ドラクエは5か6までしかしていません   作:send

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お久しぶりです。遅くなりましたが。新年一発目です。


衝撃を受けた

 サザンピーク城は城下から直接城内への扉が続いているタイプの城だった。その扉の両脇には、赤い衣が鮮やかな兵が槍斧と大きな盾を持って哨戒に立っており、朝の日差しを反射する槍斧はいかにも厳つく一人ではまず近づこうとは思わないなと思った。

 

「すみません、旅の者ですが名高いサザンピーク城の威容を拝見したく、入城させていただけますか?」

「あぁ、現在城の出入りは自由だ。チャゴス王子が発見されようやく城の封鎖が解除されたからな」

「サザンピーク城は広く一般にもひらかれた城であるが、城内では節度ある行動をとるようにな」

 

 エイトさんが躊躇いもなく普通に尋ねると、思ったよりも気さくに二人の兵士は答えてくれた。

 若干チャゴス王子が発見されたという内容が気にはなったが、とにかく中に入れるという事で会釈してぞろぞろと入る。

 中はさすがと言うか、入ったところは二階までの吹き抜けのようになっていて天井がかなり高く、しかも入って右手の奥には城内だというのに水瓶を持った女性の彫刻から水が落ちるように作られた噴水のような設備まであった。

 薄い青のお仕着せを着たメイドさんや、城内の見回りなのか緑系統の服で纏められた兵士の姿があちこちに見えるし、壁には他では見た事が無い魔法で作られたと思われる照明器具が設置されていて、どこもかしこも財力をひしひしと感じる。

 

「……ね、まさか城の中に居たとはね」

「本当にね、王子はとっくに城を抜け出してると思ったけど、でも無理じゃない? ほら……」

 

 噴水の近くに居たメイドさん二人が何やら小声で囁き合っているのが聞こえたが、エイトさんが吹き抜けを上に伸びる大きな階段に足を進めていたのでそれに着いてく。すごく気になるが。

 

「玉座の間は二階だそうです」

「了解です。先に正攻法ですね」

 

 エイトさんの小声にこちらも小声で返し、ククールさんやゼシカさん、ヤンガスにライアンさんと目配せをして二階へと昇ると、登った先の左手に大きな肖像画が飾られているのが見えた。

 描かれているのは十五、六くらいだろうか? そのぐらいの年頃の、ウェーブのかかったふわっとした金髪に緑の目の少し気位が高そうな印象の少年だ。

 羽根つきのベレー帽のようなものを被り、同色の上着に首元にはたっぷりのフリルで装飾された首巻?スカーフ?をして、赤いカボチャパンツっぽいものに白いタイツを履き、腰には短剣のようなものを吊るしている。

 思わず斜め右を歩くククールさんの袖を引いて、あれって……と指させば「たぶんな」と小声で返された。

 これがチャゴス王子……。普通に王子っぽい。

 と、そう思っていたらその肖像画の下に佇んでいた貴族らしき金髪のドレス姿の女性と目が合った。

 背は少し低めだが、猫のように少し吊り上がった青緑の目が特徴的なきつめの顔立ちの美人さんだ。王子の絵を指さしていたのが見られていたのかもと慌てて会釈して視線を逸らしたが、幸い見咎められたわけではなかったらしい。後ろから声を掛けられる事はなかった。

 余計な事をするもんじゃないなと思いながら足を動かしていけば、今度は前方の壁面に壮年の男性の肖像画が飾られているのが見えた。

 こちらもカールした金髪に緑の目の男性で、緑に金の縁取りがしてある豪華な衣装に大きな襞襟を付けた姿だ。天草四郎の首についてる大きな白いヒダをつけた、いかにもな貴族風と言ったら伝わるだろうか?

