独りぼっちは語りたくない   作:扇メトン

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どうもみなさん
前回の話がようやく俺ガイル原作1話でしたね
由比ヶ浜さんももっと早くそうするべきだったと言っていたように、原作より遅めのクッキー作りでした
時期的にはみんな大好き戸塚回のあとでした
原作では苦かったクッキーを甘いと言ったり、
まぁ世界が違うんで出来事も心境も違うところ出てくるよねとそう思うんです
言葉とか行動にそう言った心境の変化による違いを混ぜたり、
書いてて楽しいけどその分伝わりにくいとこもありますよね
なんかそういった○○はそんなこと言わないって思うときあったら聞いてみて下さい
納得いただけるかはわかりませんがそれなりの理由はあるはずなので
以上、後書きみたいな前書きでした


だからきっと、小鳥遊ひかりは間違えない

「雪女、ですか」

 

 雪女と言われて頭に浮かぶ人物が1人いる。多分違うと思うし、何なら今回の雪女の亜人は全く別の、似て非なる女子生徒だ。

 

「は、はい。日下部雪といいます」

 

 放課後、高橋先生に連行されてやってきた理科準備室には、見知らぬ後輩女子がいた。

 

「悪いな比企谷。悩み事といえばお前が浮かんでな」

 

「確かに悩みの種とか悩み事の塊とか言われたりしますが」

 

 おっと、日下部氏。これくらいで引いているようじゃ俺との会話は無理ですぞ?だから誰とも話せないんですね。反省してます。

 

「比企谷」

 

 高橋先生はその一言は、これからする話が茶化していいものではない、と嫌でもわからされる。

 そうか。そういう話をしても大丈夫だと、また俺のことを信じてくれるのかこの人は。

 

「これを言ったら気分を悪くするかもしれませんが」

 

「続けてくれ」

 

「相談事なら奉仕部にもっていけばいいじゃないですか。高橋先生は副顧問なんでしょう?」

 

 ましてや今回の相談も女子生徒なのだ。よく知りもしない、目が腐った男に聞かれたくはないこともあるだろう。

 

「ちょっと繊細な問題なんだよ」

 

 あいまいな答えだったが、先ほどからの日下部の態度と合わせればそれは十分な意味を持っていた。

 つまりは日下部雪という少女と雪ノ下の強さには合わないのだ。一色のように揺らがない芯が持てていないのだ。

 ならば彼女の悩みはおそらく対外的なものではなく、内面的なもの。もしくはそれにより影響した対外的な問題ということなのだろう。

 

「それにしても俺は人選を間違えているんじゃないですか?」

 

「比企谷の優しさが必要なんだよ」

 

「あれはそんな大層なもんじゃないっすよ」

 

 優しさという言葉に、若干語気が強くなる。あれは優しさなんてもんじゃない。結局のところ自分が何かを傷つけることが怖かっただけなんだ。それを優しさといわれると、彼女たちのそれも汚してしまうようで。雪ノ下の厳しさも、由比ヶ浜の明るさも、一色のまっすぐさも。俺が憧れた、眩しいと感じたあれを、俺の打算的な行動と一緒にして欲しくはなかった。

 

「今はそれでいいさ。日下部、比企谷はこういっているが悪い奴じゃない。相談してみるのも悪くないと思うがどうだ?」

 

「えっと、はい。高橋先生がそうおっしゃるのであれば・・・」

 

 日下部はおずおずと話し始めた。改めて自分が雪女の亜人であること。ほんの少しではあるが、お風呂のお湯を凍らせる冷気を発したこと。それが自分で意識したものではなかったこと。そしてその力が人へ向かうことが怖いということ。

 なるほど、これは彼女の優しさからくる悩み。雪ノ下だって力になってくれそうなもんだが・・・そうか。あそこはもう雪ノ下だけの場所ではないのだ。この間の部室を見る限り、あそこには由比ヶ浜もいる。もちろん問題はないのだろうが、急に連れていけば年上の先輩2人の前では委縮するに違いない。

 どういう状況下で彼女の冷気が発せられるのかわからない今、下手にストレスを与えるのは得策ではない。そう高橋先生は判断したのだろう。そしてその時頭に浮かんだのは一色の件で実績もある俺。つまりは今回の俺はあの2人への橋渡しというわけだ。

