Muv-Luv Alternative Plantinum`s Avenger   作:セントラル14

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episode 57

 

[2000年2月15日 京都南部戦区第1防衛線前線 枚方市駅前]

 

 以外に呆気なかった。帝国斯衛軍部隊を追撃していた大隊規模のBETA群は殲滅し、後続の到着を待っているような状況になってしまった。周辺には彼らの戦術機が転がっているが、全て管制ユニットが潰されている。中の衛士の死亡も確認している。

誰も救うことはできなかったが、仕方のないことだ。何処か自分の心が冷めていることを自覚しながらも、人として当たり前の感情を切り捨ててしまっていた。

 

『ウィンドブレイカー1よりエイコーン1』

 

 周辺警戒をしていた俺たちの元に、撤退していた第9大隊が戻ってきた。バストアップウィンドウには正に壮年の女傑と言っても差し支えない様相の人物が映った。

 

「エイコーン1。前線への帰還をお待ちしておりましたよ」

 

『言ってくれるじゃない』

 

 口角を釣り上げる彼女は周辺の状況を理解しているのか、連れていた部隊を周辺に展開させる。前進隊形だ。

 

『我々の尻拭いをさせてしまって申し訳ないと思っているわ。けど、前衛の切先は譲る気はないの。あなたたちは他の国連軍部隊同様、側面支援に戻りなさい』

 

 流石は帝国斯衛軍としか言い様がない。これまで俺も逢ったことのある人たちも、同じ状況であれば似たようなことを言うだろう。だが、敢えてここは否定させて貰おう。

 

「お断りします」

 

『何?』

 

 俺たちはただ側面支援で燻るために来たのではない。俺たちには俺たちの任務があり、それは作戦司令部や参加の国連軍司令部の意思とは関係ない大きなモノを背負っているのだ。

 

「この先のBETA梯団はおよそ連隊規模。その後方には要塞級と光線属種が控えています。BETAの壁を抑えつつ、要塞級狩りと光線級吶喊(レーザーヤークト)ができるとでも? その部隊規模で?」

 

『何が言いたい、貴様』

 

 何故そこまで渋るのだ。何故そこまで頑ななのだ。何故そこまで死に急ぐ。目の前にいる彼女たちの目的は、最終的には西日本奪還を目指すものだろう。関西地方を取り戻し、中国地方へ進出することだろう。

俺の頭に血が昇るのが分かり、同時に鎮静剤の自動注射表示が出る。一瞬頭がぼーっとしたかと思うと、すぐに口が開く。

 

「冗談じゃねぇ。そんなところに友軍を独りで行かせるかよ」

 

 俺はこの通信を聞いている部下の顔を見る。全員意図は汲み取ったようだ。ならば言わせて貰おう。

 

「光線級吶喊はこちらに任せて貰います。あなた方の82式(瑞鶴)は高速機動と近接密集戦には向かない。北部の残りと南部の国連軍部隊の側面支援を受けながらBETA群前衛を受け止めてください。後方の砲撃陣地も前衛の要請なら支援砲撃もしてくれるはず。その間に俺たちが目ん玉野郎(光線級)を潰してきます」

 

 目の前に立つ真紅の瑞鶴は動かない。後方に控える山吹や純白のも同様だ。全てがBETAの体液で汚れ、損傷も直っていない機体もある。

自分たちの状況は自分たちが一番理解している。

 

「エイコーン1より各機、行くぞ」

 

『『『了』』』

 

 全員の返事を聞き、極光をふわりと浮かび上がらせる。向かうはBETA群後方の光線級集団だ。

 

※※※

 

 昼過ぎにもなれば腹も空いてくる。先ほどからグーグーと音を鳴らしながらも、跳躍ユニットの音で掻き消える。

 高速で過ぎ去る瓦礫の山を横目で見ながら、前方の障害物に集中する。後続には3機の戦術機。息を合わせながら寸分違わず同じ着地点を踏み締め、前へ前へと進み続ける。発砲は最小限。全員が集中し一言も発しないまま、ただただ目標地点を目指す。

 関節部の警報が出始めるが知ったことかと無視する。俺は問題なくても、他の3人は熟せるだけの訓練を積ませてきた。血反吐を吐くほど反復訓練をし、同時に高負荷の想定訓練もしている。ここで脱落するような軟な鍛え方はしていない。

 

『目標まで1,000』

 

