水着アビーは引きます(鋼の意思)。引きました(事後報告)
徐福ちゃん可愛いです。
駒王学園は授業参観日――と言うよりも公開授業日というのが正しい現在。そんなときに立香のクラスでは英語の時間に紙粘土で工作をしていた。英語教師による完全な独断だが、"たまにはいいんじゃないか"と普通に肯定している彼は、特に疑問に持たず紙粘土を捏ねていた。
「~♪」
その上、ニュクスが授業参観にちゃっかり来ており、何故か立香の席にどこからか持ってきたパイプ椅子を付けて彼女も紙粘土を捏ねている。
まあ、ニュクスの扱いを心得ている彼からすれば好きなようにやらせておくのが一番のため特に言うところはない。強いて言えば、後でクラスメイトに追及されると思われるため、適当に言い訳を考えておく程度だ。とは言え、去年も祖父の親戚という名目で公開授業に来ているため、クラスが通年なことも加味してそこまで追求はされないと思われる。本来ならば一番、追求して来そうなイッセーが既に裏側のモノになり、ニュクスを既に知っていることも理由に上げるべきかもしれない。
「ところで立香? この服はどうかしら?」
「うん……とってもファンシーで似合ってるよ」
「そうでしょ、そうでしょう?」
何故かニュクスは"魔法少女ミルキースパイラル7オルタナティブ"というアニメのミルキーというキャラクターに扮した服装をしているようだが、その理由は複雑怪奇な原初の女神にしか理解できない大切な訳があるのだろう。たぶん、きっとメイビー。
「それはもう、あなたの学校に行くとなったら可愛らしく目立つ服を着ていかなきゃソンじゃない!」
「……そっかぁ」
全く理解していないが、生返事で答える立香。ひょっとするとニュクスは学校をエロゲの中での妙ちくりんな設定でしか知らないのではないかと大変失礼なことを考えていたが、終ぞ彼が口に出すことはなかった。
「それより……ほら見て立香。マーラ様」
『……………………(ぷるぷる)』
そうしている内にいつの間にか、とてつもなくご立派なモノが天を貫くように聳え立っていた。具体的に何がどうとは言えないが、一切臆することなく妖艶な笑みを浮かべながら素晴らしいイチモツを作るニュクスは残念を通り越して関心を覚えるレベルであろう。
また、立香を通して全てを感じ取れるカーマが無言の半ギレになっていることもわかる。学校で暴れるのは流石にご法度のため、どうにか堪えてくれているようだ。
気分転換に立香がイッセーの机を見ると、いつの間にか紙粘土でとても精巧なリアス=グレモリーのフィギュアのような裸婦像のようなものを完成させている光景が目に入る。
(
ふと、立香は自身からみれば腹違いの妹のようなものだが、血の繋がりは諸事情で微妙なひとりの少女の
ちなみに様々な事情により、立香の家系はサザエさんの磯野家よりも難解な家系図を描いているが、それを語るのは後のことでよいであろう。
◇◆◇◆◇◆
「ねぇあなた? こうしていると私たちどんな風に見えるかしら?」
「
「取り付く島もない!?」
紙粘土で表現する英語の授業終了後の昼休み時。立香は廊下を歩いており、そんな彼に腕を絡ませて少しもたれ掛かるようにニュクスは歩いていた。
二人の見た目はどう見ても恋人のようなのだが、一切それを感じさせない彼の堂々たるいつも通りの態度は称賛に値するレベルだと思われる。
「折角夜なべして作ったミルキーのコスプ――魔法少女の神衣もまるで効果がないわねぇ……」
「今の言い直す意味あったかな?」
口をへの字にして少し不満げなニュクスと立香はそんな会話をしつつ、すれ違う生徒が彼女の美しさを目を見開いて驚く様を一切無視して廊下を歩く。
立香自身、本人は謙遜するであろうが、人間性を加味しなければイッセーが普通に憎む程度には良い顔立ちをしているため、多少女性側の点数が高過ぎるとは言え、美男美女が並ぶ光景は十分絵になっていた。
そんな折である――。
「あれー? まさか、その素敵な衣装はッ☆」
「あらあら……参観日にこの素晴らしい装いをするものが私以外にいるなんてねぇ?」
"めんどくさいことになった"
ニュクスと同じ魔法少女のコスプレをして授業参観日にやって来た悪魔陣営の四大魔王が紅一点――セラフォルー・レヴィアタンとの奇遇を立香は真顔でそう確信した。
◇◆◇◆◇◆
駒王学園にある広目のエントランスの一角。そこには現在、かなりの数の人間が屯し、囲うように人だかりになると共に、カメラのフラッシュの瞬きや携帯電話のカメラを向けているものが後を立たなかった。
「何かしらねコレ……」
