Muv-Luv Alternative Plantinum`s Avenger   作:セントラル14

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episode 51

 

[1999年8月13日 国連軍仙台基地 TF-403ハンガー]

 

「……はぁ~」

 

 俺はあまり整備兵のいないハンガーで黄昏ていた。理由は1つしかない。

目の前には戦術機のないガントリーが1つ。そして見るも無残に破壊されたガントリーが1つ。

 空席のガントリーには俺の戦術機が駐機してあった。それほど使っていない不知火があったところ。破壊されたガントリーの奥には、明星作戦から戻ってきたF-14 AN4があるのみ。

一応、F-14 AN4も俺の機体ではあるのだが、基本的には乗らないことになっている。そもそも使うようなことは基本的に俺は想定していないし、霞と純夏がいじっている機体だ。取り寄せた夕呼先生は利用用途を把握しているだろうが、俺にはそれが分からない。専ら、2人の遊び道具というかおもちゃみたいなものだと思っている。散々助けられてはいるが。

 

「……はぁあ」

 

 つまり俺は、ここで自分の乗機のないという何処へもぶつけられない不満を嘆いていたのだ。

 

「どーしたの、タケルちゃん?」

 

「どーしたもこーしたもねぇよ。俺の機体、横浜ハイヴの第7層で大破してんだよ。お陰で衛士なのに戦術機がない、使い物にならない奴になっちまったと思ってな……」

 

 近くで荷物を運んでた純夏が足を止めて、俺の独り言に返す。

 

「何言っているのさ。ミケネコがあるじゃない」

 

「F-14 AN4 コアトランスポーターには乗らねぇ……。ないなら仕方なく乗るが、どうもな」

 

「なるほど。近接格闘戦に向かないからね、ミケネコは」

 

「どーせ、オマエと霞のことからだ、長刀を使えるように調整しているんだろうが、元々はそういう使い方を想定していないからなぁ」

 

「うん。調整はできているけど、F-15C Extraくらいまではできないかなぁ。それは香月先生に止められたし」

 

「なんでやねん」

 

 アホ毛をみょんみょん動かしながら朗らかに答える純夏に、俺はただ短く答えて思い返す。

 A-01と共に帰還した俺は、その後に行われた報告で初めて詳細な戦況を聞いた。

本土侵攻から出撃はなく、その間に夕呼先生は俺が遭遇した衛士をスカウトしていた。それで連隊規模まで衛士を充足させることができたが、明星作戦でまたもや大幅に損失。作戦開始時から俺が横浜ハイヴ突入のために出撃した際には2個大隊程度だった。久留里基地にハイヴから帰還すると、1個大隊程度にまで落ち込んでいた。といっても、撃墜された衛士も数人は強制脱出して生還しているらしい。また、作戦後に撃墜された機体から担ぎ出された衛士もいたとか。

 またもや1個大隊ほどにまで戦力が落ち込んでしまったA-01は、生還機の整備や撃墜された機体から使える部品を取り出したりと、衛士分の機体を用意するために整備兵は休む間もなく整備と部品取りに明け暮れている。

 そんな中、同じ命令系統とはいえ別部隊であるTF-403の方は部隊の指示で色々と後回しにされているのだ。

 

「第7層へ調査に向かったオルタネイティヴ4の調査部隊が、撃墜されたタケルちゃんの機体も回収してくれたみたいだよ。まぁ、言わなくても分かっていると思うけど、腕も足もない状態だから」

 

「整備するよりも既存機を用意した方がいいとかで、そのまま部品取りに回されたんだろ? あぁ~、俺の不知火がぁ……」

 

「嘆いても仕方ないよ。しばらくは我慢しなさい!」

 

「なんで母さんみたいに言うんだよ。俺はおもちゃをねだる子どもか」

 

「違うの?」

 

「違うわ!」

 

 アホな話をしながらも、考えることは同じだった。

結局のところ、衛士に戦術機がなければ、ただの士官に過ぎない。

 

「あ、そういえばタケルちゃん」

 

「何だよ」

 

「霞ちゃんが呼んでたよ」

 

「霞が?」

 

「うん」

 

 思い出したかのように、純夏は霞の名前を口にする。

 

「霞が俺を呼んでいたなんて、珍しいな……。何か聞いてるか?」

 

「ううん、何にも。ただ」

 

「ただ?」

 

 少し困った表情を俺に向けながら、純夏は呟いた。

 

「タケルちゃんのことを呼んでいた時の霞ちゃんは何処か怖かったよ。何というか、香月先生みたいで」

 

