「──果林ちゃーん、朝だよ起きて〜」
「んんー……あと五分だけ寝かせて……」
「その五分待ったんだよ〜」
「そんなの私が認めないわ……」
「はいはい、起き上がってね〜。パジャマ脱いで、制服に着替えるよ〜」
「んん〜……」
「寮の美味しい朝ごはんが無くなっちゃうよ〜」
「それは困るわ……。朝にフルーツでビタミン摂るのが、美容に一番なのよ……」
「靴下履かせるね〜」
「──毎朝悪いわね、エマ」
「気にしなくていいよ〜。私がお世話したくてやってるだけなんだから。スイスの妹達の事思い出しちゃうんだ〜」
「……私で哀愁感じられてもね」
「──おや〜? 果林ちゃんにエマちゃん、おはよ〜。今日も一緒に登校だねぇ」
「あら彼方、おはよう」
「おはよう、彼方ちゃん」
「エマちゃん、今日は誕生日だ〜。おめでと〜」
「…………!」
「わ、覚えててくれたの? 彼方ちゃんありがとう〜」
「いつも膝枕してもらってるし、特別に彼方ちゃんイチオシのお昼寝スポットを教えてあげちゃうのだ〜」
「一番にお祝いしてもらえて嬉しいよ〜」
「ん……? 一番……? 彼方ちゃん、一番最初だったの?」
「そうだよ?」
「え、エマ……その……」
「果林ちゃん、さっきからずっと一緒にいたじゃん?」
「うん、今日も起こしてあげたよ」
「じゃあ起きた瞬間から一緒だ。……もしかして果林ちゃん、誕生日の事忘れてたの? 同好会の仲間だよ〜?」
「ち、違うのよ。ホラ、私って朝弱いでしょう? だからいつも通りの日常でついうっかりしてたっていうか……」
「やっぱり忘れてたんじゃん」
「うう……ごめんね、エマ」
「気にしないで、果林ちゃん。ちゃんと気持ちは伝わってるし、お祝いしてくれた順番も関係ないよ。だから、ありがとう果林ちゃん!」
「エマ……」
「エマちゃんの包容力は、やっぱり彼方ちゃんが最高に眠くなる威力を秘めてる気がするー。ぐぅ……」
「わ、彼方ちゃん通路で寝たら危ないよ。教室までもうちょっと頑張ろ?」
「……そ、そうよね、今日はエマが主役なんだし、今からでもちゃんとエマの為に動かないと!」
「果林ちゃん?」
「意気込んでるけど、どしたの? 空回りして、また迷子になったりしないでよー?」
「エマ! 改めて言わせてもらうわね。お誕生日おめでとう!」
「うん、ありがとうだよ〜」
「それでね、やっぱりエマも自分の為に時間を使うべきだと思うのよ。だからこれを機に、私も自分一人で起きられるよう努力してみる。だからもう、エマの助けは」
「いらないの?」
「……うぇ?」
「果林ちゃん、もう、私にお世話させてくれないの?」
「え? いや、でも、エマもスクールアイドルとして自分を磨く為の時間だって必要でしょう?」
「私、果林ちゃんのお世話に生きがい感じてるんだよ……?」
「そ、そこまで言ってたかしら……」
「果林ちゃんのお世話ができなくなったら、私……明日から何を楽しみにすればいいの?」
「エマは何しに日本まで来たのよ……」
「果林ちゃん、私、今日誕生日なんだよ……? お願い、聞いてくれないの……?」
「う……どうして逆転してるのかしら……」
「果林ちゃぁん……」
「わ、分かった、分かったから! そうやって覗き込むのは反則よ。……エマの好きにすればいいわ」
「わあ……! ありがとう果林ちゃん!」
「はぁ……私もまだまだね」
「果林ちゃんのお世話から始まって、今日もいい天気になりそうだね〜」
「私で天気予報しないでよ」
「──やれやれ。今日も平和で、絶好のお昼寝日和〜。授業の時間まで、彼方ちゃんはゆっくりお休みするのだ〜」