二年前、彼女は戦いの中で姿を消した。
誰もが、彼女は死んだと思っていた。

しかし……彼女は生きていた。
新たな力……否、新たな仲間をその身に宿して。

『結城友奈は勇者である』の三ノ輪銀生存ifルートにして『ウルトラマン』シリーズとのクロスオーバーです。

1 / 1
三ノ輪銀はウルトラマンである

 そこは、我々の知る世界とは明らかに異質な世界であった。

 周囲一帯は色鮮やかな木々やその根が地面を覆い尽くさんばかりに生い茂り、空はまるで夜空の如く真っ暗だが、そこには星の輝きは何ひとつない。

 元々は橋であったその場所は、完全には樹木に覆われてはおらず、橋の支柱やそこから伸びるワイヤーが露出している。

 しかしその向こう、橋の外は木々に埋め尽くされ、出ることはできない。その様はさながら樹海の中に築かれた回廊の如し。

 そんな回廊を、傷だらけの二人の少女が歩いていた。

 どこか巫女服を連想させるような神秘的な、それでいて動きやすさも重視されたデザインの装束に身を包んだ、片や弓矢、片や槍を携えた、まだ年端もいかぬ二人の少女。

 だが、その表情はどちらも固い――その原因は、今自分達の道標となっている足元の血痕にあった。

 実は彼女達は二人組ではなく本来三人組。その残るひとりのものと思われるものだからだ。

「銀……っ!」

「ミノさん……っ!」

 弓矢の少女・鷲尾須美が、槍の少女・乃木園子がそれぞれに三人目の仲間、いや、友の身を案じ、まだ傷の痛みの残る身体に鞭打って先へと進む。

 しかし――その歩みは、不意に止まることになる。

 血痕が、途切れたからだ。

 丘のように大きく盛り上がった木の根の、その盛り上がりの頂点で、点々と続いていた血痕の列が終わっているのだ。

 まさかその根の上から眼下の地上へ転落したのか――あわてて下に降りてその姿を探すものの、どこにも見当たらない。

「銀……どこにいるの、銀!」

「ミノさーん! 返事してよーっ!」

 須美が、園子が呼びかけるが、応える声は返ってこなくて、

 

 

 

「銀――――ッ!」

「ミノさ――――んっ!」

 

 

 

 少女達の悲鳴は、むなしく樹海の空へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 その後。

 彼女達を擁する組織“大赦”による徹底的な調査が行われたが、「ミノさん」「銀」こと三ノ輪銀の行方はついにわからなかった。

 結果、三ノ輪銀は“御役目”の中での行方不明、軍組織で言うところのMIAと認定。公的には殉死したとされ、丁重に弔われることとなる。

 

 

 

 

 

 

 

 そして――それから、二年の時が流れた。

 

 

 

    ◇

 

 

 

 昔々、あるところに勇者がいました。

 勇者は人々に嫌がらせを続ける魔王を説得するために旅を続けています。

 そしてついに、勇者は魔王の城にたどりつきました――

 

 

 

「『やっとここまでたどり着いたぞ、魔王!

 もう悪いことはやめるんだ!』」

「『ワシを怖がって、悪者扱いを始めたのは村人達の方ではないか!』」

 市内の、とある幼稚園。

 ここでは現在、ボランティアで訪れた中学生達による人形劇が行われていた。

「『だからと言って、嫌がらせはよくない。話し合えばわかるよ!』」

 勇者役、結城友奈。

「『話し合ったって、また悪者にされる!』」

 魔王役、犬吠埼風。

 そしてナレーションを務める車椅子の少女、東郷美森。音響担当で風の妹、犬吠埼樹――この四人で今回の人形劇を開催しているのだが――

「『キミを悪者になんか……しないっ!』」

 ハプニングはその時起きた。セリフと共に勇者のパペットを一際大きく掲げようとした友奈が、自分達の姿を隠している前景のセットに手をかけた――その拍子に、セットが前方に倒れてしまったのだ。

 当然、隠れていた友奈や風の姿は、観劇していた園児達から丸見えだ。

「し、しまった……っ!」

「風先輩、どうしよう……」

「でも、園児達に当たらなくてよかったぁ……」

 あわてる友奈だったが、対する風は第一に子供達の無事に安堵する。その上でこのハプニングをどう収拾したものかと考えるが――

「えっと、えっと……

 ……『勇者パーンチ!』」

「あだーっ!?」

 先に友奈の頭がパンクした。とっさに繰り出した彼女の左手――彼女の演じる勇者のパペットが、風が右手で演じる魔王のパペットを直撃する。

「『ちょっ、おまっ、さっき話し合おうって!?』」

「『い、言っても聞かないからっ!』」

「『何言ってんの!

 台本通りの展開ならちゃんと聞くわよ!』」

「ふっ、風先ぱ……『魔王! メタ発言ダメ~っ!』」

「ふ、二人とも、何がどうなって――」

 友奈の“勇者パンチ”をきっかけにアドリブ合戦の様相を呈し始めた舞台に樹がはわわと困惑していると、

「樹ちゃん樹ちゃん。

 音楽でなんとかごまかして」

「はっ、はいっ!」

 美森がこっそり耳打ちした。さっそく樹がBGMを流して――

 

 

 

 ジャーンジャーンジャーン、ジャンジャジャン、ジャンジャジャン♪

 

 

 

「ちょっ、樹ちゃん、それーっ!」

 流れた音楽に友奈があわてる――かかった曲は“帝国のテーマ”。某宇宙戦争SF映画の有名BGMのひとつで、よく宿敵の暗黒卿のテーマと誤解されるあの曲だ。

 そして、この曲でなぜ友奈があわてているのかというと――

「『フッフッフッ……

 魔王のテーマ! これで勝つるーっ!』」

「『わわわっ! 魔王がなんかみなぎってるーっ!』」

 この劇では、この曲が“魔王のテーマ”として使われているからだ――案の定悪ノリの始まった風の姿に、友奈が声を上げる。

 このままでは、ますます劇の収拾がつかなくなる――かと思われたが、

「みんな!