 そこまでわかったのなら、まず彼女を安心させることから始めるべきだろう。

 

「話は分かった。日下部、お前は優しすぎるんだよ」

 

「はい?」

 

「いいか考えても見ろ。雪女の亜人は他にもいると思うが、未だにそう言った事件の話は聞かない。前例がないことが、雪女の亜人に人を凍らせるほどの力がない、という何よりもの裏付けだ」

 

「それはそうですけど、万が一だってこともあるじゃないですか!」

 

「確かにその通りだ。それならその万が一を防ぐためにできることはわかるか?」

 

「それは・・・」

 

 そう、答えは出ない。それがわかるなら高橋先生はともかく、俺になんか悩みを打ち明けたりはしない。

 そしてその答えを俺は持っていない。

 

「いいか。万が一の事故は防げないかもしれないが、万が一を起こさないように注意することはできる。万が一が起きた時の対策を考えることはできる。そして俺は万が一なんて途方もない数の可能性のを考えて、その対策を練る。そんなことに長けているであろう人間を1人知っています」

 

「はぁ・・・」

 

 とは言え、おそらく高橋先生や雪ノ下、由比ヶ浜も持ってはいない。でもゼロから考えることはできる。このメンバーで無理なら、顧問の平塚先生を巻き込んだっていい。同年代には一色や小鳥遊だっている。きっとみんな日下部の力になってくれるし、そこまで人が集まれば何かしら妙案が出てくるだろう。

 ならばあとは日下部の意志だけだ。彼女が1歩踏み出すことができれば、それできっとこの問題は解決する。だから俺はその1歩目をどこに置くのか、それを示せばそれでいい。

 

「お前が良ければそいつのところに案内するが、どうする?」

 

 あくまでも判断は相手に。断られるのであれば後は高橋先生に丸投げ。承諾されるのであれば雪ノ下へ丸投げ。隙がないこの構え。高橋先生のから着想を得たできる大人の対処法。

 

「私は――――」

 

 

 

 

「なるほど、話は大体分かったわ」

 

「うん。ゆきのんみたいの頼りにはならないかもしれないけど、私も力になれるよう頑張るよ!」

 

 予想通り2人とも快く応じてくれるようだ。それならばあとはもう丸投げ。俺の役目はここまで。

 

「それじゃ俺はこれで」

 

 そこで袖からまた身に覚えのある違和感。なんでかな、これされると動けないの。なに?合気道でもやってんの?達人なの?同じじゃよ。陽キャもボッチも。同じことじゃて。

 

「なぁ、比企谷。この流れで帰るってお前、すごいな」

 

 高橋先生にドン引きされた。

 

「すごいと言うより、流石と言いますか。ともかくお似合いの小悪党ぶりよ」

 

 雪ノ下はいい笑顔をしていた。

 

「ヒッキーそれはない。ホントマジでない」

 

 由比ヶ浜は真顔だった。

 

―――だが、彼女だけは表情が見えなかった。合気道の達人もとい、日下部は顔を上げられずにいたから。それでも、俺にでもわかった。頭では大丈夫だとわかっていても、心がそれを認めてくれないのだろう。ありていに言えば不安なんだ。伸ばした手をつかんでくれた、その手に振りほどかれることは怖いことなのだろう。たとえ他に手を差し伸べてくれる人がいたとしても、やはりその手を離すのは怖いんだ。ましてや抱えている問題は解決していないのだから。

 

「冗談だよ・・・」

 

 その言葉を聞いて少しは安心したのか、袖にかけられた力が弱まるのを感じた。そう、それは袖から指を離す直前の力の弛緩。だが悲しいかな、その一瞬の隙を突く恐ろしい化け物はいるのだ。

 袖に込められた力が弱まるのと、後ろのドアが開くのは同時だった。つまり扉を開けた人間から見える景色は確かに袖をつかんでいるわけで。さらに言えば予想だにしない扉の音で反射的に日下部の指には再度力が籠められていた。それにより袖をつかんでいる時間はさらに延長された。その後に指を離すもんだから、偶然友人に出くわしたときに焦って手を放す、そんなラブロマンスチックな受け取り方ができてしまう情景が完成していた。