 その言葉を聞いた俺は、空の見えないハンガーを見上げた。

 頼むから、霞は純真なままでいてくれ。

 

※※※

 

[同年同月同日 国連軍仙台基地 機密区画 第2電算室]

 

 初めて入る部屋だった。仙台基地での生活もそこそこ長く、あちこち入る権限を持っている俺からしてみれば、このようなところに来るのは初めてだった。

そもそも機密区画の電算室は1つだけだと思っていたのだが、どうもそれは間違いだったらしい。

 位置的には俺の知っている機密区画の電算室からはかなり離れている。使われなくなった道具や処理が終わった書類等が収められている倉庫の奥にひっそりとあり、近づいて行けば、その部屋の扉のすりガラスからぼんやりと光を漏らしている。

無論、廊下の照明は、あまり使われていない区画ということもあって点灯しておらず、非常口灯や消火栓等の光だけが周囲を申し訳程度に照らしていた。

 

「よ、よぉ、霞」

 

「……お待ちしていました」

 

 第2電算室の中には、霞が1人でぽつんとそこにいた。

 室内は綺麗とは言えない。大きなパソコンが1台と、そこからケーブルが何本も生えており、あちこちの機械や霞がいつも使っているラップトップに繋がれている。

それだけではなく、ラックには分厚い本が綺麗に並べられたり乱雑に積み上げられたりしており、机の上には書類や本がいくつも山麓を作り出していた。

一言で言い表すのなら、夕呼先生の執務室2号。

 

「……そこにかけてください」

 

「お、おう」

 

 霞に言われるがまま、示された椅子に腰掛ける。霞は自分専用と思われる椅子に腰掛け、山の中から俺に書類を渡してきた。

 

「……純夏さんに頼んで白銀さんにはここへ来てもらいました。申し訳ありません」

 

「別にいいよ。それにしても、ここはなんというか、すごいな」

 

「……はい。香月博士から与えられた部屋ですが、気付けばこのようになってしまいました。普段は純夏さんもここにいたりします」

 

「そうなのか? ということは、定期的に純夏が掃除でも」

 

「……してくれます。私もしますが、気付けばこのようになってしまうので」

 

 おいおい、冗談じゃないぞ。最近性格が少しずつ夕呼先生に似てきたと思っているところなのに、こんなところまで似られたらたまったものではない。

 一先ず、部屋のことを考えるのは後回しにする。先ほど霞に渡された書類に視線を落とした。

 それは特に何か手を加えられているようなものではなく、ただ何部もの資料を抜粋したりして束にしただけのようなものだ。

 少しずつ目を通していくと、それが何なのか俺に分かってくる。

 

「……それは現在、私と純夏さんで検討している、白銀さんの戦術機です」

 

「これが……?」

 

 と少し感嘆して答えたものの、言ってしまえば全て既存機だった。既存機と言っても、俺が直接知っているものはそれほど種類は多くなく、名前と情報しか知らないものも多分に含まれていた。

 リストにされている最後の資料に視線を落とし、上から順番になぞって行くように読み上げる。

 

「えーと、F-4、F-5、F-15、F-16、F-18、陽炎、不知火、Su-27、MiG-29、JAS-39……どういうこと?」

 

「……現状調達可能な戦術機のリストです。大まかな型番で書かせてもらいましたが、仕様は選べます」

 

「いいや、そういう訳じゃなくて……」

 

 米国製と帝国製ならまだ理解できる。米国は俺たちが国連ということもあって、F-14 AN4の時のように調達に融通は効くだろう。帝国製はオルタネイティヴ4の誘致国だからだ。しかし解せないのは、ソ連製と北欧製の機体があることだ。

 MiG-29 ラーストチカ、JAS-39 グリペン。前者はソ連製ということもあり、豊富な近接格闘装備とその調達の容易さ。後者は北欧はスウェーデン製、日本帝国の技術供与によって開発されたということもあって運用思想は異なるものの感覚は似ているだろう。その双方が近接格闘戦に優れた機体であり、XM3との親和性も期待出来る。

 

「夕呼先生はなんて?」

 

 とりあえず、それを聞くことにした。そもそもオルタネイティヴ4にどっぷりと浸かっていることもあり、今後も夕呼先生の指令でどこかしこに行くことにはなるだろう。今後の動きも考えているだろうから、ここで俺の機体を独断で決める訳にもいかない。

 霞は少し思案したようで、少し間を開けて回答した。

 

