Muv-Luv Alternative Plantinum`s Avenger   作:セントラル14

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episode 02

[1997年6月10日 帝国軍白陵基地 国連軍専有区機密区画 香月博士執務室]

 

 昨日の記憶があやふやだ。8日の夜、仮眠室で寝て起きてから、息つく暇もない程に大忙しだった。一応国連軍少尉という肩書は持っているが、基地内を国連軍C型軍装で闊歩するには目立ちすぎる。ただでさえ幼いのだ。そこに国連軍の軍装を着ていたら目立って仕方がない。なので、一先ず帝国軍の軍装を仕立てることになった。一応、国連軍が間借りしている区画では国連軍所属の軍人はいるものの、基本的には帝国軍の軍装を纏っているので、それらに合わせたものになるのだ。この歳で身長が150cm以上ある俺はまだしも、純夏はどうすればいいものかと悩んだ。結局、俺も純夏も低身長という体を通すこととなった。

採寸を行い、近いサイズのモノを取り寄せたら、次は半ば拉致のように連れてかれた俺たちの両親への説明。面倒だったので、当分は内外共に通すことになった設定『帝国大学のすごい学者が俺と純夏の秘めたる可能性を見出したため、将来の帝国のために高等な教育を施す』というものだ。つまるところ、飛び級したというものだった。この説明には俺と純夏両方の両親が涙を流して喜んだそうだ。我が両親ながらチョロ過ぎるぜ……。説明は夕呼先生と夕呼先生の信頼できる腹心が、わざわざ家に行って説明。それらしい言葉を並べたという。次いでにその時渡すための手紙を書かされた。30分で書けなんて言うもんだから、必死になって書いた。

残りは俺の戦術機適性検査と、現段階で何処まで戦えるのかの計測。純夏も戦術機適性検査を受けたが、その後は霞と勉強会ということで別行動になった。管制をしていた夕呼先生がいつの間にか居なくなっていたらしいが、別に苦にも思わなかったために延々とシミュレータで戦闘を行っていた。で、気付いたら筐体に搭乗して数時間が経っていたという。いつまでも帰ってこない俺を心配した純夏が霞と、夕呼先生のところに聞きに行ったという。『あ~、なんかずっとやってるから飽きちゃった。あれ? アイツまだ帰ってこないの?』と。シミュレータルームに確認に来た三人は、疲れを見せずシミュレータで大暴れしていた俺を見て愕然としたという。

そして今、シミュレータから引き摺り出された俺は、得たデータを印刷した後にデータの破棄と完全消去を行い、夕呼先生の執務室に戻ったのだ。

データ確認をした後、純夏にいつまでシミュレータに籠もってるのだと怒られてから記憶が無い。どうやら、気付いてないだけで、かなり疲れていたようだった。

 

「あっはっはっ!!! 正座したまま寝てたのアンタ!!」

 

「そうみたいっすね……」

 

「鑑の説教が長いから、途中から無視してたんだけど、そんな面白いことになってるのなら見てればよかったわ」

 

「見なくていいですからね? 先生はやることあるでしょ?? てか遊ぶな、痛い痛い痛い!!」

 

 で、目が覚めたところ、『何アンタ、座禅してたんじゃないの?』と言われた夕呼先生に説明。無茶苦茶笑われたということだ。ちなみに純夏は仮眠室で寝ている模様。脚が痺れて動けないのをいいことに、夕呼先生がゲラゲラ笑いながら俺の脚を突いて遊んでいる。いい加減止めて欲しいんだがなぁ。

 

「お遊びはこの辺にして、今日からアンタのすることはあんまりないわね」

 

「そうなんですか?」

 

「数式の書き換えと論文、オルタネイティヴ4の報告書類その他諸々。因果律量子論も改訂版の執筆も行うわ」

 

「当面はそっちの方で手一杯って感じですか」

 

「えぇ。数式と論文は私の方で必要なものだし、今の論文は間違いがあるから書き換えが必要。オルタネイティヴ4に関することは、オルタネイティヴ5への牽制も同時に行う必要があるわ。因果律量子論は並列処理コンピュータの理論にも関わりがあるから、どの道必要。結局オルタネイティヴ4に回帰する訳ね。ま、軍事行動に関しては、1年間程休止の予定よ」

 

