Muv-Luv Alternative Plantinum`s Avenger   作:セントラル14

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episode 52

 

[1999年8月22日 国連軍仙台基地 第2ブリーフィング室]

 

 TF-403 エインヘリヤル隊。一昨日、夕呼先生から与えられた名もなき隊の部隊呼称(コールネーム)。そのエインヘリヤルズの部隊が本日、全員が揃う事になっていた。

今回、夕呼先生は初めからおらず、ここへ案内されて来るという衛士を俺たち先任で出迎えることになっていた。

伊隅 まりか少尉も既に帝国軍から国連軍への転属手続きを終え、国連軍の軍装が支給されている様子。真新しいフライトジャケットを羽織り、同期のピアティフ少尉と会話に花を咲かせていた。

 

「へぇ~、じゃあ元々ピアティフ少尉はA-01の衛士だったんだ」

 

「そうよ。まぁ、この前の作戦で中隊は私を残して全滅。斯く言う私も撃墜されたんだけど、脳震盪を起こして機内で気を失っていたみたい」

 

 前回触れることはなかったが、俺の記憶にあるピアティフ中尉よりも、どこか幼さを残した印象のある衛士。ピアティフ少尉。彼女は元A-01、デリング中隊の衛士。

 明星作戦に於いて、近接偵察とその後のハイヴ突入任務中、BETAに囲まれて部隊は全滅した。彼女は戦闘中盤、要撃級の前腕衝角に背中から突かれて機体が大破。奇跡的に管制ユニットが潰れることはなかったが、中の衛士は衝撃によってシェイクされて頭部挫傷、脳震盪を起こして気絶。BETAからは死体と認識され、救出されるまでそのまま大破した機体の中に取り残されていたという。

夕呼先生的な言い方をするならば、より良い未来を掴む才能のある衛士だった。

 

「私は本土侵攻からずっと後方待機で、いよいよって時にBETA殲滅が確認されて出撃できなかったの。明星作戦にも参加したんだけど、何故か私の管区にはBETAがそこまで来なくてね。隣接管区の支援ばっかりやってたよ」

 

「あぁ、あの管区ね。確かにあそこだけBETAが来なかったらしいわね。特別何かしていた訳でもないだろうし、BETAがそんな高度な戦術的判断をすることもないと思う」

 

「隊長も不思議がってたよ。欠員も出さずに全員帰還。戦果も支援のお陰で上々。本当にそれでよかったのかなぁ、って」

 

 伊隅少尉が選ばれたのは、それが理由なのだろう。何故か前線に来たのに、戦闘前に戦闘終了。前線配置されたのに、BETAが寄って来ない。部隊そのものがそうなのかもしれないが、彼女自身にもその能力があるのかもしれない。

 そんな身の上話で盛り上がる2人を後目に、俺は開いたドアの向こう側に目を向けていた。

 ドアの前には勿論だが、見慣れない軍人の姿がある。既に通達は受けている。パーソナルデータは事前に聞いているものの、如何せん人となりまでは把握できていない。

 

「失礼します」

 

 凛とした面持ちで入室し、俺たちの前まで進み出てくる。彼女の横に付いている霞がちょこちょこと後を追いかけ、俺に目線で合図を送ってきた。

 

「ようこそ、第403任務部隊へ。貴官を歓迎する」

 

「ありがとうございます!」

 

「七瀬 凛少尉」

 

※※※

 

 霞は自分の仕事が終わったと言わんばかりに、そのまま俺の隣まで来ると椅子に腰を下ろした。

 その他の面子も答礼をするや否や、俺に倣って椅子に座ってしまったため、ここまで連れてこられた七瀬少尉はオロオロするばかり。それはともかくとして、近くにやってきた霞が俺にバインダーを渡してきた。

 

「はいこれ」

 

「おう、ありがとう」

 

 霞から受け取ったバインダーには書類が挟まっており、内容はどうやら連絡事項のようだ。とはいえ、宛はTF-403ではなく俺個人に対するものだが。

簡潔に説明するならば、規定人員まで充足した部隊を本格稼働させること。部隊の戦術機の手配が完了し、既に運び込みが行われていること。夕呼先生からの司令だろう。

他には、部隊連携訓練と機種転換訓練を行うこと。これは霞からの指示だ。

内容から推察するに、後半の説明のために霞が来ているのだろう。前半は俺が先生の指示を読んで察して行動し、疑問点があれば聞きに行けばいいから。後半は俺よりも霞の方が詳しいからだろう。

