Muv-Luv Alternative Plantinum`s Avenger 作:セントラル14
[2000年2月16日 極東国連軍横浜基地 第1ブリーフィング室]
本日も晴天なり。されど私はいつも通り基地内で仕事、仕事、仕事。
昨日、タケルちゃんたち
結局のところ、一緒の部隊にならなくても過ごす時間は何だかんだ言ってあったように思う。
けど、こうして任務があればタケルちゃんは何処かへ行ってしまう。大して心配はしていないけど、これまでに撃墜の前科があるから何とも言えない。今回もつぶさに生存確認をする必要があるね。
今日の仕事は面倒を見ているTF-403の機体が出払っているため、適当に訓練機や神宮司大尉の機体のメンテナンス。それが終わったら霞ちゃんに呼び出されて、こうして第1ブリーフィング室にやってきていた。どうやら霞ちゃんが対応する予定だったけど、別件で手が離せないから私に回ってきたらしい。
「鑑ぃ~、説明をお願いするわぁ」
面倒くさそうに私に話を振ってきたのは香月先生。この部屋には私と先生の他に、A-01の衛士が12名来ている。去年やってきた顔ぶれで、かなり印象に残っているから名前も何となく覚えている。
「了解。では現在、日本帝国軍・極東国連軍共同作戦である西日本奪還作戦について概要を説明します」
あまり長々と話す必要もない。そう感じて端的な説明で済ませて本題に移る。
「オルタネイティヴ第4計画の立ち位置につきましては、当作戦への戦力捻出を行い招致国に対し作戦協力姿勢を確立することです。既に横浜基地からは先んじて派兵されており、その増援として今回の中隊派兵が決まりました」
香月先生の腹の中は知っていても、話す必要はないと私は考えた。話したところで、それを考慮して現地部隊と合流し作戦行動をしたところで、その本命はタケルちゃんがやっている。
曰く、これはパフォーマンスらしい。なら深く知る必要はない。Need to knowだ。
パイプ椅子に腰掛けていた香月先生が不意に立ち上がり、目前に並ぶ衛士たちを睨み付ける。そういう風に見えるだけで、多分本人にそのつもりはないのだろう。
「アンタたちアタシが求めるのはひとつ。配置予定の戦区で先に行った部隊と合流し、大いに暴れること」
右目に眼帯をした男性衛士が一歩前に出てきた。この人、何というか怖い。雰囲気がザ・軍人って感じがして、私の周りにいる軍人の中では特に凄い空気を纏ってる。
「香月大佐、それは言葉通りに受け取ってもいいんですかね?」
「別にいいわよ。ただ前線はどうやら、それ以外にも考慮しなければならないことが多いわ。その辺りは先に行った小隊を頼りなさい。役に立つわ」
「了解」
それもそうだろうな、なんて考える。A-01は目立つ。国連軍が日本帝国軍の最新鋭戦術機を装備しているのだ。
それ故にこういった場合は、A-01は自前の後方支援を行っている。それも今回は最低限しか行わない。行って作戦に参加して数日で戻ってくるのとは訳が違う。
なるほどね。だからこの人たちが今回選ばれたんだ、と納得してしまう。きっと慣れているんだ。
※※※
香月先生は言いたいことを言って満足したのか、早々にブリーフィング室を出て行ってしまう。残されたのは後片付けをする私と、中隊衛士の皆さん。どうやらこのまま軽くブリーフィングをして何かするらしい。あんまり聞いても仕方ないと思い、片づけを済ませて出ていこうと考える。
しかし、私はその男性衛士に呼び止められた。
「少尉」
「はい。何でしょう、大尉」
一応、名簿をもらって名前は知っているが、自己紹介をされていない人に名前を言われても気分は良くないだろうと思った。だが、私が階級だけを言ったら少し呆気に取られたのが、すぐに険しい顔をしてくる。怖いから止めて欲しい。
「マナガルム中隊の真田大尉だ」
「私は……えぇと、鑑少尉です」
自分の所属を何処まで喋っていいのか分からないので、取り合えず誤魔化すことにした。
「そうか、鑑少尉。貴官もA-01なのか? 隊内では見ない顔だったからな」
「いいえ、私はオルタネイティヴ第4計画要員です。
「言えない理由ってか? まぁいいさ、慣れている」
真田大尉の言った意味が分からない。慣れているって、どういう意味だろう。それにさっきまでブリーフィングをしていた中尉クラスの人たちも集まってきた。私を取り囲むように立ち、その雰囲気に気圧される。
