Muv-Luv Alternative Plantinum`s Avenger   作:セントラル14

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episode 55

[1999年8月22日 国連軍仙台基地 第1ブリーフィング室]

 

 午後の訓練は苛烈を極める、なんてことはなかった。訓練内容は簡単だった。

 TF-403は小隊規模の戦術機部隊。元A-01(ピアティフ少尉)元帝国軍衛士(伊隅少尉)元帝国軍訓練兵(七瀬少尉)、そして(変態衛士)だ。

全員が全く違う所属で経歴もまばらであれば、連携訓練しなければ戦場で儚く散ってしまう。

そうなればやることは自ずと決まってくる。

 

「白銀中尉、これは何でしょう?」

 

「見て分からないですか?」

 

 部屋にある机を繋げ、そこに全員で顔を突き合わせる。机上にあるのはボードゲーム。と言っても、伊隅少尉や七瀬少尉に馴染みのあるような日本古来のものではなく、どちらかというとピアティフ少尉には馴染みのあるもの。そして、俺としても遊んだことのあるもの。

 

「トランプです」

 

「「……トランプ? 何故?」」

 

「はぁー」

 

 三者三様のリアクションに俺は大袈裟に振る舞う。

 

「別に普通の小隊連携訓練がしたければそれでもいいし、シミュレータ訓練でもいいです。別に今から霞に言えば4台は確保できますし」

 

「ならばそちらを。私は皆さんとは違い、訓練校上がりの新兵です。もし」

 

「もし出動があったとしても足手纏いになるのは七瀬少尉だけじゃないですよ。全員がそうです」

 

 俺はあえてキツい口調で言った。

 本当のことなのだ。このまま訓練訓練また訓練をすれば、確かに練度は上がっていくだろう。しかし、本当にそれでいいのか、と。

全員が参加した明星作戦では、運良く生還することができたが、次がどうなるかなんて分からない。誰かが欠けるかもしれない。全滅するかもしれない。だが、それはあくまでも予測に過ぎないのだ。だったら、尚の事、訓練に励むべきであるといえば全くもってその通りではある。

しかし俺はそうは思わない。

 訓練は大事だ。腕を磨くのは大事だ。それ以上に大切なことは、出撃しBETAと対峙した時に強く感じ取れた筈だ。

仲間との絆、信頼。それが一番大切なことなのだ。

 

「けれど、それはいつでもできます。俺がしたいのは、この4人は同じ部隊の仲間。背中を預け合う戦友になります。だからこそ、こうして親睦を」

 

「……つまり何も考えていなかった、ということです」

 

「霞さん?」

 

「……続けてください」

 

 咳ばらいをして話を続ける。

 

「親睦を深めること。そしてついでに、互いの癖を知る。考え方を知る。咄嗟の状況判断次第で、生死の分かれる戦場で全員が取りうる選択肢を把握する。つまり、互いを知ることが一番最初にしなければならないことです。なのでカードゲームで遊びます」

 

※※※

 

 全員がフライトジャケット姿で課業時間でありながらも、傍から見れば遊んでいるようにしか見えないこの状況は異様だろう。

 結局、全員が納得してカードゲームに興じることになった。ピアティフ少尉はポーカーやブラックジャックなどのゲームは知っていたものの、それ以外の俺が一般的だと思っていたものは知らなかった。当然、伊隅・七瀬少尉はトランプの存在は知っていたが、ピアティフ少尉が知っているモノをルールは知らずとも名前を聞いたことがあるという程度。

そこで俺は小中学生の頃にやっていた大富豪を3人に教えることにした。ちなみに霞は純夏と交えて3人で遊んだことがあるので知っている。

 

「ぐぬぬっ」

 

 唸っているのは七瀬少尉。ピアティフ少尉はポーカーフェイスを崩さず、伊隅少尉はニコニコしているが故にこれまた表情が読み辛い。手札はほぼ全員が3枚近くまで減っている中、序盤絶好調だった七瀬少尉は手詰まりといったところ。

