独りぼっちは語りたくない   作:扇メトン

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投稿して4日目に書き始めました。
今回は何ヶ月で投稿されるのでしょう?
ちなみに、前回の終盤は眠いけど寝る前に上げるぞ、と言う意思で書き上げたのでかなり駆け足でした。ナニヤッテンダロネ。
毎話毎話、感想とかここすきとか、見てくれた人の反応が嬉しくて楽しみで。
早くこの話の続きが見たいな、と思ってるのですが、同じくらいそんな皆さんの反応が楽しみです。
みんな、感想待ってるヨ。


そうして、彼は元来た道へ引き返す

 夕日が差し込む店内、コーヒーの香りが鼻をくすぐる。静かなジャズが流れる店内には、1人でガラスを磨く初老の男性。その他にも客はいるようだが、時間帯もあってか店内は空いている。えぇ、そうです、ここはサイゼじゃありません。サイゼはどこへ行った。

 

「先輩、あんまキョロキョロしないでくださいよ。恥ずかしい」

 

「恥ずかしいとか言うなよ。こんな小洒落た店連れてきたお前が悪い」

 

「いや、まぁサイゼが悪いとは言いませんけど、あまり賑やかな場所はちょっと」

 

「それはその、何というか、すまん」

 

 にしてもコーヒー一杯で800円って高すぎだろ。サイゼならドリンクバーにミラノ風ドリアを食っても釣りが来るぞ。

 

「それで悩みってのはなんだよ」

 

「私の悩みなんて決まってるじゃないですか。察してください」

 

「お前な、そういう察しろとか、空気を読めとか、ぼっちに求めちゃいけないことトップ3に入ってるって知らないのか?」

 

「知りませんよそんなこと。それに知ってたとして、どうして私がめんどくさい先輩に合わせなきゃいけないんですか」

 

「思いやりの心知らないの?そんなんだから争いは無くならないんだぞ」

 

「先輩こそ知らないんですか?歩み寄ろうともしない少数派が、主張ばかり大きくするから差別がなくならないんですよ」

 

「おいやめろ、都合の悪い現実を突きつけるな。泣くぞ」

 

「今時女子高生でもそんな簡単に泣きませんよ」

 

 ゆるふわな空気で忘れそうになるが、一色も総武高校の生徒なのである。進学校であるのだから勉強もしているわけで、ある程度の知識を持った上で、日常に溢れる問題についても考えているのだ。何も俺の屁理屈に理屈で返すのは雪ノ下だけではない。

 

「それで、仲良くなりたい先輩だったな。あれ、葉山のことだよな?」

 

「えぇまぁ、そうでしたね」

 

「でしたってなんだよ」

 

「私って本当に葉山先輩と仲良くなる意味あるんでしょうか?」

 

「そりゃあるだろ。葉山に近い関係なら表立ってトラブルは起きないだろ。何より葉山に取り入りさえすれば、周りの連中とだってうまくやれんだろ」

 

 そう、一色の悩みは仲良くなりたい先輩がいて、どうしたら仲良くなれるかということ。これは表向きの理由で、その根幹は女子の嫉妬の対象から外れる方法。ここまでが俺が知り得ている情報。ドッペルゲンガーの件については、本人の口から聞くまでは知らない体裁でいなければならない。

 

「それはそうかも知れませんけど、そもそも葉山先輩が受け入れてくれるとも限らないじゃないですか。それに、もし上手くいったとしても、それで先輩が私から距離を置くのも個人的にはあまり・・・」

 

「いや、あの葉山だぞ。お前の置かれてる状況を聞けば、普通に色々と面倒見てくれるだろうし、そうなればわざわざ俺に面倒事を押し付ける必要も無いだろ」

 

「あーそうでした。先輩はそういう人でした・・・。そこは私が上手くやります」

 

「そうだな。一色が上手く・・・ん?」

 

「はいはい、もうそこはいいですから。問題はどうお近づきになるかですよ」

 

 一色はどうにも不満そうな態度を浮かべ、コーヒーに口をつける。だが心配ご無用。そこは私に考えがございます。

 

「そこは俺に考えがある。一色、お前部活入ってたか?」

 

「いいえ。入ってませんけど、サッカー部は男女別ですよ。それに女子サッカー部は人が集まらずに既に廃部になったと聞いてます」

 

 あと個人的にお化粧の事とか考えると、運動部はあまり入りたくはありません。との事。これがイマドキの女の子事情なのん?考えてみたら同い年の小鳥遊はしょっちゅう走り回ってるな。いや、たまたま見かけるんですよ?ストーキングなんかしてませんから。本当ですよ?

