日菜ちゃんが不治の病にかかり、最後にあることを紗夜さんにお願いする話です
pixivで投稿しているものをこちらにも持ってきました
学校の屋上。
そよ風が心地よい昼下がり。
私は神妙な面持ちで、そこに立っていた。
今の私は黒いフード付きのパーカーにジーンズという、夜中に出会ったら絶対に警戒されるであろう服装で、彼女の前に立っている。
その後黒い手袋を手にはめてから、ポケットにあるビニール袋に手を伸ばす。
私は、最期にもう一度だけ彼女に聞いた。
「本当に...本当にいいの?」
そういうと、彼女は何かを察したような、悲しいような、でも嬉しいような、私には到底理解出来ない、そんな不思議な表情で静かに答えた。
「いいよ、来て。おねーちゃん。」
彼女は私の方へ大きく手を広げた。
それは、合図だ。
私と彼女にしか分からない、愛ゆえの強いメッセージ。
拳を強く握りしめて、歯を食いしばった。
本当は、そのまま彼女の胸に飛び込んで、強く抱きしめて上げたかった。
だけど残念ながら、それは叶わない。
叶えても、辛いだけだから。
私はビニール袋を自分が隠れるくらい大きく広げた。
これだけ広げれば大丈夫だろう。
顔の近くでビニール袋の上側を持ち、構えた。
彼女はただ笑ってる、いや、微笑んでる、だろうか
先程と同じ腕を前に突きだした状態で、ひたすら私を待っている
私の手は震えていた
初めてギターを手にした時よりも
初めて人前でライブをした時よりも
それらの何十倍もの恐れが、私を襲っていた
ふと...彼女の顔を見つめる
女神
きっと今の彼女を形容するに、最も相応しい言葉だろう
私の犯した罪を、そして犯す罪を、洗い流さんとする、慈愛に満ちた微笑みだった
私は走り出した。
彼女へ向かって。
そこからはもうほとんど覚えていないが
彼女を突き刺した私のナイフの感触だけは、今でも忘れられない。
そしてこれは
私が妹を殺すまでの物語。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「おねーちゃん!学校一緒に行こー!」
「はぁ...あなたの学校は方向が逆でしょ?」
「そんなことどーでもいいもん!なんなら、あたしがおねーちゃんのこと送ってってもいいよ!」
「...遠慮するわ。」
「ええっ!?ちょっ、おねーちゃん!?」
私の妹である日菜は、私にベタベタだった。
ことある事におねーちゃん。何かあったらおねーちゃん。
だが、私は日菜のことが大嫌いだった。
本人は自他ともに認めるほどの天才なので、基本的なことはもちろん、専門的なことでも、当たり前のように姉である私よりも優秀だ。
だから、私が日菜にしてあげれることは無い。
それなのに日菜は私に甘えてくる。
ダメな姉である私への当て付けのように感じる時すらあるほどに。
はっきり言って、鬱陶しいと思ったことなんて数えきれない程ある。
でも妹だから、血を分け合った姉妹だからという最後の滑り止めが、私をすんでのところで踏みとどまらせていた。
「ねぇ、待って、待ってよ〜!お願い!今日だけでも!一生のお願い!」
「日菜...いい加減にしないと怒るわよ。」
「ええ〜っ!?そんなぁ〜...今日だけでいいのにぃ...」
前までは怒ると言ったら諦めていたけれど...
...最近日菜が普段よりしつこくなってきている気がする。
なんというか部屋に飛び込んで来ることも増えた気がするし、こんな感じに粘ることも増えたように感じる。
そのせいか、私もストレスが溜まってきていて、短気になってきているのをよく実感するようになった。
「ほら...早く学校に行きなさい。」
「......はーい。」
もし...もしも日菜がいなかったら、私はもっとストレスフリーな人生を送ることが出来たのだろうかと、そんなふうに考えてしまうことも増えた。
それもこれも日菜のせいだ。
日菜なんていなくなればいいのに。
そう心の中で呟いた。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
数日後のことだった。
私は学校が早く終わって、日菜が学校で家にいない間に平和と自由を享受しようとしていた時だった。
トゥルルルル!トゥルルルル!