 一緒に勇者を応援しよう!」

『がんばれ~っ!』

 救いの手は舞台の外から。ヒーローショーのノリで呼びかける美森に応え、園児達が勇者へと声援を送る。

「『うぅっ、みんなの声援がワシを弱らせる~』」

 この、美森による声援の介入は風のノリをいい方向へと導いた。これまたヒーローショーのノリで風の演じる魔王が弱体化。

 そして――

「『今だ!

 勇者パーンチッ!』」

「『ぐわぁ~っ!

 や~ら~れ~た~っ!』」

 そこへ友奈の勇者パンチ。これにはさすがの魔王もK.O.だ。

〈と、いうワケで。

 みんなの応援で魔王は改心し、祖国の平和は守られたのでした〉

「『みんなーっ! ありがとーっ!』」

 そして舞台は締めへ。美森のナレーションと友奈の、“勇者”の言葉に園児達から歓声が上がる――

 

 

 

 

 

 

 

 これが――こうしたボランティア活動が、友奈達の部活の活動内容。

 人のためになることを“勇”んでやる“者”達による“部”活動。

 すなわち――

 

 

 

 “勇者部”である。

 

 

 

    ◇

 

 

 

 だが――彼女達は知らない。

「……見つけた」

 そんな自分達を見つめる視線があったことを。

 だが、知らないのも、気づかないのも無理はない。

 その視線の主は、友奈から見てかなりの遠方、幼稚園の窓から遠くに見えるビルの屋上にいたのだから。

 肉眼はおろか双眼鏡でも厳しい、それこそ本格的な望遠鏡でも持ち出さなければ目視などとうてい叶いそうにない距離だが、どういう仕組みなのか、その目には友奈達の様子がハッキリと捉えられていた。

「――見間違いなもんかよ。

 たった二年だぞ。たった二年で、アイツのことを忘れたりするもんか」

 誰かと話しているようだが、その光景も違和感がある。相手の声も、姿も確認できないのだが、かといって携帯電話の類を使っている様子もない。

「大橋市をいくら探しても見つからないはずだよ……」

〔“二年前”から今までの間に引っ越してたんだな〕

「そういうことなんだろうな」

 なぜなら、呼びかける“声”は、頭の中に直接響いていたから。

 遠すぎてとても見れたものではないはずの友奈達の姿を肉眼で視認し、テレパシーのようなものでどこかにいる何者と話す、それはひとりの少女だった。

 年の頃なら友奈達と同じぐらい。つややかな黒髪を後ろでまとめて垂らし、半袖のシャツにパンツルックの上からジャケットを羽織ったボーイッシュないでたちをしている。

「にしても、大赦がよく引っ越しなんか許可したなぁ。

 “御役目”にはもう就いてないのか?」

〔まぁ、あの有様じゃなぁ。その可能性はあるが……〕

 少女に答えて――“声”の主はふとイヤな予感を覚えた。

 なので、念のため釘を刺しておく。

〔……会いに行くなよ?〕

「わっ、わかってるよっ!」

 どうやら、釘を刺しておいて正解だったようだ。

「向こうが本当に“御役目”から下りていたとしても、アタシらはまだまだ首突っ込むつもりマンマンなんだからな。

 ヘタに接触して、もしもう無関係なのにまた巻き込んじゃったらシャレにならない……だろ?」

〔わかってるじゃないか〕

「もう耳タコだっての」

 “声”に答え、少女は深々とため息をついた。

 そして、幼稚園から視線を外し、のどかな昼下がりの街並みを見渡した。

「街はこんなにも平和なのに……でも世界はまだまだ大変なんだ……

 そして、アタシらにはそれを何とかできる。何とかしたい。

 そのために、アタシは帰ってきたんだ……」

 言って、改めて少女は彼方の幼稚園へと視線を戻した。

「今度こそ……守ってみせるさ。

 だから、安心してくれ……」

 

 

 

「――須美」

 

 

 

    ◇

 

 

 

 ――と、決意を新たにしたものの、腹が減っては戦はできない。

 街を見て回っている内に陽も傾いてきたので、少女はどこかで食事にしようと食事処を吟味しながら商店街へとやってきた。

「あー、イネスが近くにあればなぁ……」

〔ないんだから仕方ないだろ。

 もうどこでもいいから、さっさと食っちまえ――お、あそこにうどん屋があるぞ。お前うどんも好きだろ〕

「うーん……」

 “声”が告げるが、少女は納得がいかないようで、しばし何やら考え込んでいたが、

「そうだ!

