独りぼっちは語りたくない   作:扇メトン

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雪ノ下雪乃は見られていた

「ドッペルゲンガー?」

 

 おっとうっかりオウム返しをしてしまった。これじゃまるでオウムだ。死んだ魚の目とはよく言われるが、頭の中は鳥並なのかもしれない。死んだ鳥と言われるよりかはマシか。

 

「比企谷くんと言ったかしら・・・。さっきは死んだ魚の目といったけれども、頭は死んだ鳥のようなのね」

 

「お、おい雪ノ下。比企谷はこう見えても根は真面目で悪いやつじゃないんだ。そう悪くいうのはだな・・・」

 

「大丈夫ですよ高橋先生。このくらい慣れてます」

 

 嘘です。結構きてます。頭は死んだ鳥って・・・。ウソみたいだろ。死んでるんだぜ。いや、生きてくれよ。強く生きろ俺。

 

「雪ノ下がこれだけ楽しそうなのは初めてみるな。喜べ比企谷」

 

「平塚先生、楽しそうとは心外です。私がこの男に感じるのは身の危険くらいです。休日にストーキングする様な男にそれ以外の感情は生まれません」

 

「安心しろ雪ノ下。高橋先生が連れて来たんだ。それに私も授業を受け持っているが、彼の小悪党ぶりは信用してくれていい」

 

「いや、常識的な判断ができると言ってください」

 

 この学校の教師は俺に対してもう少し言葉を選んでもいいと思うんだ。2人ともいい先生ではあるが。

 

「小悪党・・・。なるほど」

 

 いや納得しちゃうのかよ。

 

「先生方がそう言うのであれば、誠に遺憾ではありますが、今はこの男を信頼致しましょう。それでストーキング谷くん。話は戻すけれど、あなたはどう思うかしら?」

 

 誰だよストーキング谷くん。語呂悪すぎだろ。うっかりもう1人俺の知らない所にストーキング谷くんがいるのかと思っちゃったろ。というかストーキングしてない。

 

「どう思うって、ありえるのかドッペルゲンガーの亜人なんて」

 

 亜人に関しては謎が多い。それなのに素人がいくら考えても答えが出るはずもなく。そもそもどうしてこうなったのか。時間は朝まで遡る。

 

 

 

 

「比企谷、今日は放課後空いてるか?」

 

「今日はあれがあれなんで・・・。さっさと帰ろうかと」

 

「なるほど、暇なんだな。そしたら放課後ちょっと顔貸してくれ」

 

「いや、暇なんて言ってないじゃないですか」

 

「でも用事無いだろ?」

 

「ですから・・・いえ、わかりました」

 

 この人は力も強かったが推しも強いらしい。これ以上は不毛だろう。下駄箱で待ち伏せするくらいだからきっと断りきれない。諦めはいい方なんだ・・・。あと目立つ。通り過ぎる生徒全員チラチラ見てるから、八幡恥ずかしい。

 

「それじゃ放課後お前の教室まで行くから、よろしく」

 

「えぇ・・・。教室だと目立つんで俺が職員室まで行きますよ」

 

「でもお前そうしたら逃げるだろ?」

 

 何故バレた。ごっめ〜ん!忘れてた!って言えば許されるはずだったのに。ソースは俺。中学の頃は夜に送ったメールが次の日の朝によくそう返ってきたものだ。うんうん、忘れてたなら仕方ないよね!

 交渉の余地はないと言わんばかりに高橋先生は話を切り上げ、職員室へ向かっていった。1ヶ月ぶりに絡まれたと思ったらとても厄介そうな話で早速うんざりしていますなう。

 

 そこから放課後まで時間は進み、宣言通り教室に現れた高橋先生に連行される形でやってきたのは文化部の部室が多く集まる特別練。その中でも一層静かなエリアに辿り着く。どうやら空き教室のようだ。

 高橋先生は律儀に扉をノックする。中から聞き馴染みのある声で返答を受け扉が開かれる。

 

「平塚先生、勝手に返事をしないでください」

 