 

「何もサッカー部に入るのにサッカーをやる必要は無いんだよ」

 

「あぁ、なるほど・・・」

 

 これだけで伝わったのか。察しがいいな。勘のいいガキは嫌われませんか?大丈夫ですか?

 

「つまり私はサッカー部のマネージャーになればいい訳ですか。切っ掛けとしてはありかもしれませんが、葉山先輩狙いっぽいマネージャーなら他にも2人ほど入部してたかと思いますが」

 

「それが好都合なんだろ。葉山狙いならマネージャーの仕事なんて、そこまで真面目にやってないだろ。葉山に関わるところならまだしも、部全体のことは見てないだろうしな。つまり、お前がやるのは」

 

 ここで喉の調整を少々。

 

「"サッカー部の皆のために一生懸命頑張ってサポートする私"だ」

 

「うっわ先輩それ私の真似ですか?普通にドン引きなんで、もうやめてください」

 

 いいかい真顔はやめなさい?真顔でそういうこと言われるのが1番傷つくのよ。

 

「とにかくだ。お前の目的は葉山に近づくことだが、他の2人がやらないことをやれ。サッカー部全体のためを思って動けば、必ず葉山から近づいてくる」

 

「どうしてそう言い切れるんですか?」

 

「いいか、ぼっちは生き残るため、他人の顔色を常に伺って生きている。その結果辿り着く境地がある。まぁただの人間観察な訳だが、それでも普通は見落としてしまうような、そんな些細なところにも目が止まるようになる」

 

 そう、例えばグループ内の明らかに好意を寄せる女子からそれとなく買い物のお誘いがあった時、あいつは自然とみんなで行くように誘導する。好意を向けられた時に、それをいなすのだ。そこから自然と答えは導き出される。

 

「葉山隼人は特定の女子と一定以上の関わりを持とうとしないんだ。みんなで仲良くを信条にするような奴だ。だから友人以上の関係を持ちたがらない」

 

 あるいは、もっと短絡的に考えるのであれば、葉山隼人には想いを寄せる人がいるのかもしれない。だが、そこは俺たちの知ったことじゃない。わざわざ言及する必要も無いだろう。

 

「好意を寄せず、真面目に仕事をするマネージャーは良い隠れ蓑になるわけですね。私がそうするように、葉山先輩も私を利用して煩わしい人間関係を遠ざける」

 

「その通りだ。そういった意味でもあいつ以上の適任はいない。ステータス的にも問題ないんだろ?あいつなら」

 

「驚きました。そこまで考えてくれていたんですね」

 

 先程までの不満そうな表情はなりを潜め、くだらない冗談を面白がる彼女は、やはり眩しかった。

 

「まさか先輩がそこまでちゃんと考えてくれていたなんて、やっぱり驚きです。私の事、考えすぎじゃないですか?」

 

 イタズラっぽく笑う彼女に一瞬言葉が詰まる。見蕩れている、なんて可愛げのある感情では無い。またしても、ここまで踏み込んでいる自分に嫌悪感を抱いているのだ。

 

「責任とらなきゃならんらしいからな」

 

「そう言えば、そうでしたね」

 

 他愛のない会話だ。深い意味も無ければ、ある程度のことは冗談で済まされてしまうような、その程度のことなんだ。ならば深く考える必要は無いはずなんだ。だが心のどこかで、誰かが語りかける。"お前はあの時に何も学ばなかったのか?"あぁそうだな。少し近づきすぎたようだ。ぼっちが生きるためには、それではダメなんだ。

 

「でも、もう6月になりますよね?そもそも今から部活は入れるんでしょうか?」

 

「そこは大丈夫だと思うが、分かってそうなやつに聞きゃいいだろ」

 

「え、先輩友達いないのにそんなこと聞ける相手いるんですか?」

 

「まぁ友達では無いが・・・由比ヶ浜だよ。あいつこの前奉仕部に入部したとか言ってたろ。あいつがどうやったか聞けばいい」

 

「まぁ確かにいきなり職員室に行くよりかは、由比ヶ浜先輩の方が聞きやすいですね。それじゃ明日の放課後、奉仕部に行きましょう」

 

「いや、俺はいらねぇだろ」

 

「何言ってるんですか?責任、取ってくれるんですよね?」

 

 公共の場でそれはやめなさい。マジで大変な誤解を招きかねないし、結果俺が無理矢理襲った変出者として逮捕されるまである。やめてくださいマジで。

 

