Muv-Luv Alternative Plantinum`s Avenger 作:セントラル14
[2000年2月16日 大阪戦区第1防衛線 梅田駅前]
早朝に呼集された各部隊長のブリーフィングで、合流した第14戦術機甲大隊との顔合わせがあった。
一言で云えば"最悪"だ。
共有された情報から大隊長以外の全員が、戦闘経験が圧倒的に低い。それも当然だろう。彼らは
部隊名の聞こえはいいだろう。それでも、彼らは生き残りの学徒兵たち。率いる大隊長は訓練校教官。
どれほどのクラスメイトや友人を失ってきた。どれほどの仲間を受け入れ、見送った。どれほどの"死"に触れた。大隊長の脇に控える第2中隊長だという少年は、頬は痩せこけ、目に生気がない。目前のことがらを全て受け入れ、"死"さえも許容してしまうほどの弱さ、抗う力さえも振り絞れないほどに憔悴しきった色の無さだ。
臨時混成戦術機甲大隊の編成も第14戦術機甲大隊の変則編成と定員を割った数に、第9大隊の隊長も少し戸惑ったほどだ。結局、44機4個中隊を編成することとなった。
幸いにして第9大隊の
当然、余った学徒衛士のみで2個中隊を組むこととなる。
これが何を意味するか。簡単な話だ。
『スィンダース、全滅』
『コクーンズ、半壊』
臨時混成戦術機甲大隊は既に17機失った。その全て第14戦術機甲大隊所属だ。
前日と同様の巨大な鶴翼陣形で敵前衛を受け止め、後退しながら敵戦力を削ぐ。場合によっては両翼の国連軍部隊がオーバーラップして密度の高い場所を集中攻撃する。これだけをしていた。これだけのはずなのに、17機も損害を出した。
『ウインドブレイカー1よりオスカー1、一体どういうことかしら?』
『オスカー1よりウインドブレイカー1、どういうこととはどういった意味でしょう?』
額に汗を浮かべるウインドブレイカー1は、第14戦術機甲大隊長のオスカー1に噛み付いた。
『貴官らの部隊の情報は把握している。だが、それほどまでに"脆い"のか? 我々も似たようなものだが、何故?』
『簡単な話ですよ。我々は
普通ならば怒りを持つところなのだろう。だが、俺は不思議と頭の中は冷め切っていた。
ウインドブレイカー1の怒る理由も分かるし、オスカー1が至って淡々と答えるのも理解できた。結局のところ、俺が見てきたものと同じ。BETAの侵攻に猛り狂う者ばかりではない。精魂尽き果て、ただ呆然と目前に迫るものから視線を逸らして空を見上げる者も少なからずいる。
だからといって、それだけで納得できる訳がない。補充だ、援軍だと寄越された部隊を頼りにするのは当然なのだ。技量不足あっても最大限に力を振り絞るものだと、期待しても仕方のないことだった。
『既に臨時混成戦術機甲大隊はおよそ半数を失っている! 補充が来たその日に! 誰も望んでいない!』
『当然のことでしょう。それは他の軍でも同じです。ですが我々にはこれが精一杯です。皆、死力を尽くしました』
『我らが帝国軍にこのような部隊がいるとは思いもしなかった! 日々生死を賭した
『その国に我々は駆り立てられ、踊らされ、薄汚れた場所で血肉を晒すのを強要されています。全ては私たちが守ろうとしたもので。誰もが最初は臨みました。力を振り絞りました。後ろへ向く足を必死に前へ前へと向けました』
俺たちがポジションを抜けて救助や支援に行くこともできた。だが、それもできなかった。あまりにBETAの圧力が大きかったからだ。
BETA梯団の規模はおよそ師団規模に届かない程度の個体数1万以上。流石に1個連隊では捌き切れない。防衛線の綻びに気をかけつつ、戦略を優先するならば動くことができなかったのだ。
見捨てる、という判断をしなくてはならなかった。
言い合いをするウインドブレイカー1とオスカー1を聞いていた、国連軍部隊の1つが声をかけてきた。
『グラッチ1よりエイコーン1。聞こえるか?』
「感度良好。グラッチ1、何か?」
視界の隅のバストアップウィンドウに大柄の白人男が出てくる。
昨日は同じ北エリアで側面支援を行ってた国連軍部隊だ。
『
強化装備の自動翻訳で何を言っているかは分かっているだろうが、その意味までは理解できなかったのだろう。この場に残っている俺に尋ねてきたのだ。
「休息はしているさ。ただ意見のぶつかり合いみたいなものだ」
