【本編完結】もしも、幸平創真が可愛い女の子だったら   作:ルピーの指輪

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すみません。遅くなりました。



迷子になった幸平創愛 その3

「こ、こいつって。幸平くん。君の親戚の子だか、何だか知らないけど、遠月の生徒じゃない子を出せるわけないじゃない」

 

 わたくしを指名したソーマさんに対してえりなさんはごもっともな返答をされます。

 ええーっと、ソーマさん。無茶をあまり言われないほうが……。

 

「じゃあ今日からウチの生徒ってことで。薙切なら出来るだろ? 第一席と第二席の推薦だ」

 

「一色先輩も推薦されてるのですか?」

 

「まぁね。ソアラちゃんなら、ソーマくんのサポートにぴったりだとは言い切れるよ。実力もあるし。特にセンスはあの才波城一郎殿を見てるみたいだった」

 

 ソーマさんに促されて一色先輩もわたくしのことを持ち上げてくれます。

 こちらの世界では彼は第二席なんですね……。同じに見えても違うところもあるのでびっくりします。

 というか、あまり持ち上げてられても困るのですが……。

 

「才波様のセンス? そこまでの子なの? 何か覇気がなくて頼りない感じだけど」

「えりな様の仰るとおりだ。こんな中途半端な時期に転入なんて、それこそ十傑に入るくらいの実力がなくては無理だろう」

 

「……す、すみません。わたくしは本当に良いので……」

 

 えりなさんに続いて緋沙子さんもそんな特例は認められないというスタンスでしたので、わたくしもわがままは言えないと引き下がろうとしました。

 

「謝るなって。薙切、だったらテストしてやってくんねーかな? こいつの料理を食べて無理って言うなら俺も諦めて別のヤツを選ぶからさ」

 

「テスト? それが終わったら大人しく従うのね? いいでしょう。そこまで言うなら試食して差し上げます。テーマは、そうね……幸平くんの編入試験と同じ卵料理なんてどうかしら? 私が美味しいと言えば合格にしましょう。彼女の転入を認めます」

 

「ふぇっ? 本当に良いんですか? この時期に学園に入っても!?」

 

 ソーマさんがテストを提案すると驚いたことにえりなさんはそれに乗ってくれます。

 彼女が美味しいと言えば転入を認めてくれると仰ったので、わたくしは驚いてしまいました。

 

「貴様! 何をもう合格した気になっている!? 口を慎め! えりな様が美味しいと言うのはだな――」

 

「は、はい。すみません! ()()()()()!」

 

 わたくしがえりなさんの試験をお手軽だと感じているような反応をしてしまったので、緋沙子さんは怒ってしまいました。

 最近はよく美味しいと言ってくれるようになりましたので、えりなさんが基本的に辛口なことを忘れてしまっていましたわ……。

 

「ん? なぜ、貴様。初対面の私の名前を知っているのだ?」

 

「あっ? いえ、そのう……」

 

「お、俺が話したんだよ。薙切の秘書で怒ってばっかりいる奴がいるから注意しろって」

 

 さらに初対面の緋沙子さんの名前を言ってしまうミスをしてしまうも、ソーマさんに助けてもらいます。

 いや、それは緋沙子さんに失礼なんじゃ……。

 

「誰が怒ってばかりいるって〜〜っ!? はっ――ま、まぁいい。とにかくだ。えりな様の試験は厳しいのだ。編入試験は幸平創真しか受かってないのだからな」

 

「受けたの俺だけじゃん」

 

「えっと、ところでえりなさん……、じゃなくて、薙切総帥……。試験はここでやりますの?」

 

 しかし、試験が受けられることは嬉しいですが、問題があります。

 それはえりなさんの体質です。というのも、BLUEが終わって以来、彼女は薙切の血に目覚めたのか“おさずけ”や“おはじけ”を毎回わたくしの品を食べると起こすようになり、勝負する場所に困ったりしていたのです。

 

「そのつもりよ。何か不都合でも?」

 

「いえ、そのう。では、バスタオルか着替えを用意された方がよろしいかと」

 

「はぁ?」

 

「ですから、薙切総帥が私の料理を召し上がると、ええーっと、皆さんの衣服が……」

 

