Muv-Luv Alternative Plantinum`s Avenger 作:セントラル14
[1999年3月19日 国連軍仙台基地 第3ブリーフィングルーム]
仙台基地に越して来てからというもの、このブリーフィングルームを使うのも日常と化して来ている。そもそも夕呼先生以外とはほとんど接触してこなかった俺が、何だかんだ言ってA-01と顔を合わせる機会が生まれてからというもの、オルタネイティヴ4関係の人間と話すことが多くなってきたからだ。そういった時には、ブリーフィングルームを使うことが多く、機密区画に入ってこれる人間ならばここ以外でも話すことはあっても、入ってこれる人間はそう多くもない。
自動的に、週に1度はこうして普通に出入りできるところへ足を運ぶようになってしまったのだ。
今日は夕呼先生に呼ばれたというよりも、霞が俺を連れて行きたいところがあると言い出し、こうして手を引かれて来てしまった。その先が行き慣れたブリーフィングルームだったというだけ。何の用事で連れてこられたのか聞かされないまま、俺は手を引かれたまま部屋へと入った。
中には国連軍の衛士が数名いた。俺と霞を見るなり怪訝な表情を浮かべていたものの、1人は霞に走り寄って来るなり頭を撫で始めた。イヤイヤと首を振って振り払うと、俺の背中の後ろに隠れる。まるでフラれたような表情をしたまま固まる女性衛士に誰も声を掛けることはなく、むしろ足蹴にするように無視したまま俺と霞に声を掛けてきたのは、どことなく見覚えのある衛士だった。
「私は本日付でオルタネイティヴ計画第1戦術戦闘攻撃部隊 VFA-01に配属なった、祠堂 カレン大尉だ。君は?」
祠堂 カレン。聞き覚えがある名前だった。名前を頭の中で反芻しながら、再度彼女のことを観察する。
日本人の名前を持っているものの、日本人離れした顔立ち。数年前の記憶にある、ピアティフ中尉のような雰囲気のある美人。クセ毛のあるボブカットの赤毛。切れ長の碧眼。もう一度名前を反芻すると思い出した。
「あぁ、シールダーズ」
「え? 私の前いた部隊のことを言ったか?」
「いや、何でもないです。俺は白銀 武、少尉です。よろしくお願いします。こっちは社 霞。先任少尉ですが、彼女は技術者です」
「よろしく頼む。それでなんだが、先程の私のいた部隊の名前を知っている件について」
そう言いかけると、霞にフラれて我を失っていた女性衛士が再起動して口を開く。
「白銀少尉はあの時、偽名を使っていたんですねぇ~。声は同じですし、シールダーズの名前が出てきたことにも納得します。カレンも気付いてたんですよね?」
「分かっていたが、本人から確認を取らねばな……。白銀少尉があの時の鉄少尉だというのならば話は早い。ソレは
「ソレって酷いです!!」
コロコロ表情の変わる彼女は、長く艷やかな黒髪にお嬢様カットに大きい焦げ茶の瞳。まさに大和撫子といった雰囲気を持ちつつも、人当たりがいいようだ。再起動した彼女は逃げ回る霞を追いかけ回しているが、2人を置いて俺は祠堂大尉と話す。
「それで、永代中尉の言っていたことだが、貴官が鉄 大和少尉なのか?」
「大尉がA-01に入ったのならば隠す必要もないので素直に答えますが、俺が鉄 大和で合ってますよ」
「そうなのか」
永代中尉とは対照的で、祠堂大尉はあまり表情を動かすことがない。階級故なのか、はたまた元来そういう性格をしているのかは分からない。前回会った時は戦場で、それもほんの数時間だけだった。その間に彼女のことを推し量ることはできる訳もなく、小さく動く口から繰り出された言葉に返事を返すことに集中する。
「君は何故、名前や所属を偽っていたんだ? それに乗っていた戦術機を帝国軍カラーに塗装してまで。ここにいるということは、国連軍の衛士なのだろう?」
「そういう任務だったんですよ。それに俺は国連軍の衛士で間違いないです」
「そうか……。A-01がどういう部隊なのかは、一通り説明を受けている。君はどうもA-01とは違う部隊のようだが、指揮系統は同じなのだろう? TF-403と言ったか。話には聞いているが、超法規的措置で特別に派遣されたということか?」