「私は一応顧問なんだから問題ないだろ」

 

 聞き覚えのある声の主こと国語の教諭である平塚先生とそれに抗議する女生徒が目に入る。俺は彼女を知っている。彼女が校内でも有名であるからして俺が一方的に知っている、と言うのもあるのだが、実はつい最近に彼女をある場所で目にしている。

 

「こんにちは、高橋先生。それで先生の後ろにいるそのぬぼーっとした人は一体なんですか?」

 

「ぬぼーってなんだよ。初めて言われたよ」

 

「失礼、それでは死んだ魚の目の人は。いえ、人・・・?」

 

「安心しろ。こいつは比企谷と言って生物学上人間だ。俺が保証する」

 

「それフォローになってますかね?」

 

 前も思ったけど、この人俺に遠慮無さすぎじゃない?

 

「それで、高橋先生を疑う訳では無いのですが、彼は本当に今回の件で役に立つのですか?」

 

「大丈夫だよ雪ノ下。ついこの間出た課題の作文を見て気づいたんだが、比企谷はモノの本質を捉えようと世界を見ている。正しいかはともかく、雪ノ下には無いこいつの視点は今回の依頼の参考になるだろう」

 

「私もあの作文を見たが、もし私に丸投げされてたらきつくお灸を添えていたところだ。だが、たしかに今回の依頼に関しては、お前には無い見方も必要だろう」

 

「そうですか・・・。では改めて、私は雪ノ下雪乃。ここ奉仕部の部長を務めているわ」

 

「ほうしぶ・・・?」

 

 え、胞子?法師?なにそれ?部活なの?pixivの親戚なの?

 

「ちなみに奉仕と言っても、求めれることをなんでもやる訳ではなく、簡単に言えば生徒向けの相談窓口のようなものよ。助言は惜しまないし、場合によっては手を貸すこともある。けれど解決するかどうかは本人の意思次第。飢えた人に魚を与えるのではなく、魚の採り方を教える。それが奉仕部よ」

 

「なるほど、ゴールデンウィークの東京わんにゃんショーで猫に話しかけていたのは魚の取り方を教えていたのか」

 

 嫌だ八幡ったら!第一印象が悪かったからってそう言うのは良くないわよ!女の子を苛めちゃ行けません!うるせぇやられたらやり返すんだよォ!それが日本男児!(偏見)

 

「何を言っているのかよく分からないのだけれど。そもそも猫に人の言葉が通じているのか怪しいものよ。なのに話しかけるなんてことをするわけがないじゃない。それに何故今日初めて会うはずのあなたが私の行動を把握しているの?ストーキングをしていたのなら素直に自首しなさい。今なら警察にもちゃんと弁明してあげるわよ。まだ何も手を出されていないって」

 

「お、おう・・・」

 

 苦笑いをうかべる教師2人と突然の事でドン引きする男子高生がいた。というか俺達だった。

 

「おい待て、まだってなんだまだって。未来永劫そんなことする度胸は湧いてこねぇよ」

 

 いや、別に度胸があったら手を出すわけじゃありませんよ?

 

「雪ノ下、本題に入ろうか・・・」

 

見かねた平塚先生が話を元の路線に戻し、ようやく雪ノ下は我に返ったのか、咳払いをして机の上に置いた1枚の紙を出した。

 

「先日奉仕部の活動の方針を決めるにあたり、試用期間を設け目安箱のようなもの設置したのだけれど、こちらで匿名でも可能という条件の下、生徒から相談を募ったの。そこで寄せられた唯一の相談がこれよ」

 

「比企谷には呼び出しておいて悪いが、依頼人が女生徒ということもあってプライバシーの問題もあるのでな、用紙自体を見せることは出来ない。これは高橋先生も同様で記載内容について簡単に説明しただけだ」

 

「簡潔に話すと依頼人には仲良くなりたい相手がいるそうなの。問題は彼女の置かれている環境にあって、クラスの女子とは表面上は仲がいいのだけれど、影では疎まれており表立っては動きずらいみたい。それともう1つ、すごく大きな問題があるのだけれどーーー」

