Muv-Luv Alternative Plantinum`s Avenger   作:セントラル14

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episode 60

 

[2000年2月18日 大阪戦区 茨木市街]

 

 もう生き残りも少ない。第1中隊(オスカー中隊)は3機、第2中隊(コクーン中隊)は5機しか残っていない。合流前に強引に3個中隊に再編したばかりだ。今の状態では組織立った作戦行動に問題しか生じない。

 茨木市街突入の際にも2機が戦車級に飲み込まれたのだ。それは珍しく各中隊から1機ずつではあったのだが、それは教官中隊が先日の大規模鶴翼陣形での包囲殲滅戦で機体が損耗しており、緊急時に思ったように機体が動かなかったからでもある。無論、学徒中隊は少ない戦力での戦車級掃討に身動きが取れず、救助が遅れたから戦死している。

もう、私たちに十分な戦力は残されていなかった。

 

グループ・リード(オスカー1)より大隊各機。そのまま聞け』

 

 いつどこからBETAが出現するか分からない状況の最中、周辺警戒を続ける私たちに大隊長は続けた。

 

『ここで部隊を再編する。第2中隊は第1中隊に吸収し、1個中隊とする。全機IDの書換を行うように』

 

 言われた通り戦術データリンクの情報更新を行う。私はコクーン3。自動的にオスカー4のポジションに収まる。既に第2中隊は1も2も失っている。2人とも先日死んだ。指揮は自動的に私が執ることになったが、別に大した指示は出していない。攻撃、前進、射撃、後退くらいだ。それ以外を知らない、ということもある。

訓練兵だった衛士は全員死んでいるし、私は戦術機適性のあった学徒兵だ。詳しいことなんて何も分からない。指揮された記憶もあるが、混乱の中だったのであまり覚えていないということもある。

 

『配置はオスカー1から3が後衛、残りが前衛。弾薬と推進剤の残量から算出した配置だ。前衛はBETAに当たり、後衛が援護する』

 

 いつものことだ。第1中隊が後衛、第2中隊が前衛だったのと同じ。

 

『既にCPに部隊再編は通達済み。戦術データリンクでも共有されている』

 

 私たちが肉壁になり、教官中隊が援護する。そうする以外方法がない。それが大隊長の言っていたことだ。

 

『現在、茨木市街には後続の機械化歩兵部隊が突入。小型種の残敵索敵掃討戦を行っており、我々は戦車級以上のBETAが出現した際の対応を任されている。発見次第情報共有がなされるが、基本行動は分散撃破ではなく部隊行動による戦闘を実施する。各機私の指示に従え』

 

『『『『了解』』』』

 

 返事の声は小さい。当然だ。前線に移動してからは前線基地や補給基地で整備を受けることができていた。それでも当然後回しではあったのだが、受けられるだけ有難い。補給や物資の配給も満足に受けることもできる。戦術機が稼働できても推進剤や弾薬がなければただの案山子。主脚走行をせずとも、短距離跳躍や噴射跳躍を使った移動も可能になった。

それでも私たちに余裕はない。

 

『オスカー1よりオスカー4』

 

「オスカー4」

 

『前衛の指揮権を委任する』

 

「オスカー4拝命します」

 

 そうか。第2中隊で一番長生きなのは私になっていた。気が付けば先任訓練兵や先輩もいなくなっている。もう私が第2中隊で最先任になってしまったのか。

初陣のことは忘れられないが、記憶がおぼろげなのは確かだ。幾度も最前線へ駆り出されては減り、他の同じような部隊と合併しては減り。それがたった8機にまでなってしまった。

何が学徒出陣だ。何が勇敢な徴集兵だ。笑わせるな。もう怒りも覚えない。祖国存亡の危機もできるだけ軍人が必要なのも分かる。だとしても、だ。

 

『オスカー4。これ以上損耗してしまえば、組織的な戦闘行動が不可能になる。撃墜されてくれるな』

 

 それ以上、大隊長は何も言わなかった。

 もうかなり昔のことのように思える訓練兵時代のことが蘇る。後期の戦術機教育に入る直前、机上の想定訓練中にあったことだ。前線で味方が壊滅。自部隊も少数が生存した状態で撤退命令が出た際のことだ。

模擬部隊の隊長をしていた私に大隊長が同じことを言った。その意図は撤退命令が出た瞬間から、模擬部隊はその時点以降に戦死者を出さずに脱出地点に到達しなければならない。つまり、全員揃っての生還が至上の優先命令。そう教わった。