 お前の力で一番近くのイネスまでひとっ飛び――」

〔ダメに決まってるだろ!〕

「ちぇー、ケチ」

 “声”に叱られ、少女が口をとがらせて――

「ひゃあっ!?」

「ちょっ、大丈夫!?」

「ん…………?」

 いきなりの悲鳴と、それにあわてる別の声――見れば、商店街の真ん中に一組の、姉妹と思しき女の子二人組の姿があった。

 どうやら妹の方が、買い物のバッグを落として中身をぶちまけてしまったようで――

「…………よぅし」

 そんな光景を放っておける少女ではなかった。自分の足元へと転がってきた缶詰や調味料のペットボトルを拾いながら姉妹のもとへと向かう。

「大丈夫ですか?」

「あぁ、ありがとうございます」

 拾った品物を手渡しながら声をかけると、姉妹の一方、妹の方がそれを受け取って――

 

 

 

(――――げ)

 

 

 

 そのうめきを声に出さず心の中に留められたのは、本当に幸運であった。

 なぜなら、その姉妹は――

「ごめんなさい、うちの樹が……」

「そもそもお姉ちゃんが買いすぎなんだよぉ……」

 できることなら接触はすまいと思っていた者達の一角――風と樹、犬吠埼姉妹だったのだから。

 

 

 

    ◇

 

 

 

「え、えっと……本当にお礼なんかいいですから……」

「いーのいーの。気にしないで」

 恐縮する少女だが、風は一向に気にしない――荷物を拾ってくれたお礼に夕食をごちそうする、そのために少女を家に招待すると言い出したのだ。

 割と食い気のある方である少女にとっては、本音としては嬉しい申し出ではあるのだが、今はそうも言っていられない“事情”を抱えている身の上だ。

 残念だがこの場はお断りするしかあるまい――と思っているのだが、姉の風はもちろん、妹の樹も思いの外譲らなかった。

 結局、断り切れないままズルズルと二人の暮らすマンションまで連れてこられてしまい――現在に至る。

「元々いっぱい買い込んでるし、二人分作るのも三人分作るのも同じよ。

 味の方も期待していいわよ。樹だけじゃなくて、みんなからも好評なんだから」

(その“みんな”と鉢合わせしたくないから困ってるんだけどなぁ……)

 面識のなかった犬吠埼姉妹はともかく、“彼女”と出くわすのは絶対にマズイ。

 大赦に今の自分のことが知られるのは、正直面倒なことになりそうなフラグとしか思えないのだが――

「えっと……ひょっとして、何か予定とかありましたか……?」

(う゛…………っ)

 ここに至ってもなお気乗りしない様子の少女の姿に、樹の胸に不安がよぎった。もしかして迷惑だったかと、少女の顔を上目遣いで見上げてくる。

 こういう態度を取られると少女は弱い。というか、これを突き放せるような性根の持ち主なら、そもそも樹のぶちまけてしまった荷物を拾ってやることもなかったワケで――

「……あー、もう、わかった。わかりました。

 ごちそうになります。えっと……」

「あぁ、私は犬吠埼風。こっちは妹の樹。

 そういえば、私達もあなたの名前聞いてなかったわよね」

「えっと……」

 改めて名乗った風に名を問われ、一瞬どうしたものかと考えるが、

(……ま、大丈夫か)

 自分の身の上を思えば、本名を名乗ったところで同一人物だとは思われまいと判断して――

「アタシは……」

 

 

 

「三ノ輪、銀です……」

 

 

 

 “公的には死んだことになっているはずの”、自分の名を正直に名乗った。

 

 

 

    ◇

 

 

 

「……ふぅっ」

 犬吠埼家で夕食をごちそうになり、おいとました銀はようやく一息とその場に腰を下ろした。

 公園のドーム状の遊具の中――ここが本日の寝床だ。もちろん、人に見つかって面倒なことにならないよう、“小細工”は万全である。

〔いい子達だったじゃないか〕

「あぁ」

 “声”に答えて、大きく伸びをする――言うまでもなく寝心地は期待できないし、年頃の女の子としてはいろいろと問題だらけの寝床だが、今日この街に来たばかりで拠点の確保も間に合っていない中では贅沢は言えない。

 いずれ、ホテルで宿をとるなりどこかの家に下宿の形で転がり込むなり、何かしら考えなくてはならないだろうが、大赦に目をつけられるようなことは避けなければならない。どんな手段をとるにせよ、目立たないように細心の注意を払う必要があるだろう。

 それよりも気にしなければならないのは、図らずも知り合いとなった二人のことで――

「……巻き込めないよな、やっぱり」

〔そりゃな〕

 自分達と行動を共にする時間が増えれば、それだけ自分達のやろうとしていることに巻き込んでしまうリスクが増すことになる。

 心優しい銀にとって、それが何より重要な問題で――

「早く、全部解決させちゃいたいな」

〔そうだな〕

 結局のところ、やることを全部片づけてしまえば、こんなことで悩む必要もなくなるワケで――“声”と共に決意を新たにすると、銀は明日に備えて英気を養うべく、さっさと休もうと目を閉じた。

 

 

 

    ◇

 

 

 

 明けて翌日、讃州中学校――

「ふーん……」

 授業中の教室で、友奈は授業もそっちのけで考え込んでいた。

(文化祭の出し物、どうしよう……)

 考えているのは、秋に予定されている文化祭、そこで自分達勇者部がどんな出し物をするか、だ。

 季節は春先。少し気の早い話ではあるが、部長である風としては、勇者部の部員の少なさを考慮して早い段階から準備を始めたいらしい。

 と、いうワケで、各自出し物を考えてくるように、昨日風から“宿題”を出されていたのだ。

(やっぱり、劇かな……?)

