「……全く、あの時はちょっと怖かったんだから」
「ごめんって。もう、何回謝らせる気?」
「謝って済む問題だと思ってるの? ……まぁ、彩人に怪我がなかったから、良かったけど」
公園のベンチは、春の日差しが暖かい。
あの後、世界はちょっと変わった。"異世界"と呼ばれるところが遊びに来たのだ。
侵攻や侵略ではなく、遊びに。リベルタ・モーディがこちらに門を開いたことで、あちらの世界の人々も安全にこの世界に渡れるようになった。
異世界の技術により諸問題は解決。地球には防護結界が張られ、宙からの脅威にも目を向けなくて良くなった。無論宇宙からの来訪者には然るべき手続きの後訪問が許され、だからハルムの星々もたまに遊びに来ている。
「それにしても……扉、だっけ。あれの位置、どうにかならないの?」
「ああ、それについては近々変わるよ。もっと安全な位置で、もっと大きな扉を春香山公園に開くらしい」
「それはありがたいわ……」
あの、取ってつけたような破片によるバッドエンドは、無事に回避された。
眩い光と共に現れたリベルタ・モーディ。彼女の纏っていた防護結界に衝突、消滅する形で。
だから、僕が彼女を抱きしめて横になっている所も彼女が怯えている所もばっちり見られて、それを暴漢に襲われる憐れな娘だと勘違いしたらしいモーディが僕を吹っ飛ばしたりなんだり……みたいな事があったけど、なんとか解決。彼女が誤解を解いてくれなければ流石に死んでたね、百八十メートルは流石に。
リベルタ・モーディ。"転移者"+"勇者"の属性を持つ女の子。本編においては最終盤に出てくるヒロインであり、彼女自体の攻略難度はそこまでではないものの、彼女が絡むシナリオの悉くがファンタジー寄りになるため、「途中からゲーム変わった」とか「出るゲームが違う」とか言われてたキャラクター。
正義感が強く、身内には甘い。敵には非情であるものの理解力はあって、憎しみという感情からは無縁。
そんな、正しくどこの主人公だよ、みたいなキャラクターであるモーディは、この世界に来て早々だというのにすぐに動いてくれた。この世界の現状を見て。世界滅亡も半壊も防がれたものの、未だ危機の魔の手より逃れられぬこの世界のために。
そして。
「……もう、見えないのよね? その……好意ゲージ、というのは」
「うん。まぁ、見えてても見えてなくても、君に関しては変わらなかったけどね。ずーっと三固定……初めから好意ゲージになんか支配されてなくて、ずっと僕の事を想ってくれてたんでしょ?」
「よく恥ずかし気もなくそういう事言えるものね……」
「だってもう、何も気にせず言っていいんだもん」
好意ゲージは消滅した。
どのタイミングで、かはわからないけど、多分ステイシーちゃんの最後の電話が切れた辺りだと思う。あまり覚えてはいないけれど、導に背中を押された時にはもう、消えていた気がするから。
同じくして登場キャラクター一覧も、そもそものステータスウィンドウも消えた。
晴巻夜明曰く、もうこの世界を覆っていた嫌な気配はない、とのことで。
だから、ちゃんと。
システムとやらは壊れたのだろう。
「譲司君」
「ん」
「まだ見つかってないんでしょ? ……いいの? 友達なんでしょ?」
「いいよ。大丈夫、アイツはどう頑張っても死なないだろうし。どうなったって、友達のままだし」
あの件のあと、譲司はふらっと姿を消した。
解放リボンで見た通り海外を旅しているのか、それとも黒幕の元に戻ったのかは、定かではない。その黒幕についても判らずじまい……まぁ心当たりある人は一人だけいるけど、それを追求する気もない。
また、何かあったら。
何でもないような顔をして、ふらっと現れるんだろう。
そういえば、解放リボンもいつの間にか消えていた。多分これも好意ゲージの消滅と共に、なんだろう。一回目は気まずかったけど、二回目は本当に役に立ってくれた。違う分岐先を見せるアイテム。
こうしてちゃんと、その先を掴み取れた。それは本当にリボンのおかげだと思うから。
「由岐」
「何?」
「……なんでもない」
「何よ。……このラブラブカップルみたいなやり取り、やめない?」
「僕も言っててちょっと笑いそうになった」
記憶は戻った。
宵待藍那の事も、紙葉美紅の事も、晴巻夜明の事も、水髪巫女奈の事も、田畑要の事も思い出した。これもまた、好意ゲージの消滅と共に。彼女らの関わるエンドの事も同様に。
水髪……水神の方は特にモーディの助力に寄って小惑星を完全に滅した後でコンタクトがあったから、鮮明に色々と思い出す事が出来た。
