以降の連載は不定期となります。
先にもう一つの方を書かなければ…
とは言え、個人的にこれはお気に入りのssなので、書き続けたいですね。
余り人気がないジャンルかもしれませんが、それでもやり遂げるのが、穂乃果達の信念に通じると信じて!
穂乃果、海未、ことりの三人はステージ上にいた。リハーサルも追えた。衣装と歌の最終確認もバッチリ。
あとは本番を迎えるだけ。
幕が開けるまであと五分という短い時間の中で、穂乃果は深呼吸して心臓の高鳴りを抑える。
スーハ―スーハ―……
『スクールアイドルμ'sのファーストライブ、間もなくです! ご覧になられる方はお急ぎください!』
アナウンスと音響を買って出てくれたクラスメートの声がマイク越しに響く。
やれるかな。ステップ間違えないかな?途中で転んだらどうしよう?歌声ひっくり返っちゃったらホント恥ずかしい。上手く誤魔化せるかな……色々な不安と疑問の声が湧いては消えていく。
ふと、隣で両手を繋いでいる海未とことりの姿が入った。ことりは緊張してはいるものの、覚悟を決めたようで穂乃果の手をぎゅっと握り返してくる。
「いよいよだね……」
「うん」
そして海未は……
「……っっ!!」
緊張でガチガチだった。
「海未ちゃん、大丈夫?」
「は、はいっ…!」
駄目だこりゃ。
東京は日本舞踊の家元、天下の園田家の次女がどうしたのか……まぁ、こういう所も含めて海未ちゃんか。
穂乃果は苦笑して、海未の手を優しく握る。
「大丈夫だよ。私達が付いてるから」
「穂乃果…」
だから不安なんです!
近所の裏山を探検しに行った時、同じ事を言ったら海未にこう返された。けど今回は違った。
彼女の顔からは緊張が僅かに和らいでいた。海未が後ろ向きだった時、こうして三人でよく手を繋いだ。そうすると不思議と元気が出た。
「けどこういう時、なんて言えばいいのかな?」
「μ's、ファイト、おー! かな?」
「それでは運動部ですよ」
「だよねー……そうだ。番号言うんだよ、皆で!」
「あ、それ面白そう!」
取りとめのない会話を続ける。
本番前、本物のアイドルとかだったらこんな事は言わないんだろうな……けど、これはプロじゃない。お金を貰う為じゃなかった。
学校を救うためで、皆に見て貰うため、自分たちを見て、この学校に少しでも興味を持ってもらえれば、それで十分。
だから自然体でいよう。それが一番。
「じゃあ行くよ! すぅー……いち!」
「に!」
「さん!」
思いっ切り息を吸って、三人で掛け声を出す。
………
何にもない。何にも。
ただ一瞬、静寂が自分たちの声で満たされただけ。
ああ、ばかばかしい。ばかばかしいけど……でも、何も恥ずかしいことなんてない。
「あはっ……あははっ!」
「……くすっ」
「ふふっ…」
私達は今この場に立って、やりたいと思った通りにいる。それは誰に言うまでもない、自分たちが決めたこと。
だからこれでいいんだ。三人は一つ。一つのスクールアイドル……今はもう、余計な事は考えなくていいんだ。
「μ'sのファーストライブ、最高のものにしようね!」
「うん!」
「もちろんです!」
ブー!っとブザーが鳴る。
繋いでいた手を離した。もう海未の顔にも、余計な不安や怯えは残っていない。弓に打ち込む時と同じ……それ以上に集中しているのが見なくても分かる。
(大丈夫……大丈夫…!)
最後にもう一回息を吸った。
(やれる……やれる)
出来る筈だ。私たちなら。絶対に失敗しない。もし間違えても、乗り切って見せる。最初のステップは………
(目を閉じて)
最初に明るい所にいたから暗転すると良く見えない。まずは目を瞑っておくべきと海未が提案した。それに従う。
緞帳が上がっていく音が聞こえる。瞼越しに光加減が変化していくのが分かる。
(緞帳の音が止んだら目を空けて)
そうして目を空けたら次は後ろを向く。
音楽が始まったら、後ろを向いて、タイミングと同時に照明がそれぞれに入る筈だからそれで振り返って
(あれ?)
良し行ける。何も問題なし。大丈夫だ。
でも、あれ? 気のせいかな?
心なしか空気が軽い気がする。こんなものだったっけ?
リラックスしている時の心の空白じゃない。もっとこう、別の、寒い空に立ってるような、じわじわと締め上げられるみたいな…
(あれ……あれ? あれあれ?)
視界が開ける。
緞帳は完全に開ききっている。
目も暗闇に慣れ切った。
それなのに、どうして?
(お客さん、一人もいない?)
いない。
さっき自分たちが来た時と同じ。空白に満たされた講堂。誰も座らずにシートが畳まれたままの座席。
(あれ、時間間違えた?)
ブザーのタイミング、指示違っちゃったかな?
