Muv-Luv Alternative Plantinum`s Avenger 作:セントラル14
[2000年2月17日 大阪戦区第3防衛線 守口補給基地]
ミラー少佐が割り当てのテントを訪れた日の夜。戦区に配属された各部隊の長が集められていた。明日の作戦行動に関するブリーフィングだ。
本日は前線のBETA群が殲滅されていたことと、大阪湾にかけての偵察情報から比較的安全であることが報告され、改めて共有される情報があるとか。
この場を取り仕切るのは帝国斯衛軍第9大隊のウインドブレーカー1だった。
「昨日未明、北方の京都西部戦区が前線を豊岡・養父・朝来・丹波まで奪還。兵庫県南部のBETA群に対し、丹波の部隊が圧力をかけているものの、支援砲撃の有効射程圏限界が近いため、我々大阪戦区の部隊は北上することとなった。
これに応じ、我が後方の木津川河川久御山砲撃陣地並びに城陽砲撃陣地も前進。数日中に茨木丘陵地に陣地を構え、三田・三木への到達を目標とする」
前線は完全に兵庫県へと突入するようだ。夕呼先生曰く、問題が起きるのは大阪市街を奪還し中国地方に入ってからだという。既に大阪の奪還には成功しており、本日俺たちは兵庫に入る。ここから状況は悪くなるのだろう。
だからこそ、今朝着の物資の中にあのような手紙を忍ばせていたのだ。
「我々は明日0800より進発。茨木丘陵地を確保した後、豊中・尼崎・西宮を確保し、三田・三木へ進出する」
昨日までの戦闘でおよそ2個大隊規模にまで落ち込んでいるが、明日以降の補充で戦術機部隊は1個連隊規模にまで回復する予定だ。この補充にA-01も加わっており、"1個中隊"が国連軍部隊に合流する。
「我々の後続に機械化歩兵が続き、BETA小型種を掃討しつつ砲兵部隊の進路を確保する。これに差し当たり、大型種のBETAが残っていた場合を考え、戦術機甲1個小隊が随伴することとする。ここに極東国連軍のエイコーン小隊を充てる」
「我々ですか」
急に名指しされるも、驚きを表情や声に出ないよう務める。
「司令部の判断だ。それに貴公らの戦果は十二分であり、小隊規模という指令にも合致する」
つまり、大阪戦区に配備されている戦術機甲部隊の小隊編成は俺たちのみであり、万が一を考えると砲兵部隊の護衛にも適しているということだろう。不測の事態への対処や部隊連携、キルタイムが砲兵の損害を一番低く見積れるのだ。
客観的な判断としては正しいと言えるが、そうなった場合、前衛の戦術機甲部隊の突破力や突発的な戦闘への対処はどうするのだろうか。考慮していない訳ではないだろう。
不意遭遇戦において、これまでの前衛の戦術機甲部隊がBETA集団の殲滅に手間取ればその分、後続の機械化歩兵や砲兵に損害が出る。
いくら戦術データリンクで状況を共有していたとはいえ、支援砲撃ができるだけの準備時間の間に前線が押し込まれれば万事休す。大阪戦区の部隊は壊滅状態になってしまう。
「戦術機甲部隊の前衛は、今日までの戦闘で比較的被害の少なかった国連軍部隊に担当してもらう。不意遭遇戦が発生した場合、我々がオーバーラップし対処することとなる。中衛は混成戦術機甲大隊が受け持ち、前衛の支援にあたる」
俺が何を考えていたのかが分かっていたかのように、ウインドブレーカー1は続けた。
妥当な判断だ。それに彼女は
「陣形は
これでブリーフィングが終了の様子。自分のテントに戻って休もうと出口に向かって歩き出すと、遠くで話していたウインドブレーカー1が近くまでやってきた。周囲にはまだ人が少し残っている中、俺は彼女に振り返る。
「エイコーン1、白銀中尉殿」
「はい」
データリンクかCPから情報を得ていたのだろう。名前で呼ばれ返事をする。
目の前にはバストアップウィンドウに映っていた女傑が立っていた。こうやって見ても、やはりその立ち居振る舞いから正に帝国斯衛軍の衛士だと感じさせられる。
「帝国斯衛軍第9大隊の
目線の合図に気付き、俺は彼女の後を追うことにする。
向かったのは補給基地の集積場脇だ。各軍の整備兵が走り回っているが、ここまで来ない様子。日用品などを置いているところらしい。まだ移動してきて日が浅いので、開封することもないのだろう。
人気のないことを確認した長月中佐は、俺に正対して姿勢を正した。
