Vtuberの中の人!@ゲーム実況編   作:茶鹿秀太

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どうしようもないです

「こんにちはー。サーシャさん、繭崎さん、いますかー?」

 

君島に出会った日から、2日が経っていた。

 

唐突に繭崎から連絡がきた南森も、気持ちが少し浮かれていた。

 

(隣に住んでいた幼馴染が、Vtuberになっていたっていう話、まるで漫画の世界! もしかしたら10年、20年経ったら、全人類バーチャル化、なんてのもあったりして? 未来にもきっと、素敵な世界が待ってたりするのかな、ふふ)

 

そんなことを夢想しながら、サーシャの作業部屋に入る。

 

「……、………、ん? あぁ、南森か」

 

「こんにちっ……は……?」

 

作業部屋は先に部屋にいた二人のどんよりとした空気に染まっていた。

 

薄暗くて、ため息が地面を覆っているような感覚すらあった。

 

そして南森が見たのは、サーシャと繭崎の胸元。

 

「……真っ黒?」

 

「ん? ……あぁ、真っ黒か? そこまで暗くないと思うんだがな。まだ夕方だし、カーテン開けておくか」

 

「ちょっと、人の部屋勝手に弄んないでよ。はぁ、でもま、夕日くらい浴びておきましょう。……ちょっと、本気でやばいんだし。気持ちくらいリフレッシュしておきたいわぁ」

 

「えっ、あの、……その」

 

南森が困惑したまま、ソファに学生かばんとを置いた。

 

「何かあったんですか?」

ベージュ色のダッフルコートの袖をハンガーに通しているときに、繭崎がお手上げな様子で言葉を吐き出した。

 

「……、2月に予定していたライブ」

 

「あ。はい! 私頑張りますよー。今過去一でモチベーションがすごく高いんです!! Vtuberってやっぱり、他のだれかと繋がってるからこそ楽しいですから! あ、そうそう! 私の隣に住んでた幼馴染がですね……」

 

「参加、出来るか分からなくなってきた」

 

「……。……へ……?」

 

目を大きく開いて、繭崎に体を向ける。

 

繭崎は項垂れて、自嘲気味に額を抑えて、眉間に皺を作っていた。

 

「実はな……」

 

 

 

 

繭崎が思い出していたのは、後輩の佐藤のことだった。

 

打ち合わせの際、彼は参加者全員にこう伝えた。

 

「今回のイベントに出資するにあたって、トリにウチのVtuber、ギリーに新曲のお披露目をすることになりました。それに伴って、youtubeの生放送以外のメディアの使用と、広告の拡張を行うことになりました」

 

繭崎の顔見知りの社員が手を挙げた。

 

「岩波芸能事務所さんとしては、どこまでの干渉を? 運営自体変えるということでしょうか」

 

佐藤は真剣な表情でプレゼンを行う。

 

「あくまで運営はドン☆さんの協力の下で行わせていただきます。最大限、彼の意思を尊重した上で、資金援助、機材貸し出し、演奏者の手配、その他新人の中でもかなり力のあるVtuberの呼び込みを行い、ドン☆さんのイベントの中でも過去最大規模の新人イベントにする自負があります。もちろん、皆様の所属タレント、または創作物であるVtuberも、大々的に広報させていただきます」

 

「……つまり?」

 

「アイギス・レオと一緒に広告を打ち出すということです」

 

「おーいいじゃないか」「これ、ウチの子結構バズるんじゃないんですかね?」

「渡りに船と言うかなんというか」「いやでも変更が急すぎる、ちゃんとウチに話通してもらわないと」「これは突っつけばかなりうちの子を優遇してもらえるのでは?」「みんなのために頑張らないとな」

 

会場は多少の批判はあれど、歓迎のムードも強かった。

 

そう、やはり一番パンチが効いているのは広告代行。

 

お金のない弱小Vtuber事務所や、成功するか見込みのないものに投資するつもりのない企業、ノウハウの分からない個人勢などは、大手を振って岩波芸能事務所を歓迎するだろう。

 

実際、ドン☆先一は喜んでいた。

まだ見ぬ才能を応援するというコンセプトに、岩波芸能事務所が賛同してくれたと思っているからだ。

 

「ただ……今回のイベント、統一感があまりにも弱い」

 

ぼそりと、佐藤がつぶやいた。

 

全員が耳を傾ける。

 

「みなさん、これは新人イベントです。それはあくまで、みなさんの所属の子のステップアップのために参加している、違いますか?」

 

その通り、と誰かが手を叩いた。

 

「それにしては、今回のイベント、プランニングが少し弱い。資金援助を行う以上、確実に成功させたい熱意が私たちにはあります」

 

「何が言いたい……」

 

