物語みたいな物語   作:凍傷(ぜろくろ)

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8:因幡家の人々-いなばけのひとびと

 時が流れる。

 

「卒業したら結婚って、大学のことかと思ってた」

「そんなん待てるわけないじゃん。俺、こういうことには結構こだわるから」

「ま、そーだな。おめっとさん、ユーダイ、笹村。てかよく許したよな笹村んとこの親御さん」

「え? あ、はい。おとーさんは私を嫁き遅れにする気? って言ったら一発でしたよ?」

「……なるほど」

「おめでと、ユーダイ。先越されちゃったかー」

「おうありっとさんユイ。先って意味なら恋愛経験では遥か先じゃん」

「あははっ、まあ、白無垢もウェディングも諦めたけどねー」

「むー……先生?」

「落ち着け馬鹿笹村お前馬鹿、どんだけ努力しても法律の壁は越えられねぇし、犯罪者になっちまったら幸せになんてできねーだろ」

「わかってますけど……」

「ま、とりあえずお前らはしっかり夫婦やってろ。てか、ユーダイはどーすんだ?」

「センセの……絵里のアパートに住むよ。決めてたことだし」

「……そか。なんっつーか……感慨深いよなぁ」

「叔父さんのブサ顔見るのもしばらくは無くなるのかなぁ」

「っははー、うっせーこんにゃろ」

「あいった! ちょっとおじさんストレートはないだろ!」

「うぉぁぃたっ、ばっかお前加減しろ加減!」

「あははははっ!」

「っはははは!」

「………」

「………」

「……一回、だけだから。その、呼ぶの、許してよ、叔父さん」

「ん? なにがだ?」

「…………今まで、その…………ここまで育ててくれて、ありがとう。俺、マジ……ほんと、幸せだった。ありがとう、父さん(・・・)

「───!」

「~……そ、それだけ。あぁくそ、かっこわりぃ……! 途中で泣くなんて───あでっ!」

「ばっ……おまっ……~……ば、…………ばかやろぉお……!!」

「……おじ、…………~……ありがと……ありがとう……! おじさん、ありがとう……!!」

 

 時が流れる。

 

「平和~……」

「平和だなー……」

「結衣~、お前、大学は近くのにしたんだっけかー……」

「うんー……行くのも帰るのも時間かかるの、不便だし……わたしの人生目標に、べつに高学歴いらないからー……」

「そっかー……」

「………」

「………」

「しあわせー……」

「しあわせだなー……」

「んん……おじさん、もっと、もっとぎゅーって……」

「おー……」

「ふやぁあ~……おこたでごろごろ、おじさんといっしょ……しあわせー……」

「おー……お? 電話……ってユーダイか。もしもし? どしたー」

『お、おじさんっ! そのっ……人生相談があるんだけどっ!』

「───! ……どうした? なんでも言ってみろ……!!」

『セッ○スってどうしたら上手く出来るんだ!?』

「結衣ー、しあわせだなー……」

「うんー……」

『いやおじさん冗談とかじゃなくて俺今本気でテンパってて! いぃいい今絵里がシャワー浴びてて上がってきたら俺、俺、アワワワワワ……!!』

「情事の前に叔父に電話とかなに考えてんだアホォオオッ!! お、おおぉおお前ばっかお前ほんとお前そんっ……お前ぇええっ!!」

『どうすりゃいい!? どうすりゃっ……あぁああシャワーの音止まった! やばいやばい助けておじさん助けてぇええっ!』

「助けろったって……! あ、あー……そだな。なにはなくともそのー……あれか? 避妊か?」

『いやっ……それが今日は安全日だし最後まで一緒に、初めてだからなんにもつけないでって言われてて……!』

「…………」

「……ユーダイ。女の子の事情を人に話すとかサイテー」

『ユイそこに居んの!? ってそういやさっき幸せーとか! ぎゃあああ忘れて忘れてぇええっ!! ってあぁああ出てきたぁああっ!』

「ユーダイ」

『っ……お、おじ、さん?』

「……特に言うことはない。お互いが初めてなら、きちんと話し合って、支え合ってこい。んで、男になってこい。それだけだ」

『おじさん……お、おうっ!』

 

 時が流れる。

 