年齢を感じさせない背筋に武術の心得があることが伺える。身に纏う雰囲気に呑まれそうですらあった。
「斯様な場所へ呼び立てして済まない。どうしても話しておきたくてな」
「いいえ、特に気にしませんよ。それで、どういったご用件で?」
高く積み上げた物資の山向こうに視線を向ける。そちらには俺たちのテントがあり、極光もそこで整備を受けている。整備兵の怒号がここまで聞こえ、明日に間に合わせるために必死になっているのが肌で感じられた。
「
その力強い眼に捉えられ、ほんの少しだけ身動きをしてしまう。
「貴公は本土侵攻の折、崩壊した絶対防衛線内で撃墜されなかったか?」
ドキリと心臓が跳ね上がる。確かに、俺は京都駅前で撃墜されている。何故、長月中佐はそれが俺であると思ったのだ。
点在している情報を紐付けしていけば分かることなのかもしれないが、どこまでの情報があり共有されているのか。違和感が拭えない。
ただの興味で尋ねてきた訳ではない。様子からもそういった雰囲気は感じられない。
「簡単に答えてくれるとは思っていない。ただ、私は貴公のことを間者やそういった類の者ではないと考えている。どうしても貴公を見ているとな」
長月中佐はその先の言葉を続けなかった。
俺は考える。恐らく彼女は俺の正体には気付いていても、その実態には辿り着いているはずもない。ならば答える必要はない。しかし、無言を貫けば不信感を持たれてしまう。
本作戦での任務を達成するには、どうしてもこのまま前線に残っている必要がある。どうすればいいのか。
ここに来て、夕呼先生のように上手い切り替えしができればと悔やむが、事態を丸く収めることはできないのだ。
「いいや、俺はそういった器用なことができる人間じゃないです。ただ絶対に為すべきことがあって、そのために力を貸してくれる人がいて、背中を押してくれる人がいて、見守ってくれる人がいて。そのためならば、なんだってやってやるって、そう思っているだけです」
「そうか。差支えなければ、その為すべきことが何なのか聞いても?」
世界の音が消えたような気がした。戦術機整備で使用する工具や、何かを動かす音も何も聞こえない静寂の中で俺は答えた。
「先達や仲間たちが託したものを成し遂げる。独りで戦う人の力になる。そして、失ったものを取り戻す。それだけです」
俺はそのために戻ってきた。"あれから"時間は経っているが、その想いは何ひとつとして変わってなどいない。だからこそ、俺にできることで貢献していこうと実行している。
長月中佐は少し笑みを浮かべる。遠い目をしながら背中をコンテナに預けた。
「その志、我らや我が国に牙を剥くものではないと信ずる。あぁ。疑う訳もない。だからこそ、斯様な"力"を持っているのだと、溜飲が下がるような思いだ」
「ただの青臭いガキですよ」
彼女に背中を向け、空を見上げる。常に心に持っていることではあるが、久しぶりに口に出したということもあってか、これまでの記憶が濁流となって押し寄せてくる。力や知識があっても、何も為すことのできなかった過去。覚悟を持ってやってきた今だからこそ、改めて心に決める。
オルタネイティヴ4のため戦い抜いてみせる、と。
「白銀中尉、生き抜けよ」
「はッ」
彼女に敬礼をしてテントへ戻る。明日からが本番だ。
※※※
[2000年2月18日 大阪戦区 守口補給基地]
出発した国連軍部隊と混成戦術機甲大隊を見送る。本日の目的は淀川の渡河と茨木市街突入。偵察衛星の情報ではBETA大型種の存在は確認されず、小型種もそれほどの数はいないだろうという予測だった。それ故に、目標は後衛の砲兵部隊が前衛に追いつき、陣地構築することが最優とされている。
各戦区の戦況は優勢。中国地方東部に展開していたBETA群は北部と中央に誘引されており、比較的戦力が少ない南部にはそれほどBETAが集結していないようだった。
『帝国軍機械化歩兵3個大隊ならびに帝国軍機甲1個連隊が合流。東方に砲兵部隊を確認』
戦術データリンクが更新され、次々と守口補給基地に部隊が集結しつつあった。
俺たちは基地の西エリアに陣取り、待機状態で周囲を観察している。先発した戦術機甲部隊から共有情報が来ていないが、恐らく想定通りBETAとの不意遭遇戦は起きていない様子。それでも、小型種は彼らにとって脅威だ。見つけ次第排除しながら前進しているだろう。
