バカとオタクとリーゼント   作:あんどぅーサンシャイン

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バカテスト 番外編 サイコパス診断
問 以下の問題文を読み、自分なりの答えを書きなさい。
『あなたはとあるマンションの自分の部屋のベランダにいました。
 すると、一階の正面玄関前で殺人事件が起きました。包丁で刺し殺してしまったのです。慌てて通報しようとした時、犯人と目が合ってしまいます。
 犯人はあなたの事を見ながら、一定のリズムで指を動かしていました。何故でしょうか?』


木下秀吉の答え
『警察に言うな、バラしたらお前も殺すぞ、という合図を送っていた』

教師のコメント
少し恐い問題でしたかね。ちなみに木下君の様な答えが一般的だと言われています。


霧島翔子の答え
『浮気は許さない』

木下優子の答え
『他の雌なんて要らない』

姫路瑞希の答え
『酷いです。信じていたのに』

島田美波の答え
『アンタを殺して私も死ぬ』

教師のコメント
一昔前のドロドロとした昼ドラみたいな回答ですね


土屋康太の答え
『スパッツを履いてるかどうかを確認している』

教師のコメント
この状況でも性欲優先ですか。


岡崎大悟の答え
『バッドエンドフラグを建てないよう慎重になっている』

教師のコメント
この状況だとだいぶ詰んでいる気がしますが。


吉井明久の答え
『それでも僕はやってない!』

教師のコメント
殺ってます。


※サイコパスの回答
『あなたのいる部屋の階数を数えている(確実に殺しに行くため)』


※注意!!!
今回の話は個人によっては大変不愉快かつショッキングな描写を含みます。耐性の無い方もしくはお食事中の方は閲覧をお控えくださいますようお願いします。


第七十九問 目には目を、歯には歯を、悪には更なる醜悪を

 

———side 大悟

 

 

 ……今思えば、何故あんな物を作ろうと思い立ったのかは分からない。

 創作活動の一環として知見を広げる為なのか、それとも今回のように試召戦争関連において戦況を有利に進めるための道具として致し方なくなのか。はたまたその時のノリとテンションに身を任せてしまったが故か。

 まぁいずれにせよ、きっかけなんて自分が思ってるよりもそんな大それたモンじゃないんだろうな。

 

 しかしこれだけは断言出来る。

 今回の作品は———これまでの創作活動において、最も()()()()()

 

 そう言い切れるだけの要素が、この作品には詰まっている。

 まずは、モデルだ。

 イラストに限らず、アニメ、漫画、映画、小説、演劇……この世の全ての創作物には必ずと言っていいほど、お手本となった事象が存在する。例えば大河ドラマ等の時代劇はそのストーリーを実際の歴史上の出来事や人物から引用しているし、世界に名を轟かす天才画家、レオナルド・ダ・ヴィンチ。彼が描き上げた有名作品である『モナ・リザ』はとある大富豪の妻をモチーフにしたと言われてる。ノンフィクション映画などは言わずもがな実話がベースである。そこに自分なりの解釈や設定を加えてオリジナリティを表現しているのだ。

 

 俺が今回モデルに選んだのは———この学校、文月学園に在籍する一人の女教師だ。

 

 この教師、生徒間でかなり認知度が高いのだ。もちろん———いい意味では無く。特に俺や明久、雄二、同志。いや———俺達二学年全員が彼女を深く認識し、因縁がある。

 

 今でも()()()()が夢に出てくるほど印象深い。

 

 そんな彼女の尋常じゃないアクの強さと存在感に惹かれ、俺は彼女をモデルにする事を選んだ。そうして何度か実際にイラストを完成させて色々な場面で試した結果かなりの効果……破壊力を見込めたのだ。だから今回は()()()()()()()()()()()彼女にした。

 

 

 次にジャンルだ。

 芸術作品において、内容や設定に基づいた部門や種類。

 音楽ならジャズやロック、文学ならミステリーやファンタジー、と言う風に作品を区分けし、面白くし、特徴や魅力を把握しやする役割があるのだ。逆にこの要素があやふやになってしまうと、本来持っているその作品の良さを大きくガタ落ちさせてしまう。

