独りぼっちは語りたくない   作:扇メトン

5 / 9
お久しぶりです。1年です。1年が経ちました。最終更新から早1年。
1年前から1つ歳とったと思うとビッくらポン。
気が付けば我、アラサー。
16歳の頃から見たら20歳後半なんてすごい大人に見えてました。
どうしてこうなった。
見た目は大人、素顔は子供を地でいってる。
歳はとりたくないですね。
いつまで前書きを書いてるんだろうか。
誰か止めてくれ。


一色いろははハブられない

ーーー責任。

 一重に責任と言ってもその重さは様々だ。初めてのお使いの時に生じる責任と、高校の生徒会長になる責任、まだ知らないが会社で役職が着いてからの責任。これはそれぞれ重みが全く異なる。

 俺が思うに女子から言われる責任とは、今まで生きてきた中で1番重い責任ではないだろうか。高校中退して働かなきゃ行けないのかしら。いや、そもそも俺は働きたくない。そうだ向こうに働いてもらえばいいんだ。これにて一件落着!ガハハ!

 いや待てそもそもなんの責任だ。そもそも働きたくない以前にそもそもなんの責任がもそもそ俺にあるんだよ。そもそももそもそ。

 落ち着け俺クールになれ。

 

 件の後輩女子とのエンカウントをしたその次の日。俺は未だに責任という言葉に踊らされていた。それもサンバのように激しく。

 責任を取ってくださいなんて言われるのも初めてだし、何より重い。この歳で大層な責任を背負うなんて考えもしなかったのに、知らない後輩女子に責任を取れなどと言われた日にはもうパニックである。次の日もパニックである。パニーックパニーックみんなが慌ててる。俺はすごくないし天才的でもないが。それ以前に『みんな』なんていなかった。

 

 何もしてないはずなのにすごい不安になってきた。子供の認知とかそう言う不安も一瞬頭をよぎったが、流石にそんなはずはない。手も繋いでないし、キスもしてないし、コウノトリも見てないのだから間違いない。

 ならばなんの責任か。それがわからない。だから怖い。相手は複数人のグループだろうか、それとも俺が思ったドッペルゲンガーのデミヒューマンという仮説が正しく、憂さ晴らしや自己防衛のために利用しやすい人間を確保するためか。

 どちらにせよ、そんな攻めの一手を仕掛けてくるからには、必ず何かしら俺を揺さぶる手札を持っているはず。一体どこで弱みを握られた?誰にも関わらないようにしていたこの俺が、そんな弱みを見せた覚えはない。昨日の独り言程度では大した揺さぶりにはならない。ならば何故、何がどうしてこうなった。

 ぐるぐると、一向にまとまらない思考がループし続けている。朝からずっと授業が終わる度、机に伏せて寝たフリをしながら考えているが答えは何一つとして出てこない。

 

「せーんぱい、やっと見つけましたよ」

 

 おい誰だよ、せーんぱい君。呼ばれてんぞ。そんな近くでこの甘ったるい声を聞いていると昨日のことを思い出す。恥ずかしいやら怖いやらで、顔が赤から青に変わったり戻ったりで落ち着かない。

 

「せんぱぁーい、寝てませんよね?そのバレバレな寝たフリやめませんか?」

 

 おい、せんぱぁーい君。君寝たフリバレバレらしいぞ。さっきのせーんぱい君と一緒にさっさと出てけよ。

 

「あの普通に無視とか引くんでやめてもらえますか?」

 

 トントンと肩を叩かれてしまっては、反応をしない訳にはいかない。なにより寝てるフリはバレてるようだし。

 

「名前も呼ばれてないんだから、反応ができなくても俺は悪くない」

 

 極力注目を集めたくないので腕から顔だけを上げて返事をするが、教室にまばらに残ってる人間は既に奇異の目を向けている。

 いたのかいないのか分からないようなぼっちに対して、名前は知らずとも後輩女子が教室にまで来て、話しかけているんだ。誰だって一体何事かと意識を取られる。なんで話しかけてきたのかは、俺が教えて欲しいくらいだけどな。

