【外伝開始】メソポタミアの冥界でエレちゃんに仕えたいだけの人生だった…。 作:土ノ子
『お初にお目にかかります、エルキドゥ殿。ギルガメッシュ王が誇る最強の
出会えて光栄です、と頭を下げると彼/彼女は涼やかに微笑んだ。
「初めまして。僕はエルキドゥ。君の言う通り、兵器だ」
緑髪を風に靡かせ、穏やかな笑みを浮かべる姿は兵器という言葉からは程遠い。
だがギルガメッシュ王から伝え聞いた話の中では、見かけにそぐわない旺盛な戦意と無意識に相手の地雷を踏み抜く名人とのこと。
ギルガメッシュ王にすら「ちょっと我でもどうかと思う」と真顔で言わしめた時はそこまで言われるとはどれだけ強烈なキャラクターなのかと戦慄したものだ。
曰く『ウルクのキレた斧』。
いや、本当に見かけによらないな。
見た目はたおやかで中性的な、まさに『美しい緑の人』なのだが。
「君のことは何と呼べば良いかな?」
『これはご無礼を。私は《名も亡きガルラ霊》。名乗るべき名を黄泉路に亡くしたガルラ霊であります。どうか好きにお呼びください』
「好きに…。困ったな、僕は兵器だからそういう嗜好性が薄いんだ。どう呼べば最も相応しい呼称になるだろうか」
と、真剣な表情で悩んでいるその姿に思わず天然という言葉を連想する。
同時に本人が申告する通りに、
だがそこを愛嬌と捉えるか、違和感を覚えるか。プラスに取るか、マイナスに取るかは恐らく意見が分かれるところだろう。
ギルガメッシュ王やシドゥリさん、そして一応は俺も前者に分類されるのだろうが。
『なに、気楽に考えられませ。相応しき、などと考えずとも好いかと。呼びかけは互いの了承あれば大概は成り立ちますし、変えたいと思えば変えればいいのですから』
「必要に応じて適切な呼称へ変更する。うん、合理的だね。そうしよう」
エルキドゥ殿は悩みが晴れたと表情を明るくさせ、頷いた。
「では暫定で君の呼称をナナシと設定しよう。僕にとって君はエレシュキガルの眷属だけど、呼称に使用するには長くて不便だから」
『心得ました。では、そのように』
それは傍から見ても奇妙なファーストコンタクトだったろう。
なにせ俺自身がそう感じているからな。
だが、まあ、なんと言えば良いのか。
上手く言えないのだが、エルキドゥ殿のキャラクターは中々趣深いというか、面白いというか。
身も蓋もなく言えばなんかこの感じは好きだ。
うん、いいな。是非このまま良い感じの関係を築きたいぞ。
『御身と縁を結べたのは私にとって幸いです。どうか末永くお付き合い頂ければ』
「うん、よろしく」
俺の本心からの言葉にふわり、と捉えどころのない笑みを浮かべたエルキドゥ殿。
だが次の瞬間にはひどく真剣に悩んでいる様子を見せた。
「……ふと考えたのだけれど」
『なにか?』
「僕と君の関係について如何なる定義を用いればいいだろうか? 僕は
うーむ、人によっては地味に気にするところを誤解を招きそうな発言で躊躇なくぶっこんで来るな。
死霊であることでエレちゃん様の眷属になれたと肯定的に捉えている俺でも思わずおいおいと言いたくなる台詞だ。
地味にトモダチじゃない発言も、悪く受け取ればこれから肯定的な関係を築く気は無いという風にもとれる。
まあ悪意が一切見られないことだけが救いだな。
『ウルクのキレた斧』の異名はこういう天然発言の数々から生まれたのかもしれない。
『我らは互いに噂を耳にしているものの、こうして顔を合わせたのも初めて。ならば知り合い、知人という関係でいいのでは?』
「知り合い…なるほどね」
『ええ、それに知り合い、知人とはそこから如何様な関係性にも発展しうるもの。友人、家族、主従、同輩、仇敵…。願わくば良き関係と成りたいものです』
「うん、それは僕も同じだ。もしかしたら君が生命を持たない初めてのトモダチになるかもしれないね」
『それはまさに幸甚の至り。かくありたいものです』
目を細めて嬉しそうに笑うエルキドゥ殿。
初めての友人(死霊)を得ての喜びか、はたまた未知の関係に対し興味を抱いているのか。
どちらにせよ、彼/彼女とは良き関係を築けるよう努力するだけだ。
しかしこの時の俺は知らなかった。
ギルガメッシュ王唯一の『友』、エルキドゥ殿に対してギルガメッシュ王がどれほど面倒くさい感情を抱いているのかを。
具体的に言うとエルキドゥ殿は『友』に対するハードルは低めなのだが、ギルガメッシュ王はことあるごとにエルキドゥ殿の『友』に対して色々と厄介事を吹っかけてくるのである。
「ならその一環で提案を。さっきの話、理解していると思うけれどとても危険だよ?」
『で、ありましょう』
さっきの話、つまり俺が日を改めてエビフ山のイシュタル様を祀る神殿へ赴くことだろう。
「あの邪神が自らの掌に飛び込んできた君を、犬猿の仲であるエレシュキガルの眷属を無事に返すとは思えない」
『かもしれません』
「なんなら僕が君に同行してもいい。君の安全は僕が保証する。どうかな?」
さて、この提案をどう返すべきか?
中々悩みどころではあるな。