最新話ができあがりましたのでお楽しみいただければ幸いです。
十二支ん全員の演説が終わり(ジンはパス)、最後の締めの言葉を副会長であるパリストンが口にしている。
今は第4回13代会長総選挙前、最後の演説だ。
『直談判でも!! この場で演説をして頂いても結構です!!
必要なのは声に出していただく事!!』
壇上で声を出す彼だが、会場の雰囲気はおおよそ白けたものだった。
さもありなん。この場で話を聞く者は、支持者を明確にしているか選挙に興味がない者ばかりだからだ。支持者を明確にしている者がいるのはともかく、選挙に興味がない者たちがここに居るのは義理と呼ばれるものを持つが故。
前会長、ネテロの最期のミッションがこの総選挙である。せめてこの選挙くらいまでは見届けるのがネテロへの最後の義理だと思っている者も少なくないだろう。
(だからこそ、ジンを殴ったレオリオに票が集まったんだろうしな)
正確な数字は忘れたが50票を超える票がこの後彼に入るはずである。それはジンへの反感票もあっただろうが、ネテロのような破天荒な行動に感化された者達もいたんではいだろうかというのが俺の予想である。そのくらいプロハンター達に協調性というものを俺は認めていない。あるとしても自分に関係のある数人くらいまでで、組織を維持するには膨大なカリスマが必要になるだろう。
ネテロにはあっただろうそれを、おそらくは持たない俺がどう補うか。
(ああ、楽しいなぁ)
ほんの少しだけ唇がつりあがる事を自覚する。
『それでは質疑応答に入ります。
どなたか御意見御質問のある方、挙手して下さいませ~~』
十二支んのピヨンのその言葉にオレとレオリオの同時挙手。
『ん~~。そちらの方の方が一瞬早かった。青いスーツの小さい方~~。どうぞ~~』
「……」
小さい方て。確かに俺よりレオリオの方がデカいけど。
(まあいいや)
ピヨンの口の悪さにいちいち反応しても仕方ないだろう。
憮然としたレオリオに一瞬だけ目を配った俺だが、素直に質疑台の前に立つ。置いてあるマイクをオンにして口元に近づける。
『287期。情報のシングルハンター、バハト。今回の選挙で会長の座を狙っている』
どよと、少しだけ会場が揺れた。
真面目に会長の座を狙っているのは十二支んと反会長派、それから古参が数名だけ。そこにまだ3年もプロハンターをやっていない者が名乗りをあげたのである。感心というか困惑、『本気かよ、オイ』といった手応えだ。ただそれを面白そうに見る者も少しだけ居る。ここら辺はやはりプロハンターらしい。
『はい~~、素晴らしい向上心ですね~~。何か言いたいことがあるなら続けてどうぞ~~』
それを全く応じずに流す十二支んのピヨン。
その対応は間違っていない。ただのシングルと、前会長のネテロに寵愛された十二支んではそのくらいの差はある。
では攻撃といこうか。
『十二支ん全員へ端的に言おう。俺はこの選挙の始まりから不正を疑っている』
どよよ…
先ほどよりも大きな揺れ。しかし十二支んは揺らがない。
『疑いはご自由に~~。証拠を示せれば別ですが~~』
『選挙方式をくじ引きで決めたとか? それからしてふざけていると思わないか?』
『いえ、まったく。十二支んのジンの意見が採用されただけですので~~』
ピヨンの言葉に、俺はにやりとしながら口を開く。
『『立候補するよ、オレが
『ッ~~』
その言葉に流石のピヨンも絶句して他の十二支んの様子を素早くうかがう。
誰かその言葉を流してないか、知るはずの無い
しかしその答えは得られない。ほとんどの十二支んは驚きかそれでなければ俺へ興味を持った表情を浮かべている。違うのはジンくらいか、無表情で場の推移を見届けている。
『そう言い切った男の意見がよく通ったな?』
ここにきてようやく、俺が十二支ん全員の敵だと認められたらしい。
戌の十二支んであるチードルが素早く前に出て、ピヨンからマイクを受け取る。
『隠しているつもりはございませんが、十二支んの意見のどれを通すのかをくじで決めたのは事実です。
ですがそれは十二支ん全員、どの意見が選ばれるかの確率は平等でした。
それに何か問題が? → バハト氏』