 わたくしは皆さんの衣服とか下手をすれば寮の建物自体に被害が出ることを懸念しました。

 見学される方は前もって準備したほうがよろしいのです。

 

「ソアラさん、まさか薙切さんが試食すると“おさずけ”が起こるって言いたいの?」

 

「「――っ!?」」

 

「な、何てことを……宣言してるのだ、貴様は!」

 

「さすがにソアラっち、それは言い過ぎだよ〜。えりなっちが簡単に“おさずけ”なんか――」

 

 恵さんがわたくしの申し上げたいことをストレートに述べますと皆さんがギョッとした顔をされます。

 これは、予告ホームランみたいなことを言ってしまったみたいな雰囲気ですね。言わない方が良かったのでしょうか……。

 

「ふっ、ふふっ……、幸平くんすらそんな事は言ったことないわよ。見た目や態度とは裏腹にかなり自信過剰な子なのね。そこまで言って失望させたら、承知しないわよ」

 

「……やっぱりダメかもしれません」

 

 えりなさんに久しぶりに怖い顔で睨まれて、わたくしは急に自信がなくなりました。

 こちらの世界でも彼女は気高くて凛としていて――そして美しい。

 失望だけはさせるわけにいきません。で、でも怖いです……。

 

「引き下がるの早っ!」

「自信があるんだか、無いんだかわかんねーヤツだな」

 

「幸平くん。ソアラさん、大丈夫かな? あれ? ど、どこ行くの?」

 

「いや、着替え取ってこようと思って。あと、バスタオルも。田所も用意しとけば」

 

 

 こうしてわたくしはあの日のように卵料理でえりなさんのテストを受けることとなりました。

 

 

 

 

 

 

「な、何だ、あの調理は!? 洗練されていて鮮烈――そしてあのスピード……!」

 

「スパイスの扱い方は葉山くんを思わせる。それに、素材を優しく愛でるように丁重に扱う、あの技術は……」

 

「つ、司先輩? あれじゃ、まるで才波朝陽さんのクロスナイブズ……」

 

「いや、違うぜ。田所……あいつのすげぇ所は全部自分のモンにしちまってることだ。器用だよなー」

 

「その上、さっきまでよりも更に真剣な表情だ。皿に込める熱量も違うように思える」

 

「本気じゃなかったってことですか?」

 

「うーん。というより、薙切くんに食べさせることに何か特別な意味があるように思えるよ。だから、多分見られるんじゃないかな? ソアラちゃんの必殺料理(スペシャリテ)

 

「ソアラさんって、薙切さんとどういう関係だったんだろう?」

 

「あいつの必殺料理(スペシャリテ)か。後で食ってみてーな」

 

 えりなさんに出すのなら、最高の一皿を――わたくしのすべてを込めて品を作ります。

 彼女に美味しいと仰ってもらうことがわたくしの悲願でした――今、隣を歩けるようになって幸せです。

 だから、今日初めて会うあなたにもわたくしの気持ちを伝えさせてもらいます……。

 

 

 

 

 

「“Soufflé pour la reine〜女王のためのスフレオムレツ〜”改ですわ!」

 

「まさかのフランス料理!?」

 

「定食屋の子じゃなかったの?」

 

「きれいな料理。やっぱりえりなっちと似てる」

 

 わたくしが出した料理はBLUEの決勝戦で作った品を改良したものです。

 これはえりなさんの為に創り出した、わたくしの必殺料理(スペシャリテ)と言ってもよい品であり、最も自信のあるメニュー。

 このメニューでえりなさんのテストに挑みます。

 

「――見た目は悪くないわね。幸平くんみたいな大衆料理が出るかと思ったけど。味は――」

 

「えりな様が“おさずけ”や“おはだけ”を発動させると大仰なことを抜かしたのだ。それなりの味でないと、時間を割いて下さったえりな様に申し訳立たんぞ」

 

「おっ、食べたぞ」

「どうなんだ? 美味いのか? それとも……」

「な、何で無言なの?」

 

 えりなさんがわたくしの品に口を召し上がりました。

 だ、大丈夫ですかね……。こちらの世界のえりなさんがどんな感じなのかわかりませんので一抹の不安があります。

 

 