家の固定電話が鳴った。
ドラマを見ている途中だったし、どうせ変な電話だろうと、初めは無視しようと思った。
しかし、何時になっても電話は鳴り止まない。
仕方なく私はソファーを立ち、電話を手に取る。
すると切羽詰まった声が、電話から響いてきた。
「紗夜!?もしもし紗夜!?聞こえてる!?
大変、大変なの!!日菜が...グスッ...日菜がぁ...」
電話の主は今井さんだろう。
しかし、泣いているのか、声が少しおかしい。
「落ち着いてください今井さん。一体どうしたんですか?日菜が...日菜がどうかしたんですか?」
「日菜がぁ...日菜がぁ...グスッ...急にアタシの前で血を吐いて...今...ウゥッ......救急車で...運ばれて行っちゃったぁ...!」
何を言っているのか理解出来無かった。
日菜が?吐血?救急車?
纏まらない思考のまま、私は今井さんの言う通り、日菜が運ばれるであろう花咲川病院へと走った。
着いた病院で、日菜は少し前に運ばれてきて、今は一命を取り留めたという話を聞いて、1度はほっとした。
しかし、日菜の担当医であるという人に、とある病院の一室に来て欲しいと言われてしまった。
「日菜は...日菜は大丈夫だったんですか?」
「はい...先程申し上げました通り、一命は取り留めたました。ですが...」
「...ですが?」
「落ち着いて聞いてください。まだ本人にも伝えてないのですが...現在、未知の病にかかっているようです。」
「未知の...病気...?」
「はい。内蔵が...崩れ落ちる病気です。まるで、ジグソーパズルのピースみたいに。」
「は?」
ジグソーパズル?こいつはなにをふざけたことを。
そんなことがありえるわけが無い。
病気に詳しくない素人の私でも分かることだ。
そんな病気はこの世に存在しない。
「残念ながら...これは事実なんです。ピースを元通り繋ぎ合わせることで1度は何とかなりましたが、先程の検査で今度は直しようがない程に融解し始めているようです。
幸い今度は臓器の融解する早さはそれほどでもないので、現在私達も全力で原因を調査していますが、一体何がダメなのか...現在の医療技術では一切わかりません...移植をしようにも、あまりにも多くの臓器を一気に移植することは不可能な上、それについても原因が分からないままでは...」
「...先生...日菜は...あと...どのくらい生きれるんですか?」
「余命...3週間です。」
「...そんな...」
悲しかった。
最愛すべき妹である日菜に、姉らしいことを一切出来ず、突き放したままあと3週間で別れることになるなんて。
そう...悲しかった。
でも
わらっているわたしがいた
「めのうえのたんこぶがきえて、ほんとうにうれしい」
と、こころのそこでよろこんでる
そしてわたしはきづいてしまった
わらっているわたしこそが、ほんとうのわたしなのかもしれないということに
「日菜...調子はどうかしら?」
私はあの後日菜の病室へ向かった。
医師は余命のことを妹さんに伝えるかどうかは、よく考えてから決めてください。と言われたものの...今の私は残酷で、そして冷酷な悪魔である深層の私がいることに対する驚きでいっぱいいっぱいだった。
私は建前だけの愛しか持っていなかったのかもしれない。
日菜への愛は、嘘だったのかもしれない。
そんな感情で頭がパンクしそうだった。
「ねぇおねーちゃん?あたし、あとどのくらい生きられるの?」
「えっ?」
不意をついた質問だった。
「あたし...何となく分かるんだ。もうあたし死ぬんだって。だから知っておきたい。あたしがあとどのくらい生きられるのか。」
「...あ、あと...3週間だそうよ。」
そう答えてしまった。
嘘をつくことくらい出来たけど、私はそうしなかった。
今では後悔していないけど、どうして嘘をついてでも元気づけてあげようとしなかったのかは、今の私も分からずじまいだ。
「へぇ〜結構あるんだ。あたしの寿命。けっこー痛いし、苦しいし、3日くらいだと思ってたのにな〜...」
日菜は、3週間という寿命を聞いて、むしろ嬉しそうだった。
そこまで、臓器が溶けるのは痛いのか...と思わずゾッとする。
そこで私はふと思った。
本当に口をついて出た質問だった。
「日菜...あなた死ぬのが怖くないの?」
「死ぬの?ぜーんぜん!むしろるんっ♪ってくるよ!」
「どうして?」
日菜は笑顔で答えた。
「だって、あたしが死んだらおねーちゃん、よろこんでくれるでしょ?」
本当に、本当に恐怖した。
さっきのゾッとするような恐怖なんて、これに比べれば天と地ほどの差があるくらいには。
「な...何を言っているの...?日菜...?」
「あたし...分かってるんだ。おねーちゃんがあたしのことほんとに嫌いだってこと。
あたしもおねーちゃんが嫌な顔するの見てるとなんか辛いし...さ。それでもあたし、こうなるの何となく分かってたから...