それともチラシに書いたのが違ってた? 17時と7時みたいな。それとも行動の使用許可証に書いた方かなヤバいどうしようっていうかもし間違えてたらお客さん大迷惑だよどうしようどうしようどうしようどうしよう……
「ほ、穂乃果…」
隣にいる海未の声が聞こえる。
嫌だなあ、始まってるんだよ、もう。喋っちゃ駄目だよ。お客さんに聞こえちゃうよ……ほら……
「穂乃果ちゃん」
ことりちゃんまで、何言ってるの?
だってほら、こんなに……こんなに、ガラガラ……だ。
(誰も……いない……)
視線がふっと、壁面に設置された時計に向いた。
時刻は16時を指している。間違いない。ライブの開始時刻だ。チラシにもそう書いた。配っている時にも絶対にそう言っていた筈だ。間違いなんてありえない。
(まさか)
いやそんな。
だって、あれだけ頑張って宣伝したんだよ?
チラシだって配ったし、掲示板にも張ったし、直前まであれだけ大声で伝えて回って……ちょっとはいる筈だよね。
十人とか、五人とか……せめて、せめて一人くらい……
いない。
一人も、いない。
残酷だった。
これほど痛烈に打ちのめされた事を、穂乃果は知らない。
「ごめん……」
ふと、客席から声が聞こえる。
一瞬お客さんかと期待してしまった自分がいた。
クラスメートだった。今も外でチラシを配ってくれている筈の……
「頑張ったんだけど…」
酷い、残念そうな顔をしていた。高1の秋、好きだった他校の先輩にアタックして振られた時もこんな顔はしてなかった。
逆にそれが現実だと分からせてしまった。
ああ、そうか……
自分達は、負けたのだ。
踊りでもなく、歌でもなく、プレッシャーにでもなく、反対していた生徒会長にですらなく、ただただ現実に。
『興味がないものは興味がない』
ただそれだけの単純な世界に、膝を折られた。
「あは……あはは」
穂乃果は不思議と笑っていた。
「穂乃果…」
「穂乃果ちゃん…?」
海未とことりが両側から悲しみの表情を向ける。
だって笑うしかない。
こんな……こんな結末予想していなかった。せめて少しでもいいから自分たちが頑張ってきたことを分かって欲しかった。練習して、色んな人に応援してもらって、それで出来上がったモノを見てもらえれば、それで良かった筈なのに……
それすら許されないなんて……あぁ無情……あはは、ウケる。
「しょうがない……世の中そんなに、甘くない! ……しょうが、ない、って……」
「……」
「っ…」
二人が涙を呑むのが分かる。
いや、違った。
必死に涙を抑えていたのは……
「っ…っ…!」
酷いよ神様
こんなの、望んでない。
チャンス与えてくれないんですか?
誰かに見てもらうことも、許されないんですか?
私達のやってきたこと、そんなに変でしたか?
こんなのやるために……
こんな景色を見る為に、私は一ヶ月神社の階段走ったんですか? 近所迷惑でしたか? お賽銭足りませんでしたか? 何が駄目でしたか?
教えてください、何でもやります。誰か一人でも来てくれるなら……一人でいい、たった一人でいいですから……
「こ、ここです!」
(え?)
「おー、間に合ったな! おーい、こっちだこっち!」
「かよちーん、足速いよー!」
「あっぶな~、時間ギリギリ!」
光が差し込んだ。
校舎と講堂を繋ぐ扉をくぐって息を切らして、走ってきた子が一人。
続けて、金髪に髪を染めた男子と、車椅子を引いた美人と、そして……
「………間に合った」
後々深い繋がりになる、男の人との、一日ぶりの再会。
たったそれだけ。
でも、高坂穂乃果は、今日という日は絶対に忘れない。
だってヒーローだったから。
困っている人の下へ駆ける人を英雄と呼ぶのなら、彼は紛れもなく。
正義の味方だった。
・・・・・・・・・・
「こ、ここです!」
「おー、間に合ったな! おーい、こっちだこっち!」
「あっぶな~、時間ギリギリ!」
最初に飛び込んだのは、真っ黒い空白。
「あれ? 私達だけ?」
「時間間違えたか?」
「い、いいえ、そんなはずは…!」
その後に分かったのは、舞台に立っている、三人の女の子。
竜司の声が聞こえる。ここまで案内してくれた、小泉さんの声。
何とか裏庭から行動までたどり着いて、けれども見たものは何もない講堂で。
「おい、あそこ立ってるの、蓮が言ってたスクールアイドルか?」
「ああ、その、筈だけど……そうですよね?」
「は、はい……」
本当に、何もない。
誰もいない客席で、ただただ、呆然と立ち尽くし、
虚空の闇を、見つめていた。
「……」
目が合う。
蓮の目を、彼女は直視した。
誘ってくれた三人の中で、一番積極的に声を張り上げてチラシを渡してくれた、元気な子。
名前は知らないけど、でも、あの時渋谷の駅で声をかけてくれた人。
その彼女が悲しい顔をしていた。
涙が出るのを必死で堪えて、耐え忍んで、それでも溢れ出る気持ち。
一度深い絶望に沈んだ蓮だから分かる。
人の悲しみ、不安、後悔、痛み、内実、悔しさ、苦しさ…。