 A-01の錬成もまだだし、と呟く。

夕呼先生曰く、A-01の設立したはいいものの、現段階では使い物にならないとのこと。集められた衛士は、そのほとんどを帝国軍からの引き抜きで構成されているのだ。しかし、それでも集められたのは一個連隊規模。それは帝国軍全体に及ぶ夕呼先生謹製適性検査を行った結果だとか。その適性検査は至って簡単なもので、私生活から軍事行動に至るあらゆる行動の監視を行い、より良い因果を掴み取りながら生きる衛士を合格とするもの。つまり、運が強い衛士を求めているというのだ。その中から選抜された数百名へ、特命として招集。帝国軍から国連軍への転属意思を持った者のみ採用したという。それが設立時連隊規模であったA-01の正体でもあった。連隊規模しか集めることが出来なかったのだ。

そんな彼らに課している任務は、連隊内部でのチームワークの形成と特殊任務に耐えられるだけの訓練を施すこと。内容は決して軽くはないが、帝国軍出身の彼らでも冷や汗を額に浮かべる程の厳しいものだとか。それに定期報告を受けている夕呼先生も、基準を満たしていないとねちっこく理詰めで責めているらしく、部隊指揮官から末端の衛士まで死に物狂いで訓練訓練訓練三昧だという。

そんな彼らを夕呼先生は「まだまだよ」と一蹴するのだから、怒りを通り越して尊敬されてるとか。学者の癖に分かってる、とかなんとか。

 そんなA-01からは完全に独立した特務兵扱いの俺の配置はかなり特殊だ。A-01はオルタネイティヴ4直属の特殊任務部隊。その存在は隠匿されているが、それ以上に存在そのものがない部隊が設立されていた。

TF-403。タスクフォース403。A-01 オルタネイティヴ計画第1戦術戦闘攻撃部隊という部隊名すら与えられない、完全に機密扱いの部隊。その構成員に現在、俺は席を置いている。主な任務は夕呼先生の指示の元で行われる軍事行動に従事し、目的遂行のために行動する。しかし、その実態はA-01を稼働状態に持っていくための時間稼ぎや、稼働中のA-01部隊が介入することの出来ない任務に投入されるスケープゴート部隊でもある。というのが機密であるが表向きの概要。

本質は別にあり、特務兵として俺を手元に置くための方便なのだ。

 

「アンタはすることないから、基本的には私の使いっ走りね」

 

「そ、ソウデスカ……」

 

 仰々しい部隊に入ったとはいえ、俺は当分いいように使われるだけらしい。早速、今日から書類の印刷やらで走り回ることになったが、まぁ機密フロアから出ることはないから問題ないだろうな。

 

※※※

 

[1997年7月7日 帝国軍白陵基地 国連軍専有区機密区画 仮眠室]

 

 今日、夕呼先生は出張だ。純夏を連れて早朝、帝都に向かった。今日はどうやら遅くまで向こうにいるらしく、帰ってくるのは日が暮れて以降になるらしい。霞は事頭を使うことには長けているというが、今の所やることがないらしい。そこで、これまでは出来なかったことをしてみるとのこと。プログラムは元々それなりに知識があったらしいが、本格的な軍事用ソフトウェア開発に手を出しているという。既に始めてから2週間程経過しているらしいが、かなりの速度で上達中とのこと。この調子でいけば、1人でソフトウェア開発を行うことが出来るようになるのも時間の問題らしい。従って、現在はオルタネイティヴ計画用に割り当てられている電算室で缶詰しているみたい。

従って、俺は暇なのであった。

 

「うば~~~」

 

 オルタネイティヴ専用区画の中でも、ほとんどの人が立ち入ることの出来ないフロアで独り、何かの生物のような声をあげていた。

 

「そういえば今日は……」

 

 ふと、今日の日付を思い出していた。今日は7月7日。純夏の誕生日だ。

思い立ったが吉日というもの。すぐさま準備を整えて私服に着替えると、そのまま白陵基地を飛び出すのだった。目標はただ1つ。純夏の誕生日プレゼントを購入することである。

 

※※※

 

[同日 柊町某所]

 

 飛び出してみたはいいものの、そう簡単にいいものは見つかる筈もない。先ず思いついたのは雑貨。しかし、純夏はちゃっかり色々とモノを白陵基地に揃えていた。文房具やら小物入れ、収納。本屋に入ってみたものの、純夏の基本スペックのことを考えて断念。幾ら00ユニットだった頃の知識や記憶があったとしても、現在の低スペック脳ミソでは、活字本の内容を理解出来るとは思えない。よって、本も断念。衣類、本人がいないため断念。あれも駄目これも駄目と店に入っては出てを繰り返し、結局柊町のめぼしい店は全て入ってしまったのだ。最後の最後には骨董品店で壷や掛け軸を見ていた程である。