 これがこのサザンピークの王なのだろう。

 渋い感じのイケオジだと思うが、わざわざ自分の城にこれほどの大きさの肖像画を飾るのは結構癖が強い人なのでは?とも思う。対を成すように王子の肖像画も飾られているので、自己顕示欲が強いというわけではなく、飾ることに何か意味があるのかもしれないが。

 まぁ王様業なんて癖の強い人じゃないと出来ないか……と、そう思いながら肖像画の前の角を曲がれば、そこにはまた扉がありそこにも兵士が一人立っていた。

 

「この奥はクラビウス王のおわす玉座の間です。くれぐれも王の御前で粗相のないように」

 

 こちらと視線が合えばそう言われて、エイトさんが礼を返すように軽く頭を下げて扉を開けた。

 何者だとか何の用だとか、入ってもいいか中に確認する事も無かったのだがいいのだろうか……。こちらとしては門前払いされないのは助かるのでいいが、だけどだから盗人とかに入られるのでは?とか思ってしまう。

 

 扉の先は随分と奥へと長い空間になっていて、玉座が遠い。

 いきなり進んで行っていいものか私にはわからなかったが、エイトさん達が進むので一緒に進めば、なるほど先ほどの肖像画通りの男性が赤い天蓋付きの豪華な椅子に座っていた。

 傍には中年の男性が一人居て、二人で何やら話し込んでいる風であったが、こちらに気づくと王と思しき人物がいきなり立ち上がった。

 

「いかがされましたか? クラビウス王。お加減でもよろしくないのですか?」

  

 唐突に立ち上がった、やはり王だった男性はこちらを凝視していて――たぶん、エイトさんを見ている? 

 

「あの旅の者が何か?」

 

 視線の先に気づいた傍付きの男性が尋ねると、ハッとしたように王は首を振って椅子に座り直した。

 

「……いやなんでもない。他人の空似だ。よく見ればぜんぜん似ていないではないか」

 

 どこか落胆したような、それでいて自嘲めいた口調で呟く王に、思わずエイトさんを見ればエイトさんもよくわからないのか戸惑った表情を浮かべていた。

 

「して、旅の者がここまで何用だ?」

「あ…はい。実はクラビウス王にお願いがあって参りました」

 

 出鼻を挫かれた感があるが、エイトさんは気持ちを立て直したのか表情を引き締めて奏上した。

 

「サザンピークに保管されている魔法の鏡を貸していただきたいのです」

「なに? 魔法の鏡だと? なぜそなたが我が王家に伝わる家宝を必要としているのだ? 申してみよ」

 

 眉をひそめた王に、エイトさんはドルマゲスの事について説明した。

 トロデーンの事は話せないので、各地で殺人を犯している道化師を追っている事と、その道化師が潜伏していると思われる北の大陸の遺跡の黒い霧を晴らすために魔法の鏡が必要だという事を順を追って話すエイトさんに、サザンピークの王はしばし黙って耳を傾けていた。

 

「ほほぅ……事情はわかった。だが魔法の鏡は王家の宝である。持ち出す事はならん」

 

 話を聞いた上でそう答えた王に、まぁそうだろうなとこちらもそこまでの落胆はない。普通に考えて国の宝を快く貸してくれる方が無い。アスカンタが例外なのだ。

 じゃあまぁ交渉に入りましょうかと私はエイトさんの横に並ぼうと一歩出ようとして、

 

「ところでそなたの話では旅の間は幾度となく危機を潜り抜けてきたとのことだったな。ならばやはり腕っぷしの方も我が国の兵士に劣らぬほど強いのか?」

 

 こちらが交渉を持ちかける前に、あちらから話を振ってきた。王の視線はエイトさんからヤンガスさん、ククールさん、そしてライアンさんへと向いている。

 

「お、王様!? まさかこの者たちを城の兵士の代わりに!」

 

 慌てたのは横のお付きの人で、たぶん言ってる事からしてやはり例の儀式の問題が解決していないのだろうと思われた。

 王は少し笑みを浮かべて「察しがいいな大臣」と言うと、すぐに表情を元の厳しいものに戻した。

 

「我が国は広く民衆にひらかれてはいるが何でも聞いてやるほど親切ではない。だが何事にも例外はある。王家にとって恩義のある人間の頼みならよきにはからうよう努めるだろう。

 魔法の鏡が欲しいのだろう? ならばわしの依頼を引き受けてくれ。さすれば魔法の鏡はくれてやろう」

 

 お付きの人ではなく大臣だったらしい男性が「クラビウス王、それはお待ちを!」と制止するが聞かず王は手を叩いた。

 

「チャゴスを呼んでまいれ」

 

 すぐに黒い服に金の縁取りがされた文官っぽい服装の男性が現れて頭を下げ、命令を受けて下がっていった。

 その姿が玉座の間の右手側、大きな窓がある方へと消えると、王は話をこちらへと戻した。

 