そして最後の書類を見る。それとなく予感はしていたが、何も言うまい。きっと持ってきた霞もそれについては知っているだろうし、件に関して俺に何かしら言ってくる様子もない。隣でただ、静かに座っているだけだからだ。

 

「じゃあ、全員揃ったところで改めて自己紹介を始めましょうか」

 

 とりあえずバインダーを携えて前に立つ。隣には付いてきた霞。

 

「TF-403、第403任務部隊指揮官の白銀 武です。こっちは社 霞」

 

「……社 霞です。よろしくお願いします」

 

「改めて、伊隅少尉から自己紹介をお願いします」

 

 俺の指示に従って、伊隅少尉からピアティフ少尉と自己紹介が始まる。そして最後に七瀬少尉の自己紹介が始まった。

 

「七瀬 凛少尉です。帝国陸軍 熊谷基地訓練部隊より転属になりました。よろしくお願いします」

 

 七瀬 凛少尉。帝国陸軍 熊谷訓練部隊卒の新任少尉。新任とはいえ実戦経験はあり、訓練機のTF-4Jに乗って後方待機任務に着いていた。交戦経験もある。初陣でPTSDを発症せずに帰還している。なのに、帝国軍は彼女を手放した。理由は簡単だ。彼女は年齢を偽って入隊していたからだった。

 詳細はざっと目を通している。

身寄りは帝国軍に兄がいるのみ。BETA本土侵攻の際に孤児となり、孤児院に収容。その後は分からないが、何かしらの手を使って徴兵訓練部隊に紛れる。衛士適性があったため、衛士訓練過程へ。明星作戦時、最後方の熊谷基地から前進した川越補給基地にて、熊谷基地訓練部隊から抽出された彼女は後方待機任務に従事。撤退中の帝国軍部隊救出のため、救出部隊に組み込まれて前線へ向かい生還。

 このような経歴があるが、結局のところ徴兵年齢を下回る歳で訓練部隊にいたため宙ぶらりんになっていたところを、夕呼先生の目に止まり回収されたというのが事の流れだった。

しかし訓練部隊からの転属と彼女は言っていたが、任官と部隊配属は済んでいた。しかし、直接転属が行われる前にこちらに来ているため、あのような自己紹介の仕方になったのだろう。

 

「ありがとうございます。ここにいる4人がTF-403のメンバーということになります。正式に部隊発足することになり、俺は中尉に昇進しましたが、それは横に置いておきます」

 

「「「あ、はい」」」

 

 ここで霞とバトンタッチだ。目配せすれば霞はすぐに応えてくれる。

 

「……正式に編成されるTF-403についてですけれども、配備される戦術機は極東国連軍やA-01のそれとは別物になります」

 

 プロジェクタから戦術機が映し出される。

 

「……ピアティフ少尉もご存知の通り、A-01とTF-403には元々、不知火が配備されています。しかし、仕様としては帝国軍のものとは異なり、香月博士隷下部隊専用のカスタマイズがなされていました」

 

「XM3のことね」

 

「……そうです。しかし、配備している装備の特性上、存在が隠匿されているA-01は部隊を動かすだけでそれなりに目立ってしまいます。それは以前のTF-403も同じでした」

 

 スクリーンに映し出された不知火に相違点が表示される。CPUと電源ユニットが載せ替えられており、メインコンピュータのOSはXM3がインストールされていること。ハードウェア面では何一つとして改造されていないことが示されていた。

 

「……TF-403は部隊の特性として、A-01以上の機密性を要求されています。なので、このような機体を用意しています」

 

 画面が変わり、そこに映し出された戦術機に俺は見覚えがあった。

 

F-15E(ストライク・イーグル)ですか?」

 

 ピアティフ少尉が尋ね、それに霞は頷きだけで返答した。

 

「……国連軍内でも少数ですが配備が確認されているF-15Eです。しかし、そのまま配備してしまうのは問題がありました」

 

「問題というのは?」

 

「……搭乗する衛士です。白銀さんを含め、そのほとんどの衛士は訓練で刷り込まれている対BETAドクトリンが違います。日本帝国を含めて、国内にハイヴを持つ国家の対BETA戦略は一貫しています」

 

 伊隅少尉が復唱して聞く。

 

「……密集近接戦を重視した訓練を受けているため、米国の対BETAドクトリンである飽和砲撃戦に対応しているF-15Eをそのまま使用すると、皆さんの力を十分に反映することができません。なので、配備する機体には手を加えることにしました」

