薄暗くまるでウイスキーの瓶の底に沈んでいるかのような室内に一人の男が漂っている。
不意にドアが開かれ、男は自分の名前を呼ばれる。
「明日把さん、準備できました。後はあなた次第です。」
運ばれてきた輸血用の機材を見て俺は少しためらった、だがここでみすみすこの大地から大空を黙って見上げるのは御免だ。
「やってくれ、準備はできている。」
俺の首筋に輸血用のチューブが刺さり麻酔が流れ込んでくる、おそらく忌々しいあいつらの成分も流れ込んでいるのだろう。
「手術室に運んでくれ、プロジェクトR、実験開始だ、、、、、ありがとう、明日架橋、アンタが進む道を決して見放さない。俺たちは付いていく。」
ご苦労様なこって、そう言おうとして自分がもう口元すら動かないことに気づいた瞬間、記憶と意識をなくした。
そして、俺は人間でなくなった。
俺の名前は明日架橋(あした、かけはし)と言う、ま、珍しい名前だとは自分でも思うけどね。
ただの隠居しようとしてた元パイロットだよ。
一か月前、俺は中国にいた。
「やっぱりプロペラ機はドイツを思い起こさせるなぁ。」
黄色のプロペラ機を丘の上から見降ろしながらつぶやく、三機編成のプロペラ機の翼に書かれた玉免表演隊の文字が誇らしそうに光っていた。
「それはあなたが世界二次大戦好きのオタクだからです。はい、頼んでたコーラですよ。」
遠くの方に見えるウイグルの飛行場で開かれているプロペラショーをパイプ椅子に座って離れた高台から望遠鏡をのぞいて観察していた俺はコーラを受け取った。
コーラを渡した彼女の呼び名はクロウ、長年付き合ってきた相手だがよく知らないし知る必要もない、ただの偶然居合わせた同業者、協力関係にも敵対関係にもなる、そんな適当な相手だ。
「で、この辺に衛星で巨大な黒い物体が見えたってのは本当なの?黒い物体なんていったって雲の影も黒いし、たまたまなんかの事故で何かが落ちただけじゃないの?それを横取りするだけの価値があるものだって断定できたわけじゃないでしょ?」
「そうですね、しかしその物体は日々拡大しているそうです。しかも一日半径5キロの速さで。虎穴に入らずんば虎子を得ずというやつですね、世間には陰謀論を騒ぎ立てたい連中がいるだけなんでしょう。」
元パイロットと謎の女(こんな女、チョイ役の謎の女で十分だ)がなぜこんな地に来たのかと言うとUMAの雑誌を書くための元ネタが必要だったからだ。で、中華何万年のロシアに侵入した謎のUFO、その秘密に迫る、とかなんとか書きたいがためにグーグルでマップを調べたら奇妙な物体が見えたんで謎の女一号が派遣されたのである。が、問題は中国のウイグル自治区の奥の奥にあるがため、飛行機で行かねばならない。そのためパイロットを募集していたところに俺が募集したわけだ。まあ、俺の免許は日本のものしかとってないから偽造したものなんだがね。
「本当になんなんだ?その物体、まさか宇宙人の、
そう言いかけたとき飛行場の方で爆発が起こる。
俺たちは顔を見合わせて望遠鏡をのぞき込み状況を確認する。
謎のガラス細工のような透き通った機体が次々とプロペラ機を食いつくしていく。
「な、、、なんなんだ一体!?」
俺はガラス細工をよく見ようとした。しかしあまりにも高機動な動きで双眼鏡を合わせることもかなわない。しかも心なしか近眼のようにぼやけて見えているような、、、
「あ、あれはいったい!?」
「わからん、ただ一つ言えるのは緊急事態ってことだ。逃げるぞ!」
荷物をワゴンに積みあげ車を思いっきり急発進させる。
「どうするんです?まだあの物体の調査がありますよ?」
「んなこと言うな!ゴシップより自分の命が優先だろうが!!」
車を急発進させとにかく距離を取る。
のちに天災(ザイ)と呼ばれる正体不明の飛行機型エイリアンの侵略である。
ザイとは何か。
1、戦闘機はめっちゃ速くて変態機動を取る。
2.大体のザイがレーダーとか目視でとらえられない。
3、放っておくと人工物を分解(?)するか人工物からザイを作り出す。
2016年12月メモ 明日架橋