「おい、これ……もしかしなくても、ガラガラじゃね?」
隣に立つ竜司が言う。
ああ、たぶん、そうなのだ。
竜司が考えたのと同じ、お客さんが来てないんだ。
「……」
目を合って、彼女は俯いた。
ファンが一人もつかない、誰もいない講堂で、彼女達は情けない、悔しい思いをしているだろう。
ああ、まさか。こんな光景に出くわすなんて……
…なんて、そんなこと
「みんな、座ろう」
「え?」
「早くしないと、始まっちゃう」
俺は思わない。
「つーけどよ、これ」
「貸し切りみたいでいいじゃないか」
「蓮……」
杏も竜司も、気まずい顔をする。
本当なら、もっと面白い所まで案内しようとして、こんな所立ち去った方が良い。
この時間だけ切り取って見たら、多分その方が正解だ。
でも……彼女を……あの時自分に微笑んでくれた女の子を、見切りをつけて無かったことにするなんて、できない。
「折角来たんだから、楽しんで行こう。ね?」
笑って言った。
これも俺の我儘なのかな、
そんな気持ちを、薄っぺらく浮かべたままで、でも間違いだと思わなかった。
信じていたからか、押し付けたのか。
でも……
「うん、そうだね。どうせなら、最前列行っちゃおう」
「……しゃーねーか」
「志保、大丈夫?」
「うん」
仲間達は応えてくれた。
見よう。最後まで。
まだ始まってない。信じていいかも分からない。
でも決してここに訪れた時間は無駄じゃない。
「わ、私も!」
「え、かよちん? ちょ、ちょっと、待って!」
小泉さんと星空さんも、続けて最前列の席に座る。
「……」
「……」
ステージにいる少女と目が合う。
蓮は変えない。自分の意思を。
お客が自分たちだけ? だからなんだ?
俺は観る。観て、彼女を応援する。そう決めた。
「……やろう」
だからそれも、彼女に伝わる。
本気から、本気へ。
願う者から望む人へ。
想いをバトンタッチする。
「歌おう、全力で!」
「穂乃果…」
「だって……そのために今日まで頑張って来たんだから!」
来てくれた人がいる。応援してくれる人がある。
今生まれたこの胸の想いは、きっと勘違いじゃない。
「……海未ちゃん!」
「…ええ!」
そしてそれは友達へ
2人の顔に覇気が戻った。今まで以上の力で。
そうだ、前を見るんだ。
今までやってきたことを信じて。
「………」
照明が落ちる
室内に訪れる静寂
一気に視界が暗くなったことで、目がそれに追いつけずに全てが暗闇に包まれた。
最初は静かに、ピアノの旋律。徐々に加わるドラムとベース
BGMが色彩を増し、一つの絵を成すように、色とりどりの照明が彼女達を照らし出した。
『I say! Hey! Hey! Hey! Start dash!』
手を振り上げ、ステップを踏む。彼女達の笑顔が、会場を照らす。
不思議と蓮の顔は、彼女たちに吸い寄せられるようにその場に張り付いて離れなかった。
『うぶ毛の小鳥たちも いつか空にはばたく』
『大きな強いつばさで飛ぶ』
少女たちは歌う、力強く。夢見た場所は所詮夢だっただろう。今こうして奮い立てている勇気が、あと何回続くだろう。だがこの瞬間だけは、少女たちはそんな事はすべて忘れていた。ただ歌うために、ただ踊るために、ただ自分たちを、ありのままを伝える為に、彼女達はここにいる。
『諦めちゃ駄目なんだ その日が絶対来る』
『君も感じてるよね 始まりの鼓動』
それは彼女達の心のありよう
人は同じ時間を共有することがその人に近付く第一歩と言うけれど、
今ステージに立つ三人と、今こうして会場に訪れた蓮の心は、どこかで惹かれあっていたのかもしれない。
『明日よ変われ』
『希望に変われ』
いや、蓮は確かに惹かれていた
この狭い空間で広い客席に向かって必死に何かを訴えかける少女のありように、蓮の心は動かされた。
あぁ、もっと、もっとだ、もっと見たい
『眩しい光に 照らされて変われ Start!』
一気に曲が転調した。
合わせて照明も変わる。
何もかも手作りで、プロなんかとは全然比べ物にならなくて、
彼女たちに出来るのは、ただ己のやってきたことを形にするだけ
ただ自分の限界に挑むのみ
『悲しみに閉ざされて 泣くだけの君じゃない』
『熱い胸 きっと未来を 切り開く筈さ』
だが、それでも拙いことに変わりはない
客席の空白が、少女たちに重くのしかかる。
広い空間がまるで埋まらない。
まるで広大な砂漠そのものを相手にしているかのような虚しさが、波のように被さっては消えていく。
『悲しみに閉ざされて 泣くだけじゃつまらない』
だがそれでも進む
そうだ、進むんだ、私達は
たとえどんな道になったとしても
後悔だけはしたくない
くすぶった想いだけを抱えて、終わりになる。それだけは絶対に嫌だ
『きっと』
『きっと』
『君の』
『夢の』
『チカラ』
『今を』
『動かすチカラ!』
分かる……ああ、分かるとも
俺も君達の気持ちが……痛いほどわかるよ
だって伝わってくるから。
