【外伝開始】メソポタミアの冥界でエレちゃんに仕えたいだけの人生だった…。   作:土ノ子

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 皆さま、この度は冥界DASH企画への多数の参加、誠にありがとうございました。
 今後もアイデアの方は募集中ですが、ひとまず採用するアイデアやストーリーの骨格がまとまったことを報告いたします。

 これより冥界DASH企画もとい、幽冥永劫楽土クルヌギア編のオープニングでございます。
 冥界に生きた皆が自重と限界を投げ捨てた十年後をご覧あれ。

 なおお遊び要素として《名誉ガルラ霊》の皆さまもちょこっとですが、本編に登場しております(多分次話でも少し出ます)。楽しんでいただけるなら幸いですが、もし気になる方がおられましたらその旨作者まで連絡をお願いします。出来る範囲で修正したいと考えております。

 では本編をどうぞ。



幽冥永劫楽土クルヌギア


 冥界第二の開闢と呼ばれたあの日から十年が経った。

 そして俺は今、十年が経つ中で幾つもの大きな変化を迎えた冥界をエレちゃん様とともに高みから眺めていた。

 

「美しい光景なのだわ」

『まことに』

 

 思わず、という風に漏れた慨嘆に相槌を打つ。

 それを追従とは思わない程、眼下の光景に冷え冷えと殺風景だった冥界の面影はなかった。

 

 霊魂が剥き出しのまま槍檻に収められるばかりだった死者達は、かりそめの肉体を与えられ冥界の住人として大地を闊歩していた。

 

 死者の魂魄を苦しめていた身を切るような寒さは冥界を囲うようにその最外縁に敷かれた溶岩流路によって温められ、快く暖かい空気に満ちている。

 

 水一滴も望めなかった乾いた大地はエピフ山の地下伏流水を水源とする河川によって潤され、冥界の住人達へささやかだが十分な水の恵みを与えている。

 

 溶岩路の地熱と河川の水を上手く利用することで冥府原産の温泉すら生まれ、冥界と地上の双方に温浴という娯楽を提供している。

 

 果てのない深淵の暗闇は地表から冥界までを貫く形で埋め込まれた複数の巨大な水晶製光ファイバーがもたらす淡い陽光によってその帳を払われた。

 

 植物一つ存在しなかった冥界で、今では世界各地から持ち帰られた冥界に適応した特殊なザクロや不凋花(アスフォデルス)葡萄(ブドウ)が種類が少ないながら繁茂し始めている。

 

 地上から冥界深部へ続く一本道以外は獣道すらなかった大地には流通の動脈となる道路網が数多張り巡らされ、その上を数多の霊魂とガルラ霊達が規律良く動き回っているのがよく見えた。

 

 高見から見下ろす冥界は平穏で、穏やかな活気があり、死者達の顔に静かな喜びはあれど苦痛への恐れは無い。その営みは地上と異なる異質さを備えながら、地上よりも穏やかで緩やかな輪環の中にあった。

 

 そして俺自身も十年前には考えもしなかった、冥界の片隅に眠る友の形見を元に生み出した肉の身体に宿り、エレちゃん様に仕えている。

 

 一柱の女神を筆頭に、その直臣と《個我持つガルラ霊》十余万騎、末端の《個我持たぬガルラ霊》が数十万騎。この莫大なマンパワーが冥界のために十年という歳月をかけて昼夜の区別なく駆けずり回った成果だった。

 

「……冥界は、変わったわ。きっと良い方に」

『はっ』

 

 冥界を広く一望できる高所から己が版図を見下ろし、心を過去に飛ばし遠い目をしているエレちゃん様に頷く。

 

「……それ以上に変わり者が増えたかもしれないけれど」

『はっ』

 

 せやなって(真顔)。

 今度は全く別の意味で遠い目をしているエレちゃん様に同じ語調で同じ相槌を返す。

 うん、正直そこを言われたら返す言葉は無いです。

 

「《個我持つガルラ霊》達、皆いい子よね。真面目だし、働き者だし、基本的に善意で動くし」

 

 付け加えるなら溢れんばかりの個性の持ち主で、大半がエレちゃん様を信奉しており、熱意一つで世界の果てまでイッテ(キュー)を徒歩オンリーかつノンアポで実行に移しかねない根性の持ち主でもあった。

 冷静に考えなくてもキャラクター濃すぎない? しかもそれが約十余万騎、更に極まったのが六十六騎ほどいたりするとかいう冥界の魔境っぷりが凄い。あるいは酷い。

 

『はっ。みな善良かつ勤勉です。流石はエレちゃん様の分霊かと』

「それがたまに信じられなくなるんだけど…」

『分かたれてからの歳月がそれほど大きな影響を彼らに与えたのでしょう。頻繁ではないにしろ死者達との語らいも彼らの個性獲得に繋がったと考えられます』

 