曰く、"返礼。安心してほしい、愛し子の身に何が起きたというわけではない"とのこと。水髪が死んだから水神エンドになったわけではなく、あの後ちゃんと二人で話し合った結果なのだという。水髪の意識ある内から美子那様が表出するようになって、だから此度の結果は水神の意思でもあり、水髪のお願いでもあるのだと。
……水髪の意思一つで水神を動かせる、というのは中々に怖い所があるけど。
まぁそれは異世界組や晴巻夜明も同様か。
「それより、あのお嬢様から何かされてない? 貴方なら大丈夫だとは思うけど、何かあったら言いなさいよ?」
「あはは、大丈夫大丈夫。ちょっとこの前ハイ○ースに連れ込まれたりしただけだから」
「されてるじゃない」
平和になった世界で、尚も僕を狙ってくる存在は二つ。
東郷アミチアと、晴巻夜明。
委員会の解体により晴巻夜明はフリーとなったわけだけど、ハルムの星々が遊びに来るようになったためか晴巻の設備・装備も充実。移動拠点も取り戻して、委員会にいた頃より多くの伝手と多くの手段を以て僕の所に
東郷アミチアもまたNINJAの血は諦めきれないとかなんとかで財力を総動員。曰くステイシーちゃんの意思もあって、だそうで、普通に誘拐とか監禁とかしてくる。
他の子が割とちゃんと身を引いてくれた中で、この二人だけは精力的だ。しかも話し合いだとか合意の上で、とかじゃなくて、"心折って従僕させればいーや"のスタンスで来るからタチが悪い。
「モテモテじゃない。そういうの、ハーレム、っていうんでしょ」
「はは、もしかして僕の想い伝わってない?」
「……ちょっとした冗談じゃない。だから、真昼間から抱きしめるのとかやめて……恥ずかしい」
僕の今までの行いが褒められたものではない、という事くらいわかっている。
事実真実の知れ渡った今でも水橋や榛は僕から距離を置いているし、鄭和先輩もあまり良い顔をしていなかった。天羽だけは「つらかったよね」とか「すごいね、藤堂君は」とか言ってくれたけど、ちょっと善性過ぎて面食らったくらい。
紙葉も田畑もあの件以降のコンタクトは無い。田畑に関しては退学しているのもあるけれど、同じクラスの紙葉はもう関りが無かった、という風に過ごしているように見受けられる。
そうしてくれるのはありがたいけど、大丈夫かな、とか。僕が一番やっちゃいけない、心配、なんてものをしてみたり。
「杉原君には会いに行ったの?」
「うん。開口一番、なんて言ったと思う?」
「"ありがとう"か、"久しぶりだな"か。どっちかね」
「正解。"ほんっと久しぶりだな彩人! 元気してたか? あの時はありがとな!"だってさ。あの時から一切連絡してなかったのに、僕を認識した瞬間肩組んで背中叩いてきてさ。……なんというか、変わらないよね、アイツ」
「貴方がこうもガラりと変わったのを気にしない胆力は確かに凄いわね」
「俺、って言ってた方がいいか?」
「今更やめてよ。無理してるようにしかみえないから」
「僕も恥ずかしいからやめたい」
人間関係の清算。
学期末におけるそれではなく、僕が、藤堂彩人がしてきた事への清算は、まだ全然済んでいない。
僕から離れた人も多いし、する必要はない、という人も多い。というか、わざわざ「最低」だとか「死ね」とか言ってくる子がいない、という方が正しいか。そういう不和を生むような発言をしない大人な子ばかりで、だから今平穏無事が保たれている。
責めてくれた方がありがたかったかもしれない、なんてのは、甘えだろうね。
「……ところでさ」
「何?」
「由岐って、あそこ……ちょっと離れたとこにある水族館、行った事ある?」
「ああ、あそこ。まだ行ってないのよね。行ってみたいとは思うのだけど」
「そっか」
一つだけわからない事。
僕が田畑要と別れたあの水族館で見た、ハーレム展開撲滅ゲームのHPらしき光景と、由岐の後ろ姿。主人公が走り去る彼女の背に手を伸ばしていて、けれど届かなくて。
あの悲劇的なシーンの光景が、何故あの時に見えたのか。
そしてあの後、意識を失った僕が、いつの間にか家に帰ってきていた事も、不思議で。
「そろそろ、帰らない?」
「えーっ、デートもう終わり?」
「そうじゃなくて、続きは家で、にしない? って事。こうして駄弁っているのはいいけれど、少し暑いし、ちょっと……どころじゃなく騒がしいし」
それはそう。
──空には巨大な羽の生えたクジラ。ビルに巻き付く龍。空を飛ぶUFOに、尻尾の生えた三人組アイドルが乗ってライブをしている。形状は三輪バギーの車が逆さまに壁面を行き、その後ろを追いかける形でパトランプのついたパワードスーツがドッシャンガッシャン。
