Muv-Luv Alternative Plantinum`s Avenger 作:セントラル14
[2000年2月18日 大阪戦区 茨木市街北端]
俺たち後衛が市街地に入ったのは夕方だった。現在、先行する国連軍部隊と臨時混成戦術機甲大隊は茨木丘陵地の確保を済ませ、合流した1個機械化歩兵大隊と共に残敵掃討を行っている。丸1日の移動と戦闘で消耗した部隊には補給コンテナが移送されてきており、各地点に推進剤と兵装・弾薬が支給されている。
しかし、俺たちは北端にある国道171号線沿いで停止していた。
『貴官は自身が何をしたのか理解しているのか? 司令部からの命令は即時護衛を解き、市街地に展開する第14戦術機甲大隊の救援に向かうこと。それを現場判断で上申することなく、小隊を残して単独で前進した』
何故なら今、HQから軍法会議のようなものを受けていた。バストアップウィンドウ越しに、相手は帝国軍将校であることが見て取れ、その背後に国連軍将校の姿も見える。
2人とも司令部指揮をしているポジションだろうが疲労しているのが見て取れる。昨日の休息日である程度回復しているのかもしれないが、後方のことだ。恐らく戦闘が起きていなくとも、しなくてはならないことがかなりあったに違いない。
『結果的に第14戦術機甲大隊が交戦地域で2機撃墜、1機行動不能。作戦の中核を担う臨時混成戦術機甲大隊は今日の戦闘でおよそ1割の損耗を受けた』
前衛でもBETAとの小規模遭遇戦が発生しており、その際に国連軍は被害がなかったものの、第9大隊は被撃墜3機を出している。これによって今日の戦闘で戦術機は74機の2個大隊に落ち込んだ。恐らく作戦続行に支障はないだろうが、これ以上の攻勢には戦術を少し変更する必要があるだろう。
『後衛も機甲連隊に9両の損害を出している。BETAとの戦闘であるため全体の損害は許容できるが、私は貴官の逸脱行為についてだ』
別に悩む必要もない。俺はキッパリと答える。
「小隊全機で第14戦術機甲大隊の救援に向かっていれば、南方に出現したBETAの迎撃に機甲連隊が対応せざるを得ない状況に陥ります。小官はそれを許容できませんでした。陣形中央と陣形後方にほぼ同時に出現した小集団を相手に戦力を分散し、各個対応する。当然です」
『確かに貴官らに護衛任務を下したのも私だ。しかし、撃破優先は陣形中央に出現した方であろう? あのままのさばらせてしまえば、前衛と分断され各個撃破されてしまう』
何を言っているんだ、この将校は。冷静さは失っていないが、この頭の固い奴に怒りを覚える。言っていることは正論ではあるのだが、実際で起きていたこととは乖離している。前線は砲兵を失ってしまえば、戦線を支えられなくなる。それを見捨ててオスカー中隊を救出し、すぐに護衛対象に接近中のBETAを殲滅すればいいと言っているのか。これは現実的じゃない。不可能とは言わないが、非常に難しい。それに結果論だが、市街地に分散したBETAを撃破した後に戻っていれば、被害は今以上に出ていたことは容易に想像できる。俺たちにそのように動いて欲しかった、後衛は壊滅して欲しかった、そのように聞こえてしまう。
「では、後方のBETA群の撃破優先は低かったと?」
『そうだ。出現個体数も陣形中央の方が多かった。それに、当時の茨木市街には第14戦術機甲大隊と2個機械化歩兵大隊がいたが、大型種相手に機械化歩兵が対処できず全滅する懸念があった。市街に展開中の戦術機部隊と貴隊で市街を掃討し、貴隊はすぐさま後退。後方の迎撃に向かえば想定される被害は、現状よりも少なかったと想定できる』
将校の言うことに言葉が詰まる。確かに小隊で合流していれば、実際よりも早くに掃討と離脱はできただろう。即対応をしていれば、後衛との接敵以前の交戦で被害を出さずに処理できたかもしれない。万が一、時間がかかるようなら機甲連隊が前進し防衛線を敷いて遅滞攻撃を加えていたことも考えられる。
しかし、単独でオーバーラップした俺が見たのは、あの状況下で第14戦術機甲大隊がまともには戦闘のできない部隊だった。将校の云う、具体的な想定は前線では通用しなかったのではないか。
「第14戦術機甲大隊の損耗度合は把握していたのですか?」