「頼みというのは我が息子チャゴス王子のことなのだ。我が国には王者の儀式という命を落としかねないしきたりがあるのだ。チャゴスはこの儀式をイヤがってな……。できる事なら息子を危険な目に遭わせたくないのだが次代の王となる者は必ず通過しなければならない儀式なのだ」

 

 深刻そうな顔でため息をつき、王は視線を落とした。

 

「わしは迷いに迷い、城の兵士を護衛につけることも考えたのだが、やはりそれでは王族としてのメンツが立たん。

 そこでこの国の者ではないそなたに秘密裏に護衛を頼みたいのだ。護衛のことは決して口外してはならん。表向きにはチャゴス一人で儀式に出発したことにしたいのでな……」

 

 情報屋。大当たり。

 正直、こんないきなりやってきた旅の人間に王子を任せるというのは安全的にどうなんだろうかと思うが、正面から魔法の鏡を貸してほしいと頼んだ事で少なくとも話が出来る相手と思われたのかもしれない。

 それはともかく、事前情報と合致する王子の話に眉を顰めそうになる。

 だけどエイトさんは落ち着いた様子で静かに「そういう事でしたら、わかりました」と答えた。王子の不穏な人柄の情報に反応する事なく、落ち着き払ったその姿に大丈夫そうだとほっとした。

 と、そこで先ほどの文官風の男が走り込んできた。

 

「お、王様ー! 大変です! 王子がっ! チャゴス王子がっ!」

「王子がどうかしたのか!」

 

 その慌てた様子に何事かと王含めてこちらが見れば、体力が無いのかその場で息せき切って立ち止まり、

 

「もうしわけございませんっ。ここへお連れする途中王子に逃げられてしまい見失いました。見つけ次第大至急お連れしますのでもう少々お時間をちょうだいしたく……」

 

 逃げられた。その言葉に先ほどの肖像画の少年の顔が浮かんだが、中身はやはり懸念していた通り問題があるようだ。

 

「ええいばか者が!」

 

 王は苛立ったように立ち上がって一喝し、すぐに探すように命じた。

 

「すまぬが続きはあとにしてくれ。逃げ出したチャゴスを連れてこない事には儀式も何もあったものではない。あぁ、そなたも城の者に協力してチャゴスを連れてきてくれんか」

 

 頭が痛いと言わんばかりに額に手を当てて頭を振る王。

 探すしかなさそうだなとこちらも視線を交わして肩を竦めたり溜息を飲み込んだり、各々反応を抑えて文官風の男性が走って行った方へと足を向けた。

 玉座の間の右横に伸びる本棚が並んだ廊下を進めば、そこには膝に手を当ててへろへろになっている先ほどの男性が。

 

「大丈夫ですか?」

 

 エイトさんが声を掛ければ、男性はこちらに気づいて申し訳なさそうに頭を下げた。

 

「す、すみません。お連れするとき逃げられないようしっかり王子の手をにぎって歩いていたのですが……。王子は私の手を振り切ってダッシュで逃げたんです! ううっ何もかも私のせいです……」

「手を握るって……」

 

 そんな子供じゃあるまいしと呟くゼシカさんに、振り切って逃げてる時点で子供と同じでがすと呟くヤンガスさん。

 

「それより、どちらに走って行かれたのかわかりますか?」

 

 嘆くよりもさっさと見つけようと声を掛ければ男性は廊下の先にある階段を指さした。

 

「たぶん、上の階から屋上に出て西の城館の方へ向かったのだと思います。城の外へは今は警備が厳しく出れないでしょうから」

「わかりました」

 

 他国の人間がこうもずかずか城の中を歩き回っていいのだろうかとも思うが、王が頼んで来ているのでいいのだろう。

 階段を上って屋上はどちらだろうと見回した時、先ほど大きな肖像画の下に佇んでいた金髪の女性がそこに居た。

 目が合うと、彼女はこちらに向かって手招きしてきた。

 

「こちらに来なさい」

「え?」

「いいから。何も言わずこちらに来なさい」

 

 手招く女性に戸惑うがその口調は厳しく、有無を言わせないものがあった。

 思わずそちらに足を向けると後ろから「リツさん?」と呼び止められた。

 

「あの、こちらの——」

「黙ってついてきなさい。王子を引っ張り出します」

 

