あるところに一人の少女がいた。
少女は平凡な夢を持っていた。
彼女は幸せになるはずだった。
注意
東方要素はないです。
神話を東方よりに無理やり改変しました。
主は歴史弱いです。
昔々のお話です。どれくらい昔かというと、まだ太陽が10個もあったような時代です。
とある国の王宮に、天真爛漫な少女がおりました。少女は皇族の娘であり、身分は高かったのですが、その純粋さと愛嬌の良さから多くの人に愛されていました。
それに、少女は努力家でした。夜遅くまで習ったことを復習して、次の日には完璧に仕上げてくるのです。
少女の部屋からは、毎晩つまずく音や、ああでもないこうでもないと呟く声が聞こえてきました。
その姿がまたかわいらしく、少女にばれないように、試行錯誤している少女の姿を覗くのが流行ったほどです。
また、その少女は文句なしの美少女で、特に黰黒の髪は誰もが羨みました。その美しさから、美しい黒髪を持つ女性という意味の名前でも呼ばれました。
「私、素敵なお嫁さんになって子供を育てて、幸せに暮らすんだ。」
少女は毎日のように、そんな夢を語っていました。どこにでもある、ごく普通の女の子の夢でした。
「元気、勇気、諦めない!」
少女はこの言葉が口癖でした。それを言うたびに何か頑張れるような気がしてくるのです。周りの人々も幸せそうな少女を見て癒されていました。
そんな少女もついにお嫁に行くことになりました。美しい彼女にふさわしい、かっこいい男性でした。
約1年経ち、彼女は母になりました。生まれたのは元気な男の子で、彼女とその夫は手を取り合って喜びました。
「私、絶対にこの子を優しい子に育ててみせるわ。一緒に寝て、たくさん遊んで、私もこの子も幸せになるの。」
彼女は幼いころからの夢をかなえるためにたくさんの愛情を注ぎました。少しでも子供の体調が悪かったならば、一日中その子のそばで過ごしました。
そんな、彼女の献身のおかげか、その男の子は大きな病気や怪我をすることなく、すくすくと大きくなって立派な少年になりました。
「僕はお母様のように優しくなって、困っている人を助けるんだ。」
少年はかつて、彼の母が夢を語ったように毎日そう言っておりました。彼女はその言葉を聞いてどれだけ嬉しかったことでしょう。
しかし、彼女がそんな幸せの真っただ中にいた頃、その夫は夜に出かけることが多くなりました。彼女は気になっておりましたが、夫を信じて尾行したりすることはありませんでした。
彼女の息子は努力家でした、そして、天才でした。一度読んだ本は暗記しており、武芸も同年代の子とは一線を画しておりました。そのため、彼の地位もどんどん上がっていきました。
そんな彼を疎ましく思う人は大勢いました。そのうち彼は王宮のどこを歩いても陰口を言われ、嫌がらせを受けるようになりました。
彼女は勿論、彼を心配しました。でも、返ってくるのはいつもの笑顔と大丈夫という言葉だけでした。
その頃になると、彼女の夫の外出も過剰と呼べるほどの頻度になってきました。流石の彼女も黙っているわけにはいかなくなり、夫を問いただしました。しかし、夫は返事をはぐらかすといつものようにどこかに行ってしまうのでした。
「私は夫のために何が出来るのかしら。」
彼女は自問自答を繰り返しました。そして、気持ちが落ち込むたびに、口癖の言葉を口ずさみました。
そんなある日のことです。彼女の息子が夜になっても帰ってきませんでした。
その日は彼の誕生日で、彼女はありったけの料理を作って待っておりました。
「どうしたのかしら。」
彼女は冷めた料理を前に一人で座っておりました。その時、廊下から何か大きいものが這うような音が聞こえてきました。
不思議に思った彼女は、扉を開けその正体を確かめると、すぐさま駆け寄りました。
そこにいたのは、全身を矢で射られ、瀕死になりながらも戻ってきた息子だったのです。
「お…お母様…。申し訳ございません…。ただいま戻りました…」
そう言うと彼は動かなくなってしまいました。
彼女は、すぐには何が起こったか分かりませんでしたが、何が起こったのか、起こってしまったのか理解すると、大声で泣きました。
周りの部屋の人たちも、彼女の泣き声を聞き、何事かと寄ってきます。しかし、遺体を見るなり帰っていってしまいました。
彼女はどうしようもなく悲しくなりました。あれだけ頑張っていた息子がどうして?何で?誰が?