大隊長は暗に伝えたかったのかもしれない。私たちがこれ以上、誰も欠けることなく生き残ることを。

 

※※※

 

[同年同月同日 大阪戦区 淀川北岸]

 

 前方で動きがあった。陣形が極限まで伸び切った、国連軍部隊が茨木丘陵地に到達した頃。茨木市街に突入していた機械化歩兵部隊からデータリンクがあり、市街地西方から残存BETAが出現した。

これに対応するのは混成戦術機甲大隊の第14戦術機甲大隊の残存8機。市街北部に展開している第9大隊の中隊は陣形の配置転換で北方に進出していたため、第14戦術機甲大隊がこの対応に迫られていた。

BETA総数はおよそ100体。その半数が小型種だが、戦車級や要撃級も含まれている。こちらの振動センサでも波形は捉えていた。

 しかしそれもできない。俺は淀川の北岸に釘付けにされていた。

 

『エイコーン2より3、弾倉交換』

 

『エイコーン4、援護します!』

 

 警戒していた淀川南岸、南方からBETA群小集団の襲撃があったからだ。迎撃には南岸を任せていたピアティフ少尉、伊隅少尉に任せ、その援護を南岸から七瀬少尉が。北岸の警戒は俺が引き続き行っていた。

第14戦術機甲大隊の援護に向かうことはできない。

 

「小型種の掃討は機甲師団に任せろ! 1匹たりとも砲兵に近寄らせるな!」

 

『『『了解!』』』

 

 掃討に時間は掛からない。これ以上、南岸の安全が確保できない以上は、独断で後衛の渡河を始めなければいけない。つまり、俺独りで砲兵の護衛を行っている状況なのだ。

 

「このままでは前衛と分断されてしまう。そうなれば俺たちはまだしも、前衛はBETAの只中に孤立」

 

 このような進軍経験は主観記憶上はなくとも、なんとなく身体が覚えているような気がした。混成部隊での進軍は歩調が合わず、どうしても足の遅い兵科に合わせてしまう。戦術機の長所である3次元機動攻撃ができない。状況は最悪だった。

 

『CPよりエイコーン1。最優先事項を伝える』

 

「エイコーン1、感度良」

 

『現地点から前進し、茨木市街に突入。残存BETA群を撃滅せよ』

 

「帝国軍は?」

 

『当該目標を迎撃中だが戦況が芳しくない。現在、市街掃討中の機械化歩兵2個大隊が小型種迎撃のため移動中。貴隊も速やかに前進せよ』

 

 何を言っているのだ、このCP将校は。今ここで俺たちが離脱してしまえば、砲兵の護衛は機甲部隊のみとなってしまう。そうなってしまえば、現時点で対応中の戦車級や要撃級によって後衛が擦り潰されてしまう。戦術機甲部隊と機械化歩兵部隊のみでは、大阪戦区は一気に劣勢に追い込まれる。

双方、砲兵による火力支援がなければ制圧能力が極限まで低下。結果、部隊が壊滅するのも目に見えていた。

 大阪戦区に配備されている予備兵力には戦車や砲兵が多少なりとも含まれてはいても、部隊そもそもがなくなってしまえば意味がないのだ。

 

「承服しかねる! 現時点で砲兵を見捨ててしまえば、前衛は十分な支援を受けられなくなってしまう!」

 

『これは司令部からの命令だ』

 

「クソッ!!」

 

 管制ユニットの内壁に拳を叩きつける。やり場のない怒りをぶつけたに過ぎない。

 これまでの防衛戦や大規模反抗作戦の遊軍、特殊任務ばかりだった俺からすれば、こういった組織立った反抗作戦の経験が少なかった。否。ただただ経験がなかったに過ぎないのだろう。

CP、引いてはHQが前線の状況をつぶさに確認し、正しい命令を下せないという今の状況。そして、これを見越した作戦立案をしなかった見通しの甘さ。これ以上の作戦続行は命令通りに動いてしまえば致命的だ。作戦企画による大局的な戦略が根底から瓦解しかねない。

 

「エイコーン1より小隊各機!」

 

 ならば取り得る手段は1つしかない。恐らく、小隊全員がこういった状況になることも承知しているだろう。そうでなかったとしても、対応はできるはずだ。信じるしかない。

 

「小隊を分ける。エイコーン2は小隊指揮を継承し、引き続き砲兵の護衛に専念。俺は単機で茨木市街に突入する」

 

