Muv-Luv Alternative Plantinum`s Avenger   作:セントラル14

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episode 54

 

[1999年8月22日 国連軍仙台基地 機密区画 第2電算室]

 

『まるで指揮も教導も経験があるような、戦歴の長いベテラン衛士のようでした』

 

 その言葉が頭の中をぐるぐると駆け回る。七瀬少尉がこの言葉を何を思って言ったかは分からない。だが、俺からしてみれば寝耳に水だった。そして、これまでのことを思い返してしまった。

 元々、俺の機動制御技術は高く、そして非常識なものだった。はじめは定型的な機動制御コマンド入力を乱雑かつハイペースで行っていた。それ故、曰く帝国斯衛軍の衛士が使用する、入力タイミングのシビアな制御技術を疑似的かつ、全く別物の物を再現していた。

元の世界での経験、バルジャーノンというゲームをやり込んで物にした必勝テクニックが、戦術機では再現ができない。それで当初は苦悩した。

だが、前の世界ではそれを解決。XM3を開発することによって、元々バルジャーノンと操作方法の似ていた戦術機を、凡雑な動きから解放することができた。これで戦術機を思ったように動かすことができる。そう思っていた。

 この世界に来てからというもの、何の因果か夕呼先生と霞のループによって、それらの問題は最初からなかったことになった。だから、はじめから俺は自分の力を十分に発揮しているものだとばかり考えていた。

 

『まるで指揮も教導も経験があるような、戦歴の長いベテラン衛士のようでした』

 

 しかし現実は違っていた。俺自身の機動制御は持ち越していたものの、俺の気付かないところで、全く違うものをこの世界に持ち込んでいた。

 それは、俺の主観記憶にない記憶。

俺自身の持っている記憶は多くない。BETAのいない元の世界の記憶。ダメな訓練兵として過ごし、オルタネイティヴⅤ発動と移民船団を見送った1回目。1回目の記憶を引き継ぎ、多大な犠牲を払ってオルタネイティヴⅣを完遂させた2回目。たったこれだけなのだ。

その何処にも俺が新任少尉を卒業しベテラン衛士になったものや、衛士から教官となって訓練兵相手に教鞭を振るった記憶はなかった。確実に2回目は2002年の1月3日で終わっているし、1回目はばらつきはあれど、数年間は前線で戦っていた。だが、それも第207訓練部隊をそのまま実戦部隊に繰り上げ、最前線ですり減らされるだけの毎日。補充兵が来る訳でもなく、皆が次々と脱落していく日々。その何処かで俺は戦死した。その記憶をいくつも保有しているが、結局どれもが最前線で使い潰されたものばかり。

指揮官も教官もまるで記憶にないのだ。

 

『まるで指揮も教導も経験があるような、戦歴の長いベテラン衛士のようでした』

 

 考えれば考えるだけ思考のるつぼに嵌る。自分にない記憶を身体が覚えており、それを自然と外に出しているのだ。これほど気持ちの悪いものはない。

 ただただ今日したことを思い出しては、その違和感に苛まれる。

 

「……気付かれましたか、白銀さん」

 

「霞……」

 

 ハッと気付いた時、目の前に霞がいた。

 ずっと思考の中にいたから忘れていたが、俺は第5ブリーフィング室で今日の訓練のデブリーフィングをしていた筈だ。それが気付いた時には第2電算室で椅子に座らされていた。目の前には霞がただひとり、表情をピクリとも動かさずにこちらに顔を向けて座っている。

 

「……ここが何処だか分かりますか?」

 

「第2電算室だろ?」

 

「……」

 

「霞?」

 

 霞は机の上に置かれている資料の1つを手に取り、それを見始める。数ページ捲ると、俺に視線を合わせてきた。あまり表情を変えることのない霞は、淡々と話し始めた。

 

「……香月博士ははじめから疑っていました」

 

「何を疑っていたんだ?」

 

 夕呼先生が疑う。何を疑うのだろうか。オルタネイティヴ4に害する組織か。それは前からそうだった。オルタネイティヴ5推進派とオルタネイティヴ4反対派がその主たる例だ。それ以外にも俺の知らない組織を警戒していただろう。

だが、その話が何故今出てくる。

 

「……白銀さんを、です」

 

「お、俺?」

 

 俺を疑っていた。何をだ。

 

「……2年前からです」

 

「2年前というと……この世界に」

 

「……はい。その時です」

 