いくら考えても答えは出ません。そのまま彼女は部屋に籠って、息子の遺体を抱きながら三日三晩泣き続けました。その間も、彼女の夫が帰ってくることはありませんでした。
四日目の朝、泣き止んだ彼女は息子の遺体を抱いて、弔うための儀式をお願いしました。
しかし、誰もがその遺体を見ると、弔いの儀式をすることはできないと言いました。理由を聞いても誰も答えてくれません。
彼女には怒る気力も残っていませんでした。
その夜、どうしようもなくなった彼女は自分の手で息子を弔うことに決め、山に入っていきました。
何とかことを済ませ、王宮まで帰ってくると、光の付いた小さな窓から息子の名前が聞こえてきました。彼女は何か分かるかもしれないと、その会話に耳を傾けました。
「…もひどい奴だ。盗みを働いて、女性を襲って、庶民には暴力を振るって。死んでくれて助かったよ。王宮内ではあんなに優等生の振る舞いをして恥ずかしくなかったのかねぇ。」
「全くそうだ。彼女の母親はあんなに美しくて、いい人なのに…。美しいものから美しいものが生まれるとは限らないんだね。」
「クスクス、おぬしたちも悪いねぇ。本当はあの人のせいだと分かっているのに。」
「おいおい、それは言わない約束だろ?はははは。」
彼女は絶望的な気持ちになりました。そう、彼女の息子は何者かによってはめられたのです。
もちろん彼女は憤りました。どうにかして、元凶をとらえようと必死でした。
彼女がまず疑ったのは彼女の夫です。しかし、その夫はというと、息子が死んだ次の日に殺されたというのです。理由としては、あのような悪党を生んだ責任を取ってもらうという事でした。
彼女は混乱しました。頭を大きな石の角に何度も打ち付ける程度には。
「こんなのは夢よ。私は…私は努力して…、し、幸せになって、幸せな家庭を築いて…」
彼女は上の空で何度もそう繰り返しました。しかし、どれほどの涙を流しても、どれほどの血涙を流そうとも、その現実は覚めませんでした。
そんな彼女を見かねたのか、息子を殺した犯人が現れました。
その男は、元々神で、太陽を9個打ち落とした伝説の弓使いでした。
「どうしてあの子を殺したの。」
彼女は尋ねます。男は息子のことは詳しく知らないが、命令が下ったので殺したと答えました。
彼女がその答えに納得するはずがありません。そこで彼女は、男を殺してやろうと考え、男の飲み物に毒を入れました。
しかし、ふと彼女は息子の言葉を思い出しました。お母様のような人になりたい。彼はいつもそう言っていました。
彼女は毒の入った湯呑を持った自分の姿を目の前にあった鏡で見ました。その姿は到底、息子に誇れるようなものではありません。
我に返った彼女は、殺すことを辞めました。
数週間後、彼女は息子を殺した男と結婚することになりました。結婚とはいっても、形だけのものです。
彼は結婚をするまでの数週間で、元々あった国に反乱を起こし、奪った土地を自分の国にしました。
そんな勇猛果敢な彼には正妻がいました。男の正妻は、不思議な雰囲気をまとう人でした。聞けば、彼女自身も元々神だったと言います。
「あなたは、彼を殺したい?」
男の正妻は唐突に尋ねます。彼女は一瞬、肯定しようかと思いましたが前に思ったように、息子に誇れないから殺したくない、と否定しました。
男の正妻は、そう、と言ってどこかへ行ってしまいました。その顔は少し嬉しそうでした。
月日は流れ、彼女の悲しみもだんだん薄れてきました。男は、彼女に構うことはほとんどなく、正妻の要望ばかりを聞いていました。
ある日、男の正妻は男に狩りに行きたいと言い出しました。その日は新しく国に入ってきた優秀な人物を迎える予定でしたが、男は正妻に逆らえないようで、狩りに行ってしまいました。
それからというもの、男は毎日のように狩に行きました。得意の弓が使えて嬉しかったのでしょう。
しかし、そんなことをしていると、当然部下からの不満や仕事も溜まっていきます。
彼女は必死に男の代わりに仕事をしていましたが、この時代の女性の身ではできることは限られています。彼女がどんなに頑張っても、仕事は溜まっていく一方でした。
そしてついに、男の部下の怒りが爆発しました。男が狩りを始めた日に入ってきた人物が中心となり、男を撃ち滅ぼしたのです。
彼女は、それを黙って見ているしかありませんでした。彼女は男を殺すと聞いたときに反対しました。しかし、男の正妻が殺した方がいいと言い、それが通ってしまったのです。
男を殺す中心となった人物は、男が支配していた地域の新しい王様になりました。
そして、新しい王は、子供たちに男の死体を煮たものを食べるように強制しました。食べなかった者は殺されました。