 

 雪ノ下は真っ直ぐに俺を見た。まるでお前にここから先を聞く度胸があるのか、と問いただすように。

 

「彼女はドッペルゲンガーのデミヒューマンよ」

 

 そして話は冒頭に戻る。

 

 

 

 

 東京わんにゃんショーの件を受けて多少毒のあった喋りが完全なる毒となった雪ノ下、元い毒ノ下さん。

 

「デミヒューマンと呼ばれる人々は謎が多く、その存在がありえるかありえないか、と言う議論は全く意味をなさないわ。加えてドッペルゲンガーは幻覚の1種という説もあるのだけれど、神話や伝説では身体と魂が分離し実体化したと記され、死の前兆として記されていた例もあるの。その線で行くと幻覚か生霊の2択となる訳だけれども、一昔前ではゴシック小説のネタとして大人気で様々なドッペルゲンガーの定義が生まれたわ。また、私達に馴染みが深いもので行くと都市伝説として類似した存在は語られているのだけれど、その多くに共通する点は死と関わりが深いこと」

 

「え、なに怖い。雪ペディアさんなの?」

 

「その呼び方はやめなさい。今の私に言えることは、ドッペルゲンガーは様々なデミヒューマンが確認されている現代においても誰も見た事がない。今では都市伝説以外では語られていないのよ」

 

 だけど彼女は現れた。そう雪ノ下は締めくくった。

 

「現れたと言ってもこの目安箱に投函されただけだ。私達はまだ彼女とはコンタクトをとっていない」

 

 俺たち2人のやり取りを静観していた平塚先生はそう口を挟んだ。高橋先生に目をやるとまたあのポーズで考え込んでいるようだった。

 

「悪ふざけで投函された可能性もあるし、なにより実態が分からないなら直接聞いてみたらいいじゃないか」

 

 何の気なしに言った言葉であったが、雪ノ下から発せられた予想以上に重い声が脳に響いた。

 

「ふざけないで」

 

 怒鳴りつける訳ではなく、ただ静かに、されど重い。何を知ってる訳では無いが、噂に聴く雪ノ下雪乃のイメージにあまりにも不釣り合いな声だった。

 

「落ち着け雪ノ下」

 

 そこで続きは自分が引き継ぐと言わんばかりに平塚先生が雪ノ下を制した。

 

「いいか比企谷。悪ふざけだとしたらこんな如何にもな相談内容を実名で投函したりしない。匿名でも投函できるようになってる目安箱だぞ?という事からも考えられる答えは二つ。彼女が本当にデミヒューマンなのか・・・」

 

「イジメないしは嫌がらせ、ですか・・・」

 

「わかってるじゃないか」

 

 俺としたことが完全に見落としていた。それを受けるのはいつも俺自身だったから。皆の敵はいつも俺だったから。他人が他人に対してそれを行っているところを見たことがなかったから。だから簡単に想像が着く『それ』に思考が行き着かなかった。

 

「比企谷くん、今回の件に関しては一切忘れて頂戴。先生方のご好意には申し訳ないのですが、彼の様な浅慮な人間は今回の依頼においては障害としかなりえません」

 

 雪ノ下の言う通りだ。散々相手のことを恨み妬み、見て見ぬふりをしてきた奴らに嫌悪感すら覚え、そうして今まで過ごしてきた。そのはずなのに。結局は自分の物差しでしか人を推し量れず、他者から見た自分の実像すら見失う。だから本当に俺は俺が・・・。

 

「いや、待ってくれ雪ノ下」

 

「なんですか高橋先生・・・」

 

「何でだろうとずっと疑問だったんだが、ようやく合点がいった」

 

 高橋先生は1人で納得しているようだったが残り3人は置いてけぼりだ。結論を焦らす話し方がある。人の興味を引いたりする上ではとても有効なのだろう。だがあっさり結論を言って欲しい派の俺としては・・・。

 

「比企谷、お前昔よくイジメられてただろ」

 

