【外伝開始】メソポタミアの冥界でエレちゃんに仕えたいだけの人生だった…。 作:土ノ子
冥界に念願の日差しを僅かなりとも取り入れることに成功。
その報せを耳にした冥界のガルラ霊達は沸いた。
冥府に太陽の恵みを呼び込む。
そのただ一事がどれほどの大事業か、エレちゃん様の分身であるガルラ霊達が知らないはずが無かった。
無論その大事業を完遂させたのは膨大な下積みがあってこそ。
そこには少なからず《個我持つガルラ霊》達の働きがあった。
だからこそ主の大偉業に続けと、ガルラ霊達は奮起した。
『や っ た ぜ !』
『Fooo↑↑』
『もっと、もっと冥府のために働けるはずだ! 休んでいる暇は無いぞ筆頭!』
奮起したというかウッキウキだった。
冥界のために更に働けることに喜ぶワーカーホリックどもばっかりだった。
あと最後の奴最近ガチで四六時中休みが無いんだ。多少は勘弁しろ。
『出 来 た !』
『マジかよ有能』
『テッテレテッテテーテテー!』
おいそこのドラ〇もんの効果音口ずさんでる奴、あと数千年ばかり自重しろ。
さておき、奮起した成果こそが冥界各所に設置された魔術礼装《宝石樹》である。
色々とふざけている奴が多過ぎるが、その設計思想はガチだ。
宝石や結晶、鉱石を元に生み出された、将来的な冥府のインフラ整備のため各種機能を搭載された魔術礼装。
その機能の一つとして光の伝播がある。
現状合計七本エレちゃん様によって作り出された大水晶―――《玻璃の天梯》から齎される陽光を余すことなく冥界全土へ伝えるのだ。
とはいえ現状はまだまだ採光できる量が少なく、《宝石樹》の数も十分ではない。
だがいずれはもっと明るさを、暖かさを冥界に伝えることが出来るはずだ。
『やりましたな』
「ええ、皆のお陰よ」
『何よりもエレシュキガル様が培われた努力の賜物かと』
「……ありがとう」
エレちゃん様とはそんな会話を交わしたりもした。
そうして《宝石樹》敷設完了後、全てのガルラ霊へ知らせ、冥界は三日三晩騒ぎ倒した。
その中にはもちろんあらゆるガルラ霊から感謝と寿ぎと忠誠とあと色んな言葉を懸けられてあたふたするエレちゃん様の姿があったのは言うまでもない。
◇
『では次です』
「ええ、頑張っていくのだわ!」
さぁてワーカーホリック上等のお仕事おかわり行きますよー。
忙しなさすぎるがしょーがねーのだ。ひと段落にはまだ遠く、人の数が増えるのはもっと早い。いまも地上で人の数は増え、冥府へやってくる霊魂の数も増えつつある。
『光によって明るさと暖かさを僅かなりとも得られたとはいえ、まだまだ不足なのも確か』
「そうね…。でも現状これ以上水晶片の余剰は無いわ」
『で、あるならばまた別の方策を考えるまで。光は無理でも、暖かさならば』
「ふぅん。具体的には?」
『冥府の更なる地下の深淵から溶岩を導き、冥府の最外縁に掘った流路に流します』
と、問われたので俺は答えた。
「……よく聞こえなかったのだわ。なんですって?」
『冥府の更なる地下の深淵から溶岩を導き、冥府の最外縁に掘った流路に流します』
もう一度問われたので俺は大真面目に答えた。
「え…え? そんなこと出来るの? 考えたことも無いのだけれど」
『計算上、十二分に。元より冥界は大分地下の深淵に位置します故。広大な冥府のどこかには溶岩溜まりがあると想定され、探索したところ調査班が発見しました。
加えて地下に埋まる事物はエレちゃん様のものと定義された以上、見つけ出した溶岩をこちらの望む流れへと導くのも決して不可能ではありますまい』
普通溶岩は冷えて固まるものだが、そこは流路各所に仕掛けた《宝石樹》とエレちゃん様のお力による合わせ技でなんとかなる見込みが立っている。
問題はそれがエレちゃん様に過剰な負担をかけるのではないということだが。
