少女のつくり方 〜艦隊これくしょん〜 作:山田太郎
軍国主義の教育が禁止になるのは別に構わないが、厭戦教育が強烈に刷り込まれたのはいかがなものか。
「戦争反対!」は人類が全員で望むものであるが、それと「戦争放棄」は別の話。防衛戦争だって戦争だ。
そして、戦争反対派の逆は「戦争賛成派」ではないことを知ってもらいたい。
と、重苦しい感じで始まる今回の話は、なかったらなかったままでも少女のつくり方を読んでくださってる読者のみなさまなら補完してなんとかするだろう。と思われるお話。
書いてあるから一応投稿しておくか……といった内容。
前回の強盗よりカナリ後で、そして艦娘が出てこな〜い。
ついでに信長公戦記 〜提督へ〜の2話を投稿しました。
https://syosetu.org/novel/214004/
──南遣艦隊を編成する。お前は司令長官として任に就け。
南方で変わらずの生活を送っていたはずだ。
久方ぶりに内地へと戻るとまたこれか、いい加減ジジイの戯言にも慣れて……慣れるか。
「南遣艦隊?」
まずその単語に聞き覚えがある。
それって前の戦争のときにもあったやつだよなと、記憶のサルベージをしていると後ろから変な空気を感じた。
うぉ、驚かすな。
振り向くと俺以外のみんなが俺以上に驚いているじゃねぇか。
驚愕っぷりは謎だが、前の戦争時の話なら当事者に聞くのが一番手っ取り早かろうと、艦娘相手にのみ許される裏技を駆使するため近くにいた伊勢に小声で尋ねる。
「南遣艦隊って帝国海軍だよな」
「ええ、司令長官は小澤さんがやっていたわ」
「小澤、小澤……」
うん、小澤? その人って確か──。
「レイテ沖では私たちの司令長官を、後に最後の連合艦隊司令長官になった山本五十六長官の後継者よ」
ぶっ、と、つい吹き出した俺を誰が責められるものか。
なぜならその小澤って人物のことはよく知っているのだ、戦史の教科書に出てくるから……。
「小澤治三郎海軍中将か!?」
なんてもんにさせようとしてんだ、やれるわけねぇだろ。っていうより長官だ? いい加減寝言は寝てから言う癖をつけろ、長官になれるのは中将からだ。戯言よりもひでぇよ。
「落ち着け、なにも過去の大戦のままにやれとは言ってない。それはそれだ」
「どういうことだよ」
鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしている俺たちを見てジジイが言う。
鳩に豆鉄砲を食らわせたところでアイツらの顔が変わるとは思えないが、ホントはそんなに驚いた様を表す表現じゃないのか? なんてちょっとした現実逃避をしている俺を宥めているかのようで、それはそれで頭にきたりもする。
「お前はすでに南方で艦隊を運用してるじゃないか、南遣艦隊とどう違う」
「いや、違うだろ。俺の指揮権が及ぶのはウチの基地内だけだよ」
確かにリンガ周辺の基地とは連携が取れている。見事に策謀がハマったおかげで、階級の割には主導権を完全に握っていると言ってもいい。それだって俺の力と言うより、リンガの艦娘たちの実力に裏付けされた成果だ。
「南西海域にある基地とは相互に協力関係を結んでるんだろう? 似たようなものだ」
「階級はどうすんだよ、大層な名前の艦隊で指揮権は長官だろ? 足らねぇよ」
役割としては似たようなもんだって話には、まぁ2000歩くらい譲れば納得できる。
しかし階級ばかりはどうしようもない。大手チェーンのエリアマネージャーを入社5年目の主任に任せるようなものだ。まずは店長をやらせてやれ。
「おめでとう准将。無事に昇進だ」
「准将だぁ? 生憎とこの国にそんな階級はねぇ」
もう聞き飽きたよそのくだり。いい加減に軍隊らしいまともな話を持ってこい。
