Muv-Luv Alternative Plantinum`s Avenger 作:セントラル14
[1997年12月16日 帝国軍白陵基地 国連軍専有区機密区画 第3シュミレータルーム]
この日まで、俺はずっと身体錬成を続けてきた。トレーニングルームに通って運動、訓練、訓練訓練訓練……。食事は基本的に兵士用のものを食べていた。たまに純夏と共に勉強したりもしていた。結局、一日の大半を錬成・勉強・小間使いをしていただけだったが、今日からそれも卒業である。
俺と純夏が共に14歳を迎えた日、俺は本格的に夕呼先生の命令を受けて極秘作戦を請け負うこととなっていたのだ。それに、今まで錬成があっても戦術機に関わる訓練がなかったのにも理由があるのだ。
「じゃあ、β版XM3のシミュレーション運用開始。OSに白銀の機動特性を教育し、先行量産型を完成させなさい」
「了解!!」
「発案者である白銀はシミュレーションでのデータ収集後は、一昨日搬入させた97式戦術歩行高等練習機 吹雪による実機データ収集を行うこと。既にCPUの換装は済ませてあるわ。実機に移る際、プログラマーの社かプログラマーアシスタントの鑑がOSのインストールを行いなさい」
「「はい!!」」
「……分かりました」
ぶっちゃけ、夏が終わる頃にはXM3のβ版は完成していた。しかしシミュレーションも実機テストも見送らざるを得ない状況にあったのだ。俺の機動特性はどの戦術機でも行うことが出来るのだが、それでもデータ自体は高機動戦闘を主眼に置いた第3世代戦術機で行うことが無難だったからだ。
それで、データ収集に最適だった機体が吹雪。前の世界でも吹雪でそれを行ったのなら、今回、今手に入る最新の第3世代機 94式戦術歩行戦闘機 不知火を使うよりもいいという判断を夕呼先生がしたのだ。別に不知火の跳躍ユニットをダウングレードしてもよかったらしいが、面倒だからという理由で案が棄却された。
吹雪を入手するという前置きがあり、夕呼先生は機体を手に入れる手回しをしていたということだ。だがA-01発足時に、機種転換訓練で使用したものがあったのにも関わらず、『訓練部隊に回したので余剰機がなかった』ということだった。
シミュレーションデータは簡単に入手出来たが、実機を用意出来なかったという点からここまで開発が遅れた。それに、搭乗する衛士が13歳というのも問題だったらしい。
帝国斯衛士官学校では元服を終えた少年少女が衛士としての教導を受けることが出来る。基本的には将軍家や将軍家縁者の護衛を任としている城内省管轄の独立武装組織だが、対外的には日本国内にあるもう1つの帝国軍ということになっている。
幼少の頃から武術に触れている彼らの風習を隠れ蓑に、俺を衛士として仕立てるというのが夕呼先生と俺とで相談した筋書きでもあった。何か言われようにも『帝国斯衛軍と同じで、白銀 武も軍事訓練を受けている』ということで、強引に是を言わせるものだ。
建前は幾らかあったものの、本心としては、俺を実働状態に持っていくというものだった。現段階では俺の存在は夕呼先生の手札にはならないというのもある。それに、俺の目的も果たすことは出来ないのだ。
※※※
「ぐぅぅぅぅぅぅぅ!!!!」
鉛色の空。大地を埋め尽くすBETA。俺は単機で地上を、空を駆け抜けていた。87式突撃砲は唸りをあげ、関節部と
BETAの波間を休むことなく駆け抜ける。
『データ収集率87%』
「ぐっ、ぉおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
やがて87式突撃砲は36mm、120mm双方の弾が切れる。腰部予備弾倉を取り出すが、今の補給で全てなくなった。
迫りくるBETAに再び照準を向け、跳び上がる。
『データ収集率92%』
「あ”あ”ぁぁぁぁぁぁぁ!!!! はあぁァァァァァァァ!!!!」
駆けろ、駆けろ。止まることは許されない。既に突撃砲は破棄し、長刀もこれでもかという程振り回した。先程折れたため、切っ先は要撃級の背中に突き刺したまま、半ば折れた長刀を振るいながら突き進む。
『データ収集率99%』