 だからこそこれには凄く頭を悩ませた。何故なら上記で語った様に、モデルとなる存在が強烈な個性を持っている為、そんじょそこらのありふれたジャンルでは彼女の絵面の強さばかりが引き立ってしまい、また逆に彼女自身のキャラクター性を最大限に活かせない事にも繋がってしまう。

 

 俺は考えた。

 

 ———どのジャンルであれば彼女をより強く魅せれるか。

 

 ———どんな彼女の画なら、見た者の脳内に深くこびりつかせられるのか。

 

 ———未来永劫、忘れたくとも忘れられない程の強い影響を与えられるのか。

 

 

 何度も試行錯誤した。ありったけの資料を探して見漁り、片っ端から頭の中で彼女と掛け合わせてイメージした。

 めちゃくちゃキツかった。血反吐が出るくらいキツかった。同志や妹すらも『イカれてるわコイツ』的な反応をしてきた。辞めようとも思ったがここまでの努力が水の泡になるし、何より一度やると決めたことを途中で投げ出すのは俺のポリシーに反する。だから耐えて耐えて耐え忍んで狂って狂って狂いまくってひたすらに駆けた。

 

 

 そうして遂に———答えを見つけた。

 

 

『おいお前ら、おもしれーモンやるよ』

『あん? なんだこれ』

『……………パッケージに何も書いてない』

『まぁまぁ、見てのお楽しみってやつだ』

『『?』』

 

 たまたま気分転換に同志と遊んでいた時に母さんが悪ふざけで渡してきた1枚のDVD。

 そこに、俺が求めていたものがあった。

 

 

『……………気持ち悪い……うぷっ!』

『おげぇ……マジかぁ。予想以上にエっグいなぁ』

『…………』

『……………同志?』

『おい大悟どうした。ギブアップか?』

『……やったぜ』

『『ん?』』

 

『……これだ。これだ! 見つけたぞぉ!! これこそ俺がずっと追い求めていたものだ!! 出来る!! 今なら出来るぞぉおおーーっ!!!(ケポコポコポ)』

 

『『……はぁ?』』

 

 そうして俺はそれから部屋に籠り描き上げた。

 あの映像の内容を、音を、声を、色を、動きを、一挙手一投足に至るまで。その全ての頭の中で強く克明にイメージし、脚色し、より自分なりにグレードアップさせたものを目の前のペンタブに走らせた。

 頭を痛め、目を腐らせ、胃の中の物を吐き出しまくり、果ては幻覚や幻聴に惑わされながらもただひたすらに、まっすぐに、俺の持てる技術の粋と全神経を注いだ。さながら己の欲望と飽くなき探究心のままに実験を繰り返すマッドサイエンティストの様に。

 

  

 ———そうして、俺のありとあらゆるものを犠牲にして出来あがったそれは。

 

 

 この世の何よりもおぞましく。

 この世の何よりも滅茶苦茶で。

 この世の何よりもアンモラルで。

 この世の何よりも歪んでいて。

 この世の何よりも屈辱的な。

 

 

 

 

 

 

 この世の何より———() ()() ()() ()() ()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 俺の最低傑作を武器に同志達が戦地に向かった後、俺達の教室は悪い意味でザワザワと賑わっていた。

 

『なぁ、ホントに大丈夫なのか?』

『どうやら兄貴に考えがあるみたいなんだが、今回ばかりはなぁ』

『ていうか正直私、あの先輩のこと二度と見たくないんだけど……』

『私も思い出したら吐きそう』

 

「皆、疲れてんなぁ」

「そうじゃの。随分と疲弊しとる」

 

 そんな様子を眺めながら、秀吉がうんうんと頷く。

 それだけ、あの坊主野郎の仕掛けが皆に精神的ストレスとしてダメージを与えてしまった。たかが学内のイベントだと心の何処かで油断していた俺達に対する強烈なボディブローだ。

 

「無理もねぇよ。急にあんなモン見せられたんだ。耐性がない連中には毒以外の何者でもない」

 

 隣で雄二が言う。

 

「今からこんな調子で、これからどうなるんじゃろうな……恐ろしいのぅ」

 

 秀吉が若干暗い表情になる。

 どうやら少しナイーブになってるようだ。よーし、可愛いからからかってやろ。

 

「なんだ相棒。もしかしてビビってんのか?」

「な、いや、そういうわけではないっ。お、お主こそビビっておるのではないか?」

「全然」

「なっ!」

 