俺はというと既に場に出したカードで待ちの状態。パスが続き、後は七瀬少尉が出さなければ場が流れて俺の番になる。そうなれば俺の勝ちだ。

 余裕を見せる先任少尉たちは序盤から目配せをしているのは把握している。

 既に今回で8ゲーム目。前回まではルールを唯一把握していた俺が圧倒していたものの、ここに来て苦戦を強いられていた。原因は2人。俺を上がらせまいと、咄嗟の連携を無言で進めてくるようになったのだ。そんな状況を知ってか知らずか、七瀬少尉は今回も最下位になってしまう可能性が高い。

 

「七瀬少尉? パスしてしまってもいいんですよ?」

 

「い、いいえ。もう少し」

 

 俺が煽りに入るが、流れたカードと場に棄てられたカード、手札を交互に見ては考えに耽っている。

 

「七瀬少尉。パスしてください」

 

「ピアティフ少尉?」

 

「七瀬少尉が1位になる必要はないんです」

 

 七瀬少尉の次は俺。ピアティフ少尉は今までのゲームで散々俺が使ってきた手を想定して、何か秘策でも用意しているのだろうか。

 彼女の言に従ってか、七瀬少尉がパスをする。俺の番になり、場のカードが流れる。ここで出すのは10の2枚。この状況で出されても、序盤であれば処理できたはずだができる筈がない。勝った、そう確信した。

 

「はい」

 

 伊隅少尉が11を2枚出す。

 

「げ」

 

 このまま場が流れて、次で上がれるはずだった。手札には4が2枚。これではどうすることも。

 そんなことを考えている内に場はどんどん進んでいき、伊隅少尉、ピアティフ少尉が上がっていく。最後に残ったのは七瀬少尉と俺。手札は変わらない。

そして次は七瀬少尉の番。流れた後なので好きなカードを出すことができる。彼女の手札は3枚。一度に全て出せるとは思えない。

既に1位から陥落してしまったが、3位に滑り込めれば経験者としての矜持は何とか維持することができる。そう思っていた。

 

「では」

 

 場に出てきたのは5の2枚。これでは俺の手札は切れない。

 

「ぱ、パスで……」

 

「やった!」

 

 流れた場に次に出されたのは3だった。

 

※※※

 

[1999年12月22日 国連軍仙台基地 第1ブリーフィング室]

 

 A-01の再編成と連携訓練が終了したという連絡を聞き、こうして呼集にやってきていた。普段から使うことの多い部屋ではあるのだが、今日は入室者が多く面を喰らってしまう。

 中には見覚えのある顔がちらほらと見え、その顔触れからA-01関係者ばかりが集められていることは容易に想像ができた。そもそも呼集内容がA-01に関することだったから当然のことではあるのだが。

 

「A-01補充兵の再編と調練が完了しました」

 

「そ」

 

「現在、稼働部隊は2個大隊。補充ではおおよそ1個大隊規模になるだろうと仰られておりましたが、香月博士にご尽力いただき無事最低限満足のいく戦力に回復することができました。ありがとうございました」

 

「アンタたちが痩せ細っていたらアタシだって困るからね。でも礼は受け取っておくわ」

 

「はッ!」

 

 崎山中佐が夕呼先生と話しているところを遠目で眺める。

 

「今回の補充もそこいらの雑兵から骨のありそうなのに声をかけたのよ。崎山、どうだった?」

 

「えぇ。元より本土防衛戦と明星作戦で生き残った奴らです。そう易々と死にゃしません」

 

 中佐の言葉に先生は言葉を返すことはなく、そのまま俺たちの方を向いた。総勢72名と各中隊のCP将校、そして俺を合わせた79名の方を見ている。

 

「アンタたち補充兵にはオルタネイティヴ計画の実働部隊としての働きを求めるわ。これからアンタたちには特殊任務として前線に出てもらう。アタシの権限で用意させた戦術機。そして、開発した新型OS。死んで来いとは言わないわ。けどね、死ぬ思いはしてもらうつもりよ」

 

 俺も直接は言われることのない言葉。相変わらず身も蓋もなく、少しも気遣いのない言葉に呆れる。

 