『当時の当該部隊は8機。市街に出現したBETAに対し、貴隊と合算した1個中隊で十二分に対応可能だっただろう?』
「いいえ、それは実際の現場を考慮しなかった場合の考えです」
データリンクで共有されていた情報はHQでも閲覧できたはず。彼らは数値で見る以上に戦闘力を失っていた。また、あの状態で市街地から出て前衛を追いかけることも、後衛に合流して一時的に陣形を崩すこともできなかった。対応を始めていた彼らには兵装も弾薬も、恐らく推進剤でさえ不足していた。
どのみち何処かで行動不能になり、戦術機を放棄せざるを得ない状況になっていた。
「私が合流した時点で、彼らは兵装も失い、弾薬も枯渇していました。あの状態で再度市街地での警戒は困難であり、再度攻撃があった場合に容易に瓦解する可能性がありました。また、我々が小隊全機での救援を行っていたとしても、中隊行動を取る以上は相応に消耗します。現に、単独で救援に向かった後、補給活動中の彼らは時間が掛かり過ぎていた。つまり、それだけ補給しなければならない状態だった、ということです。これは想定していた状況下でも同様のことが発生していたでしょう」
『そのような報告は……いや、しかし』
この将校は実際の現場を把握していなかった上に、前線の現実を理解していなかったのだ。恐らく、補充当時には資料に目を通していただろう。背景と状況は把握していたかもしれない。だが、戦闘部隊としての評価はできていなかった。単独運用した際の戦闘力や損耗率、継戦能力等、考慮すべき事案はあったはず。
だが、頼れないHQではない。1つの戦区を任されているだけはあるが、ただただリアルタイムで現場を正確に捉えることができなかっただけだ。ただ
『……貴官の現場判断が結果的に双方の被害を最小限に留めたことを認める。本来であれば抗命で処分するため、国連軍側の司令官にもご同席願ったが、必要のない無駄足を運ばせてしまった』
帝国軍将校は少し姿勢を正して言った。その後ろに控える国連軍将校も同様だった。後ろの国連軍将校が何も言わないことが少し気になるが、取り合えずは丸く収まった。
『いいえ。こちらとしても合同作戦でありますから、発生した問題は双方納得のいく上で潰していきたい。帝国軍側でそのように判断されるのであれば、私どもがとやかく言うこと等あろう筈がない』
国連軍将校も口を開いたかと思ったが、どうやら国連軍側も特に処罰するつもりはないようだ。
『白銀中尉。以降は貴官の判断をこちらの意思決定の材料に加えたい。何かあれば上申して貰いたい』
「了解しました。ご高配、感謝します」
※※※
安全が確認された茨木丘陵地に後衛部隊が到着したことで、本日の行動は終了した。丸1日の作戦行動ではあったが、そのほとんどが移動だったため消耗も少ない。とはいえ、戦闘は発生していたため損害の出ていない部隊が周辺警戒や安全地帯の拡大で夜間行動も行われていた。
現在、無傷だった国連軍グラッチ中隊とエイコーン小隊がその任にあたっており、丘陵地全周の哨戒をしていた。
『補給物資の調達は明日以降になるそうですね』
主脚走行しながら赤外線センサでの索敵は飽きるもので、基本的に暗いものしか映らない。時折熱源を捉えても小動物のことがほとんどで、気が休まることがあまりなかった。
そんな中で伊隅少尉がオープン通信でぼやいていた。作戦が始まってからというもの、肝が座っているのか彼女は気の抜けた発言をすることが多い。場慣れしているから、と言ってしまえばその通りだろう。曲がりなりにも元帝国軍の
『元々本日中に兵庫に入る予定が茨木丘陵地止まりですから、司令部は明日以降の作戦計画に見直しを行っていると考えます』
『七瀬少尉の言う通りだろうね。それに昼間は気付かなかったけど、後方に出現したBETA群は守口補給基地を無視してたらしいよ。至近を通過するBETAを発見した第338機械化歩兵大隊がHQに救援要請をしたみたい』
『白銀中尉が進言していた……交戦はしたんですかね?』
『交戦もなし。見向きもされなかったとか』
審問を受けている間にデータリンクで共有されていた内容だ。南方に出現したBETA群は16日に交戦した残党だったようで、BETA梯団外縁部の小集団だった。恐らくこちらに向かってきたのは、補給物資が山のように置いてある守口補給基地よりも、前線部隊の方が稼働中のコンピュータの多さから向かってきたのだろう。BETAの行動原理的にも理に叶っている。
