その日夜、阿良々木暦の住む街に何かが飛来した。
「——吸血鬼パンチ!」
「ぐえっ!」
ある日の深夜。俺は突然忍に起こされた。
まったく…もうちょっと優しく起こしてほしいものだ
「イテテ…もうちょっと優しく起こしてくれよ…。どうかしたのか? 忍」
「何度も声を掛けても起きないお前様が悪い。いや、そんな事を言っておる場合では無い、緊張事態じゃ」
「お前様。何か感じぬか?」
「? 何も感じないけど?」
カーテンを開けて外の様子を見ても、いつもと変わらない景色が広がっていた。
…? だけど何か変だ。それは俺の目の前に広がる景色では無く、何というか…雰囲気的なものだった。
「やけに静かだな。夜だから当たり前なんだが、不気味なぐらいに静かだ」
「これはいったい…」
「お前様はこの街のよくないものについては知っておるよな?」
「あぁ。それがどうした?」
「察しの悪い主じゃの…」
察しが悪い? この僕が? 僕ほど察しの良い主人公はいないと思うけどなぁ…。
「先程、この街のよくないものが一瞬にして消えてなくなったのじゃ。いや、一瞬にして“吸われた"と言うべきか…」
「よくないものが一瞬にして吸われたぁ? どいうことだ?」
「つい数分前、わしはお前様の影の中で、暇潰しにDSで星のカービィをやっておったのじゃが」
「お前、星のカービィなんてやるのか!?」
「何を驚く? お前様はやった事がないのか? 面白いぞ?」
「いや、やった事あるし面白いのも分かる、ただ、意外だっただけだ」
「のぉ、お前様」
「なんだよ」
「カービィってモチモチしていてまるで桜餅みたいじゃよな? 食べたら美味しいのかの?」
「そっちぃ!?」
星のカービィをプレイした事のある人なら誰しもが思うこ事だが、まさか吸血鬼までもが思うとはな…。でもあいつ…捕食対象と言うより捕食者だからな…。
「いやいや! こんな事喋っている場合かっ!」
「おぉ、そうじゃったそうじゃった」
「今言ったように暇潰しにゲームをしていたらいきなりなにかの気配がしての。次の瞬間この街からよくないものが一瞬にして消えたのじゃ」
「まったく気付かなかった…」
「お前様は寝ておったじゃから。気付かなくても仕方あるまい」
「それで? 忍が感じた気配ってのはなんなんだ?」
「それが分からぬのじゃ、まったくの」
「一度街の様子を見に行った方がいいかもしれないな」
寝間着を着替えて家族を起こさないように玄関に向かう。
ヌキアシサシアシ。
街に出ると部屋で感じたあの不気味な雰囲気がより明確なものになった。
× × ×
「……誰もいない…どうなっている」
「ふむ…」
家を出てからそこそこ歩いた。そして、歩いてみて気付いたことが2つある。
まず1つ。どこの道路を歩いて見ても、車が1台も走っていなかった。自転車もだ。そして歩行者すらいなかった。
いくら田舎街と言っても、深夜に車1台も、自転車も、歩行者一人もいないなんて事はありえない筈だ。
2つ目は、どの家にも明かりがついていない事だ。街灯は何時もの様に暗い道を照らしてくれているのだが、どの建物も、24時間営業の店すら店内は闇に包まれていた。
「これって店内に入れたりするのか?」
「分からぬ。分からぬが、変に触れて何が起きてもおかしく無いという事は分かる」
「迂闊に触れない方がよさそうだ…」
暫く歩くと某ドーナツ屋の看板が遠くに見えた。するとそれに気付いた忍は目を輝かせて——
「お前様! あれ! 店内に入ればドーナツ食べ放題なのではないか!?」
「お前はさっきの自分発言を覚えてないのかっ!!」
「だ、だって!…」
「…はぁ」
残念ナ吸血鬼ダッタ…。
お前いつからそんなキャラになった…。
目の前でぐずる残念な吸血鬼に頭を抱えていると視界の端にある光景が見えた。
「何だあれ…煙か?」
「……? うむ、煙じゃな」
俺の目には、山の中腹から白い煙が立ち昇っているのが映っていた。
俺にはその煙が出ている元の場所には覚えがあった。
「あそこって……北白蛇神社じゃないか?」
北白蛇神社。この一年で何度も行った場所だ。そしてこれからも行く事があるであろう場所。
思い返してみると、あそこで起きたイベントは碌な事が無かったな。蛇に噛まれたり刺されたり…。
「とにかく、ゆくぞお前様」
「そうだな、あそこに行けば何か分かるかもしれない」
北白蛇神社に近づくにつれ、不気味な雰囲気はより濃くなっていった。
神社へ続く山道の麓につくと道中一言も喋っていなかった忍が口を開いた。
