ぼっちと魔王が異世界から来るそうですよ? 作:ボチボチ太郎
上空から落とされ、問題児ががやがやとざわきはじめた。
すると問題児筆頭、逆廻十六夜は苛立たしげに言う
「で、呼び出されたはいいけどなんで誰もいねぇんだよ。この状況だと、招待状に書かれていた箱庭とかいうものの説明をする人間が現れるもんじゃねぇの?」
「そうね。なんの説明もないままではうごきようがないもの。」
「……。この状況に対して落ち着きすぎているのもどうかと思うけど」
(全くです。)
「ねぇ、比企谷く……あれ?」
「あれ、あいつまた消えたのか?」
「匂いでも追えない……」
「どこに行ったのかしら……?」
「ウギャャャ!?」
「あ、居たね」
「居たな」
「居たわね」
「うん、居たね」
草むらから奇声をあげて飛び出すうさ耳とその後ろに佇む腐った目の男。
いつの間にか自分の背後にいた男の存在に気付かなかった黒ウサギは飛び出して来たのだ。
「なんだその奇妙な生物」
「そこの草むらで俺達の事見てたから捕まえたんだよ……」
「お前も気付いてたのかよ……まあ、雪ノ下以外みんな気付いてたみたいだけどな」
「みんな凄いねぇ」
その後は何かと黒ウサギが弄り倒され小一時間程経った頃には逆廻の前で正座した黒ウサギが居た。
「それじゃあ始めろ」
「それではいいですか、皆様。定例文で言いますよ?言いますよ?」
「早くしろ」
鬼かよ……
「う、言います!ようこそ、箱庭の世界へ!我々は皆様にギフトを与えられた者達だけが参加できる『ギフトゲーム』への参加資格をプレゼントさせていただこうと召喚致しました!」
「ギフトゲーム?」
「そうです!既に気付いていらっしゃるでしょうが、皆様は皆、普通の人間ではございません!」
あ、とうとう人間じゃなくなったのか俺……俺の目ってそんなにひどいか?
「若干一名落ち込んでる!?……まぁいいでしょう」
いいのかよ……
「皆様のその特異な力は様々な修羅神仏から、悪魔から、精霊から、星から与えられた恩恵でございます。『ギフトゲーム』はその恩恵を用いて競い合う為のゲーム。そしてこの箱庭の世界は強大な力を持つギフト保持者がオモシロオカシク生活出来る為に造られたステージなのでございますよ!」
俺や雪ノ下さんを除いた3人は目を輝かせながら黒ウサギに質問を投げかけていた。
黒ウサギもあらかた質問に答え終えた時に俺と逆廻は質問を投げかけた。
「……どういった質問です?ルールですか?ゲームそのものですか?」
「そんなのはどうでもいい。腹の底からどうでもいいぜ。ここでオマエに向かってルールを問いただしたところで何かが変わるわけじゃねえんだ。世界のルールを変えようとするのは革命家の仕事であって、プレイヤーの仕事じゃねぇ。俺が聞きたいのは……たった一つ、手紙に書いてあったことだけだ」
逆廻は俺達を一瞥した後に天幕を見上げすべてを見下すような視線で言った
「この世界は………面白いか?」
俺達全員は逆廻の質問に対する黒ウサギの返答を静かに待つ。
「────YES。『ギフトゲーム』は人を超えた者達だけが参加できる新魔の遊戯。箱庭の世界は外界より格段に面白いと、黒ウサギは保証致します!」
「じゃあ俺からもいいか?」
「はいな!なんでしょうか!」
「どうやって帰るんだ?」
その瞬間黒ウサギの表情は固まりピシッという音が聞こえた気がした。
「な、何故でしょうか?」
「俺自身ギフトなんてものに覚えは無いし、雪ノ下さんに関しては巻き込まれただけだ。自分の力が不確かな状況で危険な目にはあいたくない。」
「しかし、招待状はギフト保持者にのみ……」