それを見た彼女は、体を張って、それを止めるよう頼みました。しかし、新しい王はやめません。
彼女はついていけないと、2人の子を連れてその国から出て行きました。
しかし、その二人の子は、彼女が親を殺す計画を立てた犯人だと考えていたらしく、彼女が寝ている間に木に縛り付け、逃げてしまいました。
「私は…、いったいどうすればよかったの…。私が幸せになるなんて夢見てはいけなかったの…?」
彼女の声は弱々しく響きます。その声が天に届いたのでしょうか、縄が少し緩み、彼女は縄を抜けることができました。
しかし、今の彼女にとって、それに何の意味があるでしょう。
彼女は夢をかなえるために努力をしたはずでした。複雑な礼儀作法を完璧に覚え、夫には献身的に遣え、息子の育児にも寝る間を惜しんで取り組みました。
二人が殺された後も、前を向いて、幸せを手に入れることが出来るよう、男の仕事を懸命に学んで、会議などに出ることもありました。男の子供たちにも、自分の息子のように優しく接しました。
痛いことも、辛いことも、悲しいことも、口癖の言葉で乗り切ってきました。
でも、その先に何があったというのでしょう。
彼女は悲しむために、辛い思いをするために、痛いことを体験するために、血のにじむような努力を重ねてきたのでしょうか。
彼女は人並みの夢を追ってはいけなかったのでしょうか。
「とりあえず寝ましょうか。元気になるために。勇気をもって困難に立ち向かうために。幸せを諦めることが無いように。」
そう言って彼女が木にもたれかかった時でした。
「あの男の国は無くなったわ。私の行いを知っているのはあなただけ。」
突然声がかけられ、彼女が首を上げると、そこにはあの弓使いの正妻が大勢の兵を引き連れて立っていました。女は続けて言います。
「あなたにはお礼を言うわ。ありがとう。利用されてくれて。」
彼女にはどういうことか分かりません。そんな彼女の様子を見て女は笑います。嗤います。
「あなたの夫は簡単だったわ。色欲に溺れて私の言うとおりに噂を流してくれた。あなたの息子は手ごわかったけど、英雄様には敵わなかったみたいね。それに、今では知らない人はいないくらいの悪者になっているわ。」
「………て、…めて、やめて!」
彼女の声が届いていないかのように女は話を続けます。
「本当は私の夫…あの厄介な弓使いを殺すだけよかったの。あんなにあっさり死ぬなんてちょっと拍子抜けだったわ。あなたの息子を殺せばあいつはその功績で国を作ることができる。そして、元々の国からの支援を絶った状態で安全に殺すって算段だったのだけれど…これじゃあそんなことをする意味も無かったわね。」
女は一拍置いて笑います。
「アハハ!これってつまり、あなたの家族は『無駄死に』ってこと?いや、私が楽しかったから無駄じゃないわね。『笑い死に』ってとこかしら。楽しそうな死に方!私もしてみたいわ。不老不死だから死なないけど。」
彼女は女の話を聞いて、何かが壊れていくような感覚がしました。
彼女にとって大事な『何か』。
人にとって大事な『何か』。
女はそんな彼女の様子を見て、今までで最高の笑みを浮かべます。
「じゃあ、終わりよければすべてよし、という事で、月に帰る前に私の悪評を広める可能性を亡くしに来ました。まあ、そんなことしなくてもあなたを信用する人はいないと思うけど、政治に利用されるくらいにはあなたの評価は高いからね。というわけで…」
彼女の顔から表情が消えたのはその時でした。
「死ね。」
その瞬間、大勢いた兵の半分の首が無くなりました。次いで、残り半分の兵の首から下が消えました。
「は?」
女は突然のことで、何が起こったか分かりません。
そんな女の視界の端で、人型の生物が動きます。
彼女です。
「…」
彼女の後ろからは赤紫色をした何かが立ち上ります。それはだんだん形がはっきりしてきて、ついには九尾の狐の尾のようになりました。
「…」
彼女は何も言いません。ただ、女を見ているだけです。
「――ッ」
そう、彼女は動いていません。しかし、女の両腕と両足が消し飛びました。
「…」
まだ彼女は動きません。何かを観察しているようでした。
両腕と両足が回復した女は、急いでそこから離脱しようとしました。しかし、体が動きません。
「何で…!」
女がそう言った瞬間、彼女は女の首の裏に小さな針を刺しました。その瞬間、女は首から下が動かなくなってしまいます。
「まっ、さか…!」
そう、彼女は殺せないのならばと、体の自由を奪ったのです。しかし、それで封殺される程度で不老不死は語れません。