今までおねーちゃんにけっこー迷惑かけちゃったけど、それもあと3週間!もうおねーちゃんに迷惑かけずにすむよ〜!」
狂ってる。
妹を心の底から嫌い、憎む姉と、
そんな姉のためにこんなことを言い出す妹も。
私はそこでようやく気づけた。
私が、本当は日菜のことをどう思っているのかに。
また、姉である、本当の私の気持ちに。
「馬鹿なこと言わないで!」
「えっ?」
「確かに私があなたを嫌いな時もあった!憎んだことすらあった!でも!それでも!私はあなたのことが好き!血の繋がりだとか!姉妹だからとか!そんなの関係ない!一人の人間としてでも!ただただあなたのことが好きなの!」
「おねーちゃん...」
「だから日菜...そんな悲しいこと...もう言わないで...」
目頭が熱い。
頬を涙が流れていく。
やっぱり私は日菜のことが好きなんだ...
「......本当はね?あたしも一つだけ...して欲しいことがあるんだ...」
「?」
「あたし、死ぬなら、おねーちゃんの腕の中で死にたい。おねーちゃんの前で、おねーちゃんの温もりを...愛を感じて死にたい。
さっきからずーっと痛いままでさ...早く死にたいな〜って思うことも何回もあったけど、死ぬならおねーちゃんの前で、って頑張ってたんだ...
でも...そろそろそんな考えも...限界みたい...」
ゲホッゲホッっと日菜が咳き込む。
口を抑えた手に血がベットリとついていて、それを見た日菜の顔も血のように濁った。
「...だからさ...お願いがあるんだおねーちゃん。
もうすぐ死ぬあたしの、本当に一生の...そして最期のお願い。
あたしを殺して」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
私は迷った。
日菜の本当に最後のお願い。
それは私の手による死。
妹のためを思い殺して上げるのがいいのか。
はたまた元気づけ、最後まで見守り続けるのがいいのか。
そこで私はふと今までの日菜との生活を思い出した。
私はこれまでの日菜のお願いをどうしていただろうか。
答えは単純。逃げだ。
日菜のお願いからいつも逃げて、避けて、誤魔化して。
私は姉として、日菜のお願いを何一つ聞き入れて上げたことは無かった。
してあげれることは本当に無かったのだろうか?
あったかもしれない。
出来ないふりをしていただけかもしれない。
なら最期くらい、日菜のために、日菜のお願いを聞いてあげてもいいんじゃないだろうか。
「おねーちゃん!また来てくれたんだ!」
次の日、私は答えを伝えるため、日菜に会いに行った。
「えぇ。昨日の答えを伝えに来たわ。
...私は今まであなたから逃げ続けてきた。
だから最期くらい、あなたのお願いを聞き入れたいと私は思ってる。
もし...あなたが本当に望むなら...
私は...あなたを殺すわ...」
こうして、おねーちゃんはあたしを殺してくれることになった。
あたしはおねーちゃんに殺されたいけど、捕まって欲しくはない。
だからあたしはおねーちゃんがゼッタイ捕まらないように色々計画を考えたんだ。
指紋を残さない手袋。
ビニール袋で返り血対策。
万が一のために制服以外の服装。
そして、あたしの死体の運び方と、処理の仕方も。
死ぬのはあたしの学校の屋上がいいって言った。
やっぱり思い出深いし、おねーちゃんにして欲しいこともあるし...