繭崎が小声でにらみつける。もちろん、声は誰にも届いていないが。

 

「――単純です。今回のイベントは、音楽をテーマに行っていますが、二種類の演者がいます。それは、「オリジナルソングのお披露目会」か「カラオケ大会」っていうことですよ」

 

「!?」

 

目を見開いた繭崎を視界に入れた佐藤が、口元をゆがめた。

 

「すべての歌をカバー曲のみで参加と言うならば、カラオケ大会にイベントを変更するべきです。いろんな人がいる、いろんなVtuberがいる、というのは言い訳ですよ。このイベントのテーマは?」

 

「新人を盛り上げる、ですが……」

 

ドンが困惑しながら呟いた。

 

「新人を盛り上げる、以上のものがなければ宣伝できませんよ? ただ歌って仲良くするだけの、文化祭の打ち上げを楽しむためだけに参加している学生と変わらないことをしたって、数字は取れません」

 

だから、と佐藤が繭崎を睨んだ。

 

「今回の出演者には、必ず一曲、オリジナルソングを歌ってもらう、というのはどうでしょう!」

 

「お、オリジナル?!」

 

ドンが椅子から転がり落ちる。

 

「待てっ!!!!?」

 

繭崎が思わず飛び上がる。

 

「ふざけるな! 少なくとも、今回の参加者で自分の曲を持っていないVtuberは4人いる。参加者合計10名、いや追加で11名だったが、半数以上は曲を持ってないんだ。無茶だ、最初に聞いていた企画とは毛色が変わりすぎている!」

 

「……ずいぶん甘ったれたことを言いますね、先輩」

 

「なっ!?」

 

「あなたが現役だったころは、どんな状況でも、どんな環境でも、必ず人気にさせる、そういう熱意があった……。オリジナルソングを聞いてもらうというハードルの高さ、貴方は知っているはずだ。自分の曲を聴いてもらう機会の少なさを」

 

「っ」

 

あまりに佐藤の真剣な表情に気圧される。

 

「新人にスポットを当てる、というテーマから始まってるんですよ。ギリーという一人がいるだけで、誰か曲を聞いてくれるかもしれない。 アイギス・レオが主導となって新人オリジナル楽曲でイベントを開けば、現地に来る人は必ずギリーの出番まで会場を盛り上げるでしょう。つまり…」

 

必ず人が来る。繭崎は悔しいながらも認めていた。

 

アイギス・レオには集客力があることを。

 

「真剣にエンタメ考えているこちら側に、まさかただカバーソング歌って帰る、というのは運営も客もなめてる。もちろんカラオケ大会なら別ですが、そうじゃない。全員に日の目を浴びせるのなら、オリジナルで挑んでもらうのが参加者の礼儀でしょう」

 

「ふざけ……やがって」

 

(くそ、作曲家に依頼したところで資金を回収できるかわからない! 誰も注目していない中で曲を聴かせる? くそ、くそ! 完全に俺たちを狙い撃ちしての提案だろこれは!! 無理に決まって……)

 

 

「……やります!」

 

「!?」

 

顔見知りの社員が叫んだ。

 

「確かに、オリジナルソングをここで聞いてもらえるチャンスなら、最大限生かさないと!」

「そうだ、まだ4か月あるんだ。一曲くらい依頼すりゃ作れる。Vtuberの子も喜んでくれるさ」

「だな、忙しくなりそうだ!」

「やっぱりiTunesとかかな?」「いややっぱりBOOTHじゃないか?」

 

2社、名乗りを上げる、オリジナルソングを持たない運営たち。

 

彼らは「アイギス・レオ」がいるのだから、自分たちが用意さえすれば必ず楽曲は聞いてもらえるし、売り上げが見込める、と取らぬ狸の皮算用を始める。

 

(馬鹿野郎、この、素人! オリジナルソングをそんなポンポン生み出そうとしてどうするんだ。作曲は投資なんだぞ……)

 

 

佐藤は、分かっているのだろう。

繭崎の運営に資金的な力がないことを。

 

オリジナルの曲を作る。

これにかかる費用を考えればわかる。

 

例えば誰もが知っている有名なボカロPに作曲を依頼したとして、編曲も込々で60万から。

安く済ませようと名の知れていない人に依頼したら10万代で済むのかもしれない。

しかし、実績も、曲の評価もない人間にデビュー曲をゆだねるというのも恐ろしい話だ。

 

一発目の曲は気になって聞いてくれるかもしれない。

聞いてくれた上で、別の曲も聞いてもらえるようにする。

 

そう、普通ならできない。

 

だから資金力のある事務所や企業は有名人に依頼する。曲に作曲者の名前があるだけで、人はその曲を聞きたがるのだから。

 