 

 画面がまた変わり、変更箇所がピックアップされている。

 

「……帝国がF-15Cを日本帝国仕様にカスタマイズしライセンス生産したF-15Jと同じです。なので、E型にも同様の改修を行います。近接格闘戦兵装運用仕様のため、フレームと関節の材質強度と耐久力の向上、電磁伸縮炭素帯の緩衝張力強化、兵装担架の再設計。元がC型のアビオニクスと複合装甲への変更等々の改修型ということもあります。

また、TF-403に配備されていたF-15C Extraを踏襲し、空力性能向上を目的に前腕部へカナード翼を搭載しました。これによって、F-15Cとはあまり外見を変えることなく、運用する部隊に適した機体へと作り変えることができました」

 

 あまり表情は変わらないものの、満足気な霞はプロジェクタを待機モードに切り替える。

 霞が説明した戦術機、F-15Eのカスタム機。今回も名前が付けられていた。

 

「……これがTF-403専用機。F-15EJ f/AN4、極光(きょっこう)です」

 

※※※

 

 戦術機、極光の話はほどほどに切り上げる。俺の感覚は少しズレているらしく、専用機が用意されるのはどうにも特別だという。霞からは事細かに極光の説明はされないものの、極光の概要と配備経緯の説明が進むに連れて、伊隅少尉と七瀬少尉の目は輝き始める。それまで一般機に搭乗していたということもあってか、どうやら帝国軍の富士教導団の不知火のことを想像したのだろう、特殊部隊ということも相まってその興奮は隠しきれていなかった。

 一方のピアティフ少尉はA-01の衛士だったということもあってか、少しばかり落ち着いている様子。前提としてTF-403のことを知っているということもあり、特段驚く様子もなかった。何もかもが特別扱いのTF-403において、カスタムされた戦術機があること事態も想定していたのだろう。少しばかり、不知火ではないことを残念に思っているのかもしれないが、F-15EJ f/AN4も原機は第2.5世代機、XM3が搭載されているということもあり、特段不満に思うところはない筈なのだが。

 この流れで霞は2人にXM3に関しての座学を始める。初めて触れるであろう2人には概要説明から必要になり、新しいことの波状攻撃は流石に堪えたようだった。しかしながら、2人とも飲み込みが早く、繰り返しや具体的な説明も必要にならなかったことが幸いした。早々にブリーフィング室から退室し、俺たちはそのまま訓練へと移ることになった。

 

※※※

 

[同年同月同日 国連軍仙台基地 第3演習場]

 

 今日は驚きの連続だった。国連軍からの要請で帝国軍戦術機甲部隊への配属は見送られ、そのまま極東国連軍へと籍を移した私だったが、その配属先というのが"特別"だった。

 色々と思うところがあって訓練部隊に潜り込んでいた私だったが、軍司令部が私の存在をどのように取り扱うか図りかねていることは感じ取っていた。そんな中で私への要請は渡りに船だったらしく、簡単に私の転属手続きを進めていたのだ。私の知ることになったのは全てが終わった後のこと。簡単な命令を拝受し、気が付けばここ、国連軍仙台基地へと来てしまっていた。一度も袖を通すことのなかった帝国軍軍装を手放し、代わりに国連軍軍装に身を包んだ私に待ち受けていたのは驚きの連続。

 TF-403。第403任務部隊という極東国連軍の戦術機甲部隊へ配属された私に突きつけられたものは、にわかには信じ難いものばかりだった。

 基本的に国連軍の装備は米軍や現地軍の払下げや中古品で構成されており、日本帝国に駐留する国連軍部隊もその例に漏れることはなかった筈だ。訓練部隊で学んだことは、実際にこの目で確認している。国連軍のUNカラーで塗装された撃震(F-4J)陽炎(F-15J)は帝国軍から供与されたものや、米軍払下げのF-15Cを改造したものばかりだったからだ。

しかしどうか。この部隊名から特徴の欠片もないTF-403に配備されている戦術機は違っていた。話を聞いている限り、最初こそF-15Cだったらしいが、帝国軍最新鋭戦術機の不知火や吹雪が配備されているとか。それも部隊専用にカスタマイズされていたという。

それが今回の件でF-15Eの特別仕様機になった。経緯は私には分からない。

 

『XM3とかいう新OSだけど、使ってみると凄いね』

 

「はい! 従来型の第2世代機以上がどういった挙動なのかは想像でしか分かりませんが、凄いことは分かります」

 