「………………」

「………」

「笹村先生の真似ってわけじゃないんですけど、でも……初めてを最後まで、って……やっぱりそうあってほしいなって思うんです。だから」

「こんな不細工相手で本当にいいのか?」

「他の不細工だったら絶対に嫌です。わたしの叔父さんで、不細工なおじさんだからいいんです」

「……かわいいなぁちくしょう」

「え? あの、今なんて」

「あぁその。ゴムは?」

「むぅっ……わ、わたしはっ、ゴム製品なんかに初めてを捧げる気なんてありませんからっ!!」

「……おう、光栄な上に責任重大だな」

「はい。お父さんとお母さんの許可もちゃーんと取りましたし、法律以外なら向かうところ敵無しですっ♪」

「……え? お前そんなことしてたの?」

「はい。まだ見ぬオトートのことでつつきましたら大体32発くらいで」

「一発じゃないのな……あの姉にしては頑張った方か。ちなみに頻度は?」

「毎朝一回一ヶ月くらいです」

「あぁうん……なんか初めて姉に同情するかも」

「あの、おじさん。わたし、実は結構えっちです」

「まあ、なんか知ってる」

「だからですね、その。……た、たくさんたくさん、気持ちいい事、していきましょう。してほしいこと、したいこと、たくさんあるんです」

「……参考までに、どこで得るのそういう知識」

「乙女のたしなみですっ」

(……これ絶対語尾にハートマークついてる感じだわ……)

 

 時が流れる。

 

「………」

「………」

「───!」

「───!」

「はいはいそこの双子、久しぶり会った途端にやり遂げた顔で手ぇ叩き合わすみたいに握手しない」

「映画とかでしか見ないものだと思ってましたよ、あの腕相撲みたいなフォームで握手するの。あ、先生お久しぶりですその後どうですか? 結衣ちゃんとは」

「お義姉さんとは呼ばないのか?」

「ンッグ!? ……よっ……呼びませんから……! それより、どーなんですか結衣ちゃんとは……!」

「どうって?」

「で、ですから、仲、というか……その、夜の関係とか」

「……愛情を以ってめちゃくちゃ貪られてる気がする」

「先生もですかっ!? わ、私もっ……!」

「え? お前も?」

「はい……普段はやさしいのに、いえもちろん夜のほうもやさしいんですけど、優しい捕食者になるというか……! やさしくて、とろけてしまって、昨日なんてぽーっとしてる内にいつの間にか、お、おしっ……」

「え~りっ?」

「ひゃあうっ!? な、ななななんでもないワヨ!? 私先生になんも言ってないワヨ!?」

「……ユーダイ」

「ん? おじさん、なに?」

「あんま特殊な方向に行くの、勘弁な? 家の嫁もどきが真似するから」

「うーぁー……なんかめっちゃ目ぇ輝かせてるね。あ、ユイ? 急ぎすぎるのダウトな。何日でも時間かけてゆっくりほぐして───」

「ふむふむ……!」

「なに話しちゃってるの雄大ぃっ! だめぇ! 私との経験とか人に話していいわけないでしょー!?」

(しばらく会ってなかったら、かつての教え子の後ろが開発されていた……本人の前でそういうこと言うなよ、っていうかそもそも俺に暴露とかどう反応すりゃいいんだよもぉおお……!!)

「……!!」

(……そして姪にわくわくの瞳を向けられる叔父の図。……今日はあの姉への定例報告だけど、これ伝えたら地獄しか待ってないよな……)

 

 時が流れる。

 

『……あんさ、ちょっと』

「どした? いきなり暗いなおい」

『暗い話とふざけんなな話と驚く話、どれ聞きたい?』

「……姉貴のそれ、全部繋がってるってパターンばっかだろ。結論から頼む」

『はぁ……。ほんとあんたって……。まぁねー、そうよねー、そりゃそうよ。なんか逆にしっくり来たわ』

「? なにが」

『あのね、こっちであんたの両親に会った』

「へ? ……へ? なに、離婚して出てって、そっち居た───へ? 両親? なんだそれ、そっちで再婚したのか?」

『んーん、離婚すらしてないわよ』

「おいおい、なに言って………………待て。……俺の、両親? 言い方、合ってるのか?」

『合ってるわよ。んで、あんたチェンジリング。あんたそっくりの男が居てさ、鬱憤もあったし“あんたこんなところまで何しに来たー!”って掴み掛かったのが切っ掛けで知り合った』

「大丈夫か、姉(頭が)」

『副音声まで聞こえるからやめれ。んでね、あんたの写真見せたら相手も驚いちゃって。お返しにって息子さんの写真見せてもらったら、これがお父さんとウリ二つ。こんなのってある? って話になって……』