 私の言葉に被せるように遮って歩き出す女性に、慌てて足を動かす。

 

「あの、王子がこちらに居られるそうです」

「は? なんでそんな事がわかるんだ?」

 

 いや、私も知らないですけど。とククールさんの問いに答える前に、開いた扉の向こうに消える姿を慌てて追いかける。

 

「とにかくこっちに」

 

 教えてくれるというのなら有り難いので追いかけたのだが、意外と足が速い。

 彼女は階段を上って開いた扉の先、屋上と思われるところに出ると隣の城館?に入って螺旋階段を下り、やがて物置らしき場所で足を止めた。

 

「このツボの後ろの壁に穴が開いています。中にトカゲがいますから、そこに向けて軽い魔法を使えば驚いてチャゴスが居る下の部屋に落ちる筈です。そうすればトカゲ嫌いのあの子はすぐに出て来ます」

「はい? トカゲ?」

「いいからこのツボをどかしなさい」

 

 人に命令する事に慣れた口調の女性に、よくわからないまま目の前のツボをどかそうと手をかける。

 

「おいリツ、何やってるんだ」

「いや、あの、こちらの方が壁に穴があるから、そこに小さな威力の魔法を使えば下に居る王子が出てくると言われて」

 

 肩を掴んできたククールさんに私もよくわからないんですけどと説明すれば、は?という顔をされた。

 

「こちらの方?」

「………」

 

 ククールさんは女性の方を見て、女性の方を見ていなかった。

 まるでそこに何も無いといった様子で、明らかに女性の姿が見えていなかった。

 

「………」

 

 考えてみればおかしい。彼女は緑の重たそうなドレス姿だ。なのに私が走って追いかけても追いつけなかった。

 

「おい、リツ?」

 

 血の気が下がるという言葉があるが、今、それを実感した。

 

〝その子、生者ではないわね〟

 

 駄目押しとばかりにいらん情報をにゅーちゃんまでもが追加してくれて、顔が引き攣った。

 

「どうしたんでがすか?」

「なに、急に走り出してどうしたの」

「顔色が悪い」

 

 後ろから追いついたライアンさんにその場にしゃがむように誘導されたが、しゃがんでもその女性がそこに居る。出来ればここから立ち去りたいのだが視線が合っちゃってて、外したらなんか怖い事になりそうでどうしていいかわからない……ほら、こっくりさんとか手を離しちゃダメとかあるし、熊だって目を逸らしたら襲ってくるとか言うから……

 

「別に脅かすつもりなんてないわ。チャゴスを探しているのでしょ? なら言う通りにしなさい」

 

 ツンと顎を上げて話す女性は、でも、どう見ても生きている人のようにしか見えない。

 だって透けてないのだ。ハッキリしっかり見えるのだ。足だっ…………透けてる……よく見たら透けてました……

 

「あ、あの、ククールさん、そこのツボどかして、それで、壁にある穴の中に軽くバギとか何でもいいんですごく軽い魔法を使ってくれませんか?」

 

 とにかく言う通りにしようと思ったものの、自分で彼女に近づくのが怖くてお願いするチキンな私をお許しください。

 訝しがっているククールさんだが、言う通りにツボをどかしてそこにバギを放り込んでくれた。そしたら間を置いて、下からすごい悲鳴とドタドタと走り去る足音が聴こえてきた。

 

「言った通りでしょ」

 

 ふいっと背を向けて、女性は消えた。

 

「…………」

「痛い痛い痛い、何よどうしたのリツ」

 

 思わず目の前のゼシカさんの手を握りしめてしまった。痛がるゼシカさんにはっとして手を離したが、何か掴んで無いと怖くてゼシカさんのスカートの裾を反射的に掴んでしまう。

 

「…あ、あのですね。幽霊の方が、そこに、いました。それで、今、消えました」

「はあ?」

 

 何言ってるの?という顔をするゼシカさんに、その反応はわかるけどと思う。

 今は朝で、そんな幽霊が出るような時刻じゃない。しかも何故かこちらの困っている事を察して手助けするような事をしてるのも意味がわからない。わからないけど、でも本当にいたのだ。という思いを込めて信じてくださいと顔が引き攣ったまま見つめる。

 

「……見たのか?」

 

 ゼシカさんには伝わらなかったが、横にしゃがんだククールさんには何か伝わったのかそう問われ、そうですそうですと頷くとククールさんはエイトさんと視線を交わした。

 