 

「だってぇ、昨日は先輩が名前を聞く前に帰っちゃったからじゃないですかぁ」

 

「誰だってあんなこと言われたら逃げ出したくなるだろ」

 

「あんなことって、どんなことですか・・・?」

 

 わざわざしゃがみ込み目線を合わせ、両手は軽く握り顎の下、忘れちゃいけない萌え袖。顔の角度は10度(目測)傾け、上目遣い。そしてトドメの困り眉。この計算され尽くされた、自分が可愛く見える表情に仕草。

 あぁ、俺はこれを知っている。中身のない、ただ男を自分の意のままに操るために会得されたそれ。どうやら謎の後輩女子は、とてもいい性格のようだ。

 だが甘いな。俺は騙されない。一体俺が何年ぼっちをやってきたと思ってるんだ。盛大に悪態を付いて、その化けの皮を剥いでやる!

 

「あ、あざとい・・・」

 

 なんだよ文句あんのかよ。一体俺が家族以外の女子と何時間話したことがあると思ってるんだ?馬鹿め引っかかったな!累計でも1時間も話していない!多分。

 それに本性が見抜けようと、見抜けなかろうと関係ない。後輩女子、つまり年下の女の子のそれは、下心が透けて見えることも含め、ラブリーマイエンジェル小町のおねだりを連想させる。なんか頭悪い子みたいなことを言ってしまった気がするが気のせいだろう。

 兎にも角にも、小町を連想した時点で悪態など付けるはずもなく、精一杯捻り出した言葉がこれなのだ。べ、別に女子に悪口言って、後で集団リンチに会うのが怖かった訳じゃないんだからね!

 謎の後輩女子は、俺の言葉を聞いた後一瞬キョトンとした表情でフリーズした。それはまるで年相応の・・・って何考えてるんだ俺は。相手は悪魔だぞ。

 悪魔はその後クスリと笑って、今度は計算された作り物じゃない、ありのままの笑顔でこう続けた。

 

「そんなこと言いますか?普通」

 

「俺に普通を求めるなよ。人と関わらなさすぎて普通とかわからないんだよ」

 

 東京わんにゃんショーでも小町に言われ、普通という言葉の意味を再定義したところなのだ。普通って難しい、と言うよりも俺にはできないことなのだと思い知らされた。普通、すごいんだぞ。

 

「先輩って友達少ないんですね」

 

「少ないんじゃなくて作らないんだよ。人生友達なんていなくたって生きていけるし、なんなら高校卒業した後も付き合いのある友達なんてほんの数人だ。そこに割くリソースがあるなら勉強に使うべきなんだよ」

 

「それってただの強がりですよね?もしかして先輩って友達少ないんじゃなくて、友達がいないんですか?」

 

「学生の本分は勉強だろ。人間関係を大切にするべきなのは社会に出てからだろ。社会に出てからならビジネスライクな関係で問題ない。つまり友達は必要ないんだ」

 

「先輩って言うことが擦れてますね。絶妙にお節介というか、おじさんくさ・・・老けてますね!」

 

 言い直しても全然良くなってないんだよなぁ。そこは大人っぽいでいいだろ。

 

「そんなことより、ここで話すのもなんですし・・・。お昼食べに行きませんか?」

 

 横目で確認すると教室内に残る生徒のほとんどが、こちらの様子を伺っているようだった。正直このままここにいられるとまずい。何ってもう空気が気まずい。教室に戻った時に集まるであろう視線も気まずいが、ずっと見られながら話をするというのは居心地がいいものでは無い。

 この状況を作りあげた張本人も目で訴えている。お前よりもこっちの方が気まずいからさっさと立て、と。困ったような表情を作っても無駄だ。長年のぼっち生活から相手の仕草を見て、ある程度は言葉の裏の感情が読めるようになっている。

 例えば挨拶をされたから返した時、目を逸らされたらお前じゃねぇよ反応すんな、という意味だ。

 長くなったが話は単純明快。教室を出て昼を食べに行くという誘いを・・・。誘いを?

