Muv-Luv Alternative Plantinum`s Avenger 作:セントラル14
[1998年1月4日 帝国軍白陵基地 国連軍専有区機密区画 第3シミュレータルーム]
私が始めた見た"彼"の印象は複雑だった。幼い顔付き、小さい体躯でありながらも屈強な肉体、その目に宿る意思の強さ。ここまでちぐはぐな人は初めて見た。少しの間、近くに居て印象はすぐに変わった。性格もちぐはぐで、年齢相応の発言もすれば、年齢不相応の発言もする。話していて何処か、私と同い年か年上かと思うような物言い。見えてきた彼の背景と心は、見るに堪えない程ズタボロだった。そう、ひっきりなしに責め立てられる前線の兵士のように。何もかもが憎く、BETAを恨み、世界に絶望したような。大陸に居た頃、時々見かけた壊れた兵士のような姿。かと思えば夕呼が近くに置いている幼子、社 霞や、彼が"スミカ"と呼ぶ女学生くらいの少女の前では、軽口を叩きながらも滲み出るオーラは温かく優しいものだった。
『神宮司軍曹。順応教習中に考え事ですか?』
「あ、いいえ。なんでもないわ」
『そうですか。お疲れでしたら、この辺りで切り上げてもいいんですが……』
「大丈夫よ。まだ全然元気なんだから」
『あははっ、その様子ならまだまだいけますね。これまでは機動制御の見直しでしたが、もう戦闘演習に入りましょう。ということで霞、ヴォールクデータ。状況、地上陽動50%、支援50%』
げっ。この子、可愛い顔して結構洒落にならない設定を入れてきたわ。しかも、よりにもよってヴォールクデータなんて……。反論をしようとしたものの、すぐさま社少尉が管制室から制御をしてしまう。
『了解。ヴォールクデータ。地上陽動50%、支援50%。随伴はF-15C一個中隊』
『サンキュー。じゃあ、行きますよー神宮司軍曹!!』
シミュレータ筐体内の映像が切り替わり、ミンスクハイヴの映像が表示される。周囲にはBETAや戦術機の残骸が転がり、私と白銀君の後方にUNカラーのF-15Cが一個中隊出現した。
もう拒否しても駄目だろう。諦めてヴォールクデータに挑むしかない。
「……はい」
白銀君の言葉に、なんとか絞り出して出てきた返事がそれだけだった。流石に、いきなりヴォールクデータはキツい。
※※※
[1997年12月30日 帝国軍白陵基地 国連軍専有区機密区画 第1ブリーフィングルーム]
白銀君の駆るXM3を搭載した吹雪にこっ酷くやられた日の夜、私は夕呼に詰め寄っていた。丁度PXに顔を出したところを捕まえ、彼女に無理を言って機密区画に通してもらったのだ。
「何よまりもぉ~。この頃男日照りで飢えてるからって、親友である私を襲うなんて」
「違・い・ま・す!! 聞きたいことがあったの」
「ふ~ん」
私のことを揶揄った夕呼は、近くにあった椅子に腰掛けて脚を組んだ。私も近くから椅子を引っ張ってきて、夕呼の前に腰を下ろす。
「今日貴女に紹介された白銀少尉のことよ」
「あぁ、よりにもよって白銀を……。一応確認は取っておくけど、犯罪よ?」
「違ぁーう!! いい加減そこから離れてよ!!」
「残念。でも本気だったとしても、アイツは駄目よ」
「……夕呼?」
「……なんでもないわ。それで、話しって何?」
「だから白銀少尉のこと。社少尉のことは何となく話は聞いてるけど、白銀少尉は別よ。彼は軍事教練も受けているみたいだし、衛士としての腕前も本物。新任衛士ですら軽く超える実力よ。熟練衛士に迫る程であると言ってもいいわ」
そう。あの見せつけられた腕前は本物だ。あのこと戦術機操縦に関しては魑魅魍魎が跋扈していた富士教導団でさえ、あそこまで飛び抜けたものは見たことがない。それが新型OSが理由であるかないかに関わらず。それだけ、あの戦術機操縦技術は異常だったのだ。
「そうね。アイツはまりものいた富士教導団や本土防衛軍帝都守備隊のエース並かそれ以上よねぇ」
「えぇ。だからこそ、彼の腕前に納得がいかないの。年齢にそぐわない能力の数々は、あれで19歳というのは嘘でしょう? 見た目的にも」
私が戦った時間、ブリーフィングルームで顔合わせをした数分間だけで何となく分かってしまったのだ。あの"白銀 武"という少年、おかしすぎる。