(初動だ。初動でアイドルもVtuberも今後が決まる。誰も並んでない店に人が来ないように、認知されたときどれだけ人の心を掴めるかが勝負。だから本当は有名Pにお願いしたい、だがそれは現実厳しい。予算も、コネも、信用もない状態でのスタートだぞ。くそ、どうすれば)

 

「繭崎さん」

 

「……? あなたは……」

 

隣に座っていた男性が立ち上がる。

確か、40代でVtuber事務所に転職した男だったはずだった。

 

「すいません、私どもは今回の企画、下ります」

 

「えっ」

 

「分かるでしょう? 曲を作る危険性も。なにせ、アーティストとしての方向性じゃないVtuberに曲を持たせても、使うかどうか。そして、買ってもらえるかどうか、わかったもんじゃありませんから」

 

「うっ、うぅ……」

 

「すいませんドンさん! 話が違う! なので、今回の企画、私どもは撤退しますよ! また次の機会に!!」

 

「え。ど、どうしてだい!? 待ってくれ! ここでみんなを盛り上げればそっちだって嬉しいはずじゃ!」

 

「ドンさん、私はね、あんたの人柄を買って参加を決めたんだ」

 

そう言って、男はネクタイを緩めながら会場を後にした。

 

男の背中を、ドン☆はただ虚ろに見つめていた。

 

「先輩、どうします? 参加されますか?」

 

「持ち帰らせてもらう。近日中に話をつける」

 

「……はは、ホントに、牙抜けたんですね、先輩。昔だったら、かみつく勢いで参加決めてましたよ」

 

「俺だけの運営じゃないんだよ。大事なのは、……中の人だろ」

 

「……わかりませんよ。Vtuberの中の人っていうのは、演者含めた運営のことでしょ? なら、あなたが即決しても着いていくでしょ、演者は」

 

「どうだろうな」

 

繭崎が視線をずらす。

 

壁に背持たれてスマホをいじっている不動という女性を見る。

 

「……なんで俺を潰しにきた?」

 

「……はは。ホント、よく頭が働きますよね。自発的にではないですよ。どんだけ経営陣から恨み買ってたんですか? でも、先輩がいるなら、潰しに行って、中指立てるのが礼儀でしょ」

 

「くそ、良い後輩を持ったよ」

 

「彼女、元歌手ですよ。インディーズの」

 

「なんでだ?」

 

「さぁ。なんでものっぴきならない理由でVtuberになるとか聞いてますけどね」

 

「違う、そっちじゃない」

 

繭崎の太い眉がピクリと動いた。佐藤はそれを見て真剣に繭崎の声に耳を傾けた。

 

「俺、アイギス・レオのオーディションで彼女の顔見たことないぞ……?」

 

 

 

 

 

「実はな……」

 

繭崎は最初、自分が体験したことをすべて南森に伝えようと口から言葉が漏れた。

 

しかし、舌が止まったのは繭崎の気持ちの問題だった。

 

(大人の事情に、南森を巻き込むことはない……何を考えてるんだ俺は)

 

「いや。どうも急に運営方針が変わってしまってな。オリジナルの楽曲を最低一つ、用意することになった」

 

「!? オリ曲ですか……? でもどうして?」

 

「運が悪いのか何なのか。アイギス・レオの歌担当。ギリーがトリで歌うことになった」

 

「ギリーさん!?」

 

南森が顔を赤らめて想像を働かせる。

 

(うわ~、もしかして、不動さんと共演!! やった! やった! 嬉しい、すごい、やった! 一緒の舞台でライブだなんて……。でも、あれ?)

 

「その、すごく嬉しいんですけど……曲って、どうするんですか?」

 

「どうするもこうするも! ないものはないのよ。あぁ~なんでこんなことになっちゃうかな。一凛ちゃん、私たちは今ピンチなの! オリジナルソングを四か月以内に用意してライブでお披露目できるようにしていないと、参加できないの!」

 

「え、えぇ~!?」

 

サーシャの言葉で、南森の脳裏に窓ガラスが割れる音が聞こえた。

 

のんきに「がしゃ~ん」と音を立てるが、動揺する程度でとどまった。

 

「えぇと、じゃあどうやって用意すれば」

 

「……、依頼するしかないだろうな。だが、金がかかる。まとまったお金が……」

 

「えっと、じゃあ、その」

 

「一凛ちゃん」

 

サーシャの真剣なまなざしに南森の心が揺れる。

 

「決めましょう。60万以上の投資をするか、適当な作曲家に安く作ってもらうか。……それともライブの辞退するか」

 

夕日が雲に隠れて闇が部屋の中を埋め尽くす。

 

南森の漏れた吐息すらよく聞こえるほど。真っ暗だった。

 

 

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