「……これまで通り、日本帝国製でいいと。ですがここにあるリストは香月博士も目を通して許可を得ているものでもあります」

 

 ということは、国外での活動があるということだろう。それを聞き、俺はすぐに回答した。

 

「2種類でもいいか?」

 

「……はい」

 

 霞は俺の解に否定をしなかった。

 

※※※

 

[1999年8月20日 国連軍仙台基地 第4ブリーフィング室]

 

 明星作戦の傷跡は大きく、日本帝国軍は元より極東国連軍も部隊の再編成、戦線の再構築に追われていた。斯くいうA-01も1個大隊まで損耗した部隊の再編成や連携訓練に明け暮れており、毎日のようにシミュレータでの訓練を繰り返している様子。

俺はというと、A-01以上に隠匿性の高い部隊の性質上、特にやることもなくなっていた。専ら、夕呼先生の下働きに戻っていたのだった。

 今日はその手伝いもなく、起き抜けに霞に言われて第4ブリーフィング室へと来ていた。

 

「失礼します」

 

 呼び出された部屋に入ると、中には既に夕呼先生と霞が待っており、それ以外にも見覚えのない人影が見える。鮮やかな茶髪によく知る人物と面影の重なる面立ち。

どことなく、雰囲気には覚えがあるのだが、どうにも思い出すことができない。それに、国連軍施設の中だというのに、帝国軍の軍装姿ということも相まって違和感しかなかった。

 

「おはようございます」

 

「はいはい、おはよ。さて、早速だけど本題に入らせてもらうわ。"伊隅"」

 

「はい」

 

 帝国軍人がこちらに振り返り、敬礼をする。夕呼先生の呼んだ名前に反応しつつも、正面から捉えた容貌から何となく分かってしまったような気がした。

 

「日本帝国本土防衛軍 会津基地 第44戦術機甲連隊から転属しました、伊隅 まりか少尉です」

 

「あ、えぇと……極東国連太平洋方面第11軍 第403任務部隊 白銀 武少尉です」

 

 伊隅、という名字は珍しい方ではある。しかし、俺の知っている伊隅なのだろうか。敬礼していた手を下し、視線を夕呼先生に向ける。

 

「何となく分かっているだろうけど、彼女は引き抜きでこっちに来てもらったわ。簡単よねぇ、伊隅の名前を出したら二つ返事で来るんだもの」

 

 やはり、だ。これまでのA-01の補充兵は国内の帝国軍や国連軍一般部隊からの引き抜きだったが、伊隅少尉もその手で来ているという。しかしながら、伊隅の名前を出したら来るというのはもしや、伊隅 みちる少尉の名前を出したのだろうか。思案する間もなく、その解は導き出される。俺の感は当たっており、伊隅 まりかは伊隅 みちるの実妹だったのだ。

霞に促されて近くの椅子に腰を下すと、先生は今回の本題に触れる。

 

「こっちの伊隅はTF-403の追加要員。アンタの手となり足となってもらう予定」

 

「俺の方に、ですか? A-01ではなく?」

 

「そ。あっちはあっちで補充兵の確保は進んでいるし、今回はちょっとばかりまりもにも協力してもらったから、いい具合のが入ってきているわ。ふふっ、流石は大陸帰りで教導団所属だっただけはあるわね」

 

「まりもちゃんの協力、ですか? ということは、A-01には相当な手練れが来ているんですか?」

 

「そうよ~。いやぁー、アンタの働きがメインだけれど、『あの陽炎もいるのか?』って聞かれて答えてやったら丸々来たわ~」

 

「げっ」

 

 その質問をされたということは、本土侵攻の時に出会った衛士だろう。そうなると、もう身に覚えのある衛士というか部隊は1つしか覚えがなかった。あの、オッドアイの相貌と彼の従える狼たちが脳裏に浮かぶ。

 そんな話をしていると、少し居辛そうにしていた伊隅少尉が遠慮がちに声をかけてきた。

 

「あの……それで、香月大佐……」

 

「あぁ、そうね。さっきも少し話したけど、伊隅にはコイツの部隊に入ってもらうわ。アポイントを取った時にも伝えていると思うけれど、コイツを含めてアタシ直属の特殊部隊」

 

「特殊部隊……」

 

 伊隅少尉の向ける視線がどうも気になるが、俺は無視して夕呼先生の言葉を聞く。

 