「…………んっ、んんんっ……、んんっ……!? し、信じられない。こ、こんなことって……。はむっ……、んあっ……、だ、ダメっ……、止まらないわ……、んんんっ……!」

 

「うおっ!」

「きゃっ! “おさずけ”パルス!?」

「いや、これは“おはじけ”と“おさずけ”が同時に起こったんだ! BLUEで薙切真凪が見せたように!」

 

 やっぱり、寮の皆さんの衣服が四散してはじけ飛んでしまいました。

 さらにガシャンという大きな音が響き渡ります。

 

「ま、窓ガラスが弾け飛んだ!」

「幸平のメニューを食べたときに見せた、建物がはだけるってやつ? ソアラっちの料理、どれだけなの!?」

 

「はぁ……、はぁ……、あ、あなた何者なの……?」

 

「え、えりなさん……?」

 

 えりなさんは息を切らせながらわたくしのことを睨まれました。わたくしの料理……なにか変なところがありましたかね……。

 

「えりな様! だ、大丈夫ですか? すごい汗ですが……!」

 

「ソアラさんの料理を食べただけで、なんであんなに?」

 

「……わ、わからない。どうしたら、こんな味を作ることが出来るのか……」

 

 彼女はこの品についてわからないことがあるみたいです。

 特に珍しい食材は使っていないのですし、わたくしの知っているえりなさんはそんなことを仰らなかったのですが……。

 

「“神の舌”を持つ薙切がわからねぇって、どういうことだ?」

 

()()()()()()()。材料もその配分も調理方法も全部わかるわ。でも……、この品は明らかに私の中の正解を100パーセント突いた上で、さらに工夫を重ねて……その上を行っている。この品に点数を付けるなら120点……!」

 

 えりなさんはわたくしの品を高く評価してくれました。

 確かにこの品はえりなさんの好みを把握した上で、工夫に工夫を重ねた品です。

 彼女に美味しいと言ってもらうためにわたくしの全てを詰め込んでいます。

 

「え、えりな様? そ、それは評価しすぎでは?」

 

「薙切くんから100点満点だって取るのは至難なのに、それを超えるって――どうやら想像以上の子のようだね。ソアラちゃんは」

 

「へへっ……、世界に出ようと思ってたけどさ。こんな楽しいヤツが来るなんて思ってもいなかった」

 

「幸平創愛……あなたは私を知っている。なぜか知らないけど……“神の舌”を知り尽くしていないと、こんな芸当は出来るはずがないわ。どういうことなのか、説明してほしいんだけど」

 

「そ、それは……」

 

 えりなさんはわたくしの品は“神の舌”を知り尽くしていないと出来ないと言及されました。

 よく考えたら、彼女との出会いこそがこの品を形成する一番の要因です。

 今日、えりなさんと出会ったばかりのわたくしが創り出せるはずがないと思われても仕方ありません。

 

「薙切、そんなことより、こいつの転入は許可するんだろ? ウチの寮のガラスまで割って美味くねーとか言わねぇだろうし」

 

「わ、わかってるわよ。幸平創愛さんの転入を許可します。だけど、当分の間は食戟は禁止。十傑にもさせません。無用の混乱を招くことになるでしょうから。あと、秘密にしてることを私には話すこと――」

 

「ひ、秘密ですか?」

 

 えりなさんはわたくしに秘密があることを舌だけで見抜きました。

 やはりこの方は聡明です。転入は認められましたが、彼女には話した方が良いと思いました。

 

「この品はぶっつけ本番で作れるはずがないわ。あなたの料理センスが凄いのはわかるけど……それだけじゃ出来ない。どうやって作ったのか、納得出来るように説明して欲しいの」

 

「わ、わかりました。必ずお話します。で、出来れば薙切総帥にだけ話したいのですが……」

 

「人に言えないようなことなの? まぁいいわ」

 

 わたくしはえりなさんにこっちの世界に来た経緯を話すことを決めました。

 信じてもらえるかわかりませんが、彼女には知ってもらいたいと思ったからです。

 

「おいおい、大丈夫なのか?」

 

「ええ。彼女には知ってほしいと思ってましたから……」

 

「じゃあ、今からソアラちゃんの転入を祝してパーティーを始めよう!」

 

