再始動、です!
ゲームなんて嫌いだ。
ゲームなんてしてるから、世界は壊れるんだ。
指が動く。PCに繋いだゲームパッドを、薄暗いモニターの光で照らしながら理想の動きを再現していく。
ヘッドショット、移動、ヘッドショット、胸、移動、腕、移動、ヘッドショット。
真っ暗な部屋。布団を被りながら、椅子の座る場所に体育座りをしながら、ヘッドホンをつけて、目をぎらつかせて。
「●ね」
自分が何か言っている気がする。
「●ね、●ね、●ね、●ね、っ、●ね、●ね」
痛い。なんでだろう、大好きなゲームをやってるのに。なんでこんなに痛いんだろう。
ゲームなんて嫌いだ、ゲームなんて嫌いだ。
この真っ暗な部屋の中で、私は一人だ。
そう、一人でいい。
ゲームなんて、一人でいいのだ。
ふと、どこかから音が聞こえた気がした。試合の邪魔だと煩わしかった。
「ねぇ、〇〇……、起きてるの? もう朝ごはん、出来てるから……」
聞こえない。何も聞こえない。
窓を見る。ふとカーテンの隙間から光が漏れた気がして。
「っっ!!!?」
ゲームパッドを捨てて、逃げるように、布団と一緒に部屋の隅に逃げた。
「ねぇ!〇〇!大丈夫!?ねぇ、大きな音が聞こえたけど!!」
怖い。
怖い。
怖い。
どうしようもなく、世界が怖い。
少しでも日の光を浴びてしまったら。聞こえてしまう。
知らない誰かの声が、聞こえてきてしまう。
怖い。怖い。
「お願いだから、応えてよ……っ」
誰かの声が聞こえる。
でももう自分でもよくわからない。
あぁ。でも。
もし、もしもう一度人生がやり直せるなら。
もう一度、私が私らしくなれる世界があるのなら。
私は、私は……。
私は、いったい何になれるのだろうか。
GameRoute
4月。春の某スタジオ。
少なくとも、彼女、南森 一凛(みなもり いちか)は努力していた。
真剣な表情で、画面を見る。
そこに映し出された彼女の現身、『白銀 くじら』も真剣なまなざしで南森を見つめていた。
息を呑む。
遂に喉が痛くなってきた。
舌も回るか怪しい。
汗が止まらない。
それでも、やらなければいけない。
やらなくてはいけないのだ。
白銀くじらが、口を開いて。
画面の向こうから、挨拶をした。
「ここおここけこkkkkkkこんにちっ、ちはぁ、みなもっ、じゃない、白銀くじっ、あっ、きょ、今日ゲームじっきょ、しまぁす! えあっ、このっ、あ、あっあー!! あーやめてー! あー! この、あー! 死にましたぁ……」
「カァアアアアアアアアアアアット!!!!!!!テイク87だぞ南森ぃ!!!!!!」
繭崎は過信しすぎていた。
最近のJKはインスタライブだのTwitterのスペースだの様々なツールを使って何かを電波に乗せて話すことはある程度得意であろうと。
友達と会話する能力さえあればまぁ動画だろうと配信だろうと難なく話せるだろうと。
足りなければ追々慣れていきながら実力を増やしていけばいいと。
甘かった。認識が不足していた。
0に0を掛けても、0……ッ!!!!!
