Vtuberの中の人!@ゲーム実況編   作:茶鹿秀太

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隠し事です

次の日。

学校は今日も南森にとって憂鬱だった。

 

「ねぇ昨日のテレビ見た!? 最近キテる俳優の・・・!」

 

「見た見た! ちょーイケメンだったし優しいし最高っしょ!!!」

 

「なぁ! youtube見たか? 昨日のあのグループマジ爆笑ものだったよな」

 

「すげーよなぁ毎日投稿して面白いし! あ、でも俺最近おっぱいでかいピアニスト見てて……w」

 

話題が通じない。

 

これほど苦しいものはない。

 

言いたくて言いたくて仕方ないことがある。

 

共有できるなら毎日したいくらいだろう。

 

南森はテレビも見るし、ネットも見ていた。

 

だけど、Vtuberの動画を見ているのは、おそらくこの学校で自分だけだと、南森は思い込んでいた。

 

(はぁ。……だめだ。今日もVtuberの話題で話してる人いないや。いたら、そこにこっそり入って話せるのにな)

 

一番話したいことが話せない彼女は、少しだけ取り残されたような感覚にあった。

 

それでも孤立していないのは、友達から「内気だけどいい子」として見られていたからだ。

 

(いいなぁ。私も自分の好きなことで自由に過ごしたいなぁ。でもあからさまにオタクっぽいことできないし……。意外と、アニメ見てる人でもVtuber見てない人多いもん。それに、今更オタクカミングアウトしても、浮いちゃうし。……変、なのかなぁ。私の趣味)

 

「みんなぁ、おはよー!」

 

(あっ・・・)

 

教室に一人の男子が入ってくる。

 

金髪で目立つから、分かりやすかった。

「おはよー大野! 大野見たかよ昨日のアレ!!」

 

「うん、ユーチューバーだろ? すごかったねあのダンス! 俺もあれくらいやってみたいな! って無理か! あっはっは!」

 

「おはよー流星くん! サッカー調子いいってホント?」

 

「おはよ! 最近マジ調子よくてさ。大会も一年生俺だけ出るかもって。マジうれしかったよ! 練習してよかった!」

 

少年の名前は大野 流星(おおの りゅうせい)。

 

高校一年生で、すでにサッカー部のエースと称される男だった。

 

しかも、何気なく友達と遊びでTIKTOKに投稿したら、それがバズり、定期的にダンスの動画も投稿している、日本中の人気者だ。

 

なんとなく、王子様っぽい感じで、キラキラしている。

 

(すごいなぁ大野くん。挨拶一つで教室の空気まで変わっちゃった)

 

彼が来るとみんなが笑顔になる。みんなが幸せな空気を出す。

 

それが大野 流星だった。

 

(華がある、っていうのかな。私じゃマネできないよ。・・・あっ)

 

「邪魔」

 

ぐいっと人込みを肩で押しのけて教室に入ってくる少女がいた。

 

彼女が教室に入ると、だれもが静まり返った。

 

「うわ、今日の魚里機嫌わりーのか、最悪やん」

 

「ほんと無愛想、サイテーだよ。人にぶつかっておいてさ」

 

少女の名前は、魚里 隅子(うおり くまこ)。

 

学生服にクマのフードがついたパーカーを着てる子だ。

 

メッシュを髪につけても先生に怒られないのは、腫物扱いされてるからだろう。印象は、ちょっとだけパンクというのがクラスの総意だ。

 

彼女はいら立つようにパソコンとヘッドホンを机に置いて、殺意を帯びたような目で何かをしているようだった。

 

彼女は噂によると、学校の軽音楽部と一緒に学校外でバンド活動をしているそうだ。

一部では既に彼女の名前も憶えられていて、将来は音楽で生計を立てるはずだと噂されていた。

 

(こう思っちゃいけないんだろうけど、彼女もうらやましいなぁ。自由で、嫌われても関係なしって感じで。孤高、なのかな? でも、ちょっとかっこいい。私もあんな風に生きれたら楽なのかなぁ)

 

「はぁ。なんかゆーうつだよ」

 

「どったのいっちゃん」

 

いっちゃん。それが南森のあだ名だった。

一凛の一から取って、いっちゃん。可愛げはもう少し欲しいなと思う南森であった。

いっちゃんと言った里穂は、南森が学校で一番仲の良い友達だった。

 

「ううん里穂。なんか漠然としてるんだけど何かが不安で、やりたいことはあるんだけどホントにできるかも自信ないっていうか・・・」

 

「? 何の話?」

 

「えへへ……。私もよくわかんないんだけど、いろんなものがうらやましいって感じです。私も大野くんくらい明るくて魚里さんくらい自由だったらなぁって」

 