 さっぱり分からない。夕呼先生が俺を疑う理由が分からない。否。元々前の世界では信用はされていなかった筈だ。あくまでオルタネイティヴ4にとって都合のいい駒なだけだった。しかし俺という人間の有用性は桜花作戦までの期間で証明されている。俺がいなければ純夏は、00ユニットは完成しなかった。

もし完成していたとしても、その調整は出来なかった。00ユニットの素体になった純夏をニンゲンとして、道具と成り立たせるための人格の調整は俺にしかできない。

 

「分からねぇよ、俺には分からねぇ。なんでだ? 俺が夕呼先生の傍にいれるのは00ユニットの、純夏のためじゃ? だけど、今はそれが必要ない。純夏は次世代型の00ユニットの主席素体、身体をバラして脳みそだけにする必要がないからか?」

 

「……それは違います」

 

「なら何だよ。他には因果導体であったことと、異世界人であることくらいだろ?」

 

 頭の中がぐちゃぐちゃだ。世界を巡って、オルタネイティヴ4のために動いているというのに、それ以外に俺の利用価値なんか大してない、のかもしれない。

確かに場合によっては、BETAのいない世界から来た俺の知識は、俺の考え付かないところで役に立つこともあるかもしれない。だがそれを夕呼先生は本当に必要としているのか。もしそうなのだとしたら、また1回目の世界のようになってしまうのか。

 満足いくまで情報を引き摺り出され、最期は捨て駒のように最前線で戦い続ける。もしかしたら、今回は前よりも機密情報を多く知っているが故に、最前線で使い潰される前に処分されるかもしれない。夕呼先生はそういう人間だ。

 あの酷く論理的で現実主義、それでいて人間的なところも多くある人間。それが香月夕呼という人間だ。だが、この世界での夕呼先生は目的のためならば自らの手を汚すことも厭わない。

 

「……違います」

 

 俺の思考をリーディングしたのか、霞は首を横に振る。

 

「……香月博士はもっと別のところを疑っていました」

 

「教えてくれ、霞。俺は何を疑われているんだ?」

 

「……疑う、という言葉はもしかしたら適していないかもしれません。言い換えるのなら、興味、の方が適切かもしれません」

 

「興味? どういう意味だ?」

 

 霞は言葉を変えてくる。興味というのはどういう意味だ? 異邦人という意味ならば、ここまで来たならばもう、興味も何もないだろう。この世界にいる夕呼先生は、俺に対してBETAのいない世界の情報を引き出そうとはしなかった。今更そっちの興味が沸いた、とかか。ならば、興味が沸いた時点で呼び出して質問してくる筈だ。しかしそれはなかった。

 

「……白銀さんは不思議に思ったことはありませんか?」

 

 唐突の問に俺は言葉を失うのと同時に、すぐに考える。

 俺が何を不思議に思うのか。この世界、BETAの存在する世界での疑問は確かにある。それは散々考えたことだ。

何故BETAという存在がいるのか。何故俺のよく知る人物が、何かしらの形で俺の周りにいるのか。何故それが何かしらの背景を抱えているのか。何故俺はこのような世界に来ているのか。

 結局何度考えてもその解は出なかった。全ては"因果"という言葉に収束し、BETAに関係した物はなにも分からない。ただそれだけだった。

 

「……分からないのも無理はありません。何故なら白銀さんが自覚していないということも、博士は興味を持ったからです」

 

「何だそれ……」

 

 俺の自覚していないこと。ならば考えても無駄なのかもしれない。俺が分からないことであれば、これから考えたって分かる筈がない。分かりようもない。

 

「……ですが白銀さんは気付きました」

 

「俺が、気付いた? 何に?」

 

「……記憶です」

 

「記憶?」

 

「……はい」

 

 記憶というと、ついさっき考えていたことか。演習後のデブリーフィングで、七瀬少尉から指摘を受けた事柄。

 

「……それです。その記憶です」

 

「……俺に覚えのない記憶が、身体にはある奴か? 今日みたいに」

 

「……いいえ。今日だけではありません。白銀さんは、ずっとその記憶、因果を無自覚に受け取って昇華していました」

 

 俺は姿勢を正し、真正面に霞を捉える。書類を握り締める小さい手は震えていた。

 

「……白銀さんは因果導体だった」

 

「……」

 

「……それ故に、虚数空間にばら蒔かれた因果を導き、因果をこの世界に呼び寄せる。そして同時に、この世界に内包された負の因果を虚数空間にばら蒔く」

 

「あぁ、そうだ。俺は……」

 

「……そしてあなたは、白銀さんは、その因果を自身を通してこの世界にばら蒔いていました。果たしてそれは、自分の身の回りにいる人たちだけだったのでしょうか?」

 