「はい。A-01とは別の部隊のTF-403所属ではありますが、大本は同じところです。俺もオルタネイティヴ計画の構成員になりますね」
前の世界には存在していなかったTF-403。それに同じく前の世界では、オルタネイティヴ計画に関わることがなかったであろう祠堂大尉や永代中尉ら。戦闘に参加している時に感じられなかった歴史改変を、ここに来て俺は肌に感じていた。
夕呼先生から聞かされていることだが、今回のA-01増員は前の世界では行わなかったという。ということは、基本的に第207訓練部隊からの新任少尉たちがA-01の基本的な増員手口だった。つまり、それ以外の手段を取った今回は、明らかな歴史改変である、と。
「難しいことを説明されても、理解できたことは一部だけだ。私が分かっていることは、特殊部隊転属の声が掛かったことだけ。それは永代中尉や、この場にいる各地から集められた今回の転属衛士たちも同じ。計画についての説明も受けているが、理解できることはあまりない。精々、知っている知識がその計画と多くの犠牲によって齎されたことくらいだ。だから、今のところは部隊に順応し、これまで以上の働きができるよう努力する、これだけだ」
「成程。俺も同じような状況にあったことがあったので、何となくですが気持ちは分かります。それで霞、俺を祠堂大尉たちのところに連れてきた理由は?」
永代中尉に追いかけ回された霞だが、気付けば頭を撫で回されている。不満と顔にありありと現れているが、俺の質問にすぐさま返事をした。
「……現在、A-01は再編成に伴い、連携訓練を行っている最中です。そこにこれまで一般部隊にいた皆さんを部隊に順応させることは難しいです。なので、訓練から外し、連携訓練に参加できる程度までXM3の順応訓練を行う必要があります」
「そっか。祠堂大尉たちはXM3を使ったことがないもんな。そりゃ、A-01の連携訓練に参加したところで意味はないなぁ」
霞の言葉に俺は納得していたが、転属してきたばかりの祠堂大尉たちは分からない、と言った表情を浮かべている。
分からないのも無理はない。これまで彼女たちが搭乗していた戦術機は旧OSを搭載した、鈍重な動きしかできない従来機だ。それを、XM3が搭載されている不知火に乗り換えるだなんて、言われてすぐにできる訳もない。元祖A-01は訓練に膨大な時間を費やしているが、それでも夕呼先生を満足させる程の練度に達していないのだ。
「A-01が特殊部隊なのは知っているのだが、私たちではそれほどまでに部隊にとって足枷なのか? 私やその部下はまだしも、他の衛士は極東国連軍の精鋭だ。それほどまでにA-01とは練度の高い部隊なのか?」
「A-01の練度は確かに高いです。国連軍の他の部隊や帝国軍の精鋭と比べても同じくらいなのかもしれません。ですが、聞いている通りA-01は特殊部隊です。ご存じかと思いますが、戦術機も日本帝国製の不知火、Type-94に乗り換えてもらうことになります。また、機体を乗り換えるだけではなく、この不知火は帝国軍の機体とは大きく異る点があるんです」
「乗機が特殊、ということなのは分かるが、それほどまでに違うのか?」
「はい。A-01の不知火はXM3と呼ばれる新概念OSの搭載とその使用を可能にした高性能CPUと電源ユニットの交換がされています。大尉たちがこれまでに乗ってきた機体とは全くの別物、と考えるべきだと思います。既に実戦証明済みですし、なんなら九州で大尉たちに会った時の俺の乗機にもXM3は搭載されていました」
分からない、と言いた気な表情をする大尉たち。どうしようかと考えていると、霞が引き継ぐ形で話に入ってくる。
「……旧OSとの明確な違いとして、即応性が30%上がっています。操作はシビアになりますが、より搭乗者の思うがままに操縦できるようになっています。その他にも3つの新機能が搭載され、それらを用いることによって戦術機を人間の枠から外れた動きを可能とし、生存率向上に大きく貢献しています。光州作戦に参加したA-01は、それぞれ1個大隊が旧OSとXM3を搭載していました。撃墜されたのは27機。その内、XM3搭載機は4機のみでした」