「まりものその見立ては間違ってないわ。19歳というのは嘘。本当は13歳」
「っ?!?!」
「言いたいことは分かるわ。彼は少年兵よ」
「ゆ、夕呼ッ!! 流石にこれは看過できないわよッ!!」
ひと目見た時から分かっていたが、やはり思い違いではなかった。顔付きと着せられている軍服から、どう見ても少年兵にしか見えなかったのだ。もし、低身長なだけだったとしても、それにしては童顔過ぎた。
そうであって欲しくなかった。前線国家では子どもでさえ、戦場に駆り立てられては散っていたのだ。目の鼻の先まで迫っているとはいえ、日本国内で少年兵なんて許される訳がないのだ。
「分かっているわ。だけどね、まりも」
脚を組み直した夕呼は、鋭い目つきで私を睨みつけながら言った。
「これは戦争なの」
「……でも」
「アイツには必要とされる衛士としての知識、異常な戦術機適性、実戦機動に耐えうるだけの体力と新OSの基礎概念を持つ程特殊だわ。アイツは戦場で死ぬ覚悟もある、そう言ったわ。だけど、そんなアイツを衛士として籍を置かせたのは私よ」
それに、と続けた夕呼。
「それに、アイツは私の研究にも必要。まりも、アンタは外縁だけでも知っているでしょう? 知ってなければ富士教導団のエリートが
「……えぇ」
あんな子どもまで戦場に立たせなければならない程なのか。そう疑ってしまうが、この眼で見た光景はそれを否定する。人類には余裕がないのだ。未曽有の侵略者に、私たちは守るべき子どもまで駆り立てねばならぬほどであるのだ。
悔しいかった。ただただ悔しかった。
「じゃ、この話は終わり。まだ私の助手扱いだけど、時期が来れば少しずつ表に出てくるわ。その時はまりも、アンタに任せることもあるわ」
「分かった……」
「はい。じゃあ、ここの施錠はよろしくね」
スッと立ち上がった夕呼はそのままブリーフィングルームから出て行ってしまう。残されたのは未だ座っている私と、目の前に残された椅子。
夕呼、椅子を片付けて行かなかった。
※※※
[1998年1月11日 帝国軍白陵基地 国連軍専有区第4演習場]
相変わらず変態的な機動制御を行う
疾く駆ける。一秒でも遠く、一瞬でも速く。逃げている間でも、相手の隙を見逃すな。
平面滑走、短距離跳躍、急旋回をしながら、アクロバットな三次元機動を行う。徐々に詰められていく距離を離す努力をしながら、状況を覆す手立てを探す。
「くぅぅぅ……!! ここで、ぇえぇぇい!!」
急角度のインメルマンターン、ハイヨーヨー、急制動しつつ鋭角に旋回。吹雪の目の前まで来ると、そのまま跳躍ユニットが出力全開になり、唸りを上げて急上昇を行う。ついてくる吹雪目掛けて倒立反転、そのまま加速しながら長刀を振り抜く。
「あ"ぁぁァァァァァ!!!!」
『なんじゃそりゃぁぁぁぁぁぁ!!!!!』
急上昇していた吹雪が倒立反転したまま落下してくる撃震を回避するため、脇に逸れたところを狙う。白銀君の癖は、ここ2週間の教導で理解した。だからこその攻撃。回避する方向は一定なのだ。そこを狙って、長刀で斬りつける。
攻撃の結果を確認することなく、地面手前で跳躍ユニットの噴射口を地面に向けて出力全開にし運動エネルギーを相殺するが、勢いを殺しきれずに地面へドスンと着地した。
頭上の吹雪を確認すると、左肩部装甲ブロックから腕部まで全てを失い、左跳躍ユニットも脱落していた吹雪が浮いていた。チャンスだ。このまま大破まで追い込む。
すぐさま飛び上がろうと跳躍ユニットの出力を上げるが、なかなか離陸してくれない。足元を見ると、撃震の脚部が地面にめり込んでいた。強引に脚を引き抜いて、再び吹雪の所在を確認すると、既にすぐそこまで迫っている。
「しまった!?」
『ぅおらぁぁぁぁ!!』
長刀を構えたまま落下してきたのだ。私がさっきしたことを、そのまま返される。今度は回避することもままならず、撃震をコクピットブロックごと切り裂いたのだった。
『神宮司機、コクピットブロック両断。衛士死亡。演習終了です』
「……また負けた」
悔しい。ここまでやっておきながら負けてしまったことが。