「それ、は……」

 

 分からない。自分の身の回りにいる人というと、俺の知らない人たちにも少なからず影響はあったということか。

 

「……それはありません。白銀さんが引き寄せる因果は、基本的に白銀さんの知っている人しかありません」

 

「なら他には」

 

「……白銀さんの知っている人しかないということは、他にも因果の受け取り手はいます」

 

「誰なんだよ」

 

「……それは、白銀さん自身です」

 

「お、俺?」

 

 霞は書類を膝の上に置き、スッと俺の目を見据えた。グレーの大きな瞳が俺を捉え、顔を見上げてくる。

 

「……白銀さんが主観的に認識できている時間はどれくらいでしょうか?」

 

「どうだろうな。1回目からこれまでのことを考えれば、主観時間で言えば25とか26歳くらいになるんじゃないか? 1回目から2回目の間は正直微妙だけど、オルタネイティヴ4が中止になってから確実に3年は生きていたと思う」

 

「……はい。ですから白銀さんの主観年齢は25歳くらいだと推測できます。私ももう14か15になりますから」

 

 霞はおもむろに立ち上がり、部屋の隅からホワイトボードを引っ張り出してくる。

 

「……白銀さんは全ての元となったと思われる、明星作戦時に投下されたG弾のエネルギーと横浜ハイヴに蓄積されたグレイシックスを消費することによって、元の世界からこの世界へと来てしまった」

 

「そうらしいな」

 

「……それは2度繰り返されましたが、2度目の時、私の知っている白銀さんはこう思った筈です。前の世界の経験が引き継がれている、と」

 

「確かに思った。1度目の世界で、俺は第207衛士訓練部隊で練兵を受けた。前期課程も後期課程もクリアして衛士になったからな。それをそのまま2度目も引き継がれていた。知識も肉体も」

 

「……はい。確かにあの時の白銀さんは、少尉相当の実力がありました。実際、すぐにでも任官して戦術機に乗ったとしても戦えた程だと思います」

 

 ホワイトボードにヘタクソな絵が描かれる。何というか、こういうところは夕呼先生に似てる。本当の親子ではないが、霞にとって夕呼先生は保護者だからな。

 

「……その理由は純夏さん、00ユニットの調律の際と同じ原理です」

 

「それは……俺という器に因果を流入させて、人格を作り出したってことか?」

 

「……はい。また、BETAのいない世界で起こったことと同じことです。白銀さんは因果導体として因果を虚数空間から誘引し、自身でその因果を受け取っていたんです」

 

「つまり、どういうことだ?」

 

 ヒト型をしたナニカに何本も矢印が伸びていく。周りに同じようなヒト型があるから、そのヒト型が俺を表しているのだろう。

 

「……つまり、白銀さんは因果の集合体なんです。虚数空間にばら蒔かれている、シロガネ タケルという人物の」

 

「さっぱり分からん」

 

 今の説明だと俺は戦術機でよくある共食い整備、ニコイチみたいなものだということになる。

 

「……分からなくても無理ありません。しかし、実際に白銀さんが体験したことです」

 

「って言われてもなぁ」

 

「……では虚数空間の因果について説明します」

 

「お、おう」

 

 霞先生の講義はまだ続くようだ。

 

「……虚数空間は時間のない世界です。ですから、私たちが観測しても無茶苦茶なんです」

 

「それは霞が見ていたものなのか」

 

「……はい。ジャンヌ・ダルクがフランスのルーアンで火刑に処されている時、ドイツに原子爆弾が落ちているようなものです」

 

 確か、俺の知っている歴史とは少し違うんだったな。この世界では、日本ではなくドイツに原子爆弾、核爆弾が投下された。

 霞の説明が漠然とだが虚数空間について理解できてきた気がする。

 

「……その中には、あり得たかもしれない未来も含まれています。時間という概念がありませんから」

 

「つまり、虚数空間に俺の記憶もある、ということか」

 

「……白銀さんだけではありません。私のものもあります」

 

「そうなのか」

 

 ということは、霞の観測者として見ていたものは人々の記憶。虚数空間に浮遊する、無数の記録だというのだ。

 

「……白銀さんが元の世界に戻り、00ユニットの基礎理論の根底にある数式を回収する任務、あの時に香月博士がしていた説明は、虚数空間の膨大な情報の説明を省いたものになります。付け加えるのなら、私の役目は白銀さんが無意識下で行っていた虚数空間移動をした際、世界へと打ち込まれた楔までの道標。往復するための誘導を行っていました」