 

「高橋先生さっきすごいことが・・・おやおやぁ?」

 

 断言しよう。小鳥遊ことり、彼女はこんなメロドラ展開に飢えている。

 

「ゆうべはお楽しみでしたなぁ、ヒッキー先輩?」

 

「ばっか、それは朝の挨拶だ」

 

 それに対する返しは背後から、具体的に言うと雪ノ下かれ発せられた。

 

「朝の挨拶はおはようだと思うのだけれど・・・?」

 

 周りを見渡すと小鳥遊と高橋先生以外には全く通じていないようだった。懐かしいなぁ、なんて言う高橋先生の声が虚しさを増幅させる。

 

「なんでもないから忘れてくれ」

 

 ツッコミの解説ほど恥ずかしいものは無いし、なんなら今この状況が既に恥ずかしさを超えてもはや終わってる。

 

「それでそれで、ヒッキー先輩はその子とはどう言う関係なのよ?ほれほれ言っちゃいなYO〜」

 

 うるさい、うざい、鬱陶しい。トリプルUで大三元。これが血液を賭けた麻雀だったら死んでるぞ。そんなことよりもさっさとこの問題を解決しなければ。いつまで経っても話が進まないし、何よりもここまできて有耶無耶にされてしまったら、もう日下部はここには来れないだろう。

 

「変な勘ぐりはよせ。さっきは勢いで返したが、今はふざけている場合じゃないんだ。悪いが冷やかしなら————」

 

「あの、小鳥遊さんなら、私大丈夫です」

 

 そうか、盲点だった。小鳥遊はデミヒューマン。餅は餅屋にと言うが、デミヒューマンの悩みはデミヒューマンに任せれば良かったのだ。それに本人が知り合いなら・・・。いや待てよ。

 

「ごめん。あなた、どなた・・・?」

 

 ですよねぇ〜。小鳥遊はさっきこう言ったのだ。その子と何してたの、と。つまり日下部とは初対面と言うことになる。小鳥遊はこんなテンションだし、ヴァンパイアのデミヒューマンである事を隠すどころか、自分からバリバリアピールしているのだ。良くも悪くも噂になるだろう。

 

「わ、私は日下部雪。小鳥遊さんはちょっと有名と言うか・・・、ヴァンパイアのデミなんだって、この前噂で聞いたから・・・。それと私は雪女のデミです」

 

「うっそ本当!?デミ仲間じゃん!あ、後ろのお二人は初めましてですね。私小鳥遊ひかりって言います!雪ちゃんが言った通りヴァンパイアのデミやってます!」

 

 後ろの2人、と言うのは雪ノ下と由比ヶ浜のことだろう。と言うか初対面の日下部をもう名前呼びかよ。なに?陽キャって名前呼び以外禁じられてんの?いや、俺ヒッキー先輩だったわ。

 雪ちゃん呼びに戸惑う日下部を尻目に雪ノ下と由比ヶ浜が自己紹介を終え、奉仕部の活動と日下部の依頼内容を伝える。さてここからが問題、と言うところで小鳥遊は黙って日下部を抱きしめた。

 

「辛かったよね・・・ごめんね気づいてあげられなくて・・・」

 

 小鳥遊の声は震えていた。その言葉は浮ついたものでもなく、哀れみや同情の類でもない。デミヒューマンだからこそ、いや、小鳥遊だからこそ、日下部の悩みの本質を理解できたのだろう。俺はもちろん、高橋先生や雪ノ下、由比ヶ浜では到底量ることのできない苦悩が理解できるのだ。

 だから彼女の言葉は当人に響く。気付かなかったことを嘆いているのではなく、今の今まで一緒に悩んだあげられなかったことに対する悔しさ。それに対する謝罪。

 土台無理な話だ。名前すら知らない日下部が雪女のデミヒューマンであることを見抜き、その悩みを察知して共に悩み解決方法を探る。そんなことは相手の思考でも読めない限り不可能だ。それでも彼女は、小鳥遊ひかりは本気で悔いているのだ。日下部1人で悩ませてしまったことを。