 誰かが呟く。

 BETAの割れ目にそれが見えてくる。要塞級に囲まれた光線級集団。およそ30体。一瞬だ。狩るのも狩られるのも。

 

「突破口は俺が」

 

『03支援します』

 

 刹那、BETAの大海が割れる。一気に目の前が広がり、前進する光線級集団が見える。偵察情報がなくてもセンサー頼りでおおよその位置は予測できたが、流石に不味いかもしれない。

 全員が息を飲む。他の機は乱数回避機動を取りながらも肉薄を続けるが、俺は手動操作のまま。躱せる自信があった。

 光条が交差し、辺りを照らす。少なくない衝撃波で機体が揺れるが問題ない。

 

『全機健在!』

 

「そのままハードランディング! ぶちかませッ!!」

 

 光線級個体数20。数秒も掛からない。36mmチェーンガンが火を噴き、次々と肉塊を生み出す。このまま制圧し切って即時離脱。ついでに要塞級を狩って逃げれば一息吐ける。そう考えていた。

 想像よりも光線級の個体数が多い。侵攻するBETA群の総個体数に比例して多すぎる。見落としがあったかと考えるが、そんなことはない。連隊規模のBETA群だ。BETAの行動習性で言えば、群に対する光線属種の含有数が違う。この規模ならば存在しないか精々数体程度。そうなると考えられることは多くはない。

 

「殲滅次第即時離脱! 雑魚は構うな! 脱出はこの方向!」

 

 戦術データリンクで位置情報を共有する。侵入を試みた淀川の川沿いだ。摂津へ北上してそのまま東へ飛べば一時離脱ができる。枚方で展開している斯衛第9大隊は既に敵前衛を受け止めて遅滞戦闘を始めている頃だ。要塞級狩りは後からでもできる。今は脱出し胸につっかえる違和感を払拭することが先決だった。

 淀川を飛び越えるのは簡単だった。BETA群への突入と同じ方法で抜けるだけ。推進剤の残量が気になるところではあるが、まだ戦闘続行可能な分は残っている。もし前線が突破されることがあっても、側面支援をしている国連軍部隊が増援に向かうだろう。

 考えを巡らせる。先ほどの違和感の正体だ。あれは深く考えることもないだろう。恐らく戦術機に引き寄せられた光線属種が展開しているBETA群に加わったのだ。そうなると残るはさらに後方のBETA梯団に残された残存光線属種と要塞級から排出させる個体だけ。

殲滅した際にざっと確認したが、光線級の周囲におよそ15体の要塞級がいた。全ての個体から排出されたとしても、再度突入すれば削り切ることが可能な数しか出てこない。ただ、現時点で残存BETA数は計測不能。どれほどの数が残っているかは皆目見当が付かない。

 警戒をしながらも、元々待機していた地点に戻る。ここには補給コンテナが設置されており、給弾と推進剤の補充ができる。

交代しながらも補給を済ませると、前線の情報が更新された。

 

『第9大隊、奮戦していますね』

 

『他の国連軍部隊の側面支援と支援砲撃がちゃんと機能しているね。BETAの規模にしてはこちらの戦力は見劣りするけど、鶴翼陣形と砲撃戦で撃破効率を上げられているみたい』

 

『間引き作戦でもこのような戦術を行うのですか?』

 

『することもあるけど、あれは正面で受け止める部隊次第だね。戦術情報と部隊を完全に把握できていないと、いずれ受け皿は決壊するの』

 

 交代で補給を始めた伊隅少尉と七瀬少尉が雑談を始める。戦術データリンクの更新情報ではウィンドブレイカー隊が徐々に後退しながらも着実にBETAを撃破していたのだ。

 彼女と彼女の部隊は攻勢よりも守勢に優れているのだろう。情報は多くないが、流石は帝国斯衛軍といったところだろう。突入前の問答や前線に帰還した時に見た様子からして、恐らく一般的な斯衛部隊ではあるのだろう。しかし、帝国軍から登用した者がいないとなると、再編されたばかりの部隊。そして本土信仰やその後も見た"彼女たち"と同じだろう。

あれは元学徒兵を主体とした促成部隊だ。未熟な衛士を軸とした戦術機部隊。熟練衛士は部隊長などの役職に就いているのみ。十分な訓練も経験も積んでいない。だから、部隊が半壊した時点で撤退を選んだ。だが、戦力不足で逆戻り。

