もこたん→青ニート←その他大勢   作:へか帝

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書いてみるまで登場人物がどんな動きをするのかわからなくて戦々恐々なんですが、青ニートくんはいつでもばっちり振り回されてくれるので安心です


復讐の方法

「取り乱したわ」

 

 翌朝。

 上品な屋敷の片隅で鍛冶道具を広げ、ひん曲がったタワーシールドを修復しているところに輝夜は何食わぬ顔でやってきた。

 

「あれを取り乱したの一言で取り繕うのには、無理があると思うが」

 

 仕事の手を止めずに声だけ返す。

 今の輝夜は気品と優美の雰囲気を漂わせており、昨夜の幽鬼のような異様は見る影もない。

 まるで別人のような調子だが、昨夜と変わらぬ美しさが同一人物であると保証している。

 いっそ二重人格か何かであったほうが俺としては納得しやすくて助かるんだがね。

 

「間が悪かったのよ」

「だろうな。おかげで俺の盾がお釈迦になった」

「虫の居所も悪かったわね」 

「そうかよ。まあ、お前がそんな調子ならいい。再会するなりまた襲われるよかマシだろうさ」

 

 タワーシールドは大型の金属盾だ。文字通りの鉄壁の防御は、その取り回しの悪さと重量に見合う能力を持っている。

 愛用のヒーターシールドなんか薄くて小ぶりだから多少の変形はままあることだが、タワーシールドのような大盾がこうも変形するなど滅多にない。

 それこそ、竜やデーモンとの闘いぐらいのものだ。それをこのか細い姫様がぶん殴ってひん曲げたというのだから恐ろしい。

 物理的な攻撃に無類の耐性をもつタワーシールドだ、重装の騎士と打ち合ってももう少し軽微で済む。

 何者かは知らねえが、言い逃れのしようも無く人間離れしている。これで不老不死だというのだからかなわない。

 

 そんな人間離れした不死の姫は、なんの気兼ねも無く俺の隣に優雅な所作で腰を下ろした。

 

「殺したいほど憎んでいる相手が、殺しても死なない。ひどい不条理だとは思わないかしら?」

「ハァ……不死者なんざ、誰にとっても不条理の塊だろ」

「そうかも」

 

 気の抜けた調子の同意だ。俺は"誰にとっても"と言ったが、最も不条理に晒されているのが不死者当人だということくらい、こいつだってわかっているだろう。

 不死なるものが、いかに無慈悲で理不尽なのかなんて、身をもって知っているはずだ。

 しかもまともな不死じゃねえ。このまともってのは、性格を指す。

 昨夜、俺はヒートアップした不死者同士の殺し合いに望まずして巻き込まれた。

 俺の損害は軽微なもので、装備が痛んだ程度。怪我に繋がるようなダメージも負わなかった。

 だが、何もなくて幸いだったとは到底言えない。

 なにせ妙な因縁を持ち込まれた。絶世の美女と縁が繋がったくらいじゃ、はしゃげないね。

 美人とお近づきになれたからなんだってんだ。俺の心はその程度じゃ潤いに程遠いね。

  

 だいたい昨日の夜の憤怒と憎悪に駆られた直情的な姿が、嘘や演技の産物であるはずがない。

 『私より先に妹紅と出会ったのが許せない』とか言っていたか? 知ったこっちゃない。

 俺にどうしろって言うんだよ。極論、存在を否定されたようなものだ。

 

「私がこの胸に掻き抱く感情は、本当は妹紅が私に向けるべきものだったのに」

「だったら棄てちまえ、そんなもの」

「それができたら苦労しないわ。これはきっと、私の生きる意味になってしまった。ねえ。憎悪が生きる意味じゃあ、少し不健全かしら?」

「ああ、そう思う。是非やめるべきだ」

「無理ね。不健全上等だわ」

「だったら初めから聞くな」

 

 不死が生きる意味など、元より存在しない。

 本人が何に意味を見出すか次第だ。使命とか、託された思いとか、まあ色々だ。そいつの好きにすりゃいい。

 憎悪や復讐も、まあいいだろう。でもその対象に選ばれるのだけは勘弁だった。

 しかも何が嫌かって、俺になんの非もねえ。今回に至っては本当に何もしてないのに難癖付けられている。

 ひょっとして、俺はこれから一生こんな訳のわからん理由でこいつに付き纏われるのか? 悪夢でしかない。

 

「昨日は一度殺さないと気が済まないなんて言ったけれど、一晩かけて考えてみたのよ。一体どうやって復讐してやろうかってね」

「もっと有益なことに時間を使えないのか?」

「これ以上ないほどに有益よ。 だってこれからの私の生き方に関わるんだもの」

 