「わかったよ・・・。それじゃ明日な」

 

 これ以上ここにいると、一緒にマネージャーやれとか言われて、入部した後に一色がやるはずだったマネージャーの仕事まで押し付けられかねない。さっさと退散しよう。

 少しぬるくなったコーヒーを一気に飲み干し席を立ち上がる。それに合わせてコーヒーを流し込もうとする一色を、手で制し、1000円札を置く。

 

「生憎全額出してやるほどの甲斐性はないんでな。釣りに関してはそっちの支払いの足しにしてくれ。それと一色まで焦って店を出ることは無いんだから、ゆっくりしてけよ」

 

「ありがとうございます・・・。なんだかちょっと大人っぽいですね・・・」

 

「捻くれてるだけだよ。それじゃぁな」

 

 振り向き立ち去ろうとする俺の袖が引かれる。なんで皆ここ掴むの?そんなに掴み心地いいの?

 

「あの、これお礼です」

 

 差し出された小綺麗なラッピングの中にはクッキーが入っていた。

 

「別にお礼されるようなことはしてないだろ」

 

「そんなことありませんよ。本当に助かってますし、何よりこれはもっと前のお礼です。結構しんどかった時に助けて貰ったので、本当に感謝してるんです」

 

「確かに雪ノ下との話し合いに多少口は出したが、わざわざお礼なんて言われるほどのことでは・・・」

 

「いいえ、これはもっと前。先輩には心当たりは無いでしょうけど、それでも、私が前を向こうと思えた切っ掛けをくれたんです。」

 

 だからお礼。そう言って一色は再びクッキーをさしだす。そんな風に言われては受け取らない訳にも行かない。あの日よりもっと前、と言われても話した記憶すらないわけだが、一色の表情や声音は、決して嘘をついているようなものではなかった。

 こんな俺でも、一色を救えた。その事が、そう言われただけで、なんだか少しだけ、報われた気がした。

 それ故に今回の作戦を成功させた後のことを思うと、少しだけ胸がざわついた気がした。

 

 店を出ると初夏を告げる暖かな空気が肺に満ちる。夕日も沈み空は黒く染められ、見えるはずの星の瞬きは街灯の明かりにかき消されてしまっている。そこに星があるなんて信じられないほどに。そう、この空には知識や過去の記憶以外にそれがあることを証明するものはない。

 なのにどうしてだろう。周りの明るさの中にもただ一つ、月だけは埋もれることなく、照らしてくれている。

 煩わしいわけではない。ましてや嫌いなわけがない。ただ少しだけ眩しいんだ。その温かな光に照らされるのが怖いだけ。そんな自分の浅ましさを誰にも知られたくないだけなんだ。だからこそ、この後ろ髪を引かれる思いを、あの時袖口を引かれた時の手の感触を振り切るように背を向ける。

 そうして歩き出した頃には、もう暖かったコーヒーの香りは感じなかった。

 

 

@

 

 

 翌日の放課後、俺は特別棟と校舎の連絡通路にいた。正確には通路前のベンチに座っている。また教室に来られても困るので、待ち合わせ場所を指定した。ここを通る生徒はあまり多くは無いので変に気を使う必要も無い。ただこの時期は西日が当たり、ブレザーを着ていると少し汗ばむ。

 そんな中を小走りで駆け寄ってくる足音が響く。別に急ぐ必要なんてないのだが。

 

「すみません。お待たせしました」

 

「別に10分くらいしか待ってねぇよ」

 

「そこは今来たところーとか、全然待ってないよーとか、もっと気の利いたこと言えないんですか?」

 

「人に嘘をついちゃいけませんって教わってんだよ」

 

「嘘をつくことが優しさになる時もあるんですよ」

 

「・・・そうだな。ほら、行くぞ」

 

 そうだ。嘘は優しいのだ。つまり優しさなんて嘘っぱちだ。だから俺は優しさなんていらない。俺が欲しいのはそんなものじゃないんだ。

 

 

@

 

 

 何度目かの廊下を抜けて特別棟へ。奉仕部の扉をノックし雪ノ下の声に促され扉を開ける。

 

「あら、こんにちは一色さん。それと・・・背後霊くん?」

 

「開口一番に人を幽霊扱いするな。泣くぞ」

 

「その先輩のプライドを捨て去ったような涙になんの意味があるんですか。男の子なんだから泣かないでください」

 

「一色さんの言う通りよ。貴方が泣いたところで、私の良心は全くと言っていいほど傷まない」

 