君たちの想いが、夢が、憧れが。そして何より、あの日俺に宿った、何物をも恐れない立ち向かう力が、彼女たちの魂とリンクしている。
大丈夫だ、進め、恐れるな、失敗してもいいんだ。
だって俺が信じてるから
『信じてるよ…だからStart!』
負けるな、この先何があろうとも
俺は信じてる。
この胸に宿った気持ちは決して手放さない。
ああ、そうだとも。俺は誓う。
見守ろう彼女達を。例えこの心が、暗く冷たい牢獄に囚われ続けたとしても。
今こうして、誰もいない空間で叫び続ける彼女たちに、仮面を被った男は誓った。
「……」
やがて、長い、そして短い時間が終わった。
音が止み、照明は元に戻り、辺りを再び静寂が支配する。
真っ先に拍手を送ったのは、自分たちの隣に座る竜司たちの後輩二人だった。
「うわぁ…!」
「おおーっ!」
圧倒されて、拍手を送る二人。
続けて、その後ろからも拍手を送る音がする。
蓮が振り返って見ると、そこにいたのは自分達だけではなかった。四人か五人、たったそれだけだが、会場には誰かが訪れていた。
もちろんチラシを配っていた友達もいるだろう。だが通りすがりで来たという人も何人かいる筈だ。
その事に蓮は安堵した。
「ほえー…っ! す、すっげえな…! なんつーか、結構良かったんじゃねえか!」
と、隣に座っていた竜司が、文字通り空いた口が塞がらないと言った様子で惜しみなく拍手を送っていた。
ついさっきまで渋々、と言った様子だったのに、表情はまるで変っている。
「これもしかして、当たりだったんじゃねえか?」
「うん! すっごい! 講堂で、三人だけしかいないのにこんな…!」
杏も満面の笑顔で拍手を送っていた。
そうか……まるで意味のないことじゃなかったんだ。
自分と同じ思いを、きっと二人も感じたんだろう。
虐げられて、それを乗り越えた二人だからこそ。
今の歌の歌詞と、そしてひた向きさが、心をプッシュしたのだと思う。
「な、蓮もそう思うだろ?」
「……ああ」
思わないわけ、ないじゃないか。
だってこんなに……あの日冷たくなった俺の心を、こんなに温かくしてくれたんだから
「っ……っ!」
その時だった。
「…志保?」
「っ…っ……」
すすり泣く音が、どこかから聞こえた。
杏の逆隣りでずっとライブを見ていた鈴井さん。
彼女がその両の目から、ポロポロと涙を流して未だに舞台を見つめている。
「志保、どうしたの…!?」
「杏……私…!」
「大丈夫!? どっか痛む!?」
慌てて杏が立ち上がって彼女の肩に手を置いた。
だが鈴井さんは、違うよと言ってふるふると首を横に振る。
まるで見えない糸に引っ張られるように、彼女の視線は先程まで踊っていた少女たちに繋がって解けなかった。
「どうしたの?」
「逆なの、杏……その逆……! 私、こんな気持ち、初めて……! ありがと、杏……こんな素敵なところ、初めてだよ…!」
そう言って鈴井さんは、初めて杏の顔を見た。
笑顔だった。
あの事件が起きる前から、彼女の顔からは笑顔が消えていた。心がずっと死んでいたのだ。心無い人間によって食い散らかされ、潰され、弄ばれた。
もう駄目かもしれないと、命を取り戻した後でもずっと心の奥底にその不安を抱えたままで。
だが、笑っている。
彼女が、多分、今までで一番良い表情で。
「……うん、そうだね。来て…よかったね」
杏がそっと、鈴井さんの掌を優しく包み込んだ。
まだ彼女の手は動かない。拍手を送れないその両手に、自分の熱い体温が宿った手をそっと重ねる。
そして二人が舞台を見た時、ふと上にいる三人と目が合った。
「あ……」
車椅子に乗っている少女。
その客席にいる子が、友人に手を動かされて、疑似的な拍手を送る。音も出ないけど、それでも自分たちの踊りに、感謝の気持ちを送ってくれる。
「……!」
たまらない
たまらない気持ちになった。
「ありがとうございました!!」
穂乃果が叫んで、思い切り頭を下げた。
二人の親友も、それに続けた。
『ありがとうございました』
それを聞いて、その場に居た全員が拍手を送った。
技術じゃない、歌唱力じゃない、ましてオーラでもない、ただ、もう少しで何かが花開きそうな『何か』に向かって。
「おー、いいぞー! 三人ともー!」
金髪の青年が、笑いながら野次を飛ばした。
普段なら恥ずかしいと言って突っ込みを入れるけど、まあ今日ばかりは大目に見てあげよう。
そんな風に側いた彼らも苦笑していた。
「……それで、どうするつもり?」
次の瞬間、辺りは再び静寂に包まれた。
突然行動に現れた一人の少女によって。
舞台上に皆が気を取られていたこともあって、蓮達も全く気付かなかったが、振り返って見ると、そこに立っていたのは見るも美しい金色の髪を持った女子生徒だった
「生徒会長…」
μ'sの一人、中央の子が息を飲む。
蓮は違う意味で突如現れた少女に釘付けになった。
(生徒会長…あれが音ノ木坂の)
(新島先輩が言ってた人だよね。スゴイ生真面目っていう…)
(マジかよ、外人だったのか…ってか、むちゃくちゃカワイイな、おい!!)