 私も貴方も不死なのだから、尚更よね。輝夜は微笑みながらそう続けた。

 確かにそうなんだが、頷きたくはない。

 何考えてるかわからんやつだが、とにかく絵になる。まるで生きた美術品だ。

 同じ不死でも、この美しさが永久であることに価値があるようにさえ思えてしまう。

 不死に価値など、あるはずもないのだが。

 

「それで、結論は出たのかよ」

「候補は幾つか。でもせっかくだからあなたと相談して決めようかなって」

「何言ってんだお前」

 

 復讐の方法を復讐相手と相談して決める奴があるか。

 妹紅とはまた違ったベクトルで常識に囚われていない。姫だと聞いたが、上等な生まれのやつは皆そうなのか?

 こいつがおかしいだけであってほしいものだが。 

 

「1つ。私の美貌であなたを篭絡する」

 

 ぴんと指を立てて大真面目な顔で唱える輝夜に、俺は眉を顰めるのを隠そうともしなかった。

 

「復讐になるのか、それは」

「微妙ね。復讐としては今のあなたの嫌そうな顔が最大瞬間風速じゃないかしら」

 

 馬鹿なことを考える。

 それこそ美貌の無駄使いというやつじゃないか。復讐で腐った木の根のような男に気を寄せるなんざ。

 しかし俺がこれほどまでに美しい女から本気で言い寄られて、最後まで突き放すことは出来るだろうか。

 はっきり言って今の俺には毛ほども興味がない。美しい女を従え、支配し自分の物としてやりたいという欲望が見つからない。

 だが、この輝夜という世を絶するほどの美人であれば、ひょっとして俺は狂ってしまうのではないか。

 そんな可能性を疑ってしまうほどには、美しいのがこの輝夜という人物だった。

 

「最終的に私はあなたと本気で愛し合って、妹紅が私への嫉妬で狂うのが理想よ」

「そりゃまた障害の多そうな理想だ」

「でも完遂したら私にとって考え得る限り最善の状況になるわよ? 私は一生愛を育み合える番いを得て、しかも妹紅まで私に首ったけになってくれるんだもの」

 

 そう聞けば確かによくできている……のか?

 復讐の相手と添い遂げるという逆転の発想だが、確かに上手くことが運べば輝夜にとって都合の良い状況にはなる。

 なるんだが、お前それでいいのかという気分になってくる。

 妙案というか、奇策というかなんというか。

 

「貴方にとっても悪い話ではないでしょ? 死ぬほど美しい女に言い寄られるんだし」

「よく言うぜ」

「あなたがそんな調子じゃ困るのよ。時の帝さえ魅了した姫なんだから、もっとメロメロになってもらわなくちゃあ」

「んな事言われてもなあ」

 

 結局、俺の輝夜への感想は『怖いくらい美しい』止まりだ。

 人によってはその美しさのみで狂わせてしまうほどには、彼女は美しい。

 彼女の美しさは、きっと妖刀に似ている。握った者に人を斬らせるように、見たものの心を動かし行動させる魔性があった。

 だが俺に情緒がない。まるで他人事のようだ。

 そんなに美しいのなら、勝手に美しければいい。俺の知ったことではない。

 

「その態度がこの案が微妙な理由そのものなのよね。あなたがどういう目で私を見ているかくらい分かるし」

「候補にもならんだろうよ」

「一応、中身で勝負するという切り札があるわ」

 

 やったことないけど、と悩ましい顔で零す。

 確かにお前なら外面だけで勝敗が決するわな。1ターンキルもいいところだ。 

 

「思いついた瞬間は名案だと思ったのに、計算が狂っちゃったわ」

「どういう計算してんだよ」

「私が部屋に入ってきた途端あなたが這いつくばって愛の告白をしてたら、このプランでいく手筈だったわ」

「……そうかよ」

 

 ありえないと笑い飛ばせないのが恐ろしい。

 こいつには普通の男をそうさせるだけの美貌がある。

 ともすれば俺が輝夜に狂って幸せな生活を送る可能性もあっただろうか。

 俺が普通に生きて普通に死ねる、人間性の豊富な身の上だったら危なかったかもな。

 

「2つ目の案。あなたを殺す」

「物騒だな」 

「最も穏便な手段だわ」

 

 立てた2本の指をハサミのようにちょきちょきと動かす輝夜。

 まあ互いに不死だもんな。感情を利用した先の案と比べれば、リスクも危険性も存在しないとも言える。

  

「私がスカッとするのがメリットね」 

「俺が最悪な気分になるのがデメリットだ」

 