『俺は言ったはずだ。不正があった筈だ、と』
その言葉に動きが止まったのは僅か3人。チードルとボトバイは顔を強ばらせて、パリストンは極上の玩具を見つけたかのように。
壇上の裾にいた、会場からは脇見をしたかのようにしか見えない位置にいただろうビーンズに彼らは視線を突き立てた。そう、彼を説得できれば不正は可能なのだ。『ジンの意見』ではなく『ビーンズが納得する条件』さえ差し出せば、彼との講和は不可能ではないだろうことに今更気がついた。
俺の位置からは彼がどんな反応をしたのかは伺い知れない。だがしかし、3人を納得させる反応は見せたのだろう。壇上のど真ん中にいたチードルの歯が噛み締められる。
『『狙った通りに獲物が動けばハンター冥利』とは誰の言葉だったか。
この選挙で格上たる十二支んたちと戦える事を誇りに思う』
俺の言葉に更にチードルは歯を強く噛み締める。挑発だと思ったのだろう、壇上で無様を晒してしまった自分を嘲っているのだと思うのだろう。
パリストンの視線はビーンズに向いたまま動かなかった。そして俺の言葉を聞いたであろうビーンズの様子を見て、更に笑みを深くした、
年長者であるボトバイは流石だ。動揺を消して俺と同じように味方や敵、十二支んや会場の様子を探り出している。
ジンは相変わらず、無。感情の動き一つ見せない。それも当然か、バレてもいいと思っていたイタズラが一つ露見しただけだということ。問題児と言われた彼にとっては痛くも痒くもないだろう。
ここに至ってギンタやミザイストムといった鈍くもない面々が状況を飲み込み、あの場面でジンとビーンズに嵌められたという事に気づきだした。
さて、このままでも悪くはないが。やはりビーンズにヘイトが多く向いたままでは選挙自体がギクシャクしてしまう。
擦り付けても心が痛まない相手に擦り付けてしまおう。
『最後に主犯足るジンに一言言いたい、よろしいだろうか』
オレの、十二支んの、会場全員の視線がジンへと向いた。
数百の念能力者、プロハンターの視線を一人占めして。なお、ジンは全く揺らがない。
座ったまま、俺に向かって右手の人差し指をくいと自分に向けて曲げるだけだ。言いたきゃ言え、言葉を返す気はないというパフォーマンスだろう。
俺はそれを満足しながら見て、最後に一言だけ付け加える。
『見事な手腕だった。あなたの作ったゲームも楽しめた。今度は是非俺も堪能して欲しい。
以上だ』
ス、とジンが薄目を開いて俺を見た。
そしてぷいとすぐに視線を逸らす。
それだけだった。今は、それだけ。
十分に満足したと、俺はマイクのスイッチを切り、演説台の前を立つ。
『……貴重な御意見をありがとうございました。 → バハト氏』
とてつもなく悔しそうにチードルの声が響く。
ジンにいいようにやられた事。自分たちが全く気がつかなかったそれを、その場にいなかったシングルの若造に見抜かれた屈辱。
そして何より、それをこの選挙の場でやられたという焦燥。これは明確に十二支んの失点であり、そして俺の得点だった。
気がつく者は少ないだろう。この高度なやりとりを理解して俺の味方になってくれる人はおそらくは10人居るか居ないか。
だがそれで十分。
(演説が始まる前の時点で俺の得票は8票だ。これはユアや俺自身を含めたマックスの数。この得票では次はくぐり抜けてもその次で足切りに遭う。
だが、今回で少なく見ても倍に増えるだろう。義理でこの場に来ているハンター程、見抜く能力はある筈)
無名の新人が票を伸ばせる機会はそう多くない、序盤なら尚更だ。
今のうちに取れる票は取っておかねば「票取りゲーム」には勝てない。
そんな事を考えていた俺の後に演説台の前に立ったレオリオが何をしたかを語る必要は、まあないだろう。
◇
第4回13代会長総選挙前
…
3位 レオリオ 52票
…
…
…
…
8位 モラウ バハト 20票
…
…
…
…
◇
「工事は順調か?」
「ええ、問題ありません」
「しかしお前さんが会長の座を狙うとはな」
俺は手土産を持ってノヴとモラウがいる病室へ訪れていた。
キメラアントの事件において俺が何を考えてどう動いたのかはナックルを通じて話が通っている。そうでなくてはこうやって敵で無い対応を取られる事はないだろうから。