 幼稚園での出し物で劇には慣れている――文化祭で演じるとなれば人形劇ではスケール不足だから、舞台劇ということになるだろうが。

 風が早めに言い出してくれたおかげで準備の時間も十分。四人だけでもそれなりにこだわったものが作れそうだと、友奈は満足げにうなずいて――突然、教室内に電子音が響いた。

「もう、誰ですか?

 授業中はマナーモードにしておくか、電源は切っておきなさい」

 先生の言う通り、どうやら携帯電話の着メロのようだが、友奈から聞いて、音の発生源がやけに近い。

 これは――

「え? 私の……?」

 そう、音は自分のカバンの中、自分のスマホから聞こえていたのだ。

 だが、メロディに聞き覚えがない。こんな曲を着メロにした覚えはないのだが――

「私も……?」

 と、後ろの方の席からも声が上がる――見れば、車椅子に配慮して一番後ろに配置された自分の席で、美森もまた、友奈のスマホと同じ着メロを奏でる自分のスマホを手に困惑している。

 自分と同じタイミングで、同じ着メロが鳴り始める、しかもしっかり者の美森がマナーモードを設定し忘れたとも思えないから、これはマナーモードのミュート設定を無視して鳴っていることになる。何らかの異常事態だと感じさせるには、この状況は十分すぎる根拠を伴っていた。

 いったい何が起きているのか。スマホに何か情報が表示されていないかと、友奈は急ぎ自分のスマホをカバンから取り出して――

「…………何これ?」

 確かに画面にはヒントになりそうな一文が表示されていた――ただし、その意味はまったくわからないが。

 全面真っ赤の、一目で危機を報せるアラートとわかるその中央に書かれたその一文とは――

 

 

 

 ――樹海化警報――

 

 

 

「樹海……?」

 聞き慣れない単語に首をかしげて――気づいた。

 周りがおかしい。

 おそろしく――不自然なまでに静かだ。見れば、まるでビデオの一時停止ボタンでも押したかのように、周りの同級生や先生がその動きを止めてしまっている。

 動いているのは友奈だけ――否、

「友奈ちゃん、これって……!?」

 友奈と、美森だけであった。

 

 

 

    ◇

 

 

 

(まさか……まさか、そんな……っ!)

 校内全体で見ると、“停止”しなかった人物は他にもいた。焦りもあらわに、風は廊下を駆けていた。

 階段を数段飛ばしで駆け下り、一階、一年生の教室の並ぶフロアに飛び出して――

「お姉ちゃん!」

 樹もまた“停止”を免れていた。周りの様子を見に教室を出ていたのだろう、廊下の向こうから風の姿を見つけて声を上げる。

「よかった……お姉ちゃんは無事だった……!

 あのね、クラスのみんなが……」

「うん、わかってる」

 樹の無事に安堵するが、今は喜んでいる場合ではない。樹に返すと、風は妹の肩をつかみ、強めの口調で告げた。

「いい? 樹、よく聞いて――」

 

 

 

「私達が……“当たり”だった……!」

 

 

 

    ◇

 

 

 

「…………来た!」

 そして、校外にも“停止”しなかった者がいた。人も、車も、さらには空飛ぶ鳥も、風になびく木々も――すべてが静止した商店街を見渡し、銀は声を上げた。

〔銀! これって……!〕

「あぁ!

 樹海化の、前兆だ……!」

 “声”の主もまた、無事だった――“銀の中にいる”おかげで影響を受けずに済んだのだろうか。

 ともあれ、“声”の呼びかけに銀は周囲を見回しながら答える――そう、銀はこの現象を知っている。

 なぜなら、“二年前に何度も経験していることだから”――

〔これで、最後のハードルもクリアだな。

 ここで時間停止に巻き込まれていたら、せっかく来たのに介入できないところだったぜ。

 何しろ、大赦から見たらお前は死んでるはずなワケだしな……最悪、時間停止の除外対象から外されてる可能性も覚悟してたんだけどな〕

「ま、その辺を決めてるのは大赦じゃないしな」

 “声”に返して、銀は深く息をついた。

(きっと……神樹様だ。

 大赦はともかく、神樹様がアタシが帰ってきたことに気づいてないワケがないもんな……何しろ神サマなんだし)

 そして考えるのは、この世界を守る“神”のこと――きっとかの存在が自分の帰還に気づき、意図的に時間を止めずにおいてくれたのだろう。

 つまり――

(こんな……二年間も“地球を離れていた”アタシを、今でも“勇者”として認めてくれるのか……

 ありがとうございます、神樹様!)

 神樹の計らいに感謝する――が、感謝してばかりもいられない。

「気合、入れろよ……!