「そんな怖がるな。別に取って食おうって訳じゃねぇ。少し聞きたいことがあってな」
「聞きたいこと? 何でしょう?」
何となく大尉の聞きたいことが分かってしまう。きっとタケルちゃんのことだ。
前に聞いたことがある。本土侵攻の際、最終防衛線で出会った部隊のこと。帝国斯衛軍と帝国軍の部隊に出会い、タケルちゃんは斯衛軍部隊に随伴していって京都駅で撃墜された。その時の帝国軍部隊の人が真田大尉。
タケルちゃん曰く、妙に勘の良い大尉に尋問されかけた。戦域に孤立したタケルちゃんに話しかけ、当時学徒兵だった斯衛軍部隊の衛士とタケルちゃんを逃がした人。その後の再編成で一緒に戦った人。それに香月先生の転属に応えたのも、理由はタケルちゃんだったらしい。それに未だ顔を合わせていないとか。面倒なことになりそうとかぼやいていたっけ。
「他のA-01の衛士たちにも聞いたことなんだが、白銀 武のことは知っているか?」
やっぱり。真田大尉はタケルちゃんのことを知りたいんだ。
「転属になってからある程度のプロフィールは聞いているんだが、どうも実態を掴めなくてな。彼には恩があるんだ」
「タケ……白銀少尉の何を知りたいんです?」
「オルタネイティヴ第4計画直属の衛士であることは分かっているんだがA-01に籍を置いていない。こうして訓練の合間やブリーフィングで探してみても見つからない。だが確かに存在するというのだ。俺はただ彼に、な」
真田大尉の醸し出す雰囲気を読み取ってしまう。きっとお礼が言いたいのだ。私も香月先生に近しい人間だし、計画についてはかなり深くに関わっている。だからこそ、タケルちゃんの行動は把握している。接触した人についても。
真田大尉がお礼を言いたい理由はきっと、本土侵攻の最終防衛線で出会った斯衛軍部隊についてだろう。彼女ら学徒兵は真田大尉の元教え子であり、あの初陣で生き残ったのは3人だけ。その3人を生き長らえさせたのはタケルちゃんだった。
だからこそ、タケルちゃんに会って話したいのだろう。教え子のことを。
私は周囲を再度見る。真田大尉と一緒に集まってきた人たちは、大尉の古い部下。それこそ彼が教官をする前からの付き合いであり、その後も一緒に死線を潜った仲間なのだろう。タケルちゃんと一緒に戦った人でもある。
「大尉はそればっかりですからね」
「帝国軍の伝手も今じゃほとんど使えないので、知りたいことも多くは知ることも出来ませんし」
このお2人も大尉のことをとても信頼していることが分かる。他のA-01の中隊や、それこそ"ヴァルキリーズ"と比べても仕方のないことだが、似たような温かな空気を感じる。
「それでどうなんだ?」
かなり怖い顔だし眼力も強い。けど真剣だということが伝わる。
私はブリーフィング室に私たち以外がいないことを確認して伝えることにした。
「大尉たちが向かわれる西日本奪還作戦に参加しています。これ以上は話せません」
「いいや、十分だ」
「……いいんですか?」
「あぁ。ありがとう、少尉」
3人は私に敬礼をし、踵を返す。入口まで着いて、ふと足を止めた。
「
「へ?」
「折角こっちに移ったんだ。多少は好きにさせてもらうさ」
そう言って3人は部屋から出て行ってしまう。残された私は、真田大尉がどういう意味で言ったのか分からず、考えてしまって片付ける手が止まってしまった。
元帝国軍の精鋭と聞いていたが凄く気のいい人たちだ。そうとだけ捉えて、私は次の仕事に移ることにした。
※※※
[2000年2月17日 極東国連軍横浜基地 TF-403格納庫]
今日はこのがらんどうになっている格納庫での仕事だ。ここに収められている筈の戦術機、
普段は香月先生の執務室の隣、昔の記憶では私の脳髄が収められていたシリンダーの部屋を私や霞ちゃん用の研究スペースとして利用させて貰っている。だが、今日はそこで仕事をする気にもなれず、格納庫での用事もあったので来ていた。
戦術機があまりいない格納庫には当然のことながら整備兵もほとんどいない。こちらに保管している保守パーツを取りに来たり、サボりに来るくらいで出入室がある程度だ。
「えぇと納品納品っと……」
戦術機に携わる仕事をするのならば、ここの方が都合がいい。
色々な仕事が香月先生から振られはするものの、そのほとんどを霞ちゃんや他の計画要員の事務官が始末してしまうため、私はもっぱら計画中枢や00ユニット改関係、戦術機開発関係を主に請け負っている。