「……ッ!!」
長刀も投棄。次いでに戦車級が集まっているところにぶん投げ、最後の兵装を装備。二振りの短刀を持ち、いつから入っていたか分からないハイヴを駆け抜ける。
『データ収集率100%。データ精査に入ります。……白銀さん、お疲れ様でした』
「はぁ……はぁ……」
そんなこんなで、俺はシミュレータルームでシミュレートデータの収集を行っていた。稼働データからバグを探して潰す。これからはそんな単純作業が続く。
網膜投影上に映し出される霞のバストアップ映像から、今後の予定が伝えられた。
『……この後、純夏さんとプログラム修正を行います』
「はぁ……頼んだ……。次はいつになるか分かるか?」
『……明日です』
「分かった。じゃあ俺は上がるよ」
『……はい』
「お疲れ様」
俺は筐体から降り、背伸びをした。夕呼先生に言われてから、すぐに霞と純夏がOSのインストールを始めて、終わったらすぐに俺はシミュレータに乗っていた。それから休憩なしのデータ作業は、時間間隔を狂わせる程に集中していたみたいだ。
「午後7時か。シミュレータに乗ったのは2時過ぎだから、正味5時間ってところだな」
我ながら長時間搭乗をしていたようだ。普通ならば3時間程で休憩を入れるが、俺は休憩なしで5時間も搭乗していた。
「おぉっと……、あぶねぇ」
そりゃフラフラにもなるな。足取りがおぼつかない。筐体の中で霞と話したが、管制室にいるであろうから直接顔を見てから帰ることにしよう。
管制室を覗き込むと、霞がデータを記憶媒体に保存しており、その隣で純夏がラップトップを弄っていた。
「お~、霞おつかれ~」
「……はい。白銀さんもお疲れ様でした」
「5時間も乗ってたなんて、さっき気付いたぞ。いやぁ~、意外と体力が付いててよかった」
「タケルちゃん、やっぱり戦術機に乗ると変態になるね。普通、あんなに乗ってられないよ」
「変態ってなんだよ!? 俺は普通だ!!」
「やーい、変態ぃ~!! 香月先生も『アイツは変態だ』って言ってt」
丁度近くにあったビニールスリッパを折り曲げ、純夏の頭に振り下ろす。スパーンと小気味よい音を鳴らした。
「あいたーーーー!! なにすんのさ!!」
「俺は変態じゃない!!」
「どーしてそんなポンポン叩くのさ!!」
「お前が変態呼ばわりするからだ!!」
「事実じゃん!!」
「ちげーし!!」
そんな言い合いをしていると、霞が『……コピー完了しました。……またね』と言って管制室から出ていってしまう。手伝いをしていた純夏が俺と言い合っているから、1人で始めようとしているんだろう。
「純夏」
「なにさ!!」
「霞、もう行ったぞ」
「え? あ、待ってよ~~!!」
今日からこんな日が続くのだ。恐らくβ版XM3完成は半年以内に終わるだろう。XM3の基礎概念は俺、プログラマーは霞、制御系ハードウェアは夕呼先生。ついでに純夏も。開発陣全員が完成形のXM3を知っている人間だ。しかも前回の開発では、時間に迫られていた。先生曰く『開発に費やしたリソースは少ないわよ』とのこと。今回はかなり手を入れて制作している。精巧なプログラミング、入念なテストを行い作り上げるXM3は、きっと前の時よりもいいものに仕上がる筈だ。
独り背伸びをしてシミュレータルームを後にする。
※※※
[1997年12月30日 帝国軍白陵基地 国連軍専有区第3演習場]
極度の緊張状態だ。管制ユニット内で独り、今か今かと網膜投影映像を見ていた。跳躍ユニット・主機の出力を落としてアイドリング状態にする。
突撃砲のトリガーに掛かっている指と、出力を落としているフットペダルに掛かる足が攣りそうだ。呼吸も徐々に浅くなりつつある。
刹那、レーダーに反応。
「っ!!」
望遠映像に移るのは……。
「っクソォォォォォ!! 戦闘データが欲しいとか夕呼先生のバカァァァァァァァ!!!!!」
『あら、まだ相手も1機だけだからいいじゃない。本当だったら一個中隊とか当てるつもりだったけど?』
「夕呼先生ありがとう!! ホントありがとう!! やっぱり聖母だな!! うんッ!!!!」
鬼がいる。やっぱり、どこの世界に行っても夕呼先生はそのままだ。
