なぜという疑問への解答のひとつかと。
「ようやくだね」
「ああ。長かった…… ここまで、本当に、本当に……」
どことも知れぬ、暗がりの中。
何人ともわからぬ大勢の者たちが、何の支えもなしに宙に浮かぶ、不可思議な鏡を取り囲んでいた。
その鏡は大きいような、それほどでもないような。輪郭もはっきりとせぬボヤけた存在だったが。
そこに映し出される光景だけは、見る者たちにハッキリと見えた。
「頑張って」
「負けるな」
鏡を見る者たちは、拳を握って小さく声援を送る。
ここから声は届かないだろうとわかっている。だが祈るように、彼らは勝てと真剣に念じていた。
「勝てよ…… その為に、我らは
ある者が、そう口にした。
常に人手不足な組織に、入ってくる新規の人材を削る事になろうとも。
いずれ柱に届いただろう人材が消えようとも。
ただひとり、最後の切り札が仕上がる道筋になればよい。
そういう非情の手を使ったと。誰はばかる事無く告白した。
「そうだな、その為に。日の呼吸の剣士を消し去る手助けをしたのだ」
「ああ、それは私もやりましたよ。何もいい事がなかったので、正直、自分の勘を疑ったものですが…」
「自分の代ではなくとも、こうして無惨を追い詰めるため、日の呼吸との対峙を縁壱殿のものに限定し、それ以上の経験をさせぬため」
「また最初にあの子が無惨に出会った時に、無惨に日の呼吸を恐れての逃走を選ばせるため、か」
その告白を責めるどころか、同感だとばかりに他の者たちも自らの行いを告白する。
いくら縁壱の兄が鬼になったとはいえ、呼吸という力をもたらし、無惨を取り逃がしたとは言え撃退した最強の剣士を追放するなど、普通はしない。
強力だった日の呼吸を復活させようとしない事も、ありえない。
また、無惨は首を切っても死ななかった。脳や心臓が複数ある。などの証言を残しておかない意味がわからない。
ついでに言うならば、確実に強敵として立ちはだかってくるだろう鬼になった兄、黒死牟の呼吸の詳細や存在を抹消する意味も、やはりわからない。
鬼全般に対する、鬼殺隊の隊員らの憎悪が深すぎて、感情的に処置してしまったのだろうか?
鬼殺隊には身内を殺されて剣を取った人間が多いので、わからないではない。
だがそれは、一般隊員の話だ。
ここに集った者たちは、そうではない。
ここにいるのは。その上に立つ産屋敷の当主だった者たち、その
死した後、無惨の呪いのせいなのか。はたまた無念ゆえか。
彼らはこの世ではないが、あの世でもないここに、こうして こびりついて現世をただ見つめているのだ。
「そういえば、赫刀を失伝させたりもしましたね」
ある者が、少し恨みがましくそう言ったが。
「わかっているでしょう? 赫刀だけでは無惨に届かない」
「だが上弦には届く。届いてしまう」
「そしてより強い上弦を無惨が作り出してしまう、ですか」
他の歴代当主らに口々にやりこめられてしまい、ため息をついて不満を引っ込めた。
何を口にしようが、彼らは共犯だ。
鬼舞辻 無惨を殺すため。その命に手が届くまで犠牲を積み上げ続けた、首謀者の一族だ。
熱と圧力を与えれば、赤く輝き、日輪刀は本来の力を発揮する。
刀を鍛えるために、火にかけ叩く鍛冶士ならば、見習いですら知っていそうな、そんな豆知識すら奪って隠していた。
他にも色々と、色々と。表に出せぬ事はあっただろう。
隊員たちを自分の子供たちと口にはしながらも、常に彼らを犠牲にし続けた。
そうした果てに、今。最後の犠牲が刀を振るっている。
竈門 炭治郎
自分の命以外を何とも思わぬ ひとでなし を殺すため。
そのために、命の尊さを知りながらも、命を使い捨ててきた ひとでなしたち の思惑通りに。
最後の犠牲が、刀を振るう。
願わくば――――
――――彼がせめて、本当に最後の犠牲でありますように。
炭治郎の成長のために必要、もしくは無惨討伐に必要だと、お館様の勘で判明しちゃったから、わざとそういうふうに実行されていたんだよ!
という理由をつければ、鬼殺隊へのツッコミはだいたい解決できるなって気付いてしまったんや……
そして実際にやってそう。