『そっかぁ。七瀬少尉は訓練部隊上がりだったっけ。それなら第2世代機や不知火とかを知らなくても無理ないかぁ』

 

「伊隅少尉は知っているんですか?」

 

『私のいた部隊は陽炎が配備されていたし、基地には不知火の部隊もいたからね。実機は何度も見ているし、演習もしたことあるの。陽炎が配備された時も凄く驚いたし、取り回しやすいことに感動したことは覚えているけど、やっぱり不知火は凄かったよ』

 

 極光の管制ユニットの中、自走整備支援担架で機体ごと寝かされながらも、オープン通信で伊隅少尉と会話する。

 午前中はXM3の座学とシミュレータ訓練を行ったが、私も伊隅少尉も特段問題はなかった。訓練自体も白銀中尉とピアティフ少尉によるマンツーマン指導だったということもあり、OSへの順応はすぐにできたらしい。

らしい、というのも白銀中尉の言だった。A-01に配備された際は、動かせるようになるのに2、3日を要したらしいが、私は特に躓くことはなかったのだ。伊隅少尉は私の数日前に着任したということだが、今日まで特にすることもなかったので、自主的に白銀中尉と社少尉の許可を得て勉強と訓練をしていたとのこと。

今日初めてしっかりとした教導を受けたらしいが、予習の甲斐あってかすんなりと基本の習得に至ったという。地で要領がよく、勤勉なのかもしれない。

 

『エインヘリヤル1よりエインヘリヤル各機、そのまま聞いてください』

 

 オープン通信に入った白銀中尉は、私たちの雑談を咎めることなく今回の演習について説明を始める。

 

『今回の演習について説明します。今回はF-15EJ f/AN4 極光の試運転と対AH戦闘訓練です。実機のロールアウトが昨日今日ということもあり、速やかに実戦に耐えうるか確認することを厳命されています』

 

 ロールアウトしたばかり、という言葉に引っ掛かりがある。確かに今朝の社少尉の説明では、極光は新型機であるとのこと。白銀中尉もそのことは知っていたようだが、完成したことは知らなかった様子。

それなのに、平然と試運転と対AH戦闘訓練を行うというのだ。前者は分かる。完成したばかりだからこそ、試験目的で訓練部隊時代にやったシミュレータ訓練のようなことをするのだろう。しかし、後者は違う。十分な試験を終えた後にやるものなのではないだろうか。戦術機開発がどのように行われているかは知らないが、普通に勘ぐればそうだ。

 それでも、白銀中尉は戦闘訓練をするという。バストアップウィンドウのピアティフ少尉と伊隅少尉も訝し気な表情をしているが、そのような2人の様子を無視して中尉は話を続けた。

 

『各自基本動作および応用動作を行うこと。後にステータスチェック、社少尉へ報告。問題なければ、そのまま対AH戦闘訓練へ移行します』

 

『『「了解」』』

 

 演習場の広場に自走整備支援担架が到着し、各機の機体が立たされる。

 XM3はシミュレータ訓練の時にある程度感覚は掴んでいる。実機ではどうなるか分からないが、白銀中尉の言では、シミュレータで動かせるのなら問題ないとのこと。

 

「システム起動」

 

 見慣れたものとは違う起動シーケンス画面を見流し、網膜投影に演習場の広場と木々の緑が映し出される。周囲には3機の極光が同じように起立した状態。

 

「リフトオフ」

 

 ガントリーが解放されロックが解除される。近くに散らばっていた支援要員が私めがけて合図を出す。

 背部可動兵装マウントと跳躍ユニットが装着され、チェックが始まる。

 

「各部問題なし。兵装受領します」

 

 私の適性は前衛。マウントに長刀が2振りと87式突撃砲が1挺、92式多目的追加装甲を受領する。米国機に追加装甲は少し不格好かもしれないが、私にはこれが一番しっくり来るのだ。

他の機体もそれぞれのポジションの装備を受け取っていた。

 

『エインヘリヤル1より各機、試運転を開始』

 

『『「了解!」』』

 

 その号令と共に各自で試運転を開始した。

 

※※※

 

 F-15EJ f/AN4は好調だ。私以外の機体も各部問題はなかった様子。仙台基地のというよりも、TF-403の整備班はとても優秀みたい。ピアティフ少尉曰く、他の特殊部隊の整備も行っている整備班がTF-403の機体整備も行っているという。かなりの腕利きらしく、機体の改造もできるとのこと。他の整備班とは実力がまるで違うらしい。