「なっ……?!」
「……また、XM3搭載機を装備していた1個大隊と作戦参加した旧OS搭載機とのキルレシオが並んだという記録もあります。単純計算で1個大隊で3個師団並の戦力になるということです」
開いた口が塞がらない様子の転属組から、いち早く戻ってきたのは大尉だった。
「……実戦証明済み、戦果上場の新装備をある程度扱うA-01と、XM3に触れたこともない大尉たちを一緒に連携訓練をしたところで意味がない、と博士が判断したんだと思います」
「分かった。それで、博士というのは?」
「……現在のオルタネイティヴ計画の責任者です」
「私たちの新しいボスはその博士ということ。分かった。私たちがA-01と連携訓練ができないことも、彼らが装備するものの偉大さも。それで、結局白銀少尉と社少尉がここに来た理由は? 私たちも何も聞かされずに、第3ブリーフィングルームで待機するよう、崎山連隊長から聞かされているんだが」
「……XM3の順応訓練です。まずは座学。その後、シミュレータを行い、最後は実機訓練です。できるだけ早急に連携訓練に参加するよう、博士に言われています。座学とシミュレータ・実機の管制は私が行いますが、直接的な訓練は白銀さんが行うよう博士から命令を受けています」
「何故白銀少尉が? それと社少尉も」
「……白銀少尉が発案者と主席開発衛士をしていました。それと私はメインプログラマーです」
「2人が……そうか。分かった」
大尉と中尉はどこか納得した様子を見せたが、後ろで黙って聞いていた他の衛士たちは不満がある様子。
無理もない。発案者で主席開発衛士が10代半ばの少尉であることが気に食わないのだろう。霞がメインプログラマーというのは、彼女が持つ独特の空気感で口出しをしないだけなのかもしれないが。
俺にとって、こういった態度を取られることは珍しいことではない。このまま教導に入ったところで、彼らは真面目に教導を受けるかといったら、そんな訳がないのだ。
ならばどうするべきか。答えは1つ。
「……俺から教導を受けることに不満がある人がいるみたいなのでこうしましょう。座学は普通に霞から受けてもらいます。その後のシミュレータと実機は自分たちなりに訓練をしてください。そこでXM3を使いこなせたのなら、俺と演習して勝ってください。そうすればA-01との連携訓練に合流しても構いません。もし負ければ、座学からやり直しです。訓練では俺が教導します」
「白銀……それでいいんだな?」
不満気だった衛士の1人が俺に確認をする。それに俺はハッキリと肯定の返事を返した。
「白銀少尉。私と部下は少尉の動きを戦場で見ているから実力はなんとなく推し量ることができるが、それでも精鋭相手にそれは大言壮語ではないのか?」
大尉の言っていることは最もだ。見た目や事前に調べていたかで、俺の戦歴をふんわりと把握しているのだろう。
参加作戦だけ並べれば、大規模作戦に参加し生還した衛士ということになっている。しかし蓋を開けてみれば、崩れかけの部隊へ補充兵として充てられ、優秀な上官の元でなんとか生き残った初陣。九州から京都までは、大尉の知るところだろう。仙台に帰って来てからの経歴が調べられているかは分からないが、それだけみればまだ初陣を生還してから数回出撃経験のある半人前の少尉といったところだろう。
ただ、それが一般的な衛士だったなら、その分析は正しい。
「……座学を始めます。教本は既に用意してありますので、このまま始めます」
少しピリついた空気感を壊した霞は、壇上に立ち教本を開いた。それに続いて、大尉たちも俺から視線を外し、それぞれ席に腰掛けていく。
座学は半日で終わる。午後からシミュレータに入り、演習をするであろう日程を逆算しながら訓練の予定を立てることにした。
※※※
[1999年3月24日 国連軍仙台基地 第2演習場]
A-01へ転属してきた祠堂大尉ら6名の衛士たちは、予定通り霞の座学を半日で済ませて早々にシミュレータ訓練を開始。霞の管制で実機でも問題なく動かせるだろうと判断された後、実機訓練へと移ることになった。