「キラーパンサーの時は俺もエイトも見えたが……見えたか?」

「……いや、見えなかった。ククールは?」

「俺も見えなかった」

 

 二人して首を振る姿に、うそぉ……と情けない声が出た。

 本当に嘘じゃないんですと首を振れば、わかってるというようにククールさんに肩を叩かれた。

 

「とにかく今は王子を見つける方が先だ。その幽霊はまだ居るのか?」

「い、いえ。もう見えないです」

「じゃあ立てるか?」

 

 手のひらを出されて言われたので、ゼシカさんのスカートを握り込んでしまっている手を意識的に開いてからその手を掴み、ぐっと足に力を籠めるとふっと身体が持ち上げられるような暖かい感覚がして立ち上がれた。たぶんにゅーちゃんだ。

 

「よし。リツは俺と行動。一応俺も聖堂騎士団の端くれだからな。その手の相手には慣れてる」

「こ、心強い!」

 

 これほどまでにククールさんが心強いと思った事があろうか。

 思わず握られた手を握り返せば、ふっときざったらしくククールさんは笑って今頃俺の魅力に気づいたか?と嘯いた。なんかついさっきも聞いたセリフだけど、はいもうなんでもいいです。気づきました。気づいたでいいのでこの手を離さないでもらえますかね?幽霊と会話したとか本当無理なので。

 

「下に王子がいるのが本当だっていうのなら、今ので何か動きがあっただろ。あれだけ騒げば見つかるだろうからな」

 

 ククールさんの言葉にエイトさんも「そうだね」と頷き元来た場所へと戻れば、さっきの文官みたいな人がわたわたと走っていて、こちらを見つけるとほっとした顔をした。

 

「王子が見つかりました! どうぞ玉座の間へお越しください!」

 

 見つかったらしい。本当に下に王子がいたという事だろうが、その辺の事を考えると怖いので一旦思考を停止させる。件の王子を目にする機会なのだから余計な事に思考を割いている場合じゃない。頭を切り替えなければ。

 そう考えてしゃんとして玉座の間に戻ったのだが、

 

「おお丁度、よいところに来てくれたな。

 一応紹介しておくべきかな。この者が我が息子にしてサザンピークの次代の王となる者、チャゴス王子であるぞ」

「お待ちください父上!

 なぜこのような見るからに身分の低そうなやからにこのぼくを紹介するのですか」

「身分なぞ問題ではない。お前の儀式を補佐してくれる者たちにお前を紹介するのは当然のことであろう」

「儀式ですと!? ぼくはそんな話聞いておりません。行くと言った覚えもありません! 何度もトカゲはイヤだと申したではありませんか……」

 

 あの、話の途中でアレなんですけどと、私はククールさんとは反対側にいるゼシカさんの腕をくいくいと引いた。

 ゼシカさんは唖然とした顔で王子と思われる人物を凝視していて反応してくれない。

 いや、やっぱそうですよね? そういう反応になりますよねこれ。私の目がおかしいんじゃないですよね?

 え。でも待って。あの肖像画は? もしかしてあれって中世の釣書並みに美化されてる代物だったって事? この目の前の、比喩無しにはち切れんばかりのボディ晒した、メタボ体型なにそれ美味しいの?レベルのまん丸の人物が、本当の王子の姿って事で。

 いやいやいや。どんだけ金積まれたんだよ画家は。それとも命握られたのか? これじゃ美化のレベルを超えて別人じゃ無いか。合ってるのはもはや配色だけでは?

 

 紹介された王子は推定体重百キロを優に超えていそうな体形で、肖像画に書かれていた服装ではあるがそのサイズは確実にオーダーメイドサイズの服で、むちむちの顔に埋もれるような目は小さくて、なんか気位が高そうも何も只々でかいという印象しか抱けない人物だ。

 

「よく聞けチャゴスよ。どんなにイヤでも儀式をすませ強い王になれるとわしらに示さねばミーティア姫と結婚できんのだぞ」

「ぼくは結婚なんか、別に……」

「本当にそう思っておるのか。聞けばミーティア姫はそこにいるおなごに勝るとも劣らぬ……ぼん! きゅっ! ぼーん! ……な、スタイルと聞くぞ」

「おお……」

 