一方、状況が激しく動き出していた。俺が乗っているのは吹雪XM3搭載機。既にβ版も佳境に入り、霞曰く「ほぼ完成しました」とのこと。今XM3に必要なのは、ロールアウトまで漕ぎ着くこと。そのためには戦闘経験が必須。それが演習であったとしても、だ。そのため、夕呼先生は模擬戦を企画したのだ。
相手は77式戦術歩行戦闘機 撃震。衛士は……
「まりもちゃん……やっぱり強いな!!」
神宮司 まりも軍曹。夕呼先生の親友で悪友。元日本帝国軍富士教導団のエリートで、今は帝国軍白陵基地第207衛士訓練部隊の教官を務めている。そして、俺の恩師の1人だ。
九・六作戦の初陣からしばらくの間、東アジア戦線で暴れまわった歴戦の衛士。初陣から配置転換までの間、大陸で無慈悲に残酷にBETAを狩る様は『狂犬』と言われる程の人物。帝国軍内でも名の知れた熟練衛士。
まりもちゃんの強さは俺には身に沁みていた。兵科教練、戦術機教習等々実技や、その立ち居振る舞いや心構えまで。訓練生として2回教えてもらっているが、まりもちゃん以上の教官は居ないだろう。
俺はそんなまりもちゃんを相手に戦っているのだ。
砲撃戦を数合、近接戦を一度している。だが、致命傷を与えられていない。俺もダメージは受けていないが、それだけの戦闘をしてもまだ、撃墜には至っていないのだ。
チャンスが舞い込む。釣り出しに出たまりもちゃんに突っ込み、近接砲撃戦を仕掛ける。XM3の先行入力とキャンセル、コンボがあれば、常に入力を続けなければならない近接戦で大きなアドバンテージになるのだ。
現に目の前のまりも機の撃震の動きが、俺の吹雪に追いついていないのだ。追いかけ回し、攻撃を繰り出し、誘い、ダメージを与える。離脱しようにも、俺が退路を塞ぐため、行動が制限されている状況だ。
遂に逃げるのを諦めたのか、跳躍ユニットを前へ迫り出しバックブースト。急制動を掛け、正面の崖を蹴ってこっちに飛んできたのだ。
チャンス。すぐに長刀を振り抜く。背部左マウントが持ち上がり、火薬式ノッカーが
『神宮司機、胴体両断。大破。演習終了です』
※※※
機体をハンガーに戻すとキャットウォークに純夏が来ていた。企画主催の夕呼先生は別の所にいるのだろうか。管制ユニットを開放して降りると、純夏が俺を出迎えてくれる。
「お疲れ様、タケルちゃん」
「おー、純夏。ヤバかった気がするんだが、どうだった?」
「多分大丈夫じゃないかなぁ。結局勝ったし」
「それでいいのか、本当に……」
「大丈夫だと思うよ~。それと香月先生から伝言。第5ブリーフィングルームに集合。一度着替えてから来なさいって」
「了解。伝言ありがとう、純夏」
「どういたしまして~。じゃあ、私は吹雪からデータ吸出しがあるから」
「あと頼むな~」
ラップトップを脇に抱えた純夏が、俺と入れ替わりで管制ユニットに入り込んでいく。俺はそれを見ると、そのまま夕呼先生がいるという、第5ブリーフィングルームに駆け足で向かうのだった。
※※※
[同日 国連軍専有区機密区画第5ブリーフィングルーム]
ブリーフィングルームに入ると、夕呼先生と久々に見る強化装備を着た女性の後ろ姿があった。主観で言えば半年程度だが、体感はかなり長い間会っていないような気がする。
「来たわね」
「ちょっと香月博士!! 説明を要求します!!」
「キャンキャン煩いわね、まりも。アンタの求める説明は、コイツが来てからじゃなきゃ出来ないのよ」
夕呼先生にそう言われたまりもちゃんは、俺の顔を見ると心底驚いた。愕然という言葉の方が当てはまるかもしれない。信じられないものを見た、とも言える。俺を観察したまりもちゃんは、そのまま夕呼先生に掴みかかろうと攻め寄るが、先生はそれをあしらいながら話を始める。
「貴女ッ!! この子、国連軍の軍服を……?!」
「はいはい。それもこれもアンタに説明するから、ちょっと落ち着きなさい」
「ふーっ、……それで、説明をお願いします。香月博士」
流石、切り替えが早い。とはいえ、気になっているのは目に見て分かる。俺と夕呼先生の顔を何度も往復している目を見れば、さっさと説明して欲しいといったところだろう。