 思考が止まった。人の口から聞くと自分が酷く惨めに思えた。過去の記憶が脳裏を過り、心臓はやけに早く脈を打つ。気が付くと机の下で持て余していた手は固く拳を握っていた。

 

「なんで・・・」

 

 必死に取り繕おうとしたが、考えがまとまらない。出てくる言葉はとても稚拙だった。

 

「ずっと考えていたんだよ。なんで比企谷が作文であの結論を導き出したのか。あの内容からしてお前が以前イジメやそれに近いものがあったことはすぐわかる。最初はSOSのメッセージかとも思ったが、見る限り現在ではそう言った出来事に遭遇した様子はない」

 

 当たり前だ。助けを求めることの無意味さを知っている。他人から差し伸べられる手の無責任さを知っている。裏切られた時の絶望感を知っている。だから助けなんか求めたりはせず、自力で解決した。周りの連中が入学できなさそうな進学校である総武高校に入るため必死に勉強した。悪意を向けられないように極力人との関わることをやめた。誰にも期待しないように、されないように務めてきた。それが俺のこの1年だ。

 

「自分が傷つかないように孤独を選ぶ、と言うのもわかる。だがそれだけではあの結論にたどり着くことは無い。ここがずっと分からなかったんだが、ここまでのやり取りでようやく分かったよ。比企谷、お前は痛みを知っている。だから人の痛みも分かってしまう。お前は分からないことが怖いんじゃなくて、分かってしまうことが怖いんだ。だからお前は孤独を選んだ。だから比企谷八幡にとってぼっちは最強なんだ」

 

 人の痛みが分かる。まるで善人のような肩書きだが、俺はそうじゃない。たとえ誰かが傷ついていても、それが分かっていても、俺には手を差し出すことができない。無責任に手を差し出すことの残酷さを知っているから、それが怖くて仕方ない。散々助けを望んでいたくせに、誰かが助けを求めた時は気付かないふりをして、問題そのものを直視すらしない。そんな自分が心底みっともなく感じる。分かっていても変わることが出来ない自分が酷く醜く感じる。だから決して悟らせないよう、俺はまた一歩下がる。人の輪に入らないように。助けを求める声が聞こえないように。

 

「・・・今日は帰ります」

 

 誰からも声をかけられることのないよう祈りながら、空き教室を出た。

 

 

@

 

 

「やっぱり、ぼっちは最強じゃないですか・・・」

 

 特別練を離れ昇降口へ辿り着き、ようやく口から出た言葉はやはり稚拙だった。ふと顔を上げると、目を丸くした女生徒と目が合った。丁度階段から降りてきたところみたいだが、これ聞かれてましたよね。うっわ恥ずかしい!なにこれ死にたい!絶対急に喋りだした変な奴だって思われてるじゃん!

 

「ビックリした・・・」

 

 えぇそうでしょうね!俺もビックリだよ!今すぐ逃げ出したい!というか逃げます!さよなら知らない人!

 足早に立ち去ろうとするも制服の袖を引かれ、つい立ち止まってしまった。立ち止まってしまったからには、要件を伺わなければなるまい。正直言ってすごく嫌だ。今まさに黒歴史が生まれようとしているこの瞬間。一時も早く家に帰り枕に顔を埋め叫びたい。だがこうなってしまった以上仕方がない。さっさと要件を聞き、それな。と一言残し立ち去ればいいだけの事。女子にはそれなって言えば会話できるって常識だから。

 意を決して振り返ると女生徒は自分でも戸惑っているような、そんな顔をしていた。上履きの色からして1年生のようだが。

 

「えっと・・・。葉山先輩って知ってますか!?」

 

「それな」

 

「は・・・?」

 

 おい誰だよ女子にはそれなで会話ができるとか言った奴!明らかにご機嫌損ねてるんですけどぉ!

 

「あの、その、すまん。葉山って葉山隼人の事か?」

 

「まぁ、そうですけどぉ。さっきのなんですか・・・?」

 

 なんかすごい気持ち悪いものを見るような目をしていらっしゃるんですけど?我々の業界ではご褒美です。おっと、ぼっちだからそんな業界は入れてなかったよ。なーんだこれじゃただ居心地が悪いだけだ!