思わず見とれている竜司の手の甲を杏が抓っていたが、それでも気持ちは分からなくはない。確かに目を見張るほどに綺麗な少女だった。『すれ違えば思わず振り返る』というヤツだ。
だがその雰囲気は冷徹そのものだ。今生徒会長は、舞台に立つ三人に対して淡々と言葉を投げかけている。
先程まで僅かに盛り上がった空気など意に介さない風に。
「どうするって…」
「自分たちのしていることが分かったでしょう。あなた達じゃ学校は救えない。これが全てよ」
そうか。
敢えてこの生徒会長は結果を待っていたんだ。ウチの生徒会長の言ったことが本当なら、彼女はスクールアイドル活動に反対らしい。
けれど、根拠を示すため、ワザと止めなかったんだ。
自分達の力不足を、認めさせるためだったのだ。
「続けます」
だが関係なかった。
「……」
「穂乃果…!」
「何故? これ以上やっても、意味があるとは思えないけど」
ただ冷静に生徒会長は言った。
もう止めろ。
身の程を知ったのでしょう。だったら諦めなさい。無駄な想いをするだけよ。これ以上辛くなる前に、さっさと止めなさい。
(なんだ、この気持ち……)
蓮は人の心は読めない。
その人間が『宿している』『何か』を僅かに感じ取るだけだ。
だがどうしてだろう。彼女の中には『何か』がある。
自分達を敵視している新島先輩と同じ。生真面目さと言うだけじゃない、何かが宿っている。
それを真正面から受け止めて、舞台に立つ少女は応えた。
「……やりたいからです!」
毅然と、彼女は言い放つ。それが、このステージで得た答えの全て。
「私、もっともっと歌いたい。踊りたいって思ってます。きっと海未ちゃんもことりちゃんも」
そう言って彼女は横に立つ二人を見る。力強く、笑顔で二人は頷いた。
「こんな気持ち初めてなんです! やってよかったって、心の底から、そう思えたんです!」
もう後ろ向きな気持ちが無かった。生徒会長を真正面から見上げているその表情が、何よりの証拠だ。
「今はこの気持ちを信じたい。このまま誰にも見向きもされないかもしれない。応援なんて、全然してもらえないかもしれない。でもとにかく頑張って、一生懸命頑張って、届けたい! 私達がここにいる、この想いを!」
ギュッと拳を握りしめて、少女は誓う。夢を諦めない事を。前を向き続けることを。
「いつか……」
その時、蓮の目には確かに見えた。
困難に立ち向かう心の鎧、彼らがもう一つの世界で『仮面』と呼ぶそれが、もしもこの世界にあるとするならば、
「いつか私たち、必ず……ここを、満員にしてみせます!」
それは彼女達の、迷いのない鋼鉄の意思を宿した顔のことなんだ。
「……」
蓮は、もう一回拍手を送った。
続けて竜司が、杏が、
三人に向かってエールを送る。
「ガンバレー! 応援してるからねー!」
「俺もだ! 次も見に来るぜー!」
ここに応援する人はいるんだ。
ほんの僅かでも構わない。
これが少しでも、彼女達の心の支えに、
そしてもう一度、素敵な空間を生み出せる手助けになれるように、
蓮は必死に、心の底からそれを祈ったのだった。
・・・・・・・・・・
その後、案内してくれた小泉さんと星空さんに別れを言いつつ、四人は帰路に就こうと校門前へ向かう道を歩いていた。
「いやー、面白かったな! 最初はどうなんのかと思ったけどよ。来て良かったんじゃね?」
「そうだね。私、何か感動しちゃった!」
結局、生徒会長は何も告げることなく去っていった。
勝手にすればいい、と背中で語りながら。
ライブが終わり、微妙な雰囲気の中で、それでも一同は拍手を送ってその会場を後にした。
「お、杏もやってみんのか? スクールアイドル?」
「ああ、いいんじゃない?」
「ちょ、やめてよ!?」
「そうかな? 杏だったら似合うと思うよ?」
「志保まで……もう」
杏が顔を赤くしながら苦笑する。
「あ、アン殿のダンスと歌!? ワガハイ、是非見てみたいぞ!」
鞄の中でにゃあにゃあ鳴きながら話しかけるモルガナを押し込めながら、蓮は音ノ木坂学園の校舎を仰ぎ見た。
「……」
「素敵な学校だよね、ここ」
「ああ」
「でもここ、もうすぐ廃校になるかもしれねえんだよな…」
竜司が残念そうに呟く。
男の自分達には縁遠い話だが、それでも今日という日を与えてくれたこの学校が無くなるというのは、少し寂しいものがある。
「ならないよ」
蓮は優しく、力強く言った。
まるで確信しているように。
「ここは廃校にはならない。絶対に」
校庭を見下ろすように備え付けられた校舎の大時計が、ゆっくりと針を回していく。
下校していく生徒たちを、優しく包み込んでいる。それは自分たちをも歓迎しているようだった。
またおいで、と。
いつでもここは、君達を待っているよ、と。
「……そうだね。私もなんか、そんな気がしてきた」
「ああ。こういう場所って、なんつうか、無くしちゃいけねえ気がするぜ。それに、俺達の後輩が通ってる高校だしな。他人事じゃねえっつうか」
竜司が鼻を擦りながら、へへっと苦笑していた。普段おばかでお調子者の竜司でも、やはりこういう時は情に厚い一面を見せてくれる。
その時だった。
「お客さーん!」
遠くの方から声が聞こえる。