 

「・・・もう昼、なの?」

 

 どうやら俺の脳はサンバよりも激しく踊らされていたようだ。

 

 

 

 

 購買で買ったパンと自販機で買ったマッ缶を持ち、何故か後輩の女子を引連れて、俺はベストプレイスにいた。あまり人の多くない場所がいいとのことで、俺が知る限り1番静かなこの場所を選んだわけだ。

 

「意外と良い場所知ってるんですね。少し驚きました」

 

「体育の時、たまたまここが見えたんだ。今日みたいに風が吹いていると過ごしやすい」

 

「今度から私も使わせてもらっても良いですか?」

 

 出たな、リア充特有のジャイアン理論。お前のものは俺のもの。俺みたいな弱者から多くのものを搾取し、抗議するとケチケチすんなよ、などと理不尽な言い分でこちらを悪者扱い。自分達が青春を謳歌することを何よりも尊び、自分以外はその為の舞台装置としか見ていない。この後輩も例に漏れず、搾取する側であり、俺から居場所を奪おうと・・・。

 

「教室だと居ずらくて・・・。先輩のお気に入りの場所なのはわかってます。教室に居場所なさそうでしたし」

 

 自分は敵じゃないと、ただここを通るだけだと、そう野良猫に語りかけるように。こちらに向けられた目は、まるで俺の思考を読んだかのように、言葉以上のことを伝えているような気がした。

 

「たまにでいいんです。私にも無いんです。あの教室に居場所なんて」

 

 先程教室で見たものとは違う。何か藁にもすがるような、頼る人も頼るべき事も分からない。そんな怯えの色を含んだ目をこちらに向ける。

 

「だから、お願いします」

 

 頭を下げるところを見て、初めて目が逸らせなかったことに気づく。いつもは反射のように目を逸らしていたはずなのに。

 

「別に、たまにとかじゃなくていいんじゃね。好きな時に来れば。そもそも俺の土地でもなんでもないんだから、いちいち俺に伺いたてる方が間違ってる」

 

 目が逸らせなかったという事実が妙に恥ずかしく、少し捲したてるように言葉を並べた。

 

「先輩ってよく捻くれてるって言われません?」

 

 そう言うとまた笑顔に戻る。先程の緊張が無くなった訳では無いと思うが、幾分かマシになったようだ。

 

「他が真っ直ぐすぎんだよ。世界はもう少し捻くれていい」

 

「なんだかそこまで行くと、捻くれてるというか卑屈ですね」

 

「うるせぇ・・・。そんなことより話があるんだろ」

 

 話とはつまるところ、如何に葉山隼人に近づくか。という事だ。もし、仮にこの後輩がドッペルゲンガーなのだとするならば、ことは慎重に動かねばならない。望ましい展開としては葉山と2人きりの状況でありのままを伝える事だ。

 噂通りの人間なら、葉山隼人はこいつを見捨てはしない。

 

「話なら今してるじゃないですか」

 

「ん?おう・・・ん?」

 

 昨日の記憶はなくなっちゃったのかな?1週間だけのフレンズなのかな?泣いちゃうぞ?

 

「葉山を紹介して欲しいんじゃないのかよ」

 

「あー葉山先輩・・・」

 

「あーじゃねぇよ。なんでお前が言い出したのにちゃんと考えてるの俺だけなんだよ」

 

「ちゃんと、考えててくれたんですね・・・」

 

 なんだよその未知の生命体を見るかのような顔は。俺は正真正銘ヒト科ヒト目ヒトタイプのヒトポケモンだぞ。や、人かポケモンかどっちかにしてくれ。人生は選択の連続と言うが今がその時だぞ。さぁ選べ。俺はポケモンになりたい。

 

