか』

 

 

『俺の居る場所(チーム)が最強の場所(チーム)だろうが?』

 

 

過去(・・)の話です。……今年(・・)の話をしましょう』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

未来は決まってない。

誰にも分らないからこそ―――楽しい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『さぁ、未来(さき)へと進みましょうか』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の瞬間、空気が爆ぜた。

 

それを見た、間違いなく反応した、腕も出した。

 

 

 

 

だが―――弾き出されてしまった。

 

 

 

 

 

王者を穿つ一閃。

 

 

 

 

「烏野高校1年、火神誠也」

 

 

 

 

だん、だん、だん……。

 

制御を失い、はじき出された(ボール)が壁に当たり、跳ね返ってきて牛島の前を転がる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁ———やりましょう」

 

 

 

 

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