「敵はBETAだけじゃない。契約書にサインした時点で、アンタたちはアタシの計画の人間として計画のために動いてもらう。そこのところ頭に叩きこんで根性見せなさい」

 

「「「「「応ッ!!」」」」」

 

「あいっかわらず暑苦しいわねぇ~。じゃあ、アタシは戻るわ」

 

 手をひらひらと振りながら、そのまま出口へと向かう先生が立ち止まる。

 

「そういえば言い忘れていたけれど、もうそろそろ引っ越しよ。荷造りしておきなさい」

 

※※※

 

[2000年1月1日 国連軍横浜基地 B19 夕呼の執務室]

 

 真新しい部屋には、いつもの変わらない面子が揃っていた。

この基地の主である夕呼先生。側近の霞。幼馴染の純夏。そして俺。

 

「香月先生、あけましておめでとうございます!」

 

「ハイハイ、オメデト」

 

 能天気な純夏は先生に新年の挨拶をしているが、予想通りあしらわれている。

 ここに呼び出したのは先生だ。何か話があって集めたに違いない。それがどのような話であったとしても、今年が2000年ということに意味がある。

 来年なのだ。あと2年しかないのだ。

 

「それじゃあ本題に入るわ」

 

 何時かのように、俺たちには綴られた紙が渡される。目の前には灰皿とマッチ。

 

「資料に目を通しなさい」

 

 言われた通りに目を通し始める。これもいつものように難しい言葉の羅列ではあるのだが、流石に慣れてきた。あまり躓くことなく内容が頭の中に入ってくる。

 要約すればこうだ。

 この年はオルタネイティヴ計画として正規・非正規問わず軍事行動が増えること。現時点で想定されている活動は大きく3つ。

『西日本奪還作戦』、『反オルタネイティヴ計画派諜報活動』、『XFJ計画初動諜報活動』。無論、諜報活動が非正規だ。

どれも夕呼先生に思惑があっての行動。それには意味があり、意義があり、進むべき道の障害になるものだ。

 

「白銀」

 

「はい?!」

 

 急に話を振られるとは思ってなかったので変な声が出る。

 

「何よ、その鳴き声。新種の生物?」

 

「知りませんよ。それで?」

 

「この内の2つは白銀が担当。言うまでもないわね?」

 

 先生の言う2つというのは、奪還作戦とXFJ計画のことだろう。奪還作戦に関しては記憶にない。多分、衛士訓練生時代の教育で歴史は学んでいるが、細かいことはあまり覚えていない。日本帝国に関するもので覚えていることと言えば、本土侵攻と侵路変更、多摩川絶対防衛戦、明星作戦。そのようなところだろう。つまり何かのキーポイントにはなっていない。

XFJ計画に関しては少し記憶がある。初めてこの世界(BETAのいる世界)に来た時、初めて見る戦術機に大興奮して読み漁った資料の中にあったようななかったような。文言だけだったかもしれないが。

 

「了解です」

 

 取り合えず返事をしておく。ここで何か頓珍漢なことを言っても、どうせ先生にどやされるだけだ。

 

「鑑と社は1つ。これは私と、不本意だけど鎧衣にも動いてもらうわ」

 

 そうなると反オルタネイティヴ計画派の方は俺が動く必要はないということだろう。考えるまでもないだろう。俺にはこういったものは向かない。それに、先生は"アレ"が使いたくて仕方ないのだろう。丁度いい舞台だ。盛大に面白おかしく引っ搔き回してくれるに違いない。

 

「タケルちゃんが悪巧みしてる香月先生みたいな顔をしてるよぉ……」

 

「アタシ、こんな顔してたの?」

 

「失敬な!」

 

 だか先生の考えていることと合っているのだろう。あまり否定することなく話を続ける。

 

「だけどまぁ、あながち間違ってはないわね。流石白銀」

 

「そりゃあもう。やってやるんですね、盛大に」

 

「当然よ。今から想像するだけでも楽しくて仕方がないわぁ」

 