『よく分からないが、これ以上やるとこちらの戦区の連携に影響が出そうだぞ? オスカー1は至って落ち着いているように見えるが、あれじゃあウインドブレイカー1の立った気を逆撫でしてるようなモンだ。俺たちの良く知る奴らはもっと、なんて言うか、ブシドーとかよく分からねぇしブレードでチャンバラしてるのも理解できねぇが、頼りになったんだがな』
「きっとグラッチ1の出会った日本帝国軍の衛士たちは、必死にこの国を守ろうと戦ってた奴らだったんだな。あの2人も同じだ。結局のところ」
『そうか?』
あまり理解できなかったようだが、グラッチ1は首を傾げて通信を切ったようだ。
俺だってそう思いたい。けど、できないんだ。
※※※
[2000年2月17日 大阪戦区第3防衛線 守口補給基地]
昨日の戦闘は梅田駅までの前進で終わった。現時点で想定よりも大阪戦区の進軍速度が早く、他の戦区に歩調を合わせるために午前中の交戦で大阪市街に居座るBETAの大規模集団は壊滅させてしまった。損害の大きかった隊や鶴翼陣形中央でBETAを受け止めた部隊は一足先に退き、一昨日休息を取った守口JCTに撤収。八幡前線基地から司令部施設以外の大部分を移動させ、守口の大阪地下鉄車両整備場跡に補給基地を設けていたのだ。
俺たちは部隊の半数が撤退した後に、梅田駅周辺で残敵掃討を実施。脅威に成り得るBETA集団を潰して周った後に守口補給基地へ戻ってきていた。
本日の作戦行動は多くなく、ローテーションで偵察任務をするのみ。俺たちの担当は早朝の番で、既に再出撃し偵察を終えて帰還していた。その他にも後方からの物資の荷下ろしや、基地建設の補助くらいだった。
「極光の損害は軽微でした。整備兵たちも特に問題ないんじゃないかと」
「ありがとうございます」
ピアティフ少尉が報告のためにやってきていた。結構な混戦でそれなりのダメージを機体が蓄積していたと思ったが、考えていた以上にかなり頑丈だったらしい。各人の機体も関節部にアラートが鳴ったらしいが、点検した整備兵からは問題なく、ただの高負荷の温度上昇によるエラーじゃないかとのこと。戦闘に支障はないとは思うが、緊急時は一時撤退することを勧められた。
「保守パーツは潤沢ではありませんが、この休息中にある程度の整備をしてくれるとのことです。幸いにして、
「確かにそれ以外はいないですね。帝国軍もF-15Jの駆動系や電磁伸縮炭素体も融通してくれますし、極東国連軍も代わりにF-4のパーツを渡してますし」
「もう明日以降にはちぐはぐな戦術機が見れるようになります。
屋外のテント群の中に、俺たちエイコーン小隊に割り当てられた場所がある。極光を駐機している自走整備支援担架の真横が俺たちのスペースだった。この辺りには他の国連軍部隊もおり、横が側面支援で北部を担当していた部隊、正面が南部を担当していた部隊だ。
「白銀中尉! 搬入物資を確認していたら、横浜基地発の荷物から甘味を見つけました!」
物資集積場から走ってきた伊隅少尉が何かを持ってきたようだ。小さい包みのようだが、中身が甘味だという。
「おー、そんな物まで入ってたんですね」
「はい! えぇと……」
言葉に詰まった伊隅少尉は、その包みを俺に差し出した。
中身は確かに甘味。包みからしてチョコレートのようだが、手紙が付いていた。
「純夏?」
「そのようですね……。鑑少尉から」
思いっ切りヘタクソな絵と共に手紙が2通同封されていた。チョコレートは脇に置き、手紙を広げる。
純夏からの手紙は別に大したことはない。今回の特殊任務は大変だろうということ。極光の調子はどうか。第207衛士訓練部隊が編成され、教育が始まること。半分ほど日常のことが書かれており、残りは俺の心配だった。無茶してないか、無謀なことはしてないか、また自分が助けに行く羽目にならないか等。そんな心配はないと思いたい。少し顔がにやける思いをし、もう1つの手紙を開く。
もう1つは包みの中で分からないように忍ばされていたものだ。何となくそこに何かあると思ってみたが、その感は当たった。
夕呼先生から。内容は今回の作戦で遅れて決まった内容だった。
今作戦中に達成する目的の中、オルタネイティヴ4側の部隊がいること。派遣元の基地や部隊自体も"こちら側"であり、あちらからの接触が予想されている。基地上層部と先生は知り合いのようなので、その部下である部隊と接触し信用できるか判断を委ねられていた。