各自で社少尉への報告を済ませると、そのまま彼女の指示に従って機体から降りる。近くに停車している82式

 指揮戦闘車に全員が集まると、そこには白銀中尉以外が集まっていた。そこで社少尉から聞かされたことは、驚きを隠せない。

気付けば私は管制ユニットに戻っており、通信にはピアティフ少尉と伊隅少尉がいた。

 

『あの……今回の対AH戦闘訓練って……』

 

『あー……そうね、伊隅少尉と七瀬少尉が驚くのも無理はない、わね』

 

 少し苦い顔をするピアティフ少尉は、頬を搔きながら話し始める。

 

『1対3の対AH戦闘訓練よ』

 

「1対3……」

 

『そんな……』

 

 指定されたポイントに集結してみれば、そこには2番機と3番機がいる。1番機、白銀中尉の機体がいない。

 ピアティフ少尉はいつものことだと言わんばかりに調子を変えることなく話した。

 

『敵は白銀中尉の1機のみ』

 

「1機だけだなんて……」

 

『あっちにはCP将校もつかないし、勿論戦術データリンクを使った情報戦もしない。ただ、私たちは単機の白銀中尉の撃墜を目指すだけよ』

 

「それは……幾ら中尉でも」

 

『まぁ、そう考えるのが普通でしょうね。でも、そんな普通はあの白銀中尉には通用しないの』

 

 推進剤と弾薬の補給をしながら、ピアティフ少尉は話し始める。

 

『中尉は正真正銘の最高峰の衛士。極東国連軍最強。あの人と戦った誰もがそう思うわ』

 

『そこまでお強いのですか?』

 

『まぁ、ね。記録は残されてないけど、第3世代機1個中隊に対して単機で挑んで勝つくらいには。その時の白銀中尉の機体は吹雪よ。しかも訓練兵仕様の主機出力が抑えられたものだった。そんな中尉に舐めてかかった中隊は、あっという間に全滅。苦戦したかと思いきや、そんなことはなかったの。途中、遊び始めて、ダメージを受けることなく戦い抜いた』

 

『……そんな』

 

『それは訓練だけじゃなくて、実戦でも力を振るったわ。2人は帝国軍だったんだし、聞いたことあるんじゃないかしら。本土侵攻の際の都市伝説、単機のF-15Jの話』

 

『確かに聞いたことはあります。九州の本土上陸時から帝都防衛戦まで、帝国技術廠が試作した試験機が単機で戦線を駆け回っていたっていう……』

 

『それ、白銀中尉よ。TF-403に出入りしている技師から聞いたのだけれど、極秘任務で本土防衛戦に最初期から参加。機体が大破する帝都絶対防衛線での戦闘、京都市街地での戦いまで休むことなくBETAを狩っていたの。帝国軍ってなっていたのは、帝国軍の偽装迷彩を施していたんだと思うわ。じゃなきゃ、極東国連軍の都市伝説になっていた筈だし』

 

 伊隅少尉は驚きを隠せないようだ。斯く言う私も信じられない、と言った心持ち。

明星作戦時、訓練部隊から抽出された私は、後方という比較的安全なところから、友軍救出に打って出たことがあった。

当時、私を含めた1個中隊が支援砲撃で空いた穴に突入し、敵中に取り残された友軍部隊の救出を行った時のことだ。

砲撃で空いた穴から突入したとはいえ、既にBETA前衛集団をやり過ごし、中衛と後衛の混成集団と戦った。比較的に面制圧によって数が漸減されており、交戦したのは要撃級4体と戦車級20体程度。それからは随伴していた正規兵の2個小隊が前衛を務め、私たち訓練兵1個小隊は武器弾薬運搬を主として行動した。それだけのことでも、私はBETAに恐れ慄いた。

 たかが小隊規模以下の小集団を相手にしただけだ。正規兵は皆「道草を食う」なんて言っていたが、私たち訓練兵には果てしなく恐ろしいことだった。返り血か仲間の体液か分からない赤い液体を身体に浴びて斑模様になっていた要撃級に、その口腔と歯に見える部位に鉄片や人髪のようなものを引っ掛けていた戦車級は、遠目から見ていた私たちからすれば、恐ろしい以外何者でもなかった。

負傷兵を運ぶための担架代わりの私たちを先導していた彼らがどれほど頼もしいものかと思っていたが、おおよそ彼らは精鋭でもベテランでもなんでもなかった。ただの一般衛士だと言うのだ。