「そう言うのちょっといいかなって思いますけど、よく考えてみたら顔もタイプじゃないですし、昨日も逃げられたので乙女的にポイントマイナスですごめんなさい」

 

「お、おう・・・」

 

 何を言ってるのかよくわからんが、どうやら俺はフラれたらしい。乙女的なポイントってお花畑感満載だな。あとそう言うの小町ポイントと被るんで控えてください。

 

「あれ、ヒッキー先輩?」

 

「・・・ッ!?」

 

 振り向く先には、両手に飲み物を3本抱えた女生徒がが立っていた。以前理科準備室で出会った少女。高橋先生が俺に会わせたいと、そう考えた人物。ひかり。そう、俺は彼女のことをそれしか知らない。名前なのか苗字なのか、どんな字を書くのかすらも知らない。だがそれ以外にもたった1つ、俺でも知っていることがある。

 彼女は相手と真っ直ぐに向き合い、己に非があったとしても逃げることなく、真正面から受け止めることができる。そんな強さを持っている。

 

「なんでそんなに驚いてるの?」

 

「人に話しかけられることに慣れてないんだよ。察しろ」

 

「なんかヒッキー先輩キモい?」

 

「お前、それ男子に言っちゃダメなやつだからな・・・」

 

 くいっと袖を引かれ振り返るとあら不思議。笑顔の後輩女子です。笑顔なのに笑ってない気がします。不思議ですねぇ。というか怖い。

 

「先輩、お知り合いです?紹介してくださいよ」

 

「知り合いと言うか、顔見知りというか・・・。えーとこちらナントカひかりさん、もしくはひかりナントカさん」

 

「は・・・?」

 

「名前か苗字か知らないんだよ。そう呼ばれたところしか見てないんだから」

 

「あーそう言えばちゃんと自己紹介してなかった。小鳥遊ひかり1年!バンパイアのデミやってます!」

 

「え、そうなの?」

 

「先輩のそれ、もはや他人じゃないですか・・・?」

 

 

 あまりにも唐突なカミングアウトに驚く俺を見て、後輩女子はドン引きしていた。

 

「まぁ、他人で間違いはないな」

 

「えーヒッキー先輩はこんな可愛い後輩にそんなこと言うの?」

 

「可愛い後輩は自分のこと可愛いって言わないんだよ・・・」

 

 その時、ニンマリと悪い顔をした小鳥遊を俺は見逃さなかった。嫌な予感は直ぐに心当たりへ辿り着く。それを言われるのはまずい。セクハラ紛いというか冷静に考えてセクハラだ。高橋先生と、小鳥遊なら大丈夫と思いつつも、あれからしばらくは訴えられるんじゃないか、とビクついて過ごしていたまである。

 

「それじゃあ、ヒッキー先輩は可愛いと思ってもいない女の子の頭撫でるの?」

 

 何か話しをそらすため、必死に話題を探るも健闘むなしく、小鳥遊の口からあっさりと俺の黒歴史は公開された。

 

「先輩、女子の頭撫でてくるとか普通に引くんですけど・・・」

 

 それで喜ぶのは好きな人だけですよ。とトドメの一撃を食らう。ろくな男女交際をしていない男子には、あまりにも効き過ぎる。

 

「いや、はい全面的に俺が悪いです通報だけは勘弁してください」

 

「そこまで必死にならなくても通報なんてしませんよ」

 

「それならその左手のスマホは一体なんなんですかね・・・」

 

 冗談ですよ。と後輩女子はスマホをしまう。一難は去ったが、頭を撫でた経緯まで掘り返されるのは非常にバツが悪い。出来れば記憶から消し去りたいくらい黒歴史全開なんだ。記憶が無理なら世界を消して欲しい。ダメですか?ダメですか。

 

「女子の髪を触るのはってのはそうなんだけど、でもヒッキー先輩の優しさだーって言うのは伝わってきたから。私結構空気読めないとか言われる方だから、また人を傷つけちゃったかなって、本当に辛くて。だから、あの時は嬉しかったよ」