上手くゾルディックの実家の力を借り受ける事が出来ただろうキルア、というかゾルディック側が出した条件は『誰にも見られず感知もされない状況を作る』事。ナニカの能力を思えば当然と言えるだろう。
それを受けてモラウとノヴは国立病院の駐車場にゴン専用の病室を建てる事を提案。誰にも覗く事が出来ない条件をこちら側の『信用』を以てゾルディックに呑ませた。
そして『信用』された時、プロはそれを裏切らない。モラウもノヴも、その中で何が起きるかを伺う事はしないだろう。
「ま。どういうつもりかはキルアからの説明待ちだな」
「キルアからの説明がなかったら? ゾルディックの切り札だろ、今回のは要するに。説明がないことも十分に考えられる」
「オレからキルアに無理は言わねぇよ。『仲間』だからな」
そう言ってモラウは俺を見る。
「そういうお前は何か掴んでいるんじゃねぇか? 今回のジンのイタズラを暴いたんだろ?」
「掴んでても何も言わない。キルアは俺の『友達』だからな」
そりゃそうかと苦笑いを浮かべるモラウ。
さりげなく腹部に手を当てる辺り、思ったよりもユピーからくらったキズは深いのだろう。まだ少し傷むと、仲間ではない俺に見せてしまうくらいには。
それでも仲間の友達である俺とはそれなりの付き合いをしなくてはならないのが彼の辛いところだろう。
「ところでピトーだが」
「彼女が何か問題でも?」
俺の表情が険しくなる。現状、人間側に下ったキメラアントの中でピトーは最高位である護衛軍だった。
彼女を縛るには半殺しに近い処遇をしなくてはならないが、俺の支配下にあるという名目でそれはさせてはいない。当然だ、ここでピトーに手を出すことを許したらどんな枷をかけられるか分かったものじゃない。せっかく手に入れた護衛軍の手札に爆弾を仕込まれる訳にはいかない。
つまり、彼女が問題を起こしたらその責任はそのまま俺に降りかかってくる。気ままな性格のピトーを自由にさせるとは、こちらとしてもリスクを負った判断である。言葉が荒くなるのも仕方ないだろう。
そこら辺を分かっているのか、モラウの様子は穏やかなままだ。
「いいや。お前の話をちゃんと聞いて、あの不気味なオーラを出さずに絶のままで大人しく居てくれているよ。
だがお前さんに会えないせいか不機嫌極まりなくてな。メレオロンやイカルゴが落ち着かなくて仕方が無いらしい。
早めに引き取ってくれると助かるんだが」
「そういう事か」
話の内容は納得のいくものだった。
とはいえ、これはモラウからの頼みである。無償で受けるほどに俺はお人好しでは無い。
「条件を一つ呑んでくれればいいぜ」
「……その条件はなんだ?」
一気にモラウの様相が厳しくなる。ノヴの警戒心を顕わにする。
そう、これはプロハンターの交渉だ。安くはずもない。
(だがな)
高いと決まった訳でもないのだ。
「モラウさんの票を俺にくれ」
「……選挙か」
「そうだ」
モラウは会長になるつもりはないだろう。ならば票に価値はないはずだ。
一方で俺は会長になるつもりがある。モラウの票には価値がある。
ふむ、と少し考えてモラウは口を開いた。
「もしもキルアの『手段』でゴンが治らなかった場合、お前さんが会長になればなりふり構わずゴンを救うと誓えるか」
「愚問だ。誓う」
この言葉に嘘偽りはない。
だが、キメラアントの事件で俺はモラウの側に着かなかった人間でもある。前回、重要な仕事で味方にならなかったものを、そう簡単に信用するほどモラウも安い男では無い。
「約束はしねぇ」
渋いモラウの言葉に、俺は軽快に頷いた。
「ああ、それでいい。
俺としてはピトーに急ぎの用事はない。
モラウさんが自分の票を俺に託すと言ってくれた時点で交渉成立だ、その時にはピトーはいつでも俺の元に送ってくれ。
そうでない間は『新種の魔獣』として監視してくれればいい」
苦虫を噛みつぶしたようなモラウとノヴ。彼らは仲間を見捨てないから、近いうちに票を俺に売ってくれるだろう。
ただ、交渉で俺に上手を取られた事がつまらなくて仕方がないようだったのは、俺の見間違えでは無いはずである。