 こうしてわたくしはえりなさんの二度目のテストを突破して、こちらの世界の遠月学園にも入学することになりました。

 極星寮の一部屋を間借りして元の世界に帰ることが出来るまでお世話になります。

 本当にどうやって帰ればよいのでしょうか……。目が覚めたら戻っていたなんてことがあれば良いのですが……。

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 翌日、えりなさんにすべてを打ち明けました。

 別の世界から来たということを出来るだけ詳しく。一色さんの仰っていたことを交えて……。

 

 話を聞き終えた彼女は渋い顔をされています。

 

「もう一人の幸平くん? もう一つの世界から来た? あなた、私を馬鹿にしてるの?」

 

「信じられませんよね。当然です。……でも、信じて欲しかったのです。――えりなさんにだけは……」

 

 やはりこんな現実離れした話は信じてもらえませんでした。

 もしかしたら――と思ってしまっていましたので、少しだけ涙が出てしまいます。

 

「――っ!? ば、馬鹿にはしてないみたいね。だからあそこまでの品を作れたと言うの?」

 

「はい。わたくしの居た遠月学園では、えりなさんと毎日のように料理で勝負をしていました。ら、ライバルだったのです」

 

「もう一人の私とあなたがライバル。その実力ならあり得なくもない話ね」

 

 彼女はわたくしがえりなさんのライバルになり得る実力があることは認めてくれました。

 ずっと切磋琢磨して――その結果として昨日の品を創り出すことができたので、何とか信じてほしいです。

 

「昨日の品はBLUEの決勝戦で作りました。えりなさんに美味しいと仰ってもらうために……」

 

「私に美味しいと……。あなたも幸平くんと同じようなことを言うのね……。それで、あの品が作れた……か。――ダメ……、やっぱり信じられないわ」

 

「そ、そんな。お願いします。信じてください」

 

「ちょ、ちょっと離れなさい! そんな変な話信じるはずないでしょ!」

 

「きゃっ!」

 

 わたくしは溜まらなくなってしまい、えりなさんの肩をつい、掴んでしまいました。

 すると、彼女は反射的にわたくしを突き飛ばされます。

 その拍子にわたくしは手に持っていた()()()()()を落としてしまいました。

 

「あ、ごめん。大丈夫? あら、これはお守り? な、中から卵の殻?」

 

「ご、ごめんなさい! すぐに片付けます!」

 

 わたくしが落としたのは手製のお守りです。中には小さくジップロックされた卵の殻が入っています。

 

「どうして卵の殻なんかをそんなに大切にしてるのかしら?」

 

「えっ、ええーっと、父から“出会うことが宝”だと教えてもらったのです。わたくしは色々な方と出会って成長できました」

 

「そう。いい言葉ね。私も良い友人に恵まれたと思っているわ。でも、それと卵の殻が何の関係があるの?」

 

「これは編入試験のときの卵料理で使った卵の殻です」

 

「――えっ!?」

 

 わたくしは遠月に初めて来た日――えりなさんの編入試験の日に使った卵の殻を保存してお守りの中に入れていました。

 

「わたくしにとって、えりなさんとの出会いは一番大事な宝物です。だから、出会った日の思い出をいつまでも大事にしたかった――。ごめんなさい。これでは、ますます変な人ですね」

 

 えりなさんの事が好きすぎて――あの日が最も自分にとって大事な宝物のような気がしたので、わたくしは彼女と交際を開始したその日にこのお守りを作ってずっと持ち歩いていたのです。

 

「――し、信じるわ」

 

「えっ?」

 

「そんなに人のことを大事に想える人が嘘なんかつくはずないもの。ちょっと羨ましいわ。もう一人の私が……」

  

 えりなさんはわたくしの言うことを信じると仰ってくれました。

 気持ちが通じた――そんな気がしましたので嬉しかったです。

 

「え、えりなさん! ありがとうございます!」

 

「ちょ、ちょっと離れなさいよ。でも何でだろう……。妙に心地がいいのは……」

 

 わたくしは気付いたら彼女を思いきり抱き締めていました。

 ご、ごめんなさい。あの、いつものように接してしまって……。これは浮気になるのでしょうか……?

 

 もう一つの遠月学園での生活が始まりました――。

 

 




がっつり長編みたいな感じになってしまいました。
次回辺りから、テンポをよくしたいです。
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