『白銀さんと神宮司軍曹はハンガーへ戻り、第2ブリーフィングルームに集合してください。強化装備のままで大丈夫です』
『了解』
「了解しました」
今日の演習で何戦目だろうか。年明けから毎日のように、何戦も実機演習を行ってきた。UNブルーの撃震がオレンジ色になるまで演習を繰り返した。整備班長に怒られることもあった。
届かない。吹雪を駆る白銀君に。XM3を搭載した私の機体でも、大陸からこの方ずっと乗り続けて癖もなにもかも知っている愛機でも。世代差もあるかもしれないが、私の撃震は
ハンガーに機体を戻すと、整備と清掃のために取り付いた整備兵たちが『こりゃ脚部ヤバイな』や『今回も派手に動き回っていたな』と言っていたが、何処からか『あの吹雪の腕を切り飛ばしたのを見た時には、遂にやったと思った。今まで手も足も出なかったことがあったくらいだからな』と。確かに、これまで与えたダメージの中では一番大きいかもしれない。だが、私はそれでは満足しない。やるからには倒したいのだ。
※※※
[同日 第2ブリーフィングルーム]
強化装備のまま指定されたブリーフィングルームに入ると、既に白銀君と社少尉が来ていた。他には夕呼も来ているようで、近くの椅子に腰を降ろしている。
「……神宮司軍曹が到着したので、デブリーフィングを開始します」
社少尉がそう切り出し、デブリーフィングが始まる。
「……先程の
「そ。……約1ヶ月お疲れ様」
「……今後のXM3の扱いについてですが、香月博士から既に指示が出されています」
社少尉はXM3搭載機の数を増やすことを伝えた。決定しているだけで白銀君の吹雪と私の撃震。他にも撃震の4機と吹雪4機、不知火2機が確定とのことだった。私の撃震がXM3搭載機になったことで、白陵基地の撃震旧OS搭載機を新たに回すということになった。今後も増えていく予定であり、最初は夕呼直属部隊に先行量産型を搭載し、
XM3が完成に漕ぎ着けたということは、今後白銀君と戦闘訓練を行うこともないということだ。勝ち越しされるのは嫌だ。むしろ、負け越しする方が嫌だ。なんとしても勝ちたい。そう考えている私を尻目に、社少尉が説明を続ける。
「……神宮司軍曹には今回の功績によって大尉に昇進。おめでとうございます」
「へ? あ、ありがとう……?」
白銀君が夕呼の助手ということは、特殊任務も受けることが多いだろう。何処かのタイミングで再戦を申し出ておかなくてはいけない。
というか今、社少尉はなんて言った? 私が昇進?
「ちょっと待ってください。私が昇進? しかも大尉ですか?! 4階級特進なんて聞いたことないですよ!!」
「アンタは訓練生の子守りをしながら、XM3の教導マニュアルを作成して正規兵に教導してもらうから」
「なっ?!」
「仕方ないでしょ~? 白銀はこんなだし、他にXM3を扱えるのがいないのよ」
「……り、了解」
「ちなみに訓練生の子守り中は軍曹だから」
「……はい」
長年の付き合いで分かっている。夕呼は無茶苦茶なことをする。何度反論しても、何度抵抗しても無意味なのだ。ならば素直に従う方が身のためになる。溜息を吐きながら、私は夕呼から階級章と辞令を受け取る。
「霞、俺は?」
「……白銀さんは、当面の間は何もありません」
「そんなぁ……」
白銀君には当分の間、お暇が与えられたようだ。夕呼曰く、白銀君は対外的には兵士ではないらしい。それを垣間見る出来事は何度もあった。実機訓練の際は、基本的に屋外で降りることはないのだ。管制ブロックを開けるところはハンガーの中だけで、夕呼直属部隊用のハンガーの一番奥でしか開閉することはない。夕呼にそう厳命されているんだとか。しかも強化装備に着替えるのは管制ブロック内。出歩く際は国連軍C型軍装か作業着で、非戦闘員に紛れて出歩いているという。白銀君本人も煩わしく思っているようで、「こればっかりは年齢ですし、仕方ないですよ」と言っていた。
確かにそうかもしれないが、やはり何処か寂しいなと思ってしまう。もっと自由に出歩きたいと思っているだろうし、面識があるのはどうも私と夕呼、社少尉と"スミカ"くらいに見える。
どうにかしてあげたい、と考えつつも私はブリーフィングルームを出て、新たな仕事を始めるのだった。