『エイコーン4より1、それは!』

 

 七瀬少尉が口を挟もうとした瞬間、ピアティフ少尉が割って入った。

 

『エイコーン2、了解。小隊指揮権を受理。引き続き後方のBETA群迎撃に当たります』

 

 跳躍ユニットのロケットモータを起動させ、急加速で空へ飛び上がる。向かう先は市街内で戦闘中の第14戦術機甲大隊。苦戦しているのは必至。一刻も早く合流し、BETAを殲滅。すぐさま護衛に戻らなければ。

そう考えながら、砂塵の上がる市街を睨み付けた。

 

※※※

 

[同年同月同日 大阪戦区 茨木市街]

 

 結果的には昨日の長月中佐の言っていた通りだったのかもしれない。俺たちを砲兵の護衛に置き、前衛で問題が発生した場合にオーバーラップして戦列に加わる。今起きていることだからこそ、司令部も中佐も配置をそうしたのだ。

 オスカー中隊は市街地に侵入した小集団を1つ撃破しており、残り2つとなっていた。1つは向かってくるところを一方的に蜂の巣にしたようだが、2つ目で苦戦している。

突撃砲の残弾を気にしてか、前衛が近接格闘戦をしており、後衛がバースト射撃で死角のカバーをしている状況。データリンクで得られた情報では、予備弾倉はなく長刀の耐久限界が近い。

 

『エイコーン1よりオスカーズ、援護する!』

 

 一方的に言い切った上で、俺は前衛とBETAの間に機体を滑り込ませた。こちらも侵入してきているのは戦車級と要撃級。小型種は素通りさせており、その対応を機械化歩兵に任せているようだ。部隊後方でも戦闘が発生しており、そちらもデータリンクで確認が取れている。

 こちらは弾薬に余裕がある。突撃砲を惜しみなく使いつつ、最速制圧を目指す。市街地は足場になる場所も多いものの、混戦状態にあるエリアでの高機動戦にはやりようがある。伊達に元A-01の看板を背負っていない。

 

「急げ!」

 

 自分に言い聞かせる。長刀と突撃砲を使う。射撃、斬撃、射撃、斬撃。息を吐く暇も作らず、ただただBETAを処理する。

 同時に第14戦術機甲大隊のステータスも確認する。共有されている分ではあるが、やはり機体の損耗が大きい。昨日の整備でも十分ではなかったようだ。それに前衛はもう弾薬が残っていない。だから近接格闘戦をしていたのだろう。今回の戦闘で負ったであろう損傷も酷い。腕部が脱落していたり、駆動系がアラートを発していたりもする。

これじゃあ、まともに戦えばひとたまりもない。

 

『オスカー1よりエイコーン1。救援に来るのは1個小隊では?』

 

「後衛にもBETA小集団の襲撃があった! 次席指揮官に指揮権を移譲して、俺だけでここに駆け付けた! 弾倉交換は?!」

 

 データリンクの更新。全機既に予備弾倉を使い果たし、後衛の機体の突撃砲にある弾倉で最後のようだ。

 思わず舌打ちをしてしまう。何もかも、状況が悪い。予備兵力の選択も、彼らの扱いも。満足な補給があっても、これじゃあ本当に肉壁だ。

 すぐに殲滅し終えると、すぐさま移動を開始する。陣形はないようなものだ。機械化歩兵の中隊が既に接敵しており、距離を取りながら小型種のみを狙って戦っていた。その間に入り込んで押し返す。単独でも可能だが、レーダによる多角測位と振動センサの併用の方が索敵精度が高い。

 

「エイコーン1よりオスカーズ。予備弾倉を渡すから、突撃砲を持っている機体は補給してくれ」

 

 周囲を見渡し、市街地の状況を確認する。

 まだBETAの浸食も進んでおらず、一昨年の本土侵攻や間引きの残骸が残っている。反応は消失しているが、恐らく補給コンテナも近くに転がっている。すぐにピンを指したマップをデータリンクで共有した。

 

「共有したマップに補給コンテナや投棄された突撃砲、撃破された友軍機がある。そこから兵装を拝借して、使用可能ならばそのまま装備して戦闘に加わって欲しい。すぐさま次の小集団を撃破したい」

 

『了解』

 