 君たち少し冷たすぎない?そろそろ本当に泣くぞ。

 

「それで、今回は一体どんな用件なのかしら」

 

「あぁそれな。今日は由比ヶ浜に用があって・・・どこ行った?」

 

 そう、何かが足りないと思ったが、今日は由比ヶ浜の姿が見当たらない。窓際に座る雪ノ下と、不自然に距離が空いた場所に椅子があるだけだ。

 

「由比ヶ浜さんなら少し前に平塚先生に連れられて職員室に向かったわ」

 

「連れてかれって、何かやらかしたのか?まさか、また校内で料理をしたのか!?」

 

「結衣先輩には申し訳ないですけど、この間のことを思うと先輩の言い分も否定できませんね・・・」

 

「安心して頂戴。そんなことは起きていないわよ。もし料理をするとしても、あの悲劇を共に乗り越えた貴方達2人のフォローがない状況では断固阻止するわ」

 

「そうですね。その時は必ず先輩方と一緒に命を懸けます」

 

「まぁ誰か1人を犠牲にするのは寝覚めが悪いしな・・・」

 

 由比ヶ浜の料理と言う障害を前にする時、俺たち3人にはその特殊な環境下において成立する妙な絆が生まれていた。

 

「冗談はこのくらいにしておきましょう」

 

「ですね」

 

 絆は脆くも崩れ去った。と言うかそんなものはなかった。

 

「由比ヶ浜さんは奉仕部の入部届を提出に行ったわ」

 

「あいつまだ入部してなかったのか・・・」

 

「えぇ、平塚先生に入部届は出さないのか、と聞かれて思い出したみたい」

 

「用件ってのはまさにそれだったわけだが」

 

「今まさに解決しましたね」

 

「あら、一色さんは何かの部活にでも入るのかしら?」

 

 どうしてサラッと俺が部活に入ると言う線が消されてるんすかね。まぁ入りませんけどね。帰宅部 is 最強。

 

「えぇ、サッカー部に入部しようと思いまして」

 

「女子サッカー部は何年か前に廃部になったと思ったのだけれど・・・そう言うことね。入部届は顧問の先生でなくても受理してくれるわ。用紙も職員室へ行けば貰えるはずよ」

 

「ありがとうございます。早速職員室に行ってみます」

 

「えぇ、頑張りなさい」

 

 一色は律儀に一礼して部室の扉を空ける。そこで振り返り足を動かさない俺を不思議そうに見上げた。

 

「悪い、雪ノ下と少し話がある。ちょっと先に行っててくれ」

 

「どうしたんですか?」

 

「別にここから先は1人でも行けるだろ」

 

「まぁ大丈夫ですけど・・・。さっきの連絡通路の所ににいますね」

 

 口に出さなければ伝わらないと言うが、出したところで伝わるものでもないんだな。まぁどの道待ってると言うのであれば、もう少し後でいいだろう。

 一色が扉を閉め足音が遠ざかったことを確認し、雪ノ下へ目を向ける。そして示し合わせたように雪ノ下が口を開いた。

 

「話って何かしら」

 

「ぼっちってのはな、人の顔色を窺うのが得意なんだよ。話があるのはお前の方だろ」

 

「・・・貴方はやはりこう言うやり方しかできないのね」

 

「俺にはこれしかないんだよ」

 

「それでも、それは一色さんから離れていい理由にはならないわ」

 

 雪ノ下はそこまでわかってしまうのか。サッカー部だけでそこまで思考が働くなんてな。

 

「それこそ俺が一色の側にいてやらなきゃいけない理由にならない」

 

「貴方が道を示したのよ。貴方にも責任はあるわ」

 

「お前も言ってたろ。あいつなら俺達なんかじゃ想像もつかないような、そんな答えを見つけられる」

 

「貴方のそれは魚を与えただけでしょ。それなら責めて自分で魚が取れるようになるまで与え続けるのが貴方の責任でしょう」

 

「あいつはそんなに弱くねぇよ。俺が手を出さなくたって、一色ならちゃんと手を伸ばせる」

 

「それは貴方の理想を押し付けているだけでしょ。一色さんは普通の女の子なのよ」

 

 わかっている。そんなことわかっているんだ。勝手に期待することを、そして勝手に失望することを嫌悪した。だけど、それでも一色を信じてあげたい、いや信じたいと思えた。そしてその理想の中に俺はいなくていい。

 

「雪ノ下、一色はきっと持ってるんだ。俺が、俺達が求めた答えをあいつは持ってるんだよきっと」

 