「その中でも部隊要員が少ない方。隠匿性と機動力が高く、非正規任務や生存の絶望的な戦場に駆り出される特に特殊な部隊よ。ちなみに極東国連軍のデータベースには登録されているけど閲覧はできないし、存在そのものがアタシの他の部隊よりも隠されているわ」

 

「そんな部隊が……」

 

「えぇ、そんな部隊よ」

 

 飄々と言いのける夕呼先生だが、深く考えればその特殊性が異常であることに気付く。存在自体も知っている人間はほんの一握りだけで、相当のセキュリティクリアランスを持っている人物でもA-01の支援部隊としか分からないようになっているのだ。

 

「ま、そんなTF-403への転属ってワケ。分かった?」

 

「はい」

 

 納得いっているのかいっていないのか分からない様子の伊隅少尉。俺はどうしたものかと少し考えるが、これまで黙っていた霞が動く。俺の隣に来て耳打ちをするのだ。

 

「……これからは大きく動き出します。そのために力を付けようというものです」

 

「もう横浜基地建設の話は進んでいるんだろう?」

 

「……はい。以前はもう少し時間がかかっていましたが、今回は違います」

 

「ならいいよ」

 

 スッと離れた霞は同じ席に座り、夕呼先生と伊隅少尉に視線を向ける。

2人はというと、部隊についての詳細を話しているようだが、夕呼先生の態度に伊隅少尉が終始困惑しながら聞いているのが分かる。

 元来、夕呼先生は正式な軍人ではない。技術者として国連軍に籍を置いているに過ぎないのだ。それを計画のために戦略・戦術にその天才的な頭脳を使い、こうして自分の都合のいいように事を動かしているに過ぎない。俺はその一翼を担っており、その影響を直に受ける。嫌というほど分かっていることだが、それが最も良い選択だと分かっているから、それに従っているのだ。

 

「今はTF-403は稼働状態じゃないわ。先の明星作戦の影響を受けて、動けるだけの余裕はないの。本来ならば伊隅にはA-01と選んでもらう予定だったのだけれど、A-01も同じく最低限の動きをすることしかできない。ぶっちゃけて言っちゃえば、再編成中でとてもじゃないけど伊隅を補充兵にするだけの余裕はないってところかしら」

 

「そう、なのですか?」

 

「えぇ。あっちには伊隅の姉もいるけれど、伊隅姉は今回の出撃で昇進しているし、隊長連中は新隊長を交えての打合せばかり。幾らアタシの子飼いとはいえ、実務にまで口を挟む訳にはいかないもの」

 

「お姉ちゃんが……」

 

 キュッと両手を握り締めた伊隅少尉は、何か思うところがあったのだろう。しかしすぐに顔を上げた。

 

「香月大佐のしていることは分かりませんが、何というか、私は応えるべきだと思いました」

 

「……」

 

「ここで私の力が必要とされるのなら、小さな力だったとしても、それのお手伝いをすることはできると思います。……私は正式に転属します」

 

「そ。ならあっちにはそう伝えておくわ」

 

「はい。よろしくお願いします」

 

「えぇ。よろしく」

 

 どうやら終わったみたいだな。一息吐き、頭の中を整理する。

 これまで様々な歴史を変革してきたが、きっとここからはもっと多くの、そしてもっと大きなものを変えていくことになる。結果として収束する因果がこの世界に齎すものは分からないが、俺たちはその因果をより良いものへと導くためにいる。俺はそのためにここに居て、そのために夕呼先生に従っているのだ。

再度自分の意思を確認し、その覚悟を改めた。

 

「お、遅れてしまい、申し訳ありません!」

 

「あら、遅かったわね」

 

 そんな中、突如、ブリーフィング室に人が入ってくる。

 

「イリーナ・ピアティフ少尉、本日よりTF-403に着任します」

 

「はいはい。挨拶はいいから、席に着きなさい。もう1人来る予定だけど、まだ到着しないみたいね」

 

 さらっと流したが、今なんて言った。

 

「じゃあ改めて、TF-403はこれよりアタシの便利な小間使いとして、あちこちの戦場を駆け回ってもらうわ。どれもが激戦地。死と隣り合わせ、仲間はいない、支援もない。所属を偽り、身分を偽り、味方を偽る」

 

 TF-403は元々そのような部隊だ。そこにどれだけ衛士が加わろうが、やることに変わりはない。

 

「アンタたちは亡霊。世界と戦場を彷徨い、アタシの計画の周囲にはいる筈なのに、姿を捉えることができない。それでも、確かに存在する戦術機甲部隊。それがTF-403、第403任務部隊」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────"エインヘリヤル"よ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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