振り返って見ると、後者の方から走ってくる人影が見えた。
「あれ、あの人たち…」
「踊ってた三人じゃねえか?」
二人が目を丸くして凝視した。
既にステージ衣装から制服に着替えているが、間違いようがない。ついさっき感動を与えてくれたスクールアイドルだ。
「はあっ! はぁ! 良かった、追いついた…!」
「だ、大丈夫? そんなに息切らして…」
「平気です…な、何とかお礼、伝えたくて……」
呼びかけた杏の言葉に、真ん中の少女は、呼吸を整えながら顔を上げると、四人を改めて見ながら言った。
「今日はありがとうございました!」
『ありがとうございました!』
並んでいた二人も、同じように頭を下げてお礼を言った。
それを聞いて、蓮達の表情にも笑顔が宿る。
「いえ、こちらこそ、楽しませてもらいました」
「私もなんかこう、胸が熱くなるっていうか、こっちまで踊りたいくらい。そんな気持ちにさせてくれた!」
「だよな! 俺こういうノリ初めてだったけど、すげえっつうか、なんかもうヤバかったぜ!」
「お前は凄えとヤバイしか言えんのか」
鞄の中からモルガナがひょこっと顔を出してうんざりそうに答える。
ふとそれを見た少女が顔を近づけていた。
「あ、モナちゃん! もしかして、モナちゃんも見てくれたの?」
「にゃ、にゃー!」
「ああ。こいつも、とっても楽しかったって、喜んでます」
「そっかぁ! ありがとね、モナちゃん!」
「にゃ、にゃお~ん」
文字通りの猫なで声で誤魔化すモルガナ。
こいつ美女とオタカラに目がない正体不明生物だとは言えず、正体を知る三人は複雑な気分だった。
「あの……」
その時、もう一人モルガナの声を聞き取れない鈴井さんが、三人に言った。
「あ……」
「今日はありがとうございました。私、こういうの初めてだったけど、とっても感動しました。本当に素敵でした」
鈴井さんの額や腕には、未だ痛々しい包帯や怪我の跡が残っている。
それを見て、一瞬だが少女たちは息を飲む。
多分勘の良い人は、彼女が秀尽の自殺未遂の女生徒だと気付くだろう。ただそれでも鈴井さんは、今日という日の喜びを伝えたかったのかもしれない。
「い、いえ、こちらこそ、わざわざ来て頂いて…」
黒髪の少女が、慌ててお辞儀をしてお礼を言う。
だが、続けて出た鈴井さんの言葉に、三人は跳び上がりそうになった。
「……私、一ヶ月前に飛び降りたんです。学校の屋上から」
「え…」
「私は……秀尽学園の……自殺未遂の生徒です」
今すぐ車椅子の手を掴んで回れ右して病院までダッシュで戻ろうかと竜司は本気で考えていたし、二人も少なからず同じ思いはあった。
彼女にとってその話は触れることは勿論思い出すことも恐怖だったはずだ。
医者からも言われていた。事件のことは絶対に口にしないようにと。例の事件で彼女はPTSDを発症していると。
だから杏はその事を蓮と竜司に最初に言っておき、二人は勿論強く承諾した。
「自殺未遂って……もしかして、ニュースでやってた……」
「はい、その生徒です。顧問の先生の体罰とか、セクハラに耐えきれなくて……屋上から、飛び降りました……」
だが今、鈴井さんは自らの口で事件のことを話し始めていた。
相手の三人はしんと静まり返った。というより、言葉を失っている様子だった。
「事件が終わっても、まだ夢に見て……本当にやり直せるのかなって……だから、とっても怖かった……」
淡々と、鈴井さんは言葉を紡ぐ。
まさかこんな短時間で……ふとそう思ったが、彼女の手が視界に入った。
震えている。カタカタと、恐れが全身を支配していた。
鴨志田の手によってズタズタにされた記憶が、彼女の心を再び落とそうとしている。
「志保…!」
(待って)
蓮は静かに、前に出ようとした杏を静止した。
「れ、蓮…」
(このまま、もう少しだけ様子を見よう)
鈴井さんは言葉を止めない。
立ち向かおうとしているんだ。
彼女は今、この瞬間にも。
それを蓮は杏に目で訴えかける。
「……」
こくん、と杏は頷いた。
恐る恐る、先を窺うように、彼女は鈴井さんの姿を見守る。
車椅子の少女は、その後も淡々と、スクールアイドルの少女たちに向かって言葉を続けた。
「………私、今日ここに来てよかったです……」
ゆっくりと、彼女は心の声を伝える。
「やり直そうって、心の底からそう思えたんです。だから私……もう、挫けません。時々、立ち止まるかもしれないけど………けど、もう、絶対に自分のことを投げ出さない…」
再び、鈴井さんの表情に笑顔が宿った。
傷ついても前に進もうという彼女達の歌と、歓声も響かない講堂でも必死にやり遂げる意思が、力を与えてくれている。
いや違う。
これは鈴井さん自身の心の声だ。
ありがとうと。私も負けないからと。
「あなたたちの歌で、本当にそう思えるようになれました……。だから私、今日のライブのことを、絶対に……絶対に、忘れません……!」
ぽたり
「穂乃果……?」
「穂乃果ちゃん?」
ぽたりぽたりと、涙が零れ出た。
鈴井さんじゃない。
目の前で彼女達の言葉を聞いていた、穂乃果と呼ばれた女の子だ。
「あ、あれ、変だな……私が泣いたら駄目だよね……ダメ、何だけど……」
涙があふれる。
傷ついている彼女を見たから?