 他から返事は聞こえない。聞いていたのかも確認する必要はない。今の状況を正確に理解しているのならば、持ち場の維持と生き残ることを優先するだろう。

 俺は中隊後衛に予備弾倉と背部兵装マウントから長刀を渡した。俺の武装は保持しているものだけ。投棄せずに戦えば大丈夫だ。

残りの小集団は戦車級20体と要撃級4体。その他、小型種100体程度。すぐに片付けて後衛に合流する。しなければならないことを確認し、後ろで武装の回収をしてきた機体が戻ってきたことを確認すると行動を開始した。

 

『オスカー1よりエイコーン1、中隊の補給完了』

 

「エイコーン1、了解」

 

 集結した撃震を確認する。先ほどよりはマシになったものの、兵装は不足したままだ。だが、このまま戦うしかない。

 オスカー1の指示で速やかに移動が開始される。彼は俺たちの状況を把握している。南方での戦闘はいまだ決着していない。理解しているのだ。砲兵を失えば大阪戦区は瓦解する、と。だが口には出さないし、CPには進言していない。救援要請も元々出していないのだろう。

自分たちが擦り減らされることと大局的なモノを天秤にかけて選択したのだ。無意味な死を。

 

※※※

 

D2C(デルタ2中隊)よりTSF14C《オスカー中隊》! 到着はまだか?! これ以上の後退は市街地に展開中の他部隊の後背に敵を誘引してしまう!』

 

 聞きなれないコールに違和感があったが、機械化歩兵や警備兵の使う符号だとすぐに気付く。

 

TSF14C1(オスカー1)よりD2C、戦線を引き継ぐ。貴隊は速やかに後退し、小型種掃討に移行。可能ならば脱落機を救助に当たれ』

 

 あくまで俺は救援の救援だ。通信に口を挟まず、部隊の先頭でBETAと機械化歩兵の間に割り込んだ。突撃砲で36mmをばら蒔きながら牽制し、一瞬でもBETAを押し返す。侵攻圧力を受け止めつつ、少しずつでも彼らの後退支援に徹した。

状況を見て、彼らの精強さがひしひしと伝わる。戦術機でも脅威になる戦車級でさえも多目的敵弾で吹き飛ばしたり、腕部のパイルバンカーで接近戦もしていたようだ。周囲に転がる挽肉や大穴の空いた死体を見れば分かる。

 要撃級の前腕衝角を避け、倒壊しかけたビルの側壁を蹴りながらも弾丸を浴びせる。着地する前に姿勢制御して、中隊に寄り付きそうな戦車級を切り裂き、ついでのように着地先にいる小型種を踏み潰す。何度も何度も。それでも抜ける個体はおり、遂にオスカー中隊の前衛に戦車級が取り付いた。

 

『01より05、08に取り付いた奴を取ってやれ!』

 

『や、やってます! けど、けど!!』

 

 通信の向こう側から聞こえてくるのは、声の震えた少年の声。俺も人のことは言えない。焦るオスカー1とオスカー5の声とは裏腹に、オスカー8は騒いでいなかった。

 

『08! 08!』

 

『別にいいです、教官……』

 

『何を言って』

 

『もう、楽にさせてくださいよ……』

 

 それは諦観だった。目の下の酷い隈、痩せこけた頬、鈍く暗い瞳。あれは死を受け入れ、抗うことを諦めた目だ。何度も見た。何度も見送った。頭が痛くなるほどに記憶が押し寄せてくる。それを歯を噛み締めて堪える。

 

『05! まだか?!』

 

『短刀がシースから抜けないです!』

 

『マニピュレータで掴め!』

 

 俺は後ろの問答に苛立った。だが言えない。知っているからこそ、口に出せない。彼らの苦しみを理解してやれないからこそ、軽々しく言っては駄目だと分かっているから。

 下唇を噛み締めて、俺はただ目の前の敵にだけ集中する。時間も余裕も俺が作ればいい。

機体を振り回し、遮蔽の隙間にある道路を飛び回る。大味で強引な機体特性を継承している極光には荷が重いだろうが、XM3のお陰で何とかなっている。これまでの訓練や今回の実戦でもなかった近接密集戦だが、カスタムされているだけはある。機動制御にもついてきて、骨太のフレームがしっかりと衝撃を吸収してくれる。

 

「これで最後!」

 

 最期の戦車級を切り伏せる。周囲を確認し大きな動きがないか確認する。振動センサにも戦車級以上の反応はなし。小型種が死骸を躱しながら進んでいる程度。

 