どこの世界にこんな若造の将官がいるのか、そんな昇進、戦中の皇族だってやってねぇ。
それは取材不足の知識不足、そんな奴が自己満で書くなんちゃってミリタリーのフィクションにしか存在しないものだ。
チェーン店でわかりにくいなら教員でもう一度喩えてやろう。新米教員をそろそろ卒業した、まだ人生経験豊富と言えない奴が青いままに文科省に入省していきなりスターダムにのし上がり、そして代表を務めるようなものだ。
省庁に現場から上がれるかどうかは知らないが、俺が今から将官だ。と言われるよりはまだ可能性がありそうな話である。
なぜなら俺は年齢も実役停年も足りておらず、すでに今の段階でありえない階級にいる。さらに、この国には過去一度たりとも准将なんて階級が設定されたことねぇんだよ。
「戦時特例だ。特例ってのは本来こう使うべきものだからな」
相も変わらず力技。言っておくが、准将でも長官は無理だぞ。あぁ、それも特例ね、分かってる分かってる。分かるかそんなもん。
ジジイの無茶っぷりはいつものことだ。
果たしてそれをどうやって海軍内で通しているのか、謎は尽きない。
しかしそれよりもだ、問いただしておきたい疑問がある。
「なにを焦ってるんだ。懸念でもあるのか?」
現状、すでに俺の艦隊はうまく回っている。
リンガの運ぶ物資で内地はかつてないほど潤っているし、近々内地に戻る加藤基地司令官に代わり、ラバウルに着任する準備も万端。南方海域での存在感も十分に示せているのだ。
南方でますますの戦果を上げること秒読みな俺を南遣艦隊司令長官なんて大層なものに押し上げる必要が、今あるとは思えない。
「政府の支持率が限界だ。今の内閣はもう保たん」
「政治にまで首突っ込んでんのか」
「当たり前だ、現代社会で世論を無視した戦争行動などできん。現政権は戦争に勝つことで国が豊かになると説いた。お前の活躍はいいカンフル剤になったからそれなりに優遇もできたが」
なーるほど、今までゴリ押ししてきた俺の超速昇任は政府の後ろ盾あってこそってことか。
当時と違い、文民統制の今の時代で軍の最高指揮権を持つのは内閣総理大臣だ。
名前ばかりでさほどの権力を持っていなかった大戦時の首相ではなく、内政のトップを務める現代の首相からのトップダウンなら軍内の小言程度なら粉砕もできたのだろう。
人類の存亡が懸かる今の世の中ならなおさらか?
ゴリ押しには違いないが、やってやれないゴリ押しではなかったわけだ。
「次はそうじゃないと?」
「保守派が倒れれば急進派。戦争に対する積極派が倒れれば次は慎重論にもなる。軍隊を動かすには金も資源も食うからな」
おっと、人類の存亡を懸けた戦争の最中でも、人種のやることはあまり変わらないらしい。
これが現代社会の肥大した民意ってやつか。ままならんことで、心中をお察しくらいはしてやろう。
「お前の昇進もこれが最後になる」
なにが最後になるだ、十分すぎるだろうが。
……それが、俺を守る盾になると、そう思ったのか。
重くて動きづらいったらないが、必要ではあったのかもしれないな。コイツがそこまでしてきたんだから、きっとそうなのだろう。
「なにか考えがありそうだな」
新しく仕入れた情報を反芻しているとジジイがそう問い掛けてきた。
考えといえば、それはあるにはある。
今聞いて、今考えただけのことなのでザックリとしたものだが、今後の不幸な未来を全力で防ぐなら結局これしかないだろう。
「なくはないが、少々強引で無茶な方法になる」
「お前の考えることはいつもそうだ、話せ」
「一つ確認しておきたい、現政権は
「ああ、政治家にしては珍しく本気で国を考えている骨のあるやつだ」
まぁーたおかしなことを言う。
わからんでもないが、政治家はアレでちゃんと国のことを考えているのだと、自信を持って言えないものなのか。