 善きガルラ霊は全員がエレちゃん様から分かたれた分霊であるはずだが、それぞれのキャラクターは千差万別だ。特に個性が極まった六十六騎のガルラ霊には男性人格も多く、いわゆる『親』であるエレちゃん様の面影はない。

 

「……まあいいわ。みな良く冥界のために尽くしてくれます。私にとってはそれで十分」

 

 細かいことには目を瞑りますという副音声が聞こえた気がするが、俺も精神衛生上そちらの方針をお勧めします。

 基本的に自由にやらせておけば成果を上げてくる頼もしい戦力であることにも間違いはないのだ。

 

『それだけ皆はエレちゃん様を、冥界を大事に思っていたのでしょう。だからこそ自分たちの力を求められたあの日、皆は喜びに沸いたのでしょう』

 

 エレちゃん様が威厳に満ちた誓約を交わしたあの日のことはまるで昨日のことのように思い出せる。

 正確には忘れたくても忘れられないというか…。

 だからこそあの日の目に焼き付いた光景について、俺はこう表現する。

 

 あの日の冥界(ガルラ霊)は間違いなくオクスリもといエレちゃん様をキメていた…と。

 

 何を言っているか分からないと思うが俺も何が起こっているのか分からなかった。

 それくらい《個我持つガルラ霊》達がエレちゃん様によって自由を許された時の反応は劇的だった。

 

 エレちゃん様を称える鳴りやまぬシュプレヒコール、これからは冥界のために自由に働いていいんですねヤッターと諸手を上げて喜ぶワーカーホリックなガルラ霊、暴走一歩手前の熱意で冥界にとっての()()を見つけ出すため世界の果てまで旅立とうとしたヤベー奴、エトセトラエトセトラ。

 

 え? え? なに、なんなのこれ? と直前の大演説で見せた女王の威厳が面影もない程あたふたしていたエレちゃん様を眼福と思う余裕もないくらいの狂騒が冥界に満ちていた。

 

 それからは膨れ上がったマンパワーが生み出す怒涛のような仕事の波に飲まれ、もう無我夢中で走り続けた十年だった。

 

『冥界のため、エレシュキガル様のため、我らに休んでいる暇などないぞ統括個体!』

『然り! 然り!』

『さ あ 仕 事 だ !(ガッツポ)』

 

 大体こんな感じ。

 お前らウキウキで仕事に励み過ぎじゃない?

 過労死待ったなしの労働環境である、もう死んでいるけど。冥界では過労死することすら許されないとか文明の暗黒面に堕ちてしまいそう。

 いや、俺に限ってはエレちゃん様の喜ぶ顔を想像して気力充填してなんとか出来るから良いんだけど。

 《個我持つガルラ霊》達も基本的に全員善意と熱意で動いているから断り切れないのだ。何よりも本人たちが不眠不休で働き、割と元気一杯に見えるから尚更である。

 肉体を持たないからこそ気力=体力が押し通せる冥界でなければ軽く百回は過労死していた確信があった。

 

 だからこそこの十年間無数のガルラ霊によって変革を起こし続けた冥界には自負を抱いている。

 

 もちろん完全ではないだろう。だが少なくともエレちゃん様が求めた『比類なき死者の楽土』、その原型は出来上がったと自負している。

 地上から齎される信仰も十年前とは比べ物にならないほど膨れ上がり、現在では冥界を維持するための神力の消費量を明らかに上回っている。

 残る諸問題も時間をかけて片付けていけばいい。

 かつて孤独な女神が支えていた冥界にも、数多の部の民が生まれ、彼らの協力を得ることでようやく余裕と時間が出来たのだから。

 

「そうね…。みな、本当によくやってくれたのだわ」

『そのお言葉があれば、彼らも報われましょう』

「ええ。喜ばなければね、彼らの献身といまの冥界の在り方に」

 

 そう考える俺とは裏腹に、エレちゃん様が浮かべる喜びの中にも一抹の陰が差していた。

 その刹那の陰を、この時の俺は見逃してしまったのだった。

 




 まず皆様のアイデアから採用したネタの披露となります。
 繰り返しとなりますが、たくさんのアイデアのご応募ありがとうございました。
 頂いたアイデアの質と量が想定より大幅に上回ったなというのが素直な感想です。
 アイデアとして採用出来なかったもの、またはこのお話ではまだ登場していないアイデアなどもあります。
 お読みいただく中で心当たりがあるアイデアにはクスリと笑う感じで楽しんでもらえたら幸いです。

 今後は過去の回想という形でダイジェスト方式に細かい部分を描写していく予定となります。
 その分リアルタイム感は薄れるかもしれませんが、お話を短くまとめるための工夫でもありますので、どうかご容赦ください。
 今後とも本作をよろしくお願いします。

 それと感想も是非(食い気味)。
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