 

「はぁ……」

 

 朝から歩き詰めで、俺はフラフラと歩いていた。もう日も暮れてしまうため、そろそろ帰ろうとか思っていた矢先、目に飛び込んできたのは小さな雑貨屋。

最後に淡い希望を胸にいだきながら、いざ入店する。

 そして、店外に出た時には荷物が増えていたのだ。

 

「やった……」

 

 出費としては夕呼先生から"一応"給料をもらっているため、そこまでだった。しかし、満足の行く品を購入することが出来た。それは……。

 

「まさかあるなんてな」

 

 そう。うさぎのキーホルダー。前の世界で、俺が木の欠片からナイフで削り出したサンタうさぎや、元の世界で小さい頃にあげたサンタうさぎのキーホルダーとは違うものの、かなりデザインが似ている別のキーホルダーを見つけたのだ。木の端から作ったサンタうさぎの方に似ているが、我ながらツイている。

それと、店であるものを予約してきた。予約というかキープに近いんだが。今度来るのは、今年の10月。その時まで売らないで欲しい、と頼んであるのだ。

 

「不味い。そろそろ戻らないとな!!」

 

 紙袋を片手に、俺は薄暗くなっていた柊町を駆け抜けるのだった。

 

※※※

 

[同日 帝国軍白陵基地 国連軍専有区機密区画 仮眠室]

 

 夕食の時間からしばらくして、夕呼先生と純夏が帰ってきた。夕呼先生は荷物を放り出すと、次にやることがあると言って、パソコンの前に座ったっきり動かない。一方、純夏は「クタクタだよぉ~」と仮眠室に行ってしまう。俺は慌てて純夏の後を追っかける。

 仮眠室は現在、俺たちの部屋になっていた。部屋を用意させるとのことだったが、結局先延ばしになっているため、今も俺たちは仮眠室暮らしをしている。

純夏はベッドに腰掛けて溜息を吐いていた。どう見てもお疲れな様子。だが、時間は刻一刻と迫っている。疲れているところ悪いが、付き合って貰おう。

 

「純夏クン」

 

「んー? なに、タケルちゃん」

 

「時に純夏クン、今日は何の日だか知っているかね?」

 

「今日ー? 今日は香月先生と帝都で帝国上層部にオルタネイティヴ4の経過報告会ぃ~」

 

 駄目だこりゃ……。しかし渡さねばならぬのだよ。

 

「いやいや、何を言っているのだね。そんな君にはこれをあげることは出来ないな」

 

「なになに? なにかくれるの? タケルちゃんが珍しいね」

 

 た、確かに珍しいかもしれない……。

 

「はい、これ」

 

「ありがと。中、見てもいい?」

 

「いいぞ」

 

 紙袋を開け、中に手を入れた純夏。それを掴んで手を引き抜くとそこには……。

 

「っ……!!」

 

 サンタうさぎによく似たキーホルダー。それを取り出した純夏は胸の前でギュッと握り、目を閉じる。何か思い出したのかもしれないが、静かに見ていることにする。

 

「……ありがと、タケルちゃん」

 

「ハッピーバースデー、純夏」

 

「そっか、今日は私の誕生日だったね……。あはは。忙しくてすっかり忘れてたよ」

 

 純夏が幾ら忙しかったとしても、俺は忘れない。何せかけがえのない"半身"なんだからな……。

 この後、純夏と少し騒いだ。BETAがまだ日本に上陸していないこの時期、物資に余裕があるので買い物はそれなりにしやすいのだ。だから、急いで帰る途中にコンビニに寄って買っておいたのだ。本当ならケーキでも用意できればよかったが、なかなか上手く準備に手を回すことが出来なかった。お菓子とジュース、デコレーションは誕生日用ではないがケーキを純夏の前に用意した。それに、忘れてはいけない霞を呼びに行き、ついでに夕呼先生も。きっと無理して食事を抜いたりしているに決まっている。それに、甘いものを食べれば頭もよく回るだろう。

 突貫用意したささやかな誕生会は、純夏も喜んでくれただろう。今回の件で意外だったのは、夕呼先生は参加しないと思ったら参加したこと。しかも出張に行っていた癖に純夏の両親とコンタクトを取り、2人からのお祝いも確保していたことだ。あと、霞がオロオロしていたのは少し可愛そうだったかもしれない。『……何も準備してませんでした』と言っていたから、きっと覚えてはいたんだろう。

 


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