否。交代できる部隊がいない。だからこそ、前線に戻ってきた。

 この作戦には十分な戦術機部隊が配備されていない。他の戦区では軸が単一軍の構成になっているだろうから、捻出できなかったか、国連軍部隊が想定よりも多く集まらなかった。恐らく前者だ。京都南部戦区は京都の柔らかい横腹だ。ここに日本帝国所属の戦術機部隊が1個大隊しか配備されていなかったのは、疲弊した日本帝国軍に余力がなかった。そして、早急に西日本の奪回をしなければならなかった。それ故に事が早計と分かりながらもしなければならなかった。

 

『CPよりエイコーン1。現在、帝国斯衛軍第9大隊がBETA第3陣と交戦中。補給が終了次第、速やかにこれを支援せよ』

 

「エイコーン1了解」

 

 どうやら休む時間はないようだ。戦術機の腹が膨れても、俺たちは変わらない。空腹を唾を飲み込んで誤魔化し、全員にコールする。

 

「エイコーン1より各機。補給が終了次第、ウィンドブレイカー隊側面に展開し支援を行う。さっきの光線級吶喊とは違い、中距離支援になる。突撃砲のセレクターを単発かバーストに切り替えておけ」

 

『『『了解』』』

 

※※※

 

[同年同月同日 京都南部戦区前線深部 守口JCT]

 

 日が暮れる前には戦闘が終結した。前線に復帰した帝国斯衛軍第9大隊(ウィンドブレイカーズ)が後続のBETA梯団を受け止め、2軍による巨大な鶴翼陣形と支援砲撃によって殲滅することができた。

被害は第9大隊の21機、国連軍部隊の14機の合計35機。京都南部戦区は前線を押し上げることに成功したため、陣地構築が済み次第、戦区が大阪戦区に切り替わる。

 現在の戦区が配備する戦術機総数は73機。およそ2個大隊規模。他の戦区も同様で、同じ程度の被害は出ているものの作戦行動に支障はないとHQは判断した。この後、帝国軍・国連軍の増援部隊が到着するということもあり、前進速度を低下させながらでも戦力維持に務めるとのことだ。

 

「へぇ~、ここが俺たちの今日の寝床かぁ」

 

 BETAの死骸から発せられる悪臭は鼻を摘まみたくなるほどだったが、ある程度の洗浄とそもそも被害の少なかったエリアを仮設拠点に仕立てられた。場所は大阪地下鉄車両整備場跡。

運び込まれている物資は少ない。数日分の食料と日用品以外は全て戦術機に関するものばかりだった。自走整備支援担架や補給コンテナくらいで、整備兵も中隊規模がやってきているのみ。他の兵科は別のところに分散しており、そもそも軍籍が違えば拠点の場所も違っている。

 

「一番小さい仮設拠点とはいえ、やはり本当に小さいですね」

 

「仮眠テントは2つ。水回りは2つ。後は物資の山、山、山」

 

「訓練学校で習った通りですし、同じですね。違和感がないです」

 

 三者三様の意見をどうもありがとう、と言いたいところだ。やはり伊隅少尉は慣れているのか、真っ先に設備を見て少し唸っている。七瀬少尉も訓練学校時代と同じということは、男女共同生活をしていたのだろう。前線では普通のことだし、それも訓練だと云って実施するところも多い。あまり抵抗もない様子。

 一方でピアティフ少尉は少し抵抗があるようだ。

そりゃそうだろう。元A-01だ。特殊任務部隊は一般部隊とは違う特別扱いされることが多い。長期間戦地にいることも少ない。訓練兵時代はどうだったか分からないが、A-01にいればその辺りの感覚は変わってくる。

 

「飯飯ぃ。今日は今日とて戦闘糧食ぅ」

 

 俺はというと、気にせず物資の中から食料を探し出す。種類はそれなりにあるが、どうやら国連軍の戦闘糧食だ。設置したのは国連軍だし当然だろう。そのようなことを考えながら、手頃なベンチに腰をかけて封を開ける。

 帝国軍の戦闘糧食ならばまだマシだろうが、国連軍のものは味気ない。味気ないというよりも、もはや栄養補給することのみが目的になっている。メニューは合成パンに合成ランチョンミートが固形で、合成グリーンスープが液体。栄養補助用のビタミンサプリメント。味気ない上に美味しくもない。

