【外伝開始】メソポタミアの冥界でエレちゃんに仕えたいだけの人生だった…。 作:土ノ子
内容的にはあまり関わらないので、気にせず読んでいただけますと幸いです。
冥界第二の開闢と呼ばれたあの日。
冥界中が
まあ無理もないというか俺自身目がポカーンである、目とか無いけど。
『エレシュキガル様! エレシュキガル様! エレシュキガル様!』
最も目立つのは声を合わせてエレちゃん様を称えるシュプレヒコールを続けるガルラ霊達だろうか。
それ以外のガルラ霊も多かれ少なかれ興奮状態にあるようだった。
とりあえずはやる気を漲らせた十余万騎のマンパワーが手に入ったのが一目で分かる。
これは疑う余地なく慶事と言えた。
なにせこれまでの冥界では頭になって動けるのが俺とエレちゃん様の二人しかいない。
まともに大掛かりなことをしようと思ったらキャパシティオーバー待ったなしの状況だったのだから。
とはいえ今の状況はあまりよろしくない。
過ぎたるは猶及ばざるが如しという言葉もあるのだ、今よりも大分未来にだが。
『エレちゃん様、この状況を収める術について献策申し上げます』
「聞きましょう。いえ、もう何でもいいからこの混沌を何とかしてぇっ!」
涙目で雨に震える子犬みたく震えるエレちゃん様可愛い…。
前から思っていたけどエレちゃん様想定外の事態に弱いですよね。
もとい、献策である。
とりあえずこの無秩序なやる気に満ちた冥界が本格的なカオスに叩き込まれる前に一刻も早く秩序を取り戻さねばならない。
その献策をエレちゃん様の耳にボソボソと耳打ちする。
すると目の前で
凛々しく顔を引き締めたエレちゃん様も素敵だなぁ…。
この時、表舞台に立って身体を張るのはエレちゃん様なので、そんな風に呑気に構えていられる余裕のある俺であった。
『我が眷属よ、我が声に耳を傾けなさい!』
冥界に響く大喝。
彼らの主にして心棒の対象であるエレちゃん様からの一喝だった。
上位者から呼びかけ、この混乱を統制する。
ごく当たり前だが、それ故に有効な献策。
するとあれほど冥界中に木霊していたざわめきが一瞬で静寂を取り戻した。
ヤバイな、これ傍から見てても地味に怖いぞ。
精神的に隙の多いエレちゃん様は大丈夫か…?
『…ッ! これより貴方たちに指示を下します。良く聞くように』
一瞬無音無形の圧力に怯んだのが遠目からでも分かったが、エレちゃん様は慌てそうになるのをグッとこらえて俺が耳打ちした通りの内容を叫んだ。
『貴方たちに与えた自由は冥界のために使われるもの。そして冥界に浪費して良いものなど何一つありはしません。心の熱はそのままに、軽挙妄動は慎むこと。後ほど皆により詳細な指示を出します』
今は落ち着き、勤めに戻りなさいと言葉を続けると際限なく高まりそうだったガルラ霊達のボルテージが見る間に沈下していった。
それを見て何とかなったか、と安堵の息を吐く。
やる気があるのは結構だが、それを無秩序に暴走させるのは愚の骨頂。
彼らはエレちゃん様の分霊。その霊体を構成する神力もまたエレちゃん様のもの。
ならばその神力を
組織化し、秩序を敷き、然るべき課題に向けてその意欲を発揮してもらわねばならない。
ただやる気があればいいと言うものではないのだ。
「何とかなったのだわ…」
『はっ。流石でございます。エレちゃん様でなければ彼らを抑え込むことは叶わなかったでしょう』
「そうかしら?」
『そうです』
いや、本当に。
仮に俺が同じことをしても耳を傾けるガルラ霊など十人もいれば多い方だ。
カリスマと言うには威厳が足りないが、エレちゃん様の
少なくとも十余万騎のガルラ霊がただその言葉だけで意に従った実績の持ち主であることは確かだ。
「それで…それでね?」
『はっ!』
とりあえずガルラ霊たちは落ち着いた。