 キッパリと言い放つ。俺が直接ビビらされるならまだしも、そうでない間接的なやり方ならビックリ演出ではない限り全然平気なのだ。

 

「ふ、ふんっ、ワシは大悟みたいなビビリとは違うからの。この程度屁でもないわっ」

「そう強がるな。膝が震えてるぜ?」

「そんなわけがなかろう! 嘘じゃっ!(バッ)」

「ああ、嘘だ(ニヤニヤ)」

「ッ! ~~~~!(カアアアアッ)」

「可愛い」

「……! こ、このバカものがーっ!」

 

 軽めのからかいに怒ったのか、顔を赤くしてポカポカと俺のことを叩いてくる秀吉。可愛い。

 

「フッ、仕方ねェな。オラ来いよ子猫ちゃん。俺のこの逞しい筋肉で優しく抱きしめてやろうじゃねえか———っておいコラ秀吉。何故露骨に距離を取りやがる」

「いや……それはシンプルに引くのじゃ……」

 

 さっきまでとは一変、後ずさるように距離を取られた。やれやれ、素直じゃないヤツだぜ。だかそんなところもキュートでイイネ。

 

 

「……………(ジーッ)」

 

 

 ? なんだか視線を感じるぞ。

 なにかと見ると、いつの間にか背後にピッタリとついた優子がやたら鋭い目つきで俺を睨んでいた。え、やだこわい。

 

「……………」

「ど、どうした優子? 俺何もしてないぞ?」

「……子猫ちゃん」

「へ?」

「秀吉には言ったのに……アタシには、子猫ちゃんって言ってくれないの?」

 

 そんな縋るような優子の目。

 

「言わないの、だと? ハッハッハ、まったく分かってねぇなあ優子は。いいか? 秀吉は見ての通り子猫ちゃんよろしく小動物のような思わず守ってやりたくなってしまうか弱くて可愛らしい存在だろ? 間違ってもお前みたいな一度狙った獲物は完膚なきまで叩きのめして尚且つ骨までしゃぶり尽くすハゲワシみてぇなヤツじゃ到底程遠いに決まって嘘です冗談ですお茶目なジョークですごめんなさいお許しくださいなのでその天高く振りかぶったエスカリボルグをどうかお下げくださいお願いします俺まだ死———」

 

 

 ガンッ! ゴンッ! ドスッ! グチョッ!

 

 

「……優子、それ以上はダメ。岡崎の脳みそが潰れちゃう」

「———ふんっ! 大悟のバカっ!」

 

「……………(ビクンビクンビクンッ)」

「お主は本当に言葉の選び方が下手くそじゃのう……」

 

 加減のないフルスイング。

 地面に倒れ伏しながら血と涙の味を噛みしめる。言いたいことも言えないこんな世の中、世知辛ェよな。

 

 

「おいお前ら、遊んでないで見ろ。ムッツリーニ達が到着したみたいだぞ」

 

「む?」

 

 雄二に促され俺達はモニターを見返す。

 その言葉通り同志達は坊主のいる教室まで辿り着いていた。

 

 さあ、舞台は整った。

 頼んだぞ同志、みるくたそ。

 見敵必殺。気炎万丈。迅雷風烈。一騎当千。

 我々を屈辱の彼方へと追いやったクソ野郎に思い知らせよう。

 その間抜け面に不快と絶望を叩きつけ地面に引きずり下ろしてやろう。

 たかだか上っ面の知識だけで俺達を出し抜こうとしたその哀れな思考回路をズタズタに引き裂いてやろう。

 

 本当の汚さの味を思い出させてやる。

 本当の気持ち悪さの極みを思い出させてやる。

 人間の妄想力の狂気を、至高を、果てしなさを、そのぬるま湯にどっぷりと浸かって腐りきった五感全てに完膚なきまでに叩き込んでやろう。

 

 

 

 さあ諸君———地 獄 を 作 る ぞ 。

 

 

 

 

 ———side 明久

 

 

《ムッツリーニ君。あの先だっけ? さっきの面白い人が待ってるのって》

《……………準備は出来ている》

 

 

「皆! もうすぐ衝撃映像が来るよ! 女子もしくは耐性の低い者は全員目を閉じるんだ!」

 