慣れはしたがやはり横浜基地の食堂が恋しい。

 

「飯食いながら聞いて欲しいです」

 

 少しすっぱめの合成パンをかじって、やっとドイツ風のメニューであることに気付く。独特な酸味と香りが添加されている。人によっては好き嫌いが分かれる味だなんて考えながらも、飯にありつけることを有難く思いながらも全員の顔を見渡す。

 ベンチに各人腰をかけて強化装備にジャケットを羽織ったまま、適当に取ったであろう戦闘糧食のメニューを確認していた。

 

「本日正面に展開していた斯衛軍第9大隊は半壊。側面支援を行っていた国連軍は1個中隊を失っています。これによって作戦司令部は再編を決定しました」

 

 顔を顰めながら恐らくイギリス風のメニューに当たった七瀬少尉を横目に見ながら、簡易ブリーフィングで聞いた内容を伝達する。

 

「予備兵力として帝国本土防衛軍 第38師団 第14戦術機甲大隊と第388機械化歩兵大隊が京都南部戦区前線に配備。第14戦術機甲大隊は斯衛軍第9大隊と合流して臨時混成戦術機甲大隊を編成。明日も引き続き、陣形正面は臨時混成戦術機甲大隊が受け持ちます」

 

 彼女たちに伝えるべきか悩んでいる。

 この帝国本土防衛軍 第38師団 第14戦術機甲大隊と第388機械化歩兵大隊は、先の本土侵攻時に編成された学徒兵と訓練兵中心の部隊だ。第9大隊の時とは違う。彼ら彼女らは斯衛軍だ。戦場に出ることも、その時の覚悟も決まっていただろう。だが今回のはどうだ。きっと心が折れている。

 作戦司令部は分かっていた配備したのだ。斯衛軍の前面に配備して肉壁としてしか使い道がないことが。

 

「何を気不味そうにしているんですか?」

 

 そう聞いてきたのは伊隅少尉だった。顔に出ていたのだろう。

 言い辛い。昨日以上に明日の戦闘は苛烈を極めるのに、補充されたのは学徒兵だったということ。既に本土侵攻から時が経っているのに、未だに前線には学徒兵が残っていること。俺たち正規兵の開けた穴を学徒兵が埋めること。

だが、言わなければ不信感も持たれるだろうし、明日の心構えもできない。

 かじっていた合成パンを膝の上に置く。ぽろぽろとパンくずが膝の上に散らばる。

 

「彼らは、第14戦術機甲大隊と第388機械化歩兵大隊は、促成部隊なんです」

 

※※※

 

[同年同月同日 国道1号高野道]

 

 自走整備支援担架の兵員室で揺さぶられながら高畑駐屯地を見送る。この基地を発したのは私たち第14戦術機甲大隊と第388機械化歩兵大隊。戦術機23機を運ぶ自走整備支援担架23台と支援輸送車両20台、兵員輸送車10台とトラック40台。

 笑える話だ。大隊長から聞いたのは、現在京都大阪間て展開されている反抗作戦に加わること。ここまではよく聞く話だ。BETAの間引きにも駆り出されることがあるから。けどここからなのだ。

 私たち第14戦術機甲大隊は3ヶ月前の作戦で壊滅した大隊や中隊の寄せ集めであること。第338機械化歩兵部隊も同様で構成定員数の700名ではなく390名である上、満足に動く87式機械化歩兵装甲が100もない。そのほとんどが警備部隊のような個人携帯装備で来ている。

肝心なことが一番笑える。

 

「ただの学徒の敗残兵」

 

 私たちは本土侵攻の際に編成された奈良市近辺で徴集された訓練校の学生の現地徴集兵部隊(コア化部隊)なのだ。

 そしてまともに戦えない私たちは奈良での防衛戦で潰走した。逃げた三重西部で再編された私たちは正規兵に敵前逃亡だと殴られ蹴られ嬲られ、ボロボロの装備とオマケを押し付けられて奈良三重間の県境に展開。その後、気付けば収容されて撤退。その後、正規兵が取り戻した奈良県最前線の高畑駐屯地に送り込まれた、という訳だ。

 私たち総勢453名は全員元学生。知識も経験も浅い、ただ逃げることしかできなかった弱虫クソ虫。

 

「おい阿婆擦れ、聞いているのか?」

 

 運転席から声が聞こえる。

 

「何?」

 

