Muv-Luv Alternative Plantinum`s Avenger 作:セントラル14
[1999年8月7日 国連軍久留里基地]
横浜ハイヴ跡地から脱出した俺たちは、久留里基地に帰還していた。これまでに何度も世話になっている基地ということもあり、すんなりと着陸許可が下り、A-01が駐機しているエプロンへ案内される。
一個連隊分用意されていたであろうエプロンも、明星作戦が終わった今じゃ半数も埋まっていない。それも、停まっている機体も状態のいいものはあまり残っていなかった。
「元々二個大隊規模のA-01が一個大隊になっているだなんて……」
「偵察と情報収集が目的だった筈なんだけど、不意遭遇戦が多くなったか、否応無しに前線補強のために戦ったかだな」
純夏の呟いた言葉に、俺は淡々と返す。思い入れの深い部隊だが、切り離して考えないと駄目だ。俺の知っているA-01、ヴァルキリーズはここにいない。まだ先の未来に生き残りで編成された部隊なのだから。
データリンクを介して今のA-01の情報を確認する。
連隊の主幹である第1中隊のオーディンズは大半が生き残っているが、それ以外は壊滅だ。小隊が組めればいいだろう、という程度。光州作戦の時は多く生き残ったというのに、今回これだけの被害を被った理由は、恐らく夕呼先生が推測してくれるだろう。
生き残りのIDを見ていくと、数人見知った人物が確認できた。伊隅 みちる、速瀬 水月、涼宮 遥、鳴海 孝之、平 慎二。
歴史が大きく変わっている。最初の3人は生き残ることは分かっていたが、鳴海 孝之と平 慎二はこの戦いで死んだ筈なのだ。俺のよく知る"速瀬 水月"から聞いている。記録でも見たことがあったのだ。
その他にも見知った顔ぶれがいた。
「エイル1……祠堂大尉?」
『む、その声は白銀少尉か?』
思わず声を出してしまい、オープン通信から祠堂大尉が応答してきたのだ。その応答から、次々とエイルズの面々が回線に入ってくる。永代中尉、エストラーダ中尉、黒田少尉、フリンカ少尉、イルハーム少尉。訓練を見た全員が生き残っていたのだ。
「お久ぶりです」
『あぁ、随分と久しいな。しかし、IDがいつもと違うようだが? 何だ、ラビット1とは?』
「あー、コイツは俺の機体じゃないんですよ。ハイヴの中で潰しちゃいましてね」
『それで運良く近くにいた
癖のあるボブカットされた赤髪を揺らしながら微笑む祠堂大尉に、聞き覚えのある女性が割り込んでくる。
『あーっ! 白銀クンだ!』
「永代中尉……お元気そうで」
『元気も何もないですよぉ。A-01ヤバいです。白銀くん風に言えば、マジでヤバい。特殊部隊だって聞いて来てみれば、想像の遥か上を行くヤバさじゃないですか。練度と連携の高さは勿論、要求される任務だって……。今回だって偵察と情報収集が任務だった筈なのに、いつの間にか少数で敵中突撃、
「冗談も言えないくらいに疲れ果ててよかったですね、祠堂大尉」
『全くだ』
いつもなら冗談を飛ばしながら絡んでくる永代中尉も、今回ばかりは大人しい。他の一般部隊がどうなのかは分からないが、A-01に要求される任務はそれを凌駕しているという。
A-01に限った話ではないだろう。今回は大規模作戦ではあったが、通常の作戦であったとしても
損耗している永代中尉もそういった経験が何度もしているだろうに。
そのようなことを頭の中で考えながらも、指定された駐機位置に機体を止める。近くからワラワラと地上要員が集まり始め、機体に取りつき始めた。
「純夏。休憩だ」
「うん!」
純夏に一声かけ、管制ブロックを開放する。外から嗅ぎなれたイやな臭いに顔を歪ませつつも、後ろでゴソゴソ動く純夏に顔を向ける。
純夏はラップトップと配線を触っている様子。「あ~、これ片付けなきゃなぁ」とか呟いている。自分でやったんだろうが。
機体から降りてガントリーで一息吐きながら、今日起こったことを整理する。といっても簡単なことだ。米軍から逃げてハイヴに飛び込み、"何か"を見て気を失い、純夏がF-14 AN4で助けに来た。それだけ。