 僕は皆にそう叫ぶ。

 ムッツリーニと工藤さんが件の場所に到着したということは、間もなくあの坊主先輩の姿が露わになる。今度はさっきみたいにパニックにならないよう予めそう警告の意味を込めて叫んだのだ。でもそれだけじゃない。

 大悟が用意した秘密兵器とされる謎のイラスト。あのクールで普段から(エロ以外で)物怖じしないはずのムッツリーニを酷く動揺させ、作成者であるヤツ自身が恐れ慄くほどの破壊力を持つとされる。僕もこれまで何回か大悟のそういった系統のイラスト被害を食らっているのだが、普段のそれとはまるでレベルが違う。

 もしそれが何かしらの事故で白日の下に晒されてしまった場合———どうなってしまうのか分からない。だからこそ僕は万が一の事を考え、被害を最小限に食い止める為に発言したのだ。

 

 隣の姫路さんと美波は恐怖に備えて目と耳を塞いでいる。

 

 

「やっぱりまだ真っ暗になってるね」

「突然現れる方が効果があるだろうからな。タイミングを見計らってスポットライトを入れるんだろ」

 

 

 闇の中でカメラがぼんやりと人影を映す。

 

「そろそろ来るぞ」

「うん………っ!」

 

「さあ———狩り(ハンティング)の始まりだぜ」

 

 

 そうククク、と薄ら笑いを浮かべる大悟。

 さっきまで姫路さん達みたいにビビリ散らかしていたのに、今はまるで別人のように落ち着いている。一体どんな事になるっていうんだ……。

 

 グッと下っ腹に力を入れて衝撃に備える。

 

 

 バンッ!(スポットライトのスイッチが入る音)

 

 バァアンッ!(ゴスロリ姿の坊主先輩、再登場)

 

《…………これでも、食らえ……ッ!》

 

 スッ! ペラッ!(懐から例のイラストを取り出し、坊主先輩の眼前に突きつけるムッツリーニ)

 

《ッ!!》

 

 

 

 

 ☆

 

 

《……………》

 

「……………」

「……………」

「……………」

 

『『『……………』』』

 

 互いに訪れる謎の静寂。時間にして感覚十数秒くらいだろうか。

 正々堂々と仕掛けたムッツリーニと工藤さん。そしてそれを突きつけられた坊主先輩は———僕らの予想に反して何も言葉を発さず、またリアクションもしなかった。

 それを見守る僕、雄二、大悟、そして他の皆はその様子をただただ見守るしか出来なかった。

 

 まさか……失敗、したのか……?

 

 

《……………ぁ》

「うん?」

《あ、ああ……アアア》

 

 

 

《ボォゴボヴェ゙ァア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”っっっ!!!!!!!!!??》

 

 

 

 モニター内に響き渡る突然の絶叫。

 坊主先輩はゲロや鼻水などありとあらゆる体液をぶち撒けてその場に倒れ込んだ。

 

 

『『『よっしゃあああああーーー!!!』』』

 

 

 それを見て僕らの教室は静寂から一転歓喜の声に包まれる。

 大悟の秘策とムッツリーニ達の行動によってあの強敵を見事討ち沈める事に成功したのだ。大変喜ばしい事だ。

 

《あ”あ”あ”あ”あ”あ”……よぐもォ……でめぇらよぐもごんな”ァァおぼろろろろろろろろろ》

《……………思い知れ。本当の気持ち悪さを(グイッ)》

《ごめんねセンパイ。これも勝負なので》

《おゴブゴォォォ!!? いやだいやだいやだァァァァ! おでに近寄るなぁ……殺してぐれぇェ゙ェ゙ェ゙もうごろじでぐれェ゙ェ゙ェ゙えええ!!!》

《アハハ。なんかイモムシみたいな動きで面白いね》

《……………お前達は一つ、大きなミスをした》

《……ェ゙》

《……………向こうのリーダーに伝えろ。———俺と同志を前に、エログロで勝てると思うな、と》

《ガ……ガボゴボ……うぽぅ……コポゲポカポ……だずげでぇええだすげでぐれぇええ》

《うわっ、このセンパイ……もしかして漏らしちゃった?》

《……………最期だ。言い遺すことはあるか》

《あ”……あ”あ”……あ”あ”あ”あ”》

 

 