 横で聞いてる俺にすらそれが伝わるのだ。抱きしめられ、直接思いを向けられた日下部に、それが伝わらないはずがない。だから日下部が泣き崩れる事もしょうがないことなのだ。

 高橋先生に肩を叩かれ気づく。女子の泣き顔なんて直視するもんじゃないな。出口に向かう高橋先生に習い部室を後にする。去り際に奉仕部の2人を見ると、雪ノ下は優しく頷き、同じく任せろと言わんばかりに、貰い泣き寸前の由比ヶ浜が微笑む。2人がいればきっと大丈夫。そう思うのには十分すぎた。

 

 廊下に出た俺たちは窓に背を預け、時が過ぎるのを待っていた。

 

「難しいっすね」

 

「そうだろ?人の心って言うのは難しいものなんだよ」

 

「・・・いや、依頼の解決方法のことですよ」

 

 無言の気まずさを埋めようと、発した言葉は少々迂闊だった。正に高橋先生の言った通りなのだが、言われると小っ恥ずかしく咄嗟に否定をした。我ながら逸らし方に無理がある。

 日下部の依頼。それは恐らくもう解消された。正確にはお湯を凍らせた問題自体残ってはいるが、今回の悩みの本質はそこじゃない。雪女の特質は元々大きな害はない、それが俺の見解だったし、高橋先生にもそう思うからこそ、俺みたいな生徒に悩みを打ち明けるよう勧めたのだ。本当に人体を凍らせる力を持っていると考えるなら、それは俺たち素人じゃなくて公安や然るべき研究機関に任せるべきなのだから。

 今回の問題の本質は日下部が人との関わりを過度に恐れていること。もちろん本人からしたら、雪女の特質は大きな悩みの種だろう。だが小鳥遊がそのどちらも解消してくれた。————正しくはこれから解決してくれるだろう。

 とどのつまり、俺たちにできる事はもうないのだ。だが高橋先生は、そんな照れ隠しに気づいた上で、ただ『そうかい』と返してくれる。つくづくかっこいい大人だよ。

 

 10分ほどたったか、小鳥遊と日下部が部室から出てきた。

 

「すみません、お騒がせしてしまって。ひかりちゃんともう少し悩んでみます。雪ノ下先輩からもヒントがもらえたので」

 

「それじゃ、またなんかあったら頼りにしてるからね!ヒッキー先輩!」

 

 小鳥遊のじゃれつくようなボディーブローを受け、照れ臭さから少しオーバーに打撃部をさすりながら返す。最近の若い子ボディータッチ多くない?パーソナルスペースって知らんの?

 

「別に俺は何もしてねぇよ」

 

 そう、実際俺は何もしていない。奉仕部に連れてきたのは俺だが、解決をしたのは小鳥遊だ。俺は本当に何もしていない。

 

「そんなことよりも、お前高橋先生に用があったんじゃねぇのかよ」

 

「あ!そうだった!聞いてよ高橋先生!さっきテニス教えてくれた先輩が男の子だったの!」

 

「ちょっと待て、小鳥遊。それのどこがすごいんだ?」

 

「ふふふ、その人の写真がこちら!」

 

「あー戸塚のことか。確かにあいつは女の子っぽい外見ではあるな」

 

「えぇー全然驚かないのー?」

 

「そりゃ授業受け持ってるし、それくらいは知ってるだろ。なぁ比企ヶ谷?」

 

 小鳥遊のスマホに映るのは、小鳥遊と女生徒のツーショット。小鳥遊は自撮り慣れしてるのだろうが、もう1人の方はそうではないらしい。照れた表情がとても可愛らしい、そんな女生徒だ。そして彼女は同じクラスで先日は話しかけられなかったことに、寂しさと言うか違和感を感じていた。我ながらに非常に気持ち悪いはな・・・いやちょっと待て。今なんて言った?男の子?は?うっそだろおい。これ男なの?どう見ても女にしか見えないんだが?

 なるほど、つまりこれは2人グルになって俺を騙そうとしているんだな。そうに違いない。いや、だってこれどう見てもそうじゃん。そうだよね?