『守口補給基地に被害が無くてよかったです。それで話を戻すのですが、明日以降の作戦計画についてはどうなると思いますか?』
『う~ん。私たちにはあまり情報が入って来てないから何とも言えないけど、多分、箕面・豊中の安全確保をして伊丹・尼崎に入るんじゃないかな? 偵察情報次第だけど、もしBETAがいないのならば明日中には兵庫に入れると思う』
『やはりそうですか』
『何となくね』
俺は伊隅少尉と同意見だった。それにその予想も当たっているだろう。茨木丘陵地に砲撃陣地を構えるということは、事前偵察で近くにBETAがあまりいないのだろう。陣地構築しながら掃討し、準備を整える。それに、軍事基地跡地を抑えられる可能性が高い。帝国軍の伊丹駐屯地を得られるのは大きいし、そこを橋頭堡として西進を続けることが可能になる。安定して前進が続けられ、後方にBETAが抜けなくなればインフラ整備も追いかけてくるはずだ。俺たちが勝ち続ければ、その分だけ戦い易くなっていく。不安も懸念も増えるが、それは致し方のないことだ。
丘陵地東面をこれだけ警戒しながら歩き回ってもBETAの出現が確認できないのならば、機械化歩兵に引き継いで振動センサを設置してしまった方がいいだろう。俺は咳ばらいをしてからオープン通信に接続した。
「01より各機。俺たちの受け持ち分は終わりだ。待機中の機械化歩兵に伝えて振動センサの設置を依頼し、俺たちは丘陵地の待機地点に向かおう。そろそろ腹が減り過ぎて倒れそうだ」
『『『了解』』』
続々と返答が聞こえ、グラッチ中隊の方でも哨戒が終了した報告が上がってくる。俺たちは指定された待機地点に踵を返した。
※※※
[2000年2月19日 大阪戦区 茨木丘陵地砲撃陣地]
早朝、HQから作戦計画が伝達された。予想通りの内容で、伊丹・尼崎までの小部隊による強行偵察を実施。偵察衛星からの情報によれば、BETAの存在は確認できるものの極小規模であり脅威度はそこまで高くないとのこと。個体数も小隊規模が2つ反応がある程度。
以西からの増援は確認されず、豊岡・養父・丹波にはBETAの流入が止まっていない。原因は山岳地帯の地形が残っており、渓谷を通過するBETAが縦一列に伸びているため。光線属種に警戒する必要のない位置からの遠距離攻撃によって漸減しつつあるため、平野における大規模制圧がし辛い現状にあった。
昨夜、簡易整備を行っていた戦術機部隊が後退で威力偵察任務を受領し、既に出撃済みとのこと。現在は1個戦術機甲大隊相当の戦力が砲撃陣地で待機している状態だった。
『HQよりエイコーン1』
「エイコーン1、感度良」
朝食を待機しながら食べていたところ、HQからの通信が入ってくる。昨日今日で何か話すことでもあるのだろうか。
バストアップウィンドウに表示されるのは、いつものCP将校だった。
『これから始まる打合せに参加願う』
「了解」
打合せというと、どういうものだろうか。少し不思議に思いながらも、指定されたチャンネルに接続する。
そこには帝国軍将校、国連軍将校の他に、長月中佐やミラー少佐、各部隊長が参加しているようだ。人数が多いためバストアップウィンドウは表示されず、コールサインのみが出ている。
姿勢を正して俺は耳を傾けた。
『直近の作戦計画について説明を始める』
切り出したのは帝国軍将校だ。
『先日の戦闘によって茨木丘陵地を確保した我々は、前線の大幅な押し上げを実施する。目標は伊丹駐屯地の確保』
やはりそうか。この先市街地と山岳地帯が交互にある地形だ。BETAによる均しが出来ていない以上、利用できる施設があるのならば再利用するに越したことはない。
『目的は大阪戦区に配備されている部隊の拠点とすることで前線の安定化を図ることだ。また、施設が健在である伊丹駐屯地は先の本土侵攻で地下施設に保管されていた物資が残されている可能性が高い。続々と後方から物資が輸送されているが、国内における物資不足は深刻だ。国内や兵站の負担の一時的な緩和を目的とした戦術予備物資の回収を行い、大阪戦区の物資安定化を実施する』