イッセー、木場、リアスのオカルト研究部員の3名は"魔女っ子が争っている"という情報を得たため、ここにやって来ると男女問わず
「なんかミニライブって感じですかね?」
「凄いね。本物みたいな熱気だ」
「なんでかしら……スッゴく嫌な予感がするから関わりたくないわ……」
何故かまだ確認もしていないにも関わらず、表情を固くしているリアス。しかし、折角やって来たため彼らは人を掻き分けつつ件の魔女っ子を見てみることにした。
無論、全力で後悔することになるのは言うまでもない。
「―――――♪ ――――♪」
「――――――――♪ ――♪」
そこには曲に合わせてダンスをしている魔女っ子――セラフォルー・レヴィアタンと、もう片方の魔女っ子――ニュクスの姿があった。
互いにほぼ同じダンスをしながら歌っているが、その様子は"踊り"というカテゴリーにおいて世界最高峰であることは誰が見ても明らかであり、コスプレの両者のそれは無駄に洗練された無駄のない無駄な技術であることは誰の目を見ても明らかであろう。
しかもハイレベルの歌唱力も合わさり、元ネタを一切知らずともなんだかわからないが見ているだけで心が震えるという謎の現象を起こし、見るもの全てにカルト的な熱狂を生み出しているのだ。正に魔性である。
「す、すげぇ……!」
「わぁ……えっ、今の動き人間の関節では不可能な気がするんだけれど……?」
「にゅ!? ニュクスさん……!?」
魔女っ子が争っているとは、四大魔王と原初の女神がダンスバトルをしているという普通の裏の勢力が聞けば鼻で笑い、ギリシャ陣営が聞けば全力で駒王学園から逃げ出しそうな光景であろう。無論、ニュクスについてはギリシャ神並みに理解しており、遠回しに殺され掛けてもいるリアスは今にも逃げ出しそうな様子であった。
「あれ……? 立香だ」
イッセーがよく見れば、2人のその後方にどこからか持ってきたカラオケマシンを操作している表情を笑みのまま器用に無にした立香の姿がある。
そのため、3人は大きく迂回しつつ彼の隣まで来て話を聞くことにした。
「どうもオカルト研究部の皆。まあ……見ての通りだよ」
「どういう通りなのよ……」
このままではリアスが心労で倒れそうなほど煤けた瞳をしていたため、立香はこうなった経緯を説明する。
バッタリと出会った2人は、同じコスプレからすぐに意気投合して立ったままそのアニメについて語り合ったまではよかった。しかし、どういうわけか片や作品その物への愛を語り、片や魔法少女への愛を語った辺りから雲行きが怪しくなる。そして、どちらがより、強く愛しているかという犬も食わないような理由でダンスバトルに発展して現在に至るのだ。
「マイケル・ジャクソンのミュージックビデオを見てるような気分だった」
「ごめんなさい。説明されてもよくわからない」
「ニュクスさんだから。後、セラフォルーさんもニュクスさんと同じレベルだったから」
「そうなの……そうかも……」
戦いは同じレベルでなければ起こらないという格言を想起しながらリアスは現実逃避気味にそんな言葉を呟いた。隣でイッセーが"あの人、セラフォルーさんって言うんだ"等と呟いているが、補足して説明する気も今の彼女には起きなかった。
触らぬ神に祟りなし。授業が始まればこの2人は自然解散してそれぞれの目的のところに行くであろうとリアスは考え、とりあえずこのことを悪魔の友人かつこの学園の生徒会長である支取蒼那ことソーナ・シトリーに伝えようと、彼女は電話を取り出し――。
「オラオラ! 天下の往来でライブたーいいご身分だぜ!」
「ぶしつかえして」
「リアス先輩、幼児退行しないでください」
「しかになりたくないわ」
酷く優しい声でそう言う立香の笑みの中にある瞳は、リアスには溝川のように濁って見えた。まるで類友を見つけ、喜びながら引き摺り込んで来ているように思えてならない。
そんなやり取りをしている間にも生徒会の者たちは、騒動を抑えてテキパキと人々を解散させていく。蜘蛛の子を散らすように居なくなる様は見ているだけで見事であり、彼らの整理能力の高さも伺えた。
生徒会のひとり――上級悪魔ソーナ・シトリーの兵士の転生悪魔である匙元士郎が、不満げに口をへの字に結んでいる件のふたりに近付いていった。リアスはもう見ていられないと言った様子で自身の顔を覆う。
「あんたらもそんな格好しないでくれ――ってもしかして親御さんですか? そうだとしても場に合う衣装ってものがあるでしょう。困りますよ」
「えー、だってこれが私の正装だもん☆」
「私はいつだって本気よ。愛に形を問うならばそれは最早愛ではないわ」
そう言った2人は線対称にポージングをしながらにっこりと笑って顔を見合わせる。