...なんか自分の殺し方を考えるっていうのもおかしな話だけどね!
それでもあたしは嬉しかった。
誰よりも大好きな、おねーちゃんの手の中で死ねるんだから...
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
ズブッと肉を突き刺す嫌な音が屋上に響いた。
私のナイフが刺さった日菜のお腹に飲み込まれていく。
おねーちゃんを感じて死ぬために、直ぐに死ぬところは刺さないで欲しいと言われていたが、結構な力で刺してしまったせいか、日菜は力なくフェンスに倒れ込んだ。
「日菜!!」
私は自分が何をやっているのかも忘れ、日菜へと飛びついた。
「あり...がと...おねーちゃん...ゲホッ...やっと...楽になれ...る...」
「日菜!...日菜...!ごめんなさい...ごめんなさい...」
私はひたすら謝った。
日菜への今までの態度に対して。
...そして今痛みを与えてしまっていることに対して。
「大丈夫...あたしは愛さ...れてたって...わかっ...た...から...ゲホッ...ゴホッ...おねーちゃんに刺さ...れたとこ...すっごい...気持ちいいもん...不思議と...痛くない...しさ。」
私は泣きながら日菜を抱きしめた。
制服で殺さないで欲しいというのは、こうなった時に、私の制服に血をつけたくないという日菜の優しさだったのかもしれない。
「さよなら...おねーちゃん...また...会お...うね...」
カクッと日菜の首が曲がった。
ズルリと私の背中から日菜の手が滑り落ちていく。
今私の手の中にあるのは、きれいな日菜の抜け殻。
きっと日菜の魂は今、天に登って...そして...私の知りえぬような理想郷へと旅立って行ったのだろう。
...日菜の願いはまだ終わってない。
私は持ってきたギターケースの中に日菜を寝かせた。
柔らかい日菜の体を少し強引にギターケースに詰め込んだ。
その後直ぐに制服に着替えて、証拠になるものを全てケースに詰めて、チャックを閉め、そして私は、持ってきたはさみで、
髪をバッサリ切った。
そして、少しでも日菜に似るように、私は髪を整えた。
この状態で羽丘の制服を着てる私を見れば、誰もが日菜だと信じて疑わないだろう。
私は重いギターケースを背負い、いつもの元気な日菜のようにスキップしながらHR中の廊下を駆け抜け、トイレに行っていたと担任に嘘をついて席に着いた。
遅刻したせいで、たかが5分程度のHRだったが、バレやしないかとヒヤヒヤで、私は常に周りに気を配り続けた。
何とかHRを切り抜け、学校を出た私は、直ぐにタクシーに乗り、とある山奥へと向かった。
そこで、この計画の協力者と合流した。
「やっほー日菜...いやここまで来れば大丈夫か...まあ、よかったね、紗夜。
誰にもバレなくて...」
「日菜の計画は完璧ですから...」
今井さんはこの計画を知っている唯一の協力者。
日菜が私以外で最も信用出来る彼女に、山で日菜の死体を埋める穴を掘っておいて貰ったという訳だ。
穴の中に日菜を入れ、2人で土をかける。
「今井さん...本当にこれで良かったのでしょうか...」
「紗夜...」
「本当は励まして、最期の最後まで日菜に生きて貰うべきだったのでしょうか...」
「...うーん...アタシはこれで正解だったと思うよ。少なくとも、日菜はこれを望んでたと思うからさ...」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
今井さんとこれは2人だけの秘密だと再確認しあった後、フラフラとした足取りで帰路に着いた。
これで晴れて私は人殺し。
更に肉親という大事な人を殺した上、おまけにバンド仲間に死体の処理を手伝わせた。
私も死ねば...