 易々と殺されるつもりはないが面倒だ。

 自分を殺そうとするやつに付き纏われるのは本当に億劫な気持ちになる。

 うっかり殺されてしまえば少なくない記憶が消失するだろうし、良くないことだらけ。

 例え不死でも死にたくはない。忘れがちだが、当たり前のことだ。

 こいつや妹紅はそうでもなさそうな素振りがあるが、同じにはしないでもらいたい。

 

「はっきり言ってイマイチな案ね。あなた強いし、妹紅が相手じゃないからモチベーションが湧かないわ」

「おう。この案はよしておけ」

 

 妹紅が相手ならやる気十分だったのかよと思ったが、口にはしない。

 

「だから一回私に無抵抗で殺されましょう? そしたらきっと満足するから」

「おい」

 

 なんて奔放な言いぐさだ。思わず少し絶句してしまった。

 絵に描いたような、傲慢なお姫様の言動というか。ただし発言の内容にはまるで可愛げがない。

 こんな要求に頷くわけがあるか。

 

「まあダメよね」

「当たり前だ」

「あなたが這いつくばって愛の告白をしてたら、このプランでいく手筈だったわ」

「お前、恐ろしいやつだな」

 

 さっきの案と並列で進める気でいやがった。

 正気を保てていて本当に良かったと思ったぞ。

 突飛な事を真面目くさった顔で宣いやがる。なまじ顔がいいからおかしなことを言っていても一瞬対応が遅れてしまう。

 顔がいいというのは利益しかないもんだな、やはり。

 

「それで3つ目は案はなんだ。聞いてやる」

「ないわ」

「何だって?」

 

 思わず聞き返した。

 

「ない。何かいいのないかしら」

「幾つか考えてきたって言ってたじゃねえか」

「残りはあなたが這いつくばって愛の告白をしてくる前提だったから全て没にしたわ。……ちょっと、今わたしのこと馬鹿だと思ってるでしょう」

「ああ」

 

 心の底からそう思っている。

 あれだな。なまじ美しすぎるがあまり男性との正しい付き合い方がわからなくなってしまったんだろう。

 世の男たち全員がこのような悲しき怪物を生んでしまったのだ。反省してくれ。

 

「別に今からでも這いつくばって愛の告白をしてくれてもいいのよ? そしたら復讐の手段がぐっと増えるわ」

「しないが」

「なんでよ」

「なんでよってお前」

 

 当然の権利のように不服そうな顔をするな。だいたいなんで愛の告白と這いつくばることが毎度セットなんだよ。

 こいつの価値観における男性像は一体どうなっているんだ? この世すべての男が這いつくばって愛の告白をしてくるものだとでも思っているのか。

 誰か矯正してやれなかったのか。いや、矯正の必要すらなかったのか。

 こんな竹林の奥深くで大切に匿われていたわけだしな。

 昨日の夜のように殺し合いに興じているほうがレアだったんだ。

 うっかり遭遇した俺が不幸なだけ。くそ、大人しく博麗神社で宴会の隅に縮こまってりゃ良かった。

 そんな後悔が過った頃、俺たちのいる部屋に足音が近づいた。

 

「師匠、おはよ──」 

 

 襖を開けて妹紅が顔を出す。

 刹那、俊敏な動きで俺と腕を組む輝夜。

 怪力で固められ輝夜の方に体を寄せてしまう俺。

 表情の凍る妹紅。

 

 一拍、置いたのち。

 

「焼却ゥー!!!!!」

 

 慌てて修復したてのタワーシールドを起こし、放出される大紅蓮を遮る。

 輝夜はちゃっかり俺の背後に回っており、しれっと火炎放射から逃れていた。

 しかも結論を急いて実力行使に出た妹紅を見て目を輝かせている。

 

「妹紅の反応を見て決めたわ! 私たち結婚します!」

「火に油を注ぐな馬鹿野郎!」

 

 俺の背中にしなだれかかりながら妄言をのたまう輝夜を引き剥がそうとするも、最下層のスライムよりも強力な粘着力でしがみついており、まるで引き剥がせない。

 せめて誤解を解こうと俺が口を開こうとした瞬間、

 

 パァンッ!

