この世界には亜人と呼ばれる人々がいる。
亜人とは何か。分かりやすい所で言えばファンタジー小説に出てくる人間ではない文明を持つ種族だ。 ―――エルフやドワーフが分かりやすい例えだろうか――― もちろん彼らに小説で出てくるような派手な能力はない。あくまで性質として表れているだけで月を見て狼になったり氷を操る事ができるわけではない。ヒーロー映画みたいに超人的な力で悪と戦う人間がいないことと一緒だ。
なのに人は自分のことを棚に上げ亜人にばかりそれを求める。もっと派手なことはできないのか、と。勝手に期待して勝手に失望する。特に人を見た目だけで亜人と判断しちょっかいをかけ、違うからやめてくれと言えば、やれ紛らわしいだの人間でその腐った目は気持ち悪いだの自分勝手にもほどがある。
人間は自分の発する言葉が人を傷つけるほどの力がある、ということを理解できていない。そしてそれは子供ばかりではなく大人にも言えることだろう。
差別をやめろ。他を理解しろ。自分でやる気もない、否できもしないことを人は平然と強要する。この様な欺瞞に満ちた行為が教育の場にすら持ち込まれている。
結論を言おう。
誰とも話さない、故に誰も傷つけないぼっちは最強である。
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「比企谷、この作文はお前が真剣に考えて書いたものであることはわかる。だがこの結論はよくない。文系の得意なお前のことだ。この作文のテーマを理解していないわけではなかろう?」
がたいが良く目つきが悪い、それでいておしゃれとは縁遠い服装に白衣。この学校に通う生徒なら誰でも知っているであろう教師。それがこの高橋鉄男という人だ。その高橋先生はあきれ顔。はい僕のせいですね解ります。
「『人と亜人の関係性』でしたっけ」
「解っているならなぜこうなる・・・」
高橋先生は深くため息をつく。
「いやそれ以前に何で高橋先生が俺の作文読んでるんですか。俺の記憶が正しければ先生は担任ではなかったと思うのですが」
「その担任の先生に丸投げされたんだよ。俺の方が比企谷も接しやすいだろうと」
いやそれ間違ってるんですけど。たしかに高橋先生はいい人だし多くの生徒からも慕われるような存在だ。だが俺の場合は別だ。年上の人に親しげに話されてもどう接すればいいかわからないしどんな顔をすればいいかもわからない。なに?笑えばいいの?
「なにニヤついてるんだ。気持ち悪いぞ」
生徒に気持ち悪いって言ったぞこの教師・・・。
「あのですね、そもそも前提として間違っているんですよ。この課題は」
「と、言うと?」
顔の前で手を組み姿勢が前のめりになる。高橋先生が真剣な話をする時の癖だろうか。
「いいですか、この作文のテーマである『人と亜人の関係性と今後について』というのは人と亜人の違いを考え、互いに理解しあうことで差別意識をなくそう。こういった狙いで出されたのでしょうが、まずそれが間違っています。人と亜人の違いを考えるということは人と亜人の差別化をしろということです」
高橋先生はまっすぐ俺の目を見る。まるでこの腐った目に映る世界を観ようとするかのように。そして俺は目を逸らす。当たり前だ人の目を見ながら話ができたらぼっちなんてやってない。
「確かにお互いの違いを理解すれば短所を補い合うことも可能でしょう。ですが大前提としてそんなことができる人間は何も言わずともそれができるはずです。この作文は不要に互いの違いを意識させることで、逆に不和を生みかねません。自分にできないことができる。これは嫉妬や恐怖の対象にしかなりません」
ここまで話すと高橋先生は初めて目線を逸らし俯いた。たかだかひねくれた高校生の屁理屈を真剣に考え込んでいるのだ。本当にいい人なんだろう。
「それに人間同士でもみんな違うとわかっているのに他人を理解できず傷つけているんですから」
最後の言葉は聞こえているのだろうか。俯き考えに没頭している様な高橋先生はこちらに目もくれないのだから聞こえていないのかもしれない。
「なるほどな。比企谷、お前の考えは分かった。つまりは結果が保証されない、むしろ逆効果さえ生みかねないテーマに納得がいかなかったわけだ。だからお前は2つあるテーマから亜人に関するテーマを選んだわけなんだな」
「・・・えぇまぁそんなところです」
別に納得がいかないとかそんなことではなく、もう一つのテーマに抵抗があっただけなんだが。まぁ説教コースから外れそうだし、早く帰れるならそれでいい。
「確かにお前の考えは正しい。だがそれは青春を謳歌すべき若者としては間違っている」
「いや別に青春を謳歌するつもりないんで。それに正しいことを言っているのに間違っているって完全に青春を謳歌すべき若者が間違えているじゃないですか」
「お前にはまだわからんか」
ニヒッと笑うと高橋先生は乱暴に頭を撫でまわしてきた。やだ髪型が崩れちゃう!いやほらアホ毛とか大事だから。多分撫でまわされても元に戻るだろうけど。俺のアホ毛超起き上がりこぶしだから。なにこの超頭の悪そうなワード。
「おし、比企谷。明日の昼休みにまたここに来い。お前に会わせてみたいやつがいる」
「はぁ・・・」
自慢じゃないが俺は自分が問題児であることは自覚をしている。誰が読んでもそれがわかるように作文を作ったつもりだ。その作文を読んで尚先生が、俺の考えを真剣に聞き考えてくれた、その先生が会わせてみたいと考えた人物。あぁ、また期待をしてしまった。もしかすると自分を理解し、受け入れてくれる人がいるのではないかと。
頭ではそんな人間はいないと理解している。なのに勝手に期待して、そして勝手に失望するのだ。俺は再び最も嫌っていた欺瞞だらけの世界に足を突っ込んでしまっているのだろうか。そのことがひどく不快であり、そんな自分をまた嫌いになりつつある。
「ちなみに拒否権は?」
「それはもちろんお前の自由だ」
あぁ、やはりこの人はいい人だ。だから俺はこの人が嫌いだ。
この人はきっと俺と真剣に向き合ってくれる。そしてきっと見抜かれてしまう。
人間というものを嫌っている、何も期待していない。そんな言葉を並べても、俺はまだ偽物じゃない何かを求めている。それを見つけ出す術も、探し出す勇気もないというのに。そんな薄ぺらい俺を知られたくない。この人とはもう関わってはいけない。俺はもう、語りたくない。
締め切られたカーテンの向こうからは運動部の掛け声、吹奏楽部の演奏音、多くの生徒たちが青春を謳歌している。ここには青春とは程遠い世界、1人の教師と1人の生徒しかいない。放課後の理科準備室には春の匂いの代わりに薄く薬品の匂いが漂っていた。
俺ガイル、亜人ちゃん共に原作うろ覚えで勢いだけで書いてるので原作ファンの方からすると解釈違いで不快な思いをさせてしまうかもしれません。
もし補足や原作で語られる正しい解釈があれば教えてください。
頑張って治します多分きっとおそらくおおよそその可能性もゼロではないかと言われればそうです。