 

「さいですか・・・」

 

 これ以上黒歴史を掘り返すのはやめて頂けると助かります。というかもうやめて!とっくにライフはゼロよ!HA☆NA☆SE!いや離すな。そのまま引き止めてくれ。

 

「そんなことより、人を待たせてるんだろ・・・」

 

「あ、そうだった!それじゃ私行くね!ばいばーい!」

 

 既のところで喉から出なかった、小鳥遊の両手に抱えられた飲み物話題だが、話を切り上げるという点においては非常に有用だった。最後はいい笑顔で去っていったが、こちらはボロボロである。何ってまだ話を掘り返しそうな後輩女子が残っている。

 

「先輩って意外と女子にウケがいいんですね。少し意外です」

 

「ウケがいいとかそういうのじゃないと思うけどな・・・」

 

 それに小鳥遊にイジられたからと言って、なぜ女子ウケがいいとなるのだろうか。さっきの言葉から察するに、1人に話しかけられるだけでウケがいいと思うくらいには嫌われてるとか?いや、流石に嫌われすぎじゃね?

 

「今まで俺はハブられる側で女子どころか男子にすら友達なんて居なかった。いつも独りだったよ」

 

「それでも今は違うみたいじゃないですか。正直羨ましいです。私にはクラスにも後輩にもあまり仲のいい子がいませんので」

 

「あんだけあざとさ出してりゃ同性には好かれんだろうな。でも男子なんて手玉にとれてんじゃないの?知らんけど」

 

 思春期男子なんてちょろいんだから、もうコロコロだろうに。1体何人がこいつの影響で枕を濡らす羽目になるんだろうな。

 

「そんないいもんじゃないですよ。女子は先輩の言う通り私のことを嫌ってますし、男子は大体が下心丸出しですし。結果男子はお互いに誰が私の気を引けるのかって牽制し合ってて、女子は表面上仲良くて裏では避けられる始末です」

 

 そんなわかりやすい昼ドラ関係ができてていいのか。しかも規模がデカすぎんだろ。40人の高校生のドロドロな恋愛ドラマなんて誰が見たいんだよ。

 

「自慢じゃないですけど、私はハブられることは無いんです。男子は近づきたがるし、女子はステータスとして友達を演じてます。私はみんなの中でいつも独りなんですよ」

 

 それでも、そんな環境でも、1人くらい仲良くしようとする人間はいなかったのか。そう口に出そうになるが、すぐに気づく。俺にはそんな奴がいたか、と。

 俺にしたって全員が全員、俺をハブっていた訳では無い。声をかけようにも無理なのだ。いじめは伝播する。手を差し伸べたら次は自分。この落とし穴は近づく者を引き寄せるのではなく、近づく者を誰かが突き落とすことで初めて機能する。一度機能すれば周りからはやりたい放題。中に手を伸ばせば諸共落とされるのがオチ。暗黙の内にそれが成立してしまうから。だから誰も手を差し伸べない。

 それはきっと、みんなの外でも、みんなの中でも変わらない。こいつと俺の間にある違いといえば、手が差し伸べられるのを待っていたか、自分から外へ手を伸ばしたか。

 言うまでもなく、後者の方が困難だし勇気のいることだ。時折見える不安の色は、まだ外で掴んだこの頼りない袖を信じていいかわからないから。それなら俺ができることはただ1つ。頼りない袖で、頼りがいのある手まで導くこと。

 本人からリクエストのあった葉山隼人ではなく、つい先日言葉を交わした雪ノ下雪乃の元へ導かねばならない。その確信がある。同性ということもあるだろうが、先日の反応を見るに彼女も多かれ少なかれ、みんなから外されていたはずだ。この後輩と同じく、同性から妬まれた、異性に好かれそう。それでいてその境遇を乗り越える術を知っていそうな人間は、やはり雪ノ下雪乃なのだ、と。