「ねー☆」
「ねー★」
「ねーじゃないんですよ!?」
「何事ですか? サジ、問題は簡潔に解決しなさいといつも言って――」
「あっ、ソーナちゃん! 見つけた☆ お姉ちゃんソウルメイトができちゃったんだよ!」
すると生徒会長のソーナが1人で現れた。どうやらリアスの兄と父親の案内をし終えて偶々通り掛かったらしい。そんな彼女にひょいとセラフォルーがソーナに飛びつく。
その後、イッセーらにも四大魔王のセラフォルー・レヴィアタンだということが判明し、尚も同じテンションで振る舞い続けるセラフォルーにソーナが堪え切れなくなり逃走。それを追う形でセラフォルーも居なくなりこの場には残りの生徒会の面々やグレモリー眷族の面々――。
「うふふ……」
そして、若干不機嫌そうな空気を纏うニュクスが残され、彼女について事柄を知るグレモリー眷族の面々は冷や汗を流していた。
「リアスさん。先に言っておきますね」
「え、ええ……何かしら?」
「本気でキレたニュクスさんとかカーマを俺は止められないからそれだけは理解して欲しいです。割りと藤丸家のヒエラルキー下位の方なんですよ俺」
「なんでこの期に及んで晴れやかな笑顔でそんなに情けない申告をしてくるの!?」
立香のいつも通りと言えばいつも通りな様子に絶望と呆れとその他諸々の現在煮詰まった感情が爆発し、彼をがくがくと揺するリアス。人間と悪魔の筋力の差により"ぐえっ……"と彼はか細い悲鳴を上げているが、それを気にできるような精神状態ではないようだ。
「え……。なんで生徒会はニュクスさんの顔を知らないんだ?」
「ニュクスさんの顔写真とか……ソーナに回してないの……。ほらプライベートとか守秘義務とかあるだろうし……基本的に誰も触れたがらないからあの方の情報ってトップシークレットなのよ……。大体そんなのどうやってあの方に頼めってのよ……? カメラ向けてニコニコハイチーズって? 指をへし折ってやろうかしら、うふふふ……!」
「ぶ、部長!? 戻ってきてください!?」
「えっ……ニュクス?」
「ええ、如何にも。私がニュクスよ」
匙の呟きに彼の含むこの場にいる生徒会のメンバーは目を見開いて固まる。
何せ見た目だけはファンシーで中身はファンキーなロボ娘だが、その実態はギリシャ勢力主神級格かつ、間違いなく世界の実力者の中で上から数えた10体に入るような怪物である。悪魔の中で超越者と呼ばれているリアスの兄のサーゼクス・グレモリーですらそこには数えられていないため、次元の違う実力者の一角であることは明白であろう。
「確かサジくんだったかしら?」
「は、はい……!」
「ふぅん……いいわね。素直な子は好きよ?」
そう言ってニュクスは正面から匙を見据える距離まで近付くと首筋に手を這わせる。
「けれど勉強不足ねぇ……。ギリシャ神が愉しく遊戯中に土足で踏み込んだ挙げ句、途中で無理矢理止めるだなんて……うふふふっ! 無知ねぇ可愛いわぁ……」
絶世の美を体現した少女の姿をしている以上に得体の知れない何かが今目の前にいることで、沸き上がる不可解な恐怖と焦燥によって匙は指先ひとつ動かせなくなった。
「少し……己の行動と口の利き方には気を付けた方がいいわ。私ぐらい寛容で博愛主義の麗らかなギリシャ神でなければ――今ごろあなた散々辱しめられて死ぬか、死ぬより辛い目にあっているわよ?」
「あ、ああ……」
ようやく匙の口から出た言葉はただそれだけだった。しかし、焦点の定まらない目と小さく過呼吸を起こしている様がそれ以上の畏怖を誰が見ようと思わせるであろう。
言いたいことを言い終えると彼に興味を無くしたのか、ニュクスはリアスに近付くと花が開くようにゆっくりと薄く笑みを浮かべた。
「大丈夫、ただの忠告ですもの。けれど知らず無礼と、知って無礼では後者の方が少し嫌な感じよねぇ。わかるかしらリアスちゃん?」
「えっ……は、はい!」
「んもー、そんなカチカチになっちゃって可愛い……。私たち友達でしょう?」
「あっ、はは……ははは……そんな畏れ多い……」
「まあ、いいわ。喉渇いちゃったから飲み物買ってくるわね?」
それだけ立香に伝えると、ニュクスは自販機のある方向へ歩いていった。その背を見ると、まだダンスをしていた感覚が抜けないのか、時折跳ねたり手足を動かしたりする素振りをしており何も知らない者が見れば微笑ましくも見えたことであろう。
遠ざかって行くニュクスにこの場に残された多くが安堵した。その時――。
『あっ……じゃあ、私……そろそろ帰ります……』
「あっ、うんわかった。今日はありがとうございました」