 

 ナビ、ということだろうか。

 

「……白銀さんは記憶にあるところにしか因果に接触することができない。それ以外は観測できなかった。しかし私はESP能力によって、その他の因果の観測ができる。データリンクでのマッピングを行っていたようなものです」

 

 ナビという表現は合っていた。そして、霞は今さらっととんでもないことを言ったような気がする。

 

「……私は自分の意思で虚数空間を見ることはできませんが、白銀さんを介してならば見ることができる。だから、あのようなことができたんだと思います」

 

「なるほどな」

 

 原理とか理論とかは全然分からないが、霞が虚数空間におけるナビゲータ的なことができるのは分かった。

 

「……話を戻しましょう。虚数空間には時間軸がありません。ですから、並行世界での世界の記憶も内包しています。それは白銀さんが記憶になかったとしても、別の白銀さんが体験したものとして、元の世界に帰還する際や死亡、戦死した際に虚数空間に放出されました」

 

「それが、あれの正体という訳か?」

 

「……はい。白銀さんは別の世界で教官として訓練兵を指導していたり、部隊を率いて戦っているんです。そうした記憶を、この世界で白銀さんという器の中に白銀さんを形成するにあたって因果が流入したんだと思います」

 

 ここまで説明されれば、俺にも分かる。

 つまり、俺に起きていることは、あの時、まりもちゃんを喪って元の世界に逃げ帰った時、目の前にいたよく知る人物たちに起きたことと逆のことが俺に起きていたということだ。

 仲の良かった人たちから軒並み忘れ去られ、純夏から『白銀くん』と呼ばれたあの時。そして、あの世界で純夏が受け取った負の因果の結末のように。

 

「……ですけど、まだ白銀さんの自覚していないものもあります」

 

「俺が自覚していない? それは教導や指揮に関するモノ以外ってことか?」

 

「……はい。香月博士もそこを一番最初に興味を持ちました。何故なら、目に見えて分かるものでしたからね」

 

「……」

 

 分からない。他にも何があるというのか。確かに、ここまでの霞の話を聞いた上で考えるのならば、教官としての俺や指揮官としての俺以外の因果を受け取っていても不思議ではない。

 

「……それは、これまでの並行世界で培った戦闘経験です」

 

「それは別にこれまで通りだっただろう? 兵士としても衛士としても」

 

「……それ以上のものです。白銀さんは疑問に思いませんでしたか? 何故、前の世界では少尉止まりだったのに、熟練衛士でも精鋭部隊でも単機で撃破できるのか」

 

「それは……」

 

 その自覚はない。これまで全く不思議に思ってこなかったが、俺はそれをXM3による恩恵だと考えていた。旧OSとXM3の性能差は天と地ほどあり、俺の機動概念は全くもって理解できず、常に旧OSに慣れている衛士の想像の遥か上を行っているものだとばかり。

しかし、XM3は手段の1つであり、本当に俺の技量が上がっているのだとしたら。

 

「……白銀さんは因果を受け取ったことによって、衛士としての技量が何段階もアップしているんです。今は中尉、これまでの経歴やこの世界での活躍から昇進しました。TF-403の隊長として必要だった、というのもありますが。それでも、白銀さんは階級に余りある力を持っています」

 

「俺は一体……」

 

「……戦術機搭乗中、無意識に行っていること全てが、白銀さんが受け取った因果の結果です。粗削りだった機動制御も精鋭と比肩する、それ以上の洗練されたものへと昇華され、戦場での判断力と決断力もおおよそ少尉や中尉といった階級には相応しくないものになりました。白銀さんは判断し決断したことを実行できるだけの力を持っている、そしてそれを僚機や部下の能力を瞬時に判断し部隊行動へと反映させるまでに至った」

 

「つまり俺は戦術機部隊の指揮官としても、衛士としてもより高次元なところにいると」

 

「……そういうことになります」

 

 ダメだ。恐らく無意識では理解していることだが、俺の頭が処理できない。恐らく、ひとたび戦いになれば使い熟しているものなのだろうが、如何せんそうでない時には全く分からないのだ。

 

「……香月博士の興味を持ったところ、つまり白銀さんの衛士としての技量や軍人としての能力が急激に高くなったことだったんです」

 

「なるほどな。それで、夕呼先生はどういう判断をしているんだ?」

 

「……香月博士は白銀さんのことを認めています。それは白銀さんも分かっていると思います」

 

「あぁ」

 

 じゃなきゃ、オルタネイティヴ4にとって重要な任務を俺に任せるなんてあり得ない。

 

