Muv-Luv Alternative Plantinum`s Avenger   作:セントラル14

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episode 56

[2000年2月15日 極東国連軍 八幡前線基地]

 

 BETAによる環境破壊によってか、何時まで経っても止むことのない雪。しんしんと降り積もり、昨夜からの積雪で足首くらいまでは埋まるようになっていた。

 霞から言われて3日後と言われ、夕呼先生からは出発1日前に概要を聞いた。

 西日本奪還作戦は日本帝国軍及び日本帝国斯衛軍を主力とする、関西地方奪還を目的とした大規模反抗だ。主力には極東国連軍も参加しており、第11軍から戦術機・機甲・航空戦力の相当数が出撃している。

初戦は主力が帝都の守りを盤石にするべく出撃し、木津川・八幡・亀岡・福知山・京丹後まで1日で奪還。事前に圧力をかけていたため、案外すんなりと奪還できたらしい。ちなみにこの時、支援に徹していた極東国連軍は湖東からここ八幡まで前進することとなった。

 俺たちTF-403も前進するよう下命を受け、昨夜の内に移動が完了。割り当ての駐機場と休憩室で休憩してきたところだった。

 流石に夕呼先生に言われてすぐに召集して伝えたが、急すぎる話だったので大急ぎの身支度で出発しての大移動だったためか、俺以外の全員が疲労困憊だったようだ。暖房の周りに固まって毛布を被ったかと思えば、すぐに全員が寝入ってしまったのだ。

 

『02より01。全機起動完了』

 

 バストアップウィンドウにピアティフ少尉の顔が映る。続いて伊隅少尉、七瀬少尉が映って来るが、ピアティフ少尉を除いて2人は少し不安気な様子。作戦概要は触りだけ、詳細は全く聞かされずここまで来たのだ。無理もないだろう。俺たちは何をしにここに来て、何を成し得なければならないのか。目的も目標もない。ただここに来ただけ。そう2人の目に映っているに違いない。

 だが、俺たちには明確な目的があった。それはF-15EJ f/AN4(極光)実戦証明(コンバットプルーフ)。確実に言えることはそれに限る。性能評価も演習評価も終わっているが、実戦だけは経験していないのだ。別に主任開発者の2人(霞・純夏)を疑っている訳ではないが、今後運用していく上で必要なこと。この機会を逃すことはできない。

 そして俺だけに知らされた目的は3つある。

1に今作戦に参加する帝国斯衛軍は00式戦術歩行戦闘機 武御雷が配備されている。これの情報収集。記憶の継承があったとしても、実物のデータの方が役に立つ。これは霞の言であり、夕呼先生も納得していること。

2、参加している極東国連軍の戦力の拡充。リストにあった参加部隊から、総数からして日本帝国政府から顰蹙を買った可能性があるということ。前の世界では、これの影響で先生の行動に少しばかり障害になったため、TF-403を投入して少しでも良い顔をしておくため。ここまでは良い。

3、参加している極東国連軍戦術機甲部隊の撃滅。理由は、彼らが第11軍内部における反オルタネイティブ4であり、年内におけるオルタネイティブ4における軍事行動の障害になるからだ。

これも前の世界から継承した情報だった。だからこそ、表舞台に出てくる今、撃滅しておかなければならない。それが先生の言だった。

 

「了解。01よりエインヘリヤルズ、聞いてくれ」

 

 本音を言えば嫌だ。俺たちの敵はBETAだ。それなのに、仲間同士で殺し合いをするなんて馬鹿げている。何時の日にか同じようなことを考え、口に出したこともあった。だが、今ならば言える。それでもやらなければならない。矛盾を認め、行いを認め、自分の責任を認め、自分の意思で決めた。

目的のために人を殺めることも厭わない、と。

 

「俺たちは西日本奪還作戦に参加し、日本帝国軍並びに日本帝国斯衛軍を主力の援護を行う。ここまでは既に話していると思う」

 

 作戦が始まるからか、これまで敬語で話していた口調が自然と崩れてしまう。

 