 ……“来る”ぞ!」

〔おぅっ!〕

 “声”が銀に応えて――空の一角に光が生まれた。

 それは瞬く間に広がり、銀の周囲を、世界を呑み込んでいき――

 

 

 

 それが収まった時、世界は樹海へとその姿を変えていた。

 

 

 

    ◇

 

 

 

「なっ、何コレ!? どこココ!?」

 世界が一変する光景を目の当たりにしたのは銀だけではなかった。友奈と美森もまた、樹海へと変貌した世界に、見たことのない木々が生い茂る真っ只中に放り出されていた。

「ひょっとして、私また居眠り中?」

 あまりにも非現実的な光景に、ここが夢の中の可能性を疑った。試しに友奈が頬をつねってみるが、

「…………痛い」

 これが夢ではない、現実であることを、頬の痛みが教えてくれた。

「私達、教室にいたはずなのに……」

 だが、夢でないとしたら何が起きているのか。ワケがわからなくて、美森は周囲を見回して――

「大丈夫」

 そんな美森の手に、友奈の手が重ねられた。

「東郷さんは、私が守るから!」

「友奈ちゃん……ありがとう」

 そのまま車椅子の前に片ヒザ立ちになり、美森より目線を下に置いた上で上目遣いに告げる。

 励ましてくれる友奈の心遣いに、美森の表情から不安の色か薄まって――

「友奈! 東郷!」

 かけられた声は、聞き覚えのあるものだった――茂みの向こうから樹と共に現れた風が、友奈達の姿を見つけて声を上げる。

「友奈さ~ん!」

「樹ちゃん! 風せんぱ~いっ!」

 樹と友奈が再会を喜び抱き合う光景に安堵の息をつき、風は二人の頭をなでてやり、

「よかった……

 みんな携帯を手放していたら見つけられなかったわ」

「ケイ……タイ……?」

 風の言葉に友奈が自分のスマホを取り出してみると、いつの間にか画面が先ほどの警報画面から切り替わっていた。

 画面の中央に四つの光点が集まっていて、そのそれぞれから伸びる形で自分達四人の名前が表示されている。

「これ……地図、ですか?

 こんな機能、いつの間に……」

「勇者部に入った時、入れてもらったアプリがあるでしょ? アレの隠し機能よ。

 この事態に陥った時に自動的に機能するようになってるの」

「…………ん?」

 美森の問いに風が答えて――その内容に、友奈はふと気づいて首をかしげた。

「部に入った時に入れたアプリについていた機能……?

 じゃあ、風先輩……」

「去年、私や友奈ちゃんが勇者部に入った時から、風先輩はこういう事態を予想していた……?

 何か知ってるんですか……? ここはいったい……?」

 友奈の疑問に美森も続く。答えを求められ、風は深く息をつき、

「……みんな。落ちついて聞いてね」

 そう前置き。友奈が、美森が、樹がうなずいたのを確認し、続ける。

「私は……大赦から派遣された人間なんだ」

「大赦って……神樹様をお祀りしてるところですよね?

 何か特別な御役目なんですか?」

「樹ちゃんは知ってたの?」

「ううん。

 私も、今初めて……」

「当たらなければ、ずっと黙ってるつもりだったから……だから、樹にも話してなかったの」

 先に問うた美森を「ちょっと待って」とハンドサインで制して、風は友奈と樹のやり取りに先に答えた。

「でも、私の班が……

 讃州中勇者部が“当たり”だった……」

 言って、風は美森へと視線を戻し、

「そこで東郷の質問への答えね。ここはどこか。御役目とは何か……

 ここは……今見えてるこの世界は、神樹様の作った結界の中」

「じゃあ……悪いところじゃないんですね?」

「“この空間そのものは”……ね」

 尋ねる友奈に、風はそう答えた。

「でも、神樹様に選ばれた私達は、この世界で“御役目”を果たさなきゃならない」

「おやくめ……?」

 樹が風に聞き返して――

「…………あら?」

 スマホの画面の変化に、美森が気づいた。

 レーダーに、自分達以外の新たな光点が現れたのだ。

「風先輩! レーダーに感アリ!

 零時方向、距離二〇〇〇米!」

「私達以外にも誰かいるの!?」

「違うわ、友奈」

 声を上げる友奈だったが、風はそれを否定した。

「この世界に入れる“人間”は、神樹様に選ばれた人間だけ。

 その他の人達は、みんな時間が止まったまま元の世界に残ってるの」

「え……?

 じゃあ、お姉ちゃん……この反応って……」

「『神樹様に選ばれた人間だけ』……

 ならこの反応は……“人間以外の、何か”……!?」

「私が答えるより、“見てもらった方が早い”わね――アレよ」

 樹や美森に対し、風はレーダーの反応のあった方を、その彼方にうっすらと見えてきた巨大な影をにらみつけた。

 見たことのない、巨大な異形の怪物だ。あれはいったい――

「バーテックス。

 世界を殺すために攻めてくる、人類の敵よ」

「敵……?」

「そう。

 バーテックスの目的は、この世界の恵みでもある神樹様の所へたどり着くこと。

 神樹様が倒れれば……神樹様の恵みで保たれているこの世界は死ぬ」

 友奈に答え、風はスマホのレーダー画面を見た。

「確認されているバーテックスは12体。

 十二星座にちなんだコードネームが割り振られている――アレは乙女座、バルゴ・バーテックス」

 風の言葉に美森もレーダー画面に視線を落とす――確かに、レーダー画面のバーテックスを示す光点には『乙女型』との注釈が振られている。

「お姉ちゃん……

 ずっと一緒だったのに、そんなの今まで聞いたことないよ……?」

「今初めて話したからね……」

 樹に答えた風が、一同を見渡す――樹だけではない、友奈も美森も、突然の異常事態に一様に不安をあらわにしている。

「“御役目”って、まさか……」

「アレと戦うこと……そういうことですか……!?