00ユニット改を使わずとも、先生や霞ちゃんのお陰でそれなりに頭が良くなった私もこうして仕事が一杯あるという訳だ。
「A-01の予備機かぁ……撃墜されてニコイチになった不知火が5機?! ウチの調達は何してんのさ!! もう!!」
ウガーと頭を搔き机をバンバン叩く。納品書には香月先生が帝国軍に発注していたものが書かれており、今朝搬入されたものの記載があった。
不知火や極光の保守パーツが多いが、その中に予備機として不知火もあった。
ニコイチ不知火。恐らく本土侵攻や多摩川絶対防衛線、北陸の防衛線、明星作戦の後に回収された不知火だ。それをパーツの過不足なくコンテナに詰めて発送されたもの。
当然フレームの歪みや駆動系の不具合は勿論のこと、内臓されているパーツは破損しているだろうし、装甲材も齧られたり曲げられたりしたもの。
いやまぁ、先生は状態関係なく至急納品を指示していたが、このような状態のものが来るなんて思いもしなかった。当然、計画の調達担当者が確認しているだろうが、それでもよく受領書にサインができたなと神経を疑う。
どう考えたって技術者の負担を増やす。というか私の負担が増える。
「整備完了機の納品は別に……時期未定なら別にいいけど……」
先ほどからこちらの格納庫を整備兵が頻繁に出入りしているのは、そのニコイチ不知火の整備のためだった。不知火の保守パーツの余剰分はこちらに保管されているし、あちらの作業台が埋まっているのならこちらのを使うしかない。
ここ数日はマナガルム中隊の戦術機整備に時間を使っていたが、今は実機演習をした中隊機の整備に追われている。別に出撃している訳ではないから大した整備はないだろうから、早々に終わってしまっているのだろう。
それに、近頃は新しく整備兵も増員している。整備速度や効率の上昇を狙ったものだが、その実、TF-403に熟練整備兵が取られることもあるからだった。
その整備兵の訓練のためにニコイチ不知火が入ってきたというのが真相。となると確実に私が呼ばれる。指導役は何人いてもいい。
「鑑少尉~?」
ほら来た、と思わず溜息が漏れる。
「は~い」
休憩スペースから大きく返事をすると、こちらに駆け寄ってくるのは少し前に整備兵として入隊した新人だ。年齢は私よりも少し高いが成人はしていない。機械油で作業着を汚し、それが顔まで広がっている。結構綺麗な人だが、その汚れが台無しにしていると言っても過言ではない。
「本日搬入された不知火の件で」
「はいはい、どーせ新人整備兵の指導役でしょ? 田村三等軍曹」
「はい! おやっさんたちは皆、他の機体に取られてますからね。申し訳ないんですがお願いしてもいいですか?」
そんな申し訳なさそうな顔をされると困ってしまう。
「分かったよ。仕方ないなぁ」
「さっすが鑑少尉! 伊達にTF-403の1号機整備をしてるだけあるぅ!」
「あれは衛士の乗り方の問題! 全く、整備もデータ吸出しも部隊の中で一番大変なんだから……」
田村三等軍曹にからかわれるが、別に怒ったりはしない。タケルちゃんの機体の管理がどれだけ大変かはA-01の整備兵では語り草なのだ。チェック項目が特別に追加で用意される程に。事実だからだ。
「でも、本来F-15系のフライ・バイ・ワイヤだった制御系をフライ・バイ・ライトに変更するのは鑑少尉、人間技じゃないです。他にも膨大な改造箇所が改造手順書にあったとはいえ、なんでできるんですか? それに不知火が配備されてた時だって、おやっさんでも気付くか怪しいところも気付いて……それで衛士とか何目指してるんです?」
「きっと田村三等軍曹もできるようになるよ。衛士はもう手遅れだけどさ」
「適性検査で弾かれてますからね。私もできるようにはなりたいですけど、おやっさんの前で言おうものなら、モンキーやスパナが飛んできます。寝言言ってないで整備しろ! 戦術機馬鹿! って」
「あはは、目に浮かぶよ。それで、さっきの件だけどすぐ行くから待ってて」
「了解です! あっちで新人共纏めておくんで、準備できたらお願いします!」
慌ただしく走り去る彼女の背中を少し見て、私は手元のラップトップを閉じる。本当だったらやりたいことがあったが、別に今やる必要はない。
F14 AN4の隣にシートが被さった機体。搬入されてからは90番格納庫の奥深くで偽装されていた。きっと今後、この機体がタケルちゃんには必要になる。