 盛大にやってやるのなら、それはもう諜報活動ではないだろう。だが、深く考える必要はないだろう。きっと悪い方に転がることはない。

 深い打合せは今は必要ないらしく、夕呼先生もこれ以上堅苦しい話を続けるつもりはないようだった。俺に割り当てられた方も、例に漏れず直前に伝えられるだろう。

 

「直近では1つ目と2つ目。白銀は1つ目の方、しくじるんじゃないわよ」

 

「了解」

 

 手元にあった資料にマッチで火を点け灰皿に放り出す。それと入れ替わるように、純夏が机の上に重箱を並べ始める。

 

「さぁ、今日はお正月だからね! あり合わせだけどおせち作ったから食べよ!」

 

 こんな4人の雰囲気にも慣れ始めてしまい、全員が自然とソファーに腰を下してしまった。地下ではあるが、もう早朝。初詣も何もできたものじゃないが、こういった行事を楽しんでも罰は当たらないだろう。

 

※※※

 

[2000年2月10日 国連軍横浜基地 B19 最高機密区画]

 

 横浜ハイヴの直上に建設された基地への引っ越しは先月に済んでいる。間借りしていた仙台基地や、夕呼先生の研究資料が保管されていた帝都大学の研究室からの膨大な資料やデータの運搬には苦労した。

先生曰く『別にA-01を業者扱いしてもいいでしょ。運ぶモノがモノだからね』。

全くその通りではあるのだが、最重要機密だけはTF-403がその業者の役を担った。4機1小隊で仙台基地と横浜基地、帝国大学と横浜基地を移動するのは流石に肝が冷えた。

 大小のコンテナの搬送をしているだけなのに、駐留帝国軍や本土防衛軍部隊に捕捉されては説明に足止めを食らい、移動して哨戒線が切り替われば別の基地から捕捉されて。当然のことではあるのだが、流石に移動だけでも一苦労だった。A-01は演習やら言い訳を付けての搬送だったためか、特に俺たちのようなことは起きなかったというのに。

 

「……00式戦術歩行戦闘機 武御雷がロールアウトしました」

 

「あぁ」

 

 先ほど単独で仙台まで往復してきたというのに、帰還早々、霞に呼び出されて懐かしい区画にやってきたらこの有様だ。

 仙台の部屋の片付けは済んだというのに、引っ越してきて数日も経たずしてこの荒れ模様。何処の誰に似たのだろうか。霞に割り当てられた部屋の荒れ模様を呆然と見ながら、曖昧な返事を返していた。

 

「……帝国斯衛軍の大規模再編は完了していますが、戦術機の絶対数が不足していました」

 

「そりゃあ瑞鶴も専用機だからなぁ。いくら撃震のカスタム機とはいえ。あ、衣類関係は別の部屋運ぶか?」

 

「……日本帝国陸軍及び帝国斯衛軍による奪還作戦が立案されています」

 

 元旦に話していたことが脳裏を過る。

 

「……そうです」

 

 TF-403(エインヘリヤルズ)の出撃は少し躊躇いがある。約半年の訓練期間があっても実戦経験はない。F-15EJ f/AN4(極光)の慣熟訓練は完了している。万全だ。そう言いたい。

 霞が今その話題を出したということは、出撃が近いということ。もしかしたら、今から準備しても慌てて出発する可能性すらあった。

 

「……横浜基地出発は3日後です」

 

「分かったよ」

 

 俺は短く返事をし、霞の頭を撫でる。表情の乏しい彼女のことだ。何か考えているに違いないが、不快に思うようなことはないだろう。部屋の隅に置かれていた段ボールを抱えて立ち上がる。

 

「"詳細"が分からないにせよ、俺のすることは単純なんだろう?」

 

「……はい。いつも通りです」

 

「了解! いっちょ派手に暴れてくるぜ!」

 

「……ほどほどにお願いします」

 

 霞に窘められながらも部屋を出る。段ボールの行先は純夏の部屋だ。このまま向かい、適当にピアティフ少尉でも捕まえればいい。呑気なことを考えながらも、これから起こることを楽観的にしか想像することができなかった。

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