 

「すまん、ちょっとあれがあれで・・・。それはさておき葉山隼人だったな。あいつはクラスメイトだ。うん、超クラスメイト」

 

 女生徒は1度咳払いをして話を続けた。

 

「実はぁ〜葉山先輩とお近付きになりたくてぇ〜。ほら、女子の人間関係とか男子から告白されたりってめんどくさいじゃないですかぁ〜」

 

 うっわ何だこの甘ったるい声。さっき俺を問いつめる時はそんな声じゃなかっただろ。それにこの子言ってること割と酷くて怖い。あと怖い。声と台詞のギャップがいいスパイスになって怖さ増し増しだよ。ダメだよ人間関係面倒くさいとか言っちゃ。おっと特大ブーメラン。

 

「だから葉山を隠れ蓑にしたいと・・・」

 

「そう!そうなんですよぉ〜!相手が葉山先輩ならステータス的にも問題ないですしぃ〜」

 

 今この子ステータスって言った?言ったよな?世界はRPGと一緒ってか?ステータスで全て決まるとでも思っんのか?

 触らぬ陽キャに祟なし。戦略的撤退をするべく脳をフル回転させ言い訳を考えていると、あることが脳裏を過った。それはつい先程まで頭の中にあった相談。突然のエンカウントに気を取られ一瞬頭の中から消えたそれは、少し思考するだけで簡単に頭の中を満たした。

 

「もしかしてお前がーーー」

 

ーーードッペルゲンガー。そう口から出そうになるのを飲み込む。

 まだ可能性の話ではあるが、もし仮にあれがイジメであった場合。彼女はイジメられているという現実を受け止め、その対抗策として行き着いた答えが上級生であり、誰もが知る葉山隼人であるとすれば。

 先程の彼女の口振りは俺に同情されることを避け、見ず知らずの人間にすら頼りたい、そういう自分の感情を押し隠しているだけなのだとすれば。

 赤の他人を袖を掴んでしまったことも、その行動を自分自身で理解できなかったことも、全て辻褄が会うのではないだろうか。

 彼女がドッペルゲンガーであるかどうかはどうでもいい。どの道ここで俺がそれを口にすることで、彼女の逃げ道がひとつ潰される。見ず知らずの人間が唐突にそのようなことを口にすれば、イジメに携わる連中から話が上級生にまで漏れていると錯覚してしまう。そうなってしまえば彼女はきっともう手を伸ばせない。その辛さは知っている。

 だが1度口から出た言葉はなかったことにはない。

 

「お前がってなんですか?」

 

 明らかに声に緊張の色が混ざった。俺の仮説が正しければこれは非常によろしくない。彼女は雪ノ下雪乃に辿り着かなければならない。少なくても雪ノ下ならば彼女の抱える問題に真面目に向き合ってくれる。ここで彼女が手を伸ばせなくなることは避けねばならない。よって導き出される答えは・・・。

 

「いや、お前俺の事好きなの?」

 

 これでいい。これで彼女は俺の弱みを握ったことになる。そうなれば間違いなく葉山隼人との関係を取り持つよう要求してくるだろう。そのあとは何とかして雪ノ下に引き合わせれば俺の仕事は終わりだ。葉山と彼女が上手く行けばそれに越したことはないが、常に取り巻きがいるアイツに話しかけるとか絶対無理。

 一瞬呆けた顔をした彼女だったが、すぐに状況を理解したのか必死に笑いを堪え始めた。

 

「ホントにっ・・・なんなんですかっ・・・」

 

「いや、なんなんだろね」

 

 必死に笑いをこらえる後輩女子。そんなに面白いことだったのだろうか。ある程度覚悟を決めていたつもりだが、ここまでツボに入られるとすごく恥ずかしくなってくる。いや、恥ずかしいこと言ったんだから当然といえば当然なのだが。