 無理ですよ……あんなのと戦うなんて……」

「そりゃ、“このままじゃ”ムリよ」

 友奈と美森のつぶやきに、風はそう答えると改めて二人に自分のスマホを、そこに表示されたアプリの画面を見せた。

「そのための、このアプリよ。

 戦う意思を示せば、このアプリの機能がアンロックされる――そうすることで、神樹様の力を借りて戦う、神樹様の勇者になれる」

「勇者……」

「そう。

 私達が、このシステムに対する適性が最も高いと判断された――だからこの樹海に呼ばれたの」

 つぶやく友奈に風が答えた、その時――

「お、お姉ちゃん!」

 突然、樹が声を上げる――バルゴ・バーテックスが、こちらに気づいたのかゆっくりと向き直り始めたのだ。

 その尾の先端を友奈達の方へと向け、そこから何かを撃ち出してくる――まるでラグビーボールのような楕円形状の物体は独自に飛翔して友奈達のもとへ。周囲に着弾して爆発を巻き起こす。

「撃ってきた……!

 友奈! ここは任せて、東郷を連れて逃げて!」

「はっ、はい!」

 事は急を要する。ここにいては危険と判断した風は友奈にここを離れるよう指示を出す。

「樹、アンタも一緒に!」

 もちろん、最愛の妹にもだ――樹にも友奈と共に逃げるよう告げるが、

「ダメ!」

 樹の返事は、風の想像していたものではなかった。

「お姉ちゃんを残して行けない!

 ついてくよ! 何があっても!」

 そう、風と共にこの場に残ることを選んだのだ。

「どうしたらいいの?」

「……私達は神樹様に守られてるから……大丈夫」

 樹が共にいると言うのなら、ここは突き放して押し問答になるよりはそばにいてもらった方がよほど守りやすいか――そう考えた風は樹の同行を許可することにした。その頭をなでてやりながら、アプリの使い方を説明してやる。

「樹、続いて!」

「う、うん!」

 風が樹を促し、二人はそれぞれのスマホ、アプリの画面に表示された花のマークをタップして――

 

 

 

 姿が変わった。

 

 

 

 服装が変わり、髪型も変化する――風は黄色の、樹は緑色の衣装を身にまとい、樹の両手にはそれぞれに花輪のようなリングが、風の手には身の丈ほどもある大剣が現れる。

「すごい! 変身しちゃった!

 これが神樹様の守り!?」

「そう。

 このアプリは、神樹様に選ばれた私達だけが起動できるの」

 自分の変身に驚く樹に風が答えて――突然、樹の目の前に光が集まってきた。その光の中から現れたのは、頭に植物の芽のようなものを生やした、フワフワの、生き物のような“何か”であった。

「わっ、何コレ?」

「この世界を守ってきた力……精霊よ。

 神樹様の導きで、私達に力を貸してくれるの」

 そう樹に説明する風のもとにも精霊が姿を現している。こちらは犬のような姿をしていて、風に頭をなでられて気持ちよさそうにしている。

 しかし、そうしている間にもバーテックスは着実にこちらに近づいてきている。友奈達を守ることを考えると、それ以上悠長に説明している余裕はなさそうだ。

「戦い方はアプリが教えてくれる!

 一緒に行くよ、樹!」

「待ってよ、お姉ちゃーんっ!」

 言うなり先陣を切って駆け出す姉の姿に、樹はあわててその後を追って走り出した。

 

 

 

    ◇

 

 

 

「……あれは……!?」

 その光景を彼方から、それこそ先ほど友奈達の見ていたアプリのレーダー画面の表示圏外というはるか遠方から見ている者がいた。

「風さんに、樹ちゃん……!?

 あの二人も、勇者だったのか……」

 銀だ――先日も活用していた超人的な視力で、風と樹がバーテックスに向けて走っていく姿をハッキリとその目に捉えていた。

〔どうするんだ、銀?〕

「待てよ。

 他にも誰かいるかもしれない。確かめないと……」

 同じく神樹に選ばれたと言っても、勇者部の面々と違ってサポートアプリが手元にない銀は今この樹海の中に何人、誰がいるのか把握できていない。“声”に答えて、風や樹以外に誰かいないのかと周囲に視線を走らせて――

「――あれは!?」

 美森を避難させる、友奈の姿を発見した。

 

 

 

    ◇

 

 

 

「風先輩! そっちは大丈夫なんですか!?」

 車椅子の美森を伴ってのこの不整地の移動は骨が折れたが、それでもなんとか後方に下がることができた。スマホで連絡をとり、友奈が風に尋ねる。

「バーなんとかと戦ってるんですか!?」

〈大丈夫!

 こっちは樹と二人で何とかするから!〉

 返事はすぐに返ってきた――とりあえず風も樹も無事なようで安心する。

〈そっちこそ大丈夫!?

 東郷は!?〉

「だっ、大丈夫です! 私も東郷さんも!」

〈そう……

 なるだけここで食い止めるようにするけど、念には念を! できるだけ離れてて!〉

「……ごめんなさい……」

 アプリの通話機能を使った会話は、同じアプリを立ち上げている彼女の耳にも届いていた。風の言葉に、美森は謝罪と共にその身を震わせた。

「私……どうしても怖くて……ごめんなさい……っ!」

「東郷さん……」

 そんな美森の手に、友奈の手が重ねられた。

「いいよ、そんなの……誰だって怖いんだから、ね?