「……香月博士の判断はこうです。白銀さんはオルタネイティヴ4の戦闘面に於ける現場最高指揮官です」

 

 霞は確かにそう言った。俺はオルタネイティヴ4に於ける現場最高指揮官だと。

 言葉の意味は分かる。オルタネイティヴ計画における現場、つまり戦場での最高指揮官だと。それが何を意味しているのも。俺はTF-403の小隊長だ。その自覚はある。小隊長としての経験は少なからずあることは自覚しているが、最高指揮官というとA-01が出張る戦場でも俺がそうであるということ。

TF-403がA-01と同じ戦場に派遣される可能性はかなり高いが、与えられる任務は違う。A-01はなまじ極東国連軍にその存在が認知されている。認知されているが故に、その動向は見られているし、他から命令や要請が来ることも多い。

しかしTF-403はどうだ。これまでの経験則から、TF-403が投入される戦場は例外を除いてどれもこれも正規作戦に紛れる非正規任務。その存在自体が表沙汰にならないもの。

 

「それは……どうして……」

 

「……白銀さんがオルタネイティヴ4の直轄部隊の人間の中で、一番計画について詳しいからです」

 

 最もらしい理由を霞は言った。

 

「……そして、香月博士はこの興味を分析して、その結論に至りました。あくまで博士は後方のHQから大まかな指示を出し、現場レベルは白銀さんに任せてしまおう、と」

 

 それならば納得ができる。確かに戦場ではよくある話だ。司令部から大まかな作戦が伝達され、現場指揮官にその後の詳細な動きの判断を任せる、というのは。

 

「……重要な作戦は違いますが、それ以外のものは白銀さんの判断の方が、HQに上げられている情報を分析してから指示するよりも早いですからね」

 

「確かにそうだが」

 

「……これまでは伊隅"大尉"のしていたことですが、それは当時のヴァルキリーズが中隊規模でしかなかったからです。ですが今は違います。未だ再編成中ですが、恐らく2個大隊規模までは回復する予定です」

 

「また外から転属させる奴か。確か、俺のことを知っている人も来るらしいけど」

 

「……その人は絶賛XM3順応訓練中です。機種転換も必要ないですから、A-01でも即戦力になることを期待されています」

 

 脳裏にちらつくのは帝都防衛戦での出来事。あの時出会った衛士の部隊だろう。

 考えることは、夕呼先生の興味についてだ。ここまで説明されれば、幾ら俺でも理解できる。もう手管を変えて霞に何度も同じ説明を受ける訳にもいかない。

それに、その現実を受け入れずに嘆くなんてみっともない真似もできない。俺はもう止めたんだ。

 

「……強いですね、白銀さんは」

 

「強くはねぇよ」

 

 霞は相変わらず見えているのだろう。俺の考えていたことを読んで、それに返事をしてくる。

 俺は気持ちを切り替える。今霞に言われたことだってそうだ。くよくよ考えていたって、結局なってしまっているものはどうしようもない。

記憶にない記憶があり、それを無意識下で使っているのなら、それはもうどうしようもない。衛士としての技能もそうだ。戦術機を操るのが上手くなったのなら、それだけ死ぬことはなくなる。他の誰かを守ってやれる。ならば、その力は有難く使わせてもらおう。

 俺は両頬を叩き、気合を入れる。気持ちを切り替える。それを知った上で、俺は成すべきことを成すだけなのだ。

 

「ありがとな、霞」

 

「……いいえ。白銀さんにはいずれ伝えることでしたから」

 

「じゃあ、俺メシ食って訓練に戻るな?」

 

 立ち上がり、電算室から立ち去ろうとすると、霞が俺の後ろを付いてくる。一緒に昼食に行くつもりなのだろうか。

 

「霞もメシまだだろう? 一緒に食おうぜ」

 

「……いいえ、これから午後の訓練です」

 

「へ? 午後の訓練?」

 

 俺は壁に掛けてある時計に目をやる。時刻は1時を指していた。

 

「……もう訓練再開時間です」

 

「ウッソだろ……」

 

「……レーションのクラッカーをかじりながら管制します」

 

 俺は食いっぱぐれたようだ。肩を落としながら霞と共に第4ブリーフィング室へ向かうことにした。

霞の手にはレーションの袋がある。

 

「……白銀さんにも休憩時間に分けてあげます」

 

「ありがとう……」

 

 考えてみればフライトジャケット姿だから、急いで強化装備にも着替えなくてはならない。仕方がないとはいえ、少しひもじい気持ちになるのだった。

 

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