しかしながらよく考えてみると、純夏が戦術機に乗って助けに来るってどういうことなのだ。
「なぁ、純夏」
「なぁに?」
訓練兵上がりの新兵である純夏が何故ここにいるのか。
「いやまぁ、さっきも言ったけどありがとな」
「いいってことよ。タケルちゃんが無事だったんだし」
「だけどな、一つ、気になることがあるんだ」
「ん? 気になることって?」
「なんでここに純夏がいるのかってことだよ」
ファストエイドキットが入っているハッチを開き、そこへラップトップを入れていた純夏がこちらを向く。配線は全て綺麗に束ねられており、もう機外に出ようとしていたところだったようだ。
「そんなのタケルちゃんを助けに来たに決まってるじゃないのさ~」
あっけからんとそのようなことを言いながら笑う純夏はいつも通りだった。いつも通りだったが故に溜息が出る。
「はぁー。その辺は感謝してる。けどな」
「うん」
俺は久留里基地に戻ってくるまでの間、考えていたことだ。
地上にいた時は米軍に追いかけ回されていたが、それだけで助けに来るとは考え難い。そもそもそんな状況で救助や援軍を送ることもあり得ない。夕呼先生は特に何も手出しをしない筈だ。
それならば、ハイヴに分隊で突入したからだろうか。それもあり得ない。理由は同じ。たった2機であったとしても、戦域データリンクの情報を見て、夕呼先生が『2機でハイヴ攻略に行ったから、今からでも援軍を出そうか』等言い出さない。ならば、理由は何だったのか。
そもそも根本的に援軍だというのならば、純夏を単機で送り出す意味が分からない。そう考えるのならば、
「なんでお前、単機なんだ? 俺を助けに来てくれたのは有難いけど、単機である理由が分からない。A-01は全隊出撃して残存機はここにいるし」
「え、えっと……」
言い淀んだ。これは後ろめたい何かがあるのに違いない。スッと純夏を睨んでやると、アホ毛をしょぼんとさせた純夏はあっさりと白状し始める。
「タケルちゃんが撃墜される、そんな気がしたの」
「は?」
「だからいてもたってもいられなくって、
「勝手に出撃したってことか?!」
「そーいうことになります……」
思わず、大きい溜息を吐く。
「命令違反、戦術機略奪、それの私的使用」
「そこに器物損壊も追加で」
「はぁ……」
頭が痛い。
「オマケに作戦戦域に無断突入。訓練兵上がりが安全確認のできていないハイヴに単機突入」
「っ……」
前部座席から身を乗り出し、純夏の頭に手を伸ばす。殴られるとでも思ったのだろうか、身体を縮こませているがそんなことはしない。
ふわりとアホ毛を手の平で圧し潰しながら頭を撫でる。サラサラとした髪が指の間を通り抜け、それと同時にポカンとした純夏が俺のことを見ていた。
そんな彼女に俺は言いたかったことを言う。
「こんなことはもう止めろなんて言えない。俺がお前だったなら、きっと同じことをしただろうさ。けどな」
言葉に詰まりながらも続ける。
「けど、それでお前が死んだら、俺はどうしたらいいんだよ。俺のために馬鹿やって、それで死にました、って。どんな顔して霞や同期、おばさんに会えばいいのか分からないから」
「……うん」
さっきまではいつも通りの純夏だったが、今は静かに俺の言葉を聞いている。これまでの俺だったらビニールスリッパで殴っていたかもしれない。だが、今回はあっても使うことはしない。これが正しい選択だ。
純夏の頭から手を離し、機体をアイドリングモードに切り替える。主機の出力が落ちてAPUに切り替わる。
管制ユニットから降り、空を見上げる。
既に陽も落ちている。星灯りが辺りを照らし、戦術機が鈍く光を反射する。俺に続いてた降りてきた純夏が長い髪を振り払いながら、俺の後ろをちょこちょこと歩く。
「そういえばハイヴに入る前、神宮司教官が久留里基地に戻ってきたのを見たよ」
「神宮司大尉が?」
「うん。自動操縦で」
「自動操縦? 負傷でもしてたのか?」