「・・・貴方に何がわかるの?」

 

「悪い、それも押し付けだったな。それじゃ俺も行くわ」

 

「そう」

 

 部室の扉を開け外に出ると、背に小さく雪ノ下の声が届いた。

 

「それでも貴方のやり方、嫌いだわ」

 

 止めそうになる足を無理やり踏み出し、何も聞こえなかったかのように優しく扉を閉める。

 

「俺も俺が嫌いだよ」

 

 そう独りごちて歩き出す。誰に聞かせたいわけでもないのだが、口に出すことで確かに少しだけ、心が軽くなった気がする。

 

 

@

 

 

 連絡通路を通り過ぎると、一色は先ほどのベンチに座っていた。

 

「また喧嘩でもしたんですか?」

 

「争いってのは同じレベルのもの同士でしか起きないんだよ」

 

「なんですかそれ。喧嘩ってそんな大層なものでしたっけ?」

 

「同じレベルってのは関係性の話だよ。対等な関係性で初めて起きるものなんだ。友人や親子、先輩後輩でもなんでもいい。だけどお互いにお互いの立場を認めていなければ争いにならない」

 

 互いに尊重し合えないのであれば、それは争いにも喧嘩にもならない。それはただの弾圧か糾弾でしかない。

 

「喧嘩ならいずれは関係性が修復される。つまり喧嘩は大層なもんだよ」

 

「そんなもんですかね」

 

「そんなもんだよ」

 

「まぁいいです。行きますよ」

 

 もう十分だろ。十分後回しにしてきた。十分責任も果たした。ここで終わりにしよう。

 

「なぁ一色」

 

「なんですか?」

 

「さっきも言ったが、ここから先は1人でも大丈夫だろ。道は示したがそこの歩き方を考えたのはお前だ。もう俺はいなくても大丈夫なはずだ」

 

「何を、言ってるんですか?」

 

「わかってるだろ。これからお前は葉山を利用、もとい協力してもらえば、お前を取り巻く問題は解消される。だけどそこに俺がいたら逆効果だ。葉山を攻撃できない奴はいても、俺と言う弱点を攻撃できる奴はいくらでもいる。お前にとって俺に利用価値があるのはここまでだ」

 

「利用価値ってなんですか・・・。そんなつもりじゃ、なかったんですよ?本当なんです」

 

 こんな事で涙を流してくれることに、少なからず嬉しさを感じている自分に嫌悪感を覚える。雪ノ下に会わせたことは、葉山へ導いたことは間違いではなかったと、そう言ってくれているような気がして。

 そしてそれと同時に、女子の涙なんてやはり見たくはなかった。100%の原因でありながら、何を言うのか。そう思われるだろうが、それでも女子には一色には笑っていてほしかった。そんな身勝手な自分にさらに嫌気がさす。

 

「悪いな。あとは自力で頑張ってくれ。どの道俺が示せるのはここまでだ」

 

「私は、でもっ・・・」

 

 賢い一色のことだ。なまじわかってしまう分、俺の言い分を否定することができないのだろう。

 

「ごめんなさい・・・」

 

 震える声で告げられた謝罪は、いつぞやのお断りのような自信は無かった。己を責めるような、そんな響きと零れ落ちた涙を残し、一色は走り去った。

 ようやくリセットされたのだ。これでいいんだ。俺は間違ってなんかいない。

 

 そんな俺の心とは正反対の、薫風を思わせる爽やかな風が廊下を吹き抜ける。風が吹き止む頃に鈍く響く痛みに気づかないふりをして、ようやく俺は歩き出した。




どうもみなさん。一年ぶりです。
正直ビビりました。まさか一年でこれしか書けていないなんて。
時が経つのは早いですね。
最近ハマってる曲が初夏の風を比喩として多用していて、なんて爽やかでオシャレ曲なんだと感動してます。
そんななか久しぶりに続きを書こうとしたらあら不思議。
こっちも季節は初夏じゃ無いですか。
えぇ、ここぞとばかりに薫風を入れ込みました。
かなり無理があるかなと思いつつ、止まりませんでした。
今回も無駄に長い無駄話をしましたね。

感想やここすき、お待ちしておりますね。
毎度それが楽しみで書いてます。

末筆ですが小学館さん、まだですか?
このままじゃ百億年かかりますよ?

例の如く、夜中に眠い目擦りながら書き上げましたので、やっぱり雑なとこあると思います。
少しづつ直せそうなとこは直しますね。
それではまた、いつの日か。
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