「本日両軍は京都市街の斯衛軍並びに昨日福知山・京丹後まで前進した帝国軍が前線を兵庫東部・大阪東部に押し進める。我々極東国連軍部隊は解放された京都南部戦区に進駐。斯衛軍分遣隊の後背に付き、枚方陥落を目指す。この際、大阪市街からのBETA増援が予想されるが、琵琶湖運河に展開中の戦艦やロケット砲艦からの支援は受けられない。全て前線基地後方に展開している木津川河川久御山砲撃陣地並びに城陽砲撃陣地からの支援砲撃のみ受け付けられる」

 

『偵察情報は?』

 

「先発した威力偵察部隊は壊滅。石清水八幡宮跡での初期偵察の情報のみだ。前方に展開するBETA個体数はおよそ連隊規模」

 

 偵察情報もあまり役に立たないだろう。出撃した威力偵察部隊は枚方方面に出た歩兵分隊だ。途中までは通信が可能でも、高所を取っての光学偵察をする前に恐らく小型種に襲われて通信が途絶した筈だ。

 

「偵察情報は過信しないように。偵察衛星からの情報だと、前面に展開するBETA梯団の後方にはまだうじゃうじゃいるだろうし」

 

『となると本日の作戦目標は、枚方まで前進して仮設拠点を得ることですね』

 

「そういうことになる」

 

 既に昨日の戦闘でも戦死者は出ている。幸いにして後方では出ていないが、前線の戦術機部隊も半壊した部隊があるくらいだ。この調子で損耗率が増えていけば、作戦の主目的である前進目標までどれだけ近付けるかが肝になってくるだろう。しかし、俺はそのことを心配はしていなかった。夕呼先生や霞から、問題が起きるのは大阪市街を奪還し中国地方に入ってからだと言っていたからだ。

 

「先鋒の斯衛軍分遣隊は1個大隊規模。俺たちの出番はやってこないとお達しがあったが、機を見てオーバーラップし戦線に加わる」

 

 連隊規模だけであれば面制圧とお得意の近接密集戦で決着はつくだろうが、BETAとの戦闘は常識が全く通じない。であればここで夕呼先生の目的を満たす必要がある。極東国連軍部隊として戦果を挙げればいい。ついでに分遣隊に武御雷が配備されていれば御の字だろう。

 

「ここで俺たちの状況を改めて説明する」

 

 網膜投影上にデータを表示させる。箇条書きの簡素な内容だが、非常に重要なことだった。

 

「俺たちはTF-403であることを偽り、計画新設された極東国連軍横浜基地所属 エイコーン小隊と名乗る。既に参加が確定した時点で部隊情報が書き換えられている」

 

 全員のコールサインは《acorn》に切り替わっていた。CPやHQから閲覧できる情報や部隊員全員のパーソナルデータも少なからず書き換えられている。まずもって言及されることはない。強いて言えばピアティフ少尉のことに関してだが、こちらも軍籍を一部変えているため問題ないだろう。

 

「HQの認識は俺たちのことを、"横浜の女狐によって戦地へ放り出された可哀そうな奴ら"となっている筈だ。しかし、横浜基地や香月大佐の作戦協力姿勢やオルタネイティヴ第4計画招致国への姿勢として精一杯の配慮で出しうる限界であることは伝わっている。再編が済み次第、A-01から1個大隊が増援として合流する決定がなされており、既に横浜基地では出撃準備中であることの一報がある」

 

 そう皆に説明したは良いものの、この増援は1個中隊に減らされる予定でもあった。作戦司令部には機材トラブルなど理由を付け、出撃限界が1個中隊であったという言い訳をすることになっている。戦力で言えば、1個中隊でもかなりのものになるので、実際に前線に到着すればHQからの文句もなくなる。この上で、伊隅少尉は知っていることだが、既にA-01は再編を終えている。

そしてこのことを皆に伝えないのは、彼女たちが知る必要のないことだからだ。伊隅少尉自身もそれは分かっていることだろう。

 

「A-01は通常通り来ることになっているが、俺たちは身分を隠している。専用機を与えられているのも、こういった軍籍を隠蔽しての作戦行動をするためだということを忘れるな」

 

 そのための極光であり、そのためのTF-403なのだ。

 

「全機出撃!」

 

『『『了解!』』』

 

※※※

 