俺は直観的にどの部隊か分かった。そもそも、目的の1つである反オルタネイティヴ4派の部隊の面が割れているので、予想できない訳がなかった。
「あ、伊隅少尉。チョコレートは後で皆で食べましょうよ」
「いいんですか?! ありがとうございます!」
何というか、伊隅少尉の素直な明るい性格はこういうところで気持ちが軽くなるのを感じる。
そんなことを考えていると、俺たちのテントに来客がやってくる。
大柄の白人男性。どこか見覚えのある短く切り揃えた白髪の中年。
「よぉ。ここがエイコーン小隊のテントであっているか?」
「は……え?」
「どこかで見たヤツだと思っていたが、やっぱりそうか! 久しぶりだな」
この中年男は国連軍の衛士徽章の付いたフライトジャケットとカーゴパンツ姿ではあるが、この態度を見れば一目瞭然だ。この場にいる伊隅少尉との面識がない様子で、完全にこちらを見る目は懐かしさを感じる。
目の前の衛士と俺は面識がある。
「あ、アレックス・ミラー大尉?!」
「違ぇよ。今は少佐だ」
「失礼しました! 少佐!」
やっぱりそうだ。光州作戦の潜入任務の際、身分を偽って配属された隊の
少しばかりの懐かしさと、今のこの状況をどう伊隅少尉に説明するかが頭の中を駆け回っている俺に、ミラー少佐は俺の肩をポンと叩いた。
「エイコーン1の声が懐かしくてな。バストアップウィンドウを見たときにひょっとして、と思って確認しに来たんだ。いやぁ。あの時のクソガキがこうなっているとはなぁ」
そう言いながら今度は俺の肩に腕を回し、耳元で囁く。ある程度の裏の話は聞いており、こちらの都合に合わせる、と。
「あの、少佐」
「ん? 何だ?」
「私は極東国連軍横浜基地 エイコーン小隊所属の伊隅 まりか少尉です。白銀中尉とお知り合いで?」
「あぁ。俺は極東国連軍久留里基地 グラッチ中隊のアレックス・ミラー少佐だ。白銀中尉とは一緒にBETA共との鬼ごっこに興じた仲でな。あれは面白かったな」
ガハハと豪快に笑うミラー少佐に、伊隅少尉はポカンとする。それもそうだろう。国連軍に転属するまでは、帝国軍の後方に配属されていたのだ。聞いていた話からも恐らくかなり帝国軍らしい帝国軍だっただろうし、こちらに移ってからは俺以外にこういう人間を見たことがなかったのだ。
俺は年下であり不本意ながらも変態衛士とレッテルを貼っているくらいだ、完全に色物として見ていただろう。
それを、目の前で覆されては少しフリーズするのもおかしい話ではない。
「別に面白くもなかったですよ。最前線に置いてきぼりにされて、HQからも忘れ去られてたんですから」
「そんなモン、日常茶飯事だろうが。まぁ、元気にやってて良かった」
「ありがとうございます。ミラー少佐も」
「おう」
夕呼先生の云うオルタネイティヴ4側の部隊というのが、アレックス・ミラー少佐率いるグラッチ中隊ということなのだろう。先生が信用に足るか確認しろというのは、俺と面識があることを分かった上で確認するようにということだったのだろう。
アレックス・ミラー少佐は衛士として信用できる。オルタネイティヴ4側かというのはまだ分からないが、少なくとも。
読んでいた手紙をポケットに押し込み、俺は思い出話に浸ることにする。
「そういえば、あの2人はどうなりました?」
「ん? あぁ、あの南北コンビか?」
確かにそうだし酷い言われ様だが、イ・ヒョンジュン少尉とイ・スギョン中尉のことだ。ミラー少佐の部隊にいた時の戦友。この2人とも台北以来会っていない。
「2人はあの後、大東亜連合軍に吸収されて再配置。
「あの2人が……」
衛士としての腕前は並だったかもしれないが、場慣れと判断力の高さで生き残ってきた2人ももう戦死していたことに驚くと同時に、そこまで心が揺れ動くことはない。あの場にいたからこそ、確かに前線に配置されていれば生き残ることも難しいことは理解できる。
その後のことだが、思い出話と情報交換をした上で雑談をしたミラー少佐は自分のテントへと戻っていった。
なんとも驚きの再会ではあったのだが、俺には彼を本当に信用して人物か見極めなければならない。少しばかり考えにふけり、自身の機体を見上げた。
蒼天に佇む極光はまるで自分の心を映しているようだった。