「ようやくクソガキ共のお守りから開放されるって、第1中隊の奴らは良い気みたいだ。将校サマからくすねた酒でどんちゃん騒ぎしてるぞ」

 

「そうなんだ」

 

 興味ない。

 

「俺も加わりたいぜ。しばらくだからなぁ」

 

 興味ない。

 

「てめぇらを山田池公園で放り出したら、帰りながらおこぼれを貰うとする。てめぇはどうなんだ?」

 

「知らない」

 

 京阪交野線まで南下したら、そのまま主脚走行で摂南大学寝屋川キャンパス跡まで前進して合流予定の斯衛軍第9大隊と接触するだけだ。後は明日になれば分かること。

 

「そうかよ。まぁせいせいするがな。タダ飯食らいの役立たず共が前線にまた行くんだからな。そろそろ他の大隊の保守部品もなくなってきたことだし、状態の良い予備パーツが残るのはいいことだ」

 

 ずっと私に向かって話している運転手は、高畑駐屯地の他の戦術機甲大隊付整備中隊の整備兵だ。曰く、本当に嫌だったがジャンケンで負けて仕方なく来たという。

別に運転できるから要らないと思ったが、どうやら私たちを下したら自走整備支援担架を駐屯地まで乗って帰らないといけないらしい。戦闘で私たちが損傷を受けても整備してくれる気はさらさらないらしい。

 着古した強化装備の時計を確認すると、時刻は午後11時21分。予定ではそろそろ目的地に到着する頃だろう。

 

「おし、そろそろ着いたな。準備しろ」

 

 私は黙って兵員室を出て、戦術機の管制ユニットに滑り込む。

 起動確認とステータスチェック。専門的な整備は受けていないが状態はいい。久々の起動でもしかしたら跳躍ユニットから黒煙を吐くかもしれないが、問題はないだろう。

 

『聞こえるか?』

 

「聞こえる」

 

『もう立ち上げもロック解除もしてあるから、さっさと降りてどっか行け』

 

 言われなくたってそうする。

 山田池公園周辺に次々と第14戦術機甲大隊の撃震が並ぶ。全機見た目は問題なく見えるが、完全な整備はされていない。私たちの戦術機の整備は基本後回しだ。壊れたり脱落した部品は取り付けてもらえるが、それ以外はほとんどやってない。

 

『しっかし、他のガキは差し出してたのに』

 

「……知らない」

 

『気取りやがって』

 

 もし整備してもらいたければ男は支給された官品を献上。女は自分を献上。今回も出撃が決まってすぐに誰かが献上したらしい。

私は嫌だった。それに整備は自分でも少しはできる。時間がある限り、自分のが終われば他の機体もやった。もしかしたら間に合わなかった子の機体か、断った子の誰かのか。

 運転手との通信を切り、すぐに入ってくるであろう大隊長からの通信を待つ。

 

『オスカー1より各機。そのまま聞け』

 

 大隊長だ。彼は先生、訓練校時代の担当教官だった人。不愛想で怖い。いつも誰かしらが怒鳴られていた。てっきり正規部隊に配属されていたと思っていたが、編成時に大隊長となっていた。理由を聞いてみたことがあったが、『押し付けられた』とだけ。

何だ。私たちはお荷物か何かかと思ったが、実際そうだった。元々訓練兵だけで48名いたが、それも今じゃ当時の教官や訓練校の衛士徽章を持っていた人を含めても23名。

他は全員初陣や高畑駐屯地に配備されて以降の作戦で死んでいって、補充の学徒兵が来て死んでを繰り返すばかり。正規兵はほとんど来ない。そんな部隊だった。

その正規兵だけで編成された第1中隊は、中隊とは名ばかりの小隊、4名。第2中隊が学生のみの中隊、19名。それが第14戦術機甲大隊の本当の姿だった。

 

『これより集結地点を目指し前進を開始する。全機主脚走行にて摂南大学を目指す』

 

『『『「了解」』』』

 

『第338機械化歩兵大隊の機械化歩兵も主脚走行。その他歩兵は貸与されたトラックで移動開始。運転できる者が運転しろ』

 

『『『『了解』』』』

 

『行動開始』

 

 もう私たちに力は残されていない。推進剤や弾薬も持っている分だけで、後は前線や司令部からの補給を受ける分のみ。

 きっとまた、司令部も前線もがっかりするのだろう。私たちが来たことを。

 

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