次々と基地に入ってくる部隊を眺めていると、機械化歩兵装甲を装備していない部隊がちらほらと確認できる。アイコンの表示もない。見るからに警備部隊といった軽装だ。バックパックを背負い、小銃や分隊支援火器を持った彼らがトラックの荷台に揺られている。
『あれは警備部隊でしょうか? 一応、この補給基地はそのまま残されることになっていますから、出た我々の代わりに駐屯するとか?』
七瀬少尉が呟くが、そんな話は聞いていない。俺たちが出撃すれば、この基地は運べない物資と施設だけが残る。つまり、彼らは何処かの部隊に所属する兵士ということになる。
『所属は日本帝国本土防衛軍第38師団 第388機械化歩兵大隊。れっきとした随伴部隊よ』
『機械化歩兵?! 強化外骨格を持っていないようですが?』
『少数は配備されているようね。データリンクでは1個小隊が装備しているみたい』
第388機械化歩兵大隊。後方の予備部隊から抽出された促成部隊だ。第9大隊が混成戦術機甲大隊にした時も、その後の戦闘でも感じたことだが、やはり練度もさることながら、装備充足も満足ではない。全く足りていない。
BETA小型種との不意遭遇戦が発生しても、彼らは砲兵部隊を守り切れるのか怪しいほどだった。
俺はデータリンク上の情報を確認するが、登録上は機械化歩兵部隊となっている。それぞれにデータリンクとコールサインが与えられる筈だが、それも1個小隊分しかない。情報上では大隊規模でも、表示上は1個小隊なのだ。
「ピアティフ少尉。後衛の部隊の内訳は?」
『機械化歩兵1個連隊、機甲1個連隊、砲兵2個大隊です』
データリンク上でもそのようになっている。唸りながらも共有されている情報を睨み付ける。
機械化歩兵およそ1個大隊が警備部隊のような装備では、これからの移動で付いてこれるとは到底思えない。それに移動の足のこともある。
機械化歩兵は機械化歩兵装甲によって機動力がある。機甲・砲兵は戦車・自走砲・自走ロケット砲。機械化歩兵ほどではないにしても、荒れた戦場での機動力はそれなりに保証されている。しかし、トラックの荷台に乗っている彼らは移動が困難だ。
「エイコーン1よりCP」
唐突に俺はCPにコールを入れる。
『CPよりエイコーン1。感度良』
「先発した戦術機甲部隊の進行速度に追いつくため、第388機械化歩兵大隊を守口補給基地に置いていきたい。許可願う」
CPに提案したのは、僅かな想いがあってのことだった。
『確認する。しばし待て』
俺は置いていく判断を下した。それに、基地に置いていく理由は他にもあった。前進して戦線の引き直しを図るのならば、機械化歩兵である彼らとここに置いていく物資は安全が確保できてから前進してきてくれた方が都合がいい。
それにいくら前衛がBETA小型種を処理しながら進んでいるとはいえ、進軍速度を大幅に落とすようなことはしないだろう。少なからず残っているであろうそれらを、後衛の機械化歩兵が砲兵を護衛しながら進むのだ。機械化歩兵装甲を碌に持たない彼らが対応できないのは目に見えている。
それに置いていけるのならば置いていきたい。"あの状態"ならば、危険度はある程度低い可能性があるが、戦死者が多数でることも考えられるのだ。
『CPよりエイコーン1。確認結果を報告する。司令部は第388機械化歩兵大隊を守口補給基地に待機させる決定を下した。既に該当部隊には通達済みである。貴隊は集結した戦力を纏め、前進を開始せよ』
「エイコーン1了解」
小さく息を吐き、守口補給基地内に表示されるアイコンに視線を向ける。砲兵部隊の到着も確認でき、進軍再開の準備も整っているようだ。それに第388機械化歩兵大隊が戦列から離れ始めているのも確認できる。
混成戦術機甲大隊に合流した第14戦術機甲大隊はどうすることもできない。機械化歩兵よりも戦術機の方が戦術価値が高く効率がいい。いないよりかはマシ、というのはどんな衛士に聞いても共通認識だろう。俺は後衛の指揮官に連絡を取る。前進開始の連絡だ。機械化歩兵、戦車、自走砲らが一斉に動き出し、その後を追うように俺たちも基地外へ飛び出して進撃を開始するのだった。
※※※
[同年同月同日 大阪戦区 淀川北岸]