『いえ……母のいつものことですので……』
カラオケマシンが突如、女性的なマシンボイスを響かせながら喋り始めたのだ。聞く者が聞けば何故かVOICEROIDと呼ばれる音声ソフトを使用していることもわかるであろう。
「えっ……? は……? はえ……?」
「ああ、ごめん説明してなかったね。救急アバターを今回のためにカラオケマシンにして来てくれたこの方は、ニュクスさんの子供で、運命の三女神、モイラの一柱。クロートーさんとアトロポスさんの三姉妹。その次女のラケシスさんだよ」
『あっ、はい! す、すいません……私、"ラケシス"と申します……』
どこにでもある普通の寸胴なカラオケマシン――ラケシスが頭を深々と下げている姿をそこにいる面々は幻視した。
ここまで来ると最早なんでもありであるが、ギリシャ神話の神々のアバターは当人の気分で幾らでも変わったり増えたりするため、言うだけ野暮というものかも知れない。また、これには流石のイッセーもおっぱい談義のしようもない。
『えと……リアスさんでしたか……?』
「あ……ああ、はい」
ラケシスが氷上でも滑るように平行移動をしてリアスの前までやって来る。そして、スピーカーから気遣うような様子で声を出した。
『人には、みんな役割があるんです……。どんな人にも……何かしらの天命が織り込まれた運命の糸が割り振られているんです……。この世にいらない人なんて……1人もいない……。だから……自分にはなんの意味も、価値も無いなんて言う人がいたら……それは違うんだって、はっきり言えます……』
「えっ……」
『傷ついても、道を間違えても、愛する人を失っても、
どんな苦難を前にしても……頑張って生きていかなければならないんです……。あなたなら……何があっても……最後にはきっと前を向いて歩いていけます……』
「ら、ラケシスさぁん……!」
(ああ、こうやって人は宗教にハマって行くんだなぁ……)
ラケシスの励ましによって涙ながらにカラオケマシンに抱き着くリアスを見ながら立香は、何気にかなり酷いことを考えていた。しかし、それは彼が神という存在そのものを人一倍どころか何十倍、何百倍と知っているからであろう。
そして、彼の結論は――基本的に"神様はトラブルメーカーなのがデフォルト"という一種の諦めであった。
『だから……あきらめないで……あなたの運命の糸は、ほら、こんなに………………ボロボロ……ですね……』
「えっ……?」
『あれ……? この糸……どこかで……あ……これ前になくした……。……えと……その……大丈夫ですよ……たぶん……』
今のどこに大丈夫な要素があったのかを逆に知りたくなるほどに不安と不穏で満ちた発言であろう。
『で、では皆さま……私はこの辺りで失礼します……!』
そう言うとラケシス――カラオケマシンの下部がジェットエンジンのようなものに置き換わる。そして、それが点火されると共に高く高くカラオケマシンは打ち上げられていき、透き通るような夏の青空の彼方に消えて星になった。
そんな一部始終を見たリアスは渇いた笑いを浮かべると、その場にへたり込み笑みのまま床を見つめながら影が指した様子でポツリと呟く。
「ギリシャ神ってなんなの……」
『神なんてみんなクソなんですよ、リアスさん。いい勉強になりましたね』
「うふふ……そらきれい」
カーマに諭され、ふと窓からリアスが見た夏の空は、呆れるほどに濃い青をしており、燦々と輝く太陽の傍にある少し珍しい昼の月が嫌に印象に残る。
「ただいまリアスちゃん! アイスティーしかなかったけれどいいかしら!?」
「ヒィ――!?」
呆然とするリアスの背に抱き着いて驚かせる悪戯をしたニュクスを眺めつつ、彼女から受け取ったペットボトルのアイスティーに口をつけて彼は思い耽るのであった。
(しかし、ニュクスさん――無茶苦茶リアス先輩のこと気に入っているなぁ……)
ちなみに立香からするとニュクスは、興味のない相手には存在及び思考レベルで無関心のため、今回のように魔法少女のコスプレをして授業参観に来ている。
その観点からすると悪戯を仕掛ける程の興味を持っているリアスは、ニュクスにとって本当に友人と呼べるほど特別な存在だと思われるが、それを話してしまうほど空気を読めなくはない立香なのであった。
…ああ、あんた、どうやら俺は、しくじったらしい…
…扉の音が、まだ聞こえやがる…
…水着の殺し屋が、俺を殺しにやってくる…
…ずっと、ずっと…
…終わりなく…
…グウッ…ウッ…
黒猫とパンケーキ作るっ みゃお!
パンケーキに黒猫のせるっ みゃー!
黒猫のパンケーキ 出来上がりっ!
黒猫パンケーキ! みゃんみゃん!