 呆然としてたらなんかゼシカさんがえらいセクハラ受けてるし……っていうか、ゼシカさんを通して姫様に対してもとんでもないセクハラかましてるし………ダメだ。王子のインパクトが凄すぎて問題発言されてる気がするけど頭が働かない。

 

「どうだ? 行く気になったか?」

「私をダシにしないでよね」

 

 王子を乗せるためだろうが、セクハラ発言かました王にさすかに青筋立てるゼシカさん。どうどうと、今はとりあえず耐えてくれとその腕を掴む。

 王はあからさま過ぎた事に気づいたのか、おほんと咳払いをした。

 

「……チャゴスよ。城の者が陰でお前をなんと言ってるかここでわざわざ言うまでもないだろう。少しでも悔しいと思うのなら儀式をすませ男を上げてみせろ。そこにいる者たちも陰ながらお前の力となってくれよう。どうだチャゴスよ? 行ってみんか?」

「うう……行ってみようかな。あっ。でもやっぱりどうしようかな」

「おお! 行くと申すか! 表向きお前は一人で王者の儀式へ出発したことにするからな。一足先に城下町を出てこの者たちの馬車に乗り込んで待っていろ。よいな?」

「え!?」

 

 え?!

 ちょっと待ってほしい、確かに馬車はあるけど姫様とか連れてきたく無いんですけど!?

 

「よし大臣。チャゴスをさっそく儀式へ送り出せ。さもひとりで行ったように見せかけるためにも兵士を連れていき派手に門の前で見送らせろ」

「ははっ、おおせのとおりに!」

 

 この際儀式に行くならもう何でも良くなったのか、王子を引っ掴む大臣。

 

「えっそんな。ぼくはまだ……」

 

 戸惑いの声を上げる王子はそのまま玉座の間から引き摺られて行ってしまった。

 これ本当に馬車準備しないとダメな流れか? そういうつもりなら先に教えて欲しかったのだが……

 

「ふぅやっと行きおったか。

 そなたらもくれぐれも護衛のことは誰にも口外しないでくれよ。あと王者の儀式に関しては城の外でチャゴスにでも聞いてくれ。そなたが見事この任をなしとげてくれれば約束していた魔法の鏡はくれてやる」

 

 どかっと玉座に座り込み、はぁと息を吐き出す王。

 

「儀式の護衛をつけるなどという愚かな決断をしたのは歴代の王の中でわし一人かもしれん。

 妻に先立たれチャゴスだけが唯一の肉親なのだ。だからなんとしてもチャゴスに無事に帰ってきてほしいのだ。見事護衛の任をなしとげればそなたの望む魔法の鏡はくれてやる。だから何があっても息子を守ってくれ」

 

 王の頼みに、気持ちはわからなくも無いけど、サザンピークの未来やばくないか? と思わずにはいられなかった。

 ただ、とりあえず今は急いで船に戻って王に話さないといけないので、エイトさんに小声で陛下に話してきますと伝えてククールさんとこそっと屋上へと急いだ。

 

「すみません付いてきてもらって」

「いや? リツにも弱点があるって知れたのはでかいからな」

 

 何を言うのやら、弱点だらけだと言うのに。

 言い返している暇は無いので外に出た瞬間、ククールさんと手を繋いだままルーラで飛んだ。




『噂話を聞いてしまった』の回でオリジナルの話を載せましたが、驚く事にかなりの方に見に来て頂いたようで、えらいことになりました。
今までカクヨムでこちらの話は百人ぐらいの方にフォローを受けていたんですけど、呼び水になったのか三千人強の方にフォロー頂くことになりました……びっくりしました……。
この場を借りてお礼申し上げます。

それと、前回載せた時は題名が「その占い師、不死者です。」だったんですけど、
題名合って無くない?的指摘を受けて七転八倒して現在は「ただ平穏にちょっと楽しく暮らしたい死霊魔導士の日常と非日常」に変更しています。
ですので飛んだ先が違うよと言われますが、すみません。それで合ってます。

一応載せときます。
カクヨム「ただ平穏にちょっと楽しく暮らしたい死霊魔導士の日常と非日常」
https://kakuyomu.jp/works/16816452219748981478


ちなみに本作品の題名については、突っ込みは山ほどいただきましたが、変えると絶対ネタバレしてしまうと思うのでこのまま行かせてください。せめて完結するまで。
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