怪我をした体で見に来てくれたから?
それを自分たちに言ってくれたから?
彼女の境遇を哀れんだから?
違う
きっと違うよ
だってこれは……
「……んっ」
目の前の車椅子の少女が、一瞬苦悶を顔に浮かべる。
そして次の瞬間、一同は信じられない物を見た。
「志保……?」
「え…!?」
杏と竜司が息を飲む。
「っ……っっ!」
彼女が、全身に力を込めて、
(手が……)
手を、動かしていた。
「志保……」
そんな、と杏の顔が驚愕に染まる。
竜司と蓮も見ていた。腕が満足に動かず、だから杏の介助を必要としていた彼女の痛々しい姿を。
「今は……これ位しかできないけど……」
そう言って、手の形をゆっくりと変えて、小指以外を、弱々しく、それでも必死に握りしめて。
あの日全てを失う筈だった少女が、一歩を踏み出した。
「指切り……してもらっていいですか?」
そう言って、涙を再び流しながら、少女を一心に見つめて、微笑みかけて言った。
「…小指くらいしか動かないけど……でも、約束します……! 私、もう一回立ち上がるから…!」
これは奇跡か?
眼の前に居る誰もがそう思った。
「その時にはもう一度……ライブを見せてもらっていいですか? 今度は、沢山……沢山、沢山、立って、いっぱいの拍手を、送りますから…!」
だが奇跡なんかじゃなかった。
そうだ、あり得ないことなんかじゃないんだ。
人は絶対に立ちあがれるんだ。
彼女達の歌が、そのきっかけを与えてくれた。例え客のない、一人だけを感動させるだけだったとしても。
「ありがとうございます……」
「穂乃果…」
「ありがとうございます……! 私たちも、絶対に諦めません……もう一回…ううん、何度だって……何度だって、チャレンジしますから…!」
鈴井さんの手を少女が……いや、もうこの名前で呼ぼう……
高坂穂乃果が、彼女の小指を自分のそれで包むように握り合わせて、やがて笑い合って彼女は応えた。
「あの講堂を、いつか絶対に満員にして見せます! 歌もダンスももっと上手くなって、お客さんももっと一杯呼んで、この学校を廃校から救います……! そして…そして、また、ライブをやる時は……一番に招待します! だから……だから、一緒に頑張ろうね!」
「……はい!」
蓮の隣にいた杏が、大粒の涙を零していた。
「……っっ」
「杏……」
「蓮……これ、夢じゃないよね……志保の手……動いてるんだよね……?」
「……ああ」
「動いてるぜ。嘘じゃねえ」
夕焼けが辺りを照らす。
オレンジ色の大空に桜が散る。もう春も終わりだ。これから葉っぱがどんどん茂って、青々と力を蓄えていく。
その景色を見ながら、仲間にも同じ気持ちが芽生えていた。
・・・・・・・・・・・
誰かに応援してもらえるのって……こんなに素敵で、胸が熱くなることだったんだ!
やってよかった! やってよかった!