「南森ちゃーん! 流星くん羨ましがってもあげないから!! あっはっは!!!」

 

急に、会話が聞こえたのだろうか、大野の取り巻きの女子が指さして笑う。

 

それにつられて、周りも「なんだようらやましいのか!」とか「かっこいいからって勘違いしちゃダメだよー」とか聞こえてくる。

 

いじめではないが、急にいじられる。

ちょっぴり流れについていけなくて、南森も苦笑いが出た。

 

「ははっ。無理無理。いっちゃん、そんなキャラじゃないもん! てかそんなこと言ってるから流星くんの取り巻きにいじられるんだよ! ただでさえあんた何にも言わないんだから!」

 

「そんなこと……ないと思う、よ?」

 

はぁ、とため息がでた。

 

「いっちゃん、一体どした。何かやりたいことでもできたの?」

 

「……そんなこと、ない、よ?」

 

南森は里穂の胸元を見る。

 

どこか愁いを帯びている青色と、疑わしそうな灰色がぐるぐる混ざってる。

 

(変に思われちゃったかな……。はぁ。でもしょうがないよね。Vtuberになりたいって言ったって誰も知らないし、変な目で見られる……。なったとしても、どうせ学校だとポジションも変わらないんだろうし)

 

南森が机に突っ伏す。

里穂が疑いの目を向けていると、二人の友達である加奈子が里穂の肩をたたいた。

 

「ねー、いっちゃんどったの?」

 

「うーん分からん。あ、もしや! 家族にアイドル事務所へ履歴書送られちゃって、アイドルになるかどうかの瀬戸際、とか!」

 

「うっそマジ!? 少女漫画じゃん!!!! 少女漫画じゃん!!!!」

 

「加奈子ぉ。あんたホント少女漫画好きだねぇ」

 

(うぅ、尾ひれが植え付けられていく……)

 

その後も、チャイムが鳴るまでぐだぐだと南森は悩んでいた。

 

隣の席を見る。

一席だけ、春からずっと空いている。

 

(隣にいるはずのあの子も、何か悩んでるのかな……。って、勝手に考えちゃだめだよね、そういうのって……はぁ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(私、南森一凛には二つの悩みがある。一つ目、Vtuberのこと)

 

(昨日、三浦サーシャというイラストレーターの家に行って、いろんな話を聞いた。そんなとき、サーシャさんは私に指をさしてこう言ったのだ)

 

「あなた、どんなVtuberになりたいの?」

 

「……えと、その、なりたくて……とりあえずやってみようかなって……」

 

「大事よ、そういう気持ち。でもね、私に依頼するってことは、私にも仕事の責任が来るの。あなたの仕事っぷりで、私の評価も変わっちゃうかも」

 

「は、はい……」

 

「要はオタクコンテンツの動画投稿をするってことでいいのよね? じゃあ、動画は創作物って考え方でいい?」

 

「た、多分? 創作物、うーん、そういう人もいますし、生放送の人もいるし……」

 

「根っこは変わらないと思うの。要は、活動方針が定まってるかだけ聞きたいの」

 

「な、ないです……やっていけば、自然とできるかもって、繭崎さんと話してて……」

 

「ダメ。それじゃあ、絶対他のコンテンツに負けるわよ!! やるからには、私が納得するものを出してほしい! だから、活動方針をしっかり決めましょう。そうすれば、自然とあなたに合ったキャラクターデザインも描き下ろせるから」

 

「は、はい。」

 

(活動方針、ってそんなに大事なの? 知らなかった)

 

(全く考えてなかった。ただ、なりたかっただけ。でもなんとなくイメージは出来るのだ。ゲーム実況とか、歌ってみたりとか、そうそう、生放送でしゃべったりとか)

 

「……それじゃダメなんですか?」

 

「ダメよ!!! あらゆるクリエイターは、創作の軸があるの。だから、貴方がこうなりたいとか、絶対ぶれない軸が必要よ。あなたには今軸がない。軸がない作品ほど駄作なものはないから!」

 

「……???」

 

(サーシャさんは、そう言ってくれたけど。急に言われたって、想像つかないよ・・・はぁ)

 

(そして、もう一つの悩み)

 

「はーい今日の授業は……」

めんどくさそうなどんよりとした紺色。

ちょっとだけ女子に視線を向けると、ピンク色も混ざる。

 

「今日マジで授業だるくね?」

「わかるー」

何も考えてないような、おだやかな緑。

少しだけ、くすんでる。

 

「大野君マジかっこいいよねぇ」

「わかる。絵になるよねホント」

情熱的な真っ赤な色。

喜んでいるような黄色。

 

南森の視界には、人の胸元に色が見えた。

 

(私、最近人の心が見えるんです)

 

 


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