 それに際して、まず聞いておかねばならない。思春期男子にとって恐ろしく高いハードル。俺は超えたことの無いそのハードルを何とか超えなければならない。決めるなら今この一瞬。やるしかない。

 

「そう言えば、お前、名前なんて言うの?」

 

「は?なんですかいきなり。そういう積極的なの嫌いじゃないですし、どちらかと言うとそれくらいはグイグイ来て欲しいですけど、やっぱり顔がタイプじゃないですし、そう言うのはもっとお互いを知ってからにして欲しいのでごめんなさい」

 

「何をお断りされてるんですかねぇ・・・」

 

「すいません少しテンパりました。唐突だったので」

 

「うん、なんかごめんね」

 

 昼休みの終わり5分前を告げるチャイムが鳴る。

 

「もう時間ですか」

 

 テニスコートで響いていたボールの音が止む。

 

「えーと、名前でしたね」

 

 時期に予鈴も鳴り止む。

 

「本当に唐突で驚きました」

 

 予鈴と始業を告げる本鈴の間の5分間。

 

「ご存知かと思いますが、総武高校1年」

 

 まさに鳴り終えた今、ここから音が無くなる。

 

「名前は一色いろは、と言います」

 

 慣れないことをした。女子に名前を聞くなんて、今までの人生で、果たしてそんなことをしたことはあっただろうか。

 

「俺は2年の比企谷八幡だ」

 

 つい1ヶ月ほど前のことを思い出す。思えば同じような事を言われたな、と。

 

「お前に会わせたい奴がいる」

 

 音のないこの場所で、うるさい位に鳴る心音は、これも青春の音と言うやつなのだろうか。

 名前を聞き名前を伝える。それだけで何故こんなにも落ち着かないのだろうか。

 

 その場は放課後に約束を取り付け解散。本鈴前に教室に戻らなければならないので当然の事だ。いつもと同じベストプレイスから、いつもと同じ道を通り教室へ戻る。いつもよりも1つ多く足跡を聞きながら。

 

 

 

 

 教室に戻ると、何故か1人だけジャージ姿の女子生徒に目がいった。なんてことは無い。昼休みにテニスコートで1人テニスをしていた生徒だ。なぜ着替えていないんだろうか。

 そして何故、こんなにも話しかけられていないことに違和感を感じるのか。話したことない女子生徒に対して、話しかけられないことに違和感とは、我ながら酷いもんだ。

 もう1つ、俺は小鳥遊ひかりに声をかけられたあの時、何故か一瞬、由比ヶ浜の声と聞き間違えていた。声が似てる訳では無いのに。話したことなんて1度しかないのに。まるで本来は由比ヶ浜が話しかけてくるはずであったかの様に。

 雰囲気としては似ている気もするし、ヒッキーなんて呼び方がそうさせたに違いない。

 浮かれすぎているのだ。中学の時にもうやめようと、そう決めたはずなのに。無駄な期待も、馬鹿な勘違いも。

 きっと一色いろはが原因なのだろう。こんなにも長く女子と話したことは初めてだし、それが原因なのだろう。

 そうでなければ痛いにも程がある。自意識過剰にも程がある。

 

 深く息を吸うと、開け放たれた教室の窓から吹き込む風に、まだ春の香りが残っている。もう間もなく梅雨になる。そうすれば直ぐに夏が来る。季節は直ぐに変わるのだから、俺だって直ぐに変えてくれればいいのに。神様とやらはどこまでも気が利かない。

 これが思春期というのなら、これが青春だと言うのなら、やはり俺はこの結論に至る。2つあった作文の内、俺が選ばなかったテーマ。その文末に記すはずだった1文。

ーーー青春よ、砕け散れ。




お読みいただきありがとうございました。
まとまっているのか不安になってきました。
私にはもう分かりません。
誰か助けて。
担当編集はどこに行ったの?
教えて偉い人。
次の更新はいつになるのやら。
助けて偉い人。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。