 

「マジっすか・・・?」

 

「お前クラスメイトなのに知らなかったのか?」

 

「でもこれ、どう見ても・・・」

 

「まぁ気持ちは分からんでもないが」

 

「そうそう、それで彩ちゃん先輩がねぇ」

 

 随分と可愛らしいあだ名を付けたな。ヒッキー先輩はもうちょっと頑張れなかったのかよ。

 

「なんか悩みがあるって言うから、ヒッキー先輩のこと紹介しておいた!そしたら同じクラスなんだって言うからもうビックリ!」

 

 こいつは俺の名前をちゃんと覚えていたのか・・・。もしくは目の腐ったやつで戸塚に伝わってしまったのか。いや、十分にあり得るな。それに俺の名前を言ったところで、戸塚がクラスにいる俺を特定できるとは思わない。むしろ『腐った目』と言う情報でそんな奴いたな、となる方が自然だ。

 ———いや、そうじゃない。これは勝手に期待してるだけだが、全く何も根拠のないことなのだが、俺が最も嫌っていた考え方ではあるが、きっとそうじゃない。小鳥遊は、小鳥遊ひかりはきっと覚えてくれている。

 戸塚に伝えたのはもちろん名前だけではないだろう。俺の目つきを真似たり、猫背を真似たり、身振り手振りで必死にどんなやつか伝えようとしている。そんな小鳥遊の姿が、それを微笑ましげに見つめる戸塚の姿が、まるでその光景を見ていたかのように脳裏に浮かぶ。

 小鳥遊は、きっと大丈夫なんだ。俺が気持ち悪いエゴを押し付けているだけだが、それでも信じてみようと思える。何故かそう思える。そんな力が、魅力が彼女にあるんだ。彼女を信じて、その手を握る日下部もきっと同じ。部室内にいるであろう2人も、そしていつも見守ってくれる先生達も。

 彼女はどこまでも真っ直ぐで、誰かの悩みも、己の過ちとも正面から向き合える。だからきっと、小鳥遊ひかりは間違えない。

 

「勝手に人をお悩み相談室みたいにするな。それに俺に戸塚とやらの悩みが解決できるかなんてわからんだろ」

 

「ううん、わかるよ。ヒッキー先輩なら大丈夫だって、なんでかそう思えるの」

 

 そうか、小鳥遊はそう思ってくれるのか。やはり彼女はどこまでも真っ直ぐなんだ。だったら答えねばなるまい。とんでもない無茶振りかもしれないが、信じてくれたのなら、やれることだけはやる。そうでなくては申し訳が立たない。

 

「それならやってみるか。ダメはダメなりにな」

 

「おぉ、ヒッキー先輩は頼りになるなぁ。それじゃ、ほい」

 

 ほいってなんだよ。なんでこっちに頭突き出してくんだよ。

 

「何これ?」

 

「何って、ヒッキー先輩ならこう言う時、頭でも撫でてくのかなって」

 

「おい、なんだよそれ。どこ情報だよ。変な誤解を生むようなことはやめろ」

 

 高橋先生は苦笑いだし、日下部は軽く引いてるし、勝手に人のイメージを作り上げないでいただきたい。これじゃまるで年下女子に気軽にボディータッチをするウェイ系か、年下女子の頭を撫でて喜ぶ特殊嗜好持ちじゃないか。違うぞ、断じて俺はどちらでもないぞ。

 俺が気軽に頭を撫でていいのは小町だけだ。撫でた結果いつも適当にあしらわれるし、なんなら妹離れをしろと説教されるくらいだが。

 

「でもほら、私って一応お姉ちゃんだから?ヒッキー先輩って、何だかんだ面倒見良さそうだし、お兄ちゃんっぽいし?お兄ちゃんがいたらこんな感じなんだなぁって・・・だめ?」

 

 やめろ。上目遣いやめろ。俺に気軽におねだりしていいのも小町だけだ。そのはずなんだが・・・。小鳥遊の不安げな表情は、明るく茶化しているように見せかけて、それなりに勇気を必要としていたであろうことが伺える。

 もし、それが本当に彼女の望みなら、それくらいの報酬はあってもいいのではないだろうか。日下部の件を解決したのは彼女なのだ。

 

「・・・今回だけだぞ」

 

「わーい。ヒッキー先輩話わかるぅー」

 