「…お前様」
「どうした? 忍」
「…気配の正体が分かったぞ」
「おぉ! 流石だな。で、正体は何だったんだ?」
「………」
「…? 何だよ焦らしか?」
「吸血鬼じゃ」
「……は?」
忍の口から発せられた聞き覚えのある単語に、一瞬自分の耳を疑ってしまった。
「吸血鬼…だと? 俺と忍が見てきた街の異様な光景はそいつの仕業なのか?」
「大方、そうじゃろうな」
「っ! 何故この街に吸血鬼が…」
「分からぬ…普通吸血鬼は、自分の根城からあまり離れない筈じゃ。ハンター達に殺されない為にじゃ」
「じゃあ近くにそいつの根城があるのか?」
「無いじゃろ。儂が住んでいる街じゃぞ? そんなものがあったら儂が既に知っている筈じゃ」
「そうか。話が通じる相手ならいいけどな」
「——お前様、血を」
「あぁ…」
忍に首を差し出し血を吸わせる。忍の体はみるみる大きくなって幼女から大人の女性へと変わった。
「この姿になるのは久しぶりじゃな」
「………」
「?」
「久しぶりに見るけど、やっぱり大人のお前は、綺麗だよな」
「なっ…! なんじゃお前様! いきなりそんな事言いおって」
「なんだよ? ただ感想を言っただけじゃないか」
「…この鈍化男めが…」
「ん? 何か言ったか?」
「何も言っておらん! さっさとゆくぞ」
「どうしてそんなに怒っているんだ?」
「怒っておらぬ!」
怒ってるじゃないか…。
俺と忍はBダッシュの如くスピードで山道を駆け上っていった。なぜだろう…今なら二段ジャンプもできる気がする…。
× × ×
「鳥居が見えてきた、忍、一旦止まってゆっくり登るぞ」
「いやお前様、儂がここまで力が大きくなっておるのじゃ、相手はもう気付いている筈じゃから無駄じゃよ」
「じゃあ堂々と行くか」
階段を登るにつれ、境内が少しずつ見えてくる。白い煙は既に無かった。まぁ、視界が悪くなるから別にいいか。
鳥居を潜り境内に入ると、潰れた神社の前に白い何かが立っていた。
「なんだ…あれ…骨か?」
「そのようじゃ。だが、骨の吸血鬼なんぞ聞いたことが無いぞ」
立っていたのは人骨だった。だが、ボロいズボンの様な物を履いているという事は、元々人間だったのか?
これが吸血鬼? ガシャ髑髏と言ったほうがまだしっくりくる。
その人骨は俺達の方に向いて——
「この国の夜の挨拶はこうだったかな? こんばんは」
流暢な日本語で挨拶をした。
突然挨拶をされたので、思わず返してしまう。
「こ、こんばんは…」
「たわけ。なに返事を返しておるのじゃ」
「つい」
「驚かせて済まない」
「まずはそこの金髪の吸血鬼、臨戦態勢を解いてほしい。こちらに敵意は無い」
「その言葉を儂が信じるとでも?」
「まぁ、信じないよな。じゃあ説明をするから、まずは名前を教えてくれないか?」
「…よかろう。よく聞くがいい。我こそは鉄血にして熱血にして冷血の吸血鬼 怪異の王 キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードじゃ!」
「吸血鬼…怪異の王、と。そちらの方は?」
「あ、あぁ。僕の名前は阿良々木暦だ」
「阿良々木殿、と」
「お主、名は?」
「そうだな……せっかくだし、貴方の様に自己紹介しようか」
「私の名は、ブラッド・ボーン 紅骨にして道骨にして万骨の吸血鬼 骨の王 ってところかな。ブラッドと呼んでくれ」
「本当に吸血鬼なんだな…」
「信じがたいな、骨の吸血鬼なんぞ初めて聞いたぞ」
「こんな見てくれだしな、信じられないのも仕方がないか…。……少し待っててくれ、証明して見せるよ」
そう言って、息も出ない、そもそも骨だから息しないが。溜息を吐くような仕草をとり、その後、ブラッドはその辺の竹藪に近付き、キョロキョロと何かを探している。
「何を探しているんだろう?」
「知らぬわ」
数十秒後、竹藪の中の何かを見つけたのか、狙いを定めて、自分の手を、ロケットパンチの如く発射した。
暫くして発射した右手が、一匹の蛇を掴んだ状態で、ブラッドのに戻ってくる。
「待たせて済まない。じゃあ証明しようか」
「その蛇を吸血するのか?」
「あぁ。本来なら哺乳類が一番栄養があっていいんだけどな」
「じゃあ何で蛇を?」
「後々分かるよ」
ブラッドは、右手に掴んだ蛇を吸血した。
「「!」」
蛇を吸血したブラッドの全身は、みるみる紅く染め上がり頭からは二本の禍々しい角が生えた。蛇の方は一瞬で骨だけになり、手からすり抜け地面に落ちた。
「…これで証明になったかな?」