「ううん。負傷している様子もなかったし、機体だって損傷してなかった」
そう話す純夏の表情は明るくない。だが、何となく彼女の言わんとしていることが分かったような気がする。
全ての様子を聞かなくても分かる。まりもちゃんはよくない状態なのだ、と。
「どこにいるか分かるか?」
「A-01駐機エリア外縁部、防護壁の近くだよ」
「分かった」
純夏に礼を言いって駆け出す。行き交う整備兵と保守装備の数々。間を縫うように久留里基地の外縁部に向かった。
※※※
それはすぐに見つけることができた。数ある
近くの機体からAPUの駆動音と排気される熱を感じながらも近寄っていくと、ガントリーに固定された機体の横で座っていたまりもちゃんの背中が見えた。
その背中は落ち込んでいるように感じられた。
「神宮司大尉」
「その声は……白銀君?」
いつものように『白銀少尉』と呼んでこない。相当参っているんだろうな。俺はそのまままりもちゃんの背中を見たまま、話し始めることにした。
「神宮司大尉も、無事に帰還されていて良かったです」
「……」
「……純夏に聞きました。久留里基地に自動操縦で帰ってきた、って。何か損傷でも受けたのかと思ってましたが、純夏の言った通り、特に攻撃を受けているようには見えませんね。安心しました」
「……」
まりもちゃんはこちらを向かないし返事もしてこない。これは話しかけるな、という意思表示なのだろうか。だが、俺は言葉を続ける。
「ちょっと俺の昔話に付き合ってくれませんか? 何も返事してくれなくても、俺はここで続けますけどね」
そう切り出し、俺は話し始める。話すことは多くもない。そして面白くも何ともないこと。
「俺には恩師が2人いるんです。1人はまぁ、夕呼先生です。俺を拾ってくれた。あの人はいつも真面目なのかふざけているのか分からない態度ですけど、やることはやってるし、自分の"やらなければいけない"ことに必死になって立ち向かって進み続けてる。目の前には敵ばかりで、仲間なんて数えるほどしかいない。そんな人」
まりもちゃんは返事を返さない。
「もう1人は俺の先生」
「……っ」
「聞いたことがあります。神宮司大尉は元々教員志望だったって」
「……」
あの丘の上の学校で、いつも世話しなく生徒に振り回され、夕呼先生に振り回されているあの姿が脳裏に浮かぶ。
「その恩師、先生は色々なことを教えてくれました。勉強はもちろんですけど、生き方、戦い方、心の持ち方も」
まるで映像の場面が切り替わるように、色々な情景が映っては消えていく。
「何でもないことでも褒めてくれて、悪いことをしたら本気で怒って、怒っていたら困った顔をして宥めてくれて、落ち込んでいたら黙って傍にいて励ましてくて、泣いていたら黙って膝を貸してくれました」
夕焼けに染まる演習場に横たわる吹雪。それを呆然と見ていた俺のことを気遣ってくれた。優しい声で話しかけてくれた。そんな俺の最高の恩師。
この世界のまりもちゃんは違うけど、どの世界にいてもまりもちゃんはまりもちゃんなのだ。
「その先生がある時俺に言ったんです。『臆病でも構わない。勇敢だと言われなくてもいい。それでも何十年でも生き残って、ひとりでも多くの人を守って欲しい……』って」
フラッシュバックする。"あの時の記憶"が。だが、堪える。堪えられた。
「唐突な初陣で生き残った俺に、そう言ったんです」
そして言いたかったことを言う。
「……確かに神宮司大尉は俺を見捨てました」
「っ……」
「だけど、それは軍人として、衛士として正しい判断です。目先のことに囚われず、何が最善なのか、何が人類のためになる選択なのか」
小さく呟く。
「俺が死んだとしても、神宮司大尉が生き残ったのなら、それで救われる人がいる。2人とも死ぬより、1人生き残る方が、それだけ誰かを守る力であり続ける。俺の遺したモノを、神宮司大尉が引き継いでくれる。俺がやり遂げたかったことを、神宮司大尉に肩代わりしてもらえる」
次々と降り立つ戦術機や機械音に搔き消されまいと声を出す。
「あなたの想いを託した