 そうして再び突き出された頭へ手を置く。大丈夫だクールになれ。これは当然の対価を支払っているに過ぎない。小町にやっていることと同じなんだ。そう、相手は小町。いつも通りだ。何も変わらない。———これ、いつまで続ければいいのん・・・?もう30秒くらい経ちましたか?嘘だろおい、まだ5秒かよ。

 

「何してるんですか、せーんぱい」

 

 永遠のように感じる羞恥プレイは、後方からの冷たい声によって終わりを告げた。振り返ればそこには一色いろは。笑顔なのに笑っていない、たった一文で矛盾してしまう、そんな顔で立っていた。

 

「もう、すっごい探したんですよ。教室とかいつもの休憩所とか、最初ここに来た時は先輩いませんでしたし」

 

 なるほど、多分理科準備室にいた時に奉仕部まで探しにきていたのだろう。見事にすれ違ったわけですね。あと怖いです。

 

「そんなことより!悩み事があるんですけど、相談乗ってくれますよね、先輩?」

 

 もう日は暮れ始めているが、どうやらまだ家には帰らないようだ。春ももう終わると言うのに、俺たち思春期の男女には悩み事が尽きない。そうだったな。一色の悩みはまだ解決もしてなければ、解消もされてない。おまけに日下部と違って、まだその悩みの本質すら触れられていないのだ。

 日が傾けば、影も大きく、濃くなっていく。明るい道だけを歩ければ良かったのだが、そんな人生ありえない。どんな道にでも多かれ少なかれ影がさす。俺には影を照らすことなんて出来はしない。精々影の多い道を一緒に歩いてやるくらいだ。それでも求められるのなら、いくらでも付き合ってやるさ。

 

「どうせ拒否権なんてないんだろ。どの道放っておくつもりもなかったし、そっちが都合いいって言うなら今からだって付き合ってやるよ」

 

「比企ヶ谷、お前・・・」

 

「ヒッキー先輩が頼もしく見える・・・」

 

「意外と大胆なんですね、色々と・・・」

 

 なんか3人とも失礼じゃないですか?気のせいですか?気のせいってことにしますよ?はい、気のせい。この話はおしまい。

 

「突き放してからグイグイ来る感じとか乙女的に悪くはないですし、ちょっと過保護な感じとかちょっと天然の女誑し感はポイント高めですけど、付き合う相手なら突き放したりとか変な駆け引きされるの嫌ですし、私の事は1番に考えておいて欲しいので、やっぱり無理です。ごめんなさい」

 

「だから俺は何をお断りされてるんだよ・・・。いいから行くぞ」

 

 なんだかこっちまで恥ずかしくなってきたので、戦線離脱します。早く離れましょう、そうしましょう。背中に生暖かい視線を感じながら歩き出すと、律儀に挨拶をしてから小走りで一色が追ってくる。

 学校内にいてまた顔を合わせるのも気まずいので外へ行こう。話をするなら飲み物が飲める方がいいな。それでいてオシャレで学生にも負担の少ないリーズナブルな価格帯がいい。ケーキなどの甘味がある方がいいのかもしれない。などと考えてはいるが答えは決まっている。それら全てを満たした、千葉県民が愛するあのお店。

 そうだ、サイゼに行こう。




ご無沙汰しております。
書き始めてから11ヶ月くらい経ちました。
前書きを書いた時、まだ3月でした。
余裕ぶっこいてましたが、そこから約1年です。
もはや誰も覚えていないでしょうが、まだ続いてました。
この1年でSSから離れた方もいるでしょうし、違う原作へ流れてる方もいるでしょう。
振り返ってみたら1話投稿からもうすぐ3年ですからね。
3年で8話は遅すぎるんだよなあ。
なにはともあれ、前に1度でもいいなと思っていた方へ、また更新されたことが届きますように。
それでは皆さん、私は寝ます。
おやすみなさい。
あと感想とかここすきとか、見ると幸せになるので誰かを幸せにしたいと願うそこのあなた。今だよ皆さん。今なんだ。

PS.ガガガ文庫さん、私に連絡すること忘れてませんか?進捗管理したくてうずうずしてませんか?連絡、待ってます。
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