女はすぐさま回復はしたものの、どうしようも無くなってしまいました。
しかし、彼女が次の攻撃を仕掛けることはありませんでした。
ある一点を見て動かないのです。
女はこの隙に、動かない部分を引きちぎって空へ行ってしまいました。
「…」
彼女はそれにも反応せずに、そこに倒れていた女性に近づきました。
その女性は懐に手を突っ込んだまま死んでいました。
そして、その顔を見た瞬間、彼女に理性が戻りました。戻ってしまいました。
「…私は、何を…」
そんな彼女の目に映るのは血の海。
ですが、今の彼女は特に何も感じませんでした。
彼女は女性の懐をあさり、ある本を見つけました。ですが、どのページも血にまみれて読むことができません。
「…?」
彼女は、なぜ自分がそれに魅かれたのか分からず、その本を投げ捨てました。
その時、本から一片の紙切れが飛び出しました。どうやらそれには、血が染みていないようです。
そこには、小さいながらものびのびとした字で、こう書いてありました。
『私の夢は、幸せになること。
友達には優しくすること。
家族とは支えあう関係であること。
そして、子供が誇れる母になること。
それができたら、周りも自分も幸せになれる。
私は馬鹿で、ドジだから、人一倍努力をしないといけない。
悲しいことも、辛いことも、痛いこともあると思う。
でも、そんなときはこの言葉で乗り越えよう… 』
最後の部分は血が滲んでいて読むことができませんでした。
しかし、何度も口にしたその言葉を彼女が忘れるはずもありません。彼女は紙切れを落としながら呟きます。
「…元気、勇気、諦めない……」
そして、彼女は死んでいる女性の顔をもう一度見ました。その女性は、彼女が王宮で特に仲の良かった友達でした。
どうしてこんなところに、と思った彼女はあたりを見渡します。彼女がいたのは、王宮からつながる道のある森の中でした。
実はその時王宮に、あの弓使いを殺して王になった男を失い、行き場の無くなった人々が攻め込んでいたため、王宮から女性や子供が避難していたのです。
そして、暴走していた彼女が殺したのは、自分を殺そうとした兵士だけではなかったのです。
死体の中にいくつか見知った顔も見えました。彼女の旧友も、彼女の兄弟も。
「あ…」
『友達には優しく』
「あ、ああ…」
『家族とは支えあう関係で』
その時彼女は何故か、必死にさっきの紙切れを探そうとしました。しかし、紙切れは見つかることはありませんでした。代わりに見えたのは、月明かりによって血だまりに映された彼女の顔でした。
綺麗で透き通っていた目はどす黒い赤に染まり。
血しぶきで化け物のようになった顔。
そして、艶を失い、金色になった髪。
『子供が誇れる母になる』
「あ、ああ、ああぁぁぁぁぁあああああああ!!」
彼女は何度も何度も自分を殴りつけました。髪も引きちぎりました。
しかし、どういうわけか、彼女の姿形は一切変わりません。
数時間、彼女は発狂し続けました。その結果、森だった場所は草一本もない、荒れ地になってしまいました。
そして、満月の高度が上がっていき、ちょうど彼女の頭の上に来た時。彼女は急に発狂をやめ、月を眺めます。
彼女の爆発した思いは、純粋な、一つの感情に収束しました。
「憎い、憎い、憎い憎い、憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い」
彼女は呟き続けます。
「憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い!」
彼女は叫び続けます。
「憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い。」
そこまで叫んだ彼女は急に笑い出しました。泣き出しました。笑いながら泣きました。
しかし、その声は、その嘆きは、その憎しみは、誰にも届くことはありませんでした。
その後、月へ帰った弓使いの正妻は、月の女神として祭られるようになりました。お月見の起源はこの女神を祭る祭事だとも言われています。
彼女の息子は、神話に出てきた悪い怪物と同一視されるようにもなりました。
彼女の美しさと、その息子がしたとされる悪行から『はなはだ美しきものは、必ず、はなはだ悪しきことでもある』という故事の一例としても挙げられるようになりました。
憎しみに染まった彼女をその後見た人はいません。ですが、きっと今もどこかであの女を憎んでいることでしょう。
何のために憎んでいるのかも忘れても、ただただ己の憎しみに従って。
幸せを追い求めて、破滅に至った少女のお話でした。