心の中で何度もそう叫んだ。
「海未ちゃん、ことりちゃん」
「……なんですか?」
「私、今日のこの気持ち、絶対に忘れない」
「……はい。私も、決して忘れません」
「いつかもう一回、ステージで再会しようね。あの人たちと」
「うん!」
蓮達がいなくなったあと、誰もいなくなった校庭の中でたたずみながら、少女たちは誓いを新たにしていた。
この気持ちを、絶対に忘れないよう、刻み付ける為に。
そしてこの誓いはそう遠くない未来に、実現することになる。
・・・・・・・・・・
「お待たせ!」
「おう、じゃあどっかメシ食ってから帰るか」
「賛成。私もうおなかペコペコ」
「じゃあ、行こうか」
音ノ木坂学院から少し歩いたところにある西木野総合病院の待合室で、蓮と竜司は杏を待っていた。
病室まで鈴井さんを送っていった杏を待つためだ。
「鈴井さん、大丈夫だった?」
「うん。流石に疲れちゃったみたいで、すぐに寝ちゃったけど、身体の方は大丈夫だって」
三人は並んで病院の外へ出ると、駅の方向へと歩き出した。
秋葉原駅の高架下には、再開発の際に美味しくて安い料理屋が沢山軒を連ねることになった。ここを利用しない手は無い。
「杏。さっきの、鈴井さんの手のことだけど」
「うん……今日のこと話したら、お医者さんも驚いてた。本当ならあり得ないって」
「俺もな、見ててすげえって思ったぜ。魔法みてえだったもんな」
竜司がしみじみと思い出しながら言った。と、その時蓮の鞄の中からモルガナが顔を出した。
「魔法なんかじゃねーさ」
「モルガナ……」
「心一つで不可能を可能に変えちまう。人間って言うのはそういう生き物だ。どんな困難だって乗り越えられる。そういう力があるんだよ、人間の中にはな」
ネコのお前が言うなよ、と普段の竜司なら言ったかもしれない。
だが、それを聞いて、彼も得心が言った様子だった。
「ああ……そうだな。あの歌聞いたら、そう思うしかねえよな。あの三人の歌が、動かしたんだよな」
蓮は無言で頷く。
この世界はろくでもない。でも、捨てたもんじゃない。
「へへっ……が、柄にもなく臭えこと言っちまったな」
「そんなことないさ。俺も、同じこと考えてるよ」
「そうだよ。それにね、私、ちょっと思ったんだ。あの子達とウチら、ちょっと似てるかなって」
「ん?」
「向こうの生徒会長に言われた時に、言ってたよね。「やりたいからです」って」
ふっと、夕焼けの空を見ながら杏は微笑んだ。
「見向きもされない、誰も聞いてくれないかもしれない。それでも、今はこの気持ちを大事にしたいって。それって、私たちがやってるコトと、ちょっと似てないかな?」
「…『逆』なのかもしれねえな」
そう言ったのはモルガナだった。
「アン殿やリュージ……それにあのスズイって子は、その人生を歪んだ欲に汚された。だからワガハイたちは、そんな闇を憎んで壊す。そしてあの子達は、自分の夢を信じて頑張る……道は正反対だが、自分たちの信念がある。だから『逆』だ」
黒ネコの言葉に蓮は頷く。
そう考えると……あの時渋谷で蓮が彼女達と出会い、そしてあの校舎で再会してチラシを受け取った事は、偶然ではないのかもしれない。
何処かで運命が……何かが働いたんだろうか。
「……私、あの子たちのこと応援したい。これからも、ライブとか活動とかあったら、どんどん観に行こうと思う」
「ああ。俺も、そうするかな」
杏の言葉に対して、全会一致だった。
「だな。ある意味、似た者同士ってことだろ?」
「リュージは別に似てねえだろ?」
「なんでだよ!? 別にいーだろ!?」
竜司の言葉に苦笑しつつ、蓮は宥めるように答えた。
「もっと単純でいいんじゃないか? 俺達は、あの子たちのファンってことで」
「そうだね。スクールアイドルμ’sの、最初のファン!」
「お、ファンクラブとか立ち上げちまうか?」
「良いね、それ!」
ハハは、と笑いながら、三人は通りを歩いて行った。
夕日が沈む。
暗い帳が下りてくる。
闇の時間だ。悪党が動き出すような、さっき見た光なんて容易に塗りつぶすクズが跋扈する世の中だ。
………そんなこと、させるものか。
守って見せる、俺達みたいな人間は、もう増やさせはしない。
さっき鈴井さんが取り戻した笑顔は、決して失わせない。
あの子たちの夢も、奪わせない。
もしそんな奴らが彼女たちを汚すなら、
(死ぬより辛い後悔を味わうだろう)
俺達の……心の怪盗団の手によって。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・・
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「音ノ木坂学院……あなた、よく彼女たちのいる場所に出入りしていたわね」
そ……うだ
おれは……こうして……あの子と……出会っ…て……
「今時の流行らしいけど……中でも、このグループは特にあなたと密接な繋がりがあった」
みんなと、一緒に……おう、えん……
「そして彼女たちの活動と、あなた達怪盗団の活躍は驚くほどにリンクしていた。怪盗団の知名度が上昇すると同時に、彼女達の人気も爆発的に上がっていった」
どうして……おれは……あの子を……
「本当に彼女達は無関係だったのかしら? それとも……怪盗団の影の協力者?」
「………違う」
違う
おれは、違う。
誓ったんだ……
あの時に……それだけを……
「それはどちらの否定かしら?」
「……」
彼女達だけは……傷付けないと……
ただ、それだけを……俺は……
ダメだ…意識が……
「まあ、いいわ。全て話してもらうわよ。全てを」
いけない
踏み止まれ
ここで終われない…!
俺達は終わらない…必ず、帰る…!
「心の怪盗団『ザ・ファントム』リーダー……雨宮蓮」
皆の、元へ……!
(ほの……か…)
回想は続く。
かの者は抗う。
それは破滅への反逆の為に。
己の信じた道の為、あらゆる冒涜を顧みず、彼は進む。
これは、数奇で決して交わることのなかった、もしもの物語だ。