「ん、んー…。た、多分出来るわ。考えたことも無いけど、出来ない気はしないし」
『ヨシ!』
困惑している様子だが、エレちゃん様はしっかりと頷いた。
第一関門突破である。気分は現場猫のあのポーズだ。
『また同時並行で地下水源の引き込みを進めています。エビフ山を源流とする地下伏流水でして、水源をそこに求めて掘削したところ、あと一息で冥府に作り上げた水路へ引き込めそうなのですが…』
「エビフ山…? ふーん、良いじゃない」
エビフ山と聞いてニッコニコのエレちゃん様である。
あの山にはね、イシュタル様の神殿があるからね…。あれだ、色々と分かりやすいお二人なのだ。
『最後の障害に大岩盤が立ちはだかっているのです。ご無礼かと思ったのですが、我らの力では困難な難題であり、どうか最後の仕上げにエレシュキガル様のお力を振るって頂きたく…』
「構わないのだわ。私の力が冥界の発展に必要だというのなら、どんな難題でもこなして見せましょう」
頭を下げて懇願すると、予想はしていたが鷹揚に受け入れるエレちゃん様。
いまさらと言えばいまさらだが、結局やってることは土木工事だからね。
エレちゃん様は冥府の役に立つなら何でもするという気概があるが、大概の神格ならふざけるなとブチ切れる可能性が高い。
エレちゃん様は親しみ深く、尊く、慈悲持つ女神だがそれでも最後の一線は忘れるべきではないと思うのだ。
『しからば、最後の仕上げをこの者達と共に済ませて頂きますれば。どうか仔細は彼らからお聞きください』
と、この時に備えて近くで待機していたガルラ霊達を紹介する。
「あら? 貴方は行かないのかしら?」
『この案は彼らが提出し、自らが中心になって積み上げたものなれば。私には他の仕事もありますし、事業の完成に立ち会う者としてこれ以上相応しい者はいますまい』
既に準備は完了している。
件の溶岩や水路を流すための流路も開通済みだ。
もちろん二種類の流路が絶対に交わらないように計画段階から策定済みである。
下手に溶岩と大量の水が接触すれば水蒸気爆発で冥界の一角が吹っ飛ぶからな…。
この流路は数多のガルラ霊が絞り出した血と汗と涙で掘り進めた努力の結晶である。まあ血も汗も涙もガルラ霊は出さないけどな!
とにかくこの件で案を出し、死ぬほど苦労したのは俺ではない。
ならばエレちゃん様とともに、その完成を見届けるのは彼らこそ相応しかろう。
視線を向ければ、苦笑らしき気配を示すガルラ霊達。
応、まかせろ、行って来るぜと皆力強く請け負ってくれる。俺も応えるように頷いた。
「……分かったわ。それじゃあ、行って来るわね」
『はっ。お帰りをお待ちしておりまする』
そんな俺を、どこか見透かしたような視線で見たエレちゃん様は一つ笑いをこぼした。
そうして発案者である《開闢六十六臣》に連なるガルラ霊達を引き連れ、コトを為した。
結果は滞りなく、想定通りに済んだと言っておこう。
いまの冥界は溶岩から取り入れた暖気によって霊魂が凍えることは無く、無味乾燥な大地はエビフ山の伏流水から引いた河川が潤している。
それとこれは誰も予想していなかったのだが、溶岩路と水路が接近する一部領域で、地熱で以て暖めた温水に浸かるいわゆる温泉が後の冥界の名物となる。
これは度々自死しては冥界にやって来るギルガメッシュ王にも好評を博し、地上でも類似の施設が作られたりもした。なおギルガメッシュ王曰く、一番は悔しいが天然温泉である冥府のものだとか。
その言葉を聞いたエレちゃん様は全力のドヤ顔を披露した。
ちなみに気軽に冥府にやって来てはひと時温泉を満喫した後、リフレッシュして地上へ生き返っていくギルガメッシュ王にエレちゃん様は渋い顔をしており、その仲裁に度々俺が駆り出されることになった。
いや、ほんと勘弁してくんねーかな…。
出来ることとやりたいことと毎回全部出来るかってことはまた別の問題なんですよ。