俺の記憶が正しければ、本土侵攻の際に伊丹駐屯地はBETA流入を防ぐための自爆攻撃をしなかった。駐屯地司令がその判断をしたのだろう。明くる日、奪還にやってきた部隊に残すために。
『既に伊丹駐屯地周辺から三田・神戸・三木までの偵察情報を収集中だ。該当地域における残存BETA群の集計と脅威度判定は随時行っていく。この事前準備において想定を上回る個体数が確認された場合は、補充部隊の前倒しと予備兵力の動員を実施する』
補充部隊というと、帝国軍・国連軍双方から供出されるだろう。帝国軍は分からないが、国連軍の一部はA-01の1個中隊だ。それと予備兵力に関しては少し警戒してしまう。それは通信に参加している他の部隊長も思うところがあるだろう。特に長月中佐はそうだ。第14戦術機甲大隊は既にほとんどを喪失している。彼らの士気練度が著しく低かったと言ってしまえばそれまでだが、臨時混成戦術機甲大隊指揮官としての指揮能力を指摘されれば返す言葉も出てこないだろう。出来うる限りの中で取った最善手でこうなってしまっているのだから。
『現時点で箕面・豊中に強行偵察隊が侵入しており、事前偵察情報を以て情報収集に当たっている。戦術機・機械化歩兵各隊の前進経路の策定中だろう。報告が入り次第、詳細な侵攻ルートの説明を行う。以上だ。何か質問は?』
交戦報告はなく、まだ小隊規模BETA群と接敵をしていない。出撃してそれほど時間が経っていないから当然のことではある。
『長月中佐』
『戦区戦術機部隊長として。予備兵力に関しては作戦企画紙通りであれば私の把握するところではあるが、補充部隊については如何なものか?』
『補充部隊については作戦企画紙にない戦力であるが、各戦区に参加している部隊並びに予備兵力を供出している原隊より追加で回された部隊になる。戦術機甲1個連隊、機甲1個師団、砲兵1個師団、機械化歩兵2個師団。その全てにおいて帝国軍並びに国連軍を合算したものと考えてもらっていい。同数が各戦区補充部隊に配備されており、逐次司令部に合流している』
この補充部隊に予備兵力を加えればかなり多い。積極的攻勢を数度繰り返しても、大規模BETA群の襲来でもない限りは比較的安全に殲滅できる戦力だ。本音を言えば、帝国海軍か国連軍の海上戦力が支援に回ってくれれば更に楽になるというもの。現時点では北部の京都北戦区に限り、海上戦力による支援砲撃を受けられているのだ。
『現時点で前線へ加えることは如何か?』
『ない。あくまで現有戦力で作戦行動が可能と判断する』
『承知した』
なら次は俺が尋ねよう。参加する面々に比べれば階級も尉官と低く、年齢も若い。だが、気になる点はあるからだ。話す帝国軍将校に合図を送る。
『白銀中尉』
「はッ。現時点で小隊規模BETA群が2つ確認されておりますが、現時点の偵察衛星の情報と司令部の脅威度判定は信用してもよろしいのでしょうか? 現時点で強行偵察隊が出撃中ではありますが、内訳は戦術機甲1個中隊のみです。該当中隊は臨時混成戦術機甲大隊の
そう言いかけた刹那のことだ。データリンクで情報の更新があった。強行偵察隊が小隊規模BETA群の接敵し交戦状態に入ったとのこと。現時点で脅威度判定は合っており、報告に合った通りのBETA群の戦力だ。
「士気練度は旺盛かと思います。ですが、危険地帯での作戦行動これこの上なく、事前の偵察情報と脅威度判定は我々前線に経つ兵として信用し信頼したいものです」
『白銀中尉の懸念も最もなことだ。昨日の件も踏まえると、貴官がそう考えるのも致し方のないこと。だが、今回以降は前線に伝える情報はこれまで以上に精査し判定し、信頼に足るよう早急に伝える努力をする。もし我々で感知できないものであれば、是非とも各長は上申してもらって構わない』
「了解しました」
俺が聞きたかったことに、帝国軍将校ははっきりと答えてくれた。昨日あったことを俺も反省し、司令部も反省しているのだ。その上で今日からは現場の意見を吸収し、より綿密かつ早急に情報を伝えるつもりらしい。
となると想定外のことは起き辛くなるだろうが、相対するのはBETAだ。想定外が付き物なので、きっと俺は強行偵察隊の支援や砲撃陣地への奇襲に呼応して最前線に立つことになる。
通信が接続されたままではあったが、気にせず俺は朝食を描き込んで機体のチェックを始めることにした。