疑問はその場で訊くに限る。
「政治家が国のことを考えるのは当たり前じゃないのか?」
「いつ頃からだろうな。そんな当たり前をする政治家がいなくなってしまったのは」
どこか遠い目をしたジジイが言う。
訊いた手前ちゃんと耳にしてやるが、ろくでもない昔話じゃあるまいな。
「明治維新がうまくいきすぎたのか、そう見せるための努力が過剰だったのか。結局その“もう一度”という妄執から逃れられずに昭和維新は失敗した。その結果があの戦争だ。時雨ちゃんたちには多大な迷惑をかけてしまったな」
「そんな、僕たちは──」
「いや、アレは避けられた悲劇だったよ。軍人の私が言うのもおかしな話だがな」
「それでも、君たちの戦いは無駄ではなかった。それを繋いだ戦後の政治家たちもよくやってくれたのだろう。戦争には負けたが戦後処理には勝ったのだ。もう一度やれと言われても真似できぬほどに、ほぼ理想の形で最高の敗戦国となった」
そう言ってから一息吐き、ジジイがこんなことを言った。
「政治家はいなくなり、政治屋ばかりになったと言ったのは誰だったかな」
「くだらねぇよ」
「そんなのはただの甘えだろう? 政治家は国民の能力を写す鏡だ、政治家の能力が低いならそれは国民の責任だろうが」
この国は民主国家だ。選挙で政治家が選ばれる世界で、それが民意に沿ってないなどとどの口で言える。
囀るのは勝手だが、他人のせいばかりにして生きていこうとする平和ボケした国民に似合った政治家なのだろうと思う。
政治家を無能と罵る国民こそが無能なのだと、いったいいつになれば気付くのか。
「平和の代償と言うやつだ。対岸から大声を出すだけで、しかし自分たちは当事者ではないと言う。だが戦後の政治家たちは、そんな日本こそを望んでいたのだろう。責められんよ、この国は平和を手に入れたのだ」
ジジイはそう言った。
俺よりも長く生きてきて、多くの経験をしてきたからなのか、平和に対する思いのようなものが少し俺とは違うようだ。
戦争の渦中に身を置きながらも、今も変わらずボケたまま。そんな国民が蔓延ることのできる国家。それこそを、激動の昭和を治めてきた政治家たちが望んだ日本なのだと、そう言うのか。
「過去の話だ、いつまでもそんなつもりでいるのなら、戦争など継続できるはずがない」
すでに平和な時代なんてものは終わっているのだ。
国内を満たすだけの配給が追いつかない今の生活を続けるようなら破綻は目前。
国家総動員とは言わないが、戦争中なら戦争中らしい生活がある。そろそろまともな戦時体制を築けなければ戦いに勝っても戦争に負ける。
戦争は銃後でも戦わねばならないのだ。
ただ、その戦い方は軍人のそれではない。
この国の基礎教育は概ね成功しているはずだが、こと戦争に限れば大間違いばかりだ。
『戦争は国家間の政治的手段の一つに過ぎない』
銃後でも戦うと言ったばかりだが、本当の意味ではそれも違う。利権に端を発する戦争では、軍人だけが戦うのだ。およそ戦争とは、国民に関係のないところで行われるものなのだから。
たった2つだけ過去に例外があり、偶然にもその例外に日本は負けた。
それが世界大戦と呼ばれるものだ。
幾度も戦争を繰り返し、常勝不敗だった我が国が一度だけ負けた戦争。それがなんの因果かよりにもよっての超規模総力戦だったことは笑えない。
おかげで妙なアレルギーを発症しているのか、この国は戦争に対して異常に反応するように思う。
基礎教育はされているんだ、ならちょっと考えればわかるはず。
国力をすり潰してまで手に入れたい利権なんてものはない。釣り合いが取れない戦争などバカがするもので、そして概ね世界はそこまでのバカではない。
バカだバカだと言われる当時の日本を動かした男たちですら、俺たちよりよほど真剣に国を考えた上での結果がアレであるはずなのだ。