《死にだぐなぁいよぉぉおおおママァァァァアアアアアアアアアーーーーー!!!!》

 

 

 バタッ……

 

 

 

 

《……………きたねえ花火だ》

《えっと……ともかくこれで、ミッションクリアだね!》

 

『『『うぉぉおおおおおーーー!!』』』

 

「やった! やったよ皆! ムッツリーニ達がやってくれた!」

「ああ。これで難所は無事突破だ。あの坊主野郎ザマァ見やがれ」

「一時はどうなることかと思ったが、これで一安心じゃのう」

「……うん、良かった」

「流石大悟ね。イラストのクオリティに関しては向かうところ敵なしだわ」

「当然だ。俺を誰だと思ってる」

 

 皆で喜びを分かち合う。

 坊主先輩はいつもの偉そうな態度から一変、腰を抜かして汚い嗚咽と体液という体液を撒き散らしながら泣き叫び、やがて白目を剥いて気を失った。

 それにしても……仮にも来年から大学生になる年齢の男がマジトーンで泣き喚きながら鼻水やゲロを垂らし、失禁し、顔を青ざめながら母親に助けを求め、許しを乞うている。今後生きていく中で二度と見ることのない光景だ。

 

「あ、あれ? アキ?」

「やけに皆さん嬉しそうですけど……もう終わったんですか?」

「うん。もう怖がらなくて大丈夫だよ。ムッツリーニと工藤さんがやっつけてくれたからね」

 

 姫路さんと美波の心配を解く。

 

「よし、このままムッツリーニと工藤で先に進むぞ! 流れは確実に俺達側に来ている! 後続部隊もスタンバイしておいてくれ!」

『『『了解!』』』

 

 雄二が皆を鼓舞するように言う。間違いなくさっきの様子はカメラ越しに三年生側にも伝わってるはずだ。大悟のイラストとムッツリーニの情け容赦のない恐るべき攻撃。あんなものを見せられてはもう下手な真似はしてこないだろう。間違いなく返り討ちにあっていたずらに戦力を消費することになる。つまりこれにて向こうの数ある驚かし方の出方を一つ封じ込めたも同然だ。

 

「ヤッタゼ」

「よし、いける……いけるぞ! 頑張れムッ——」

 

 

 

《ねえねえムッツリーニ君》

《……………なんだ?》

 

 

《そろそろその紙の中身、ボクにも見せてくれないかな?》

 

 

「「えっ」」

 

 思わず僕と大悟が同時にハモる。……うん?

 

《……………断る。これ以上表沙汰に出来ない》

《えー、いいじゃない別に》

《……………駄目だ(フルフル)》

《ちょっとだけだからお願いっ。ムッツリーニ君っ》

《……………しつこい……諦めろ(フルフル)》

《むーっ……本当に頑固なんだから。……それならっ》

 

 やけにイラストの中身に興味津々な工藤さんにそれを嗜めるムッツリーニ。

 えっと、あの、工藤さん? 君は一体何をしようと、

 

《えいっ(チラッ)》

《ッ! ……………き、貴様……ッ!!?(ブッシャァアアア)》

 

 

 制服のボタンを外してムッツリーニに見えるように胸元を露出させた。ムッツリーニは彼女のそんな突然の行動にいつものごとく鼻血を勢いよく噴出し、大きくよろける。

 その隙を狙い、工藤さんはムッツリーニの手に持っていたイラストを奪い取った。

 

《ヨシッ♪ ゲットだね(パシッ)》

《……………や、やめろ工藤愛子……それ、だけは……!(ビクビクビク)》

《アハッ、ダイジョブだよ。ボクだってそれなりに耐性はあるんだから》

《……………欲に溺れたか、愚か者……っ!》

 

 ムッツリーニの制止を軽く笑い飛ばし、工藤さんは二つ折りにされたイラストを開こうとする。

 まずい! よく分からないけど、このままだと何かとんでもなくヤバいことになりそうな気がする! するとどうやら大悟も同じ予感をしていた様で、

 

「く、工藤さんっ! 待つんだ!」

「ッ! やめろみるくたそ! それを開くなァァ!!」

「あ、明久君? 岡崎君?」

「どうしたのよ二人とも? そんなに慌てて」

 