ちなみに、実機訓練は今は使い手のいない第207訓練部隊の吹雪だ。
吹雪、高等練習機に乗ることに抵抗はなかったようだが、何故吹雪が練習機たるかは理解できたらしい。そもそも、不知火に乗るのならば、これまでF-15Cに乗っていたからには機種転換訓練と世代差を埋めるために乗らされることを想定していたらしい。
F-15というか米国製戦術機と日本帝国製戦術機の挙動の齟齬や、XM3の即応性を生身で感じて訓練をすることで身に付いたと判断したらしい。
XM3完熟訓練開始から5日で、祠堂大尉がA-01への合流を希望していることを霞から聞かされたのだった。
俺としては、最低でも1週間はかかると思っていた。だが、シミュレータや実機が空いているということもあってか、かなりの時間を訓練に費やしたらしいことを霞から聞かされた。
『……準備はいいですか?』
『準備は何も霞ちゃん。大丈夫なんですか、白銀クンは?』
霞から演習について聞かされたのは今朝。事前に整備班長と、ある人に頼んで今日のために用意していた。ほとんど感覚は覚えていないものの、機体は使い慣らされている。舐めらかな動きをする操縦桿とフットペダル。清掃が行き届いており全く不快感がないどころか、ほのかに優しいいい香りの漂う管制ユニット。
『……大丈夫です』
『ですが流石に正規兵の戦術機6機、纏めて掛かって来いだなんて……』
『……問題ない、です』
『本当に大丈夫なんですか~?』
まりもちゃんの
分からせるには実力で捻じ伏せる、的な風潮は前からあったような気がしなくもないが、俺もその風潮に感化されてきた気がする。祠堂大尉たちと顔を合わせた後、霞には演習ではこのような状況にするように俺が伝えていた。つまり、感化されてきた気がするのではなく、率先してその風潮に則って行動していると言った方が正しい。
頭を振って、演習前に関係ないことを思考から追い出し、目の前の状況に集中する。
「大丈夫ですよ」
俺は平静な態度で通信に割り込む。
『俺たちがXM3をどれだけ使い熟しているのか、その目で見てきたのか?』
食って掛かったのは、祠堂大尉の部下ではなく、別の部隊から引き抜かれた衛士だ。他にも2名があざ笑うような態度で振る舞う。
『それに白銀少尉は撃震じゃない。祠堂大尉の話じゃ改造されたF-15Jに乗っていたり、A-01の連中は吹雪や不知火に乗っていたと聞いているわ。アイツらは大げさに話していたけど、大したことないんじゃない? ルーキーによくあるビギナーズラックってやつよ』
『白銀少尉の動きが変態だとも聞いたぜ。よく分からねぇが、やってみりゃ分かるだろ』
A-01では少し珍しくなりつつある、日本人ではない衛士。それが別の部隊から引き抜かれた精鋭だった。
『大尉たちがどんなのを見てきたのか知らないけれどね、この目で見ないの信じないのよ。A-01のガンカメラを見せられたところで、本当にその機体に白銀少尉が乗っていたのかなんて分からない。だから証明して頂戴』
元シールダーズではない衛士たちの口上を聞いても、返事を返すことはない。彼らが言ったのだ。口ではなく行動で示せ、と。その流儀に俺は賛同する。
霞が通信で開始の確認を取るのを聞きながら、機体の調子を再度確認する。
整備は万全に行われており、俺用に調整も行われている。操縦桿やフットペダルの調子はまりもちゃんの使ったままになっているが、特に問題はない筈だ。おかしな動きをすることもなければ、入力に誤差があるなんてこともない。
『……JIVES起動。両隊は作戦を開始してください』
霞の号令を合図に、跳躍ユニットを唸らせる。
『……勝利条件はどちらかの隊が全滅した場合のみとします。
かなりシビアな条件だが、俺はこの条件で何度もA-01の相手をやらされてきている。今更何とも思わない。
開始地点から飛び上がり、空中に一度静止して周囲を走査する。今回演習を行なっている第2演習場は山間部を利用している。あまり対AH戦演習の経験のない環境ではあるが、恐らく市街地や廃墟よりも索敵は簡単の筈だ。反対に姿を隠すことは難しいと思われる。山陰や谷、崖等ならば戦術機の全高と同程度あったとしても、走査レーダーには恐らく引っかかってしまう。