 一通り堪えきったのか、目元の涙を拭いながらようやく彼女は口を開いた。

 

「正直自意識過剰過ぎてキモイです。でも久しぶりにすごく面白かったです。ありがとうございました」

 

 俺は黒歴史を自ら増やし、彼女はそれが面白かった。ただそれだけの事なのに彼女は律儀にお辞儀をしてまで礼を述べた。うちの妹と同じくゆるふわ系(頭の中が)女子かと思ったが、そうでは無いらしい。

 頭を上げた彼女は先程までの笑顔とは少し違う、そう小悪魔的な笑顔になっていた。

 

「でも乙女をこんなにさせちゃったんですからーーー」

 

 だが小悪魔的な笑顔も一瞬で消え、どこかに照れがあるようで、そして心から溢れたような、そんな笑顔で彼女は続けた。

 

「ーーー責任、とってくださいね。先輩!」

 

 亜麻色の髪が揺れる。その下にある笑顔はとても魅力的で、不覚にも一瞬見蕩れてしまう程に輝いている。茜色の夕日が差し込む。彼女の顔を、そしてきっと俺の顔も赤く染める。俺はまだ目を離せないでいた。

 5月も下旬へと差し掛かっている。別れの春であったり出会いの春であったり、そんな矛盾を抱えた春の終わりを確かに感じた。




すごい久しぶりな更新ですね。どうも扇です。
小説にはプロットという物がありますね。
物語内の矛盾や風呂敷を広げすぎて手がつけるれなくなる。
そんなことを避けるためにプロットはあります。
ですがプロットがあればそれらが無くなる訳ではありません。
プロの世界にもきっと引き伸ばしや編集のテコ入れなど様々な意図により、本来の構想から変化を強要されることもあるのでしょう。
そんな時に矛盾の解消や物語に収拾をつけるとこは非常に難しいことだと思います。
逆にそれができるから小説が書けるのだと思います。
すごいですね。

私の場合はプロットを作ってもその場の思いつきと勢いでペタコラペタコラ色々なものを足してしまっています。
きっとこれが素人あるあるなのでしょう。
編集担当をつけてくれ。
俺を管理してくれ。
頼む。
というかこんな話にしたいって要望に沿って誰か小説を書いてください。
原案なんて大層な肩書きではなくスペシャルサンクスの読者の皆様の下に小さく名前を書いてくれたらそれで十分ですので。
それすらも烏滸がましいですね。
はい、頑張ります。

さてさて、お気づきの方も多いかもしれませんが、これは色々しっちゃかめっちゃか魔改造されたいろはルートです。
一色いろはルートの素晴らしいSSは沢山あります。
なのでタグ付けはしません。
そしてこれはいろはルートでありながらも、雪ノ下雪乃であったり由比ヶ浜結衣であったりそして何より高橋鉄男であったり色々出てきます。(多分)
クロスオーバーですもん。
もし亜人がいて、現実と同じようにイジメが簡単に起きる世界であれば。
もし比企谷八幡が原作で仮定した、入学式の事故がなかったとした世界であれば。
そんな考えで書き始めました。
だから由比ヶ浜結衣は奉仕部に相談へ行かなかったし、雪ノ下雪乃は本当に比企谷八幡を知りませんし、一色いろはは生徒会選挙を待たずして嫌がらせを受けてしまいます。
そんな世界で比企谷八幡は原作より少しだけ臆病になってしまったかも知れません。
皆さんお気づきでしょうか?
これだけでも手に負えなさそうなのにクロスオーバーしちゃったんですよ。
つまりですね、風呂敷を広げすぎてるんですよ。
頑張って畳んでいきますがきっと風呂敷から零れてしまう矛盾があります。
そんな時は優しい目で落ちましたよって教えてください。
なんとか風呂敷の中に押し込みます。
無理そうであれば見なかったことにしますので、皆さんも空気を読んで合わせてくださいね。

それでは長々とあとがきを書かせていただきましたが、この辺で失礼致します。
1000文字越えのあとがき書く暇あったらさっさと続きかけよな。マジで。

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