此度の戦争はあの時と同じくまたも例外だ。
知ってのとおり敵は深海棲艦なる未知の生物。彼らが国家の体を成しているだなんて過分にして聞いたこともなければ、仮にあったとしてもソレを人類は国家とは認めない。
つまり国家間の政治的手段に収まっていないこの戦争は既存の枠を超えていく。
役にも立たぬ兵など不要であるから、もちろん今さら徴兵などとは言わない。国民皆兵などもってのほかである。
それらは“通常の戦争”でさえ邪魔以外の何者でもないのだ。高度に洗練された現代戦に素人の出る幕などないのだから。
過去、軍事アレルギーを発祥しているこの国では軍備に関わる法の改正が何度も望まれ、そして失敗したらしい。
世論などという顔の見えない無責任な発言者は、法整備が整えばやれ戦争が始まるだの徴兵で男を取られるだの大声を張り上げたのだそうだ。
お前らは日本人を戦闘民族か何かだとでも思っているのか? と、俺が当時を生きていたなら言ってやりたい。
誤解を恐れず言うならば、当時から日本は世界の超大国だ。戦争をしてまで欲しい利権など近隣諸国には存在しない。
なぜ世界で3本の指に入るような、豪邸に住むお金持ちが公園の段ボールハウスを襲うと思ったのだろうか。
また、当時の戦争は今よりもっと真っ当な現代戦だった。
お前の夫や息子は徴兵されればすぐに先端技術の詰まった兵器を扱えるほどに優秀なのかとも合わせて問いたい。軍属になったところで倉庫の荷物運びくらいにしか使いどころがないとは思わなかったのか。
徴兵が現実のものとなる戦争なら、それは国家の存亡をかけた末期の総力戦だ。
誰だって戦争など行きたくはないが、そのような状況なら家族と国を守るために戦うくらいはやればいい。
しかし、対深海棲艦戦である今回は違うのだ。
戦うのは軍人と、そして艦娘がやればいい。
国民の仕事は経済活動を継続しつつ、前線に無駄な配慮をさせないよう弁えること。本当の意味での彼らの戦いは戦後に始まる。
ジジイにはジジイの言い分があるように、俺たち若い世代には若い世代の考えと責任がある。今後のこの国を作るのは俺たちなのだ。
必要なのは自覚。足りないのは危機感だ。
「この国の国民は、あるいは逆境でこそ真価を発揮するのかもしれんな。現政権は今の状況をよくわかっていた、それ故に惜しいことだが」
「次に続かないんだろ?」
「残念ながらな。国民の多くは戦争中の今でさえ、まだ他人事だと感じている。議席の維持もままならんだろう」
俺たちが為さねばならないのは一つだけ。
戦争に勝つことだ。
そのために必要であれば、手段を問わずやれるだけを行うべきだろう。
『目的のために手段を選ぶな』とマキャベリも君主論で説いているし、かの世界大帝国では『恋愛と戦争ではあらゆる戦術が許される』と、妹がたくさんいる米駆逐艦とは関係ないほうの彼も言っているではないか。
「ならば、叩いて目を覚まさせてやればいいだけだ」
開戦時の首相だったからって妙に叩かれている気がする東条英機氏。
彼が就任したときにはすでに秒読みだったんだけど……。
だいたい近衛さんと松岡さんと石原さんががが。
就任前の東条は陸軍大臣でゴリゴリの開戦派だったので、そこは責めてもいいかもしれないが、首相になってからの彼は陛下の考えに寄り添い戦争回避に全力投球よ。
大日本帝国憲法での総理大臣なんて他の大臣と変わらないくらいの権力だし、彼ばかりに悪役を押し付けるのはいかがなものか。
後に彼が2つも3つも役職を兼任したのは、ちゃんと戦争をするためだったりする。憲兵政治や行いをよろしいと言うわけではなく、関係ないことで叩かれすぎって言いたいだけよ。
言っても敗軍の将は叩かれるものだし……。
と、本編も後書きも臭い感じの今回でした!