 さぁ、安全な場所に行こう!」

 おびえる美森を落ちつかせ、友奈はもう少し遠くへ避難しようと促して――

〈……ごめん、二人とも〉

 アプリを通じて聞こえてきたのは、風からの謝罪の言葉であった。

〈今まで、黙ってて……

 でも大丈夫! 二人は必ず守るから!〉

 そして、続く言葉からは風の強い決意が感じられて、

「……風先輩は」

 だからこそ、友奈は口を開かずにはいられなかった。

「みんなのためにと思って黙ってたんですよね?

 こんな大変なこと、ずっと独りで、打ち明けることもできずに……

 それって……」

 

 

 

「勇者部の活動目的通りじゃないですか!」

 

 

 

〈――――っ〉

「“人のためになることを勇んでやる部”……それが勇者部じゃないですか!

 だから……私達のために黙っていてくれた風先輩は悪くない!」

〈友奈……〉

 風の自責の念を、友奈は真っ直ぐに受け止めた。友奈の許しの言葉に、風の感極まった声がスマホから聞こえて――それがいけなかった。

〈――っ、しまっtきゃあっ!?〉

〈お姉ちゃん!?――きゃあーっ!〉

「風先輩!? 樹ちゃん!?」

 友奈の言葉に気を取られた風が被弾、さらにそんな風に気を取られた樹まで――通話の向こうで上がった悲鳴に友奈が声を上げると、まるでその声を聞きつけたかのようにバーテックスはゆっくりと友奈や美森の方へと向き直った。

「こっ、こっちに来る!?」

「友奈ちゃん、逃げて! 友奈ちゃんだけでも!」

 急いで美森と共に逃げようとする友奈だったが、美森はそんな友奈の意に反して、自分を置いてひとりで逃げるよう助けの手を拒んだ。

「私といたら友奈ちゃんまで!

 私のことは置いていって!」

「…………っ」

 自分の身を省みることなく友奈の身だけを案じる美森の言葉に、友奈は思わず唇をかんだ。

 そうしている間にも、バーテックスはゆっくりとこちらに向けて進攻してきている。このままでは――

「お願い、逃げて!

 友奈ちゃんが死んじゃう!」

 なおも友奈にひとりで逃げるよう促す美森だったが、そんな彼女の願いも虚しくバーテックスが砲弾を発射。自律飛行する砲弾が彼女達へと迫り――

 

 

 

 着弾した。

 

 

 

 ――しかし。

「…………え……?」

 美森は無事だった。巻き起こった爆発が自分達を焼かなかったことを不思議に思って顔を上げて――

「友達を見捨てて逃げ出すようなヤツは……勇者じゃない!」

 拳を握りしめ、堂々とバーテックスと相対する友奈の姿がそこにあった。

 その拳には、桜色の籠手が装着されている。これは――

(右の袖が、途中からあの籠手に……

 “右手だけが変身した”……!?)

 友奈の身に何が起きたのかを察し、美森は驚きで目を見開いた。

 まさか、友奈はあの籠手でバーテックスの砲弾を防いだというのか。勇者の力というのは、そんなことも可能だというのか。

 そんな友奈に向け、バーテックスの放ったさらなる砲弾が迫るが、

「イヤなんだ!

 誰かが傷つくこと!

 辛い思いをすること!」

 友奈には通じない。右足、左足、そして左拳――次々に変身していく四肢での連続打撃によって、迫るそばから叩き落とされていく。

「みんながそんな思いをするくらいなら――」

 そして――

 

 

 

「私が、がんばる!」

 

 桜色の勇者装束に身を包んだ友奈が、力強く宣言した。

 

 

 

 友奈の宣言を前に、バーテックスに動じる様子はない。というか、そもそも言葉が通じるのか。

 いずれにせよ、確かなのは自分の攻撃を防ぎ切った友奈を脅威として認識したということだ――友奈達に向けて、再び攻撃態勢に入ったのだから。

 だが、友奈もそれを許しはしない。相手の攻撃よりも早く地を蹴り、バーテックスに向けて突撃する。

(勇者部の部活動はみんなのためになること……

 だから、勇者部が好きなんだ……っ!)

「勇者ぁ……ッ!」

 決意と共に、拳を振りかぶり、

(私は進んでこの部に入ったんだ。

 だから――)

 

 

 

 

 

 

 

(私が、勇者になる!)

 

「パァァァァァンチ!」

 

 

 

 

 

 

 

 叩き込まれた友奈の拳が、バーテックスの巨体、その一角を粉砕した。

 

 

 

    ◇

 

 

 

〔おぉっ! やりやがった!〕

 その光景は、銀も――いや、銀“達”も見守っていた。友奈の一撃がバーテックスの巨体の一部を吹き飛ばしたのを見て“声”が歓喜。肉体があったらきっとガッツポーズも決めていただろう。

 が――

「…………いや」

 銀は、これで終わりではないことを知っていた。

「まだだ。

 “アレ”、見て見ろよ」

〔『アレ』……?〕

 銀に促され、“声”は彼女の視線の先、バーテックスの方へと意識を向けて――

〔あぁっ!〕

「そういうことだ」

 驚く“声”に対し、銀がうなずく。

 そんな彼女達の視線の先で――

「バーテックスは……あの程度じゃ倒せない」

 バーテックスが、その身体を再生させ始めていた。

 

 

 

    ◇

 

 

 

「治ってる……!?」

 友奈達もまた、今の一撃で深く傷ついたはずのバーテックスの身体が再生していくのに気づいていた。驚き、友奈は今この場で一番状況に詳しいであろう人物へと振り向いた。

「風先輩! なんか治っちゃってます!」

「バーテックスは、普通にダメージを与えるだけじゃすぐ再生するの!