「あぁ…」
「みなみに、私が吸血した生物は骨だけになり、私の眷属になる」
「だから骨の王なのか…」
「まぁ、眷属って言っても、所詮は骨だから脆いけどな」
「さて、次はこの街の異変と私が何故この街に来たのか説明しようか」
「どうしてお前はこの街に来たんだ?」
「一言で言えば。この国のゴーストバスターに無害認定を受ける為に来たんだ」
ゴーストバスター? あぁ、専門家の事か。こいつは、俺と忍の様に無害認定を受けたいのか。
「何故無害認定を?」
「簡単に言えば、命が惜しいからだよ。せっかく吸血鬼になれたんだ、もう少し生き続けたいんだ」
「……お主、吸血鬼になる前は“なんだった"のじゃ?」
「私の身体を見れば想像がつくんじゃないか?」
「…人だったのか?」
「前の前は人だったよ。怪異の王が聞きたいのは、吸血鬼になる前、何の“怪異"だったのかを聞いたんだよ」
「身体…なるほどな…。そうじゃったのか…」
「どういう事だ? 忍」
「お前様は知らんでいい、気分のいい話では無いからの」
「そうか…」
「では次にこの街の異変について説明しようか」
「この街の異変は、お前がやった事なのか?」
「私では無いよ」
「じゃあ…」
「“これは"結界だよ、阿良々木殿」
「結界?」
「街の様子を見るに、指定された名前の物体を隔離する仕様かな?」
「いったい誰が…」
「この規模だ、一人では無いだろう。誰かに指示されて大人数で張ったものだな…」
「大方、この国のゴーストバスターの元締めの仕業だろうな」
「臥煙伊豆湖…」
「その名前の人間が、元締めなのか?」
「あぁ。何でも知っているお姉さんだ」
「なるほど…どうりで…」
俺の言葉に何か気付いたのか、ブラッドは指を顎にあて、何か考えている。
「どうかしたのか?」
「実はだな阿良々木殿、私はこの国にアポ無しで来ているんだ。ハンター達に待ち構えられると面倒だからな。飛来する場所も知らない筈だ」
「なのに結界を張られていると?」
「うむ」
「なぁ、この結界って壊せないのか?」
「無理じゃな」
さっきから考え事していたらしい忍がそう言った。ブラッドもその言葉に頷く。
「じゃあ俺達は一生この結界の中のなのか!?」
吸血鬼の二人は至って冷静だが、俺は冷静に何てなれなかった。
このままでは、戦場ヶ原や八九寺達に一生会えないのか? 羽川のおっぱいも二度と拝めないのか?
「そう焦るな、阿良々木殿。もう既に手を打ってある」
「それは…いったい…」
——ピシッ!
「!」
突然、夜空に大きなヒビが入った。ヒビはどんどん大きくなって、見えない何かが崩れていく。
「結界が壊れ始めたな」
ブラッドはそう言った。嘗て目があった、——今では真っ暗な闇で埋まっている目を、夜空に向けて、まるでこうなる事を見透かしたように。
「先日。南極に行った時に、変わった日本人から教えてもらったんだよ。…この国には結界を破壊する力を持った蛇神様がいて、うまく利用すればどんな結界でも破壊できる。と」
「ここに着地した時、周りに沢山の蛇の骨が埋まっている事に気付いてね、証明するついでに、蛇を殺したんだよ」
「なるほどな…」
「では、私はそろそろ行くとするか…」
「どうしてだ?」
「結界を張られている時点で分かるだろう?」
「あっ…」
「そう言う事だ。それでは阿良々木殿、無いとは思うが、…またどこかで」
「あぁ、またな」
ブラッドは、真っ赤な翼を肩甲骨から生やし、その翼を広げた瞬間、もの凄いスピードで飛翔し、夜空に消えて行った。
「忍は挨拶をしなくてもよかったのか?」
「勘違いするなよお前様。怪異は挨拶なんてしないし、したところで返ってこんのが当たり前。あやつがおかしいのじゃ……怪異として」
× × ×
後日談というか今回のオチ。
あの後、臥煙さんから連絡があり、あの吸血鬼の詳細を聞かされた。あの吸血鬼は新種の吸血鬼で、生まれた時から(と、言っても生まれたのは、5年ほど前らしいが)吸血鬼の力が、春休みの忍程の力を持っていたらしく、色んな国から命を狙われているらしい。
臥煙さんが俺達を結界に閉じ込めたのは、無事で戻るの事を知っていたからなのかもしれない。
因みにあの吸血鬼が呼吸器官が無いのに喋っていたが、あれはあの吸血鬼の能力の1つなんだとか。
今回は殆ど話しただけで終わったからよかったものの、もし、戦闘になっていたら僕と忍は死んでいたかもしれない。
急に書きたくなって書きました。初めて書いてみたので、面白くなかったかもしれません。