 

「そんな勝手は許しません!」 

「永琳!?」

 

 別な襖を吹き飛ばして新手出現。驚愕の声を上げたのは輝夜だった。

 現れたのは昨夜永遠亭に気絶した輝夜を運び込んだとき応対してくれた銀髪の女性か。

 冷静で知的な印象を抱いていたのに、今やその面影はない。

 その手に弓を携え、問答無用で俺にだけ狙いを澄まして矢を射かけてきたので、咄嗟に手を翳し『ダークハンド』で防ぐ。

 

「師匠から離れろ!」

「姫様から離れなさい!」

 

 続く大火球と矢の連撃をタワーシールドでいなし、正面の二人ではなく、背中でおんぶの恰好でしがみついてきた輝夜への説得を試みる。

 

「言われてるぞ! どっか行け!」

「嫌よ、面白くなってきたんだから!」

 

 背負った輝夜は俺に四肢を絡み付かせ、とても振りほどけそうにない。

 俺を狙う妹紅の攻勢は更に苛烈になり、幾重に折り重なった火炎が放射されるも俺の『苗床の残滓』で丸ごと押し返す。

 ちょっと待ったなんで妹紅は俺を狙っているんだと疑問に思うより早く輝夜が永琳と呼んだ女性が肉薄してくる。

 その手に持つのは短刀。タワーシールドの死角からの一撃を狙っているのか。

 相手にしてやる筋合いはない。盾は置き去りにステップで大きく距離を取る。

 軽装なのが幸いして輝夜とかいう呪いの装備があっても敏捷には問題なかった。

 

「おのれ駆け落ちなど!」

「しねぇよ!」

 

 必殺の一撃を外した銀髪の女性が、仇敵のように俺を睨んでいるがそれはまったくの誤解だ。

 全部俺の背中にいる輝夜とかいうのの悪ふざけがいけない。

 理路整然と理由を説明したいのに、状況がそれを許してくれなかった。

 

「うふふ、あなた私といると不幸になるみたいね!」

「おい黙っとけ元凶!」

 

 復讐の方法を見出したらしい輝夜が上機嫌で揶揄ってくるが俺はもはやそれどころではない。

 とにかくここは一度、相手が冷静になる時間が必要だ。

 誤解を助長しかねないが、いったんこの場を脱さなくては。

 

「あとで突き返すから永遠亭で待ってろ!」

 

 最も深刻に誤解させていそうな銀髪の女性にだけ一声かけ、俺たちは白サインによる転移でその場から姿を消した。

 

 

 

 

 

 しばらくの視界の暗転。

 気づけば俺は博麗神社まで戻ってきた。

 

「あ、あら? どこここ」

「博麗神社だよ」 

 

 上手くいった。ゲール爺が攻撃に利用していたように、世界を隔てずとも白サインの力を使えばワープ行為が行える。

 残念ながら輝夜もしっかり連れてきてしまったようだ。置き去りにできれば話が早かったのに。

 

 この白サインによる転移は条件が複雑で難しく、俺もまだすべて解明できたわけではないが、縁の深い場所や人物の下へ転移できるため活用できると思っていたのだ。

 今回は滞在時間の長い博麗神社に流れ着いたようだが……。

 コントロールできない不安定な手段だったが、あそこに居続けるよりかはマシだ。

 あの場にいるのは不死ばかりであり、聞く耳も持たれないまま地獄絵図が展開されるところだった。

 だが、少し時間を置けば連中も冷静になるはずだ。

 

「ハァ……面倒だが永遠亭まで戻るぞ」 

 

 永琳と呼ばれていた銀髪の女性は聡い人間の特有の雰囲気があった。

 気が動転していただけで、もう一度話せば輝夜の悪い冗談だとわかってくれるはず。

 二度手間だが、時間を置かずにもう一度永遠亭まで足を運ぼう。

 

「まあ永琳に心配掛けるのは私も本意ではないし、いいわよ」

「じゃあ自分で歩け」

「それは嫌」

 

 クソ、マジでこの輝夜とかいう厄ネタ、どうしてくれよう。

 おそらく俺に迷惑かけることを復讐の手段にしたんだろう。性格が悪すぎる。

 とはいえ引き剥がせない以上、もうどうしようもない。

 だが平静を取り戻した永琳という女性が一緒ならなんとかなるはずだ。

 さっさと永遠亭まで戻って放り出してこよう。

 そう心に決め、歩き出したときだった。

 

「ふーん」

 

 聞きなれた少女の声。思わず振り向く。

 

「黒髪ロングなら誰でもいいんだ?」

 

 そこには冷ややかな目で俺を見る霊夢と──寂しそうに目を伏せる先代の巫女がいた。

 

「待て。説明する」  

 

 

 慌てる俺の背中で、輝夜が復讐の愉悦に微笑むのが分かった。

 




先代巫女を悲しませるなんてサイテー!
これには霊夢ちゃんもおこです

動かしてみて一番驚いたのはぐーやです。お前自由すぎるよ……
まさかかわいいゴダ指輪になるなんてこのリハクの目をもってしても見抜けなかった……
青ニートの不幸で飯が上手い? ああ、そう……

もこたん? いつも通りじゃない?()
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