「エイコーン1、掃討完了」

 

 残弾確認、長刀の状態は問題なし。機体も大丈夫だ。振り回したから何処かしら不具合でも出ているかと思ったが、特段何も起きていない様子。しっかりとした整備を受ければ、自己診断に引っ掛からなかった問題が起きているかもしれないが、すぐに何かある訳でもないだろう。

 後ろを振り返りオスカー中隊の方に目を向ける。オスカー8に取り付いていた戦車級は倒したようだが、オスカー5の右腕が使い物にならなくなったようだ。BETAの組織片が駆動系に入り込み、突撃砲や長刀が握れなくなった様子。その他の機体も突入前から損傷は増えていない。

 

『D2CよりTSF14C、後は掃討だけだ。救援感謝する』

 

『D2C、問題ない。我々は所定位置に戻る』

 

 これでCPからの命令は完遂できただろう。小さく息を吐き、広域データリンクを確認する。

 既に淀川沿岸部の戦闘も集結している様子で、恐らくピアティフ少尉の独断で渡河を始めているようだ。自走砲の渡河は終わっており、戦車も半分が終了している。先行しているミラー少佐や長月中佐の報告は変わらずだが、茨木丘陵地の確保を進めているのだろう。表示されているマップの遠くにこちらへ向かってくるアイコンが映っていることからも、通信障害か何かで連絡が取れる状態じゃなかったのかもしれない。

 

「エイコーン1よりオスカー1、こちらも所定位置に戻って隊と合流する」

 

『あぁ。救援感謝する』

 

 振り返ることもしない。何も声をかけない。機体をふわりと浮かび上がらせ、後方へと飛ぶ。本日中には茨木丘陵地の確保も済み、部隊移動も開始されるだろう。

この前進で生じた損耗はどれほどになっているだろうか。データリンクで確認できるのは部隊生存のみで、数を確認できるのは接触した部隊のみ。市街地に突入した機械化歩兵も少なくない被害を被っているだろうが、作戦続行に支障はない程度に収まっているだろうし、戦術機部隊も俺たちとオスカー中隊しかいない。それよりも前進している第9大隊や国連軍部隊の方は把握できていない。先ほどマップに表示されたアイコンは伝令か何かだろう。

 

※※※

 

 考え事をしていれば、すぐに小隊と合流できる。北岸には自走砲とロケット自走砲、戦車の集団が待機しており、その付近にはピアティフ少尉たちが周辺警戒していた。

 

「エイコーン1、合流する」

 

『エイコーン2よりエイコーン1、お疲れ様です』

 

 すぐさまデータリンクで各機の損耗を確認する。特に損傷はしていない様子だった。

 

『こちらの被害ですが、砲兵は無傷。機甲連隊は9両喪失です。こちらの手が回らず、穴埋めに前進した隊が壊滅しました』

 

 目視で確認できるだけでも、恐らくピアティフ少尉たちはBETAを誘引して乱戦。その支援や抜けた個体の処理に戦車が出たのだろう。彼女たちの極光にはBETAの体液がそれなりに付着しており、センサの部分は拭き取ったようだった。それに確かに隊を離れる前に確認していた戦車の数よりも少ない。様子を見る限り、喪失した戦車から搭乗員は脱出していないのだろう。窮屈そうにしている者や呼吸器を付けてタンクデサントしている者もいない。

 戦車9両の喪失は大きい。機甲連隊のおよそ1割未満だが、それでも9門分の火力低下は長期的に支援砲撃の密度不足に直結しかねないからだ。

 

『臨時混成戦術機甲大隊の救援に最小戦闘単位(エレメント)で向かっていれば、これ以上の被害が出た可能性もあります。それにこちらに残っていた我々も誰かが撃墜されていてもおかしくはないです』

 

「元々の命令は小隊全機での救援だったからな」

 

 CPの命令に俺は従わなかった。現場判断で事の解消に動いた。一応は抗命が成立するだろうから、何かしらの処罰は受ける可能性が高い。だが、俺の立ち位置はかなり不透明だ。原隊が極東国連軍 横浜基地。本作戦中はHQが最上位だが、恐らく夕呼先生のところに抗議が行くだろう。HQの一存で小隊の解散や指揮権の剥奪、降格はできないはずだ。指揮系統が複雑だからだ。

俺は最後の戦車が渡河を完了するのを見送りながら、この後あるであろうCPからの抗議にどう対処しようか考えることにした。

 

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