「黒ウサギ。ここまで言ってお前は食い下がらないのは何故だ?使えない者が居ても意味がない。それならそれでも人材が必要な理由がある……違うか?ギフトゲームは人やギフトまで賭けることが出来るみたいだしな。黒ウサギのコミュニティはギフトゲームに敗北して人材を失ったからギフト保持者を召喚して補充しようとした……違うか?」
「………はい。比企谷さんの言う通りです。私達のコミュニティは名乗るべき名がありません。よって呼ばれる時は名前のないその他大勢、ノーネームという蔑称で称されています。」
「……その他大勢扱いかよ。」
「続けてくれ」
「はい……次に私達のコミュニティの誇りである旗印もありません。この旗印というのはコミュニティのテリトリーを示す大事な役目も担っています。」
「それで?」
「名と旗印に続いてトドメに、中核を成す仲間達は1人も残っていません。もっとぶっちゃけてしまえば、ゲームに参加出来るだけのギフトを持っているのは一二二人中、黒ウサギとジン坊っちゃんだけで、あとは十歳以下の子供ばかりなのですョ!」
「もう崖っぷちだな!」
「ホントですねー♪」
いやいや、そんなテンション上げていく雰囲気じゃないだろ……
「で、どうしてそんな事になったんだ?」
「コミュニティの子供達は皆親もすべて奪われました。箱庭を襲う最大の天災────魔王によって」
「ま………マオウ!?」
逆廻は目を輝かせながら新しいおもちゃを得た子供のようにはしゃぐ。
「魔王!なんだよそれ、魔王って超カッコイイじゃねぇか!箱庭には魔王なんて素敵ネーミングで呼ばれる奴がいるのか!?」
「え、ええまぁ。けど十六夜さんが思い描いている魔王とは差異があるかと……」
「そうなのか?けど魔王なんて名乗ってんだ強大で凶悪で、叩き潰しても誰からも咎められる事が無いような素敵に不敵にゲスい奴なんだろ?」
「ま、まあ…………倒したら多方面から感謝される可能性はございます。倒せば条件次第で隷属も可能ですし」
「へぇ?」
「魔王は主催者権限という箱庭における特権階級を持つ修羅神仏で、彼らにギフトゲームを挑まれたが最後、誰も断る事はできません。私達は主催者権限を持つ魔王のゲームに強制参加させられ、コミュニティは………コミュニティとして活動していく為のすべてを奪われました。」
黒ウサギは今にも泣き出しそうな声で語る。
仲間達の帰る場所を守る為にも改名をせず俺達に頼る他ないと……
「いいな、それ」
「────────は?」
「HA?じゃねえよ。協力するって言ってんだ。それとも俺は要らないってのか?失礼な事言うと本気で他所に行くぞ」
「い、いります、いります!十六夜は絶対に必要です!」
「あの……ではほかの皆様は?」
「私も構わないわ。」
「私も」
「飛鳥さん……耀さん……」
すると逆廻、久遠、春日部、黒ウサギは俺と雪ノ下さんを見る。
「で、どうするの?私は比企谷くんに着いてきちゃっただけだから判断は君に任せるよ」
「分かったよ……その代わり黒ウサギ」
「は、はい!」
「さっきも言ったが雪ノ下さんは巻き込まれただけだ。お前のコミュニティの全力をもって雪ノ下さんを守れ」
「もちろんです!」
「えー、そこは比企谷くんが守ってくれないの?」
「いや、雪ノ下さん……俺の柄じゃないでしょそういうの……」
「つれないなぁ」
クスクス笑う雪ノ下さんはやはり何処か妖艶な雰囲気を醸し出していて久遠や春日部は少し顔を赤くしていた。
「まぁ、なんだ……これからよろしく頼む……黒ウサギ」
「比企谷さん………ありがとうございます!」
「ぐあっ!?」
黒ウサギは勢いよく俺に飛び込む。それを久遠、春日部、逆廻はニヤニヤしながら見てくる。
「羨ましいな〜比企谷」
「そうね」
「そうだね」
「比企谷くん……?」
「俺が悪いのかよ……」
雪ノ下さんだけ顔は笑ってるのに目が笑っていない。普通に怖いんだけど……
俺は内心とあるツンツン頭の不幸な少年を思い浮かべながらこう垂れるのだった。