「……犯人は?」

『あんたの父親の母親。せめて孫は綺麗な子が良かったんだとかなんとか。それもうあんたの孫じゃねーでしょって話だけどね、どうせ自分が腹痛めたわけでもないからそれでいーんだって。問い詰めたらあっさり吐いたわよ』

「………」

『うちの両親は……まあ、自分がおなか痛めて産んだ子じゃないんだとしても、ほぼ育児放棄したようなもんだ。こっちだって離婚して出てってくれて、すっきりしてるくらい。んで、あたしはあんたのこと今でも弟だって思ってるし、姉であること以外でな~んも勝るものがないあたしが誇れる弟だ。ぶっさいくじゃないってことは勝るけど』

「おい」

『だから、まあ。いーんじゃない? あっちも今更自分の子として育ててきた子を、自分の子じゃないなんて手放す気もないみたいだけど、かたちとしてあんたを子として受け入れることは出来るって言ってる。だから、つまり、そのー……』

「姉貴……?」

『……だから、その。ほら』

「?」

『だぁっ! もう! いーからそこは無茶言ってみなさいよ! 察しなさいよ! 言いづらいでしょーがこんちくしょー! ……で!? うちの娘、嫁に貰う気、あんの!? ないの!?』

「……、…………あっ」

『……“あ”? “あっ”……? “あっ……”だぁああっ!? あんた今気づいたの!? あんたの中でその程度のレベルなのかうちの娘のことは!』

「無茶言うなお前バカお前!! 親だと思ってた相手が親じゃなくて、ほんとの親が外国に居ただぁっ!? そんでいきなり結婚できるとか言われたって……どんな創作物語だ、って疑いたくもなるだろが!」

『うるっせーわねー! こっちだって子供の縁であんたの親に会ったって経緯なんだから、三人目云々で脅迫するみたいな行為に踏み込んだ弟と娘にとやかく言われる筋合いねーわよ! 三人目のお陰なんだからね!? もう文句とか言わせないからそのためにもさっさと祝福されろやこんにゃろー!!』

「うぅわむっちゃくちゃだこの姉……!」

『うっほほははははは! 感謝なさいお姉さまに! そしてそっちも祝福しなさいよ三人目を! ……家族増えたのに喜んでもらえないの、これで結構辛かったんだからさ……ほんと、勝手なことしたのは謝るから。あんたに子供押し付けて、今更こっちでとか、あんたにとってはふざけんなってことにしかならなかったとしてもさ。……やっぱ、辛いんだよ』

「そんで娘の結婚を盾に祝福しろってゲスな母が電話の先に居るんだが、どう思う結衣、ユーダイ、それから笹村」

「「「サイッテーですね……」」」

『ぐおっはぁっ!? ぐ、ぐぐっ……ふ、ふんっ? なんてったっけえーと……ささせがわさん?』

「笹村ですお義母さん」

『おかーさん言うなあたしゃまだ認めてないからなおかーさん言うなぁっ!!』

「話が進まん黙れ」

『黙ったら話進まんでしょーが!!』

「こっちで進めとくから。あ、お子さんおめでとな。それだけだな? じゃ」

『待って!? ねぇ待って!? あたし今とっても重大で大切なお報せしたわよね!? なんでそんな冷たいの!?』

「いや、だってどうせ面倒なことしか話さないだろ、こっから」

『笹村さんも子供産んでみればわかるって言おうとしただけよ!? 面倒なんてことないでしょーが!』

「よかったな、笹村。ユーダイと子を産んでもいいとさ」

「えっ? あっ…………お、お義母さん……!」

『ちがぁあああああっ!! ちがっ! ちがぁあああっ!? おかーさん言うな! 違うからァァァァ!!』

「じゃあわからねーんじゃねぇか。なにが子供産んでみればわかるだ馬鹿」

『はおっぐ!?』

「な? 面倒なことになったろ? ───切るぞ」

『待ってちょっと待って!? せめてこれからのこととかあんたとあたしの関係のこととか───』

「おう。よろしくな、お義母さん」

『へ? おか………………』

「結衣はきっちり幸せにすっから。そっちはそっちでよろしくしといてくれ。あとはまあ……お前だって今気づいたんじゃねーか。血は繋がってなくても、やっぱキョーダイだよ、俺とあんたは」

『はぐっ……ぐすっ……おか、おかーさんって呼ぶなぁああっ! 姉貴以外許さないから! あたしはあんたのお姉ちゃんなんだから、姉貴以外許さないんだから!』

「やだ。よろしくな、お義母さん」

『おかーさん言うなぁあああああああっ!!』

 

 ……時が───

 


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