 隣で姫路さんと美波が何か言っている気がするが、今は構っていられない。

 僕や大悟がやめろと叫ぶが、当然彼女には僕らの警告なんて聞こえるわけもなく、

 

《どれどれっ、と———》

 

「「やめろぉぉおおおーーーっ!!!」」

 

 ———無情にも、それは開かれた。

 

 

 

 

 

 

《ゔぉあ”ぎゃァァア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”!!!》

 

 

 

 

 バタッ……ブクブクブク……

 

 

 

『『『何ぃいいいいいいいいいいーーーっ!!?』』』

 

 

「きゃぁあああぁぁぁああ!!?」

「なによ!? どうなってるのよ!?」

「あ、愛子!? どうしたの!? 愛子ー!」

「……早く、誰か愛子を保健室にっ!」

 

 女の子から発せられたとは思えないほどの声量と声色で悲鳴を上げ、工藤さんはその場に倒れて動かなくなってしまった。白目を剥き、死にかけの虫のようにピクピクと全身が痙攣し、舌を突き出して口からは大量の泡を吐いている。いつものボーイッシュで爽やかな清涼感のある女の子の姿は一気に消え去り、目を背けたくなるほどのグロテスクなものに変貌してしまっていた。

 そんな彼女を見て再びパニックに陥る僕らの教室。特に女子勢にはショックが強すぎたのかキャーキャーと叫び、慌てふためいている。

 

「な、なんじゃあ!? 次から次へとどうなっておるのじゃ!」

「おい大悟。工藤に何があったんだ! あのイラストが原因だろ!?」

「そうだよ……クソォっ! みるくたそ……馬鹿な真似をしやがってェ!」

 

 頭を抑え悲嘆にくれる大悟。コイツ自身もこんな事に、しかもそれが敵の策略や嫌がらせの類いじゃなく、味方側の完全なるヒューマンエラーによっておきてしまうとは思っていなかったんだろう。流石に僕は『あんなイラストを持たせたお前が悪い』とは言えなかった。

 工藤さんはもうこの肝試しに参加続行は不可能だろう。いや、最悪このまま病院送りになってしまうかもしれない。

 

「落ち着いて皆! まずは工藤さんを救出して———」

 

 ———あっ。

 

「……ああ」

「ん、明久。ずっと何を見———」

 

 

 この時、僕は起こり得る最悪の事態に直面した。というより……直面してしまった。

 悪い事というのは、連続して起きるもの。偶然か、はたまた神のイタズラか……もしくは悪魔の罠なのか。いずれにしても、この時この瞬間こそ僕———吉井明久という人間の人生において最も苦痛と絶望、恐怖を味わった瞬間だと言えるだろう。

 勉強も、鉄人の暑苦しい補習も、たまの美波の折檻行為も、姉さんの過ぎる愛が故のお仕置きも———これまで辛く苦しいものだと思い込んでいたものの全てが、過去の遺物と化すのに時間は要らなかった。

 

 気絶した工藤さんが勢いでカメラを手放してしまい。

 そのカメラが地面に倒れ。

 明後日の方向を指しており。

 その方向には、工藤さんの右手———もとい、そこに掴まれていたイラストが()()()()()()()()()()()()()()()()()()モニターいっぱいに映っている。

 

 

 

『『『……………』』』

 

 

 

 

 年季の入ったしわくちゃの裸体。

 お役御免とばかりにデロンと垂れ下がった乳房。茶色どころかほぼ真っ黒な乳首。

 全身に塗りたくられた下痢状の便。

 『旧式肉便器』『リサイクル◯◯◯』『正正正』という生々しい文字の羅列。

 椅子に座らされ、目の前の机の皿の中には山のように盛られた糞便や尿、謎の白い液体が交じりあった排泄物の塊。それをまるで大好物だと言わんばかりに歓喜と悦楽の表情で貪るように食べている———

 

 

 

 ———そんな、学園長(ババア)(風)の醜悪イラスト。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『『『うぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!』』』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ———僕らの楽しい学び舎は、絶叫と嘔吐でいっぱいになった。

 

 




汚くてごめんなさい。

感想、意見などありましたらよろしくお願いします。

原作七巻の野球大会編、入れるかどうか迷ってるんですけどどうしましょう?

  • 入れろ、絶対に
  • 別に入れなくてもいいよ
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