とりあえずでしかないが、時間を稼ぐことは出来たのだ。
「……あの子たち、どうしようかしら?」
『どうにかするのです、エレちゃん様。俺と、貴女様で』
今にも泣きそうな困り顔のエレちゃん様も可愛いなぁとこっそり癒されつつ、言葉だけはキリッと返す。
実際問題彼らが冥界のために働く意欲に溢れた、得難い人材であるのは間違いないのだから。
極論俺たちが最も注力すべきは彼らの力を最大限に生かす環境づくりと言えた。
「何から手を付けましょうか…」
『まずは彼らが冥界のために働く下地を作り上げるところから始めましょう』
それ故に俺が真っ先に手を付けたのは、《個我持つガルラ霊》達の組織再編だった。
「こ、これで本当にいいの? 貴方が大変なんじゃ…」
『もちろんダメですが、始まったばかり故致し方ありません。できる限りすぐに改善しなければ私が死にます…。いえ、もう死んでいますがとにかく冥界が回らなくなります』
エレちゃん様と相談して決めた、最初期の冥界の組織図は恐ろしく単純な形。
即ち女神エレちゃん様を筆頭に据え、直臣たる俺が十余万騎の《個我持つガルラ霊》達を統率、更に《個我持つガルラ霊》達が必要に応じて《個我なきガルラ霊》を部下に持つという極端なモップ型の組織図である。
はい、どこが死ぬか一発で分かる奴ですね(白目)。
事実として不眠不休で組織化に努める俺は一週間で音を上げた。
対応しても対応してもやってくるガルラ霊の波に呑まれたのだ…。
尤も音を上げても現状は変わらなかったのでそのあともなんとか頑張ったが。
「ダ、ダメなら…」
『なのでエレちゃん様には出来るだけ多くのガルラ霊たちと触れ合っていただき、使えそうと思えばすぐこちらに寄こしてください。多少無理を強いても諸々励んでもらいます故』
もちろんあくまでこの組織図は仮のものであり、すぐに俺の下に数多のガルラ霊達をグループ化するための人材を配置した。
エレちゃん様に見いだされたり、俺相手に冥界改善のための
のちに《開闢六十六臣》と呼ばれた冥界のガルラ霊達のまとめ役兼ご意見番たちだ。のちにさらに多くのガルラ霊がまとめ役として加わったが、最初期の貢献者としては彼ら六十六臣の名が知られている。
特に俺付きの秘書じみた役割を買って出てくれたガルラ霊には助けられた。個性とパワー溢れるガルラ霊達の献策をまとめる働きが無ければ、さらに俺にかかる負担は増したはずだった。
尤も冥界のガルラ霊に役割はあっても地位は無い。
《開闢六十六臣》の名も名誉称号ではあっても権力とは結び付かない。
皆エレちゃん様の下に平等だ。
それはいなくなっても替えが効くという意味では、極論宰相じみた役割を務める俺も例外ではなかった。
ウルクとの契約を十全に果たすため、ギルガメッシュ王との協議で得た猶予時間を考える。
与えられた猶予の間に何とか冥界を最低限動かせるだけの体制に持っていかねばならない。
そしてその時間の間、恐らくは一瞬たりとも休んでいる暇はないであろう現実に、ほんの少しだけ憂鬱さを覚えるのだった。
なおどんなに憂鬱だろうがエレちゃん様からの労いを貰った瞬間に魂ピカーして元気いっぱいになる模様。
内容的にはまず冥界の膨れ上がったマンパワーを統率するための組織再編。
細かくやっていくとリアリティの問題で死ぬので詳細はご勘弁を。
次は冥界の将来図、グランドデザインについての予定です。
余談
《個我持つガルラ霊》が十余万騎云々:
前話投稿時点のUA数から。
《開闢六十六臣》:
前話投稿予約までにアイデア投稿して頂いた方々。名誉称号。
特に実益は無いがエレちゃん様のために他より多く働きを示した証明。
タイミングなど特に意図してないが、何か厨二魂的に良い感じの数字になった。ちょっと驚き。