それらを考慮し、第2演習場で演習を行なうことが決まった時点で、俺は作戦を考えていた。
作戦は簡単だ。逃げも隠れもしない。正面から6機を相手に戦う。背中を見せたら逃げ回ることも難しい筈なのだ。
「こっちから仕掛けるぜ!!」
熱源センサーに6つの反応があり、すぐさま望遠カメラで確認すると、そこには隊列を組んで移動を始めている6機の吹雪の姿があった。
確認するまでもなく、祠堂大尉らβ隊だ。
跳躍ユニットの偏向ノズルと接続部のアームが可動し、水平方向のモーメントによって機体が前進を始める。そのまま前傾姿勢になるよう機体を倒しながらも、左手の多目的追加装甲を正面に構えながら、右手の突撃砲を正面に向けて安全装置を解除する。
射程圏内に入り次第、120mm滑腔砲を3発放ち、隊前列の予測進路上にばら撒く。
『隠れずに堂々と?!』
近距離回線が相手の言葉を拾い、β隊が不意を突かれたことを確認するが、攻撃の手を緩めることはしない。
幸い、β隊が通過していたのは大岩が転がっている地点。設計段階からこれまで丈夫さが取り柄の撃震のお箱であり、俺もよく使っている機動制御を行なう。
維持していた前傾姿勢を解除し、両足を前に突き出す。そのまま大岩に接地すると、屈伸運動をしつつ逆噴射跳躍を行い、鋭角に機動偏向する。身体に急激なGを受けて一気に頭から血が引くのを感じるが、そのまま意識を保ちながら攻撃を繰り出す。
残っていた120mm滑腔砲を撃ち尽くし、多目的追加装甲で36mmチェーンガンの弾丸を弾く。初撃もそうだが、ダメージを与えられているとは思っていない攻撃だ。破片によって装甲や四肢に軽く損傷を与えて、動きを制限できれば御の字と考えていた攻撃。当然ではあるが、回避される。
しかし、その回避にできた隙を突く。旧OSの癖が抜けていないのだろう。先行入力とキャンセルの併用でもっと素早い回避ができる筈なのに、それをしないのだ。
跳躍ユニットを偏向させ、機体を回避が遅れた機体に差し向ける。突撃砲で斉射してもいいが、確実性に欠ける。ならば、と多目的追加装甲を横薙ぎに振り抜く。
『……β2胴体断絶、大破、戦闘不能』
そのまま多目的追加装甲で銃撃を受け止めながら、バランスを崩している吹雪に肉薄。装甲を押し付けて仰向けに倒すと、そのまま管制ユニットを踏み抜き、追加装甲で打ち付ける。
『……β6管制ユニット圧潰、衛士死亡』
追加装甲はそのままに、跳躍ユニットを前へせり出させてロケットモータを点火。正面に集まりつつあったβ隊から一度距離を取る。追跡しつつあるが、動きが全体にぎこちないβ隊から距離を離すことに成功した。
そのまま一息吐き、すぐさま態勢を整える。追加装甲は喪失。突撃砲も120mm滑腔砲弾は0だ。リロードしなければならないが時間がかかる。36mmチェーンガンは残弾にまだまだ余裕があり、1800発超残っている。
すぐさま背面の兵装担架から長刀を引き抜いた。左手に長刀、右手に突撃砲。他の残している兵装は、長刀が担架に1振りと短刀が2振りのみ。現状、撃墜したのは6機中2機だけ。残す4機は万全の状態のままだ。
これだけの交戦で、相手がまだXM3に慣れていないも完熟もまだまだなことも十二分に分かった。それでも俺のしなければならないことに変わりはない。彼らをことごとく潰すこと。それだけだった。XM3を使い熟し、圧倒的な状況で勝利する。そうしなければ、彼らも敗北を認めないかもしれない。それは俺のこれまでの経験則だった。
跳躍ユニットのロケットモータが唸り声をあげ、今にも浮かび上がりそうな状態を維持しながら残る4機の吹雪が接近してくるのを待つ。隠れることもしない。丁度いい距離まで接近させ、一気に肉薄し、全て平らげる。受けるダメージは考えない。全て回避すればいいのだ。
「うぉらああぁぁぁぁぁぁ!!!!」
一気にスロットルをし、整然と隊列を組む4機の吹雪に向かって一直線に突撃する。
そして数分もしない内に、聞き慣れた静かな声で聞こえてくるのだ。
『……β隊全機撃墜、作戦終了』