[2000年2月15日 京都南部戦区第2防衛線外縁 高槻北東 若山南]

 

 砲撃陣地からの面制圧が完了し、先鋒の斯衛軍第9大隊が突撃したのを見送った。俺たちは遅れて前線基地を離れ、高槻市北東部に位置する若山の麓に展開していた。

 この位置は高槻と亀岡を跨ぐ小高い山の背にしているため、帝国軍の前線が抜かれない限りは光線属種に怯える心配のない地点だ。現在視界の右端では激しい砂塵と爆発が連続して起こっており、先鋒が切り込んでBETA集団の殲滅に掛かっている様子が見て取れる。

 一方で国連軍部隊は2分されており、戦域の南北に分けている。俺たちが担当するのが北部。前線を迂回したBETAの撃破、側部攻撃が任務となっていた。南部も同様に第二京阪の京田辺から枚方東区間に展開している。

 

『現在、前線には要塞級・光線属種の存在は確認できていないようです』

 

 戦術データリンクから送られている前線の状況は優勢。着実に連隊規模BETA群の総数は減少しつつあるようだった。分遣隊の後方に展開する帝国軍機甲部隊と機械化歩兵部隊が抜けた個体の掃討を効率良く行えている証拠だ。前線基地に接近するBETAは皆無であり、予備部隊も暇を持て余している様子が見て取れる。

 

「後方のBETA梯団にはどっちもいるだろうなぁ」

 

『同感です。偵察衛星からの情報更新はありませんが、移動は始まっているでしょう』

 

「斯衛部隊が善戦していれば、俺たちの仕事も減るってもんだよ」

 

 ピアティフ少尉が半ば雑談のような内容を挟んでくる。周辺警戒とセンサーとの睨めっこもすぐに飽きてくる。こういった会話は気を紛らわすのに丁度いい。

 

『ですが、我々の任務は』

 

『そのためにオーバーラップするんでしょ? あぁ、帝国斯衛軍との共闘なんてしたことなかったけど、やっぱり噂に聞く機動制御はすごいんだろうなぁ』

 

 七瀬少尉は任務のことを考えているようで全員を窘めるような発言をする一方、伊隅少尉はかなり能天気なことを言っていた。やはり任官から時間が経っていることと慣れから崩し方を知っているのだろう。

 

「すごいってものじゃないぞ。あんなの真似するのにどれだけ訓練が必要か」

 

『それ、中尉が言います?』

 

「失礼な!」

 

『すみません。変態衛士である中尉には言っても無駄でした』

 

「本当に失礼な!」

 

 意地の悪い笑みを浮かべるピアティフ少尉にふざけて返すが、やはりこの締りの悪い空気感には七瀬少尉は慣れないようだ。このまま続けさせてもらうが。

 

「俺だって斯衛衛士と模擬戦すれば、使い手次第で善戦できるのかも怪しいぞ?!」

 

『少なくとも私たちの目の前にいる白銀中尉殿が苦戦するとは思えないです』

 

『同感です。帝国軍の精鋭も赤子を相手にするかのように翻弄しそうですもんね』

 

 全く酷い言われ様だ。慣れているとはいえ、自信のある戦術機の扱いを褒められて嬉しくない訳がない。

 一方で以前七瀬少尉に言われたことを思い出す。年齢と中身が伴っていないこと。それを裏付けるように、夕呼先生の新たな興味。俺は未だに全てを消化しきれていなかった。

何と言われようと主観では任官してから7年程度。それだけ生き残っていれば十分な熟練衛士だろうが、それ以上の能力を備えた自分。虚数空間に散った因果情報を受け取り、ありとあらゆる確立時空の経験と知識。それらを全て無意識下で実行してしまっている。肉体が少しばかり追いついていないだろうが、既に記憶にある年齢に近付きつつある今、驕りでもなくそれだけの衛士になってしまう現実がある。

それ故に夕呼先生は俺を現場最高責任者としている。この世界で肉体年齢も経験年数も少ない俺のことを。ガキだった俺のことを。

 

『CPよりエイコーン1』

 

「こちらエイコーン1」

 

 少しばかり考えに耽っているとCPから通信が入る。

 