「うぅ……数千年ぶりにおしゃべりした人類みたいなトークになってしまいました……」
「すまん。俺の采配ミスだった。特に敵に接近されたら「あー!」撃たれたら「あー!」ゲームオーバーで「あー!」で全部埋まると思わなかった……。次の方針を考えよう」
「くぅ……ゲーム実況の動画の人は、すごく難しいことをしていたんですね……」
南森ががっかりしながらジュースを片手に、汗だくになりながら施設の椅子に座り込む。
ここは配信や収録のためのレンタルブース。
都内にある最寄りの場所で、繭崎が経費で借りている場所だ。
なおV向けの場所ではない。
あくまでゲーム実況をするためのブースで、個人撮影のための照明やマイクが設置されている。
Vtuberがゲーム実況を録画する際は、Live2dもしくは3Dモデルをwebカメラなどでモーションを反映させながらOBSで画面を合成して録画という手順を踏まなくてはならない。
その確認作業だけでも慣れていなければ30分、いやさらに初心者であるならば、1時間はかかってしまうだろう。
さて、この手のスタジオは最低でも3時間程度の利用からなので、2時間はまだ収録できる。
しかしどうだ。2時間。長いようで短いこの時間。
0に0を掛けても、0だったのなら……。
「コンビニ行くか」
「あい……」
繭崎も南森も、すでに半分諦めて残りの時間を過ごすことを決めた。
「でも本当に難しいです。実況というか、なんというか。目の前に敵が来たときとか、口より先にコントローラーを動かさなきゃって意識になっちゃって」
「慣れだろうな……。マルチタスクの処理の仕方を教えるべきだったか?いや、数をこなしてたくさんやらせるべきか……」
「Vの切り抜きとか見ていると、すごく面白いし、なんだか私でも出来そうって思ったんですけど。やっぱりトップの人たちはトップでした。実力不足が否めませんね……」
「まぁ、Vと言っても人間だしな。最初からできるならそれに越したことはないが、これも訓練だろうな」
南森はオレンジジュースをちびちびと飲みながら、繭崎は缶コーヒーを片手に、胸元をまさぐりながら、思い出したようにため息をついてコーヒーを飲む作業を繰り返していた。
「そもそも一人でトークをするというのも技術だ。ラジオパーソナリティのようなスキルが必要だろうな。つまり構成作家を用意して、ある程度話のネタを溜めておいて、外からのお便りなどで外部からの刺激を取り込みながら……」
「そう、そうなんです繭崎さん! 一人だと何にも喋れないんですよ! 「うぇー!?」って感じで!」
「……まぁ、トークって言うのも、相手あっての物だしな。一人はきついさ」
繭崎が缶コーヒーをコンビニのごみ箱に捨てに行く。
夕焼けがきれいだ。
南森は薄く汚れた雲に刺すオレンジ色の光を見つめながら、溜息を吐いた。
「ゲーム実況って、どうすればいいんだろう」
何気なくスマホを取り出して、いつも通り、再生リストを開いた。
その中の数多の動画が、削除されている。それでも彼女は鮮明にあの姿を思い出せた。
「みなさんこんにちは! 私の名前は依白 海月(よりしろ くらげ)です!!」
彼女の動画は、本当に面白かった。
見ているだけで、元気が湧いてきた。
笑顔になれた。
そして、彼女は人一倍誰かとつながっていた。
他のVtuberが続々と彼女のもとに集まる。
彼女の周りは、笑顔であふれていた。
企業でVtuberをしている人も、個人でVtuberをしている人もいた。
「輪になって踊る」なんて言葉がよく似合う女の子が、南森のヒーローだった。
本当に、笑顔で、楽しそうで、嬉しそうで……。
その中に、自分もいたらよかったのに。そう切に願った。
そうなる前に、彼女は引退していた。
今でも思い出せる彼女の姿を、彼女の背中を。
どうすれば追いかけられるのだろうか。
「あんな風に、ゲーム実況を通して一人じゃない世界になれるのかな。ゲームで人の心って、繋げられるのかな……」
南森には、まだ分からなかった。
だが、胸の奥で、何かが叫んでいるような気がするのだ。
夢を叶えたい、と。
「よ、よぉし。こんなんじゃまだへこたれません! そ、そうだ!とりあえずこの前Tiktokで流れてきた「ハーモニカを咥えながらホラー実況」!これなら私でも!!」
prrrrrr
「うひぃ!?」
急にカバンから振動。
スマホを取り出すと、彼女の敬愛する人間からの連絡だった。
「不動さん!」
『よー。元気してっか?』
「もう、すっごく元気が今出ました!」
『はは。なんじゃそりゃ』
不動瀬都那はVtuber【ギリー】という名前で活動している元インディーズバンドの歌手だ。
現在Vtuberは「音楽」「ゲーム実況」「生放送」「企画」といった動画投稿を行うことが主流だ。その中で、彼女は【アイギス・レオ】というVtuberユニットで【音楽担当】の名をつけられるほどの実力者だった。
かつて彼女とライブをしたこと、ライブを通して彼女の心と通じ合えたことは、今もなお輝く思い出の一つであった。
『それでよぉ、ちょっと南森ちゃんに相談があってな』
「? なんでしょうか?」
南森はもうそれはそれは元気よく、不動の言うことなら全て聞くほどの従順な気持ちでいたのだ。
『ウチのメンバーの【ゲーム実況担当】とゲームコラボしてくんねぇか?』
「はい! ……え? はい。え?………えぇええええええええ!?!?」
その大きな声に、ごみを捨てて南森に話しかけようとしていた繭崎がびっくりしていた。
お久しぶりです。
何か前のやつ気に食わなくて10万字消してしまった以来ですね!
というわけでまったりやります。
定期更新じゃないけど思いついたら続けていきます。
よろしくお願いします。