夕呼先生はすぐに説明を始める。
「まりもには始め、『調子に乗ってる新任少尉がいるから、叩き潰してあげなさい』って言ったわよね?」
「えぇ。訓練校を主席で卒業、戦術機適性は通っていた訓練校歴代1位、教官をのして任官した傲慢な新任少尉の相手をしろとおっしゃいました」
「で、結果はまりもの惨敗」
「そんなことは分かっています!! ですが、あの吹雪の機動は常軌を逸していました。硬直時間もほぼなく、次々に繰り出される複雑且つ奇っ怪な機動制御。挙げ句、光線級がいつ撃ち抜くか分からない空を飛びました。確かに衛士としての技量は新任少尉にしては高いですが、もっと別の要因があるように思えるんです」
「流石まりも。気付いているじゃない。そう、まりもが相手にして吹雪には、私の研究の副産物を利用した新OSを搭載してあったの」
「新OS?」
「正式名称はXM3。特殊な機動概念を持つ衛士の提案を私が採用。先行入力・キャンセル・コンボと呼ばれる機能を追加・最適化したOSと、OSを動かすために必要な演算処理能力を戦術機に与えるため、私の研究からスピンオフした並列処理半導体を使用したCPUを搭載しているわ。分かりやすく言うと、追加された機能以外にも副次的な効果として、戦術機の反応速度が約30%アップしているわ。この意味、分かるわよね?」
「え、えぇ……。それだけ反応速度が上がれば、レスポンスがシビアにはなるけど、今よりも繊細な機動が実現できます」
「そうね。反応速度向上に加え、処理待ちをしている機動制御シグナルに強制的に介入、別のシグナルの優先度を上げて操作を行う先行入力。実行中・処理待ちの機動制御シグナルを削除することで実行中の動きを中断したり、誤った入力を消去することの出来るキャンセル。衛士の入力した機動制御シグナルをパターン化し、一定の入力以上を行うと自動で機動制御を実行するコンボ。これらの機能によって、これまでの戦術機の制御は格段に簡略・円滑化しているわ」
「スタビライザの自動制御で転倒中に受け身を取る強制入力時に実行中の機動制御シグナルを先行入力とキャンセルを行うことで、受け身をキャンセルして倒れた状態で離脱も出来る、ということですか」
「そういうこと」
「なるほど……。非常に気になるお話ですが、そこにいる子は?」
「あぁ、そいつは白銀。OSの基礎概念の持ち主よ」
平然とそう吐き捨てた夕呼先生に、まりもちゃんは遂に目が点になった。恐らく、負荷オーバーでも起こしたんだろう。すぐさま再起動が掛かり、まりもちゃんは俺に話し掛けてくる。
「わ、私は極東国連軍 第207衛士訓練部隊教官 神宮司 まりも軍曹です」
階級章を見たらしく、敬語で俺に話し掛けてくる。
「俺は極東国連軍……えぇと、俺ってどこの所属ですか?」
「……私の助手」
「極東国連軍 香月 夕呼大佐相当官付の白銀 武少尉です」
変な肩書になった。始めはTF-403と言いかけたが、一度夕呼先生に確認の意味を含めた視線を送って正解だった。どうやらまりもちゃんには知らせるべきでない話だった。
「……っ」
「……」
沈黙が俺とまりもちゃんの間に流れる。それを夕呼先生が壊した。
「ちなみにさっきの吹雪の衛士、コイツだから」
「えぇーーーーっ?!?!?」
まりもちゃんの感情は、このブリーフィングルームで何回切り替わったのだろうか。俺は夕呼先生とまりもちゃんの言い合いを遠目に見ながら、今後のことを考えるのだった。
夕呼先生が俺を人前に出した、ということは、今後はもっと動くことになるという前兆のような気がしてならなかったからだ。きっとそれは危険なことでもあるだろうし、夕呼先生のためになることでもあるだろう。そして、ゆくゆくは俺と純夏のためになることだ。
覚悟を決めなければならない。俺は再び、この世界で戦うことを覚悟した。
「も~~!! 夕呼のバカ!! 上層部に知られたらとんでもないことになるわよ!! し、少年兵だなんて!!」
「あら、そんなこと言ってもいいのかしら? これでも19よ」
「じ、19ぅぅ!?!?!?」
それは嘘。まりもちゃん、夕呼先生の嘘に騙されないで……。