一瞬そんなことが脳裏をよぎった。
別に今更この世界に未練なんて無い。
むしろ日菜にもう一度会えるなら、そっちの方がいいのではないか、とまで思う。
そこで、ピコンとスマホが鳴った。
今井さんからだ。
「紗夜が家に着く頃に、日菜から伝えて欲しいって言われてたことがあるから書いておくね。
あたしの部屋に、まだあたしはいるよ。
だってさ。」
私は走った。
私自身、もう日菜が居ないことはとっくの昔に知っている。
でも、知りたかった。
日菜が最期に私に伝えようとしてくれた言葉の意味を。
家に帰り、日菜の部屋に飛び込む。
窓が開いていて、そこから吹く風にカーテンがなびいていた。
そして奥に置いてある机の上に、おねーちゃんへ、と書かれた手紙が置いてあった。
直ぐに封をするために貼ってあるシールを丁寧に剥がし、中身を取り出す。
「おねーちゃんへ。
先に言っておきますが、この手紙が証拠になったら嫌なので、これを読んだ後は必ずこの手紙を処分してください。
あたしのこれを読んでいるということは、きっとあたしを無事に殺せたんだと思います。
でも、もし死ぬ時に伝えきれないことがあったら嫌なのでここに書き残しておきます。
あたしはおねーちゃんに好きって言われた時、本当に嬉しかったです。だって今まであたしはもう、おねーちゃんに愛されることは無いと思っていたからです。だからこそ、もっと生きたいと思ったし、生きてあげたいと思いました。でも、むしろこんな状況になったからこそおねーちゃんの本心を聞けたんだと思えば、こうなったことも悪くないように感じます。
なんか手紙に書くと恥ずかしいね...
もっと伝えたいことはたくさんあるんだけど、長くなって、この大切な言葉が伝わらないと嫌なのでここでやめておきます。
愛してます。愛しのおねーちゃん。
死んでからも、ずっと大好きです。
さよなら。そして生まれ変わって、また会いに行きます。」
私は涙に濡れてくしゃくしゃになりそうな手紙を机に置いた。
何度拭いても、涙が止まらなくて、手紙が更に汚れそうになって...
辛かった
日菜のお願いを聞き入れると決めた日に、こうなることが分かった上で、覚悟を決めたのに。
いざとなっては...後悔ばかりだ。
私は日菜のベッドに泣きついた。
日菜のにおいがする。
もう...これからつくことは無い。最後のにおい。
その温もりを感じて、更に泣き続けようとした時だった。
「にゃーん。」
窓から入り込んだのだろうか。
美しい水色の毛に、翠色の目をした子猫が私の髪を撫でた。
慰めようとしてくれているのか。
私はその猫を抱き上げた。
その猫は持ち上げられたことに動じもせず、毛繕いをし始めた。
そんな自由なところが...毛の色が...目の色が...まるで日菜のようで...
再び私はその猫を抱きしめて泣き始めた。
その日は寝るまで、ずっと泣きっぱなしだった。
私が朝起きた時、日菜の書いた手紙は無くなっていた。
もしかしたらあの手紙も、持ち主の後を追って行ったのだろうか。
どうにせよ涙に濡れた手紙は、もう他人に読めるような状態では無いだろう。
そして、日菜の最期の想いが、私の元を離れていった。
今度こそさよなら。
愛しているわ。日菜。
これが、私が妹を殺すまでの物語。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
私は今まで書いていたものを机にしまい、眼鏡を外した。
あれから数ヶ月経ち、氷川日菜失踪事件(証拠も無いし、タクシー運転手の証言により、日菜は山に行ったことになっている)が迷宮入りしてくれた今でも、目を瞑れば、目の前に日菜が居るような気がする。
「にゃーん」
しかし、目を開けたところに居るのはあの時の子猫。
成り行きで飼うことになったが、どうしてもこの子からは日菜の温もりのようなものを感じてしまって...
「まさか...」
私はその子猫をじっと見つめる。
するとその子はゴロゴロとノドを鳴らした。
「ふふっ...そんなわけないわよね...」
自分の考えたことに私は自分で笑いそうになってしまった。
そろそろご飯の時間だ。
リビングに行かなくては。
そう思った私は椅子から立ち、部屋を出る。
(おねーちゃんは、今日も可愛いなぁ。)
あたしはおねーちゃんの机の上で、尻尾をパタパタさせた。
終わり