 

《 BETAってね、前線で見るとまるで津波よ。訳判らずの奴らが、水平線と視界一杯に広がって襲ってくるの。蠢く絨毯とか、サケの川上りとかそういった言い方されることもあるけど、やっぱりあれは津波。気を抜いたら最期、一瞬で飲み込まれてしまう 》

 

《 さっきの奴らなんてほんの一部さ。集団の外れの外れ、面制圧とか支援砲撃を搔い潜って生き残った群れ。あれでも恐ろしいのは、あれだけの敵を後方に通してしまったら、それだけでCPやHQは壊滅してしまう。対BETA戦闘で一番有効な戦術機のほとんどは前線に出払っているから、後方の自走砲や野砲、機械化歩兵、警備兵で対処しなくちゃいけない。戦車級5体を見落としたばかりに帰る基地を失くすなんてよくあること 》

 

《 きっとてめぇらヒヨッ子共も任官して戦闘に駆り出されたら、俺たちの言った言葉の意味が分かると思うぜ。だけどな、こうして実戦を経験して"死の8分"を生き延びてんだ。次の戦闘でもてめぇらは生き残る 》

 

《 BETAを見て取り乱さなかっただけでも、あなた方は十分に新任として優秀ですわよ。なんて言ったって、幾ら訓練部隊で優秀だったとしても、実戦で接敵前に取り乱してバットトリップなんてしてしまって使い物にならなくなることだってあるのですから 》

 

 先任衛士たちから言われたことは、今でも鮮明に覚えている。私や仲間のことを想って言ったかは分からない。しかし、あの戦闘で学んだことは多い。

 

『……CPよりエインヘリヤルズ。双方の準備が完了したので、これより対AH戦闘訓練を始めます』

 

 社少尉のバストアップウィンドウに皆が意識を引き戻される。全員が参加する通信で、社少尉は説明を始めた。

 今回の対AH戦闘訓練はとても簡素な設定だった。戦闘区域は演習場全域。勝利条件は敵機撃墜または行動不能。敗北条件は味方全機撃墜または行動不能。味方の編成は、戦歴が一番長いピアティフ少尉を長とした3機編成の変則小隊だ。

前衛は私が努め、後衛は伊隅少尉、ピアティフ少尉。それぞれの適性を加味したものになっている。一応、ピアティフ少尉は前衛もできるようだが、今回はトップヘビーな編成を避けるとのこと。それぞれ配置に着き、作戦開始の号令を待つ。

 

『エインヘリヤル2より各機。そのまま聞いて』

 

 開始までの間、ピアティフ少尉から部隊内通信が入る。

 

『白銀中尉は前衛。兵装構成は強襲前衛装備の筈。作戦の基本は、七瀬少尉が白銀中尉を引き付けている内に、後衛が包囲し一気に叩く』

 

 視界の隅にシミュレーションが動く。私が隊列から突出し、初撃を受け止めるのを確認すると、速やかに後衛2機が包囲。3方向から取り囲み、包囲圏を一気に狭めて攻撃するという内容だった。

 

『今回の作戦は短期決戦しかないの。継戦時間が長くなればなるほどこちらが不利になるわ。それと、今回の鍵は七瀬少尉が初撃を受け止めきれるかどうかが重要になってくる。七瀬少尉。任官したての新任に任せるには荷が重いけれど、一先ずやってみて欲しいの』

 

「エインヘリヤル4、了解」

 

『伊隅少尉は私と連携して包囲する。機動砲撃戦になるから、相手に逃げるスキを与えないで』

 

『エインヘリヤル3、了解』

 

『ただ、白銀中尉は上にも逃げるから、普段よりも気を配って欲しいの』

 

『「了解」』

 

 上にも逃げる、というのはどういう意味だろうか。光線級が存在していることを想定された教習を受けているのにも関わらず、照射圏に自ら飛び出るようなことをする、ということなのだろうか。

 一度も白銀中尉の動きを見たことがないことが悔やまれるが、それは白銀中尉も同じ筈だ。ピアティフ少尉はともかく、伊隅少尉と私の機動制御の癖は知らない筈。学習する前に叩く、というのはそういう意味も含まれているのだろう。

 

『……CPよりエインヘリヤルズ、訓練を開始してください』

 

 カウントダウン終了と共に、ピアティフ少尉の指示のもと私たちは開始地点から移動を開始した。

これから目の当たりにする光景を想像しながら。

 

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