陽が頂点に差し掛かった頃。先行している国連軍部隊と混成戦術機甲大隊は既に茨木市街に突入していた。残存BETA群に対する掃討戦が展開されている。
これの支援のため、渡河直前の砲兵部隊が支援砲撃を行っていた。機械化歩兵部隊や機甲部隊はその周囲に展開し、これの護衛を行っている状態。
俺たちはというと、北岸河川敷に機体を並べ南下してくるBETAの警戒にあたっていた。そもそも、残存BETA数が少ないということもあり、よっぽどやってくるのは小型種が数体程度で踏み潰すだけで済んでしまっている。
「前線のBETA掃討率が80%を超えた」
『前衛の国連軍部隊。ミラー少佐の部隊がかなり奮戦していますね』
伊隅少尉がオープン通信で俺の独り言に答えた。他の2人とは違い、直接面識があるからだろう。あの雰囲気を知っていれば、親しみを持つのも当然のことだ。
『ミラー少佐というと、久留里基地所属のグラッチ中隊ね? 久留里基地には以前お世話になったことがあるし、彼らのことは人伝に聞いたことがあるわ』
『へぇ~。どのような内容なんですか?』
『隊長は大陸戦線で武勲を挙げた精鋭で、朝鮮半島での戦いではどのような戦いであっても必ず生還するタフな人物。その部下たちも国連軍内部でも珍しいソビエト系の衛士ばかりだけど、職務に忠実で情に厚いと聞くわ』
『そんな凄い人だったんですね』
前半の話は同じ部隊にもいたから分かってはいたが、今の部隊はそのような云われがあることは俺も知らなかった。確かに部下たちの性格として言われてるが、ミラー少佐もそのような人柄ではある。
『極東国連軍は勿論、大東亜連合軍や統一中華戦線にも顔が効くし、少しばかり日本帝国軍とも面識があるとか。伊達にBETA東進の中期頃からの生き残りではないわね』
光州作戦以前のことは分からないが、確かに他軍にも顔が効くことは確かだ。作戦後に収容された生還機の半数はミラー少佐の率いる部隊が救出したものだからな。数は少ないけど。
ただ、あの戦いの生還者は間違いなく昇進しているだろうし配置転換もあっただろう。少しでも上に昇っているのは間違いなかった。
『それと久留里で聞いた話だけど、HQから
『あぁ、知ってますよ。その時の部隊を前線でMIAした寄せ集めの部隊、
チラッとバストアップウィンドウ越しにピアティフ少尉がこちらを見た気がした。彼女は知らないはずだが、何故そのような目を一瞬俺に向けてくるのだろう。当時、彼女はA-01にいたから、ある程度の情報が噂程度で耳にしていたのか。
何にせよ、これ以上その話をされると何か俺がボロを出しそうで仕方がない。
「エイコーン1より各機。茨木市街の掃討が間もなく完了する。このまま国連軍部隊並びに混成戦術機甲大隊は継続して北進。茨木丘陵地の情報収集に移る」
全員の表情が引き締まった。まだ七瀬少尉の表情も強張ることが多いが、空気感には多少慣れ始めている様子。ピアティフ少尉と伊隅少尉の雑談にも入れそうならば入ったりしているので、気持ちの切り替えをしようと務めているようだ。
「これに我々は連動しないが、機械化歩兵部隊は中隊毎に市街地に突入。小型種の残敵索敵掃討を実施し、安全確保に務めることとなる。これに応じ先行するのは国連軍部隊のみとなり、先行部隊と市街の中間地点と市街にそれぞれ混成戦術機甲大隊が配置される。後方には機甲部隊及び砲兵部隊が残ることとなるが、この護衛は我々のみとなる。展開地点以南の安全は確認されているが、万が一に備えて南岸北岸で部隊を分ける。俺と七瀬少尉、ピアティフ少尉と伊隅少尉だ。変則編成にはなるが、緊急時は相互に対応することとなる」
データリンクを介して今後の予定を説明する。アイコンを動かしながら送られてきた情報を読みつつ、部隊分割について考えていた。
仕方のないことだが、戦力を分散した際の平均はこのような編成でなければ取れない。どちらかに偏ってしまうは問題があるが、俺が七瀬少尉をカバーすれば問題ない。俺の方での接敵でなくとも、問題なく対応できると考えてのものだ。
一方で、陣形が伸びきったこの状況は戦術的に非常に不味い。俺は早々に状況が変わることを考える。これと同時に南方の振動センサの確認を行った。既に制圧している大阪市街東部にBETA群が存在しないことを祈りながら。