『エイコーン小隊は速やかに現地点を離脱し、一時撤退中の斯衛部隊の援護に当たれ』

 

「エイコーン1了解」

 

 どうやらやはりBETA相手にポジティブな予想は裏切られる。当然のことだろう。

 詳細を聞くまでもない。恐らく部隊が半壊した斯衛部隊が撤退し態勢を立て直す算段なのだろう。ならばここで俺たちの仕事を始めようじゃないか。

CPからの司令はあくまでも"そういう形に動け"というだけ。ならば現場判断は各指揮官に委任される。文句は言うまい。

 

「エイコーン1より各機、聞いての通りだ」

 

 跳躍ユニットのアイドリングを解除し、各関節のロックを解除する。

 

「どうやら公家のおじゃる様方は勇み発って出たと思ったら、自慢の屋敷にご帰宅なさるようらしい。そこで俺たちにその尻を追う下等生物共を蹴散らしてみよ、と仰せだ」

 

 自然と口角が上がり、体温が上がるのを感じる。

 

「いくぞ」

 

 俺は最後に短く告げ、ふわりと機体を浮かばせる。目指すは撤退中の斯衛部隊後方のBETA集団。大隊規模だろうがお構いなしだ。

 

縦壱型隊形(トレイル・ワン)でBETAの土手腹に突っ込み、前衛と後衛を分断する。続け!」

 

『『『了解!』』』

 

※※※

 

[同年同月同日 京都南部戦区第1防衛線後衛 長尾峠区域]

 

 全員が言葉を失っていた。我々が撤退するようなことになる、ということに対してではない。そのようなことは後方で起きていることと比べれば些事に過ぎない。

 京都南部戦区に配置された帝国斯衛軍第9大隊は決して強者揃いかと聞かれればそうではないのかもしれない。だが、帝国斯衛なのだ。帝国軍にも勝にも劣らぬ研鑽を積み、全てを銃後にある民たちのため己を高め続けてきた。

 

『う、うそでしょ……』

 

 誰かがそう呟いた。先ほどの激しい戦闘の渦中にも、決して後ろ向きな言葉を言わなかった部下たちが声を震わせた。

 視界の端に映るIFFが信じられないものを示していた。

そこにあるのは、撤退する我々を追跡していた大隊規模のBETA群。現在の我々の戦力では受け止めきれず、そしてほぼ半壊した我々は撤退するしか道はなかった。ここで命を投げ出すことは、部下たちやこれまで先に九段へと向かった輩たちへ大変失礼なことだからだ。少しでも生きる希望があるのならば、少しでも反抗の機会が伺えるのならば退くことも是非もなし。自分に言い聞かせての決断だった。

残存機およそ18機では到底かなわない。その筈だ。なのに後方で起きている"アレ"は一体何なのだ。

 

「隊長! 撤退する我々とBETA群の間に滑り込んできた彼らは一体何なのですか?!」

 

 思わず口に出してしまう。だがこれは全速力で前線基地へ向かう我々全員が思ったことだ。

 

『……高槻北部で控えていた国連軍部隊よ』

 

「いやそれは理解していますが!」

 

『彼らの異常性は同感よ。でもね、こんなことは以前にもあった』

 

 レーダーにはBETAの渦中で菱形隊形(ダイヤモンド)で動き回る味方機の姿が映る。先ほどまで横隊(ライン)で砲撃戦をしていたようだが、飲み込まれて防戦しているようにも見える。そう"見える"だけだ。実際はBETA個体数が急激に減少している。特に隊長機と思われるマーカーが一番激しく、周囲の空間が広がったり狭まったりを繰り返していた。

 アレは精鋭で間違いない。小隊規模でありながらも、我が大隊が撤退に追い込まれた数を相手に奮戦している。

 

『八幡前線基地で修理補給を受けた後に戦線復帰。側面展開していた国連軍部隊の補給する時間を作るわ。時間が一刻も惜しい』

 

 隊長の下命に全員が頷く。たとえ国連軍だったとしても、共に戦場に立つ友であることに変わりはない。|売国奴《日本帝国籍を持ちながらも国連軍に入隊した者》がいても変わらない。この場にいる誰もが、本土奪還を目指していると信じて。

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