 “封印の儀式”っていう、特別な手順を踏んでからじゃないと絶対に倒せないの!」

「それってどうやるの、お姉ちゃん!?」

 友奈に答える風へと樹が聞き返す――が、風がその問いに答えることはできなかった。

「わわわっ! 撃ってきたーっ!」

 友奈の言う通り、再生を完了したバーテックスが攻撃を再開したからだ。

 しかも先ほどよりも念入りに、だ。大量に乱射された砲弾が、一斉に友奈達へと降り注ぎ――

 

 

 

    ◇

 

 

 

「お、おいっ、何かヤバくないか……!?」

 再生したバーテックスが友奈達へと攻撃、激しい砲撃に友奈達が防戦一方になっている光景に、銀は思わず声を上げた。

「勇者システムは二年前よりいいヤツ使ってるみたいだけど……使ってる風さん達の動きが悪い……?

 まるで、あの姿での動きに慣れてないような……まさか、アタシ達みたいに訓練とか受けてないのか!?」

〔それもあるみたいだけど……〕

 つぶやく銀だったが、“声”の意見は違った。

〔慣れていないのとは別に……何かをやろうとして、そっちに気を取られてるような……〕

「何かって……?」

〔さすがにそこまではわかるワケねぇだろ。

 でも、この状況であえてやろうとしてるってことは……〕

「バーテックスに対して有効ってことか……」

 “声”の答えに、銀は少し考えて、

「…………なぁ」

〔行くってんだろ?〕

 “声”は銀の考えなどお見通しであった。

「今のアタシは勇者システムを持ってないけど……できることはあるはずだ。

 でなきゃ、神樹様がこうして樹海に呼んでくれるワケがない……」

〔オレ達も、アイツに対抗できるってことだな!?〕

「あぁ、きっとそうだ!

 いくぜ!」

 “声”に答えて、銀は懐からそれを取り出した。

 目の周りだけを覆う形の、直線的・鋭角的なデザインの金属製の仮面だ。

 それを、銀は迷うことなく己の顔に装着し――

 

 

 

 

 

 

 

 “光”が現れた。

 

 

 

 

 

 

 

「なっ、何!?」

 その光は、友奈達のところからも見えるほどに膨大で、まばゆいものだった。樹海の一角で巻き起こった光の奔流に気づき、友奈が思わず声を上げた。

「お、お姉ちゃん!?」

「わっ、私もわかんないわよ!」

 声をかける樹だが、風にとってもこの異変は想定の外だった。答えることができず、困惑の声を上げるしかない。

 バーテックスの仕業――というワケでもなさそうだ。むしろ問題の光に興味を示したかのように、ゆっくりと光の方へと向き直り始めている。

 友奈達にとっても、バーテックスにとっても予想外の異変――しかし、

「………………っ」

 ただひとり、美森の困惑だけは他の面々のそれとは違うものだった。

(あの光……怖くない……

 それどころか、優しくて……暖かみを感じて……)

 なぜかはわからないが――しかし断言してもいいほどにハッキリと、あの光が自分達にとって害のあるものではないと感じられる。

 そして何より彼女を困惑させたのは――

(それに……なぜだろう、何だか、懐かしい……

 私は……あの光を、知ってる……?)

 自分自身でも理解できない感覚に美森が戸惑っている間にも、光はどんどんその規模を大きくしている。

 そして――動いた。

 光の発生源、光の塊が飛翔、友奈達の元へと飛来して――

 

 

 

 “蹴った”。

 

 

 

 飛来したそれが、突如巨大な人の姿――巨人へと形を変えた。そしてその足で、バーテックスへと強烈な蹴りを叩き込んだのだ。

 吹っ飛んだバーテックスが地面へと墜落する中、“巨人”は悠々と大地へと舞い降りた。

「なっ、何……?」

「光の、巨人……!?」

 風が、友奈がつぶやく中、光は弱まり、巨人の姿がハッキリしてものへと変わっていく。

 そう、“変わっていく”。「光の中から現れた」とか「発していた光が収まった」とかではない。まるで光そのものが、実体ある巨人の姿へと置き換わったかのように。

 赤と青に塗り分けられ、銀色のラインやアクセントが彩る身体。

 銀色のプレートが敷き詰められ、プロテクターの様相を呈している胸周り

 プロテクター同様の銀色のマスクのような顔に、二本一対の、後ろに流れる鋭いトサカのような突起を備えた頭部。

 バーテックスに優るとも劣らぬ巨体で、再び宙に浮上するバーテックスの前へと立ちはだかると、巨人は堂々と名乗りを上げた。

「オレは“ゼロ”!」

 

 

 

 

 

 

 

「ウルトラマン、ゼロだ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三ノ輪銀はウルトラマンである

To be continued……?




閲覧ありがとうございます。作者です。
銀ちゃん生存ifです。生き残らせたくて書きました。ゼロ兄さん好きなので絡んでいただきました。

続きそうな話の締めですが、タグにも挙げたように「連載第一話の皮を被った短編」なので今のところ続く予定はありません。
続くとしても「銀はどうやってゼロと出逢い、助かったのか?」等この話で語られなかった部分の捕捉回を入れる程度になるので短編の域を出ることはないと思います。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。