路上ではハーピーらしきものと人間の子供が遊び、その隣では機械の犬が金属の骨を咥えて喜んでいる。保護者だろう女性の手にはグネグネと捻じ曲がった杖。光を発すそれが子供らを包み、守っていて。
控えめに言ってカオス。控え目に言ってファンタジー。
「じゃ、帰ろっか。それで、家でイチャイチャしよう。人目が無ければ恥ずかしくないんだよね?」
「げ、限度は弁えてほしいわ」
「勿論。僕らはまだ未成年だし、ね?」
「なにその前置き。身の危険を感じる」
「はは、冗談冗談」
ちょっと本編主人公みたいな事を言ってみたり。
僕らは、手を繋いで。
肩を寄せ合って──家路につく。
「ちなみに、キスは?」
「それも帰ってから。人前では無理」
「由岐は恥ずかしがり屋だなぁ」
「普通よ普通。これが普通」
あの時、リボンの先でお預けされた感触は、まぁ。
こっちでも、僕達だけの秘密、ということで。
まだ、解決すべき事は残っているし、清算すべき間柄も残っている。
けど、ごめん。貶されようが、罵倒されようが──もう、この幸せだけは手放すつもりないから。
これにてハーレム展開は完全に撲滅された、という事で。
「エンド名は、もう要らないね」
「何が?」
「なんでも」
名称は、ハッピーエンドで。
「それで、なんで俺様まだ日本から出してもらえないわけで?」
「ちゃんと仲直りしてから出て行きなさい」
「えーっ! つかアンタ、性格変わりすぎだろ! いつもはもっと悪辣な顔して悪辣な笑みして悪辣な事考えながら悪辣な言葉吐く奴だったのに」
「もうかんしょうは受けてませんから。あなたと同じで、私は一つの人間になりました」
「けひひ、そりゃ残念。じゃあもう未来の事も、アイツの心情も教えてもらえないワケだ」
「どの道、未来のことはもうだれにもわかりません。げーむが終わった時点で、未来はあやふやになりました。あなたに渡したもう一つのかいほうりぼんも効果を失い、外の世界に関わるすべも消えました。この世界はすでにげーむでなく、一つの世界。ぷれいやーやくりえいたーのいる世界とはえんの切れた場所です」
「つまんねー話だな、そりゃ。つーかよ、だったら俺様の名前もどうにかしてくれよ。こんなふざけた名前じゃなくてよ」
「てきとうに名乗ればいいのでは? 今までしてきたように」
「ひでー。この世で唯一の共犯者だってのに、他人事みてーによ」
「正しく他人ですから。私はお金持ちでお嬢様でだれからも愛されるろりぼでー。大して貴方はふとっちょで両親もいなくてお金もないないないづくし。助けてあげるぎりもありません」
「ま、いーぜ。そっちがその気なら、俺様にも考えがある」
「ほう」
「けけけ、ネットって怖いんだぜ。アンタ自身の恥ずかしい写真ややべー写真なんか俺様は沢山持ってんだ。全部放流してやる。アンタの家柄がどれほどでも覆い隠せないくらいの規模でな」
「さいてーですね。なればもう、貴方をにがす理由はありません」
「おう、養ってもらうぜ、お金持ちさん」
「……そういうことですか」
とか、なんとか。
そんな話があったとか。
暗い場所での、幼女とデブの一幕である。
No. | 名前 | 属性 |
1 | "幼馴染"+"真面目" | |
2 | "メガネ"+"巨乳" | |
3 | "お嬢様"+"ヤクザ" | |
4 | "天邪鬼"+"初心" | |
5 | "友達想い"+"ツンケン" | |
6 | "変態"+"研究者" | |
7 | "百合"+"ギャル" | |
8 | "性転換"+"俺っ娘" | |
9 | "イケメン"+"行動力" | |
10 | "ブラコン"+"常識人" | |
11 | "留学生"+"お嬢様" | |
12 | "元気"+"天然" | |
13 | "宇宙人"+"侵略者" | |
14 | "不登校"+"天才" | |
15 | "ロリ"+"博愛主義" | |
16 | "無知"+"爆乳" | |
17 | "ムードメーカー"+"情報通" | |
18 | "神"+"過保護" | |
19 | "現人神"+"生贄" | |
20 | "年上"+"バツイチ" | |
21 | "熱血"+"オタク" | |
22 | リベルタ・モーディ | "転移者"+"勇者" |
23 | "ぼっち"+"ビッチ" | |
24 | "花屋"+"メガネ" | |
25 | アネス・レンシア | "留学生"+"博愛主義" |
26 | "純情"+"車椅子" | |
27 | "サポーター"+"誇大妄想家" | |
28 | "相談役"+"NPC" | |
29 | "ロリ"+"お嬢様" |